日本の労働安全衛生をめぐる状況【2019年→2020年】~労働災害・職業病(業務災害・業務上疾病)統計の構造、労働安全衛生情報

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目次

1.労働災害・職業病(業務災害・業務上疾病)の発生状況等

● 労災保険新規受給者

労災保険新規受給者数は、2009年度の534,623人を底にして増加傾向に転じており、2018年度は25年前のレベルにまで戻ってしまっている。

労災保険の新規受給者数は、発生年度ではなく、労災保険給付の支給決定年度で集計した数字であり、2018年度の労災保険新規受給者は、業務災害599,887人(87.4%)、通勤災害86,626人(12.6%)、合計686,513人(100%)であった。

その発生年度別内訳は、2018年度516,648人(75.3%)、2017年度166,152人(24.2%)、2016年度2,744人(0.4%)、2015年度565人(0.1%)、2014年度110人、2013年度以前322人、となっている。

● 死亡災害

死亡災害は、2015年以降1,000人を下回る状況を継続し、何とか減少傾向を継続していると言えそうな状況で、2018年909人、2019年は845人と最低記録を更新した。

第12次労働災害防止計画は、「2012年と比較して2017年までに15%以上減少」させるという目標を掲げ、達成可能と予想されていたのだが、結果的に1,093人から978人へ10.5%の減少にとどまり、達成できなかった。

2018年2月に策定された第13次労働災害防止計画は新たに「2017年と比較して2022年までに15%以上減少」という目標を掲げた。2019年時点で2017年の978人と比較して14.6%の減少という状況である。

一方、2018年度の労災保険の葬祭料・葬祭給付受給者数は2,909人で、業務災害2,674人(91.9%)、通勤災害235人(8.1%)。

発生年度別では、2018年度684人(23.5%)、2017年度839人(28.8%)、2016年度388人(13.3%)、2015年度196人(6.7%)、2014年度86(3.0%)、2013年度以前716人(24.6%)という内訳になっている。

なお、厚生労働省の「職場のあんぜんサイト」に、20132019年分について、「建設業の一人親方等の死亡災害発生状況」が掲載されている。

● 死傷災害

休業4日以上の死傷災害は、2010年の105,718人を底に微増傾向にあり、2018年127,329人、2019年は125,611人であった。

第12次労働災害防止計画の「2012年と比較して2017年までに15%以上減少」させるという目標に対して、結果は119,576人から120,460人へ0.7%の増加。第13次労働災害防止計画は新たに「2017年と比較して2022年までに5%以上減少」という目標を掲げたが、2019年時点で2017年の120,460人と比較して4.3%の増加という状況である。

厚生労働省による前年の労働災害発生状況公表(通常、毎年5月発表※)に当たっては、2009年から「派遣労働者の労働災害発生状況」(例:2019年派遣労働者の労働災害発生状況)、2013年から「外国人労働者の死傷災害発生状況」(例:2019年外国人労働者の死傷災害発生状況) も公表されるようになっている。

※たとえば、厚生労働省報道発表資料 より
平成31年1月から令和元年12月までの労働災害発生状況を公表(2020年5月27日)
平成30年の労働災害発生状況を公表(2019年5月17日)

● その他

1件の重大災害の背後には、29件の軽症災害と300件の無傷害災害があるというよく知られたハインリッヒの法則の「1:29:300」という数字の妥当性はともかくとして、「死亡災害件数」を1とした場合の、「休業4日以上の災害件数(休業4日以上の死傷災害災害-死亡災害)」及び「休業3日以内+不休災害の件数(労災保険新規受給者数-休業4日以上の死傷災害災害)」の比率を下表に示した。

202009p4

過去22年の平均では、この比率は1:87.6:341.4ということになるが、経年的な変化に加えて、業種別のばらつきも著しい。とりわけ林業では、休業4日以上の災害件数の方が3日以内+不休災害の件数よりも多いという逆転現象を示しており、鉱業、建設業でも、製造業やその他事業と比較すると、休業+不休災害の件数が著しく低い。これは「労災隠し」の存在を示唆しているとも考えられる。このような分析も、「労災隠し」の根絶のために活用していかなければならないと考えている。

202009p3

● 業務上疾病

業務上疾病(職業病)は、補償件数で、2002年度の8,810件を底に、2005年夏のクボタ・ショックの影響で2006年には(過去死亡事例を含め)11,1713件に増加。最近では、2016年度8,512件、2017年度8,645件、2018年度9,170件という状況である。

「主な職業病の認定件数の推移」を下に示した。

202009p5u

伝統的な職業病の双璧のひとつ-「じん肺及びその合併症」の認定件数は、2003年度から原発性肺がんが合併症に追加されたにもかかわらず減少が続いた後、2015~2017年度横ばい、2018年度は277件と初めて300件を下回った。

もうひとつの伝統的な職業病の双璧-「振動障害」の方は、2005年度まで減少し続けた後は、ほとんど横ばいか微増のようにみえる。2018年度は281件だった。

「上肢障害」は、1997年の労災認定基準改正以降増加傾向を示して、2008年度に「じん肺及びその合併症」を上回り、2009年度以降いったん減少に転じたものの、2013年度以降反転して、再び増加傾向にあるようにみえる。2018年度は916件で図中の疾病のなかで最大である。

「中皮腫」と「石綿肺がん」は、2005年夏のクボタショックで認定件数が激増。中皮腫による死亡者が増加し続けていることに示されているように、被害は増えているはずなのに、中皮腫で横ばい、石綿肺がんが漸減傾向にあるようにみえることが気にかかる。2018年度は各々376件と534件、合計すると910件で上肢障害と並ぶ。2019年度、中皮腫は増加して640件だった(石綿肺がんは373件)。

「脳・心臓疾患」は、2001年の労災認定基準改正で増加したものの、2008年度以降減少に転じ、2011・12年度は増加したが、2013年度以降再び減少傾向にあるようにみえる。2018年度は238件、2019年度は216件だった。

「精神障害」は、1999年の判断指針策定以来増加し続け、2010年度にはついに「脳・心臓疾患」を上回った。2011年末に判断指針が認定基準に改訂されて2012年度はさらに増加して「石綿肺がん」も上回ったが、2014年度以降は横ばい、2018年度は465件でやや減少、2019年度は509件に増加という状況である。


次は「認定率」を分析したものである。

202009p5l

また、下の表5に、請求件数、不支給決定件数が判明している職業病に係るデータのすべてを示してあるので参照していただきたい。表5の最下欄には、認定率①=認定件数/請求件数(いずれも当該年度)、認定率②=認定件数/(認定件数+不支給決定件数)の二つの指標を示してあるが、この図に示したのは、認定率②の方である。

表5

認定率②は、「中皮腫」がもっとも高く90%超、次いで「石綿肺がん」で90%に迫りつつあったが、2018年度は86.0%、2019年度は89.2%だった。その次が「上肢障害」で70%前後だが、長期的に減少傾向にあるのが気にかかる。

これらと比較すると、「脳・心臓疾患」、「精神障害等」は著しく低い。「脳・心臓疾患」の認定率は減少傾向にあり、2019年度は31.6%で過去最低。2012年度に「精神障害」の認定率が上昇したのは、2011年末の認定基準策定の影響と考えられるが、40%超えが期待されたものの、その後停滞・減少して、2019年度は32.1%になってしまっている。

「非災害性腰痛」の認定率は、2000年度に60%を超えた後、50%前後で推移してきたが、2011年度に大きく減少した後、40%以下で動揺している。

表2-1~2-4

公表件数と補償件数を比較すると(上の表2-1から表2-4)、「災害性(負傷による)腰痛(一-1)」は公表件数のほうが1~2千件も多い。「異常温度条件による疾病(二-4)」、「その他の物理的因子による疾病(二-6)」、「その他の身体に過度の負担のかかる作業態様に起因する疾病(三-5)」、「その他業務に起因することの明らかな疾病」(十一)でも系統的に、「化学物質による疾病(四-2)」や「細菌、ウイルス等の病原体による疾病(六)」では部分的に、公表件数が補償件数を上回っている。これは、使用者が職業病と判断して死傷病報告を届け出たにも関わらず、労災補償請求手続がなされていないか、請求手続がなされたにもかかわらず認定されていないことを意味すると思われ、問題である。

反対に、「腰痛以外の負傷による疾病」(一-2)、「騒音による耳の疾病」(二-2)、「重激業務」(三-1)、「振動障害」(三-3)、「職業がん」(七)、「脳・心臓疾患等」(八)、「精神障害等」(九)では、系統的に補償件数が公表件数を(大きく)上回っている。退職後に発病したものは後者に含まれないとしても、それだけでは説明できない乖離がある。

なお、2018年(度)は、猛暑による熱中症の増加が著しいことがきわだった特徴である。
参考として、各種統計の業種別内訳を次表に示した。

● 労働者の健康状況等

労働者の健康状況全般については、定期健康診断受診者のうちの有所見率が、1990年の23.6%から2018年の55.5%へと経年的に増加し続けている(表3-1)。

表3-1

項目別の有所見率では、血圧、貧血、血中脂質検査、血糖検査、心電図検査で経年的な増加傾向が認められる(表3-2)。

表3-2

警察庁によれば、自殺者が2011年まで14年連続で3万人を超えた後、2012年27,858人→2013年27,283人→2014年25,427人→2015年24,025人→2016年21,897人→2017年21,321人→2018年20,840人→2019年20,169人と減少している。そのうち「被雇用者・勤め人」が7,272→7,421人→7,164人→6,782人→6,324人→6,432人→6,447人→6,202人(27%弱~30%)、「勤務問題」が原因・動機のひとつとなっているものが2,323→2,472人→2,227人→2,159人→1,978人→1,991人→2,018人→1,949人(全体の8~10%)という状況である。

「労働安全衛生に関する調査」が厚生労働省のホームページに掲載されている

ここでは、「労働者健康調査」、「労働災害防止対策等重点調査」、「労働安全衛生基本調査」、「建設業労働災害防止対策等総合実態調査」、「技術革新と労働に関する実態調査」が「廃止した調査」とされている。

例えば、5年ごとに実施されていた「労働者健康調査」では、自分の仕事や職業生活に関して「強い不安、悩み、ストレスがある」とする労働者の割合が、1992年57.3%→1997年62.8%→2002年61.5%→2007年58.0%→2012年60.9%と推移してきていた。

「労働安全衛生調査(実態調査)」(2013・15・16・17・18年)と「労働安全衛生調査(労働環境調査)」(1996・2001・06・14年)のみが継続されている模様である(一部、廃止された調査から継続する内容も含んでいる)。

「労働安全衛生調査(実態調査)」の労働者調査では、現在の仕事や職業生活に関して「強い不安、悩み、ストレスがある」労働者の割合-2013年52.3%。以後質問が若干変わり、「強いストレスとなっていると感じる事柄がある」-2015年55.7%<2016年59.5%>2017年58.3%>2018年58.0%。

「職場で受動喫煙がある」労働者の割合(「ほとんど毎日」と「ときどきある」の合計)-2013年47.7%>2015年32.8%<2016年34.7%<2017年37.3%>2018年28.9%。

「労働安全衛生調査(実態調査)」の事業所調査は、内容がかなり変わってしまっていて、いまも継続的に追えるのは、以下を実施または取り組んでいる事業所の割合くらいで、以下のとおりである。

  • メンタルヘルス対策-2013年60.7%>2015年59.7%>2016年56.6%<2017年58.4%<2018年59.2%
  • リスクアセスメント-2013年60.7%>2015年47.5%>2016年46.5%>2017年45.9%
  • ストレスチェック-2013年26.0%>2015年22.4%<2016年62.3%<2017年64.3%>2018年62.9%(ストレスチェックの活用状況も調査)
  • 受動喫煙防止対策-2013年85.6%<2015年87.6%>2016年85.8%>2017年85.4%<2018年88.5%(禁煙・分煙状況等も調査)
  • 傷病を抱えた労働者が治療と仕事を両立できるような取組-2017年46.7%<2018年46.7%
  • 化学物質を取り扱う際のリスクアセスメントをすべて実施:安衛法第57条該当化学物質-2017年52.8%>2018年29.2%(製造・譲渡・提供時のGHSラベル表示・SDS交付、また安衛法第57条非該当化学物質についても調査)

メンタルヘルス不調により1か月以上休業または退職した労働者がいる事業所の割合は2013年以降、長時間労働をして医師による面接指導の申し出があった労働者がいる事業所及びその実施状況、鉛、有機溶剤、特定化学物質、石綿等、放射線、粉じん別の有害業務の有無及び特殊健康診断、じん肺健康診断の実施状況は、2015年以降、継続して調査しており、2018年調査には、産業医の選任、安全衛生管理の水準も含まれている

「労働安全衛生調査(労働環境調査)」のほうがやや系統的であり、

  • 事業所調査-①有害業務、②作業環境測定、③じん肺健康診断、③化学物質のSDS等
  • 労働者調査-①有害業務、②有機溶剤、③化学物質
  • ずい道・地下鉄工事現場調査-①粉じん抑制対策、②作業環境測定

について継続的に追えるが、それでも2014年調査はそれ以前とけっこう違ってしまっている。

なお、「心理的な負担の程度を把握するための検査実施状況」のページができて、現在2017年と2018年の分のデータが提供されている。

また、平成28年版以降毎年、「過労死等防止対策白書」が公表されるほか、「過労死等防止対策に関する調査研究」の成果も公表されるようになっている。
過労死等防止対策~過労死をゼロにし、健康で充実して働き続けることのできる社会へ

2.労働安全衛生対策

● 労働災害防止計画

2018年2月28日に、2018~2022年度を対象期間とする第13次労働災害防止計画が策定され、以下の「全体目標」が掲げられた。[]内は、2020年5月27日に公表された2019年の労働災害発生状況に基づく達成状況である。

  1. 死亡災害については、2017年と比較して、2022年までに労働災害による死亡者数を15%以上減少させる[13.6%減少]
  2. 死傷災害(休業4日以上)については、2017年と比較して、2022年までに5%以上減少させる[4.3%増加]

また、死亡災害減少の重点業種別目標として、建設業、製造業、林業について15%以上減少[各々16.7%減少、11.9%減少、17.5%減少]、死傷災害減少の重点業種別目標として、陸上貨物運送事業、小売業、社会福祉施設、飲食店について5%以上減少が掲げられた(「業種間の労働推移を考慮して千人率で設定」することとされた)[各々1.8%増加、3.9%増加、10.1%増加、1.4%増加]。

全体目標・重点業種目標以外の目標としては、仕事上の不安等について相談先が職場にある労働者の割合90%以上、メンタルヘルス対策に取り組んでいる事業場の割合80%以上、ストレスチェック結果を集団分析しその結果を活用した事業場の割合60%以上、危険有害性化学物質についてラベル表示と安全データシート(SDS)の交付を行っている化学物質譲渡・提供者の割合80%以上、第三次産業・陸上貨物運送事業の腰痛による死傷災害5%以上減少、職場での熱中症による死亡災害5%以上が掲げられたほか[以上については前項の記述も参照]、以下の8項目が重点事項とされた。

  • 死亡災害の撲滅を目指した対策の推進
  • 過労死等の防止等、労働者の健康確保対策の推進
  • 就業構造の変化及び働き方の多様化に対応した対策の推進
  • 疾病を抱える労働者の健康確保対策の推進
  • 化学物質等による健康障害防止対策の推進
  • 企業・業界単位での安全衛生の取組の強化
  • 安全衛生管理組織の強化及び人材育成の推進
  • 国民全体の安全・健康意識の高揚等

● 働き方改革関連一括法案の成立

2018年6月29日に成立した「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」により、以下を含めた労働基準法による労働時間制度の見直しのほか、労働安全衛生法等が改正された。

  • 時間外労働の上限規制の導入(月45時間、年360時間を原則とし、臨時的な特別の事情がある場合年720時間、単月100時間未満、複数月平均80時間を限度)
  • 月60時間超の時間外労働に対する割増賃金率(50%以上)の中小企業への猶予措置の廃止
  • 一定日数の年次有給休暇の確実な取得(10日以上付与される労働者に対し、5日について毎年時季を指定して付与)
  • 労働時間の状況の把握の実効性確保(労働安全衛生規則で使用者の現認や客観的な方法による把握を原則とすることを規定)
  • フレックスタイム制の清算期間の上限を1か月から3か月に延長
  • 特定高度専門・成果型労働制(高度プロフェッショナル制度)の創設(労働時間、休日、深夜の割増賃金等の規定の適用除外)

法案審議過程で撤回された裁量労働制対象業務の拡大については、あらためて検討会を立ち上げて検討するものとされ、2018年9月20日から裁量労働制実態調査に関する専門検討会が開催されている。
労働安全衛生法改正の主な内容は、以下のとおりである。

  • 労働時間の状況の把握義務の新設
  • 医師による面接指導の拡大(長時間労働者が100時間超から80時間超に改正されるとともに、100時間超研究開発業務従事者、100時間超高度プロフェッショナル制度対象者が追加され、ストレスチェックによる高ストレス者も含めると、4種類になった)
  • 産業医・産業保健機能の強化(権限の付与、必要な情報の提供、安全衛生委員会への報告、業務内容の周知等)
  • 労働者の心身の状態に関する情報の適切な取扱い(2018年9月7日に「労働者の心身の状態に関する情報の適切な取扱いのために事業者が講ずべき措置に関する指針」を策定)

改正労働基準法のほうで、限度時間超長時間労働者、研究開発業務従事者、高度プロフェッショナル制度対象者に対する「健康福祉確保措置」が規定され、選択的措置「医師による面接指導」等があげられていることにも注意が必要である。
上記の労基法・安衛法改正はすべて、2019年4月1日に施行されており、厚生労働省は「『働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律』の実現に向けて」のページをつくっている。

● しわ寄せ防止総合対策の策定

厚生労働省は2019年6月26日、中小企業庁、公正取引委員会とともに、「大企業・親事業者の働き方改革に伴う下請等中小事業者への『しわ寄せ』防止のための総合対策」(しわ寄せ防止総合対策)を策定した。2020年4月からの中小企業への時間外労働の上限規制の適用に向け、緊密な連携を図りながら取り組みを実施していくとしている。2019年11月が「しわ寄せ防止キャンペーン月間」とされ、特設ページも開設されている。

● トラック運転手の長時間労働改善

貨物自動車運送事業法の一部を改正する法律により、トラックドライバーの働き方改革を進め、コンプライアンスが確保できるよう、荷主の配慮義務、荷主に対する国土交通大臣による働きかけ等の規定が新設されたが、これらの荷主関連部分については2019年7月1日から施行された。

関連して同年9月9日に「トラック運転者の長時間労働改善に向けたポータルサイト」が開設され、同年12月20日には、荷主企業・トラック運送事業者向け自己診断ツール等のコンテンツが追加された。

2020年5月29日には、「荷主と運送事業者の協力による取引環境と長時間労働の改善に向けたガイドライン」の「建築資材物流編」、「紙・パルプ(家庭紙分野)」、「紙・パルプ(洋紙・板紙分野)」、「加工食品物流編」が公表された。各々2018年に設置された関係懇談会での検討を踏まえたものだが、懇談会の情報やガイドラインは国土交通省のウエブサイトに掲載され、2016・17年度のパイロット事業については、厚生労働省ウエブサイトに情報がある。

● ハラスメント防止対策

労働施策総合推進法、男女雇用機会均等法及び育児・介護休業法等も改正する女性の職業生活における活躍の推進に関する法律等の一部を改正する法律が、2019年5月29日に成立、6月5日に公布された。

改正労働施策総合推進法により、「職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であって、業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの」と定義されたパワーハラスメント「によりその雇用する労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じ」ることが事業主の義務とされた。

2020年1月15日に「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」(労働省告示第5号)が策定され、2020年6月1日から施行された。中小企業については当面努力義務にとどめ、2022年4月1日から義務化される。

男女雇用機会均等法及び育児・介護休業法においても、セクシャルハラスメントや妊娠・出産・育児休業等に係る規定が一部改正され、いままでの職場でのハラスメント防止対策の措置に加えて、相談したこと等を理由とする不利益取扱いの禁止や国、事業主及び労働者の責務が明確化等が定められた。施行期日は上記と同じである。

厚生労働省は「職場におけるハラスメントの防止のために(セクシュアルハラスメント/妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント/パワーハラスメント)」のページをつくっている。

国際労働機関(ILO)は、2019年6月の第108回総会において「労働の世界における暴力及びハラスメントに関する条約(第190号)・勧告(第206号)及び決議」を採択、ILO駐日事務所は同条約・勧告の日本語訳文を提供している

● 賃金請求権の消滅時効期間等の改正

2019年12月27日に労働政策審議会建議「賃金等請求権の消滅時効の在り方について」が公表され、これを受けて、

  • 労働者名簿等の書類の保存期間を5年間に延長(現行3年間)
  • 付加金の請求を行うことができる期間を違反があった時から5年に延長(現行2年)
  • 賃金請求権の消滅時効期間を5年間に延長(現行2年間)するともに、消滅時効の起算点が請求権を行使することができる時であることを明確化する
  • ただし当分の間はいずれも3年(間)とする

という、労働基準法の一部改正が2020年3月27日に成立、4月1日から施行された。

● 労働安全衛生マネジメントシステム指針改正

2019年7月1日に「労働安全衛生マネジメントシステムに関する指針」が改訂された(令和元年労働省告示第54号)。1999年の制定、2006年の改訂に次ぐもので、2018年3月の労働安全衛生マネジメントシステム係る国際規格(ISO45001)の出版及び同年9月の日本工業規格(JIS Q 45001等)の制定を踏まえたものとされる。厚生労働省のウエブサイトに、「労働安全衛生マネジメントシステムについて」のページがつくられている。

● 受動喫煙防止ガイドラインの策定

2018年に改正された健康増進法が2019年1月24日から順次施行されていることを受けて、2019年7月1日付け基発0701第1号によって、「職場における受動喫煙防止のためのガイドライン」が策定された。厚生労働省のウエブサイトに、「職場における受動喫煙防止対策について」のページがつくられている。

● 情報機器作業ガイドラインの策定

2019年7月12日付け基発0712第2号によって、「情報機器作業における労働衛生管理のためのガイドライン」が策定された。2002年4月5日付け基発第0405001号により「VDT作業における労働衛生管理のためのガイドライン」が策定されてから、17年ぶりの改訂である。「職場における労働衛生対策について」のページに「情報機器作業」関連資料も置かれている。

● エイジフレンドリーガイドラインの策定

2020年1月17日に「人生100年時代に向けた高年齢労働者の安全と健康に関する有識者会議報告書」が公表され、これを踏まえて同年3月16日に「高年齢労働者の安全と健康確保のためのガイドライン」(エイジフレンドリーガイドライン)が公表された。厚生労働省は、ガイドラインの普及のための周知セミナーや関係機関・団体による中小企業に対する個別コンサルティング、中小企業事業者に対する補助事業(エイジフレンドリー補助金(競争的間接補助金))などの各種支援によって、高年齢労働者が安心して安全に働ける職場環境づくりを推進していくとしている。同省のウエブサイトに「高年齢労働者の安全衛生対策について」のページをつくっている。

● 労働者の健康保持増進指針の改訂

第13次労働災害防止計画で、2017年策定の「スポーツ基本計画と連動した事業場における労働者の健康保持増進のための指針[1988年策定、後3回改訂]の見直しを検討するなど、運動実践を通じた労働者の健康増進を推進する」とされたことを受けて、2020年3月31日付けで同指針が改訂された。①従来の労働者「個人」から「集団」への視点を強化、②健康保持増進措置の内容を規定するものから取組方法を規定する指針への見直し等を行ったものとされている。

● COVID-19の労働安全衛生対策

厚生労働省は2020年2月21日に初めて「職場における新型コロナウイルス感染症の拡大防止に向けた取り組みについて」経済団体に対して要請を行い、3月23にち、3月31日、4月17日、5月15日と、労働組合等も追加しながら、要請を重ねてきた。「チェックリスト」や企業(労務の方)及び労働者向け「Q&A」も示されているが、「安全衛生対」という項目自体が建てられていない。なお、4月17日に要請で初めて労働者死傷病報告書についてふれ、5月15日に専用のリーフレットも示した。

全国労働安全衛生センター連絡会議サイトのCOVID19関連情報

● 「安全帯」から「墜落制止用器具」に

建設業等の高所作業において使用される安全帯を「墜落制止用器具」に変更するとともに、「フルハーネス型」の使用を原則とし、安全衛生特別教育が必要等とする改正労働安全衛生法施行令・施行規則等が2019年2月1日に施行された。これに合わせて、2018年6月22日に「墜落制止用器具の安全な使用に関するガイドライン」、また、2019年1月25日には「安全帯の規格」を全面改正した「墜落制止用器具の規格」が策定された。2020年1月9日には、早期のフルハーネス型への買換え等を普及啓発することを目的として、PR動画「愛のハーネス」公開されている。

● 伐木作業等労働災害防止対策の強化

2018年3月6日公表の「伐木等作業における安全対策のあり方に関する検討会報告書」を踏まえて、伐木及びかかり木の処理及び造材の作業における危険並びに車両系木材伐出機械を用いた作業による危険等を防止するため、事業者が講ずべき措置等について労働安全衛生規則が改正され、2019年8月1日に施行された。合わせて、「チェーンソーによる伐木等作業の安全に関するガイドライン」、「林業の作業現場における緊急連絡体制の整備等のためのガイドライン」が改正されている。「伐木作業・林業における安全対策」のページがある。

● 電気自動車整備業務の特別教育

2019年4月26日に「電気自動車等の整備業務に必要な特別教育のあり方に関する検討会報告書」が公表され、特別教育の対象業務に電気自動車等(対地電圧が50ボルトを超える低圧の蓄電池を内蔵する自動車)の整備の業務を規定する労働安全衛生規則の一部改正が行われ、同年10月1日に施行された。

● 安全衛生関係報告書類の入力支援

厚生労働省は、「労働安全衛生法関係の届出・申請等帳票印刷に係る入力支援サービス」を、2019年12月2日から開始した。これは、オンライン申請・届出を可能にするものではいないが、安全衛生関係の報告書類がインターネット上で作成できるようになった。

3.化学物質管理対策等

● 政省令・指針対象物質の追加

発がん物質等は特定化学物質等障害予防規則等による特別規制の対象とされているが、この対象の追加については、

  1. 有害物曝露作業報告(労働安全衛生規則第95条の6)を活用して、
  2. 国が曝露評価と有害性評価をもとにリスク評価(初期リスク評価及び詳細リスク評価)を行い、
  3. リスクが高い作業等については特別規則による規制等の対象に追加する

という仕組みがつくられている。

厚生労働省は「職場における化学物質のリスク評価」のページを開設。
また、厚生労働省「職場のあんぜんサイト」に「リスク評価実施物質」のページがある。

2020年3月12日に公表された「2019年度化学物質のリスク評価検討会報告書」は、16物質について「初期リスク評価」を行った結果、

  • 8物質-2-クロロフェノール、メタクリル酸メチル、2-ブテナール、しよう脳、チオ尿素、テトラメチルチウラムジスルフィド(別名チウラム)、1-ブロモプロパン、メタクリル酸2,3-エポキシプロピル-については「詳細なリスク評価」
  • 2、4-ジクロロフェノキシ酢酸については「経気道からのばく露によるリスクは低いと考えられるが、経皮吸収が指摘されている物質であることから、経皮吸収の観点も含め、リスク評価を確定させるべき」
  • 3物質について「詳細リスク評価」(経気道ばく露に関する中間報告)を行った結果、アセトニトリルと塩化アリルについて「経気道ばく露のリスクは高いものと考えられることから、健康障害防止措置の検討を行うべきである(経皮吸収の観点も含めたリスク評価は別途必要)」

とした。

特別規則の対象以外であっても、厚生労働大臣は、がんその他の重度の健康障害を労働者に生ずるおそれのある化学物質を製造・取り扱う事業者が当該化学物質による労働者の健康障害を防止するための指針(がん原性指針)を公表するものとされ(法第28条第3項)、厚生労働省「職場のあんぜんサイト」に「がん原性に係る指針対象物質」のページがつくられている。

さらに、2019年6月25日付け基発0625第4号によって、既存化学物質のうち2物質について、学識経験者から強度の変異原性が認められる旨の意見を得て、1993年5月17日付け基発第312号の3の別添1「変異原性が認められた化学物質による健康障害を防止するための指針」の適用対象に追加するとともに、1物質を除外した。

また、2019年11月22日付け基発1122第9号によって、事業者からの届出のあった新規化学物質773物質のうち28物質、2019年12月17日付け基発1217第2号によって、773物質のうちからさらに2物質が追加された。

これらによって、同指針の対象となる化学物質の数は、届出物質1,010、既存化学物質237、合計1,247となっている。厚生労働省「職場のあんぜんサイト」に「強い変異原性が認められた物質」のページがある。

● オルト-トルイジン製造・取扱業務を健康管理手帳交付対象

健康管理手帳の交付対象なる業務にオルト-トルイジン製造・取扱業務を追加する(要件は5年以上従事)、労働安全衛生法施行令・労働安全衛生規則の改正が行われ、2019年4月10日に公布・施行された。

● 特定有機粉じん健康障害の防止対策-架橋型アクリル酸系水溶性高分子化合物

2019年4月15日に公表された「架橋型アクリル酸系水溶性高分子化合物の吸入性粉じんの製造事業場で発生した肺障害の業務上外に関する検討会報告書」を受けて、同日、「特定の有機粉じんによる健康障害の防止対策の徹底について」(基安労発0415第1号/基安化発0415第1号/基補発0415第1号)が示された。この新たな呼吸器疾患は2017年に確認されたものである。(後述の「●特定有機粉じんによる肺障害」も参照)

● 塩基性酸化マンガンと溶接ヒューム

塩基性酸化マンガンと溶接ヒュームを特定化学物質(第2物質)に加えて、作業主任者の選任、作業環境測定(溶接ヒュームに係る屋内作業場は除く)、健康診断等を義務づける、労働安全衛生法施行令、特定化学物質障害予防規則、作業環境測定法施行規則の一部改正が行われ、2021年4月1日から施行される予定である。

● 化学物質特殊検診項目の見直し

労働安全衛生法に基づく特定化学物質障害予防規則、有機溶剤中毒予防規則等が制定されてから40年以上が経過するなかで、労働安全衛生法における特殊健康診断等に関する検討会での検討を踏まえ、化学物質取扱業務従事者に係る特殊健康診断の健診項目を見直す労働安全衛生規則等の一部改正が行われ、2020年7月1日から施行される。

化学物質取扱業務従事者に係る特殊健康診断の項目を見直しました(令和2年7月1日 施行)(厚生労働省)

● 個人サンプラーによる作業環境測定の導入

作業環境測定に個人サンプリング法を導入するための作業環境測定法施行規則の一部改正が行われ、2020年1月27日に公布、2021年4月1日施行の予定である。関係告示-作業環境測定基準、作業環境評価基準、作業環境測定士規程も改正され、2020年2月17日には「個人サンプリング法による作業環境測定及びその結果の評価に関するガイドライン」も策定された。これは、2018年11月6日に公表された「個人サンプラーを活用した作業環境管理のための専門家検討会報告書」を受けたものである。

作業環境測定法施行規則の一部を改正する省令等について(厚生労働省)

● トンネル建設工事の粉じん測定方法等

2020年1月30日に「トンネル建設工事の切羽付近における作業環境等の改善のための技術的事項に関する検討会報告書」が公表され、これを受けて粉じん濃度測定方法を改正し、その結果に基づく換気装置の風量の増加等の措置や、有効な電動ファン付き呼吸用保護具を労働者に使用させること等を事業者に義務づける粉じん障害防止規則等の改正が行われ、2021年4月1日以降施行される。

● 化学物質管理のあり方検討会

第13次労働災害防止計画では、「国際的な動向も踏まえ、化学物質の危険性又は有害性等に関する情報提供の在り方や、化学物質による健康障害の発生が疑われる事案を国が把握できる仕組みの検討が必要な状況にある」とされた。2019年9月2日から開催されている「職場における化学物質等の管理のあり方に関する検討会」はこれに対処するものと考えられたが、これまでのところ後者の課題は取り上げられていない模様である。

● アスベスト対策

建築物の解体・改修等における石綿ばく露防止対策検討会」が2020年1月6日に中間取りまとめ、4月14日最終報告書を公表した。これを受けて、

  • 事前調査の方法の明確化と実施者の要件の新設
  • 分析調査実施者の要件の新設
  • 事前調査・分析調査結果の記録の保存(3年間)
  • 計画届の対象拡大
  • 事前調査結果等の届出制度の新設
  • 作業に係る措置の強化(要負圧作業、ケイ酸カルシウム板・仕上塗材、その他)
  • 事前調査結果・作業実施記録の概要の40年間保存、作業実施状況の写真等による記録等の3年間保存
  • 発注者による配慮

等を定めた石綿障害予防規則の改正が行われ、2020年10月1日以降(大部分は2021年4月1日)施行される。

なお、

  • すべての石綿含有建材を規制対象
  • 事前調査の方法の明確化と元請業者に石綿含有建材の有無にかかわらず事前調査結果を都道府県知事への報告、記録の作成・保存義務づけ
  • 隔離等の飛散防止措置を講じずに吹付け石綿等を除去した者等に対する直接罰の導入
  • 元請業者に作業結果の発注者への報告や作業記録の作成・保存義務づけ

等の大気汚染防止法の改正が2020年5月29日に成立している。

● 原子力災害関係等

出入国管理法改正による在留資格「特定技能」の創設を受けて、福島第一原発に特定技能外国人労働者を導入する計画が具体化。問題視するマスコミ報道があり、厚生労働省は2019年5月21日に「東京電力福島第一原子力発電所における外国人労働者に対する労働安全衛生の確保の徹底について」を発出し、東京電力は、当面の間、発電所での特定技能外国人労働者の就労は行わないことにすると発表した。

4.労災補償対策

● 複数事業労働者に係る労災保険法改正

労働政策審議会は、2019年12月23日に労働条件分科会報告「複数就業者に係る労災保険給付等について」建議し、12月20日には職業安定分科会雇用保険部会報告も取りまとめた。これを受けて、雇用保険法等の一部を改正する法律が2020年3月31日に成立した。

労災保険法の改正内容は、複数事業に使用される労働者の複数の事業の業務を要因とする傷病等に関する保険給付を新設するもので、複数事業の賃金を合算した額を基礎とした給付が受けられるとともに、脳・心臓疾患、精神障害等については複数事業における業務上の負荷を総合評価して労災認定されることになる。

改正法の施行日は2020年9月1日とされ、「脳・心臓疾患の労災認定の基準に関する検討会」及び「精神障害の労災認定の基準に関する検討会」において認定方法について検討されている。

● 毎月勤労統計不適切調査の影響

毎月勤労統計の不適切調査が発覚して、大きなスキャンダルになった。同調査の平均給与額の変動を基礎としてスライド率等を算定している労災保険制度等における給付額にも影響が生じ、厚生労働省はウエブサイトに特設ページを設けて、2019年差額相当分の「追加給付」等に追われた。

● 介護(補償)給付額の引上げ

全国脊髄損傷者連合会の重なる見直し要請を受けて2017年に実施された「労災保険の介護(補償)給付に関する状況調査」の結果を踏まえて、同制度創設から22年ぶりに、介護(補償)給付の最高限度額・最低保障額を引き上げる労災保険法施行規則改正が行われ、2019年4月1日から施行された。

最高限度額は特別養護老人ホームの介護職員の平均基本給を、最低保障額は最低賃金の全国加重平均額を参考に各々定期的に見直されることとなり、2019年度もこれによって改正された。

平成31年度 介護(補償)給付・介護料の最高限度額・最低保障額の改定について

● 受付窓口のワンストップ化

労働保険関係成立届について、対象事業の事業主が、健康保険法及び厚生年金保険法上の「新規適用届」または雇用保険法上の「適用事業所設置届」と併せて提出しようとする場合に、年金事務所、労働基準監督署またはハローワークにおいて受け付けることができるものとする、労働保険保険料徴収法施行規則の改正が行われ、2020年1月1日に施行された。概算保険料申告書についても、同様に、年金事務所、労働基準監督署またはハローワークで受け付けることができる。

● 特定有機粉じんー架橋型アクリル酸系水溶性高分子化合物-による肺障害

2018年10月3日からはじまった「架橋型アクリル酸系水溶性高分子化合物の吸入性粉じんの製造事業場で発生した肺障害の業務上外に関する検討会」は2019年4月19日に、胸部画像所見で「両側上葉優位の分布」、「気道周囲の間質性陰影」といった特徴的な所見が認められる呼吸器疾患はアクリル酸系ポリマーの吸入性粉じん曝露業務が相対的に有力な原因となって発症した蓋然性が高いとする報告書をまとめた。これにより、請求のあった5件も労災認定された。(前述の「●特定有機粉じん健康障害の防止対策」も参照)

● 化学物質MOCAによる膀胱がん

上記より先に発覚した化学物質MOCAによる膀胱がんについては、多発事業所が確認されているにもかかわらず、労災申請がなされていなかったが、ようやく申請例がでてき、2020年3月24日から「芳香族アミン取扱事業場で発生した膀胱がんの業務上外に関する検討会」による検討がはじまった。

● COVID-19ー新型コロナウィルス-感染症の労災認定

厚生労働省は2020年2月3日に基補発0203第1号「新型コロナウイルス感染症に係る労災補償業務の留意点について」、4月28日に基補発0428第1号「新型コロナウイルス感染症に係る労災補償における取扱いについて」を発し、労災請求件数等も公表・更新するようになった。

● 電離放射線障害

厚生労働省の「電離放射線障害の業務上外に関する検討会」は、2020年3月19日に「脳腫瘍と放射線被ばくに関する医学的知見」を公表した。

● 精神障害労災認定基準の見直し

厚生労働省は2020年5月15日に「精神障害の労災認定の基準に関する専門検討会報告書」を公表し、これを受けて5月29日付けで「心理的負荷による精神障害の労災認定基準の改正」を行った(基発0529第1号)。これは、6月1日施行のパワーハラスメント防止対策法制化に合わせ、「パワーハラスメント」の出来事を「心理的負荷評価表」に追加したもの。

同検討会は、「複数業務要因災害における精神障害の認定について」検討するとともに、「最新の医学的知見を収集した上で、有識者検討会において、認定基準全般の検討を行う予定」。2020年度には、「ストレス評価に関する調査研究(ライフイベント調査)等の収集予定」である。

● 脳・心臓疾患労災認定基準の見直し

脳・心臓疾患労災認定の基準に関する専門検討会」は、「複数業務要因災害における脳・心臓疾患の認定について」検討するとともに、2020年度に「認定基準全般の検討を行う予定」。2018年度「労働時間以外の負荷要因と脳・心臓疾患の発症に関する医学文献の収集」、2019年度の「労働時間又は睡眠時間と脳・心臓疾患の発症に関する医学文献の収集」で得られた医学的知見等を踏まえた検討とされている。

● 二次健康診断等給付の検診費用の額等

厚生労働省は2020年5月29日に「労働者災害補償保険法における二次健康診断等給付の健診費用の額等のあり方に関する検討会報告書」を公表した。厚生労働省では、この報告書を参考に、労働基準局長通達で定める労災保険二次健康診断等給付担当規程等の改正を予定している。

● 化学物質による疾病リストの見直し

2018年11月30日の「労働基準法施行規則第35条専門検討会報告書」を受けて、労働基準法施行規則別表第1の2第4号の1の物質等の検討を行う同検討会「化学物質による疾病に関する分科会」の作業が2019年7月19日からはじまり、2019年度中に取りまとめの予定だったが遅れている。

● 特別加入制度の見直し

前出2019年12月23日の労働政策審議会建議は、「特別加入の対象範囲や運用方法等について、適切かつ現代に合った制度運用となるよう見直しを行う必要がある」とされ、労働条件分科会労災保険部会で検討が行われている。

厚生労働省は2020年6月29日、「『労災保険制度における特別加入制度の対象範囲の拡大』を検討するにあたり、国民の皆さまからの提案・意見を募集します」と発表。これは、「雇用類似の働き方に係る論点整理等に関する検討会」(2019年6月28日に「中間整理」公表)や「全世代型社会保障検討会議」(2020年6月25日に第2次中間報告取りまとめ)等における検討とも連動している。

5.労働災害・職業病の統計データ

● 労働災害の総件数

労働災害の総発生件数として公表されているデータは、今のところ存在していない。

労働者死傷病報告書は、「労働者が労働災害その他就業中又は事業場内若しくはその附属建設物内における負傷、窒息又は急性中毒により死亡し、又は4日以上休業したとき」に、「遅滞なく」、所轄労働基準監督署長に提出しなければならないとされている。また、「休業3日以内」のものは、3か月分をまとめて提出しなければならない(労働安全衛生法施行規則第97条)。しかし、これに基づく「休業3日以内」のデータは公表されていない。

2007年8月7日に公表された総務省行政評価局の「労働安全衛生等に関する行政評価・監視結果に基づく勧告」が、「休業4日未満の労働災害に関する労働者死傷病報告について、当該データの集計・分析や公表を行うなど、その利用を促進すること」という所見を示し、厚生労働省が2008-09年度に委託した「行政支援研究:休業4日以上と4日未満の死傷災害の比較」研究報告書が、労働者死傷病報告書の様式改善の提案も示して、「休業4日未満労働災害データは、今後の労働災害防止対策の検討に有用である」と結論付けているにもかかわらず、具体的な対応はなされていない。

なお、死傷病報告書の対象には、労災非適用事業に係るものも含む一方で、労災保険給付の対象となる通勤災害や退職後に発症した職業病、労働者ではない労災保険特別加入者に係る死傷病等は含まれない。

本誌では、労働災害の総件数に代わる数字として、「労災保険事業年報」による労災保険新規受給者数を紹介している(表1)。

表1

「労災保険事業年報」は、2005年度分以降、● 死亡災害・重大災害

「死亡災害発生状況」については、2012年までは5月頃に「前年における死亡災害・重大災害の発生状況」として公表されていたが、2014年からは「前年の労働災害発生状況」として死亡災害、死傷災害、重大災害を合わせて公表するようになった(なぜか2017年から重大災害がなくなり、死亡災害と死傷災害だけになってしまっている)。2020年は5月27日に公表されている。

厚生労働省ホームページでは、職場のあんぜんサイト」の「労働災害統計」の各年の「死傷災害発生状況」のなかの、1988~1998年分の「死傷災害発生状況」のうち起因物別・事故の型別データは、明記はされていないものの「労働者死傷病報告」によるデータであろうと思われる。1999年分以降は「『労働者死傷病報告』による死傷災害発生状況」とされている。

もうひとつ、情報公開法が施行されて、「職業病統計に関する一切」を開示請求するようになってから全国安全センターが毎年開示させている「傷病性質コード別労災補償状況」の2002年度分以降に、「負傷(負傷を伴わない事故を含む)」データも掲載されるようになった。内容は、次表のとおりである。

表12 負傷(負傷を伴わない事故を含む。)

この「負傷」合計件数に、その後に続く疾病件数(後掲の表4参照)を合わせた「負傷+疾病」の合計件数が、休業4日以上の死傷災害の「補償件数」であろうと考えられる。

「労働者死傷病報告」によるデータは、素直に考えれば、事業主が届け出た報告の件数をそのまま集計したものであろう(「届出件数」と呼ぶことにする)。それと、2011年以前に公表されてきた「労災保険給付データ及び労働者死傷病報告(労災非適)」による数字(「公表件数」と呼ぶ)、さらに「補償件数」を並べてみると、次表のようになる。

補償件数には、労働者死傷病報告書を届け出する必要のない、通勤災害、労災保険特別加入者や退職後の発症・死亡等も含まれる。

理屈で考えれば、それらを除いた業務災害分だけの補償件数に労災非適用事業に係る労働者死傷病報告件数を加えたものが公表件数ということになりそうな気もするが、そのような説明がなされたことはない。

また、公表件数は、(負傷に限定したとしても)補償件数よりもかなり少なく、そのような事情だけでは説明できそうにない。なお、1999年以降、届出件数が公表件数を上回り(網掛け部分)、実際に届け出られた件数よりも少ない件数しか公表されていない状況が続いていたことになる。
どのような理由で、どのように算定されたのかわからない数字が、長年、死傷災害の公表件数とされ、労働災害防止計画等の数値目標としても用いられてきたということ自体が、実に不可解ではある。

● 業務上疾病

厚生労働省ホームページの、分野別の政策>雇用・労働>労働基準>安全・衛生>労働災害発生状況・災害事例・安全衛生関係統計に、2004年分以降の「業務上疾病発生状況等調査」へのリンクが設定されるようになった。

報道発表資料のところには掲載がなく、労働基準分野のトピックス一覧の記載から掲載日(6~7月)が確認できていたのだが、2018年分についてはここに掲載がない。

ここにある「業務上疾病発生状況(業種別・疾病別)」は、「暦年中に発生した疾病で翌年3月末までに把握した休業4日以上のもの」で、出所は「業務上疾病調」と記載されており、全国労働衛生週間(10月1~7日)に向けて中央労働災害防止協会から発行されている『労働衛生のしおり』掲載のものと同じものである。後掲の表2-1~2-4及び次表では、これを「公表件数」として示している。

どちらも、2014年分以降、「死亡」の内数が示されるようになるとともに、熱中症、脳・心臓疾患等、精神障害、その他の内訳も示されるようになった。

この公表件数がどのように算定されているかも、闇の中であった。

以前、情報公開法に基づく開示請求も行って厚生労働省に説明を求めたところ、「公表件数」は、労働者死傷病報告をそのまま集計しているのではなく、例えば、「非災害性」(第3号)として届け出られた「腰痛」を、事情を確認したうえで「災害性」=「負傷による腰痛」(第1号)に振り替え、また、「じん肺及びその合併症」については、届出件数ではなく労災保険給付データを使っている等との説明がなされた。しかし、処理方法を示した文書は存在していないという回答であった。

他方、前出の「職場のあんぜんサイト」には、2004~2009年分について、「労働者死傷病報告」によると明記された「業種別・年別業務上疾病発生状況」データも示されている。
2010~2013年分については、「『労働者死傷病報告』による死傷災害発生状況(確定値)」でダウンロードできるエクセル・ファイルのなかに、死亡・休業別内訳も示された「業種別・傷病分類別業務上疾病発生状況」のシートが含まれていたのだが、いつの間にか消されてしまい、2014年分以降も同じである。かつて得られたものも含めて、「労働者死傷病報告」によるデータを「届出件数」と呼ぶことにする。

「補償件数」については、驚くべきことに厚生労働省ホームページには一切掲載されてこなかった。

いつできたのか不明だが、厚生労働省ホームページの、分野別の政策>雇用・労働>労働基準>労災補償>業務上疾病の認定>業務上疾病の労災補償状況調査結果(全国計)のページがつくられ、2017年度分が掲載されていた。現在は2018年度分に代わってしまっているが、継続的公表を期待したい。

この調査結果には、職業病リスト第一~十一(2009年分以前は一~九)号別の新規支給決定件数、及び、振動障害、じん肺症等、非災害性腰痛、上肢障害、職業がん、脳血管疾患及び虚血性心疾患、精神障害に係る都道府県別データなどが収録されている。

この元となる調査については、毎年度、補償課長から指示が出されており、調査内容は微妙に変化している。

2019年度は基発0719第1号「業務上疾病の労災補償状況調査について」で指示され、12月19日付け補償課職業病認定対策室長補佐事務連絡「平成30年度『業務上疾病の労災補償状況調査結果(全国計)』について」で調査結果が通知されている。

全国安全センターは、情報公開法を使って、1999年度分以降毎年度、「業務上疾病の労災補償に係る統計の一切」の開示請求を行っている。

実際に開示されるのは、

  1. 「業務上疾病の労災補償状況調査(全国計)」
  2. 「傷病性質コード別労災補償状況」(前掲の表12 負傷(負傷を伴わない事故を含む))と表4(後掲 業務上疾病)を合わせた内容)
  3. 「都道府県別請求・決定状況確認表」(表5(前掲)の内容、2.と同じ「傷病性質コード」によっている)
  4. 「〇年度新規支給決定件数」とだけ題された表6(後掲)の内容
  5. 「疾病別都道府県別件数表」(表9(後掲)の内容

である。

表4

表6

表9

「それらが何らかの文書・冊子の一部をなしている場合には、当該文書・冊子等のすべて」を開示請求しているが、毎年開示されるている2.~5.は表紙すらない集計表だけである(1.は表紙と目次がついている)。

これらのデータは、本誌以外で紹介されることはほとんどないと言ってよい。

次表(再掲)に、「届出件数」「公表件数」「補償件数」を並べてみた。

2010~2013年分の届出件数と公表件数は同じ数字である(2014年分以降の「届出件数」は得られていない。「公表件数」と「補償件数」については表2-1~2-4参照)。

表2-1~2-4

疾病分類別のデータで比較してみると、2010年は452件、2011年は487件、2012年は373件、業務上の負傷に起因する疾病から非災害性腰痛に振り替えていることが確認できる(2010年分は化学物質等による疾病からその他業務に起因する疾病にも5件振り替え)。2013年分は、「届出件数」として公表される段階ですでに操作が行われているのかもしれない。

なお、厚生労働省は、毎年6月頃に前年度分の「過労死等(以前は「脳・心臓疾患と精神障害」)の労災補償状況」及び「石綿による疾病に関する労災保険給付などの請求・決定状況(速報値)」、12月頃に後者の「確定値」及び「石綿ばく露作業による労災認定等事業場」を公表している。これらは、他と区別して特別の「処理経過簿」の作成を指示して、集計・公表されている職業病である。

なお、厚生労働省ホームページ「安全衛生関係統計・災害事例」には、全般など-「労働災害発生状況」、「業務上疾病発生状況調査」、「労働安全衛生特別調査」、「労働災害動向調査」のほか、個別分野-「熱中症による死亡災害発生状況」、「酸素欠乏症・硫化水素中毒による労働災害発生状況」、「石綿の除去作業等に係る計画届及び監督指導等の件数」、「化学物質による労働災害発生状況」、「技能講習の登録機関及び修了者数」、「心理的な負担の程度を把握するための検査実施状況」も掲載されるようになっている。

● 包括的救済規定による業務上疾病(その他業務に起因する疾病)

職業病リストには、例示列挙疾病のほかに、「その他業務に起因する疾病」という項目がある。このカテゴリーについて、厚生労働省は別途毎年調査を実施しており、その調査結果には、どのような疾病が何件認定されているかがわかるが、一般には(HPなど)には統計として明示されていないため、これを次の記事にまとめたので参照していただきたい。

● 労災保険事業年報

前述のとおり、厚生労働省ホームページ(厚生労働統計一覧)に「労災保険事業月報」及び「労働者災害補償保険事業年報」が掲載されるようになった。

これも基本的な統計データであり、全国安全センターでは労災保険法施行以来の事業年報(古いものはコピー)を備え付けている。

ホームページ上では、2005~14年度分について「労働者災害補償保険事業の概況」、2015年度分以降については年報の全文がPDFで、また、2009年度分以降について「保険給付等支払状況」がエクセルファイルで入手できるようになっている。

下に掲載した表1(年別全国)及び表8(都道府県別)に示した基本情報は、これらによって確認できる。詳しくは、以下のとおりである。

労災保険適用事業場数、労災保険適用労働者数は、年報の第1-2表(適用状況〔合計〕(都道府県別))。労災保険新規受給者数、障害(補償)給付一時金新規受給者数、遺族(補償)給付一時金新規受給者数、葬祭料(葬祭給付)受給者数は、「都道府県別、保険給付支払状況(業務災害+通勤災害+二次健康診断等給付)」エクセルファイル。死亡災害発生状況と死傷災害発生状況は、既出の情報源(前述のような公表データの変更があったために、表1の2012年以降の数字及び表8では、労働者死傷病報告による死傷災害発生状況の数字を示してある)。障害(補償)年金、傷病(補償)年金、遺族(補償)年金の新規受給者及び年度末受給者数は、各々、年報第7-10表(障害補償年金受給者数(都道府県別、等級別))、年報第7-15表(傷病補償年金受給者数(都道府県別、等級別))、第7-13表(遺族補償年金受給者数(都道府県別、新規受給者数は年金新規と前払一時金新規を合算)によっている。

表1

表8

労働安全衛生をめぐる状況2019年→2020年(PDF)

※安全センター情報2020年9月号掲載

労働安全衛生をめぐる状況2019年→2020年掲載各表Excelファイル