三星化学工業膀胱がん判決その後、大手アパレル膀胱がん労災裁判、職業性上顎がん など 職業がんをなくそう通信31(2022.1.10)

2022年1月10日

職業がんをなくす患者と家族の会https://ocupcanc.grupo.jp/

新年のご挨拶

職業がんをなくす患者と家族の会
代表 田中康博

昨年も一昨年同様コロナ禍の中で、第12回職業がんをなくそう集会の開催ができませんでした。残念ながら今年も見通しも今は立てられない状況です。しかしながら、職業がんや職業病に苦しむ労働者の闘いと支援は、いかなる状況下でも続けなければならないと思います。

三星化学工業膀胱がん損害賠償裁判は、昨年5月11日に会社側を断罪する勝利判決が出され会社側も控訴しなかったため同月25日に判決が確定しました。「使用者には、取り扱う化学物質の国の規制があるかないかにかかわらず、健康障害を起こす抽象的な危惧を知り得たときから安全配慮義務が発生する」という会社の安全配慮義務の発生時期やその責任を示した画期的な判決であると思います。この判決が広く知られることによって、職業がんや職業病を未然に防止する対策が進んで行くことを心から願うものです。多くの皆さまのご支援に心から感謝申し上げます。

大手アパレル会社に勤める F さんの職業性膀胱がんの「療養補償給付不支給処分取消請求(労災認定を求める)」裁判を支援するため昨年4月「職業性膀胱がん患者 F さんの労災認定を支援する会」(働くもののいのちと健康を守る東京センター内)を結成しました。

F さんは、2007年から2012年まで中国江蘇省の染色工場に勤務し、日本国内の製品に対する異臭クレーム対策を指示され縫製前の生地に洗浄不足がないかを確認するために生地を直接手に取り鼻で臭いを嗅いでいました(発がん性を有する染料が手や鼻に付着・浸透し洗っても落ちなかったそうです)。そして帰国後の2015年に膀胱がんを発症してしまいますが、喫煙や飲酒をしない F さんがまだ42歳の時です。同年に労災申請しましたが不支給決定され2019年に再審査請求も棄却され東京地裁で労災認定を求めて行政訴訟を闘っておられます。

真面目に働いてがんになっても労災として認められない。こんなことはあってはならないと強く思います。F さんの裁判は3年目に入りました。皆さまの力強いご支援を心からお願い致します。

現在、職業がんに苦しむ患者と家族の現状や行政の対応をわかりやすく多くの方々に知ってもらい支援の輪を広げるために、ドキュメンタリー映画「なくそう職業がん」(DVD)の製作に取り掛かっています。被害にあった患者らや長年支援活動に取り組んで来られた方々、職業がん問題の研究者・弁護士など多くの人達の経験談や解説で構成され職業がん問題の理解が進む内容になっています。完成すれば DVD の鑑賞やミニ上映会などを通じて職業がんや職場の化学物質対策への取り組みが進むものと確信しております。

今年4月に完成予定ですが製作費300万円のカンパにも取り組んでおりまして、重ねてのご支援のお願いを申し上げまして新年のご挨拶とさせて戴きます。

昨年の取り組み紹介

1.三星化学工業その後の状況

昨年5月に職業性膀胱がん損害賠償裁判の勝利判決が確定しましたがその後初めての団体交渉が9月に開催されました。当初出席を予定していた社長は欠席しその後の WEB 団交にも欠席したままで判決確定後被害者と対面を一度もしていません。被害への謝罪や今後の職業がん対策への取り組みも経営トップ自らの口から語れることなく、相変わらず労組と協力して取り組んで行こうという姿勢すら見せていません。お金を払えばおしまいという態度は被災者らの気持ちを二重三重に踏みにじっています。

化学一般と当該労組および福井県労連は昨年12月福井県知事・福井市長・坂井市長へと申し入れを行い、①地裁判決の趣旨を周知させ従業員の健康と安全確保について徹底させること②化学物質の取り扱いについて環境への漏出を防止することは勿論のこと、職場での取り扱いについても指導と監督について強化徹底を図ることを要請しました。またテクノポート福井企業協議会には化学物質の曝露防止対策をはじめとする労働衛生対策などの取り組みを推進することを要請しました。坂井市については市長が直接面談し企業による公害防止協定の遵守や労働者でもある市民の健康を守ることの重要性を認識していることを示しました。

支援する会では、真摯に対応をしようとしない会社だけに目を向けるのではなく、地域など行政や機関への働きかけを今後も定期的に進めていくことが確認されています。

2.職業性膀胱がん患者 F さんを支援する会

昨年4月に結成された支援する会は9回の打ち合わせを行い裁判の進行協議や支援活動について検討を重ねてきました。裁判では久永直見先生が追加意見書で中国での労働環境の劣悪さ、当該工場で取り扱われた可能性がある化学物質について、当該工場では芳香族アミン構造のものを使用していないとしているがアゾ染料の使用が判明しており事実に反することなどを上げ、発がん性に関する有害情報が欠如したまま劣悪な労働環境で有害物質へのばく露を受け非喫煙者であるにもかかわらず若年で膀胱がんの発症に至ったと推定する合理性が十分あると主張をしています。

今後双方の証人を確認していきますが、国側証人として当該会社から候補が上がっていた方は Fさんの作業をまったく知らない人でしたがその後退職したとのことで確定していません。

現在、化学物質による職業がんの労災認定には化学物質の特定や発がん部位、ばく露の証拠、因果関係の蓋然性が求められていますが、被災者側には非常に高い壁になっています。何年も前の海外での作業の正確な記録や証拠が殆どないこと、調査しようにも費用と労力がかかりコロナ禍では一層の制約があることを考慮すればそのような因果関係の組み立ては被災者救済の立場に立っているとは到底言えるものではありません。喫煙歴もない若者が膀胱がんを発症し業務でアゾ染料など有害化学物質を扱う作業に従事したのであれば職業がんの疑いが非常に高いと考えるのが無理がなく被災者救済の立場に立った考え方であると言うべきでしょう。

2.建設労働者の上顎がん

木材粉じんなどへのばく露で上顎がんを発症した建設労働者の労災請求については再審査請求の公開審理が昨年9月22日にあり、北原照代先生の意見書が提出され大阪職業病対策連絡会藤野ゆき先生と私が代理人として証言しました。コロナ禍での WEB 審理となりましたが、当時のばく露状況と被災者の様子を良く知る配偶者の証言が採用されていないこと、それによれば木材粉じんへのばく露が認められ体調も芳しくなかったとされることなどを取り上げ奥さんの証言の重要性を訴えました。

3.ガラス繊維へのばく露からの気管支喘息

ガラス繊維の取り扱いで喘息症状を患った労働者の労災申請事案は再審査請求の公開審理が12月20日に開催され、被災者本人と化学一般合同労組大塚偉介委員長と私が代理人で出席し当該作業から外れたことで症状が好転したこと、ガラス繊維の加熱工程で有毒ガスの発生とばく露がありこの件は今までまったく調査されていないことが判明したため慎重に調査・検討を要請しました。

4.非正規労働者の相談

京都の派遣労働者がメッキ会社の洗浄作業を依頼されたがフッ化水素酸等様々な有害物質の取り扱いがあり臭気が酷く他の人は逃げていくとのこと。SDS に書かれた対策を取るよう訴えると契約解除されました。人を変えて危険作業をさせていくのでしょうか。