全国安全センターの厚生労働省交渉(2021.7.20):A.6. 化学物質対策について-化学物質管理規制はどうなる?

※全国安全センターの厚生労働省交渉の全体-「労働安全衛生・労災職業病に関する要望書」の全文はココで確認できます。

目次

A.6. 化学物質対策について

【要望事項】

A.6.(1) 2021年1月18日に公表された「職場における化学物質等の管理のあり方に関する検討会中間とりまとめ」を受けた化学物質管理対策見直しにおいて、(暫定)曝露限界値を下回る場合であっても、優先順位の考え方に基づいたリスク低減措置の検討・実施を義務付けること。

【厚生労働省回答(労働基準局安全衛生部化学物質対策課)】

「職場における化学物質等の管理のあり方に関する検討会」報告書3(1)ア(イ)に基づき、GHS分類済みの危険有害物については、リスクアセスメント結果に基づく措置の実施を義務づけた上で、更に、ばく露限界値(仮称)以下に管理することを求めるものであり、ばく露限界値(仮称)以下であれば、リスクアセスメント結果に基づく措置を実施する必要がなくなるわけではございません。

【要望事項】

A.6.(2) 安全衛生規則の衛生基準における一般的義務規定の内容を、リスク低減措置の優先順位の考え方に沿って見直すとともに、常により優先順位の高い措置をめざすべきであることを明定すること。

【厚生労働省回答(労働基準局安全衛生部化学物質対策課)】

「職場における化学物質等の管理のあり方に関する検討会」報告書3(1)ア(イ)に基づき、GHS分類済みの危険有害物については、リスクアセスメントの結果に基づく措置が実施されるよう義務づける予定であり、リスクアセスメント結果に基づく措置に関しては、「化学物質による危険性又は有害性等の調査等に関する指針」でお示ししているとおり、①有害性の低い物質への変更、②密閉化・換気装置設置等、③作業手順の改善等、④保護具の着用という優先順位で検討されることを求めていくこととなります。

【厚生労働省交渉でのやりとり】

全国安全センター・飯田:Aの6の化学物質対策についてです。昨日(2021年7月19日)、職場の化学物質のあり方についての検討会の報告が出ております。今後の化学物質管理の管理のあり方にについて、重大な問題が提示されていると思います。この点について議論をしていきたいと思います。

全国安全センター・古谷:Aの6の(1)と(2)の回答については、非常に結構な内容だというふうに読みました。ちょっと細かく言うと、現行の指針で言いますと、ちょっとわかりにくい規定の仕方になってますけども、法令に定められた措置以外の措置にあっては、許容範囲内であればリスク軽減措置を検討する必要がないものとして差し支えないというふうに書かれたような指摘もありますので、とくに(1)で書かれているような話は、とても重要な内容だと思っているんですが、この(1)(2)でお答えいただいた内容が、今後、具体的に。とくに(2)のほうは、私ども、安衛則の一般義務規定のところに書いたらどうだという提案をしてるわけですけれども、ここで答えていただいた内容が、法令の中で具体化される予定というのはどんなイメージなんでしょう。

厚生労働省:そうですね。具体的にどういうかたちで法令でやっていくのか。それとも告示とか指針のレベルなのかという、そこの具体的な改正の仕方については、ちょっとまだ報告書が出たばかりでして、どういうかたちでやっていくかというところは引き続き検討させていただくんですけれども。そうですね、今回の報告書の大きな趣旨である、自律的な管理というのがちゃんと会社さんでしていただいて、化学物質の災害が減るっていうかたちになるためにはどうしたらいいかというところは引き続き検討して、最適な形でお示しできるように検討を進めてまいりたいと思っております。

全国安全センター・古谷:と言いますのはね、要望の趣旨でもあるんですけども、昨日出された報告書、優先順位の考え方を基本としつつ、曝露限界値以下とすることを義務づける、というふうに報告書では書いてあるんですね。ところが、同じく発表された報告書の概要(ポイント)の中には、優先順位の考え方がどこにも出てこないんです。どこにも出てこないだけじゃなくて、例えば、国が定める管理基準の達成を求め、達成のための手段は限定しない方式に大きく転換する、と大見出しになっているんですね。この大見出しに該当するような文書を、報告書で見当たらないんですけれども、手段は限定しない方式に大きく転換、が大見出しになっている。で、しかもこのちょっと下のところに、呼吸用保護具の使用なども曝露防止対策として容認する、と大きく書いてある。で、優先順位のことはひとことも書いてないんです。優先順位を基本としてやれとか、曝露限界値を下げていたとしても、優先順位の考え方は必要なんだよという、お答えいただいた内容はどこにも書いてなくて、ひたすら、手段は限定しない。呼吸用保護具も認めると。その後、ちょっと下にはですね、また繰り返してですね、わざわざ管理基準を達成する手段はリスクアセスメントにより事業者が自ら選択可能と書いてある。この概要だけ見てると、(1)と(2)で答えていただいた良い内容だと思うんですけど、どこにも入ってないどころか、結局、要望の中で言った、ばく露限界値を下回れば何もしなくていいというふうに読める。どっちが本音なんですか。報告書にはこんなこと、書いてないですよ。この概要のまとめ方はとても問題があると思う。

検討会報告書のポイント(概要)-安全センター側が特に問題にした個所に水色の枠を加えた

厚生労働省:報告書が全てになります。

全国安全センター・古谷:そしたら早速、概要は差し替えませんか。だって書いてないことが書いてあるわけですから。回答ではよいこと書いていただいたわけですよ。この回答でやっていただくことが一番大事なことだと思います。結局、管理濃度が下がれば何でもいいのか。とくに一般的な濃度じゃなくて、吸入・曝露濃度ですよね。労働者個人が吸入する濃度について問題にしているから。個人保護具の話も出てくるわけだけれども。その数字が下がっていれば、本質的な対策をとらなくてもいいんだと。個人保護具も容認するんだと。どこで優先順位を持った対策の重要性が反映されているのか、まるきりわからない。まず第一に概要の要約はおかしい。間違ったメッセージを伝えているのか、報告書に書いてるのとは違うことを皆さんが考えているか。ここはやっぱりはっきりしていただきたいと思うんですよ。

厚生労働省:はい、あの、そうですね。ちょっとこの概要の出し方というところは、ちょっとあの、そうですね、あの、必ずしも概要にすべて整理しきれていないところがあるかもしれないんですけれども、基本的にはこの、昨日出させていただいた報告書をもとに、必要な法令改正等を進めさせていただく予定としておりますので、周知の仕方とかにつきましては、今後、どう出して、お伝えしていくかというところは、検討させていただきたいと思うんですけれども、基本的に報告書の内容を踏まえたかたちで今後、採用させていただくかたちになります。

全国安全センター・古谷:メッセージとして、おかしくない?報告書は、優先順位を基本としつつ、曝露限界値以下とすることと。なおかつちょっとこれだけだと非常に物足りないからというか、不十分だと思うから、この要望を出して、今回のこの(1)と(2)の回答と報告書を重ね合わせると、よく理解できるんですよ。そこの理解できるメッセージは概要に書かれている内容と違うんです。と思いません?リスクアセスメントを義務づける。リスクアセスメントの根本と言えるような優先順位に基づいた対策を、個別の細切れの規制じゃなくて大きな網としてかけるんだと。で、曝露限界値以下であっても、この考え方は大事だと、いま回答していただいているわけですね?

厚生労働省:はい。

全国安全センター・古谷:概要には全然違うことが書いてある、と思いますよ。だからこそ、ここに回答いただいたことが本当であるならば、これはやっぱり指針だとか通達ではなくて、法令の中で、きちんと規定をしてほしいんですよ。でないと違う方向に行っちゃいませんか。それとも私たちの理解が間違ってますか。

厚生労働省:ええと、はい。あの、現在ちょっと、報告書がやっと出たばっかりなので、すいません、まだなかなかその、具体的にこうしますというところまではちょっと決めきれていなくて、いま検討中のところもありますので、あの、あくまでその報告書ベースで対応は進めていきたいと思っているところでございますので、あの

全国安全センター・古谷:いまのやりとりを踏まえても、(1)(2)としてご回答いただいた内容に間違いはございませんか?

厚生労働省:あの、はい、はい。あの、記載させていただいた内容は、間違いではございません。

全国安全センター・古谷:曝露限界値以下であっても、措置を実施する必要がなくなるわけではないと。

厚生労働省:そうですね。すべてのGHS分類が行われたという有害性のある物質につきましては、すべからくリスクアセスメントの実施を義務づける形になりますので、とくにそれが曝露限界値を超えなかったから、それはやらなくていいとか、そういうことにはならないかたちで、あの、ええと、報告書の記載の内容のとおり、記載させていただいた要望の回答のとおり進めていくかたちになります。

全国安全センター・古谷:それが報告書の趣旨だというふうに私どもも理解していますし、ですからこそ、通達や何かではなくて、ぜひ法令上の条文の中に反映させてくださいということを、あらためて要望しておきたいと思います。

全国安全センター・天野:間違ってる概要を訂正するおつもりはないのか。いまのお話で。明らかに報告書と違うことが書いてあるんですけど、そこを訂正をして出し直すつもりはないのか、概要の部分。そのままですますおつもりですか、ご回答ください。

厚生労働省:はい。ええと、そうですね、その報告書の内容が、ボリュームがあるので、なかなかその、それを概要にまとめたときに、あの、うまく反映されてない部分は、あるところは他にもあると思います。

全国安全センター・天野:明らかに間違ってるんだから直してくださいと言ってるんです。そちらさんの回答を聞くと、間違ってるということを認めてらっしゃるからね。全然違う内容だから。直してください。どうですか。

厚生労働省:ええと、そうですね。あの、中で、あの、ええと、いただいたご意見をちょっと持ち帰らせていただいて、あの、記載が一番詳しく伝わるのかというところを、拝見をさせていただきたいと思います。

全国安全センター・天野:企業をミスリードさせてしまうのでちゃんと直してください。直さないようだったら、また要求あげますから。ちゃんと検討してください。

厚生労働省:はい。

全国安全センター・古谷:その検討の結果は阿部先生のところにお持ちいただけませんか。

阿部知子衆議院議員:そうですね。検討途中でもいいし、教えていただければ、皆さんに返しますから。
厚生労働省:承知いたしました。

全国安全センター・仲尾:東京労働安全センターで作業環境測定を担当しています、仲尾と申します。いまの問題は、検討会報告書の概要の図だけではなくて、以前の化学物質管理の従来の在り方を示していた三角形のピラミッドの図がありますよね。あの下の部分に対しても、何かこう問題がないというような書き方をしているわけですね。それに対しては(検討会の)、大前和幸委員が、これはやっぱり誤りだと発言しています。要するに、曝露限界が定まってなくて問題がないんじゃなくて、問題があるかどうかわからない物質がこれだけあるんだという言い方をして、シンポジウムで解説しているんですね。だから、厚生労働省のパンフレットとか表を作る方々の主観を交えて、間違えやすいようなかたちさらってしまう危険性があるので、そこは本当に気をつけていただき、かつ、そういう検討会の委員の専門家の先生たちがある程度、自分たちの検討会の趣旨をこのように入れるべきだという議論を十数回もやってきているわけですから、そこをきちんと反映した文書を作る。それを直すということも厭わないということをぜひ考えてほしいと思います。

【厚生労働省交渉の再回答】

国が定める管理基準に達成する方法について、限定されず何でも良いのではなく、国が具体的な手段を指定しないだけで、リスクアセスメントの実施義務はかかっており、そのリスクアセスメントは優先順位にしたがって対応することを基本としていると報告書に記載されているが、別添の概要のP4ではそのことがはっきりわからない。→ご指摘を踏まえて、概要のP4に優先順位の考え方に従って対応することがわかるように以下のとおり修正いたしました。
・「達成のための手段は限定しない」→「達成のための手段は指定しない」に修正
・<新たな仕組み(自律的な管理)のポイント>1つ目の※の記載を以下の内容に修正
ばく露濃度を下げる手段は、以下の優先順位の考え方に基づいて事業者が自ら選択
①有害性の低い物質への変更、②密閉化・換気装置設置等、③作業手順の改善等、④有効な呼吸用保護具の使用

再回答で示された検討会報告書のポイント(概要)-変更箇所に水色の枠を加えた

【要望事項】

A.6.(3) 現在、「職場における化学物質等の管理のあり方に関する検討会」で提案されている特別則を廃止するという方向性に反対する。特定化学障害予防規則や有機溶剤中毒予防規則に「新たな物質の追加はしない」とする方針は採用せずに、積極的に物質の追加を行うこと。

【厚生労働省回答(労働基準局安全衛生部化学物質対策課)】

1 今回の見直しの背景として、化学物質による労働災害の約8割が未規制物質で発生しており、国がリスク評価を行い、個別事業場の具体的措置を検討するという従来のやり方では、危険有害性を確認せず未規制物質に代替し、新たな災害を発生させるという動きを止められないとの問題意識のもと、欧州のREACH等の規制を参考に、国によるGHS分類で危険有害性の明らかとなった未規制物質、約2000物質の全てについて、リスクアセスメントの義務対象とすることとしています。新たな規制では、従来の規制のように、画一的な健康障害防止措置の実施を求めるものではなく、リスクアセスメントの実施により、化学物質の使用量や作業形態などを踏まえて、化学物質のばく露濃度をばく露限界値(仮称)以下に下げるという措置が義務づけられることから、規制対象物質数の大幅な増加と合わせて、これまで以上に措置の強化が求められるものであります。
2 なお、このような管理が困難で、健康被害のおそれがある物質や作業が明らかになった場合は、労働安全衛生法第55条の製造等の禁止や第56条の製造の許可といった、更なる規制を検討することとなります。
3 いずれにしても、特化則の見直し等は、自律的な管理の定着状況を見つつ、5年後検討することとされており、自律的な管理の中に残すべき規定の整理なども含め、必要な制度改正の検討は今後も進めてまいります。

【厚生労働省交渉でのやりとり】

全国安全センター・仲尾:私が質問をしたいのは(3)についてなんですけど、ちょっと確認したいんですが、回答のなかに、未規制物質約2000物質-これは正確には1800だと思いますが-の全てについて、リスクアセスメントの義務対象とすることとしているというご回答がありますけども、これだけでよろしいんですか。厚生労働省としては、検討会の報告書は、約2000物質をリスクアセスメントの対象にするということで終わりにするという考え方に、この回答だとなってしまいますが、それでよろしゅうございますかということです。

厚生労働省:その2000物質について、リスクアセスメントの義務対象とすることとしますし、曝露限界値-まだ名前は決まってないんですけれども、それを順次定めさせていただいて、曝露限界値に基づく管理とかも行っていくかたちになります。

全国安全センター・仲尾:検討会の報告書は、 2000に関わらず、REACHの7000に近づける努力を永遠にやっていくという内容なんじゃないですか。

厚生労働省:すいません。失礼いたしました。そうですね、この2000だけではなくて、危険有害性がわかったものに関しては、順次、規制の対象になっていきます。

全国安全センター・仲尾:この回答だと2000で終わっちゃうという考え方になるので、ちょっと回答としては間違っているかと思うんです。

厚生労働省:あ、そうですね。あの、ちょっと、記載の仕方が誤っておりますが、そうです、2000物質だけではなくて、今後もGHS分類のほうは引き続きやっていきまして。

全国安全センター・仲尾:私たちの理解ではね、欧州のREACHにやっぱり近づけるような、ドラスティックな転換をしていかなければいけない。そのためには7000物質も対象にしながら、1800を、まあ、永遠的に増やしていくんだという考え方が検討会の基本だと思うんですけれども、そのようなかたちでご回答を変えていただければ、私たちも納得するんですが、いかがですか。

厚生労働省:承知いたしました。ちょっとすいません、記載の仕方が、あの、不適切なところがあったので、お話のとおりのかたちで対応させていただく予定としておりますので。

全国安全センター・仲尾:わかりました。それはあらためてお願いします。

全国安全センター・飯田:いまの(3)の回答については、もう1回書き直していただけますか。

全国安全センター・仲尾:それともうひとつ、これも確認したいんですけれども、ご回答の3のところですね。特化則の見直しについて。われわれはこれを廃止するのに反対ということに対しては、5年後に検討することとされており、という回答になっていますが、化学物質対策課長などはもっと突っ込んだ発言をいろんなところでされていると思うんですね。要するに、5年というのはひとつのタイミング、ひとつの目標であって、無理だったらまた5年、そのうち5年というふうに延ばしていくという考え方なんだというふうにいろんなところで発言していると思うんですが、そこはどうなんですか。

厚生労働省;そうですね。そちらについては、ご認識のとおりでして、5年はあくまで目安で出させていただいているんですけれども、その段階での、自律的な管理が実質的に企業の中で回っていないような状況でしたら、引き続き特化則というのは廃止せず、そのまま規制をさせていただくというかたちで、対応させていただく。

全国安全センター・仲尾:それも企業の中で回っていないのじゃなくて、国としてどのような整備ができているかという条件も示されていると思うので、そこを明確にして回答をしていただきたいと思うんですね。

厚生労働省:はい、承知いたしました。

全国安全センター・仲尾:ちょっとこう回答が大雑把すぎるなという感じをしています。非常に重要なところなので、一言だけ申し上げます。報告書は昨日発表され、要望書は1月の中間とりまとめをベースにして作られたものなので、これについてはわれわれももっともっと研究をしなければいけないし、学習しなければいけない。そして、今後これを建設的な討議を続けていきたいというふうに考えていますので、ぜひそういう場所を保障していただきたいということがひとつです。
それから、今回の改訂で、作業環境測定士としての私の所感だけ簡単に申し上げますけども、第3管理区分だけを特定に扱いをしてもですね、企業はやはり提出しませんよ。やはりいままでずっと課題になっている、作業環境測定の報告書の義務化がやはり法律で担保されないと、隠してしまう。また明らかにならないというところがあります。これはもう実際、毎日毎日現場で感じているところなので、まさにやっぱり企業が出すんじゃなくて、作業環境測定機関が数字だけ出して名前も出しませんというので安心してますよ、いつまでも、3であっても。それであったら、いくらなっても、管理3の改善には結びつかないと。増大しているね。だからそこは今回の報告書ではあまり出していませんけれども、ぜひ別のかたちで早急に、化学物質対策課としては検討していただきたいというのが一点です。
それからもう一点は、労働基準監督官の中であまりにもいま異動、それから減らされているような現状の中で、監督官の中で化学物質のことを知らなすぎる。東京のある監督署ではアセトンは何ですかと聞かれましたから。そういうようなね。それで、東京都でも化学物質関連の労災認定事例は労働局に上げたりしていますよね。企業どころか、国の労働基準行政の中で、化学物質対策についての専門官が少なく、かつ、素人同然の体制がある中でですね。そこでドラスティックな転換が行われるいうことは非常に危機感を感じるわけですよ。それがこの大きな問題に対しての解決策になればいいけれども、混乱を招いて、挫折して、もっとひどい状態になるんじゃないかと。現場にいる私たちは非常に心配しています。ですから、ぜひ、労働基準監督官がどのような化学物質について認識と対策、体制を作るのかということを、まず自分たちの根元の問題として検討するということをしないと。この改正は、問題提起は非常に私たちと一致している点も多いので合意できるところもあるんですが、挫折する。もっともっともっと現場でこういう発言をしていかなければいけないという決意も新たにしているところです。

【厚生労働省交渉の再回答】

約2,000物質をリスクアセスメントの対象物質とするとのことだが、2,000物質を追加した後は新たに物質を追加しないのか。→約2,000物質を追加した後も、新たにGHS分類された物質を順次追加することとしております。ご指摘を踏まえて、2,000物質以外にも順次義務化していくことが読めるように回答を修正いたしました。
[編注]以下が再回答文書の内容である。

「今回の見直しの背景として、化学物質による労働災害の約8割が未規制物質で発生しており、国がリスク評価を行い、個別事業場の具体的措置を検討するという従来のやり方では、危険有害性を確認せず未規制物質に代替し、新たな災害を発生させるという動きを止められないとの問題意識のもと、欧州のREACH等の規制を参考に、令和2年度までに国によるGHS分類で危険有害性の明らかとなった未規制物質、約2000物質の全てについては令和5年度までに、リスクアセスメントの義務対象とすることとしています。また、国による新規のGHS分類を関係する省と連携して実施し、新たに分類された物質は令和6年度以降に順次リスクアセスメントの義務対象とすることとしています。
新たな規制では、従来の規制のように、画一的な健康障害防止措置の実施を求めるものではなく、リスクアセスメントの実施により、化学物質の使用量や作業形態などを踏まえて、化学物質のばく露濃度をばく露限界値(仮称)以下に下げるという措置が義務づけられることから、規制対象物質数の大幅な増加と合わせて、これまで以上に措置の強化が求められるものであります。
なお、このような管理が困難で、健康被害のおそれがある物質や作業が明らかになった場合は、労働安全衛生法第55条の製造等の禁止や第56条の製造の許可といった、更なる規制を検討することとなります。
いずれにしても、特化則等は、自律的な管理が十分に定着しない状況で廃止することはできないと考えており、5年後を自律的な管理を定着させる目標年度として必要な施策を展開するとともに、その時点で国の支援策が十分ではなかったり、事業場における自律的な管理が十分定着していないと判断される場合は、廃止を見送り、さ
らにその5年後に改めて評価を行うこととされており、自律的な管理の中に残すべき規定の整理なども含め、必要な制度改正の検討は今後も進めてまいります。」

【要望事項】

A.6.(4) 「遅発性の健康障害」であるか否かに関わらず「新たな」及び/または「隠れた」職業病の「把握」及び「再発の防止」のための取り組みを進めるべきである。また、そのためには安全衛生・労災補償両部署の緊密な連携が不可欠であるとともに、様々な取り組みを組み合わせて効果を上げる努力をするしかないものと考えられ、国等による情報収集、調査研究等に加えて、以下を含めること。
A.6.(4)① がんに限定せずに同一職場で同一疾病の罹患者が複数生じた情報を把握して、調査等を行う仕組みをつくることは賛成であり、(特殊)健康診断結果を活用する仕組みについても検討するべきである。

【厚生労働省回答(労働基準局安全衛生部化学物質対策課)】

1 労働安全衛生法第66条第2項の規定に基づき実施される特殊健康診断(以下「健康診断」という。)については、事業者は、健康診断の実施後、遅滞なく、健康診断結果報告書を所轄の労働基準監督署に提出することとなっています。
2 労働基準監督署においては、事業者より提出された健康診断結果報告書の内容を踏まえ、有所見者数等に特異な傾向が見られる場合等には、当該事業場に対して、必要な指導等を実施しているところです。
3 引き続き、これら取組を継続し、労働者の健康障害防止対策の徹底を図ってまいります。

【要望事項】

A.6.(4)② 多発事案に限定せず、最近のジアセチルによる閉塞性肺疾患のような認定事例や労働基準局報告例規「補504」で「新しい疾病」または「がん」として報告された事例等を系統的に公表・周知すること。

【厚生労働省回答(労働基準局安全衛生部化学物質対策課)】

1 補504については、従来と異なる新しい疾病等の請求があった際に、個別事案に関する情報を厚生労働本省へ速報するものであり、公表・周知は行っておりません。
2 しかしながら、新しい疾病等で労災認定された場合には、必要に応じて、注意喚起や労災保険制度の周知等を行ってまいりたいと考えております。

【要望事項】

A.6.(4)③ ジアセチルによる閉塞性肺疾患の労災認定ついて、今年6月7日付けで厚労省化学物質対策課長と補償課長の連名による「ジアセチル(別名:2,3-ブタジオン)による健康障害の防止対策及び労災保険制度の周知について」通達を出し、都道府県労働局に対し、ジアセチルによる閉塞性呼吸器の労災認定の周知を行い、日本香料工業会に対しては、ばく露低減対策の指導、労働者及び退職者への健康被害の把握を指示したことは評価できる。これまでジアセチルにばく露した労働者、退職者への健康調査を実施すること。

【厚生労働省回答(労働基準局安全衛生部化学物質対策課)】

令和3年6月7日付け通知「ジアセチル(別名:2,3-ブタンジオン)による健康障害の防止対策及び労災保険制度の周知について」を発出するに当たっては、日本香料工業会を通じて調査を行い、日本香料工業会の会員企業から、
・ジアセチルの取扱いがあるかどうか
・健康障害が発生した事案があったかどうか
等を回答していただいています。
結果として、健康障害が発生した事案はありませんでしたが、同通知において、ジアセチルを取り扱う業務に従事していた労働者(異動した方や退職した方も含む)で閉塞性肺疾患等の呼吸器疾患を発症した方を把握した場合には、当該労働者に対して労災保険制度の周知を行うとともに、所轄の都道府県労働局又は労働基準監督署への相談を促していただくよう会員事業場への周知を要請しました。
引き続き関係事業場に対する指導を適切に行ってまいります。

【要望事項】

A.6.(4)③ 情報提供や助言等を行う医師をはじめ専門家のネットワーク、及び、労使・医療関係者等からの相談を受け付ける窓口を設置するとともに、後者に寄せられた相談について前者の助言を求めるなどの仕組みをつくること。
A.6.(4)④ 臨床現場における職歴聴取の促進とそのデータを活用する仕組みをつくるとともに、日本版Job-Exposure Matrixの構築をめざすこと。

【厚生労働省回答(労働基準局安全衛生部化学物質対策課)】

化学物質の自律的な管理を行うに際しては、事業場の産業保健スタッフにも相応の役割が求められるところですので、人材の育成やネットワーク化、助言指導等の支援体制の整備などについて、関係団体等と密接な連携を図りながら進めて参ります。

【厚生労働省交渉でのやりとり】

全国安全センター・古谷:(4)については、13次防(第13次労働災害防止計画)の課題の中で遅発性の健康障害の把握の仕組みを、という話が出てましたよね。で、今回の報告書のがんの集団発生時の報告の仕組みというのは、それに該当するものと理解していいんでしょうね。

厚生労働省:そうです、はい。

全国安全センター・古谷:逆に、それでおしまいですかね。これ以外に、その遅発性の健康障害の把握の仕組みについて、他に検討する予定は、いまのところなし?

厚生労働省:検討会報告書に書かせていただいた中身がまず、かなりけっこう大きな内容になってくると思いますので、これがちゃんと運用して、それを行政のほうで早めに情報を収集できる体制というのを、まずちょっとこれを踏まえて構築をしていきたいというふうに思っておりまして。ちょっと現在では、ここに書いてあるものを、進めさせていくことをさせていただきたいなというふうに思っております。

全国安全センター・古谷:具体的な取り組みが提起されたことは歓迎しつつ、また報告の中身ということについては難しいことはわかるんですが、外部機関の医師にしろ、産業医にしろ、が「必要と認めたとき」という条件が入ったこの一文だけで、効果は激減するであろうということは、想像に難くありません。で、要請書にも書いたように、オールマイティのひとつの立派な手段があるとはちょっとあまり思えないんで、あれこれ知恵を出していくしかないなというふうに私自身も思ってて。ですから①から⑤まで、こんな手はどうだろうかということをあげさせていただいた次第です。ですから報告書としてはあれですけれども。胆管がん事件、膀胱がん事件、MOCA等と続いた。それらのほとんどに非常にコミットしている立場から、私たちは言ってるわけで。すべての事例が、MOCAを除けば、事業所の報告によって発見したわけじゃありませんからね。被害者が声をあげたから明らかになった。被害者が声をあげなかったら、すべて明らかにならなかった。それに私たちは関わってるわけです、最初の時から。その立場から言ってるんで、13次防の提起も大事だと思います。何ができるのかを、ぜひいろいろ考えていただきたい。われわれもこれだけがすべてではないけれど、思いついたことを提案させてもらっている。とくにJob-Exposure Matrixについては、たぶん内々では議論があるんだろうとは思いますけれども、ぜひですね、何らかのかたちで実現を考えていただけたらというふうに、これは重ねて要請しておきたいと思います。