【石綿健康被害救済法三度目の改正】請求期限をさらに10年延長、未申請死亡の請求期限25年-患者と家族の会らの働きかけの成果(2022年6月17日)

石綿健康被害救済法の三度目の改正が、中皮腫・アスベスト疾患・患者と家族の会を中心とした患者・家族の努力によって、実現した(2022年6月17日施行、法律第72号)。ここに至る経過をあらためて整理しておきたい。

2005年-クボタショック

2005年6月29日付け毎日新聞夕刊のスクープ記事-「[元労働者]10年で51人死亡 アスベスト関連病で クボタが開示」「住民5人も中皮腫 見舞金検討、2人は死亡」に端を発した「クボタショック」は、わが国のアスベスト対策の全面的見直しを迫った。

当時、石綿対策全国連絡会議(石綿全国連)が整理し、短期間に187万筆を超える賛同署名を集めた課題は、以下のとおりであった。

① 速やかな全面禁止の実現
② 把握・管理・除去・廃棄を含めた総合的対策を一元的に推進するためのアスベスト対策基本法の制定
③ 曝露した者に対する健康管理制度の確立
④ 労災補償について時効の適用中止(撤廃)
⑤ 労災補償が適用されない被害に対する労災補償に準じた補償制度の確立
⑥ 中皮腫はすべて補償対象とするとともに、他の石綿関連疾患に対する補償の確保

被害補償に関して、「すき間ない救済」を目的として制定され、2006年年3月27日に施行されたのが、石綿健康被害救済法であった。

2006年-制定時の救済法

救済法は以下のような救済給付を新設したが、法制定時における、対象範囲と請求期限等は、各々以下のとおりであった。

(1)環境省所管救済(救済給付)

① 医療費・療養手当…被害者本人に支給(ただし未支給の医療費等として被害者の遺族に支給される場合はある)。
医療費については、認定後は石綿健康被害医療手帳を提示することによって、被害者本人に代わって保健医療機関等が請求することが基本だが、認定申請日から認定を受けて石綿健康被害医療手帳の交付を受けるまでの間に医療を受けた場合等については、被害者本人の請求に基づくこととなり、認定の申請がされた後は(実務的には認定申請時に同時に)することができるとされた一方で、請求することができる時から2年を経過したときは、することができないとされた。
前者については、「認定の効力をいつから生じさせるかという立法政策上の問題があるが、本制度では、被認定者保護の観点から、効力発生の時期を認定時とせず、申請時に遡って生ずることとしている」(環境省逐条解説)と解説されたが、例えば「療養開始日」等、認定申請日より前には遡らないということでもあった。
後者については、「医療機関の窓口で治療費を支払った場合には、その時から医療費の支給の請求ができるものであるが、請求できる期間をあまりに長期にわたって認めることは健康被害の迅速な救済という制度の趣旨からみても妥当ではないためである」とされた(同前)。
療養手当の対象期間は、月単位で、請求日の属する月の翌月から、(死亡や認定取消等により)支給事由が消滅した日の属する月まで。請求は、医療費の場合と同様に、認定申請と同時にすることができる。また、「療養手当については、現に石綿による健康被害で苦しんでいる者に対する給付であり、かつ、その支給が請求時点から将来に向かって行われるものであることから、請求の期限は設けない」(同前)。

② 葬祭料…被害者が死亡したとき、葬祭を行う者に支給。
請求は、「医療費と同様に」(同前)、被害者が死亡した時から2年を経過したときは、することができない。

③ 救済給付調整金…被害者が法施行から2年以内(2008年3月27日以前)に死亡し、かつ、支給された医療費・療養手当の合計額が特別遺族弔慰金の額(280万円)に満たない場合に差額を遺族に支給。
「制度施行前に死亡した者の遺族に対して一時金として特別遺族弔慰金(280万円)が給付されるのに対し、制度施行直後に死亡した者は、制度施行後生存したわずかな間の医療費と療養手当しか給付されない状況が生じうる。このような不公平感の解消のため、制度施行から一定期間に限り、特別遺族弔慰金の額と、現に支給された医療費及び療養手当の合計額の差額分を、救済給付調整金として被認定者の遺族に対して支給するものである」(同前)。
制度施行から2年を経過した後には、制度施行直後に死亡したがために、遺族が特別遺族弔慰金に相当する程度の医療費や療養手当も受けられないという状況はおおよそ解消されると考えられる」とされていた(同前)。
請求は、「葬祭料と同様に」(同前)、被害者が死亡した時から2年を経過したときは、することができない(被害者が2008年3月27日に死亡した場合の請求期限がもっとも遅く、2010年3月27日)。

④ 特別遺族弔慰金・特別遺族葬祭料…2006年3月27日(法施行日)より前に死亡した被害者の遺族に支給。「特に制度施行前に死亡した者については、石綿による被害と認識せずに何ら救済も受けられないままに石綿による重篤な疾病により死亡したという特殊な状況にかんがみ、国が特別に弔慰を表明し、その遺族に対し給付を行うものである」(同前)。
請求は、法施行日から3年を経過したときは、することができない(2009年3月27日が請求期限)。「これは、現時点で指定疾病に罹患している者と異なり、過去に指定疾病で死亡した者の遺族は、死亡した者が石綿に起因する指定疾病によって死亡した可能性について認識する必要があること等を踏まえ、他の救済給付よりも相対的に長めに申請期間を設けることが適当と考えられるためである」とされた(同前)。

(2)厚生労働省所管救済(特別遺族給付金)

⑤ 特別遺族給付金(特別遺族年金または特別遺族一時金)…2001年3月26日まで(法施行日の5年前より前)に死亡した被害者の遺族で労災保険の遺族補償給付を受ける権利が時効(5年)によって消滅したものに支給。
特別遺族年金の対象期間は、月単位で、請求日の属する月の翌月から、受給権が消滅した日の属する月まで。
請求は、法施行日から3年を経過したときは、することができない(2009年3月27日が請求期限)。

われわれは便宜的に、①~③を「生存中救済」、④を「施行後死亡救済」、⑤を「労災時効救済」と呼んでいる。

法制定時においては、生存中救済以外の施行前死亡救済と労災時効救済は3年間限りの経過措置=時限措置で、救済給付調整金は給付対象期間も請求期限も各々2年限りの措置であった。その後は、医療費・療養手当・葬祭料の「生存中救済」だけになるはずだったということであり、さらに、医療費・療養手当は、被害者本人が認定申請をしてからの分しか支給されない仕組みであった。

緊急の見直しを求める声

われわれは、法案が明らかになる過程を含めて、様々な問題点を指摘してきた。

石綿全国連は2008年3月20日に「石綿健康被害救済法の見直しを求めるシンポジウム」を開催し、「すべての被害者・家族に公正・平等な補償を実現するため石綿健康被害救済法の見直しを求めるアピール」を発した(2008年5月号参照)。まず、「公約であった『すき間なく迅速な救済』も実現できていない」うえに、以下のような「緊急の見直しが必要な問題点がある」ことを訴えた。

① 遺族へのわずかな給付(救済給付調整金)が今(2008)年3月27日で打ち切られます。
② 救済法施行前に死亡している場合の救済が来(2009)年3月27日で打ち切られます。
③ 労災時効が成立してしまっている場合の救済が来(2009)年3月27日で打ち切られます。
④ 生存中手続、手続後給付主義のために救済を受ける権利が日々奪われています。
⑤ 救済法施行後も時効成立により労災補償を受ける権利が日々奪われています。
⑥ 中皮腫・石綿肺がん以外のアスベスト疾患の救済が放置されたままです。

そして、
・上記の緊急の見直しが必要な問題点を直ちに是正すること、及び、それに加えて
・全てのアスベスト被害者とその家族に「隙間なく公正な補償・救済」を実現すること
・被害の根絶・ノンアスベスト社会の実現に向けた「アスベスト対策基本法」を策定すること
・縦割り行政の弊害を排し、被害者・家族、労働者、市民参加の体制を確立すること
をあらためて強く求めた。

前後して、われわれの主張を裏付ける事実が明らかになり、報道もされた。

2008年3月17の各紙朝刊は、「石綿独自救済金 遺族新法見直し求める/『生前の原因特定困難』」等と報じた。尼崎のクボタ旧神崎工場周辺に住む女性で、胸の痛みを訴えて2006年4月に入院し、19日目に死亡。「がん性胸膜炎」と診断され、中皮腫と判明したのは死亡から約3か月後だったため、生存中に認定申請がなされておらず、法施行前の死亡でもないということで、いずれの救済も受けられなかったが、クボタは独自の救済金を支払ったという事例を報じたものだった。

また、同年3月21日付け毎日新聞大阪本社朝刊は、「石綿労災 救済法でも時効相次ぐ/01年3月以降死亡 撤廃求める声」として、2001年3月27日以降に死亡し、労災時効になったが救済を門前払いされた3件の事例を報じた。同年3月28日に厚生労働省は、2005・06年度分の「石綿曝露作業による労災認定等事業場名」を公表したが、翌日の報道でも、「『どうやって気付けば』/労災時効 間に合わず」等と指摘するものもあった。3月29~30日に全国安全センターが実施した「全国一斉『アスベスト(石綿)被害』無料電話相談」には、400件を超す相談が寄せられた。

ちなみに、3月30日付け朝日新聞朝刊などで、環境省が、人口動態統計のもととなっている死亡小票に基づいて、個々の遺族に直接救済制度等を周知することにしたことも報じられている。
そのようななかで、石綿全国連の要請も受けて民主党アスベスト問題対策チームが、またすぐ続けて与党(自公)アスベスト対策プロジェクトチームも救済法見直しの検討を開始。2008年4月24日に民主党が改正案を参議院に提出、5月9日には与党も改正案を衆議院に提出した(2008年6月号参照)。5月後半に与党と民主党の実務者協議が4回行われて、5月29日に「合意事項」がとりまとめられ、他政党の協力も得て、それに基づいた改正法案が国会で全会一致で採択されて6月18日公布、12月1日施行という運びになった。

2008年-一度目の救済法改正

2008年法改正の内容は、以下のとおりであった。

(1)環境省所管救済(救済給付)

① 医療費・療養手当…医療費については、3年を限度に療養開始日に遡及して請求可能とされた-「基準日」とよび、療養開始日が認定申請日の3年前の日前である場合には、3年前の日が基準日とされる。療養手当の対象期間は、基準日の属する月の翌月からとされた。「認定申請日から」から、原則「療養開始日から」に拡大されたということである。
改正後の規定は、2008年12月1日(改正法施行日)前にされた認定等についても適用するという経過措置も設けられた。

② 葬祭料…変更なし。

③ 救済給付調整金…「被害者が法施行から2年以内に死亡」という対象範囲の条件が取り除かれた。死亡時期の限定なしに、支給された医療費・療養手当の合計額が特別遺族弔慰金の額(280万円)に満たない場合に差額が遺族に支給されることになった。経過措置=時限措置から恒久措置に変わったということである。先に引用して下線を付した「環境省逐条解説」の考え方は否定されたと言うこともできよう。
被害者が2008年3月27日から同年11月30日(改正法施行日の前日)までの間に死亡した場合についても支給するという経過措置も設けられた。

①の医療費、②葬祭料、③救済給付調整金とも、被害者が死亡した時から2年という請求期限については変更はなされていない。

④ 特別遺族弔慰金・特別遺族葬祭料…2006年3月27日(法施行日)より前に死亡した被害者の遺族(施行前死亡救済)に加えて、認定申請をしないで2006年3月27日(法施行日)以後に死亡した被害者の遺族に対しても支給されることになった(われわれは「未申請死亡救済」と呼んでいる)。これも、特別遺族弔慰金・特別遺族葬祭料が、経過措置=時限措置から恒久措置に変わったことを意味している。
請求期限は、施行前死亡者の遺族にあっては3年延長されて、2012年3月27日(法施行日から6年)とされ、また、未申請死亡者の遺族にあっては死亡の時から5年とされた。2008年12月1日(改正法施行日)前に死亡した未申請死亡者に係る請求期限を改正法施行日から5年とする経過措置も設けられた。

(2)厚生労働省所管救済(特別遺族給付金)

⑤ 特別遺族給付金(特別遺族年金または特別遺族一時金)=労災時効救済…対象範囲が5年拡大され、2006年3月26日(法施行日)までに死亡した被害者の遺族で労災保険の遺族補償給付を受ける権利が時効(5年)によって消滅したものに支給されることになった。
請求期限は、3年延長されて、2012年3月27日(法施行日から6年)とされた。

民主党案、与党案と実際の改正法の内容の比較については2008年6月号9月号を参照していただきたいが、医療費・療養手当は民主党案より有利だった与党案、未申請死亡救済は給付内容は民主党案、請求期限延長は両案(3年と10年)の間(5年)、施行前死亡救済と労災時効救済の請求期限延長は与党案(民主党案は7年延長)、労災時効救済の対象範囲は与党案(民主党案は死亡時期に制限をつけずに死亡から10年)が採用されたかたちだった。拡大された労災時効救済の対象範囲について、「やむを得ない理由により労災保険給付受給権が時効により消滅した場合に限る」とする与党案の条件付けは採用されなかった。

いずれにせよ、救済法は、施行後5年以内の見直し検討を規定したが、5年を待たずに、施行後2年目に改正を余儀なくされたのであった。

2010年-指定疾病の追加

翌年、中央環境審議会に石綿健康被害救済小委員会が設置され、2009年11月27日から2010年4月28日まで6回開催された後、一次答申「石綿健康被害救済制度における指定疾病に関する考え方について」がとりまとめられた。答申を受けて石綿健康被害救済法施行令が2010年5月26日に改正され、同年7月1日に施行された。

中皮腫と肺がんだけだった、環境省所管救済の対象=指定疾病に、著しい呼吸障害を伴う石綿肺及びびまん性胸膜肥厚が追加されたものだったが、本稿との関係では以下のように整理される。改正省令の附則による救済法の関係条文の読み替えであり、これ以降の法改正においても適用される。

④ 特別遺族弔慰金・特別遺族葬祭料
施行前死亡救済2010年7月1日(改正省令施行日)前に死亡した被害者の遺族が対象で、請求期限は2016年7月1日(改正省令施行日から6年)。
未申請死亡救済認定申請をしないで2010年7月1日(改正省令施行日)以後に死亡した被害者の遺族が対象で、死亡の時から5年

小委員会は法改正提起できず

石綿健康被害救済小委員会はその後、2010年5月21日から2011年6月10日までさらに4回開催され、二次答申「今後の石綿健康被害救済制度の在り方について」がとりまとめられた。

小委員会における制度見直し作業に向けて石綿全国連は、ともに法改正が必要な、①給付内容・水準の改善、②死亡後救済の請求期限と労災時効の撤廃ないし救済請求期限の再延長等を求め、石綿全国連の代表(古谷杉郎事務局長)が初めて小委員会の委員に加わりはしたものの、答申の内容は救済制度の運用の改善等にとどまり、法改正を提言することはできなかった。

石綿全国連は、見込みが明らかになったことを見定めてからすぐに、政治主導によって「先送りすることのできない最低限の課題の解決を図る」ための取り組みを開始した。具体的には、①労災時効救済の請求期限の再延長と対象範囲の再拡大、②施行前死亡救済の請求期限の再延長、③アスベスト対策見直しの継続等であった。
2011年3月10日付け毎日新聞朝刊は一面トップで、「石綿労災 時効延長せず/厚労省 26日で救済打ち切り」と報じた。

石綿全国連の要望も受けて、民主党(与党)はアスベスト対策プロジェクトチームを設置して検討を開始し、5月末までに石綿健康被害救済法改正案要綱を確認した。一方、自公両党も検討を進めて、7月末までに独自の救済法改正案要綱をまとめた。8月10・11日と民主党アスベスト対策プロジェクトチームと自民党アスベスト問題対策関係合同部会による協議を経て合意が得られ、11日の事項アスベスト問題に関する意見交換会で報告され、公明党アスベスト対策本部もこれを了承。各党内の手続や他政党の協力も得て、改正法案が国会で全会一致で採択されて8月30日に公布、及び即日施行されるところとなった。

2011年-二度目の救済法改正

2011年法改正の内容は、以下のとおりであった。

(1)環境省所管救済(救済給付)

①医療費・療養手当、②葬祭料、③救済給付調整金=生存中救済…変更なし。

④ 特別遺族弔慰金・特別遺族葬祭料
施行前死亡救済
<中皮腫・肺がん> 2006年3月27日(法施行日)より前に死亡した被害者の遺族が対象で、請求期限はさらに10年延長されて、2022年3月27日とされた(法施行日から16年)。
<石綿肺・びまん性胸膜肥厚> 2010年7月1日(改正省令施行日)前に死亡した被害者の遺族が対象で、請求期限は10年延長されて2026年7月1日とされた(改正省令施行日から16年)。
未申請死亡救済
<中皮腫・肺がん> 認定申請をしないで2006年3月27日(法施行日)以後に死亡した被害者の遺族が対象で、請求期限は10年延長されて、死亡の時から15年とされた。ただし、2006年3月27日から2008年11月30日までに死亡の場合の請求期限は2023年12月1日。
<石綿肺・びまん性胸膜肥厚> 認定申請をしないで2010年7月1日(改正省令施行日)以後に死亡した被害者の遺族が対象で、請求期限は10年延長されて、死亡の時から15年とされた。

(2)厚生労働省所管救済(特別遺族給付金)

⑤ 特別遺族給付金(特別遺族年金または特別遺族一時金)=労災時効救済
対象範囲が、さらに10年拡大されて、2016年3月26日まで(法施行日から10年より前)に死亡した被害者の遺族で労災保険の遺族補償給付を受ける権利が時効(5年)によって消滅したものに支給されることになった。
請求期限は、さらに10年延長されて、2022年3月27日(法施行から16年)とされた。

被害者が2006年3月27日(法施行日)から2006年8月29日(改正法施行日の前日の5年前の日)までに死亡した場合の特別遺族年金は、死亡の時から5年を経過した日の属する月の翌月分から遡及して支給するという経過措置も設けられた。

さらに、法律の見直し条項も設けられた。

民主党案、与党案と実際の改正法の内容の比較については2011年10月号を参照していただきたいが、結果的に、後からまとめられて、民主党案よりも請求期限も対象範囲の拡大年数も長い自公案の内容が採用されたという結果だった。

2016年-二度目の小委員会

石綿健康被害救済小委員会はその後、救済法施行10年の見直し検討のため、2016年4月20日から同年9月2日まで5回開催され、12月16日に報告書「石綿健康被害救済制度の施行状況及び今後の方向性について」が公表された。

石綿全国連は「石綿健康被害救済法10年目の見直しに当たっての要望」を公表して、(1)アスベスト訴訟の早期解決、(2)補償・救済制度の改善・充実、(3)健康管理体制の整備・改善、(4)アスベストのない環境/社会の実現等を訴え、(2)では以下の要望を掲げた。

① 環境省所管救済法の給付の内容・水準の改善
② 時効・請求期間問題の改善
③ 一層の認定の迅速化
④ 介護が必要な被害者のニーズに対応
⑤ 中皮腫の診療のための通院費の支給の確保
⑥ 労災補償給付が低額に事案の改善
⑦ 死亡小票に基づく周知の定期実施等
⑧ 労災事案の環境省所管救済への「紛れ込み」防止対策の強化
⑨ 情報提供対策等の強化

小委員会には今回は石綿全国連の代表として中皮腫・アスベスト・疾患患者と家族の会会長だった患者の家族が加わったが、結果的に、法改正は提起できなかった。

2021年-法施行15年見直しに向け

次の小委員会による制度見直しは、法施行15年目の2021年度に予定されていた。しかし、新型コロナウイルス感染症のパンデミックの影響で、とりわけ環境省所管救済の認定処理が大幅に滞ったことが主な理由と説明されているが、大幅に遅れ、ようやく2022年6月6日から開催されることになった。

患者と家族の会は、今回の見直し検討に向けて早くは2021年6月18日に環境・厚生労働・法務省に石綿健康被害に係るすき間のない救済を求める要望書を提出してオンライン交渉、同年10月7日には石綿健康被害救済法の改正を求めるオンライン院内集会を開催するとともに、以下の「石綿救済法改正への3つの緊急要求」をまとめ、その実現をめざした取り組みを開始した。

・緊急要求① 「格差」のない療養手当と「すき間」をなくす認定基準の見直し
・緊急要求② 治療研究促進のための「石綿健康被害救済基金」の活用
・緊急要求③ 待ったなしの時効救済制度の延長

他方、研究者らによって石綿被害救済制度研究会がつくられ、「石綿(アスベスト)被害救済のための『新たな』制度に向けての提言」が公表された。この提言は、救済制度の抜本的見直しを求めるものであるが、合わせて緊急課題として、①建設アスベスト給付金法の見直し、②患者と家族の会が要望する治療研究分野への支出の実現等も提言している。患者と家族の会、建設アスベスト訴訟全国連絡会と石綿全国連は2021年12月12日に「アスベスト被害の完全救済に向けて-石綿被害救済制度研究会の2つの提言を学ぶ学習講演会」を開催した。

患者と家族の会はさらに、「確かな声でいまを変えたい 患者と家族、わたしたち121の声」という32頁のカラーリーフレットも作成。とくに与党議員を中心に、国会議員の賛同署名集めに、小菅千恵子会長を先頭に各地の多くの会員を巻き込んで取り組み、2022年5月27日時点で、衆議院112名(与党22名、野党590名)、参議院65名(与党22名、野党43名)の賛同を集めている。

2022年-請求期限切れ再び

しかし、小委員会開催が遅れるなかで、「待ったなし」の請求期限切れが再び差し迫ってきた。

これに対しては、デジタル版では、朝日新聞が2022年2月27日に「石綿被害の遺族救済制度、3月末に迫る期限 『申請できる、震えた』」、毎日新聞が3月3日に「『静かな時限爆弾』アスベスト 古い被害、再び閉ざされる救済」という記事を配信。また、ひょうご労働安全衛生センターが5月号で紹介した「請求期限切れ20日前申請」の例を記者発表して、翌3月14日にNHK福岡放送局が報道。しかし、永田町界隈への影響は少なかったようだ。

そこで、患者と家族の会に全国・各地の安全センターが協力して、3月18~20日に「アスベスト被害救済を打ち切るな!!全国一斉ホットライン」を実施した。3月17日の記者会見には、父親を建設アスベスト被害で2013年に亡くし、つい最近ようやく労災時効救済の請求手続きを行ったご遺族にも同席していただいた。毎日・読売・中日は事前告知、NHKは18日朝に取り上げてくれ、他のメディアも続いた結果、東京・名古屋・大阪・福岡の4か所で合計700件を超える相談が寄せられ、期間後にも相談が相次いだ。請求期限目前であるケース、本来の労災時効5年の直前のケースもあり、また、肺がん相談の多さが目立った。各地域でフォローに追われた。

3月26日付け毎日新聞朝刊は、「狭まる石綿被害救済 あす期限法改正 動きなく/中皮腫死亡9000人未申請」と見出しを付けた記事を掲載した。

結果的に請求期限切れは再び生じてしまったわけであるが、患者と家族の会の精力的な国会議員に対する働きかけに対して、公明新聞は3月8日付けで、公明党の宮崎まさる環境部会長(参議院議員)が患者と家族の会の要望を受け、「実現できるよう頑張りたい」と述べたという記事を掲載。与党建設アスベスト対策プロジェクトチームの中心である自民党の渡辺ひろみち衆議院議員、公明党の中野洋昌衆議院議員らも対応を約束してくれた。

4月21日に自民党の厚生労働部会等の合同部会で救済法改正案を了承し、公明党の部会も了承(同日付け産経新聞)。その後、与党内での手続を経て、野党の協力も得て、5月13日に衆議院環境委員会で委員会提出法案とすることが総員賛成で可決、5月17日に衆議院本会議でも全会一致で可決した。参議院では6月10日に環境委員会で、また6月13日に参議院本会議でも全会一致で可決・成立した。6月17日に官報に法律第72号として公布され、即日施行されるに至っている。

なお、衆議院環境委員会では渡辺博道(自公)、近藤昭一(立民・無所属)議員から発言があり、また、参議院環境委員会では青木愛(立憲民主・社民)、山下芳生議員(共産)から質疑が行われ、救済法見直し等の課題についても取り上げられ、参議院環境委員会では以下の附帯決議(後掲)も全会一致で採択された。山口環境大臣は「ただいまの決議についてはその趣旨を十分に尊重して努力していく所存」と発言している。

2022年-三度目の救済法改正

2022年法改正の内容は、以下のとおりである。

(1)環境省所管救済(救済給付)

① 医療費・療養手当、②葬祭料、③救済給付調整金=生存中救済…変更なし。

④ 特別遺族弔慰金・特別遺族葬祭料
施行前死亡救済
<中皮腫・肺がん> 2006年3月27日(法施行日)より前に死亡した被害者の遺族が対象で、請求期限はさらに10年延長されて、2032年3月27日とされた(法施行日から26年)。
<石綿肺・びまん性胸膜肥厚> 2010年7月1日(改正省令施行日)より前に死亡した被害者の遺族が対象で、請求期限はさらに10年延長されて、2036年7月1日とされた(改正省令施行日から26年)。
未申請死亡救済
<中皮腫・肺がん> 認定申請をしないで2006年3月27日(法施行日)以後に死亡した被害者の遺族が対象で、請求期限はさらに10年延長されて、死亡の時から25年とされた。 ただし、2006年3月27日から2008年11月30日までに死亡の場合の請求期限は2033年12月1日。
<石綿肺・びまん性胸膜肥厚> 認定申請をしないで2010年7月1日(改正省令施行日)以後に死亡した被害者の遺族が対象で、請求期限はさらに10年延長されて、死亡の時から25年とされた。

(2)厚生労働省所管救済(特別遺族給付金)

⑤ 特別遺族給付金(特別遺族年金または特別遺族一時金)=労災時効救済
対象範囲が、さらに10年拡大されて、2026年3月26日まで(法施行日から20年より前)に死亡した被害者の遺族で労災保険の遺族補償給付を受ける権利が時効(5年)によって消滅したものに支給されることになった。
請求期限は、さらに10年延長されて、2032年3月27日(法施行から26年)とされた。

被害者が2016年3月27日(法施行日)から2016年6月16日(改正法施行日の前日の5年前の日)までに死亡した場合の特別遺族年金は、死亡の時から5年を経過した日の属する月の翌月分から遡及して支給するという経過措置も設けられた。

さらに、改正法の施行後5年以内に、新法の施行状況について検討を加え、その結果に基づいて必要な見直しを行うものとする附則も設けられている。

与党から求められて患者と家族の会が提案した内容が、そのまま受け入れられたかたちである。

救済法改正の効果の検証

表に、「制度別補償・救済状況(全疾病)」を示し、過去二度の法改正がなされなければ救済されなかった部分に網掛けを施した。

2010~2020年度の毎年の補償・救済合計件数のうち毎年20~36%ほどがそのような事例であり、全体でも20%弱ほどになっている。法改正の意義をご理解いただけると思う。

また、全国一斉ホットラインの実施に当たっては、未救済の労災時効救済対象件数を推計してみた(1・2月号44頁表8、45頁表9と35頁表3を参照)(https://joshrc.net/archives/11502)。

中皮腫については、2020年末までの死亡者累計が31,898件のうち、2020年度末時点までの補償・救済累計が19,057件で、未救済累計が12.841件。このうち2016年以降分(2,499件)は労災請求可能として差し引くと10,342件で(以上表8)、過去の実績による労働者(労災+時効救済)の割合(表3から49.3%)を当てはめると、5,099件が労災時効救済対象の可能性あり。

肺がんについては、2020年末までの死亡者累計を中皮腫と同じ31,898件として、そのうち、2020年度末時点までの補償・救済累計が6,522件で、未救済累計が25,378件。このうち2016年以降分(6,110件)は労災請求可能として差し引くと19,268件で(以上表9)、過去の実績による労働者(労災+時効救済)の割合(表3から82.0%)を当てはめると、15,800件が労災時効救済対象の可能性あり。

中皮腫5,099件と肺がん15,800件とを合わせて、20,899件という結果になった。

残る緊急要求の実現はこれから

中央環境審議会石綿健康被害救済小委員会が開始される前に、請求期限問題等に関わる三度目の法改正は実現したものの、患者と家族の会を先頭に、残る2つの緊急要求等の実現に向けては、これからが本番である。

中央環境審議会の石綿健康被害救済小委員会も6月6日に第1回が開催され、建設アスベスト給付金制度の施行に係る石綿健康被害救済制度の対応について議論された後、救済制度の施行状況等について、出席委員の全員が発言して審議がはじまった。石綿対策全国連絡会議を代表して、右田孝雄運営委員(中皮腫サポートキャラバン隊)も委員に加わっている。附帯決議は小委員会における審議に反映されなければならない。

過去二度の小委員会の経験も踏まえ、患者と家族の会では、小委員会の場まかせにしないように、国会議員をはじめ様々な関係者に対する働きかけを継続している。皆さまのご支援をよろしくお願いいたします。

(安全センター情報2022年7月号に加筆)

石綿による健康被害の救済に関する法律の一部を改正する法律案に対する附帯決議

政府は、本法の施行に当たり、次の事項について適切な措置を講ずべきである。

1 石綿による健康被害に対する隙間のない救済の実現に向け、石綿による健康被害の救済に関する法律に基づく救済措置の内容について、改めて効果的な広報を行い周知の徹底に努めること。また、本法に基づく特別遺族弔慰金等の支給の請求期限の延長及び特別遺族給付金の対象者の拡大によって対象となると見込まれる者に対しては、丁寧な情報提供を行うこと。

2 国は、石綿による健康被害者に対して最新の医学的知見に基づいた医療を迅速に提供する観点から、中皮腫に効果のある治療法の研究・開発を促進するための方策について石綿健康被害救済基金の活用等の検討を早期に開始すること。

3 石綿による健康被害の救済に関する法律に基づく救済制度が、個別的因果関係を問わずに重篤な疾病を対象としていることを踏まえ、労働者災害補償保険法において指定疾病とされている良性石綿胸水、また、石綿肺合併症についても、指定疾病への追加を検討すること。

4 石綿にばく露することにより発症する肺がんについては、被認定者数が制度発足時の推計を大幅に下回っている現状を踏まえ、認定における医学的判定の考え方にばく露歴を活用することなどについて検討すること。

5 既に前回の施行状況の検討から5年が経過していることを踏まえ、本法附則の規定による見直しのほか、改正後の法律について、速やかに施行状況の検討を実施すること。その際、療養者の実情に合わせた個別の給付の在り方、療養手当及び給付額の在り方、石綿健康被害救済基金及び原因者負担の在り方等についても検討を行うこと。

右決議する。

石綿による健康被害の救済に関する法律の一部を改正する法律案要綱

第1 特別遺族弔慰金等の請求期限の延長
特別遺族弔慰金等の請求期限を10年延長し、施行前死亡者の遺族については石綿による健康被害の救済に関する法律の施行の日(以下「施行日」という。)から26年、未申請死亡者の遺族については当該未申請死亡者の死亡の時から25年を経過するまでとすること。(第22条第2項関係)

第2 特別遺族給付金の対象者に係る死亡時期の延長
特別遺族給付金の対象者に係る死亡時期を10年延長し、施行日から20年を経過する日の前日までに死亡した労働者等の遺族であって、労働者災害補償保険法による遺族補償給付を受ける権利が時効によって消滅したものについても、支給の対象とすること。(第2条第2項関係)

第3 特別遺族給付金の請求期限の延長
特別遺族給付金の請求期限を10年延長し、施行日から26年を経過するまでとすること。(第59条第5項関係)

第4 施行期日等
1 施行期日

この法律は、公布の日から施行すること。(附則第1条関係)

2 経過措置
平成28年3月27日からこの改正法の施行の日の前日の5年前の日までに死亡した労働者等の遺族に対する特別遺族年金については、労働者災害補償保険法による遺族補償給付を受ける権利が時効によって消滅した時から遡及して支給するものとすること。(附則第2条関係)

3 見直し
政府は、この改正法の施行後5年以内に、改正後の石綿による健康被害の救済に関する法律の施行状況について検討を加え、その結果に基づいて必要な見直しを行うものとすること。(附則第3条関係)

4 その他
その他所要の規定を整備すること。

患者と家族の会【緊急要求3 待ったなしの時効救済制度の延長】

労災時効となった遺族を対象とした特別遺族給付金について、一部被災者(2016年3月27日以降の死亡者遺族)の請求権がなくなっており、2022年3月28日以降は被災者の死亡から5年を経過したすべての遺族対象者の請求権がなくなってしまいます。 法改正をして、請求権を無期限で延長する必要があります。なお、船員保険受給者の遺族補償に関して、年金受給している遺族がいない場合はその他の遺族へ何の給付もされておらず、同給付金の対象として一時金を支給する必要があります。石綿救済制度の特別遺族弔慰金・特別葬祭料にかかる法施行前の中皮腫および肺がん死亡者の遺族の請求権が2022年3月28日以降になくなってしまいます。法改正をして、請求権を無期限で延長する必要があります。