日本の労働安全衛生をめぐる状況【2021年→2022年】~労働災害・職業病(業務災害・業務上疾病)統計の構造、労働安全衛生情報
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目次
- 1.労働災害・職業病(業務災害・業務上疾病)の発生状況等
- 2.労働安全衛生対策
- 3.化学物質管理対策等
- 4.労災補償対策
- 5.労働災害・職業病の統計データ
- 本記事が参照する表1~表10
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1.労働災害・職業病(業務災害・業務上疾病)の発生状況等
● 労災保険新規受給者
労災保険新規受給者数は、2009年度の534,623人を底にして増加傾向に転じ、2018・19年度には約25年前のレベルにまで戻ってしまった。2020年度は653,355人で前年度比5%の減少となった。
2020年度の労災保険新規受給者についてみると、業務災害574,318人(87.9%)、通勤災害79,037人(12.1%)で合計653,355人(100%)。その発生年度別内訳は、2020年度488,042人(74.7%)、2019年度161,001人(24.6%)、2018年度3,210人(0.5%)、2017年度667人(0.1%)、2016年度124人、2015年度以前311人、となっている。
● 死亡災害
2021年5月30日に、事業主の届け出た労働者死傷病報告を暦年単位で集計した「令和3[2021]年の労働災害[死亡災害と休業4日以上の死傷災害]発生状況」が公表されているが、死亡災害は、2015年以降は1,000人を下回る状況が継続し、2018年909人、2019年845人、2020年802人と3年連続で最低記録を更新した後、2021年は867人と、前年と比較して65人、8.1%の増加に転じた。
ただし、新型コロナウイルス感染症によるものが、2020年18人から2021年89人へと、前年と比較して71人、3.94倍と大幅に増加したことが主な原因と考えられる。これを除く死亡災害でみると、2020年784人、2021年796人で、いずれも800人を下回り、前年と比較して12人、1.5%の増加にとどまっている。
死亡原因別では、新型コロナウイルス感染症が含まれると思われる「その他」が、2020年41件から2021年113件へと72件の増加。2021年の業種別では保健衛生業がもっとも多く28人(うち社会福祉施設25人)で、陸上貨物運送業16人、建設業15人、交通運輸業12人と続いている。
その他の死亡原因で2020年から2021年に増加したのは、「墜落・転落」26人、「はさまれ・巻き込まれ」9人、「激突され」8人の順であった。
2018年2月に策定された第13次労働災害防止計画は「2017年と比較して2022年までに15%以上減少」という目標を掲げた。2017年の死亡災害は978人なので、831人以下が目標である。
なお、厚生労働省「職場のあんぜんサイト」の「労働災害統計」に、2013(後半年)~2021年分について、「建設業の一人親方等の死亡災害発生状況」が掲載されているが、年64~103件で推移している。
● 死傷災害
休業4日以上の死傷災害は、2010年の105,718人を底に微増傾向にあり、2018年127,329人、2019年125,611人、2020年131,156人、2021年は149,918人で、前年と比較して14.3%の増加であった。
ただし、新型コロナウイルス感染症によるものが、2020年6,041人(4.6%)、2021年19,332人(12.1%)あり、両年の対前年比増加5,545人と18,762人が主な原因である。これを除く死傷災害でみると、2020年125,115人、2021年130,586人で、前年と比較して5,471人、4.4%の増加である。
新型コロナウイルス感染症では、保健衛生業の占める割合が死亡災害の場合よりも高い。
新型コロナウイルス感染症を除くと、とくに死傷者数が最多の「転倒」(前年比2,743人、8.9%増)、腰痛等の「動作の反動・無理な動作」(同1,656人、8.7%増)で大きく増加した。
第13次労働災害防止計画は「2017年と比較して2022年までに5%以上減少」という目標を掲げており、2017年の死傷災害は120,460人なので、114,437人以下が目標であるが、新型コロナウイルス感染症を除いても難しそうな状況である。
厚生労働省による前年の労働災害発生状況公表に当たっては(例:「令和3年の労働災害発生状況を公表」<2022年4月5日>)、2009年から「派遣労働者の労働災害発生状況」(例:2021年「派遣労働者の労働災害発生状況」)、2013年から「外国人労働者の労働災害発生状況」(例:2021年「外国人労働者の労働災害発生状況」)、2021年から「高年齢労働者の労働災害発生状況」(例:2021年「高年齢労働者の労働災害発生状況」)も公表されるようになっている。
※各年の発表は厚生労働省報道発表資料 より閲覧できる。例年、4月末から5月に公表されている。
令和3年の労働災害発生状況を公表(2022年4月5日)
令和2年の労働災害発生状況を公表(令和3年4月30日厚生労働省)
平成31年1月から令和元年12月までの労働災害発生状況を公表(2020年5月27日)
平成30年の労働災害発生状況を公表(2019年5月17日)
また、「安全衛生関係統計・災害事例について」では、「酸素欠乏症・硫化水素中毒による労働災害」や「化学物質による労働災害」の発生状況に関する情報も提供している。
● 死亡災害対労働災害の比率
1件の重大災害の背後には、29件の軽症災害と300件の無傷害災害があるというよく知られたハインリッヒの法則の「1:29:300」という数字の妥当性はともかくとして、「死亡災害件数」を1とした場合の、「休業4日以上の災害件数(休業4日以上の死傷災害災害-死亡災害)」及び「休業3日以内+不休災害の件数(労災保険新規受給者数-休業4日以上の死傷災害)」の比率を次表に示した。
過去25年の平均では、この比率は1:90.8:356.5ということになるが、1996年の1:67.9:208.2から2020年の1:163.5:650.1へと、後者2つの比率が経年的に増加していることがわかる。しかし、業種別のばらつきが著しい。とりわけ、鉱業、農林水産業、建設業では、製造業やその他事業と比較すると、休業+不休災害の件数が著しく低い。これは「労災隠し」の存在を示唆しているとも考えられる。このような分析も、「労災隠し」の根絶のために活用されるべきであると考える。
● 業務上疾病
業務上疾病(職業病)は、補償件数で、2002年度の8,810件を底に、2005年夏のクボタ・ショックの影響で2006年には(過去死亡事例を含めて)11,171件に増加。最近では、2016年度の8,512件から、2017年度8,645件、2018年度9,170件、2019年度は9,359件へと上昇気味であったが、2020年度は前年度比4,561件、48.7%増加して13,920件と、クボタ・ショックを上回る突出を記録することになった。
原因は、4,545件の新型コロナウイルス感染症の労災認定であり、これを除くと9,350件で前年度とほぼ同レベルである。
新型コロナウイルス感染症の労災認定については厚生労働省が毎月情報更新を継続しており、2021年度は19,264件と4倍に増加したことがわかっている。業務上疾病全体では3万件近くになっている可能性がある。新型コロナウイルス感染症はまさに最大の職業病になっている。
下図に、新型コロナウイルス感染症以外の、「主な職業病の認定件数の推移」を示した。
主な職業病の認定件数の推移
伝統的な職業病の双璧のひとつ-「じん肺及びその合併症」の認定件数は、2003年度から原発性肺がんが合併症に追加されたにもかかわらず減少が続いた後、2015~2017年度は横ばい、2018年度は277件と初めて300件を割り、以降「振動障害」を下回るようになって、2020年度は222件まで減少した。もうひとつの伝統的な職業病の双璧-「振動障害」の方は、2005年度まで減少し続けた後は、ほとんど横ばいか微増のようにみえる。2020年度は269件だった。
「上肢障害」は、1997年の労災認定基準改正以降増加傾向を示し、2008年度に「じん肺及びその合併症」を上回り、2009年度以降いったん減少に転じたものの、2013年度以降反転して、再び増加傾向を示した。2019年度は1,013件で初めて千件を超え、図中の疾病のなかで最大であるが、2020年度は921件と減少している。
「中皮腫」と「石綿肺がん」は、2005年夏のクボタショックで認定件数が激増。中皮腫による死亡者が増加し続けていることに示されているように、被害は増えているはずなのに、中皮腫で横ばい、石綿肺がんが漸減傾向にあるようにみえることが気にかかる。2020年度は各々608件と337件、合計すると945件で上肢障害と並ぶ。2021年度の速報値では578件と348件の合計926件である。
「脳・心臓疾患」は、2001年の労災認定基準改正で増加したものの、2008年度以降減少に転じ、2011・12年度は増加したが、2013年度以降再び減少傾向にあるようにみえる。2020年度は194件と200件を割ってしまい、2021年度は認定基準の改正があったにもかかわらず172件にまで減った。
「精神障害」は、1999年の判断指針策定以来増加し続け、2010年度にはついに「脳・心臓疾患」を上回った。2011年末に判断指針が認定基準に改訂されて2012年度はさらに増加し、「石綿肺がん」も上回ったが、2014年度以降は横ばい、2018年度は465件でやや減少、2019年度509件、2020年度は608件、2021年度629件と、3年連続増加という状況である。
下図は、「認定率」を分析したものである。
主な職業病の認定率の推移
また、表5に、請求件数、不支給決定件数が判明している職業病に係るデータのすべてを示してあるので参照していただきたい。表5の最下欄には、認定率①=認定件数/請求件数(いずれも当該年度)、認定率②=認定件数/(認定件数+不支給決定件数)の二つの指標を示してあるが、上図に示したのは、認定率②の方である。
表5 業務上疾病の新規請求件数、支給・不支給決定件数(情報が開示されているもの)
2021_2022_table05認定率②は、「中皮腫」がもっとも高く90%超、次いで「石綿肺がん」で90%に迫りつつあったが、2018年度86.0%、2019年度89.3%、2020年度88.2%、2021年度は86.4%だった。その次が「上肢障害」で70%前後で推移しているが、長期的に減少傾向にないか、気にかかる。2020年度は64.5%だった。
これらと比較すると、「脳・心臓疾患」、「精神障害等」は著しく低い。「脳・心臓疾患」の認定率は減少傾向にあり、2020年度は29.2%で過去最低を更新した後、2021年度は32.8%でやや持ち直した。2012年度に「精神障害」の認定率が上昇したのは、2011年末の認定基準策定の影響と考えられるが、一時は40%超えが期待されたものの、その後停滞・減少して、2021年度は32.2%であった。
「非災害性腰痛」の認定率は、2000年度に60%を超えた後、50%前後で推移してきたが、2011年度に大きく減少した後、40%以下で動揺してきた。2019年度46.9%まで持ち直したものの、2020年度は36.6%に減少している。
なお、新型コロナウイルス感染症については、2020年度の認定率①は53.7%、認定率②は95.9%(2021年4月分までの2年間累計では98.5%)であり、認定率でも職業病トップクラスを誇っている。
公表件数と補償件数を比較すると(下の表2-1から表2-4)、「災害性(負傷による)腰痛(一-1)」は公表件数のほうが1千件以上多く、2017年度以降は2千件以上の差になっている。「異常温度条件による疾病(二-4)」、「その他の物理的因子による疾病(二-6)」、「その他の身体に過度の負担のかかる作業態様に起因する疾病(三-5)」、「その他業務に起因することの明らかな疾病」(十一)でも系統的に、「化学物質による疾病(四-2)」や「細菌、ウイルス等の病原体による疾病(六)」では部分的に、公表件数が補償件数を上回っている。新型コロナウイルス感染症については、2020年の公表件数6,041件に対して、2020年度の補償件数は4,545件である。これらは、使用者が職業病と判断して死傷病報告を届け出たにも関わらず、労災補償請求手続がなされていないか、請求手続がなされたにもかかわらず認定されていないことを意味すると考えられ、問題である(2021年度は、公表件数19,332件、補償件数20,842件と、逆転した)。
反対に、「腰痛以外の負傷による疾病」(一-2)、「騒音による耳の疾病」(二-5)、「重激業務」(三-1)、「非災害性腰痛」(三-2)、「振動障害」(三-3)、「職業がん」(七)、「脳・心臓疾患等」(八)、「精神障害等」(九)では、系統的に補償件数が公表件数を(大きく)上回っている。退職後に発病したものは後者に含まれないとしても、それだけでは説明できないと思われる乖離がある。
表2-1 業務上疾病の発生状況
2021_2022_table02_1_12021_2022_table02_1_2
表2-2 「身体に過度の負担のかかる作業態様に起因する疾病」の発生状況
2021_2022_table02_2表2-3 「業務上の負傷に起因する疾病」等の発生状況
2021_2022_table02_3表2-4 「その他業務に起因することの明らかな疾病」等の発生状況
2021_2022_table02_4なお、表7-1~7-3で「傷病別長期療養者数」が示されているが、2020年度分では、それまでのじん肺(5,268人)、頸肩腕症候群(151人)、腰痛(656人)、一酸化炭素中毒(5人)、振動障害(5,002人)に加えて、良性石綿疾患(良性石綿胸水・びまん性胸膜肥厚)(208人)、悪性石綿疾患(肺がん・中皮腫)(1,418人)、脳・心臓疾患(173人)、精神障害(1,675人)の療養開始後1年以上経過した者の数も示されるようになった(括弧内は2020年度末療養中の者の数)。
表7-1 年度別・傷病別長期(1年以上)療養者数
2021_2022_table07_1表7-2 傷病別長期療養者推移状況(2020年度)
2021_2022_table07_2表7-3 都道府県別・傷病別長期(1年以上)療養者数(2020年度末)
2021_2022_table07_3参考として、各種統計の業種別内訳を一覧表にして示した。
● 労働者の健康状況等
労働者の健康状況全般については、定期健康診断受診者のうちの有所見率が、1990年の23.6%か ら2020年の58.5%へと経年的に増加し続けている(表3-1)。
表3-1 定期健康診断・特殊健康診断・じん肺健康診断の実施状況
2021_2022_table03_1項目別の有所見率では、血圧、貧血、血中脂質検査、血糖検査、心電図検査で経年的な増加傾向が認められる(表3-2)。ただし、2016~2018年の数値は「精査中」とされたまま、新しいデータが公表されていない。
表3-2 定期健康診断の実施結果(項目別の有所見率所見率等)
2021_2022_table03_2警察庁によれば、自殺者が2011年まで14年連続で3万人を超えた後、2012年27,858人から2019年20,169人まで減少。2020年は21,081人と増加したが、2021年は21,007人だった。そのうち「被雇用者・勤め人」が2019年6,202人(30.8%)から2021年6,692人(31.9%)へと増加した一方、「勤務問題」が原因・動機のひとつとなっているものが1,949人(9.7%)から1,935人(9.2%)と減少している。
「労働安全衛生に関する調査」が厚生労働省のホームページに掲載されている
ここでは、「労働者健康調査」、「労働災害防止対策等重点調査」、「労働安全衛生基本調査」、「建設業労働災害防止対策等総合実態調査」、「技術革新と労働に関する実態調査」が「廃止した調査」とされていることがわかる。例えば、5年ごとに実施されていた「労働者健康調査」では、自分の仕事や職業生活に関して「強い不安、悩み、ストレスがある」とする労働者の割合が、1992年57.3%→1997年62.8%→2002年61.5%→2007年58.0%→2012年60.9%と推移してきていた。
「労働安全衛生調査(実態調査)」(2013・15・16・17・18年、19年はなく、20年は2021年7月21日に公表、21年は2022年7月25日公表)と「労働安全衛生調査(労働環境調査)」(1996・2001・06・14・19年)が継続されているようだ。
「労働安全衛生調査(実態調査)」の個人(労働者)調査では、現在の仕事や職業生活に関して「強い不安、悩み、ストレスがある」労働者の割合-2013年52.3%。以後質問が若干変わり、「強いストレスとなっていると感じる事柄がある」-2015年55.7%<2016年59.5%>2017年58.3%>2018年58.0%>2020年54.2%>2021年53.3%。
「職場で受動喫煙がある」労働者の割合(「ほとんど毎日」と「ときどきある」の合計)-2013年47.7%>2015年32.8%<2016年34.7%<2017年37.3%<2018年28.9%>2020年20.1%<2021年20.7%。
「労働安全衛生調査(実態調査)」の事業所調査は、内容がかなり変わってしまっていて、2021年調査では産業保健、受動喫煙対策、長時間労働者に対する取組に関する事項がなくなり、いまも継続的に追えるのは、以下を実施または取り組んでいる事業所の割合くらいで、以下のとおりである。
- メンタルヘルス対策-2013年60.7%>2015年59.7%>2016年56.6%<2017年58.4%<2018年59.2%<2020年61.4%>2021年59.2%
- ストレスチェック-2013年26.0%>2015年22.4%<2016年62.3%<2017年64.3%>2018年62.9%>2020年62.7%<2021年65.2%(ストレスチェックの活用状況も調査している)
- ストレスチェック結果の集団分析-2015年40.4%<2016年43.8%<2017年58.3%<2018年73.3%<2020年78.6%>2021年76.4%
- 化学物質を取り扱う際のリスクアセスメントをすべて実施:安衛法第57条該当化学物質-2017年52.8%>2018年29.2%<2020年67.2%<2021年78.0%(製造・譲渡・提供時のGHSラベル表示・SDS交付、また安衛法第57条非該当化学物質についても調査)
- 高年齢労働者労働災害防止対策-2013年64.6%>2016年55.7%<2020年74.6%<2021年75.6%
- 外国人労働者労働災害防止対策-2020年89.8%>2021年87.5%
なお、過去1年間にメンタルヘルス不調により1か月以上休業または退職した労働者がいる事業所の割合が、2011年9.0%>2012年8.1%<2013年10.0%>2020年9.2%<2021年10.1%、となっている(2015~18年は休業者・退職者別の数字のみ)。
「労働安全衛生調査(労働環境調査)」のほうがやや系統的であり、事業所調査-①有害業務、②作業環境測定、③化学物質、労働者調査(2019年は「個人調査」)-①有害業務、②有機溶剤、③化学物質、ずい道・地下鉄工事現場調査-①粉じん抑制対策、②作業環境測定、について継続的に追えるが、それでも2014・19年調査はそれ以前とけっこう違ってしまっている。
なお、「心理的な負担の程度を把握するための検査実施状況」のページができて、現在2017・18・20年の分のデータが提供されている。
また、平成28年版以降毎年、「過労死等防止対策白書」が公表されるほか、「過労死等防止対策に関する調査研究」の成果も公表されるようになっている。
2.労働安全衛生対策
● 労働災害防止計画
2018年2月28日に、2018~2022年度を対象期間とする第13次労働災害防止計画が策定され、以下の「全体目標」が掲げられた-[ ]内は、2022年5月30日に公表された2021年の労働災害発生状況に基づく達成状況である。
- 死亡災害については、2017年の978人と比較して、2022年までに労働災害による死亡者数を15%以上減少させる[2021年に867人で11.3%の減少、新型コロナウイルス感染症を除くと778人で20.4%の減少]
- 死傷災害(休業4日以上)については、2017年120,460人と比較して、2022年までに5%以上減少させる[2021年に149,918人で24.5%の増加、新型コロナウイルス感染症を除くと130,586人で8.4%の増加]
また、死亡災害減少の重点業種別目標として、建設業、製造業、林業について15%以上減少[2021年時点で各々10.8%減少、14.4%減少、25.0%減少]、死傷災害減少の重点業種別目標として、陸上貨物運送事業、小売業、社会福祉施設、飲食店について5%以上減少が掲げられた(「業種間の労働推移を考慮して千人率で設定」することとされた)[2021年時点で各々0.9%増加、19.6%増加、94.9%増加、16.2%増加]。
新型コロナウイルス感染症の直接・間接の影響を注意深く監視する必要がある。
● 新型コロナウイルス感染症対策
厚生労働省は、2020年4月17日、5月14日、8月7日、11月27日、2021年1月8日、2月12日に続き、4月26日、5月10日、5月17日、7月13日に業種別事業主団体等に対して、職場での新型コロナウイルス感染症への感染予防と健康管理の強化などを依頼した。しかし、「昼休みの時差取得」やワクチン摂取関連が追加されたりしているものの、緊急事態宣言の発出・延長等を受けた注意喚起が基本で、対策の新機軸を打ち出したりはしてはいない。
● 4指針+1マニュアルのハラスメント防止対策
改正労働施策総合推進法により、「職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であって、業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの」と定義されたパワーハラスメント「によりその雇用する労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じ」る事業主の義務が、当面努力義務とされた中小企業に対しても2022年4月1日から義務化された。
また、同指針では「行うことが望ましい取組」のひとつにとどめられた第三者によるパワーハラスメントに関連して、顧客等からの著しい迷惑行為の防止対策の推進に係る関係省庁連絡会議で検討が行われ、2022年2月25日に「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」が公表された。
男女共機会均等法によるセクハラ・マタハラ、育児介護休業法によるケアハラも含めて、ハラスメント防止対策について4つの指針(法律に基づく措置義務)と1つのマニュアルが示されたことになる。
「令和4年度地方労働行政運営方針」は、「中小企業においてもパワーハラスメント防止措置が義務化されたことを踏まえ、パワーハラスメント、セクシャルハラスメント等職場におけるハラスメント防止措置を講じていない事業主に対し厳正な指導を実施すること等により法の陸確保を図る」とともに、「カスタマーハラスメント」、「就職活動中の学生等に対するハラスメント」に対する自主的な取り組みを促す」としている。厚生労働省は、職場のハラスメント、いじめ・嫌がらせ問題の予防・解決に向けた情報提供のためのポータルサイトとして「あかるい職場応援団」で、関連情報を提供している。
● 50年ぶりの事務所衛生基準規則改正
1971年の旧事務所衛生基準規則制定以来およそ50年ぶりの改正が2021年12月1日及び2022年4月1日に行われた。関連する労働安全衛生規則の改正も行われている。
とはいえマイナーな改正にとどまり、「独立個室型の便所」(男性用と女性用を区別しない四方を壁等で囲まれた一個の便房により構成される便所)の位置付けを明記し、男性用と女性用に区別して設置という原則は維持しつつ、労働者10人以内の場合は独立個室型の便所を設けることで足りるとする例外を設けたことが主な内容であった。
他は、作業面の照度に関して事務作業の区分変更のうえ基準が引き上げられたこと、救急用具の内容について具体的な品目の規定をなくしたこと、室の気温について空気調和設備を設置している場合の努力目標値を17℃以上28℃以下から18℃以上28℃以下に変えたこと、などである。
厚生労働省は、「事務所における労働衛生対策」のページで、改正内容等を周知している。
● 二回目の過労死防止対策大綱の変更
2021年7月30日に、2014年に制定されてから二回目になる「過労死等の防止のための対策に関する大綱」が閣議決定された。新大綱に定められた過労死等防止対策の主な取組は以下のとおり。
- 新型コロナウイルス感染症の拡大に伴う対応や働き方の変化を踏まえた過労死等防止対策の取組を進める。
- 新しい働き方であるテレワーク、副業・兼業、フリーランスについて、ガイドラインの周知などにより、過重労働にならないよう企業を啓発していく。
- 調査研究について、重点業種等に加え、新しい働き方や社会情勢の変化に応じた対象を追加する。また、これまでの調査研究成果を活用した過労死等防止対策のチェックリストを開発する。
- 過労死で親を亡くした遺児の健全な成長をサポートするための相談対応を実施する。
- 大綱の数値目標で、変更前の大綱に定められた「週労働時間60時間以上の雇用者の割合」や勤務間インターバル制度の周知、導入に関する目標などを更新する。なお、公務員についても目標の趣旨を踏まえて必要な取組を推進する。
● 医師の時間外労働規制の見直し
「働き方改革推進」のための関係法の整備による時間外労働の上限規制(原則年360時間等、例外年720時間等)は、医師に関しては「改正法の施行期日の5年後を目途に規制を適用[2024年4月1日まで適用猶予]することとし、医療界の参加の下で検討の場を設け…2年後を目途に規制の具体的な在り方…等について検討し、結論を得る」とされた(働き方改革実行計画)。労働政策審議会労働条件分科会で検討が行われた結果、2022年1月19日に労働基準法施行規則等が改正され、2024年4月1日に施行されることになった。年960時間、年1,860時間等の暫定特例水準が設けられるとともに、時間外労働が月100時間以上となることが見込まれる医師に対して、健康確保措置として面接指導等が規定された(公布通達は2022年1月19日付け基発0119第9号)。
併せて、新設の労働基準法施行規則による面接指導と労働安全衛生法による面接指導の整合化を図るために、労働安全衛生規則等の改正も行われている(公布通達は2022年1月19日付け基発0119第2号)。
● これからの労働時間制度に関する検討会
2021年6月25日に「裁量労働制実態調査」結果が公表され、7月26日から「これからの労働時間制度に関する検討会」が開始されている(2022年5月31日までに第14回開催)。もともとは、2018年の働き方改革関連法案の審議過程で裁量労働制の対象業務の拡大が撤回に追い込まれたことから、仕切り直しのためにはじめられたようなものだが、①裁量労働制が制度の趣旨を踏まえたものとなるための方策、②年次有給休暇の取得促進の在り方、③アフターコロナを見据えた労働時間制度等についてどう考えるか、等が論点とされている。
● 個人事業者等の安全衛生対策の見直し
後述するように、建設アスベスト訴訟最高裁判決を踏まえた労働安全衛生規則等11規則の改正が行われたが、これは労働安全衛生法第22条に基づく有害物等による健康障害防止措置に限定されたものであり、それ以外の課題について検討を行うため「個人事業者等に対する安全衛生対策のあり方に関する検討会」が設置されて、2022年5月13日から検討がはじまった。
第142回安全衛生分科会(2021年12月13日)では、今後の検討事項として以下があげられている。
- 「物・場所の危険性」に関する規定で法第22条・第57条以外の規定のあり方
- 労働者が作業に従事しない場合の事業者(注文者)による措置のあり方
- 労働者以外のものによる(事業者が行う措置の)順守義務(罰則あり)のあり方
- 個人事業者(一人親方、フリーランス等)による事業者としての措置義務のあり方
- リスクアセスメント等を基本とする自主的な管理における労働者以外の者に対する措置のあり方
● 転倒防止・腰痛予防対策の在り方検討会
「転倒防止・腰痛予防対策の在り方に関する検討会」が2022年5月13日からはじまっている。同検討会第1回において、同年3月31日付けの転倒・腰痛等の減少を図る対策の在り方に関する有識者ヒアリングによる提言なるものが示され、また、それを踏まえて2022年度から「SAFEコンソーシアム」、「SAFE協議会/育成支援」という新たな取り組みが開始されていることが紹介され、「転倒防止・腰痛予防対策の在り方及び具体的な対策の方針について、規制の見直しも念頭に置いた検討を行う」こととされている。
● ドローン安全運用ガイドライン改訂
2022年4月20日に厚生労働省は、「プラントにおけるドローンの安全な運用方法に関するガイドライン」を改訂した。併せて、「化学設備等の定期自主検査におけるドローン導入マニュアル」と「プラント設備等におけるドローンを活用した点検事例集」も作成している。
3.化学物質管理対策等
● 最高裁判決を踏まえた一人親方等対策
2021年5月17日の建設アスベスト訴訟最高裁判決は、物・場所の危険性に着目した掲示・表示等の義務は労働者に該当しない者も保護する趣旨であることを理由に、一人親方等に対する国家賠償責任も認めた。これを踏まえた労働安全衛生法令見直しの必要性について、労働政策審議会安全衛生分科会で検討され、結果的にまずは法第22条の規定に基づく関係省令-労働安全衛生規則等11の規則が2022年4月15日に改正され、2023年4月1日に施行される。厚生労働省は、「一人親方等の安全衛生対策について」というページで、関係情報を提供している。
主な改正内容は、以下のとおりであるが、法律の改正はなく、省令改正のみである。
①作業を請け負わせる一人親方等に対する措置の義務化-健康障害防止のための設備の稼働答、作業方法・保護具使用の必要性等の周知
②同じ作業場所にいる労働者以外の者に対する措置の義務化-保護具使用の必要性の周知、立入禁止、喫煙・飲食禁止、事故発生時の退避、有害物の有害性等に関する掲示
● 「新たな化学物質規制」へ政省令等改正
2021年7月19日に公表された「職場における化学物質等の管理のあり方に関する検討会最終報告書」を踏まえた新たな化学物質規制に向けて、2022年2月24日と5月31日に労働安全衛生法施行令、労働安全衛生規則等7規則、関係告示が改正され、2022~24年度に順次施行される。厚生労働省は5月31日に「化学物質による労働災害防止のための新たな規制について」というページを開設して関連情報を提供している。
また、2022~23年度にラベル表示・安全データシート(SDS)交付の義務化対象物質とされる予定の候補物質のリストも示した「職場における化学物質等の管理のあり方に関する検討会報告書の概要紹介~化学物質への理解を高め自律的な管理を基本とする仕組みへ~」というページもつくられている。
主な改正内容と施行時期は、以下のとおりであるが、やはり法律の改正は行われていない。
kagakubushitsu_horeikaisei_ichiran(1)2022年4月1日施行
①SDS等による通知方法の柔軟化
(2)2023年4月1日施行
②曝露を最小限にする努力義務
③意見聴取、記録の作成・保存
④衛生委員会の付議事項の追加
⑤皮膚等障害化学物質への直接接触の防止
⑥がんの発生の把握強化
⑦リスクアセスメントの結果等に係る記録の作成保存
⑧職長等に対する安全衛生教育が必要となる業種の拡大
⑨SDS等の「人体に及ぼす作用」の定期確認及び更新
⑩事業内別容器保管時の措置の強化
⑪注文者が必要な措置を講じなければならない設備の範囲の拡大
⑫管理水準良好事業場の特別則等適用除外
⑬特殊健康診断の実施頻度の緩和
(3)2023年4月1日施行
⑭ラベル表示・SDS交付・リスクアセスメント義務対象化学物質の大幅拡大
②’曝露を最小限にする義務
⑮曝露を濃度基準値以下にする義務
④’衛生委員会の付議事項の追加
⑤’皮膚等障害化学物質への直接接触の防止
⑯化学物質労災発生事業場等への労働基準監督署長による指示
⑰リスクアセスメント健康診断の実施とそれに基づく措置
⑱化学物質管理者の選任
⑲保護具着用責任者の選任
⑳雇入れ時等教育の拡充
㉑SDS等による通知事項の追加及び含有量表示の適正化
㉒第三管理区分事業場の措置強化
なお、「化学物質の自律的管理におけるリスクアセスメントのためのばく露モニュタリングマニュアル」も示されている。
検討会最終報告書は、特化則、有機則、粉じん則、四アルキル則は、「自律的な管理に残すべき規定を除き、5年後に廃止することを想定し…5年後に改めて評価を行うこと」としている。個別規制は自律的管理を基軸とする規制と矛盾するものではまったくなく、このような方向性は是認できない。
● 特別規制・指針対象物質の追加
特化則等による特別規制の対象の追加について、①有害物曝露作業報告を活用して、②国が曝露評価と有害性評価をもとにリスク評価(初期リスク評価及び詳細リスク評価)を行い、③リスクが高い作業等については特別規則による規制等の対象に追加するという仕組みが運用されてきた。厚生労働省は「職場における化学物質のリスク評価」のページで情報提供を行い、また、「職場のあんぜんサイト」に「リスク評価実施物質」のページもある。
令和3年度は、化学物質のリスク評価に係る企画検討会が1回(と2回の意見交換会)、化学物質のリスク評価検討会が2回、化学物質による労働者の健康障害防止措置に係る検討会が1回等開催されているが、報告書が公表されているのはリスク評価検討会(2022年6月3日公表)だけ。2物質に関する初期リスク評価と4物質に関する詳細リスク評価が行われ、経気道ばく露に関するリスクが、前者では1物質は「高い」、1物質は「低く、経皮吸収のおそれも指摘されていない」、後者では1物質は「高い」、1物質は「低いが、経皮吸収のおそれが指摘されている」と評価された。
特別規則の対象以外であっても、厚生労働大臣は、がんその他の重度の健康障害を労働者に生ずるおそれのある化学物質を製造・取り扱う事業者が当該化学物質による労働者の健康障害を防止するための指針(がん原性指針)を公表するものとされ(法第28条第3項)、厚生労働省「職場のあんぜんサイト」に「がん原性に係る指針対象物質」のページがつくられている。
また、2021年11月25日付け基発1125第13号「変異原性が認められた化学物質の取扱いについて」によって、事業者からの届出のあった新規化学物質751物質のうち15物質、既存化学物質物質のうち2物質が追加された。これらによって、同指針の対象となる化学物質の数は、届出物質1,052、既存化学物質244、合計1,296となっている。厚生労働省「職場のあんぜんサイト」に「強い変異原性が認められた物質」のページがある。
● 改正石綿障害予防規則の施行等
2020年4月14日の「建築物の解体・改修等における石綿ばく露防止対策検討会最終報告書」を受けて石綿障害予防規則の改正が行われ、2020年10月1日以降順次施行されている。これに合わせて、「石綿総合情報ポータルサイト」が開設されている。
総トン数20トン以上の船舶の解体・改修工事を労働基準監督署への報告対象とする等の石綿則等の改正が2022年1月13日に行われたうえで、石綿の有無によらず一定の要件を満たす(解体部分の延べ床面積80m2以上、請負金額100万円以上、総トン数20トン以上等)建築物・船舶の解体・改修工事についての「事前調査結果等の届出制度の新設」が2022年4月1日に施行され、「石綿事前調査結果報告システム」も運用されている。関連して、2022年3月29日に環境省から、「アスベストモニュタリングマニュアル(第4.2版)」、「建築物の解体等工事における石綿飛散防止対策に係るリスクコミュニケーションガイドライン(改訂版)」が公表されている。
2023年10月1日には「事前調査・分析調査を行う者の要件新設」が施行されることになっている。
● アスベスト含有製品等の違法輸入対策
アスベスト含有珪藻土ガスマット等のリコール事件をきっかけに厚生労働省は、石綿をその重量の1%を超えて含有するおそれのある製品で厚生労働大臣が定めるもの(※)を輸入しようとする者は、当該製品の輸入の際に、一定の資格を有する者が作成した石綿の検出の有無等を記載した書面を取得し、石綿が含有しないことを確認しなければならないこと等とする石綿障害予防規則の改正を行い、2021年12月1日に施行されている(※=「珪藻土を主たる材料とするバスマット、コップ受け、なべ敷き、盆その他これらに類する板状の製品」)。「珪藻土バスマット等の輸入手続など」のページがつくられている。
また、アスベストに限らず労働安全衛生法による製造等禁止物質を対象として、2021年6月29日に基発0629第2号「労働安全衛生法に係る有害物等の輸入通関手続について」が示されている。
● 剥離剤使用の塗料剥離作業対策通達
2020年8月17日付けで基安化発0817第1号「剥離剤を使用した塗料の剥離作業における労働災害防止について」が発出されたが、その後、同名の標題に「(改正)」「(再注意喚起)」等を付した通達・事務連絡が、2022年5月18日付け基安化発0518第1号を含めて7回発出されている。厚生労働省は「個別分野の化学物質対策について」ページで、最新情報のみであるが、紹介している。
4.労災補償対策
● 新型コロナウイルス感染症の労災認定
厚生労働省は2022年2月15付け労災発0215第1号「労災補償業務の運営に当たって留意すべき事項」で、「新型コロナウイルス感染症に係る労災保険給付」として、「感染症が消失した後も症状が持続し(罹患後症状があり)、呼吸器や循環器、精神・神経症状等に係る症状がみられる場合があることから、厚生労働省の『新型コロナウイルス感染症 診療の手引き 別冊罹患後症状のマネジメント(暫定版)』等を参考に医師の意見を確認し、療養や休業が必要と認められる場合には、労災保険給付の対象となることに留意すること」と指示した。
その後、5月12日付けで基補発0512第1号「新型コロナウイルス感染症による罹患後症状の労災補償における取扱い等について」を示し、上記診療の手引きの「暫定版」が「第1版」※に更新されたことを受けて、あらためて「罹患後症状については、業務により新型コロナウイルスに感染した後の症状であり療養等が必要と認められる場合は、労災保険給付の対象となる」ことを示した。
※新型コロナウイルス感染症COVID-19診療の手引き 別冊 罹患後症状のマネジメント(第2.0版)(2022年10月24日 厚生労働省HP)に改訂
また、前述の労災補償業務運営上の留意事項通達は続けて「ワクチン接種を受けたことにより健康被害が生じた場合の労災保険給付」についてふれて、医療従事者等のワクチン接種については「業務遂行に必要な行為と認められ、労災保険給付の対象としている」としている。これは、2021年2月9日付け内閣官房・厚生労働省「新型コロナウイルス感染症に係るワクチン接種について」等により医療従事者等がワクチン接種順位の上位に位置付けられたことを踏まえたものと思われるが、厚生労働省ウエブサイトの労働者の方向けQ&Aに追加されるかたちで示された。
さらに、認定基準-2020年4月28日付け基補発0428第1号「新型コロナウイルス感染症の労災補償における取扱いについて」が、2021年6月24日付け基補発0624第1号により一部改正され、医療従事者等以外の労働者であって感染経路が特定されたもの以外のものの取扱いについて、「…調査した上で、必要に応じて医学専門家の意見も含めて判断すること」の下線部が追加されるとともに、本省報告も簡素化された。
また、2020年5月1日付け職業病認定対策室長事務連絡「新型コロナウイルス感染症の労災保険給付請求に係る調査等に当たっての留意点について」が示されていたが、2021年5月11日付け職業病認定対策室長事務連絡「新型コロナウイルス感染症の労災認定実務要領」によって代えられ、2022年2月8日付け職業病認定対策室長事務連絡「新型コロナウイルス感染症の労災認定実務要領の一部改正について」で、「PCR検査が自主検査であって、自治体が健康観察の対象者とする場合においては、健康観察開始日を発病日とすることで差し支えない」とされた。
厚生労働省ウエブサイト上での労災請求件数等情報の毎月の更新は継続されている。
● 労災保険特別加入制度の拡大
労働政策審議会労災保険分科会では、2020年に法改正が行われた「複数事業就業者に係る労災保険給付等」に続いて、第87回(2020年6月1日)以降、「特別加入制度の見直し」について対象範囲の拡大等について幅広く検討している。
検討の結果、2021年4月1日から、以下が労災保険の特別加入制度の対象に追加された。
①芸能関係作業従事者
②アニメーション制作作業従事者
③柔道整復師
④創業支援等措置に基づき事業を行う高年齢者
2021年9月1日から、以下が追加された。
⑤自動車を使用して行う貨物の運送の事業
⑥ITフリーランス
2022年4月1日から、以下が追加された。
⑦あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師
2022年7月1日から、以下が追加された。
⑧歯科技工士
厚生労働省ウエブサイトの「労災補償」ページで関連情報を提供している。
● 建設アスベスト給付金制度の創設・施行
2021年5月17日の建設アスベスト訴訟最高裁判決を受けて、6月9日に議員立法により「特定石綿被害建設業務労働者等に対する給付金等の支給に関する法律」が成立して、「建設アスベスト給付金制度」が創設された。12月1日に認定審査会と基金設置関係が施行、同時に「労災支給決定等情報提供サービス」と「個別周知」も開始され、2022年1月19日に法律のすべての規定が施行された。厚生労働省は「建設アスベスト給付金制度について」ページを開設して、関連情報を提供している。
また、2022年1月31日に第1回認定審査会が開催されて運営規定、運営方針、審査方針等が確認され、2月25日の第2回から審査・認定がはじまっている。
当センターの建設アスベスト給付金制度関連記事
建設アスベスト給付金 | 全国労働安全衛生センター連絡会議 (joshrc.net)
● 石綿健康被害救済法三度目の改正
石綿健康被害救済法による労災時効救済(特別遺族給付金)については、2016年3月26日以前に死亡した者が対象で請求期限は2022年3月27日まで、2016年3月27日以降に死亡した者については、労災保険の時効-5年が経過すると(すなわち2021年3月27日以降)、労災保険(遺族補償給付)も労災時効救済済(特別遺族給付金)も請求できなくなる。環境省所管救済の法施行前死亡救済も請求期限は2022年3月27日までで、危惧したとおり請求期限切れが生じてしまった。
しかし、中皮腫・アスベスト疾患・患者と家族の会を中心とした国会議員に対する働きかけから救済法の三度目の改正が実現し、2022年6月17日に施行された。
労災時効救済については、対象範囲と請求期限が各々10年拡大・延長され、環境省所管救済の法施行前死亡救済の請求期限も10年延長され、未申請死亡救済の請求期限も10年延長されて死亡から25年となった。その他の救済法見直しに係る中央環境審議会石綿健康被害救済小委員会における検討もはじまっている。
● 化学物質による疾病リストの見直し
2018年11月30日の「労働基準法施行規則第35条専門検討会報告書」を受けて、労働基準法施行規則別表第1の2第4号の1の物質等の検討を行う同検討会「化学物質による疾病に関する分科会」の作業が2019年7月19日からはじまったが、2022年3月18日に検討結果報告書が公表された。
大臣告示の3物質について「症状又は障害」の追加、SDS交付義務対象物質から5つの化学物質と「症状又は障害」の組み合わせを大臣告示に追加、理美容師のシャンプー液等の使用による皮膚障害について2物質を大臣告示に追加、3物質について「血管運動神経障害」を削除し、「不整脈、血圧降下等の循環障害」または「狭心症発作」を追加することが勧告され、2022年度中に労働基準法施行規則第35条専門検討会を開催して、大臣告示の改正に向けた検討が行われる予定である。
● 脳・心臓疾患労災認定基準の改正
2021年7月16日に「脳・心臓疾患労災認定の基準に関する専門検討会」報告書が公表され、9月14日に「血管病変等を著しく増悪させる業務による脳血管疾患及び虚血性心疾患等の認定基準」が改正された(基発0914第1号)。主な内容は、
- 労働時間と労働時間以外の負荷要因を総合評価して労災認定することを明確化-時間外労働時間数の基準に至らないがそれに近い場合
- 労働時間以外の負荷要因の見直し-勤務間インターバルが短い勤務、身体的負荷を伴う業務などを評価対象に追加
- 短期間の過重業務・異常な出来事について業務と発症との関連性が強いと判断できる場合を明確化-例示
● 精神障害労災認定基準の見直し
「精神障害の労災認定の基準に関する専門検討会」が2021年12月7日からはじまり、2022年5月31日までに4回開かれている。
- 精神障害の成因、認定要件とその考え方
- 対象疾病
- 業務による心理的負荷の評価(具体的出来事の追加・修正・統合等)、④業務以外の心理的負荷及び個体側要因の評価
- 発病の有無、発病時期、悪化等の判断、自殺の取扱い
- 療養及び治ゆ
- 認定基準の運用
が論点の案として示されているが、全国安全センターでは検討経過に合わせて対応することとして、2022年4月28日に申し入れを行い、9月15日に意見書を提出している。
● 「労働時間の的確な把握」
前述の労災補償業務運営上の留意事項通達でも「過労死等事案に係る的確な労災認定」の1に「労働時間の的確な把握」を掲げ、2021年3月30日付けの200頁をこす基補発0330第1号「労働時間の認定に係る質疑応答・参考事例集の活用について」を的確に把握することとしている。日本労働弁護団「労働者の権利」通巻第344号でこの質疑応答・参考事例集の問題性が検討されているように、従来よりも労災認定における労働時間の把握を狭める方向に働いていることが危惧されている。
第2に「過労死等事案に係る関係部署との連携」として、2018年3月30日付け基監発0330第6号・基補発0330第5号「過労死等事案に係る監督部署と労災担当部署間の連携について」、2017年3月31日付け基監発0331第1号・基補発0331第6号・基勤発0331第1号・基安労発0331第1号「『過労死等ゼロ』緊急対策を踏まえたメンタルヘルス対策の推進に当たっての具体的手法について」等を踏まえるよう指示していて、第1と第2は一体の動きのように思われる。
● テレワーク中の労働災害の取り扱い
前述の労災補償業務運営上の留意事項通達は、「労働者がテレワーク中に負傷等した場合については、令和3年3月25日付け基発0325第2号・雇均発0325第3号『テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドラインについて』等に基づき、労働契約に基づいて事業主の支配下にあることによって生じた災害は、労災補償の対象になること、また、その際、私的行為等業務以外が原因であるものについては労災補償の対象とはならないといった基本的な考え方を踏まえ、適切に対応すること」と指示している。
テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドライン(厚生労働省HP)
● 前立腺がんと放射線被ばくの医学的知見
2022年6月28日に、電離放射線障害の業務上外に関する検討会がまとめた報告書「前立腺がんと放射線被ばくに関する医学的知見について」が公表され、これを踏まえた「当面の労災補償の考え方」が示されている。
5.労働災害・職業病の統計データ
● 労働災害の総件数
労働災害の総発生件数として公表されているデータは、今のところ存在していない。
労働者死傷病報告書は、「労働者が労働災害その他就業中又は事業場内若しくはその附属建設物内における負傷、窒息又は急性中毒により死亡し、又は4日以上休業したとき」に、「遅滞なく」、所轄労働基準監督署長に提出しなければならないとされている。また、「休業3日以内」のものは、3か月分をまとめて提出しなければならない(労働安全衛生法施行規則第97条)。しかし、これに基づく「休業3日以内」のデータは公表されていない。
2007年8月7日に公表された総務省行政評価局の「労働安全衛生等に関する行政評価・監視結果に基づく勧告」が、「休業4日未満の労働災害に関する労働者死傷病報告について、当該データの集計・分析や公表を行うなど、その利用を促進すること」という所見を示し、厚生労働省が2008-09年度に委託した「行政支援研究:休業4日以上と4日未満の死傷災害の比較」研究報告書が、労働者死傷病報告書の様式改善の提案も示して、「休業4日未満労働災害データは、今後の労働災害防止対策の検討に有用である」と結論付けているにもかかわらず、具体的な対応はなされていない。
同報告書の対象には、労災非適用事業に係るものも含む一方で、労災保険の対象となる通勤災害や退職後に発症した職業病、労働者ではない労災保険特別加入者に係る死傷病等は含まれない。
ここでは、労働災害の総件数に代わる数字として、「労災保険事業年報」による労災保険新規受給者数を紹介する(表1参照)。
表1 死亡災害・死傷災害発生状況、労災保険適用状況及び給付種類別受給者数の推移
2021_2022_table01「労災保険事業年報」は、2005年度分以降、厚生労働省ホームページ(統計情報・白書>各種統計調査>厚生労働統計一覧>労働者災害補償保険事業年報に掲載されている(当初は概況等のみで、2015年度分以降は全文を掲載。翌年7月頃にまず、前年度の「労災保険事業の保険給付等支払状況」が公表され、その後「労災保険事業年報」が掲載されるというかたちになっている)。
また、毎年7月第1週の全国安全週間に向けて中央労働災害防止協会から発行されている『安全の指標』が1999年度版から、労災保険新規受給者数のデータを掲載するようになったが、そこで紹介されているのは業務災害分だけで、本誌では、業務災害と通勤災害の合計数を紹介している。
「労災保険事業年報」に業務災害と通勤災害の内訳が示されるようになったのは、2000年度版以降のことで、1999年12月21日に旧総務庁行政管理局が旧労働省に対して行った「労働者災害補償保険事業に関する 行政監察結果に基づく勧告」のなかで、「労災保険財政に係る情報開示について…国民にわかりやすい形で公表すること」とされたのを受けて、「労災保険事業年報」の厚さが以前の2倍以上になってからのことである。
● 死亡災害・重大災害
「死亡災害発生状況」については、2012年までは5月頃に「前年における死亡災害・重大災害の発生状況」として公表されていたが、2014年からは「前年の労働災害発生状況」として死亡災害、死傷災害、重大災害を合わせて公表するようになった(なぜか2017年から重大災害がなくなり、死亡災害と死傷災害だけになってしまっている)。2022年は5月30日に公表されている。
厚生労働省ホームページでは、分野別の政策>雇用・労働>労働基準>安全・衛生>安全衛生関係統計・災害事例>労働災害発生状況で、2007年分からの「労働災害発生状況」統計が入手できるが、2015年分までは死亡災害、死傷災害、重大災害のデータが含まれているものの、2016年以降分には重大災害データが含まれていない。
「死亡災害発生状況」は、『安全の指標』等でも紹介されており、出所は「死亡災害報告より作成」または「安全課調べ」と記載されている。
また、死亡災害に関係する資料としては、労災保険統計の葬祭料・葬祭給付の支給件数を参照することもできる(発生時点ではなく、支給決定時点での集計で、請求の時効が5年であることに留意)。
なお、「重大災害発生状況」は、「重大災害報告より作成」したものとされ、「重大災害」とは、「一時に3人以上の労働者が業務上死傷又はり病した災害事故」のことをいう。
● 死傷災害
前述のとおり、2014年から「前年の労働災害発生状況」の一部として公表されるようになっている。
以前は「死傷災害(死亡災害及び休業4日以上の死傷災害)」の出所は、「労災保険給付データ及び労働者死傷病報告(労災非適)より作成」とされてきたが、2012年分以降は、「労働者死傷病報告より作成」に代えられている。「労働者死傷病報告データの方が事故の型別分類等がなされていて、今後の対策に生かせるということで変更した。労働災害防止計画の数値目標等も労働者死傷病報告データによる」とのことである。前出の厚生労働省ホームページの「労働災害発生状況」統計に掲載されているデータも、同様に、2012年分から労働者死傷病報告データに代えられている。
他方、厚生労働省の「職場のあんぜんサイト」の「労働災害統計」の各年の「死傷災害発生状況」のなかの、1988~1998年分の「死傷災害発生状況」のうち起因物別・事故の型別データは、明記はされていないものの「労働者死傷病報告」によるデータであろうと思われる。1999年分以降は「『労働者死傷病報告』による死傷災害発生状況」とされている。
もうひとつ、情報公開法が施行されて、「職業病統計に関する一切」を開示請求するようになってから全国安全センターが毎年開示させている「傷病性質コード別労災補償状況」の2002年度分以降に、「負傷(負傷を伴わない事故を含む)」データも掲載されるようになった。内容は、次表のとおりである。
fushonendobetu_to_sippeiこの「負傷」合計件数に、その後に続く疾病件数(表4参照)を合わせた「負傷+疾病」の合計件数が、休業4日以上の死傷災害の「補償件数」であろうと考えられる。
「労働者死傷病報告」によるデータは、素直に考えれば、事業主が届け出た報告の件数をそのまま集計したものであろう(「届出件数」と呼ぶことにする)。それと、2011年以前に公表されてきた「労災保険給付データ及び労働者死傷病報告(労災非適)」による数字(「公表件数」と呼ぶ)、さらに「補償件数」を並べてみると、次表のようになる。
kyugyo4kaijyo補償件数には、労働者死傷病報告書を届け出する必要のない、通勤災害、労災保険特別加入者や退職後の発症・死亡等も含まれる。理屈で考えれば、それらを除いた業務災害分だけの補償件数に労災非適用事業に係る労働者死傷病報告件数を加えたものが公表件数ということになりそうな気もするが、そのような説明がなされたことはない。また、公表件数は、(負傷に限定したとしても)補償件数よりもかなり少なく、そのような事情だけでは説明できそうにない。なお、1999年以降、届出件数が公表件数を上回り(網掛け部分)、実際に届け出られた件数よりも少ない件数しか公表されていない状況が続いていたことになる。
どのような理由で、どのように算定されたのかわからない数字が、長年、死傷災害の公表件数とされ、労働災害防止計画等の数値目標としても用いられてきたということ自体が、実に不可解ではある。
● 業務上疾病
厚生労働省ホームページの「ホーム > 政策について > 分野別の政策一覧 > 雇用・労働 > 労働基準 > 安全・衛生 > 安全衛生関係統計・災害事例について」に、2004年分以降の「業務上疾病発生状況等調査」へのリンクが設定されるようになった。報道発表資料のところには掲載がなく、労働基準分野のトピックス一覧の記載から掲載日が確認できていたのだが、2018年以降分については掲載がみあたらない。
ここにある「業務上疾病発生状況(業種別・疾病別)」は、「暦年中に発生した疾病で翌年3月末までに把握した休業4日以上のもの」で、出所は「業務上疾病調」と記載されており、全国労働衛生週間(10月1~7日)に向けて中央労働災害防止協会から発行されている『労働衛生のしおり』掲載のものと同じものである。 前掲の表2-1~4及び次表では、これを「公表件数」として示している。
どちらも、2014年分以降、「死亡」の内数が示されるようになるとともに、熱中症、脳・心臓疾患等、精神障害、その他の内訳も示されるようになった。
この公表件数がどのように算定されているかも、闇の中であった。以前、情報公開法に基づく開示請求も行って厚生労働省に説明を求めたところ、「公表件数」は、労働者死傷病報告をそのまま集計しているのではなく、例えば、「非災害性」(第3号)として届け出られた「腰痛」を、事情を確認したうえで「災害性」=「負傷による腰痛」(第1号)に振り替え、また、「じん肺及びその合併症」については、届出件数ではなく労災保険給付データを使っている等との説明がなされた。しかし、処理方法を示した文書は存在していないという回答であった。
他方、前出の「職場のあんぜんサイト」には、2004~2009年分について、「労働者死傷病報告」によると明記された「業種別・年別業務上疾病発生状況」データも示されている。2010~2013年分については、「『労働者死傷病報告』による死傷災害発生状況(確定値)」でダウンロードできるエクセル・ファイルのなかに、死亡・休業別内訳も示された「業種別・傷病分類別業務上疾病発生状況」のシートが含まれていたのだが、いつの間にか消されてしまい、2014年分以降も同じである。かつて得られたものも含めて、「労働者死傷病報告」によるデータを「届出件数」と呼ぶことにする。
「補償件数」については、驚くべきことに厚生労働省ホームページには一切掲載されてこなかった。いつできたのか不明だが、厚生労働省ホームページに、ホーム > 政策について > 分野別の政策一覧 > 雇用・労働 > 労働基準 > 労災補償 > 業務上疾病の労災補償状況調査結果(全国計)ページがつくられ、最初は2017年度分、次いで2018年度分、2019年度分と更新され、現在は2020年度分のみが掲載されている。各年度分の継続的公表を望みたい。
この調査結果には、職業病リストの第一~十一(2009年分以前は一~九)号別の新規支給決定件数、及び、振動障害、じん肺症等、非災害性腰痛、上肢障害、職業がん、脳血管疾患及び虚血性心疾患、精神障害に係る都道府県別データなどが収録されている。この元となる調査については、毎年度、補償課長から指示が出されており、調査内容は微妙に変化している。2021年度は、基補発0802第1号「業務上疾病の労災補償状況調査について」で指示され、12月17日付け補償課職業病認定対策室長補佐事務連絡「令和2年度『業務上疾病の労災補償状況調査結果(全国計)』について」で調査結果が通知されている。
全国安全センターは、情報公開法を使って、1999年度分以降毎年度、「業務上疾病の労災補償に係る統計の一切」の開示請求を行っている。
実際に開示されるのは、
- 「業務上疾病の労災補償状況調査(全国計)」
- 「傷病性質コード別労災補償状況」(前掲の表(負傷(負傷を伴わない事故を含む))と後掲の表4(業務上疾病の新規支給決定件数)を合わせた内容)
- 「都道府県別請求・決定状況確認表」(後掲表5の内容の都道府県別データ)
- 「疾病別都道府県別件数表」(後掲表9の内容)
- 「〇年度労働基準法施行規則の規定に基づき厚生労働大臣が指定する単体たる化学物質及び化合物(合金を含む。)並びに厚生労働大臣が定める疾病に係る新規支給件数」と題された後掲表6の内容である。
「それらが何らかの文書・冊子の一部をなしている場合には、当該文書・冊子等のすべて」を開示請求しているが、毎年開示されている②~⑤は表紙すらない集計表だけである(❶は表紙と目次がついている)。
これらのデータは、本誌以外で紹介されることはほとんどないと言ってよい。
次表に、「届出件数」「公表件数」「補償件数」を並べてみた。2010~2013年分の届出件数と公表件数は同じ数字である(2014年分以降の「届出件数」は得られていない。「公表件数」と「補償件数」については前掲の表2-1から表2-4参照)。
疾病分類別のデータで比較してみると、2010年は452件、2011年は487件、2012年は373件、業務上の負傷に起因する疾病から非災害性腰痛に振りえていることが確認できる(2010年分は化学物質等分は化学物質等による疾病からその他業務に起因する疾病にも5件振り替え)。2013年分は、「届出件数」として公表される段階ですでに操作が行われているのかもしれない。
なお、厚生労働省は、毎年6月頃に前年度分の「過労死等(以前は「脳・心臓疾患と精神障害」)の労災補償状況」及び「石綿による疾病に関する労災保険給付などの請求・決定状況(速報値)」、12月頃に後者の「確定値」及び「石綿ばく露作業による労災認定等事業場」を公表している。これらは、他と区別して特別の「処理経過簿」の作成を指示して、集計・公表されている職業病である。
なお、厚生労働省ホームページ「安全衛生関係統計・災害事例について」には、全般など-「労働災害発生状況」、「業務上疾病発生状況調査」、「労働安全衛生特別調査」、「労働災害動向調査」のほか、個別分野-「熱中症による死亡災害発生状況」(2006~12年分のみ)、「酸素欠乏症・硫化水素中毒による労働災害発生状況」、「石綿の除去作業等に係る計画届及び監督指導等の件数」、「化学物質による労働災害発生状況」、「技能講習の登録機関及び修了者数」、「心理的な負担の程度を把握するための検査実施状況」も掲載されるようになっている。
● 包括的救済規定による業務上疾病(その他業務に起因する疾病)
職業病リストには、例示列挙疾病のほかに、「その他業務に起因する疾病」という項目がある。このカテゴリーについて、厚生労働省は別途毎年調査を実施しており、その調査結果には、どのような疾病が何件認定されているかがわかるが、一般には(HPなど)には統計として明示されていないため、これを次の記事にまとめたので参照していただきたい。
● 労災保険事業年報
前述のとおり、厚生労働省ホームページ(厚生労働統計一覧)に「労災保険事業月報」及び「労働者災害補償保険事業年報」が掲載されるようになった。これも基本的な統計データであり、全国安全センターでは労災保険法施行以来の事業年報(古いものはコピー)を備え付けている。ホームページ上では、2005~14年度分について「労働者災害補償保険事業の概況」、2015年度分以降については年報の全文がPDFで、また、2009年度分以降について「保険給付等支払状況」がエクセルファイルで入手できるようになっている。
前掲の表1(年別全国)及び後掲の表8(都道府県別)に示した基本情報は、これらによって確認できる。詳しくは、以下のとおりである。
労災保険適用事業場数、労災保険適用労働者数は、年報の第1-2表(適用状況〔合計〕(都道府県別))。
労災保険新規受給者数、障害(補償)給付一時金新規受給者数、遺族(補償)給付一時金新規受給者数、葬祭料(葬祭給付)受給者数は、「都道府県別、保険給付支払状況(業務災害+通勤災害+二次健康診断等給付)」エクセルファイル。
死亡災害発生状況と死傷災害発生状況は、既出の情報源(前述のような公表データの変更があったために、表1の2012年以降の数字及び表8では、労働者死傷病報告による死傷災害発生状況の数字を示してある)。 障害(補償)年金、傷病(補償)年金、遺族(補償)年金の新規受給者及び年度末受給者数は、各々、年報第7-10表(障害補償年金受給者数(都道府県別、等級別))、年報第7-15表(傷病補償年金受給者数(都道府県別、等級別))、第7-13表(遺族補償年金受給者数(都道府県別、新規受給者数は年金新規と前払一時金新規を合算)によっている。
● 毎月勤労統計不適切調査の影響
2019年に毎月勤労統計調査で不適切な調査が行われていたことが発覚して、過去に支給した労災保険給付についての追加調査等が必要になった。
追加調査は、2019年4月以降、とりわけ2020年度に集中して行われた模様である。2020年度、労災保険新規受給者数は既出のとおり653,355人(前年度687,455)だったのに対して、葬祭料・葬祭給付受給者数6.868人(2,671人)、 障害(補償)一時金受給者数45,674人(19,235人)、 遺族(補償)一時金受給者数1,764人(833人)といずれも、大幅に増加している一方で、給付金額はそれほど変わっていない。2020年度に集中的に行われた追加給付の件数が含まれている結果とのことである。
雇用保険等を受給中の方に対し、追加給付を進めています(毎月勤労統計の不適切な取扱いに関連する情報)(厚生労働省サイト)
本記事が参照する表1~表10
表1 死亡災害・死傷災害発生状況、労災保険適用状況及び給付種類別受給者数の推移
表2-1~4 業務上疾病の発生状況
表3-1~2 定期健康診断・特殊健康診断・じん肺健康診断の実施状況
表4 業務上疾病の新規支給決定件数(年度別)
表5 業務上疾病の新規請求件数、支給・不支給決定件数(情報が開示されているもの)
表6 化学物質による業務上疾病(第四号1)の内訳別新規支給決定件数
表7-1~3 傷病別長期療養者の状況
表8 都道府県別・死亡災害・死傷災害発生状況、労災保険適用状況及び給付種類別受給者数(2020年度/年*)
表9 業務上疾病の新規支給決定件数(2020年度・都道府県別)
<最新>日本の労働安全衛生をめぐる状況2021年→2022年掲載各表Excelファイル
<最新>日本の労働安全衛生をめぐる状況2020年→2021年(PDF版)
※安全センター情報2022年9月号掲載版(内容は、本ページの内容が最新改訂版となります)