全国安全センターの厚生労働省交渉(2021.7.20):労働安全衛生・労災職業病に関する要望書

冒頭あいさつする平野敏夫・全国労働安全衛生センター連絡会議議長、左側が厚生労働省代表

全国労働安全衛生センター連絡会議議長(全国安全センター)は2021年7月20日、以下の「労働安全衛生・労災職業病に関する要望書」に基づいて、厚生労働省及び総務省と交渉を行った。

以下の各項目(目次ではなく要請事項本文の項目)をクリックすると、事前の文書回答及び交渉におけるやりとりの内容を確認できる(※やりとりの内容は順次追加しているところです)。

冒頭のやりとりを以下に記録しておく。

全国安全センター・飯田:定刻ちょっと前ですけれども、ほぼ皆さんそろわれましたので、始めさせていただきたいと思います。
本日はお忙しい中、全国労働安全衛生センター連絡会議と厚生労働省の皆さん、ならびに後ほど総務省の方もみえられる予定ですが、交渉、意見交換の場にご出席いただきありがとうございます。まずは、この場を準備していただいた阿部知子衆議院議員のほうから一言、ご挨拶をいただければと思います。よろしくお願いします。

阿部知子衆議院議員:あらためまして、本当に皆さん、暑い中、お疲れ様です。この全国労働安全衛生センター連絡会議は長い歴史があって、労災のことならここにと、アスベストもそうですし、じん肺もそうです。いろいろな問題をたんねんに掘り起こしながら、やってこられた団体ですので、皆さんにとっても、まあいろんなことを聞かれて面倒だなと思われるかもしれませんが、ぜひ糧にして、よい労働安全行政に結実させていただきたい。若い皆さんにはすごく期待をするものですので、よろしくお願いします。

全国安全センター・飯田:申し遅れましたけれども、私、全国労働安全センター連絡会議の事務局次長をやっております飯田と申します。所属は東京労働安全衛生センターです。いつもお世話になっております。よろしくお願いいたします。
さて、議長の全国安全センター・平野敏夫のほうから、簡単に挨拶と要請書をお渡ししたいと思います。

全国安全センター・平野:お疲れ様です。全国安全センター議長の平野と申します。亀戸ひまわり診療所で医者をやっております。今日はお忙しい中、こういう要請の場を持っていただきありがとうございます。この1年間、コロナ、コロナで大変、たぶん皆さんもおそらく忙しかったし、いまも忙しいことと思います。コロナの労災申請もかなり件数が増え、認定件数も増えてますし、一方で、最近メディアではコロナによって解雇・雇止めが11万人なんていう数字も出ていますし、そういった意味でも労働現場は非常に大変な状況になっています。
私たちも日頃、地域の安全センターでは労働組合等々と一緒に、現場でいろいろと運動をしていっています。最近ではコロナもありますけど、後で要請書にもありますけど、職場における化学物質の新しい自主管理という検討課題も出てきてますし、いろいろな新しい動きもあります。また、コロナによってテレワークの広まりでいろんな問題も出てるということで、まあまあ、相変わらず労働現場は非常に大変な状況にあると思います。
今日はそういう中で、私たちが日頃、現場でいろいろやっている中での問題提起等々、要望書に書いてありますので、ぜひ実りあるお話をしたいと思っています。
話が変わりますけど、先ほど皆さん来られて、阿部さんからもありましたが、若いですよね。こちら側を見ると何か、おじいさんの世代じゃないかというところがありますが、いま言われたように、私たちは本当にもう30年40年、現場で、労働組合で、被災者と、こう、やってきてるんですよ。だから本当に、今日はいろんなこと、言いますけど、別に皆さんと喧嘩するために来たわけじゃないので、やっぱり30年、40年の経験って大きいので、これから日本の労働行政を担う皆さんにしっかり聞いていただきたいと思います。よろしくお願いしたいと思います。どうもありがとうございます。

労働安全衛生・労災職業病に関する要望書

A. 労働安全衛生について

1. ILOの「仕事の世界における暴力とハラスメント条約」について

(1)政府がILO条約の批准を目指す立場を明確にすること。
(2)ILO条約を批准するために必要な法改正に向けて、具体的な課題や日程について明らかにすること。

2. ハラスメント対策に関する「労働施策総合推進法」等の施行について

(1)パワーハラスメント対策に関する指針に基づくパンフレットについて、ハラスメント被災者や実際に相談を受けている労働基準監督署等の職員らの意見も取り入れて改訂すること。
(2)2019年度(令和元年度)の精神障害で労災認定されたもののうち、「(ひどい)いじめ、いやがらせ又は暴行を受けた」が79件、「上司とのトラブルがあった」が21件、「セクシュアルハラスメントを受けた」が42件に上る。業務上決定件数509件中142件であり、ほぼ3割占めている(なお、特別な出来事にもハラスメントが含まれている)。このような膨大かつ詳細な事例を厚労省は把握していることから、パンフレットには、できるだけ例示するよう改訂すること。
(3)ポータルサイト「あかるい職場応援団」や「パワーハラスメント対策導入マニュアル」を紹介する内容をパンフレットに追加すること。
(4)各監督署にパンフレットを十分に配布するとともに、アスベストのように何度も新聞広告で紹介したり、インターネットを活用した広告宣伝を行うこと。
(5)毎年、厚労省雇用環境・均等局は「個別労働紛争解決制度の施行状況」を発表している。しかし「いじめ・嫌がらせ」の相談件数、助言・指導の申出件数、紛争調整委員会によるあっせんの申請件数は明らかにされているが、その後どのようになったのかは不明である。合意成立、不調、決定書通知、取り下げ等などの件数や内容を明らかにすること。
(6)セクシュアルハラスメントについては、事業主に防止措置義務が課せられている。にもかかわらず、都道府県労働局には年間約7000件の相談が寄せられている。そのうち、事業主が助言・指導を受けいれた件数や内容、調停不調・取り下げとなった件数や内容を明らかにすること。

3. 過重労働による健康防止対策について

(1)治療中や障害者に対する労働者への使用者の配慮が十分ではないために、病気や障害を理由に退職を余儀なくされたり、そもそも健診を受けなかったり、その後の治療状況を会社に正確に報告できないことが少なくない。事業主や人事労務担当者らが利用する「産業保健総合支援センター」や「地域産業保健センター」ではなくて、労働者の相談に具体的に応じる「産業保健労働者相談センター」(仮称)を設立すること。

4. ストレスチェック制度について

(1)ストレスチェック制度が実施されて5年になる。この間も精神障害の労災請求は増え、認定件数も減っていない。この5年間におけるストレスチェック制度による成果について、どのように評価、総括しているのか明らかにすること。とりわけ集団分析による職場改善の実施状況について、どの程度把握しているのか明らかにすること。
(2)ストレスチェックによる集団分析とそれに基づく職場環境改善を義務化すること。

5. じん肺管理区分の審査について

(1)芦澤研究班による「じん肺の審査規準および手法に関する調査研究」2018年度報告書に、デジタル撮影によるじん肺標準エックス線写真集の検討結果が報告されている。研究班の検討では、標準写真の0/1が1/0、1/1、1/1が1/2と読影されている。12分の1ずつ重い読影になっている。これまでじん肺管理2である被災者が、標準写真では管理1と判定されていたことは大問題である。この報告についてどう総括し、以後のじん肺管理区分診査にどう反映されているのか明らかにすること。
(2)芦澤研究班による「じん肺エックス線写真による診断制度向上に関する研究」2019年度報告書によれば、じん肺標準エックス線写真の新たな写真の追加を含めた改訂が検討され、追加の症例の写真も掲載されている。2011年度版の標準写真の大きな誤りを考えると、改訂にあたっては研究班だけではなく、日本産業衛生学会などにおいても専門家と協議すること。

6. 化学物質対策について

(1)2021年1月18日に公表された「職場における化学物質等の管理のあり方に関する検討会中間とりまとめ」を受けた化学物質管理対策見直しにおいて、(暫定)曝露限界値を下回る場合であっても、優先順位の考え方に基づいたリスク低減措置の検討・実施を義務付けること。
(2)安全衛生規則の衛生基準における一般的義務規定の内容を、リスク低減措置の優先順位の考え方に沿って見直すとともに、常により優先順位の高い措置をめざすべきであることを明定すること。
(3)現在、「職場における化学物質等の管理のあり方に関する検討会」で提案されている特別則を廃止するという方向性に反対する。特定化学障害予防規則や有機溶剤中毒予防規則に「新たな物質の追加はしない」とする方針は採用せずに、積極的に物質化の追加を行うこと。
(4)「遅発性の健康障害」であるか否かに関わらず「新たな」及び/または「隠れた」職業病の「把握」及び「再発の防止」のための取り組みを進めるべきである。また、そのためには安全衛生・労災補償両部署の緊密な連携が不可欠であるとともに、様々な取り組みを組み合わせて効果を上げる努力をするしかないものと考えられ、国等による情報収集、調査研究等に加えて、以下を含めること。
① がんに限定せずに同一職場で同一疾病の罹患者が複数生じた情報を把握して、調査等を行う仕組みをつくることは賛成であり、(特殊)健康診断結果を活用する仕組みについても検討するべきである。
② 多発事案に限定せず、最近のジアセチルによる閉塞性肺疾患のような認定事例や労働基準局報告例規「補504」で「新しい疾病」または「がん」として報告された事例等を系統的に公表・周知すること。
③ ジアセチルによる閉塞性肺疾患の労災認定ついて、今年6月7日付けで厚労省化学物質対策課長と補償課長の連名による「ジアセチル(別名:2,3-ブタジオン)による健康障害の防止対策及び労災保険制度の周知について」通達を出し、都道府県労働局に対し、ジアセチルによる閉塞性呼吸器の労災認定の周知を行い、日本香料工業会に対しては、ばく露低減対策の指導、労働者及び退職者への健康被害の把握を指示したことは評価できる。これまでジアセチルにばく露した労働者、退職者への健康調査を実施すること。
③ 情報提供や助言等を行う医師をはじめ専門家のネットワーク、及び、労使・医療関係者等からの相談を受け付ける窓口を設置するとともに、後者に寄せられた相談について前者の助言を求めるなどの仕組みをつくること。
④ 臨床現場における職歴聴取の促進とそのデータを活用する仕組みをつくるとともに、日本版Job-Exposure Matrixの構築をめざすこと。
(5)胆管がんに続いて、オルトトルイジン・MOCAによる膀胱がん、アクリル酸系ポリマーよる発症した呼吸器疾患についても、業務上外に関する検討会報告書の公表日までは労災請求の時効は進行せずという取り扱いが示されたが、ジアセチルによる閉塞性肺疾患や将来の同様の事例についても同様の取り扱いとすること。さらに、遅発性の職業病について時効を撤廃または緩和する措置を検討すること。
(6)(5)に列挙した事例等について、労災請求・認定数等に関する情報を継続的に公表するとともに、遅滞なく職業病リスト=労働基準法施行規則別表第1の2に追加するようにすること。

7. 石綿対策におけるアスベストアナライザーの活用について

地方労働局等に配備したアスベストアナライザーについて以下の事項を明らかにすること。
① どこの局に配備したか。
② 各労働局別、年度別での使用回数
③ アスベストアナライザーを活用したことによる成果
④ 今後の活用計画

8. 労働時間の適正な管理について

(1)1か月単位の変形労働時間制度は、労働時間短縮が目的であったにもかかわらず、現状はアルバイト、短時間労働者の労働日数・時間減らしの手段となっている。短時間労働者を同制度の対象とすることを法的に禁止すること。
(2)「テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドライン」(P.11の6~10行目)に記載されているな「なお、申告された労働時間が実際の労働時間と異なることをこのような事実により…同時労働時間を基に賃金の支払等を行っていれば足りる。」は、使用者の労働時間の客観的把握の義務を免除し、申告分の賃金さえ支払っていれば問題ないという誤解と悪用を招く恐れがある。全文を削除すること。

B. 労災補償について

1. 新型コロナウイルス感染症の労災について

(1)新型コロナウイルス感染症の継続する症状について、医学的研究が途上である現状を踏まえると、「治癒」「症状固定」に関する調査のため休業補償給付等の支給を停止する判断は極めて慎重に行うべきである。少なくとも、退院後も継続する症状で療養している場合には、退院して数か月のうちに支給停止する対応は、打ち切りを急ごうとする不当な対応である。支給を停止された被災者は生活に困窮し、「なんのための労災保険制度なのか」との声も被災者から上がっている。継続する症状について労災を積極的に適用する方針を示すこと。
(2)新型コロナウイルス感染症の継続する症状の一つとして、精神障害の発症が指摘されている。そうした症状への対応として、一律に労災認定基準の心理的負荷表をあてはめるのは適切ではない。そのようなあてはめ方では、感染前に職場での長時間労働やクラスター対応にあたったなどの事情が無い被災者の精神症状について、労災補償の対象から外されてしまう危険がある。継続する症状としての精神障害について、労災を積極的に適用する方針を示すこと。
(3)新型コロナウイルス感染症に感染し、入院せずに自宅療養や宿泊療養になった方が休業補償給付の請求を行う場合、休業期間について診療担当者の証明を得られないことがある。その場合労基署では、保健所の就業制限期間証明書によって確認を行っていると聞いている。被災者が請求を諦めてしまうことがないよう、診療担当者の証明を得られなくとも上記のような方法で休業補償の申請が可能である旨を、厚労省ホームページのQ&A(労働者の方向け)に掲載するなど周知すること。
(4)昨年末の時点で、事業者が届け出た労働者死傷病報告が6,041件であるにもかかわらず、労災請求件数はその半分にもとどかない2,657件(認定は1,545件)であった。労災請求件数は2021年に入ってから急増しているが、労働者死傷病報告件数の状況についても可能な範囲で公表すること。いずれにせよ、労働基準監督署段階で両者の状況を突き合わせながら、双方の改善を図るようにすること。
(6)中皮腫、肺がん、じん肺症で労災認定されている被災者が新型コロナウイルス感染症に罹患し、死亡した場合は遺族補償給付を支給すること

2. 精神障害・脳・心臓疾患の労災補償について

(1)2011年12月26日に通知された「心理的負荷による精神障害の労災認定基準」は不十分な点が多いので、以下の点について早急に運用を改め、改正すること。
① 精神障害で療養しながら就労したり、発症したにも関わらず療養に至っていない労働者が過重労働を強いられた結果、より症状を増悪させる事案が後を絶たない。あるいは精神障害を発症した後の心理的負荷については、『特別な出来事』に該当する心理的負荷がない限り労災認定しない現行基準は、発症後も努力して働いた人ほど救済されないことになっている。精神障害発症後の心理的負荷も必ず評価し、その総合評価が『強』の場合はもとより、自然経過を超えて著しく増悪したと認められる場合は業務上決定すること。
② 納得できない「解雇」の心理的負荷の強度は「強」と評価すること。
③ 「退職を強要された」という請求人の主張がほとんど認められておらず、労災認定されない例があまりにも多い。給付担当者は、雇用をめぐる労使関係を理解していないことが原因であると考えられるので、決定に際しては個人労使紛争の相談対応をする職員の協力を得るようにすること。
④ 具体的出来事の「退職を強要された」について、退職の「強要」と「勧奨」を区別する具体的な基準を明らかにすること。
⑤ 「ひどい嫌がらせやいじめ」と考える請求人の事例が、「上司とのトラブル」とされることが極めて多い。その区分の基準を明らかにするとともに説明にすること。
⑥ 「パワーハラスメント」を心理的負荷評価表で類型化するにあたっては、「ひどい嫌がらせやいじめ」から抽出するだけではなくて、「仕事内容・量の大きな変化」、「退職強要」、「配置転換」、「上司とのトラブル」等の中にもハラスメントと考えられる事例も多数含まれているので、的確に分析、整理すること。
⑦ 「顧客からのクレーム」にともなう労災認定事例が多いことなどを鑑み、「パワーハラスメント」ではなくて、「顧客等からの暴行・暴言等」として類型化すること。
⑧ 脳・心臓疾患や精神障害の労災請求に対する労働時間の認定において、監督担当部署と労災担当部署間が連携することは当然である。ただし労働時間が客観的に記録されていない場合や労働時間に基づいて適正に賃金が支払われていない場合ほど、労働時間が未払いの法違反を指導する監督担当部署の視点から過小評価されがちになっている(例えば東京労働局内では、労基署が発症前の時間外労働を「月0時間」と認定して不支給にした事案で、審査請求で時間外労働の認定が「月90時間」以上となり、不支給決定が取り消されている)。具体的には、待機など場所的拘束性が高い場合や、就労場所ではなくても成果物、IT機器の記録などから業務中と判断できる場合は、すべて労働時間として算定、推認すること。
⑨ 和歌山労働局内で、労働時間の認定において、始業時間、終業時間が記録から分かっているにもかかわらず、具体的な日時もはっきりしない関係者の証言や客観的証拠がない部分を労働時間として認めなかった。審査請求で追加の証拠を提出した結果、大幅に労働時間が認められて原処分庁の決定取り消しとなった。客観的証拠を示さなければ労働時間が認められなかった事例が見受けられる。特に審査請求、再審査請求で原処分庁の決定取り消しとなった事案について、このようなずさんな労働時間の把握の運用を点検し、改めること。また情報共有を行うこと。
⑩ 大阪労働局内で、会社の社長が入社1か月の20代の女性社員を、初契約がとれたお祝いと称して連れ出し、酔わせて強姦した事案が業務外とされ、現在審査請求中である。原処分庁の判断は、認定基準のセクシャルハラスメント調査における留意点をまったく考慮せず、さらには当事者のみでの出来事のため事実確認ができないとしてセクシャルハラスメントとして評価しないとした。この事案は、特別な出来事の「本人の意思を抑圧して行われたわいせつ行為」にあたり、早急に原処分庁の決定を取り消すべきである。これまでも当事者しかいないところで起きた出来事として評価されなかった事案がなかったか点検するとともに、そのような運用を改めること。
⑪ 東京労働局内で、パワーハラスメントに関連する精神障害の労災請求において、請求人が提出した録音記録が完全に無視され、当該録音記録と矛盾する会社側関係者の主張そのままの事実認定が行われた事例があった。パワーハラスメントによる労災請求において、録音記録は事実を立証する極めて有力な証拠である。会社側関係者の聴取のみに依拠し、録音記録等の客観的証拠を排除しないこと。
(3)神奈川労働局内で、精神障害の請求について署で本人聴取して特別処理班に任せる署(9署)と、全てを特別処理班で調査している署(横浜北、横浜南、厚木)との間で業務上決定件数があまりにも大きく異なっている。例えば2019年度、川崎南、川崎北では決定件数21件中業務上はたったの1件である。この事実に対する見解を明らかにすること。
(4)厚生労働事務官の長年の新規採用の途絶とそれを補ってきた監督官の異動に伴い、労災保険給付に係る業務の部署において、極めて深刻な人員不足による業務負担とそれに伴う職員の休職、ずさんな調査が多々見受けられるので、ただちに改善すること。

4. じん肺による労災認定について

(1)1986年基発51号通達を改正すること。同通達では、労働者あるいは特別加入者として粉じん作業に従事した期間が、特別加入未加入の期間より3年以上長い場合に、じん肺症または合併症が労災認定される。この通達を「労働者、特別加入期間で10年以上の粉じんばく露作業従事期間があれば、じん肺症、あるいは合併症として補償する」ように改正すること。
(2)じん肺管理区分管理2ないし4の被災者が発症したANCA関連血管炎(顕微鏡的多発血管炎、多発血管炎性肉芽腫症、好酸球性多発血管炎性肉芽腫症)を労災補償
の対象とすること。

5. 振動障害の労災について

振動障害の検査や治療を行っている医療機関等の情報を地方労働局が責任をもって提供すること。

6. 化学物質過敏症の労災認定について

主治医の意見を尊重して速やかに労災認定するとともに、職場(社会)復帰に受けた対策を講じること(現状は年単位の長期にわたる調査の結果、業務外となる事案がほとんどである)。

7. 審査請求制度について

(1)審査請求での口頭意見陳述を合理的に進めるためには、原処分庁への質問を文書で行った場合に、原処分庁に対しても回答を文書で提出させること。
(2)労働保険審査会の公開審理の期日を決めるにあたり、請求人や代理人と調整したうえで決定すること。公開審理の開催予定日を通知し、変更の有無を確認したうえで日時を決定するようにすること。

8. 公務災害の認定について

(1)厚生労働省の労災認定基準と地方公務員災害補償基金の基準はさほど違わないにもかかわらず、基金の調査がずさんで不当な公務外決定が相次いでいる。厚労省の職員を基金に派遣し、調査マニュアルを作成し、運用すること(具体的には請求人の聴取を行わない等の実態の改善)。
(2)地方公務員災害補償基金の決定に関わる専門医の指名等を公開すること。

C. 厚労省の職員の増員、配置について

1. 労災補償の事務官について

新型コロナウイルス感染症による労災請求件は昨年より増え続けており、ついに1万件を超えた。そのような状況の中、療養の状況に変化があったなどの理由で、新型コロナウイルス感染症により労災認定されている被災者への休業補償給付の支給が長期間停止される事案が愛知県で発生している。急激に増えて続けている新型コロナウイルス感染症に係る労災の請求件数に対応する人員が十分でない状況があると推察される。この他、所轄署に請求されたアスベスト疾患、精神障害、脳・心臓疾患やその他の困難事例等に係る労災保険の適用調査を各都道府県労働局に設置した集約部署で行う傾向にあるが、将来、あらゆる職業病及び業務災害について、労災保険の適用調査を行うための職員が不足することが懸念されている。労災保険制度の適切な運用と維持のため、全国の労働基準監督署及び労働局の厚生労働事務官を増員、配置すること。

2. 安全衛生の専門官について

労働安全衛生行政を第一線で担う専門職員が補充されていないときく。地方労働局、労基署に安全専門官、衛生専門官を増員、配置すること。