アスベスト(石綿)による疾病の労災認定/労災補償の申請・給付について

アスベストを原因とする中皮腫や肺がんなどの疾病に罹患された方は、労災保険制度において認定される可能性があります。(公務員の場合は、地方公務員災害補償制度、国家公務員災害補償制度、船員の場合は船員保険制度が用意されています。特殊なケースとしては、旧国鉄は鉄道・運輸機構に補償制度があります。いずれも、認定基準は労災制度を所管する厚生労働省が定めるものを使用しています。)

以下の基本的事項について、ポイントを知っておくと申請(請求)に取り組むときの助けになります。

なお、労災申請の前提ともなる、どこでアスベストにばく露したのかよくわからない方などご自身のアスベストばく露職歴を調べる必要のあるときには、次の検索サイトが参考になります。

ご質問やさらに詳細についてご相談のある方は、全国安全センター各地域センターにお気軽にお問い合わせください。
なお、 労災申請窓口は全国の労働基準監督署になります。

アスベスト(石綿)による疾病の労災認定基準

  1. アスベスト労災対象疾病(5疾病)に罹患したこと
  2. 「労働者」ないしは「労災特別加入」の時代に、「石綿ばく露作業」に、目安とされる期間従事したこと

が基本要件になります。

アスベスト(石綿)労災の対象となる疾病

以下の5つの疾病について、いずれかに該当する場合、労災補償の対象となります。

石綿肺

石綿肺はじん肺の一つとして扱われますので、次のじん肺の労災補償対象と同一の基準である1.又は2.のいずれかに該当する石綿肺。

  1. じん肺管理区分「管理4」の石綿肺
  2. じん肺管理区分「管理2」以上の石綿肺であって、かつ、次の5つの合併症に罹患していると認められる
    「肺結核」「続発性気管支炎」「続発性胸膜炎」「続発性気管支拡張症」「続発性気胸」

肺がん

肺に原発した「原発性肺がん」であり、最初の石綿ばく露作業(労働者として従事したか否かを問わない)の開始から10年以上後に発症したもので(潜伏期間10年以上)、次の1.から6.のいずれかに該当する肺がん。

  1. 第1型以上の石綿肺所見がある
  2. 胸膜プラーク所見がある+労働者又は労災特別加入期間における合計の石綿ばく露作業従事期間(以下、石綿ばく露作業従事期間)が10年以上ある
  3. 石綿小体、石綿繊維について次のいずれかに該当する+石綿ばく露作業従事期間が1年以上ある
    ア 乾燥肺重量1グラムあたり5,000本以上の石綿小体
    イ 乾燥肺重量1グラムあたり200万本以上の繊維長 5μmを超える石綿繊維
    ウ 乾燥肺重量1グラムあたり500万本以上の繊維長 1μmを超える石綿繊維
    エ 気管支肺胞洗浄液 1 ml 中 5本以上の石綿小体
    オ 肺組織切片中の石綿小体又は石綿繊維
  4. 「明らかな胸膜プラーク所見」又は「広範囲の胸膜プラーク所見」※がある + 石綿ばく露作業従事期間が1年以上ある
  5. 労災認定要件を満たしている「びまん性胸膜肥厚」の所見がある(後述の「びまん性胸膜肥厚」参照)
  6. 「石綿紡織製品製造業」、「石綿セメント製品製造作業」、「石綿吹付作業」での石綿ばく露作業従事期間が1年以上ある
※「明らかな胸膜プラーク所見」とは?

胸部正面エックス線写真により胸膜プラークと判断できる明らかな陰影が認められ、かつ、胸部CT画像により当該陰影が胸膜プラークとして確認されるもの。
胸膜プラークと判断できる明らかな陰影とは、次の(ア)又は(イ)のいずれかに該当する場合をいう。
(ア) 両側又は片側の横隔膜に、太い線状又は斑状の石灰化陰影が認められ、肋横角の消失を伴わないもの。
(イ) 両側側胸壁の第6から第10肋骨内側に、石灰化の有無を問わず非対称性の限局性胸膜肥厚陰影が認められ、肋横角の消失を伴わないもの。

※「広範囲の胸膜プラーク所見」とは?

胸部CT画像で胸膜プラークを認め、左右いずれか一側の胸部CT画像上、胸膜プラークが最も広範囲に描出されたスライスで、その広がりが胸壁内側の1/4以上のもの。

「明らかな胸膜プラーク所見」又は「広範囲の胸膜プラーク所見」についての参照資料 2012年3月29日基発0329第2号「 石綿による疾病の認定基準について」別添1「胸部正面エックス線写真により胸膜プラークと判断できる明らかな陰影」 に係る画像例及び読影における留意点

中皮腫(胸膜・腹膜・心膜・精巣鞘膜)

最初の石綿ばく露作業(労働者として従事したか否かを問わない)の開始から10年以上後に発症したもので(潜伏期間10年以上)、次の1.または2.に該当する中皮腫。

  1. 第1型以上の石綿肺の所見がある
  2. 石綿ばく露作業従事期間が1年以上ある

良性石綿胸水

厚生労働省本省での個別事案についての協議(本省協議)に全事案が付される。

びまん性胸膜肥厚

  1. 石綿ばく露作業従事期間が3年以上ある
  2. 著しい呼吸機能障害(パーセント肺活量(%VC)が60%未満など)がある
  3. 胸部CT画像上に一定以上の肥厚の広がりがある(一定以上:片側のみ肥厚がある場合は側胸壁の1/2以上、両側に肥厚がある場合は側胸壁の1/4以上あるもの)

石綿ばく露作業の種類

労災認定基準に定められている石綿ばく露作業は次の通りです。

  1. 石綿鉱山又はその附属施設において行う石綿を含有する鉱石又は岩石の採掘、搬出又は粉砕その他石綿の精製に関連する作業
  2. 倉庫内等における石綿原料等の袋詰め又は運搬作業
  3. 次のアからオまでに掲げる石綿製品の製造工程における作業
    ア 石綿糸、石綿布等の石綿紡織製品
    イ 石綿セメント又はこれを原料として製造される石綿スレート、石綿高圧管、石綿円筒等のセメント製品
    ウ ボイラーの被覆、船舶用隔壁のライニング、内燃機関のジョイントシーリング、ガスケット(パッキング)等に用いられる耐熱性石綿製品
    エ 自動車、捲揚機等のブレーキライニング等の耐摩耗性石綿製品
    オ 電気絶縁性、保温性、耐酸性等の性質を有する石綿紙、石綿フェルト等の石綿製品(電線絶縁紙、保温材、耐酸建材等に用いられている。)又は電解隔膜、タイル、プラスター等の充填剤、塗料等の石綿を含有する製品
  4. 石綿の吹付け作業
  5. 耐熱性の石綿製品を用いて行う断熱若しくは保温のための被覆又はその補修作業
  6. 石綿製品の切断等の加工作業
  7. 石綿製品が被覆材又は建材として用いられている建物、その附属施設等の補修又は解体作業
  8. 石綿製品が用いられている船舶又は車両の補修又は解体作業
  9. 石綿を不純物として含有する鉱物(タルク(滑石)等)等の取扱い作業
  10. 1.から9.までに掲げるもののほか、これらの作業と同程度以上に石綿粉じんのばく露を受ける作業
  11. 1.から10.までの作業の周辺等において、間接的なばく露を受ける作業

アスベスト(石綿)労災の請求・給付内容と請求期限

労災保険には、いくつかの給付があり、それぞれ個別に請求をする必要があります。各給付の請求には、「時効」があります。以下の表は、基本的な給付の内容と時効について記載したものです。

遺族補償給付の時効は、死亡の翌日から起算して5年です。したがって、これが労災保険の最後の請求期限ということになります。
しかし、石綿による疾病については遺族補償給付の時効を経過した事案が多数生じていたため、石綿健康被害救済法において、こうした時効遺族に対する特別措置が設けられました。これについては、次項の「特別遺族給付金」をご覧ください。

アスベスト(石綿)労災の労災給付の主な給付内容

労災補償給付-1

※「給付基礎日額」とは、最後に石綿ばく露をした事業場(石綿)での最終3ヶ月の給与などの方法で算定されます。従って、請求する方によって金額が異なってきます。

※「算定基礎日額」とは、最後に石綿ばく露をした事業場(石綿)での最終1年間の特別給与(ボーナス)などにより算定されます。

このほかに、通院費、遺族への就学援護費が請求に基づいて、基準により支給されます。

中皮腫の通院費の取扱いについて

中皮腫はアスベストに特異な希少がんです。そのため、経験豊富な医師、スタッフのいる医療機関は国内でも限られます。手術が唯一の根治的治療とされますが、中皮腫手術ともなると、経験豊富な医療機関は非常に限られます。

そのため、中皮腫の治療のための通院費(労災保険制度上は「移送費」と称されます)の取扱いについては、特別な措置が通達で決められていますので、遠方の医療機関への通院についてもこれを利用することができます。都道府県を越えて遠方の専門病院への通院費も認められることがあります。

アスベスト(石綿)労災の不服申し立てと不支給処分取消し訴訟について

労災の不支給決定通知を受け取った日の翌日から3ヶ月以内であれば各都道府県労働局の労働者災害補償保険審査官に「審査請求」をすることができます。

労災が不支給(不認定)にされた場合はもちろん、支給(認定)された場合でも給付基礎日額が低く算定されているなど、決定の内容に不服がある場合も、不服審査請求が可能です。

「審査請求」の決定後、同様に不服の申し立てが認められなかった場合(棄却など)は労働保険審査会に対して「再審査請求」することができます。審査請求の決定書を受け取った翌日から2ヶ月以内と期限が定められています。

再審査請求によっても棄却などの裁決を受けて不支給処分が取り消されなかった場合で、その裁決に不服がある場合は、はじめの労基署長による処分(原処分)の取消しを求めて行政訴訟を起こすことができます。

原処分取消しを求めた行政訴訟は次の場合に起こすことができます。

  • 審査請求決定後6ヶ月以内又は審査請求をして3ヶ月を経過しても決定がない場合
  • 再審査請求をしていている場合の裁決前
  • 再審査請求に対する裁決があったことを知った日(実際には、裁決書を受け取った日)の翌日から6ヶ月以内(ただし、提訴日が裁決の日から1年を超えていた場合は提訴できない)

特別遺族給付金について~死後5年を経過してしまい、時効で遺族補償給付請求ができなくなった方~

労災保険の遺族補償給付は請求時効は死亡の翌日から5年です。2005年6月29日にはじまった「クボタショック」「アスベストショック」の中で、多くの遺族が時効で労災補償を受けられなくなっていることがわかりました。

こうした方に対して時効を適用を停止を求める声が大きく巻き起こり、その運動の結果、翌年3月から施行された石綿健康被害救済法の中に特別遺族給付金制度が設立されました。多くの遺族がこの制度で特別遺族給付金を請求し、救済されてきました。しかし、今も、この制度が適用される被害者遺族は少なからず存在しています。

特別遺族給付金には年金(年間240万円)と一時金(1200万円)があります。

年金対象の遺族は、被災労働者死亡当時に生計維持関係にあった妻を筆頭に細かく決められています。年金対象の遺族がいない場合には、一時金対象遺族に一時金が支給されます。

申請窓口は、全国の労働基準監督署になります。

特別遺族給付金の申請にあたっては、過去の石綿ばく露歴や医療記録の存否、内容が問題になるケースが比較的多いのが実情ですので、申請にあたっては、全国安全センターや各地域安全センターなどの経験豊富な相談員のいる支援団体に相談されることをお勧めします。

請求期限、支給対象に注意しましょう。


この制度は、石綿被害を受けた労働者遺族への特別救済措置です。
注意しなければならないのは、

  • 特別遺族給付金の請求期限は、2022年3月27日まで
  • 特別遺族給付金の支給対象は、2016年3月26日までに死亡した方の遺族

という点です。

わかりにくいのですが、2016年3月26日に死亡した方の遺族の遺族補償給付の請求期限は時効の定めにより、2021年3月26日です。つまり、2021年3月27日以降については、特別遺族給付金の請求しかできなくなります。そして、その期限は、2022年3月27日の1年後の2022年3月26日なのです。

中皮腫、肺がんはじめ石綿疾病の潜伏期間は数十年が普通ですから、亡くなった時点で、原因に気づかない遺族はいまだに相当いますし、遺族補償給付の時効5年はそもそも短いといえます。患者団体、支援団体は、時効の撤廃や特別遺族給付金の請求期限の延長を求めて、現在も運動を続けているところですが、法改正には至っていません。

いずれにしても、大事なのは、遺族補償給付はじめ労災請求の時効にかからないようにすることです。

【参考・根拠資料 】