違法な石綿(アスベスト)含有品の流通・輸入は珪藻土バスマットだけの問題ではない、全面禁止の履行確保は未解決の課題(2020.12.22、2021.1.25更新)

珪藻土バスマット等の石綿含有事例発覚相次ぐ

日本は、2004年10月1日からアスベストの「原則禁止」を実施し、2006年9月1日からネガティブ・リストからポジティブ・リストへの転換、規制対象の石綿含有率1%超から0.1%超への拡大等が図られ、その後ポジティブ・リストを減らしていって2012年1月25日に「全面禁止」を実現した。詳しくは「2012年石綿(アスベスト)全面禁止を達成、ノンアス社会実現に一歩-既存石綿・履行確保・分析方法等が課題」

にもかかわらず、2020年11月27日、12月4日、12月15日、12月22日…と相次いで厚生労働省から、「石綿(アスベスト)含有品の流通とメーカー/販売者による回収について」発表されている。

2020年11月27日「石綿(アスベスト)含有品の流通とメーカー等による回収について」公表

インターネット販売や大阪府貝塚市のふるさと納税返礼品として流通していた(株)堀木工所(大阪府貝塚市)製造のCARACOバスマット(LARGE、SLIM、COMPACT)に、石綿がその重量の0.1%を超えて含有していることが判明した。

これは、禁止対象拡大実施前の2001年に購入し、在庫として保有していた成形品(繊維強化セメント板に珪藻土を混ぜた成形板)を原料として、2016年から製造した珪藻土バスマット・コースターだった。原料の製造元は段谷産業株式会社(福岡県北九州市)で2002年に自己破産しており、段谷産業による成分表示は「珪藻土、パーライト、セメント、パルク」とあったが、貝塚市が分析したところ石綿が検出されたという。関西労働者安全センター記事参照石綿ばく露作業による労災認定等事業場データベースで検索した結果、段谷産業株式会社の元労働者一人がアスベストが原因の中皮腫で労災認定されていることが判明している。

同日付けで関係団体に宛てて発出された基安発1127第1号「石綿含有製品等の製造、輸入、譲渡、提供又は使用の禁止の徹底について」は、「同種事案」として、主に「[禁止対象が石綿含有率1%超から0.1%超に拡大された]2006年8月31日日以前に購入若しくは製造し又は譲渡・提供を受け、在庫として所有している工業製品又は原料であって、石綿含有の可能性があるもの」を想定して、0.1%超石綿を含有していないかの点検を求めている。

なぜなら、堀木工所の事例の前にも、以下のような「同種の事例」があったからである(同通達の(参考))。

① 2006年8月以前に購入し、在庫として保有していた石綿含有の建設機械・車両等機種用のエンジン等のガスケット、パッキン等について、2006年9月から2015年7月までの間出荷していたことが判明したもの。(事業者において2020年9月に事案を公表済)
これは三菱重工業相模原製作所の事例であり、2020年9月2日に「建設機械等のエンジン用アスベスト含有補修用部品の出荷に関するお詫びとお知らせ」が公表されている。

② 2006年8月以前に購入し、在庫として保有していた石綿含有の建設機械エンジン用等のガスケットについて、2006年9月から2019年10月までの間出荷していたことが判明したもの。①の事案の公表を踏まえ、事業者において自主的に点検を行ったところ、本件が発覚したもの。(事業者において2020年11月に事案を公表済)
これはコマツの事例であり、「建設機械エンジン用等のアスベスト含有補修用部品の不適切な出荷について」が公表されている。

それに続いた堀木工所の事例では、珪藻土バスマット等の原料として繊維強化セメント板に珪藻土を混ぜた成形板を使っていたということがやや意外ではあったかもしれないが、他にも「同種事案」がある可能性があると厚生労働省に思わせたようだ。

通達では、「<表1>石綿を含有する可能性がある石綿の表記がない建材及び類似品の例」として、「繊維強化セメント板、パルプセメント板、珪藻(けいそう)土保温材、塩基性炭酸マグネシウム保温材、けい酸カルシウム保温材、バーミキュライト保温材、パーライト保温材、屋根用折板裏断熱材、煙突用断熱材、スレート、スラグ石こう板、けい酸カルシウム板第1種、けい酸カルシウム板第2種、ロックウール吸音天井板、タルク」をあげた。これらの「建材等」やガスケット、パッキン等については、石綿含有の有無をチェックすることが当然と言うことである。

加えて、輸入建材等が原料として使用されているケースもあり得ると想定してだろうが、「海外から輸入した建材及びその類似品(表1に列記する材料を使用して製造された建材以外の製品を含む。)並びにそれらの原料については、輸入時期に関わらず、特に石綿等の輸出が禁止されていない国から輸入したものについて、使用・販売前に石綿がその重量の0.1%を超えて含有していないかの点検を行うこと」も指示した。

厚生労働省は、関係業界に一斉点検を求めるとともに、現在流通している同種の製品に石綿(アスベスト)が含まれているものがないかサンプルを買い取って分析を行う取組を進めるとした。

2020年12月4日「石綿(アスベスト)含有品の流通とメーカー等による回収について(第2報)」公表

これは、堀木工所が製造・販売した別の製品(エコ・ホリン(消臭・調湿材))にも、石綿含有が確認されたバスマット、コースターと同じ原材料から製造されていたことを公表したものだった。流通数(販売済み数)は3,020枚とのことである。

2020年12月15日「石綿(アスベスト)含有品の流通と販売者による回収について」公表

株式会社カインズ(埼玉県本庄市)が販売する複数の珪藻土バスマット等に石綿が含まれていることが判明した。同社から厚生労働省に報告がったもので、中国で製造されたものだという。17製品約29万個の製品が対象ということだった。

2020年12月22日「石綿(アスベスト)含有品の流通と販売者による回収について」公表
2020年12月25日「石綿(アスベスト)含有品の流通と販売者による回収について」公表

その1週間後の12月22日には、ニトリホールディングス(北海道札幌市)の販売する珪藻土コースター・バスマットにも石綿が含まれていることが判明した。やはり、中国で製造されたものだとのこと。12月25日には、「ニトリホールディングスに関する第2報」が公表されたものである。ニトリホールディングス自体は12月26日に「第3報」も公表、年明けに一部更新もしている。20種類以上の製品、350万個をこす大規模なリコール事件に発展した。

2020年12月28日「石綿(アスベスト)含有品の流通と販売者による回収について」公表
2021年1月15日「石綿(アスベスト)含有品の流通と販売者等による回収について」公表

2月28日には、不二貿易株式会社(福岡県北九州市)が中国から輸入した珪藻土バスマットにも石綿含有の可能性があることが判明したと発表された(11種類23,658個の製品)。ヤマダ電機、ダイレックス、グッディ、イズミ、三喜、ハンズマン、ルームプラス、しまむら等で販売されているものだとのこと。
さらに年が明けて1月5日には、同じく不二貿易株式会社が輸入し、株式会社ワッツ(大阪府大阪市)が販売する、別の珪藻土マット等(5種類5,595個の製品)にも石綿含有の可能性があることが判明し発表された。

2021年1月20日「石綿(アスベスト)含有品の流通と販売者による回収について」公表

1月20日には、エイベクト株式会社(鳥取県米子市)が中国から輸入した珪藻土トレーにも石綿が含まれていることが判明したと発表された(1種類31個の製品)。

すでに前代未聞の規模のリコール事件になっているが、今後も、関係業界による一斉点検や厚生労働省による流通している同種製品のサンプル分析から、新たな事例がみつかる可能性がある。

バスマット等の珪藻土製品の事例が相次いだことが注目されているが、違法な石綿(アスベスト)含有品の流通・輸入は珪藻土バスマットだけの問題ではないことを強調しておきたい。カインズの事例の石綿含有の原因はまだ公表されていないが、伝え聞くかぎりでは堀木工所と同様の事情があった可能性が高い(中国ではいまも石綿は全面禁止されていない)。珪藻土そのものに石綿が含まれていたということではない

何よりも、違法な石綿(アスベスト)含有品の流通・輸入が発覚したのは、今回が初めてのことではないということである。

※参考「世界のアスベスト(石綿)事情(2020.12)」
※参考「中国のアスベスト(石綿)事情(2020.12)」

繰り返される違法な石綿含有品の流通・輸入

厚生労働省の報道発表資料から拾ってみただけでも、以下のような事例が確認できる。

2004年7月2日「左官用モルタル混和材中の石綿の含有について」公表

市販されている蛇紋岩系モルタル混和材について、「無石綿」、「ノンアスベスト」等と表示された商品の中に、相当量の石綿を含有するものがあることを明らかにした。「原則禁止」実施の直前であったが、当然適用対象になるものであった。

石綿含有モルタル混和材については、2005年夏のクボタショック後に日本建築仕上材工業会がそのウエブサイトに「アスベスト含有塗材情報」のページを設けて情報提供を行っているが、会社名・製品名等を含めた情報がなくなってしまったために、本ウエブサイトで情報を提供しているところである。

2005年9月20日「石綿含有部品を使用する自転車及び自転車用ブレーキの輸入販売の実態に係る調査結果について(第1回報告)」公表 
2006年10月17日「石綿含有部品を使用する自転車及び自転車用ブレーキの輸入販売の実態に係る調査について(第2回報告)公表

ブリヂストンサイクル(株)販売の幼児用自転車の一部に中国から輸入した石綿含有バンドブレーキ(後ブレーキ)が使われていることが判明。
厚生労働省等は社団法人自転車協会、社団法人日本ドゥ・イット・ユアセルフ協会、日本チェーンストア協会の3団体に調査協力を依頼。第2回報告の時点で337社中278社から回答があり、3団体の会員ではない1社ヲ含めて33社から石綿含有部品を使用した疑いのある自転車等の輸入販売の実績があると報告があったとのこと(輸入台数約29.0万台、販売台数が約24.7万台)。今後も情報収集を継続した上で新たに判明した事実については適宜公表とされたが、それ以後の発表はない。

2006年10月6日「接着剤原料への石綿含有可能性調査結果について」公表
2006年11月1日「接着剤原料への石綿含有可能性調査結果について(第2回報告)」公表

セメダイン(株)製造の接着剤に石綿が含有されていたことを受け、日本接着剤工業会に調査協力を依頼。176社すべてから回答があり、6社が石綿を含有している可能性のある原料を使用した接着剤の製造を行った実績があると報告があった。6社が使用していた原料に類似したものを使用している企業が19社存在していることが判明、全社が使用している原料に石綿を含有していないことについて第三者機関の証明を有しているが、再分析の必要性についてもチェックしているところ、今後も情報収集を継続した上で新たに判明した事実については適宜公表とされたが、直接の続報はない。

2006年10月16日「タルクへの石綿含有可能性調査結果について」公表

石綿を含有するタルクが製造されている可能性があるとの情報を受け、厚生労働省がタルクの製造を行っている33事業場に対して緊急調査を実施。その結果、1事業場-松村産業(株)大阪工場(大阪市)-において、石綿を含有するタルクが製造されていたことが判明した。

2007年1月19日「タイルメント販売の石綿含有接着剤について」公表

(株)タイルメントの生産子会社(イイヅカタイルメント)が製造、同社が販売していた接着剤の一部に石綿が含まれていることが確認された。同様の問題が他社でも存在しないか確認するため日本接着剤工業会に実態把握を行うよう指示したとしているが、その結果の公表はない。

2007年2月20日「西日本旅客鉄道株式会社におけるアスベスト含有製品の使用について」公表
2007年5月25日「鉄道事業者のアスベスト含有製品の使用状況の調査結果について」公表

西日本旅客鉄道株式会社が、鉄道車両に使用したガスケット等の一部に、アスベストが含有していることを確認したという発表。
次の発表は、厚生労働省は西日本旅客鉄道株式会社を除く全国203の鉄道事業者に実態把握を要請し、その結果が公表されたもの。実態把握の結果、32の鉄道事業者においてアスベスト含有製品を新たに使用していたことが判明した。

2007年3月16日「ナブテスコ株式会社におけるアスベスト含有製品の使用について」公表

ナブテスコ株式会社の納入した製品、部品の一部に石綿含有製品が使用されていたことが判明。同社の報告によると、使用されたアスベスト含有製品は、同社の鉄道車両用部品、航空機用修理部品、建設機械用機器等に使用されるガスケット、パッキン計2,212個とされた。

2009年12月25日「石綿含有自動車関連部品に係る自主点検の要請について」公表
2010年2月12日「石綿含有製品等の製造、輸入、譲渡、提供又は使用の禁止の徹底について~関係事業者団体に改めて要請~」公表

ヤマハ発動機(株)グローバルパーツセンター(静岡県袋井市)が、台湾で製造され石綿を含有するバイク用のブレーキパッド及びブレーキシューを輸入し、国内のバイク販売店等に販売していたことが判明した。また、日野自動車㈱青梅部品センター(東京都青梅市)が、国内で生産された石綿を含有するトラックエンジン用のガスケットを、国内販売会社に販売していたことも判明したことから、厚生労働省は、(社)日本自動車工業会及び(社)日本自動車車体工業会に対して自主点検を要請した。

この結果、スズキ(株)湖西工場(静岡県湖西市)において、二輪車用の部品として石綿を含有するブレーキシュー、クラッチシュー及びガスケットを中国から、四輪バギーの補充部品として石綿を含有するガスケット等を台湾から、それぞれ輸入していたことが判明。その他にも、、設備工事業者(会社名未公表)が石綿含有製品を違法と認識しながら扱っていた事案が判明したことを発表したのが、後の方の発表である。

2010年9月9日「再生砕石に混入するアスベスト対策について(お知らせ)」公表
2010年12月24日「再生砕石に混入するアスベスト対策のパトロール及び立入検査の実施結果等について(お知らせ)」

石綿を含む建設資材廃棄物が混入した再生砕石が使用されている事案が明らかになったとの一部新聞報道等があったことを受け、厚生労働省、国土交通省及び環境省の3省において、再生砕石への石綿含有産業廃棄物の混入防止の徹底についてあらためて周知した。
また、都道府県、労働基準監督署等が再生砕石へのアスベスト含有建材の混入防止を図るため、解体現場及び破砕施設へのパトロール等を実施し、結果が報告されたもの。以降もパトロール等が実施されてはいる。

2011年1月27日「石綿含有製品等の製造、輸入、譲渡、提供又は使用の禁止の徹底について~関係事業者団体に要請~」公表

中国から輸入して、主に学校に販売していたセラミック付き金網(上にフラスコ、ビーカー等を載せてアルコールランプ、バーナー等で熱するためのもの)のセラミック部分に石綿が混入していたことが判明した。事業者が外部からの指摘を受けて成分を分析して判したとされるが、事業者名等は公表されていない。

なお、「石綿の製造等が完全に禁止されていない国等からの輸入品に石綿が混入していた例」として既述の「二輪車用ブレーキシュー等(平成2009年12月)」、「二輪車用ガスケット等(2010年2月)」に加えて、「農業機械用パッキン(2010年5月)」(中国から輸入したパッキンを組み込んだ農業機械を製造、販売していたところ、当該パッキンに石綿が混入していた)が紹介されているが、最後の事例についての報道発表資料はみあたらない。

2016年12月2日「鉄道事業者に対し鉄道車両で使われる石綿製品の把握を要請します」公表

鉄道車両における心皿ブッシュ等に石綿を含有することを把握できないままリサイクルにより転売等した事案が2016年9月に発覚したことを契機に、複数の鉄道会社で同種事案(鉄道車両を処分するに当たり、鉄道会社からの石綿が含有しないとの誤った情報により、解体業者が、石綿含有断熱材(アンダーシール)が使用された鉄道車両の切断等を行ったもの、線路沿いに設置する防音壁に石綿が含まれていたが、それを把握できないまま、廃棄処理を行ったもの)が発覚した。

以上のように、違法な石綿含有品の流通・輸入事例の発覚が相次いできた。全面禁止の履行確保は未解決の課題だということである。

以前、全面禁止の履行確保のための課題をまとめたことがある。このときは、相対的に一般には気づきにくく困難かもしれない課題-①「再生砕石」へのアスベスト混入、②外国産鉱物、③国内産鉱物、④汚染土壌・地域、⑤廃棄物の問題をあげた。これらはすべて現在の課題でもあり、とりわけベビーパウダー等に使用されるタルクのアスベスト含有問題については、適切な分析方法が未確立なままである。

しかし、以上見てきたように現実に起こったのは、相対的に気づきやすく容易な問題-少なくとも石綿問題に一定理解のある者なら石綿含有の可能性を疑うことが当然の問題のほうが多かった。珪藻土ガスマット等も、成形板等を原料とするのであれば同様である。

堀木工所の事例のような、禁止実施前に製造された石綿含有品在庫の使用はそれなりに限定的かもしれないが、石綿が全面禁止されていない中国等からの石綿含有品の輸入はさらに繰り返される可能性があろう。輸入をめぐる問題について、毎日新聞が重要な報道をしたことがあるので、以下にあらためて紹介しておきたい。

違法な石綿含有品の輸入をチェックできていない

毎日新聞2017年5月6日「税関 石綿の輸入許可 原則禁止後 計8件 大阪など」

「労働安全衛生法で輸入が原則禁止されているアスベスト(石綿)含有と明記された輸入申告を、東京、大阪、神戸の3税関が2012~16年に計8件、許可していたことが分かった。8件全てで、許可後に輸入者が石綿含有品ではなかったと訂正していたが、大阪税関は現物を確認していないことを認め、他の2税関は現物を確認したかどうかを明らかにしていない。深刻な健康被害を起こす石綿の輸入が見逃されかねないずさんな実態が浮かんだ。」

全国労働安全衛生センター連絡会議事務局長でもある石綿対策全国連絡会議の古谷杉郎事務局長の「石綿が入っていると明記しているのに輸入を止められないなら、いくらでも輸入できてしまう。税関のチェックが十分なのか検証が必要だ」というコメントも紹介されている。

毎日新聞2017年5月6日「石綿輸入許可 税関、情報開示後ろ向き 審査の内容不明」

「石綿を輸入したとすれば、労働安全衛生法に違反する上、作業従事者の健康被害を招く可能性がある。毎日新聞の指摘を受けた厚生労働省が税関を管轄する財務省に問い合わせたところ、『実際には石綿ではなかった』と回答があったという。品目や許可の経緯などは不明なままで、厚労省も輸入者への確認まではしなかった。」

毎日新聞2017年6月9日「石綿輸入 税関職員「全ての輸入禁止、把握しきれず」の声」

「輸入申告8件を、東京、大阪、神戸の3税関が見逃して許可した可能性が強まった。背景には、税関の現場が日々大量の輸入申告の処理に追われ、水際のチェック体制が機能していない実態がある。」

毎日新聞2017年6月9日「石綿輸入 3税関、取材後に訂正 業者に働きかけか」

「輸入申告8件を許可していた問題で、すべてのケースで毎日新聞の各税関への取材後に輸入者から別の品目への訂正願が出されていたことが分かった。3税関は審査のミスを認めていないが、毎日新聞の取材で税関側が審査の不手際に気づき、輸入者側に働きかけて訂正願を提出させた疑いが浮上した。」

毎日新聞2017年6月9日「石綿輸入 衆院環境委で財務省が答弁『必要な検査行った』」

「税関を所管する財務省の藤城真審議官は9日の衆院環境委員会で『必要な検査を行い、石綿が含まれていないと判断して許可した』と答弁し、審査ミスを認めなかった。大阪税関は毎日新聞の取材に対し、実物を確認していないことを認めている。
一方で、石綿と明記された書類のまま輸入を許可したことについては、木原稔副財務相が『大変遺憾で、再発防止に努める』と述べた」。

違法な石綿含有品であると申告された輸入を税関がノーチェックで認めてしまっていた。毎日新聞が情報開示請求を含めた調査を開始するとすぐに、すべての輸入業者がそろって「実は石綿含有品ではありませんでした」と訂正申告を行っていた-いかにも不可解で、スキャンダルと考えざるを得ない。

誰がいつどのように「必要な検査を行って、石綿が含まれていないことを確認」したのか、また、「再発防止」のための具体策も明らかにされていない。

このような状況では、カインズ等の事例のように、輸入者・輸出者とも石綿含有品であると申告していなければ、ノーチェックで輸入されてしまっていて不思議ではない。

違法な石綿含有品輸入禁止の履行をいかに確保するかは、禁止を導入している国すべてにとって共通の課題である。
オーストラリアの経験を紹介したい。

オーストラリアの違法輸入阻止のための努力

2016年8月25日にABCニュースは以下のように報じた。
「アスベスト 安全根絶機関(ASEA)は、今年初めアデレードでの輸入建材からのアスベストの発見を『氷山の一角』と評した。
それ以来数か月のうちに、ブリスベンとパース、そしてアデレードで別の事例が発覚した。そして、[西オーストラリア州]ポートピリーの5億6,300万ドルかけた精錬所再開発現場でもアスベスト含有製品がみつかったという発表を受けて、いまやASEAの懸念は確実なものとして現われた」。
「中国では、アスベストは違法ではなく、実際に『アスベスト・フリー』製品であっても5%までのクリソタイル、別名白石綿を含有することが認められている。
オーストラリアの企業は購入しているものは『アスベスト・フリー』だと聞かされたかもしれない-しかし、それは中国の基準によるものであり-われわれのものではない」。

これ以前から同様の報道が相次いでいて、大きな社会問題になり、オーストラリアの関係機関は様々な対策を取るに至った。

移民国境警備省(DIBP)は2016年9月8日付けの通知で、「輸入者が、オーストラリアに輸入する物品がアスベストを含有していないことを、オーストラリア国境警備隊(ABF)に対して提供及び証明する必要がある」ことを強調した。オーストラリア試験所認証機関(NATA)または同等の国際的認証機関による証明を必要としている。

移民国境警備省(DIBP)もそのウエブサイトに「アスベスト」のページを設けて、詳しい説明を付けて同様の手指を徹底するとともに、「アスベスト輸入レビュー」を委託した。

公表された「アスベスト輸入レビュー報告」は、アスベスト国境管理についてのDIBPの運営の有効性を検証して、違法な石綿及び石綿含有品の輸入・流通を阻止する最良の実践のための勧告を行った。

また、アスベスト安全根絶機関(ASEA)、オーストラリア競争消費者委員会(ACCC)、移民国境警備省(DIBP)、SafeWork南オーストラリア、SafeWorkオーストラリア、SafeWorkニューサウスウェールズ、職場安全衛生クイーンズランド、SafeWorkオーストラリア首都特別行政区、NT Worksafe、WorkSafeタスマニア、WorkSafeビクトリア及びWorkSafe西オーストラリアからなる「職場安全機関首脳会議(HWSA)」が「HWSA輸入アスベスト物質作業グループ-緊急対応協定」を結んでいる。

率直に言って、輸入品のすべてを公的機関がチェックすることは現実的とはいえず、簡単に決定打をみい出せないなかで、関係機関各々及び連携した努力を通じて最善の実践をしようという努力が感じられる。

努力はその後も持続され、2017年11月22日にはオーストラリア上院経済参考委員会が「不適合建材 中間報告:アスベストの脅威からのオーストラリアの人々の保護」をまとめ、26項目にわたって勧告を行ってる。ちなみにここでは、オーストラリア当局によって石綿含有品の輸入がみつかった相手国のひとつとして、日本の名前もあがっている。

さらに、オーストラリア内務省と雇用労使関係省は、2019年3月27日から、違法なアスベスト輸出入に最高5年の懲役を課すことにした。雇用労使関係大臣は、「規則を強化することによって、われわれは輸入者に強い、明解なメッセージを送っているのである-われわれがアスベストの輸入を大目に見ることはないと」と述べたと伝えられている。

日本も禁止の履行確保の最善の努力が必要

今回のカインズや過去の事例も踏まえて、日本も、違法な石綿含有品の輸入・流通を阻止し、禁止の履行を確保するための最善の努力をする必要がある。

石綿含有製品を輸入した企業は「知らずに違法品をつかまされた被害者」ではなく、「石綿含有のチェックを怠った違法輸入・販売業者」として対処されるべきである。また、違法行為を行った企業として、謝罪及び説明等の責任を真摯に果たすべきである。

※日本が石綿(アスベスト)禁止を実現するに至った経過/歴史を知るには「アスベスト問題の過去と現在-石綿対策全国連絡会議の20年」
※参考「アジア・世界におけるアスベスト(石綿)禁止のための取り組み-安全センター情報バックナンバー(随時更新中)」
※参考「世界のアスベスト(石綿)事情」
※参考「中国のアスベスト(石綿)事情」