主要な職業病の認定件数・認定率の推移(2020年度速報)

※本稿の更新情報(2020年速報)を公表しています。

厚生労働省が毎年継続している、中皮腫及び石綿(アスベスト)関連肺がん(速報値)過労死・過労自殺を含む脳・心臓疾患及び精神障害の2019年度労災補償状況の公表を受けて、主要な職業病の認定件数・認定率の推移をまとめてみた。

主要な職業病の認定件数の推移

主要な職業病の認定件数の推移(2020年度速報)

かつてはじん肺とその合併症及び振動障害が二大職業病だったが、両者は大幅に減少してきて、同じくらいの数になってきた。ただし、振動障害は過去15年ほど横ばい状態が続いているし、両者とも他の職業病同様、労災認定されずに埋もれた事例の存在が懸念されている。

筋骨格系障害の代表のひとつである上肢障害が、2012年度以降首位に立ち、2019年度の認定件数は1,634件となっている。もうひとつの代表と言える非災害性(慢性)腰痛は100件未満にとどまっていて(ただし3年続いて増加)、埋もれた事例が多いと考えられる職業病の代表格である。

石綿(アスベスト)関連がん-中皮腫と肺がん-はひとつの教訓を与えてくれている。2005年末のクボタ・ショックにより人々に知られる前は認定件数はわずかだったが、その後高いレベルを維持している。しかし、被害が増大し続けていると予想されているなかでは、現状の認定件数は不十分であるし、被害は増え続けているにもかかわらず、認定件数が減少しつつはないか懸念される。。また、アスベストが原因だと気がついたときには、死亡から5年以上経過してしまっていて労災請求ができなかったという事例が多数あることが明らかになったことから、石綿健康被害救済法によりそれらの事例に対しても労災保険に準じた給付がなされているが、その数字はグラフに現われていない。石綿関連疾患では、労災認定等された事例の事業場情報が公開されていることも重要である。これらは他の多くの職業病にも当てはまる問題であり、そもそも時効をなくすことが求められている。

精神障害は増加傾向を示していて、いまや中皮腫に迫ってきた。それに対して、脳・心臓疾患は、クボタ・ショック前は、じん肺、振動障害、上肢障害に次ぐ職業病であったものが、最近は減少傾向がみられるように思われる。それが実際に事例の減少によるものであればよいことであるが、そう言える状況にはない。精神障害も請求件数の急増ぶりと比較すれば、認定件数の状況には問題がある。

なお、グラフには示していないが、2020年度には、新型コロナウイルス感染症の労災認定件数が4,688あり、ダントツで職業病認定件数のトップであったことに留意しておきたい。

主要な職業病の認定率の推移

主要な職業病の認定率の推移(2020年度速報)

ここで認定率とは、決定件数に対する認定件数の率を言う。

中皮腫及び石綿(アスベスト)関連肺がん(速報値)、過労死・過労自殺を含む脳・心臓疾患及び精神障害については、毎年の厚生労働省発表のなかにこのデータが含まれている。他の職業病については、全国労働安全衛生センター連絡会議が情報公開法による開示請求によってデータを入手しているが、グラフに示したもの以外の職業病に関しては、データが得られていない。

おおざっぱに、①石綿(アスベスト)関連がん(中皮腫・肺がん)の認定率がもっとも高く、②筋骨格系障害(上肢障害・非災害性腰痛)が中間、③脳・心臓疾患、精神障害がもっとも低いという、三層構造が指摘できる。

しかし、非災害性腰痛の認定率が経時的に20%以上も減少してしまって、③のグループと同じレベルになってしまっていた。2019年度は46.9%に増加している。上肢障害の認定率もゆるやかな減少傾向がみられるようで、懸念されるところである。

脳・心臓疾患の認定率は、50%に到達することが期待されたこともあったものの、減少傾向にあり、精神障害の認定率よりも低くなってしまった。ピーク時と比較すると、半減近い落ち込みである。精神障害の認定率も、40%に到達することが期待されたものの、最近は32%前後にとどまっている。

ちなみに2020年度の新型コロナウイルス感染症の認定率は96.1%で、中皮腫の認定率95.9%を上回っていた。

こうした状況も踏まえて、認定基準の内容とともに、その運用についても見直しが必要である。とりわけ、近く脳・心臓疾患の労災認定基準の見直し、そして来年度には精神障害の労災認定基準の見直しが予定されているが、認定件数だけでなく認定率にどのような影響を及ぼすのかみていかなければならない。

各々の職業病の具体的事例等については、関係カテゴリー別の投稿を参照していただきたい。