日本の労働安全衛生をめぐる状況【2020年→2021年】~労働災害・職業病(業務災害・業務上疾病)統計の構造、労働安全衛生情報

<最新>日本の労働安全衛生をめぐる状況【2021年→2022年】~労働災害・職業病(業務災害・業務上疾病)統計の構造、労働安全衛生情報 は、こちら

目次

1.労働災害・職業病(業務災害・業務上疾病)の発生状況等

● 労災保険新規受給者

労災保険新規受給者数は、2009年度の534,623人を底にして増加傾向に転じ、2018・19年度には約25年前のレベルにまで戻ってしまった。2020年度は653,355人で前年度比5%の減少となったようだ。

2019年度の労災保険新規受給者についてみると、業務災害605,228人(88.0%)、通勤災害82,227人(12.0%)で合計687,455人(100%)。その発生年度別内訳は、2019年度523,564人(76.2%)、2018年度159,690人(23.2%)、2017年度3,100人(0.5%)、2016年度593人(0.1%)、2015年度139人、2014年度以前369人、となっている。

● 死亡災害

死亡災害は、2015年以降1,000人を下回る状況を継続し、減少傾向を継続していると言えそうな状況で、2018年909人、2019年845人、2020年は802人と、3年連続で最低記録を更新した。

2018年2月に策定された第13次労働災害防止計画は「2017年と比較して2022年までに15%以上減少」という目標を掲げた。2020年時点で2017年の978人と比較して18.0%の減少という状況で、この時点では達成できている。

一方、2019年度の労災保険の葬祭料・葬祭給付受給者数は2,671人で、業務災害2,448人(91.7%)、通勤災害223人(8.3%)。発生年度別では、2019年度614人(23.0%)、2018年度792人(29.7%)、2017年度353人(13.2%)、2016年度164人(6.1%)、2015年度76(2.8%)、2014年度以前672人(25.2%)という内訳になっている。

なお、厚生労働省の「職場のあんぜんサイト」に「建設業の一人親方等の死亡災害発生状況」の20132020年分についてが掲載されている。

● 死傷災害

休業4日以上の死傷災害は、2010年の105,718人を底に微増傾向にあり、2018年127,329人、2019年125,611人、2020年は131,156人であった。ただし、2020年の数字には新型コロナウイルス感染症のり患による6,041人が含まれており、これを除くと125,115人で前年比0.4%の減少となる。

第13次労働災害防止計画は「2017年と比較して2022年までに5%以上減少」という目標を掲げているが、2020年の新型コロナウイルス感染症を除いた125,115人でも、2017年の120,460人と比較して3.9%の増加という状況である。

厚生労働省による前年の労働災害発生状況公表(通常、毎年5月頃発表※)に当たっては、2009年から「派遣労働者の労働災害発生状況」(例:2020年派遣労働者の労働災害発生状況)、2013年から「外国人労働者の労働災害発生状況」(例:2020年外国人労働者の労働災害発生状況)、2021年から「高年齢労働者の労働災害発生状況」(例:2020年高年齢労働者の労働災害発生状況)も公表されるようになっている。

※各年の発表は厚生労働省報道発表資料 より、たとえば

令和2年の労働災害発生状況を公表(令和3年4月30日厚生労働省)
平成31年1月から令和元年12月までの労働災害発生状況を公表(2020年5月27日)
平成30年の労働災害発生状況を公表(2019年5月17日)

新型コロナウイルス感染症のインパクト

新型コロナウイルス感染症の地球的パンデミックのなかで、①職業病として新型コロナウイルス感染症の直接的影響に加えて、②ロックダウンや経済活動の制限等による労働災害一般の減少の可能性と同時に、③暴力・ハラスメントの増加を含めた関連した労働安全衛生の悪化も指摘されている。

前述のとおり、2020年の休業4日以上の死傷災害131,156人のうち、4.6%に相当する6,041人が新型コロナウイルス感染症であった。

しかし、これは事業者が届け出た労働者死傷病報告を集計したものであって、同じ期間の労災請求は2,653件、業務上認定は1,545件にとどまったことがわかっている。労災請求・認定件数は2021年に入ってから急増し、2020年度全体の認定件数は4,705件であり、業務上疾病認定件数を1.5倍程度に押し上げるのではないかと予想される。2021年度も4~6月の3か月だけで4,931件と公表されている。しかし、職業病として新型コロナウイルス感染症の全体像を解明する努力はなされていないに等しい。前出の死亡災害について新型コロナウイルス感染症に関するデータは示されていないが、2020年12月28日現在で死亡事例は労災請求で24件、業務上認定で14件である。

新型コロナウイルス感染症を除くと2020年の休業4日以上の死傷災害が前年比0.4%の減少で、2020年度の労災保険新規受給者が前年度比5%の減少となったことは、②の労働災害一般の減少傾向を示しているかもしれない。③に関するデータは少ないが、東京大学医学系研究科精神保健学分野「新型コロナウイルス感染症に関わる全国労働者オンライン調査」などがある。

全国安全センターサイトの新型コロナウイルス感染症関連情報

死亡災害対労働災害の比率

1件の重大災害の背後には、29件の軽症災害と300件の無傷害災害があるというよく知られたハインリッヒの法則の「1:29:300」という数字の妥当性はともかくとして、「死亡災害件数」を1とした場合の、「休業4日以上の災害件数(休業4日以上の死傷災害災害-死亡災害)」及び「休業3日以内+不休災害の件数(労災保険新規受給者数-休業4日以上の死傷災害災害)」の比率を下表に示した。

過去24年の平均では、この比率は1:89.1:349.5ということになるが、経年的な変化に加えて、業種別のばらつきも著しい。とりわけ農林水産業、また、鉱業、建設業でも、製造業やその他事業と比較すると、休業+不休災害の件数が著しく低い(農林水産業では、休業4日以上の件数と逆転する年もある)。これは「労災隠し」の存在を示唆しているとも考えられる。このような分析も、「労災隠し」の根絶のために活用されるべきであると考える。

● 業務上疾病

業務上疾病(職業病)は、補償件数で、2002年度の8,810件を底に、2005年夏のクボタ・ショックの影響で2006年には(過去死亡事例を含め)11,1713件に増加。最近では、2017年度8,645件、2018年度9,170件、2019年度は9,359件という状況である(2020年度の補償件数はまだ公表されていないが、公表件数は、2019年8,310件、2020年は15,038件で新型コロナウイルス感染症が6,041件とされている)。

下に「主な職業病の認定件数の推移」を示した。

主な職業病の認定件数の推移

伝統的な職業病の双璧のひとつ-「じん肺及びその合併症」の認定件数は、2003年度から原発性肺がんが合併症に追加されたにもかかわらず減少が続いた後、2015~2017年度横ばい、2018年度は277件と初めて300件を下回り、2019年度も272件だった。もうひとつの伝統的な職業病の双璧-「振動障害」の方は、2005年度まで減少し続けた後は、ほとんど横ばいか微増のようにみえる。2018年度は281件、2019年度は285件だった。

「上肢障害」は、1997年の労災認定基準改正以降増加傾向を示し、2008年度に「じん肺及びその合併症」を上回り、2009年度以降いったん減少に転じたものの、2013年度以降反転して、再び増加傾向にあるようにみえる。2019年度は1,013件で初めて千件を超え、図中の疾病のなかで最大である。

「中皮腫」と「石綿肺がん」は、2005年夏のクボタショックで認定件数が激増。中皮腫による死亡者が増加し続けていることに示されているように、被害は増えているはずなのに、中皮腫で横ばい、石綿肺がんが漸減傾向にあるようにみえることが気にかかる。2019年度は各々641件と375件、合計すると1,016件で上肢障害と並ぶ。2020年度の速報値では608件と337件の合計945件である。

「脳・心臓疾患」は、2001年の労災認定基準改正で増加したものの、2008年度以降減少に転じ、2011・12年度は増加したが、2013年度以降再び減少傾向にあるようにみえる。2019年度は216件で、2020年度は194件と、200件を割ってしまっている。

「精神障害」は、1999年の判断指針策定以来増加し続け、2010年度にはついに「脳・心臓疾患」を上回った。2011年末に判断指針が認定基準に改訂されて2012年度はさらに増加し、「石綿肺がん」も上回ったが、2014年度以降は横ばい、2018年度は465件でやや減少、2019年度509件、2020年度は608件と2年連続増加という状況である。

下図は、「認定率」を分析したものである。

主な職業病の認定率の推移

また、表5に、請求件数、不支給決定件数が判明している職業病に係るデータのすべてを示してあるので参照していただきたい。表5の最下欄には、認定率①=認定件数/請求件数(いずれも当該年度)、認定率②=認定件数/(認定件数+不支給決定件数)の二つの指標を示してあるが、上図に示したのは、認定率②の方である。

表5 業務上疾病の新規請求件数、支給・不支給決定件数(情報が開示されているもの)

0cea5f3041a5911a84c5fc0bea8e5f06

認定率②は、「中皮腫」がもっとも高く90%超、次いで「石綿肺がん」で90%に迫りつつあったが、2018年度は86.0%、2019年度は89.3%、2020年度は88.2%だった。その次が「上肢障害」で70%前後で推移しているが、長期的に減少傾向にないか、気にかかる。2019年度は67.9%で前年度65.9%からやや持ち直した。

これらと比較すると、「脳・心臓疾患」、「精神障害等」は著しく低い。「脳・心臓疾患」の認定率は減少傾向にあり、2020年度は29.2%で過去最低を更新。2012年度に「精神障害」の認定率が上昇したのは、2011年末の認定基準策定の影響と考えられるが、一時は40%超えが期待されたものの、その後停滞・減少して、2020年度は29.2%と初めて30%を割ってしまった。

「非災害性腰痛」の認定率は、2000年度に60%を超えた後、50%前後で推移してきたが、2011年度に大きく減少した後、40%以下で動揺してきた。2019年度は46.9%と持ち直している。

公表件数と補償件数を比較すると(下の表2-1から表2-4)、「災害性(負傷による)腰痛(一-1)」は公表件数のほうが1千件以上多く、2017年度以降は2千件以上の差になっている。「異常温度条件による疾病(二-4)」、「その他の物理的因子による疾病(二-6)」、「その他の身体に過度の負担のかかる作業態様に起因する疾病(三-5)」、「その他業務に起因することの明らかな疾病」(十一)でも系統的に、「化学物質による疾病(四-2)」や「細菌、ウイルス等の病原体による疾病(六)」では部分的に、公表件数が補償件数を上回っている。これは、使用者が職業病と判断して死傷病報告を届け出たにも関わらず、労災補償請求手続がなされていないか、請求手続がなされたにもかかわらず認定されていないことを意味すると考えられ、問題である。

反対に、「腰痛以外の負傷による疾病」(一-2)、「騒音による耳の疾病」(二-5)、「重激業務」(三-1)、「非災害性腰痛」(三-2)、「振動障害」(三-3)、「職業がん」(七)、「脳・心臓疾患等」(八)、「精神障害等」(九)では、系統的に補償件数が公表件数を(大きく)上回っている。退職後に発病したものは後者に含まれないとしても、それだけでは説明できないと思われる乖離がある。

なお、2018年(度)は、猛暑による熱中症の増加が著しいことがきわだった特徴だったが、やや減ったとはいうものの、高いレベルが続いている。

表2-1 業務上疾病の発生状況

d45d32ce66b3eb2b547a8d3434f3fd4d

表2-2 「身体に過度の負担のかかる作業態様に起因する疾病」の発生状況

0c875dc5436ef7c142d71ca79a965933

表2-3 「業務上の負傷に起因する疾病」等の発生状況

57009da05b102ca071bffd21c5a24bfe

表2-4 「その他業務に起因することの明らかな疾病」等の発生状況

52a7d7b8000bca0ffc1ad3d0c367239f

参考として、各種統計の業種別内訳を次に一覧表で示した。

● 労働者の健康状況等

労働者の健康状況全般については、定期健康診断受診者のうちの有所見率が、1990年の23.6%から2020年の58.5%へと経年的に増加し続けている(表3-1)。

表3-1 定期健康診断・特殊健康診断・じん肺健康診断の実施状況

2df681ebcd206c2bb94db4a086bbdb1c

項目別の有所見率では、血圧、貧血、血中脂質検査、血糖検査、心電図検査で経年的な増加傾向が認められる(表3-2)。ただし、2016~2018年の数値は「精査中」とされたまま、新しいデータが公表されていない。

表3-2 定期健康診断の実施結果(項目別の有所見率所見率等)

7b72ce77e2b8e79973026605dfd9a2a9

警察庁によれば、自殺者が2011年まで14年連続で3万人を超えた後、2012年27,858人から2019年20,169人まで減少。しかし、2020年は21,081人と増加してしまった。そのうち「被雇用者・勤め人」が2019年6,202人(30.8%)から2020年6,742人(32.0%)へと増加した一方、「勤務問題」が原因・動機のひとつとなっているものが1,949人(9.7%)から1,918人(9.1%)と減少している。2021年も悪化が懸念されている。

「労働安全衛生に関する調査」が厚生労働省のホームページに掲載されている

ここでは、「労働者健康調査」、「労働災害防止対策等重点調査」、「労働安全衛生基本調査」、「建設業労働災害防止対策等総合実態調査」、「技術革新と労働に関する実態調査」が「廃止した調査」とされていることがわかる。

例えば、5年ごとに実施されていた「労働者健康調査」では、自分の仕事や職業生活に関して「強い不安、悩み、ストレスがある」とする労働者の割合が、1992年57.3%→1997年62.8%→2002年61.5%→2007年58.0%→2012年60.9%と推移してきていた。

労働安全衛生調査(実態調査)」(2013・15・16・17・18年、19年はなく、20年は2021年7月21日に公表)と「労働安全衛生調査(労働環境調査)」(1996・2001・06・14・19年)が継続されている。

「労働安全衛生調査(実態調査)」の個人(労働者)調査では、現在の仕事や職業生活に関して「強い不安、悩み、ストレスがある」労働者の割合-2013年52.3%。以後質問が若干変わり、「強いストレスとなっていると感じる事柄がある」-2015年55.7%<2016年59.5%>2017年58.3%>2018年58.0%>2020年54.2%。

「職場で受動喫煙がある」労働者の割合(「ほとんど毎日」と「ときどきある」の合計)-2013年47.7%>2015年32.8%<2016年34.7%<2017年37.3%<2018年28.9%>2020年20.1%。

「労働安全衛生調査(実態調査)」の事業所調査は、内容がかなり変わってしまっていて、いまも継続的に追えるのは、以下を実施または取り組んでいる事業所の割合くらいで、以下のとおりである。

  • メンタルヘルス対策-2013年60.7%>2015年59.7%>2016年56.6%<2017年58.4%<2018年59.2%<2020年61.4%
  • ストレスチェック-2013年26.0%>2015年22.4%<2016年62.3%<2017年64.3%>2018年62.9%>2020年62.7%(ストレスチェックの活用状況も調査)
  • 屋外を含め敷地内全体の全面禁煙-2013年14.9%<2015年15.2%>2016年14.0%>2017年13.6%<2018年13.7%<2020年30.0%
  • 化学物質を取り扱う際のリスクアセスメントをすべて実施:安衛法第57条該当化学物質-2017年52.8%>2018年29.2%<2020年67.2%(製造・譲渡・提供時のGHSラベル表示・SDS交付、また安衛法第57条非該当化学物質についても調査)

メンタルヘルス不調により1か月以上休業または退職した労働者がいる事業所の割合は2013年以降、長時間労働をして医師による面接指導の申し出があった労働者がいる事業所及びその実施状況についても、継続して調査している一方で、2020年調査では、特殊検診・じん肺健診の実施状況等と傷病を抱えた労働者が治療と仕事を両立できるような取組がなくなり、高年齢労働者・外国人労働者に対する労働災害防止対策が追加されている。全面禁煙にしていない事業所における受動喫煙防止の取組の調査事項も、2020年に変わった。

「労働安全衛生調査(労働環境調査)」のほうがやや系統的であり、事業所調査-①有害業務、②作業環境測定、③化学物質、労働者調査(2019年は「個人調査」)-①有害業務、②有機溶剤、③化学物質、ずい道・地下鉄工事現場調査-①粉じん抑制対策、②作業環境測定、について継続的に追えるが、それでも2014・19年調査はそれ以前とけっこう違ってしまっている。

なお、「心理的な負担の程度を把握するための検査実施状況」のページができて、現在2017・18・20年の分のデータが提供されている。

また、「過労死等防止対策」(厚生労働省サイト)では、平成28年版以降毎年、「過労死等防止対策白書」が公表されるほか、「過労死等防止対策に関する調査研究」の成果も公表されるようになっている。

2.労働安全衛生対策

● 労働災害防止計画

2018年2月28日に、2018~2022年度を対象期間とする第13次労働災害防止計画が策定され、以下の「全体目標」が掲げられた-以下[ ]内は、2021年4月30日に公表された2020年の労働災害発生状況に基づく達成状況である。

  1. 死亡災害については、2017年と比較して、2022年までに労働災害による死亡者数を15%以上減少させる[18.0%の減少]
  2. 死傷災害(休業4日以上)については、2017年と比較して、2022年までに5%以上減少させる[8.9%の増加、新型コロナウイルス感染症を除いても3.9%の増加]

また、死亡災害減少の重点業種別目標として、建設業、製造業、林業について15%以上減少[各々20.1%減少、15.0%減少、10.0%減少]、死傷災害減少の重点業種別目標として、陸上貨物運送事業、小売業、社会福祉施設、飲食店について5%以上減少が掲げられた(「業種間の労働推移を考慮して千人率で設定」することとされた)[各々6.4%増加、9.3%増加、42.4%増加5.1%増加]。

新型コロナウイルス感染症の直接・間接の影響を注意深く監視する必要がある。

● ウィズ・ポストコロナ時代

令和3年度地方労働行政運営方針」は、「ウィズ・ポストコロナ時代の雇用機会の確保」と「ウィズ・コロナ時代に対応した労働環境の整備、生産性向上の推進」が具体的内容を包括する見出しとなり、後者では以下が取り上げられている。

  1. 「新たな日常」の下で柔軟な働き方がしやすい環境整備
  2. ウィズコロナ時代に安全で健康に働くことができる職場づくり
    (1)職場における感染防止対策等の推進
    (2)働き方改革の実現に向けた取組について
    (3)労働条件の確保・改善対策
    (4)労働者が安全で健康に働くことができる環境の整備
    (5)迅速かつ公正な労災保険の給付
  3. 最低賃金、賃金引上げに向けた生産性向上等の推進、同一労働同一賃金など雇用形態に関わらない公正な待遇の確保
  4. 総合的なハラスメント対策の推進
  5. 治療と仕事の両立支援

しかし、厚生労働省ホームページの「労働者向けQ&A」の「安全衛生」で取り上げられているのは「職場で実施する健康診断を受診しなければならないでしょうか」のみ。「企業向けQ&A」でも4項目だけで、能動的な対策にも、事業者の責任にもふれられてはない。別途、経済団体等に対する度重なる要請でも「感染予防と健康管理の強化」がうたわれ、「職場における新型コロナウイルス感染症の拡大を防止するためのチェックリスト」が示されたりはしているものの、端的に言って、「職場における感染防止対策」に関しては、タイムリーに有効な対策を示せているとは言い難い。

● テレワークガイドライン

「『新たな日常』の下で柔軟な働き方がしやすい環境整備」等との関連で、いくつかのガイドラインについてふれられている。まず、2021年3月25日に、「情報通信技術を利用した事業場外勤務の適切な導入及び実施のためのガイドライン」(2018年2月)を改定した、「テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドライン」が示された。特設ページも開設している。

● 副業・兼業促進ガイドライン

次は、2020年9月1日に改訂された「副業・兼業の促進に関するガイドライン」(2018年1月策定)である。これは、「働き方改革実行計画」(2017年3月)を踏まえたものと位置づけられ、同日に改正労災保険法も施行された。「副業・兼業」に関する特設ページも開設している。

● フリーランスガイドライン

もうひとつは、2021年3月26日に策定された「フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン」だが、これは、従来の労働者性の有無の判断基準を変更するものでもなく、また、前出の2つとは異なり、労働時間や安全衛生/健康管理をそれなりに重視したものにもなっていない。

● エイジフレンドリーガイドライン

なお、2020年1月17日に「人生100年時代に向けた高年齢労働者の安全と健康に関する有識者会議報告書」が公表され、これを踏まえて同年3月16日に「高年齢労働者の安全と健康確保のためのガイドライン」(エイジフレンドリーガイドライン)が公表され、「高年齢労働者の安全衛生対策について」のページがつくられている。「令和3年度地方労働行政運営方針」は、エイジフレンドリー補助金を、高年齢労働者の感染防止対策等推進に活用することにもふれている。

● 労働者の健康保持増進指針

事業場における労働者の健康保持増進のための指針(1988年策定)」が、2020年3月31日と2021年2月8日の二度にわたり改訂されている。前者は、①従来の労働者「個人」から「集団」への視点を強化、②健康保持増進措置の内容を規定するものから取組方法を規定する指針への見直し等、後者では、事業者と医療保険者とが連携した健康保持増進対策がより推進されるようコラボヘルスの推進が求められていることを追加した、とされている。

● 働き方改革推進法等

2018年6月29日に成立した「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」により、以下を含めた労働基準法による労働時間制度の見直しのほか、労働安全衛生法等が改正された。

  1. 時間外労働の上限規制の導入
  2. 月60時間超の時間外労働に対する割増賃金率(50%以上)の中小企業への猶予措置の廃止
  3. 一定日数の年次有給休暇の確実な取得
  4. 労働時間の状況の把握の実効性確保
  5. フレックスタイム制の清算期間の上限延長
  6. 高度プロフェッショナル制度の創設

労働安全衛生法改正の内容は以下のとおり。

  • 労働時間の状況の把握義務の新設
  • 医師による面接指導の拡大
  • 産業医・産業保健機能の強化
  • 労働者の心身の状態に関する情報の適切な取扱い

上記の労基法・安衛法改正はすべて、2019年4月1日に施行されており、厚生労働省は「『働き方改革』の実現に向けて」の特設ページをつくっている。テレワークガイドラインや副業・兼業促進ガイドラインの促進等を含め「新しい働き方」と「働き方改革の実現」を結び付けてキャンペーンすることも意図されている模様である。

なお、法案審議過程で撤回された裁量労働制対象業務の拡大について、2018年9月20日から裁量労働制実態調査に関する専門検討会が開催されていたが、2021年6月25日に「裁量労働制実態調査」の結果が公表され、7月26日に「これからの労働時間制度に関する検討会」がはじまった。

● しわ寄せ防止総合対策の策定

働き方改革関連法による大企業・親企業による長時間労働削減等が下請等中小事業者に「しわ寄せ」を生じさせている場合があるという認識から、厚生労働省は2019年6月26日に、中小企業庁、公正取引委員会とともに、「大企業・親事業者の働き方改革に伴う下請等中小事業者への『しわ寄せ』防止のための総合対策」(しわ寄せ防止総合対策)を策定。11月を「しわ寄せ防止キャンペーン月間」として、特設ページも開設している。

● ハラスメント防止対策

労働施策総合推進法、男女雇用機会均等法及び育児・介護休業法等も改正する女性の職業生活における活躍の推進に関する法律等の一部を改正する法律が、2019年6月5日に公布された。

改正労働施策総合推進法により、「職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であって、業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの」と定義されたパワーハラスメント「によりその雇用する労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じ」ることが事業主の義務とされた。

2020年1月15日に「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」(労働省告示第5号)が策定され、2020年6月1日から施行された。中小企業については当面努力義務とされたが、2022年4月1日から義務化される。

男女雇用機会均等法及び育児・介護休業法においても、セクシャルハラスメントや妊娠・出産・育児休業等に係る規定が一部改正され、いままでの職場でのハラスメント防止対策の措置に加えて、相談したこと等を理由とする不利益取扱いの禁止や国、事業主及び労働者の責務が明確化等が定められた。施行期日は上記と同じである。

「令和3年度地方労働行政運営方針」は、「新型コロナウイルス感染症を理由とするいじめ・嫌がらせや、顧客からの悪質なクレーム等の著しい迷惑行為、いわゆるカスタマーハラスメントへの対応も求められている」としている。

厚生労働省は「職場におけるハラスメントの防止のために(セクシュアルハラスメント/妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント/パワーハラスメント)」のページをつくっている。

国際労働機関(ILO)は、2019年6月の第108回総会において「労働の世界における暴力及びハラスメントに関する条約(第190号)・勧告(第206号)及び決議」を採択、ILO駐日事務所は同条約勧告の日本語訳文を提供している。

国際労働基準(基準設定と監視機構)(ILO駐日事務所サイト)

● 事務所衛生基準規則の見直し

2021年3月24日に「事務所衛生基準のあり方に関する検討会」の報告書が公表された。主として、トイレ設備、休憩等のための設備や、作業環境測定の頻度、照度等に関する基準が検討されたが、この報告を踏まえて、事務所衛生基準規則及び労働安全衛生規則の改正について、労働政策審議会において審議を行う予定とされている。

3.化学物質管理対策等

● 特別規制・指針対象物質の追加

発がん物質等は特定化学物質等障害予防規則等による特別規制の対象とされているが、この対象の追加について、

  1. 有害物曝露作業報告を活用して、
  2. 国が曝露評価と有害性評価をもとにリスク評価(初期リスク評価及び詳細リスク評価)を行い、
  3. リスクが高い作業等については特別規則による規制等の対象に追加する

という仕組みがつくられている。

厚生労働省は「職場における化学物質のリスク評価」のページを開設、また、「職場のあんぜんサイト」に「リスク評価実施物質」のページもある。

2020年2月10日に公表された「2019年度化学物質による労働者の健康障害防止措置に係る検討会報告書」を踏まえて、溶接ヒュームと塩基性酸化マンガンが特定化学物質(管理第2類物質)に追加されて、作業環境測定(溶接ヒュームに係る屋内作業場は除く)、健康診断等の規制対象となり、2021年4月1日から施行されている(作業主任者の選任については2022年4月1日施行)。

令和2年度化学物質のリスク評価検討会」は2回(初期リスク評価)、「令和2年度化学物質による労働者の健康障害防止措置に係る検討会」は1回(2020年3月12日に公表された2019年度リスク評価検討会報告書が検討を求めた塩化アリルとアセトニトリル)を検討会を開催しているが、本稿執筆時点でいずれも報告書は公表されていない。

特別規則の対象以外であっても、厚生労働大臣は、がんその他の重度の健康障害を労働者に生ずるおそれのある化学物質を製造・取り扱う事業者が当該化学物質による労働者の健康障害を防止するための指針(がん原性指針)を公表するものとされ(法第28条第3項)、厚生労働省「職場のあんぜんサイト」に「がん原性に係る指針対象物質」のページがつくられている。

また、2020年12月7日付け基発1207第2号によって、事業者からの届出のあった新規化学物質835物質のうち27物質、既存化学物質物質のうち5物質が追加された。これらによって、同指針の対象となる化学物質の数は、届出物質1,037、既存化学物質242、合計1,279となっている。厚生労働省「職場のあんぜんサイト」に「強い変異原性が認められた物質」のページがある。

● 化学物質特殊検診項目の見直し

労働安全衛生法に基づく特定化学物質障害予防規則、有機溶剤中毒予防規則等が制定されてから40年以上が経過するなかで、労働安全衛生法における特殊健康診断等に関する検討会での検討を踏まえ、化学物質取扱業務従事者に係る特殊健康診断の健診項目を見直す労働安全衛生規則等の一部改正が行われ、2020年7月1日から施行されている。

● 個人サンプラーによる作業環境測定の導入

作業環境測定に個人サンプリング法を導入するための作業環境測定法施行規則の一部改正が行われ、2020年1月27日に公布、同年2月17日には「個人サンプリング法による作業環境測定及びその結果の評価に関するガイドライン」も策定され、2021年4月1日に施行されている。2018年11月6日に公表された「個人サンプラーを活用した作業環境管理のための専門家検討会報告書」を受けたものである。

● 化学物質管理のあり方検討会報告

2021年1月18日に「職場における化学物質等の管理のあり方に関する検討会中間とりまとめ」が公表され、7月19日には最終報告が公表された。

これは、「自律的管理を基軸とする規制への移行」へと化学物質規制体系の大きな見直しを提言したものである。危険有害性分類とその更新の系統的促進と合わせて、情報伝達(ラベル表示・SDS交付)及び情報に基づくリスクアセスメントとその結果に基づく優先順位を基本とした措置の実施義務付けを基本とする方向性は国際的動向とも合致している一方で、実態として、作業環境測定を拡大するだけで、優先順位の低い個人曝露対策がかえって容認される結果にならないようにするためには、自律的管理を下差さえする様々な対策が必要であると考えられる。

また、中間とりまとめの段階では、特定化学物質障害予防規則、有機溶剤中毒予防規則等の特別規制について、「これらの規定に基づく管理を引き続き適用する」としたうえで、対象物質の追加を基本的にしない可能性が議論されていたのに対して、最終報告では、「自律的な管理に残すべき規定を除き、5年後に廃止することを想定し…5年後に改めて評価を行うこと」が提起されている。個別規制は自律的管理を基軸とする規制とまったく矛盾するものではなく、このような方向性は改悪である。

● がんの集団発生時の報告の仕組み

前述の職場における化学物質等の管理のあり方に関する検討会最終報告は、「がんの集団発生時の報告の仕組み」として、「化学物質を取り扱う同一事業場において、複数の労働者が同種のがんに罹患し外部機関の医師または事業場の産業医が必要と認めた場合は、業務との関連性を解明する必要があるため、所轄労働局に報告することを義務付け、労働局は、労働衛生指導医、労働安全衛生総合研究所等の専門家の協力も得て、当該事業場その他同様の業務を行っている事業場に対し、必要な調査等を行う」としている。

● 石綿障害予防規則の改正等

2020年4月14日の「建築物の解体・改修等における石綿ばく露防止対策検討会最終報告書」を受けて、

  • 事前調査の方法の明確化と実施者の要件の新設
  • 分析調査実施者の要件の新設
  • 事前調査・分析調査結果の記録の保存(3年間)
  • 計画届の対象拡大
  • 事前調査結果等の届出制度の新設
  • 作業に係る措置の強化(要負圧作業、ケイ酸カルシウム板・仕上塗材、その他)
  • 事前調査結果・作業実施記録の概要の40年間保存、作業実施状況の写真等による記録等の3年間保存
  • 発注者による配慮

等を定めた石綿障害予防規則の改正が行われ、2020年10月1日以降(大部分は2021年4月1日)施行されている。これに合わせて、「石綿総合情報ポータルサイト」が開設されている。

並行して、

  1. すべての石綿含有建材を規制対象
  2. 事前調査の方法の明確化と元請業者に石綿含有建材の有無にかかわらず事前調査結果の都道府県知事への報告、記録の作成・保存義務づけ
  3. 隔離等の飛散防止措置を講じずに吹付け石綿等を除去した者等に対する直接罰の導入
  4. 元請業者に作業結果の発注者への報告や作業記録の作成・保存義務づけ

等を内容とした、大気汚染防止法の改正も行われている。

さらに、これまで厚生労働省は「石綿飛散漏洩防止対策徹底マニュアル」、環境省は「建築物の解体等に係る石綿飛散防止対策マニュアル」を別々に作成・更新してきたが、各マニュアルを統合して、370頁の「建築物等の解体等に係る石綿ばく露防止及び石綿飛散漏えい防止対策徹底マニュアル(令和3年3月)」が示されている。

● アスベスト含有製品の違法流通・輸入

2020年11月27日に厚生労働省は、大阪府貝塚市のふるさと納税品等として流通していた珪藻土バスマットに石綿が含有されていることが判明したこと及びメーカー等による回収について公表。関係団体等に点検・周知を依頼したところ、カインズ、ニトリ、ヤマダ電機、ダイレックス、グッディ、イズミ、三喜、ハンズマン、ルームプラス、しまむら等で販売されている珪藻土製品にも石綿が含有されていることが次々と発覚し、前代未聞の規模のリコール事件に発展した。

厚生労働省は、石綿をその重量の1%を超えて含有するおそれのある製品で厚生労働大臣が定めるもの()を輸入しようとする者は、当該製品の輸入の際に、一定の資格を有する者が作成した石綿の検出の有無等を記載した書面を取得し、石綿が含有しないことを確認しなければならないこと等とする石綿障害予防規則の改正を行い、2021年12月1日に施行した※=「珪藻土を主たる材料とするバスマット、コップ受け、なべ敷き、盆その他これらに類する板状の製品」)。

● トンネル建設工事の粉じん測定方法等

2020年1月30日に「トンネル建設工事の切羽付近における作業環境等の改善のための技術的事項に関する検討会報告書」が公表され、これを受けて粉じん濃度測定方法を改正し、その結果に基づく換気装置の風量の増加等の措置や、有効な電動ファン付き呼吸用保護具を労働者に使用させること等を事業者に義務づける粉じん障害防止規則等の改正が行われ、2021年4月1日に施行されている。

4.労災補償対策

● 新型コロナウイルス感染症の労災認定

厚生労働省は2020年2月3日に基補発0203第1号「新型コロナウイルス感染症に係る労災補償業務の留意点について」を示していたが、4月28日になって基補発0428第1号「新型コロナウイルス感染症に係る労災補償における取扱いについて」を発し、労災請求件数の公表・更新もするようになった(当初はほぼ毎日、現在は毎週)。

ホームページの「労働者向けQ&A」の「労災補償」には、上記認定基準とその解説、労災請求件数等に、労災認定事例(現在21事例)、「職場で新型コロナウイルスに感染した方向けリーフレット」の日本語版と13か国語版、医療従事者等がワクチン接種を受けたことで健康被害が生じた場合や針刺し事故が原因で疾病を発症した場合の取り扱いも追加された。

情報開示請求を通じて、

新型コロナウイルス感染症の労災保険給付請求に係る調査等に当たっての留意点(調査要領を含む)
「『新型コロナウイルス感染症の労災補償における取扱いについて』に関するQ&A
新型コロナウイルス感染症疑い(PCR検査陰性)事案の当面の取扱いについて
『新型コロナウイルス感染症の労災補償における取扱いに関する質疑応答集について』(令和3(2021)年2月16日付け職業病認定対策室長補佐事務連絡)
新型コロナウイルス感染症の労災認定実務要領」(2021.5.11 厚生労働省労働基準局補償課職業病認定対策室長事務連絡)

等が示されていることも判明した。

また、請求勧奨に関する指示も数次にわたり、「とくに集団感染が発生した事業場等を把握した場合には、適切な時期に請求勧奨に係る要請を確実に行うこと」としている(令和3年度「労災補償業務の運営に当たって留意すべき事項」)。

また、新型コロナウイルス感染症発症後に診断された精神障害が業務上と認定された事例がある一方で、精神科を受診したこと等により休業補償給付の支給が差し止められた事例もある。目下の最大の職業病であり、引き続き監視していく必要がある。

● 労災保険特別加入制度の拡大

2021年4月1日から、①芸能関係作業従事者、②アニメーション制作作業従事者、③柔道整復師、④創業支援等措置に基づき事業を行う高年齢者が労災保険特別加入制度の対象に追加された。

続けて、⑤自転車を使用して行う貨物の運送の事業、⑥情報処理システムの設計等の情報処理に係る作業を行う労働者以外の者についても労災保険特別加入制度の対象に追加することになり、2021年9月1日に施行された。

● 複数事業労働者に係る労災保険法改正

労働政策審議会労働条件分科会の2019年12月23日に建議「複数就業者に係る労災保険給付等について」を受けて、雇用保険法等の一部を改正する法律が2020年3月31日に成立、同年9月1日に施行された。

労災保険法の改正内容は、複数事業に使用される労働者の複数の事業の業務を要因とする傷病等に関する保険給付を新設するもので、複数事業の賃金を合算した額を基礎とした給付が受けられるとともに、脳・心臓疾患、精神障害等については複数事業における業務上の負荷を総合評価して労災認定されることになった。特設ページも開設している。

複数業務要因災害における労災認定基準について、2020年8月21日に「脳血管疾患及び虚血性心疾患等(負傷に起因するものを除く。)の認定基準」及び「心理的負荷による精神障害の認定基準」が改正され、改正後の認定基準が示されている

● 二次健康診断等給付の検診費用の額等

厚生労働省は2020年5月29日に「労働者災害補償保険法における二次健康診断等給付の健診費用の額等のあり方に関する検討会報告書」を公表した。厚生労働省では、同年6月30日付けで「労災保険二次健康診断等給付担当規程」の一部改正を行い、同年8月の二次健康診断実施分より適用されている。特設ページも設置している。

● 建設アスベスト給付金制度の創設

2021年5月16日の建設アスベスト訴訟(東京一陣・神奈川一陣・京都一陣・大阪一陣)が、一人親方等も含めた国の責任を明確に認めたことを踏まえて、国-首相・厚生労働大臣が公式に謝罪し、統一基準による全訴訟の和解と、未提訴の被害者に対する補償制度の法案化に国が積極的に協力することを内容とした「基本合意」の締結へと進んだ。6月2日の衆議院厚生労働委員会で「特定石綿被害建設業務労働者等に対する給付金等の支給に関する法律案」が起草・可決され、翌3日に衆議院本会議で可決、6月8日に参議院厚生労働委員会、翌9日に参議院本会議でもすべて全会一致で可決され、成立した。同法は、6月16日に法律第74号として公布され、一部の規定を除き、公布日から起算して1年を超えない範囲において政令で定める日から施行されることとされている。特設ページが開設されている。

● 石綿健康被害救済法による時効救済

しかし、石綿健康被害救済法による労災時効救済(特別遺族給付金)については、2016年3月26日以前に死亡した者が対象(請求期限は2022年3月27日まで)で、2016年3月27日以降に死亡した者については、労災保険の時効-5年が経過すると(すなわち2021年3月27日以降)、労災保険(遺族補償給付)も労災時効救済済(特別遺族給付金)も請求できなくなる。「新たな隙間」の発生であり、すでにそのような事例が生じている。対象者の請求期限切れも2022年3月27日に迫っている。

● 化学物質MOCAによる膀胱がん等

化学物質MOCA(3,3’-ジクロロ-4,4’-ジアミノジフェニルメタン)による膀胱がんについては、多発事業所が確認されているにもかかわらず労災請求がなされていなかったが、ようやく請求があり、2020年3月24日から「芳香族アミン取扱事業場で発生した膀胱がんの業務上外に関する検討会」による検討がはじまった。そして、「MOCAを取り扱う作業に従事していた労働者の皆様へ」という特設ページがつくられ、2021年1月に4件が労災認定事例があったこと、また、時効は「『芳香族アミン取扱事業場で発生した膀胱がんの業務上外に関する検討会』の報告書の公表日(2020年12月22日)までは進行せず、同年12月23日から進行」する取り扱いになったことが明らかになった。

「オルト-トルイジンを取り扱う業務により発症した膀胱がん及びアクリル酸系ポリマーを取り扱う業務により発症した呼吸器疾患についても、同様に各報告書の公表日までは労災請求の時効は進行していません」と注記もしている。「印刷事業場で発生した胆管がん」と同じ取り扱いが適用されたことになる。

● 化学物質による疾病リストの見直し

2018年11月30日の「労働基準法施行規則第35条専門検討会報告書」を受けて、労働基準法施行規則別表第1の2第4号の1の物質等の検討を行う同検討会「化学物質による疾病に関する分科会」の作業が2019年7月19日からはじまり、当初は2020年度中に取りまとめの予定だったが遅れ、2022年1月頃の見込みとされている。

● 脳・心臓疾患労災認定基準の見直し

脳・心臓疾患労災認定の基準に関する専門検討会」は、「複数業務要因災害における脳・心臓疾患の認定について」の検討に続けて、2020年度に認定基準全般の検討を行っており、2021年7月16日に報告書が公表された。「速やかに脳・心臓疾患の労災認定基準を改正」するとされ、9月14日、厚生労働省は改正認定基準を発出した。

● 精神障害労災認定基準の見直し

精神障害の労災認定の基準に関する専門検討会報告書」も、パワーハラスメント防止対策法制化に合わせ「パワーハラスメント」の出来事を「心理的負荷評価表」に追加し、「複数業務要因災害における精神障害の認定について」検討した次に、「最新の医学的知見を収集した上で、有識者検討会において、認定基準全般の検討を行う予定」で、2020年度には「ストレス評価に関する調査研究(ライフイベント調査)等の収集予定」とされていた。

● 「労働時間の的確な把握」

脳・心臓疾患及び精神障害の労災認定に当たっては、労災認定のための労働時間は労働基準法第32条で定める労働時間と同義であること、監督担当部署との連携を指示しながら、「労働時間の的確な把握」が強調されるようになってきており、2021年3月30日付けで200頁をこす基補発0330第1号「労働時間の認定に係る質疑応答・参考事例集の活用について」が示されている。

● 請求書等への押印等の見直し

労災保険関係の請求書等について、押印又は署名がなくても受付する取扱いとする見直しが行われた。これにより、請求書等の書類について、請求人の記名欄や事業主等の証明欄に氏名や住所の記載があれば押印がないものであっても受け付けられる。2021年1月7日付け基管発0107号等「労災保険における請求書等に係る押印等の見直しの留意点について」が示されている。

5.労働災害・職業病の統計データ

● 労働災害の総件数

労働災害の総発生件数として公表されているデータは、今のところ存在していない。

労働者死傷病報告書は、「労働者が労働災害その他就業中又は事業場内若しくはその附属建設物内における負傷、窒息又は急性中毒により死亡し、又は4日以上休業したとき」に、「遅滞なく」、所轄労働基準監督署長に提出しなければならないとされている。また、「休業3日以内」のものは、3か月分をまとめて提出しなければならない(労働安全衛生法施行規則第97条)。しかし、これに基づく「休業3日以内」のデータは公表されていない。

2007年8月7日に公表された総務省行政評価局の「労働安全衛生等に関する行政評価・監視結果に基づく勧告」が、「休業4日未満の労働災害に関する労働者死傷病報告について、当該データの集計・分析や公表を行うなど、その利用を促進すること」という所見を示し、厚生労働省が2008-09年度に委託した「行政支援研究:休業4日以上と4日未満の死傷災害の比較」研究報告書が、労働者死傷病報告書の様式改善の提案も示して、「休業4日未満労働災害データは、今後の労働災害防止対策の検討に有用である」と結論付けているにもかかわらず、具体的な対応はなされていない。

同報告書の対象には、労災非適用事業に係るものも含む一方で、労災保険の対象となる通勤災害や退職後に発症した職業病、労働者ではない労災保険特別加入者に係る死傷病等は含まれない。

ここでは、労働災害の総件数に代わる数字として、「労災保険事業年報」による労災保険新規受給者数を紹介する(表1参照)。

表1 死亡災害・死傷災害発生状況、労災保険適用状況及び給付種類別受給者数の推移

1b4e3f8fd321727d3a31789371253b61

「労災保険事業年報」は、2005年度分以降、厚生労働省ホームページ(統計情報・白書>各種統計調査>厚生労働統計一覧>労働者災害補償保険事業年報に掲載されている(当初は概況等のみで、2015年度分以降は全文を掲載。翌年7月頃にまず、前年度の「労災保険事業の保険給付等支払状況」が公表され、その後「労災保険事業年報」が掲載されるというかたちになっている)。

また、毎年7月第1週の全国安全週間に向けて中央労働災害防止協会から発行されている『安全の指標』が1999年度版から、労災保険新規受給者数のデータを掲載するようになったが、そこで紹介されているのは業務災害分だけで、本サイトでは、業務災害と通勤災害の合計数を紹介している。

「労災保険事業年報」に業務災害と通勤災害の内訳が示されるようになったのは、2000年度版以降のことで、1999年12月21日に旧総務庁行政管理局が旧労働省に対して行った「労災保険業務に関する行政監察結果に基づく勧告・通知」のなかで、「労災保険財政に係る情報開示について…国民にわかりやすい形で公表すること」とされたのを受けて、「労災保険事業年報」の厚さが以前の2倍以上になってからのことである。

● 死亡災害・重大災害

「死亡災害発生状況」については、2012年までは5月頃に「前年における死亡災害・重大災害の発生状況」として公表されていたが、2014年からは「前年の労働災害発生状況」として死亡災害、死傷災害、重大災害を合わせて公表するようになった(なぜか2017年から重大災害がなくなり、死亡災害と死傷災害だけになってしまっている)。2021年は4月30日に公表されている。

厚生労働省ホームページでは、分野別の政策>雇用・労働>労働基準>安全・衛生>労働災害発生状況・災害事例・安全衛生関係統計>労働災害発生状況で、2007年分からの「労働災害発生状況」統計が入手できるが、2015年分までは死亡災害、死傷災害、重大災害のデータが含まれているものの、2016年以降分には重大災害データが含まれていない。

「死亡災害発生状況」は、『安全の指標』等でも紹介されており、出所は「死亡災害報告より作成」または「安全課調べ」と記載されている。

また、死亡災害に関係する資料としては、労災保険統計の葬祭料・葬祭給付の支給件数を参照することもできる(発生時点ではなく、支給決定時点での集計で、請求の時効が5年であることに留意)。

なお、「重大災害発生状況」は、「重大災害報告より作成」したものとされ、「重大災害」とは、「一時に3人以上の労働者が業務上死傷又はり病した災害事故」のことをいう。

● 死傷災害

前述のとおり、2014年から「前年の労働災害発生状況」の一部として公表されるようになっている。

以前は「死傷災害(死亡災害及び休業4日以上の死傷災害)」の出所は、「労災保険給付データ及び労働者死傷病報告(労災非適)より作成」とされてきたが、2012年分以降は、「労働者死傷病報告より作成」に代えられている。「労働者死傷病報告データの方が事故の型別分類等がなされていて、今後の対策に生かせるということで変更した。労働災害防止計画の数値目標等も労働者死傷病報告データによる」とのことである。前出の厚生労働省ホームページの「労働災害発生状況」統計に掲載されているデータも、同様に、2012年分から労働者死傷病報告データに代えられている。

他方、厚生労働省の「職場のあんぜんサイト」の「労働災害統計」の各年の「死傷災害発生状況」のなかの、1988~1998年分の「死傷災害発生状況」のうち起因物別・事故の型別データは、明記はされていないものの「労働者死傷病報告」によるデータであろうと思われる。1999年分以降は「『労働者死傷病報告』による死傷災害発生状況」とされている。

もうひとつ、情報公開法が施行されて、「職業病統計に関する一切」を開示請求するようになってから全国安全センターが毎年開示させている「傷病性質コード別労災補償状況」の2002年度分以降に、「負傷(負傷を伴わない事故を含む)」データも掲載されるようになった。内容は、次表のとおりである。

この「負傷」合計件数に、その後に続く疾病件数(後掲表4参照)を合わせた「負傷+疾病」の合計件数が、休業4日以上の死傷災害の「補償件数」であろうと考えられる。

「労働者死傷病報告」によるデータは、素直に考えれば、事業主が届け出た報告の件数をそのまま集計したものであろう(「届出件数」と呼ぶことにする)。それと、2011年以前に公表されてきた「労災保険給付データ及び労働者死傷病報告(労災非適)」による数字(「公表件数」と呼ぶ)、さらに「補償件数」を並べてみると、下表のようになる。

補償件数には、労働者死傷病報告書を届け出する必要のない、通勤災害、労災保険特別加入者や退職後の発症・死亡等も含まれる。理屈で考えれば、それらを除いた業務災害分だけの補償件数に労災非適用事業に係る労働者死傷病報告件数を加えたものが公表件数ということになりそうな気もするが、そのような説明がなされたことはない。また、公表件数は、(負傷に限定したとしても)補償件数よりもかなり少なく、そのような事情だけでは説明できそうにない。なお、1999年以降、届出件数が公表件数を上回り(網掛け部分)、実際に届け出られた件数よりも少ない件数しか公表されていない状況が続いていたことになる。

どのような理由で、どのように算定されたのかわからない数字が、長年、死傷災害の公表件数とされ、労働災害防止計画等の数値目標としても用いられてきたということ自体が、実に不可解ではある。

● 業務上疾病

厚生労働省ホームページの、分野別の政策>雇用・労働>労働基準>安全・衛生>労働災害発生状況・災害事例・安全衛生関係統計に、2004年分以降の「業務上疾病発生状況等調査」へのリンクが設定されるようになった。報道発表資料のところには掲載がなく、労働基準分野のトピックス一覧の記載から掲載日が確認できていたのだが、2018年以降分については掲載がみあたらない。

ここにある「業務上疾病発生状況(業種別・疾病別)」は、「暦年中に発生した疾病で翌年3月末までに把握した休業4日以上のもの」で、出所は「業務上疾病調」と記載されており、全国労働衛生週間(10月1~7日)に向けて中央労働災害防止協会から発行されている『労働衛生のしおり』掲載のものと同じものである。前掲の表2-1~4及び次表では、これを「公表件数」として示している。

どちらも、2014年分以降、「死亡」の内数が示されるようになるとともに、熱中症、脳・心臓疾患等、精神障害、その他の内訳も示されるようになった。

この公表件数がどのように算定されているかも、闇の中であった。以前、情報公開法に基づく開示請求も行って厚生労働省に説明を求めたところ、「公表件数」は、労働者死傷病報告をそのまま集計しているのではなく、例えば、「非災害性」(第3号)として届け出られた「腰痛」を、事情を確認したうえで「災害性」=「負傷による腰痛」(第1号)に振り替え、また、「じん肺及びその合併症」については、届出件数ではなく労災保険給付データを使っている等との説明がなされた。しかし、処理方法を示した文書は存在していないという回答であった。

他方、前出の「職場のあんぜんサイト」には、2004~2009年分について、「労働者死傷病報告」によると明記された「業種別・年別業務上疾病発生状況」データも示されている。2010~2013年分については、「『労働者死傷病報告』による死傷災害発生状況(確定値)」でダウンロードできるエクセル・ファイルのなかに、死亡・休業別内訳も示された「業種別・傷病分類別業務上疾病発生状況」のシートが含まれていたのだが、いつの間にか消されてしまい、2014年分以降も同じである。かつて得られたものも含めて、「労働者死傷病報告」によるデータを「届出件数」と呼ぶことにする。

「補償件数」については、驚くべきことに厚生労働省ホームページには一切掲載されてこなかった。いつできたのか不明だが、厚生労働省ホームページの、分野別の政策>雇用・労働>労働基準>労災補償>業務上疾病の認定>業務上疾病の労災補償状況調査結果(全国計)のページがつくられ、最初は2017年度分、次いで2018年度分、現在は2019年度分のみが掲載されている。各年度分の継続的公表を望みたい。

この調査結果には、職業病リストの第一~十一(2009年分以前は一~九)号別の新規支給決定件数、及び、振動障害、じん肺症等、非災害性腰痛、上肢障害、職業がん、脳血管疾患及び虚血性心疾患、精神障害に係る都道府県別データなどが収録されている。

この元となる調査については、毎年度、補償課長から指示が出されており、調査内容は微妙に変化している。2019年度は基発0719第1号「業務上疾病の労災補償状況調査について」で指示され、12月19日付け補償課職業病認定対策室長補佐事務連絡「平成30年度『業務上疾病の労災補償状況調査結果(全国計)』について」で調査結果が通知されていたが、2020年度については、後者に当たるものは1月14日付けの職業病認定対策室長補佐事務連絡だが、前者に当たるものは基補発0730第1号補償課長通達のようである。

全国安全センターは、情報公開法を使って、1999年度分以降毎年度、「業務上疾病の労災補償に係る統計の一切」の開示請求を行っている。

実際に開示されるのは、

  1. 「業務上疾病の労災補償状況調査(全国計)」
  2. 「傷病性質コード別労災補償状況」【前述「●死傷災害」の表(負傷(負傷を伴わない事故を含む))と後掲表4(表4 業務上疾病の新規支給決定件数)を合わせた内容】
  3. 「都道府県別請求・決定状況確認表」【後掲表5の内容、②と同じ「傷病性質コード」によっている】
  4. 「〇年度新規支給決定件数」とだけ題された後掲表6の内容
  5. 「疾病別都道府県別件数表」【後掲表9の内容】である。

「それらが何らかの文書・冊子の一部をなしている場合には、当該文書・冊子等のすべて」を開示請求しているが、毎年開示されている❷~❺は表紙すらない集計表だけである(❶は表紙と目次がついている)。

これらのデータは、本誌以外で紹介されることはほとんどないと言ってよい。

次表に、「届出件数」「公表件数」「補償件数」を並べてみた。

2010~2013年分の届出件数と公表件数は同じ数字である(2014年分以降の「届出件数」は得られていない。「公表件数」と「補償件数」については前掲の表2-1から表2-4参照)。

疾病分類別のデータで比較してみると、2010年は452件、2011年は487件、2012年は373件、業務上の負傷に起因する疾病から非災害性腰痛に振り替えていることが確認できる(2010年分は化学物質等による疾病からその他業務に起因する疾病にも5件振り替え)。2013年分は、「届出件数」として公表される段階ですでに操作が行われているのかもしれない。

なお、厚生労働省は、毎年6月頃に前年度分の「過労死等(以前は「脳・心臓疾患と精神障害」)の労災補償状況」及び「石綿による疾病に関する労災保険給付などの請求・決定状況(速報値)」、12月頃に後者の「確定値」及び「石綿ばく露作業による労災認定等事業場」を公表している。これらは、他と区別して特別の「処理経過簿」の作成を指示して、集計・公表されている職業病である。

なお、厚生労働省ホームページ「安全衛生関係統計・災害事例」には、全般など-「労働災害発生状況」、「業務上疾病発生状況調査」、「労働安全衛生特別調査」、「労働災害動向調査」のほか、個別分野-「熱中症による死亡災害発生状況」、「酸素欠乏症・硫化水素中毒による労働災害発生状況」、「石綿の除去作業等に係る計画届及び監督指導等の件数」、「化学物質による労働災害発生状況」、「技能講習の登録機関及び修了者数」、「心理的な負担の程度を把握するための検査実施状況」も掲載されるようになっている。

● 包括的救済規定による業務上疾病(その他業務に起因する疾病)

職業病リストには、例示列挙疾病のほかに、「その他業務に起因する疾病」という項目がある。このカテゴリーについて、厚生労働省は別途毎年調査を実施しており、その調査結果には、どのような疾病が何件認定されているかがわかるが、一般には(HPなど)には統計として明示されていないため、これを次の記事にまとめたので参照していただきたい。

● 労災保険事業年報

前述のとおり、厚生労働省ホームページ(厚生労働統計一覧)「労災保険事業月報」及び「労働者災害補償保険事業年報」が掲載されるようになった。これも基本的な統計データであり、全国安全センターでは労災保険法施行以来の事業年報(古いものはコピー)を備え付けている。ホームページ上では、2005~14年度分について「労働者災害補償保険事業の概況」、2015年度分以降については年報の全文がPDFで、また、2009年度分以降について「保険給付等支払状況」がエクセルファイルで入手できるようになっている。

前掲の表1(年別全国)及び後掲表8(都道府県別)に示した基本情報は、これらによって確認できる。詳しくは、以下のとおりである。

労災保険適用事業場数、労災保険適用労働者数は、年報の第1-2表(適用状況〔合計〕(都道府県別))。

労災保険新規受給者数、障害(補償)給付一時金新規受給者数、遺族(補償)給付一時金新規受給者数、葬祭料(葬祭給付)受給者数は、「都道府県別、保険給付支払状況(業務災害+通勤災害+二次健康診断等給付)」エクセルファイル。

死亡災害発生状況と死傷災害発生状況は、既出の情報源(前述のような公表データの変更があったために、表1の2012年以降の数字及び表8では、労働者死傷病報告による死傷災害発生状況の数字を示してある)。

障害(補償)年金、傷病(補償)年金、遺族(補償)年金の新規受給者及び年度末受給者数は、各々、年報第7-10表(障害補償年金受給者数(都道府県別、等級別))、年報第7-15表(傷病補償年金受給者数(都道府県別、等級別))、第7-13表(遺族補償年金受給者数(都道府県別、新規受給者数は年金新規と前払一時金新規を合算)によっている。

● 毎月勤労統計不適切調査の影響

2019年に毎月勤労統計調査で不適切な調査が行われていたことが発覚して、過去に支給した労災保険給付についての追加調査等が必要になった。追加調査は、2019年4月以降、とりわけ2020年度に集中して行われた模様である。

2021年7月12日公表の「令和2年度労災保険事業の保険給付等支払状況」によると、2020年度、労災保険新規受給者数は既出のとおり653,355人(前年度687,455)だったのに対して、表1にも書き込んであるが、葬祭料・葬祭給付受給者数6.868人(2,671人)、 障害(補償)一時金受給者数45,674人(19,235人)、 遺族(補償)一時金受給者数1,764人(833人)といずれも、大幅に増加している一方で、給付金額はそれほど変わっていない。

理由は、2019年に毎月勤労統計で不適切調査があったことが発覚し、過去に支給された労災保険給付に対して追加給付が行われることになったため、2020年度に集中的に行われた追加給付の件数が含まれている結果とのことである。

雇用保険等を受給中の方に対し、追加給付を進めています(毎月勤労統計の不適切な取扱いに関連する情報)(厚生労働省サイト)

本記事が参照する表1~表10

表1 死亡災害・死傷災害発生状況、労災保険適用状況及び給付種類別受給者数の推移
表2-1~4 業務上疾病の発生状況
表3-1~2 定期健康診断の実施状況
表4 業務上疾病の新規支給決定件数
表5 業務上疾病の新規請求件数、支給・不支給決定件数(情報が開示されているもの)
表6 化学物質による業務上疾病(第四号1)の内訳別新規支給決定件数
表7-1~2 長期療養者の状況 
表8 都道府県別・死亡災害・死傷災害発生状況、労災保険適用状況及び給付種類別受給者数(2019年度/年*)
表9 業務上疾病の新規支給決定件数(2019年度・都道府県別)
表10 都道府県別・傷病別長期(1年以上)療養者数(2019年度末)

<最新>日本の労働安全衛生をめぐる状況2020年→2021年掲載各表Excelファイル

<最新>日本の労働安全衛生をめぐる状況2020年→2021年(PDF版)

※安全センター情報2021年9月号掲載

<前年版>日本の労働安全衛生をめぐる状況【2019年→2020年】~労働災害・職業病(業務災害・業務上疾病)統計の構造、労働安全衛生情報