【建設アスベスト最高裁判決踏まえた対応】物・場所の危険性に着目した規制/労働者以外に保護対象を拡大-2023年(令和5年)4月1日施行の安衛則等11省令改正

労働政策審議会安全衛生分科会では、2021年10月11日の第140回から12月22日の第143回まで、「建設アスベスト訴訟に関する最高裁判決等を踏まえた対応」について検討(https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/shingi-rousei_126972.html)。同年12月24日に労働安全衛生規則等の一部を改正する省令案概要が示されて、2022年1月22日までパブリックコメント手続を実施(https://public-comment.e-gov.go.jp/servlet/Public?CLASSNAME=PCM1040&id=495210340&Mode=1、結果公表は2022年4月15日)。2022年1月31日の第145回安全衛生分科会で省令案概要は妥当と答申され、同年4月15日に厚生労働省令第82号として改正省令が公布された。同時に、公布通達-基発0415第1号「労働安全衛生規則等の一部を改正する省令」も示されている。
改正省令の施行期日は、令和5(2023)年4月1日である。

目次

最高裁判決踏まえた対応

「改正の趣旨」について、公布通達は以下のように説明している(以下、下線及び[]書きは編集部により、「」書きは、とくに断りのない限り公布通達の記述である。「省令ごとの特記事項」以外の公布通達の内容は、ほぼすべて紹介している)。

「石綿にばく露した労働者等が石綿肺、肺がん、中皮腫等の健康被害を被ったのは、国が規制権限を適切に行使しなかったためとして、建設業の元労働者等やその遺族等が国を相手取って国家賠償請求訴訟を提起した『建設アスベスト訴訟』の最高裁判決が令和3[2021]年5月17日に出された。

同判決においては、以下①及び②に示すとおり、これらの点について、国が規制権限を行使しなかったことは、著しく合理性を欠き、国家賠償法第1条第1項の適用上違法とされた。

① 掲示義務規定(法第22条に係る特定化学物質障害予防規則(特化則)第38条の3の規定)は、特別管理物質を取り扱う作業場という場所の危険性に着目した規制であり、その場所において危険にさらされる者が労働者に限られないこと等を考慮すると、特別管理物質を取り扱う作業場における掲示を義務付けることにより、その場所で作業する者であって労働者に該当しない者も保護する趣旨のものと解するのが相当である。

② 省令を制定して、事業者に対し、石綿含有建材を使う建設現場における警告表示(掲示)の内容として、石綿により引き起こされる石綿関連疾患の具体的内容及び症状等、並びに防じんマスクを着用する必要があることについて、より具体的に記載することを義務付けるべきであった。[最高裁判決はここで、「物の危険性に着目した規制であり、その物を取り扱うことにより危険にさらされる者が労働者に限られないこと等を考慮すると、所定事項の表示を義務付けることにより、その物を取り扱う者であって労働者に該当しない者も保護する趣旨のものと解するのが相当である」と判示している。]

このため、本省令改正においては、①等を踏まえ、労働者と同じ場所で働く労働者以外の一人親方等に対しても、労働者と同等の保護措置を図るとともに、②を踏まえ、有害性の警告表示の内容の適正化を図る観点から、労働安全衛生法(法)第27条に基づく法第22条に係る労働安全衛生規則(安衛則)、有機溶剤中毒予防規則(有機則)、鉛中毒予防規則(鉛則)、四アルキル鉛中毒予防規則(四アルキル鉛則)、特化則、高気圧作業安全衛生規則(高圧則)、電離放射線障害防止規則(電離則)、酸素欠乏症等防止規則(酸欠則)、粉じん障害防止規則(粉じん則)、石綿障害予防規則(石綿則)及び東日本大震災により生じた放射線物質により汚染された土壌等を除染するための業務等に係る電離放射線障害防止規則(除染則)(以下「11省令」と総称)の規定を改正するものである。

なお、同判決においては、現行の法第22条の解釈として、その保護対象は労働者以外にも及ぶとされたことから、一人親方等に係る保護措置については、法改正を必要とするものではなく、同条に係る省令の規定を改正することとしたものである。」

今回は法第22条関係のみの改正

続けて「改正の要点」として、以下のように言う。

「法第22条に規定する健康障害を防止するため、11省令を改正し、当該健康障害に係る業務又は作業を行う事業者に対して、
・当該業務又は作業の一部を請負人に請け負わせるときは、当該請負人に対しても労働者と同等の保護措置を講ずる義務を課す
・当該業務又は作業を行う場所において、他の作業に従事する一人親方等の労働者以外の者に対しても労働者と同等の保護措置を講ずる義務を課すこととし、具体的には次の(1)から(5)までのとおりとしたこと。」

(1)健康障害防止のための設備等の稼働等に係る規定の改正
(2)作業実施上の健康障害防止(作業方法、保護具使用等)に係る規定の改正
(3)場所に関わる健康障害防止(立入禁止、退避等)に係る規定の改正
(4)有害物の有害性等を周知させるための掲示に係る規定の改正
(5)労働者以外の者による立入禁止等の遵守義務に係る規定の整備

法第22条関係以外は別途検討

法第22条は、以下のように定めている。

「事業者は、次の健康障害を防止するため必要な措置を講じなければならない。
一 原材料、ガス、蒸気、粉じん、酸素欠乏空気、病原体等による健康障害
二 放射線、高温、低温、超音波、騒音、振動、異常気圧等による健康障害
三 計器監視、精密工作等の作業による健康障害
四 排気、排液又は残さい物による健康障害」

この第22条の「健康障害」に加えて、第20条の「危険」、第21条の「作業方法」、第23条の「作業場」、第24条の「作業行動」、第25条の「退避」、第25条の2の「救護」を合わせて、労働者の危険又は健康障害を防止するために「事業者の講ずべき措置」の対象範囲が規定され、第27条で「第20条から第25条の2の規定により事業者が講ずべき措置は、厚生労働省令で定める」という省令への委任が規定されているという構造である。

これらの規定は不十分であり、例えば、長時間労働等による脳・心臓疾患や心理的負荷による精神障害、ストレスや暴力・ハラスメント等を防止することを含め、労働者の危険又は健康障害につながる労働に関連したあらゆる側面が対象になることを明確にする必要性を、本誌は指摘してきた。

いずれにせよ、今回の省令改正は、法第27条に基づく第22条の健康障害防止措置に係る11省令の関係規定の改正に限定されたものである。

パブリックコメントに対する回答のなかで厚生労働省は、「建設アスベスト訴訟の最高裁判決では、法第22条は、現行の規定において、労働者と同じ場所で働く労働者以外の者も保護する趣旨との判断がなされたことから、同条に基づく省令の規定を改正することとした。法第22条以外の規定については、別途検討の場を設け、改正の要否を含めて検討する予定」としている。

[編注]2022年5月13日から、「個人事業者等に対する安全衛生対策のあり方に関する検討会」による検討作業がはじまっている。(https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/other-roudou_558547_00010.html

拡大された保護対象と義務関係

労働安全衛生法の適用範囲を労働者以外の者にも拡大することは、世界共通の課題である。国際労働機関(ILO)が2022年1月13日に「労働安全衛生法令策定のためのサポートキット」を公表しており、「02-3. 労働安全衛生法が適用される者は誰か?」という問題も取り上げている。参考のために、12頁に翻訳して紹介した。ちなみに最近では、プラットフォーム労働者に対するプラットフォーム企業の責任を確立するための努力が、世界規模で積み重ねられているところである。

まず、今回の省令改正における拡大された保護対象と義務関係をみておこう。

〇「請負人」と「その場所で作業に従事する者」

「改正省令により、事業者は、特定の危険有害業務又は作業の一部を請負人に請け負わせるときは、当該請負人に対する配慮義務や周知義務が新たに課されることとなるが、これらの義務は、事業者が請負契約を締結している相手方に対する義務であること。従って、危険有害作業を重層請負により行う場合の義務については、例えば三次下請事業者までが当該業務又は作業に従事する場合においては、元請事業者から請け負って実施する一次下請事業者は二次下請事業者に対する義務を負い(三次下請業者に対する義務は生じない。)、二次下請事業者は三次下請事業者に対する義務を負うものであること。

また、改正省令により、事業者は、特定の危険有害業務又は作業を行う場所について、請負関係の有無に関わらず、労働者以外の者も含めて周知、立入禁止等の義務が新たに課されるが、これらの義務は、当該業務又は作業を行う全ての事業者が義務を負うものであること。」

〇「請負人」について

「請負人」には、「建設業のいわゆる『一人親方』も含む」「労働者を使用しない個人事業者も含まれる」。

「改正省令により、事業者は、特定の危険有害業務又は作業の一部を請負人に請け負わせるときは、当該請負人に対する配慮義務や周知義務が新たに課されるが、当該請け負わせた業務又は作業において、一時的に又は一定の日等について、労働者が当該業務又は作業に従事せず、請負人のみが従事する場合であっても、これらの義務は適用される」。

なお、「改正省令により、事業者は、特定の危険有害業務又は作業の一部を請負人に請け負わせるときは、当該請負人に対する配慮義務や周知義務が新たに課されるが、事業者が当該業務又は作業の全部を請負人に請け負わせるときは、当該事業者は法第22条の適用対象とはならない(当該業務又は作業の発注者という立場になる)ことから、改正省令により新たに課される義務の対象とならない」。

〇「その場所で作業に従事する者」について

「改正省令により、事業者は、特定の危険有害業務又は作業を行う場所について、請負関係の有無に関わらず、労働者以外の者も含めて周知、立入禁止等の義務が新たに課されるが、これらの義務が及ぶ場所の範囲は、当該業務又は作業が行われている一定の区切られた範囲(当該危険有害業務又は作業の影響が直接的に及ぶと考えられる合理的な範囲)である」。「当該範囲は、今回の改正により、これまで労働者に対する義務が生じていた範囲と、異なるものとなるものではない」。

後述の改正内容(3)「場所に関わる健康障害防止(立入禁止、退避等)に係る規定の改正」の「措置義務の対象に含まれる者の範囲」については、「作業の内容如何に関わらず、その場所で何らかの作業(危険有害な作業に限らず、現場監督、記録のための写真撮影、荷物の搬入等も含まれる。)に従事する者をいい、次に掲げる者が含まれること」と示されている。

① 当該場所で何らかの作業に従事する他社の社長や労働者
② 当該場所で何らかの作業に従事する一人親方
③ 当該場所で何らかの作業に従事する一人親方の家族従事者
④ 当該場所に荷物等を搬入する者

この場合(改正内容(3))の「事業者の義務の範囲」については、「改正省令により設けられた事業者による周知は、周知の内容を請負人等が理解したことの確認までを求めるものではないが、確実に必要な措置が伝わるように分かりやすく周知することが重要であること。その上で、請負人等が自らの判断で保護具を使用しない等、必要な措置を実施しなかった場合において、その実施しなかったことについての責任を当該事業者に求めるものではないこと」とされている。

また、この場合(改正内容(3))及び改正内容(4)「有害物の有害性等を周知させるための掲示に係る規定の改正」については、「危険有害業務又は作業を複数の事業者が共同で行っている場合等、同一場所についてこれらの義務が複数の事業者にかかっているときは、立入り等の禁止の表示や掲示を事業者ごとに複数行う必要はなく、当該複数の事業者が共同で表示や掲示を行っても差し支えないこと」ともされている。

〇家族従事者に対する措置

安全衛生分科会で最後まで議論になった「家族従事者」については、「法第2条第2号の規定により、同居の親族のみを使用する事業又は事務所に使用される者は労働者には含まないこととされているため、家族従事者は法の直接的な措置対象とはなっていないが、個人事業者がこれらの者の安全衛生の確保を図ることは重要である。

改正省令により、事業者の行う業務又は作業の一部を請け負う個人事業者も労働者と同等の保護措置の対象となり、安全衛生の確保に必要な配慮や情報の周知等を受けることができることとなることから、個人事業者は、これらの措置の活用等により、自らが使用する家族従事者に対して、事業者が労働者に対して行う措置と同等の措置を行うことが重要である」とされている。

安全衛生分科会では、これを「一人親方が同居の親族のみを使用して作業を行う場合を想定」し、「一人親方が家族就業者に対して適切に措置を講じる必要がある旨を通達で示すとともに、パンフレット等で分かりやすく周知する」としていた。

〇元方事業者の講ずべき措置

「改正省令は、法第27条に基づき法第22条に係る事業者の講ずべき措置を定めたものであり、元方事業者に係る措置義務等は新設されていない。

しかしながら、法第29条第1項においては、関係請負人が法やそれに基づく命令(改正省令により改正された11省令を含む。)の規定に違反していると認めるときは、必要な指示を行わなければならないとされており、改正省令により義務付けられた措置を関係請負人が行っていない場合には、当該指示の対象となるものである」。「おって、個人事業者は、法第29条第2項の『関係請負人の労働者』には該当しない」。

〇特別教育に係る配慮

「事業者は、労働者を従事させるときに特別教育を行うことが義務付けられている業務(安衛則第36条第20号の2から第29号まで及び第34号から第38号までに掲げる業務)の一部を請負人に請け負わせるときは、当該請負人に対し、労働者に対して特別教育を実施する場合に併せて当該請負人やその労働者等にも受講の機会を提供する、特別教育実施機関を紹介する等の配慮を行うことが望ましい」。

〇作業主任者の職務の範囲

「労働安全衛生法施行令第6条第1号、第5号、第5号の2及び第18号から第23号までの作業に係る作業主任者は、作業に従事する労働者を指揮等する者であることから、事業者が当該作業の一部を請負人に請け負わせる場合における当該請負人に対する措置は、作業主任者の職務には含めていない」。

以下、改正内容(1)~(5)の詳しい内容を見ていきたい(関係省令名のみで条項は特定せず)。

(1)健康障害防止のための設備等の稼働等に係る規定の改正

〇改正の趣旨

「事業者は、特定の危険有害業務又は作業を行うときは、局所排気装置、プッシュプル型換気装置、全体換気装置、排気筒その他の換気のための設備等を設け[、一定の条件の下に稼働させ]る義務があるところ、労働者を当該業務又は作業に従事させる時点でこれらの必要な設備等は設置されることから、当該業務又は作業の一部を請負人に請け負わせる場合に、重ねて当該請負人も対象とした設備等の設置義務を課す改正は行わないこととした」=改正の必要はないと判断したということである(例外的に、事業者側でしか当該設備を容易することが困難な個人ごとの設備(高圧則の空気槽等)については、改正が行われた→「エ」)。

ただし、「設備等の稼働等については、業務又は作業の一部を請負人に請け負わせた場合において、基本的には労働者と当該請負人が当該業務又は作業に従事することとなるが、労働者が一時的に又は一定の日等において当該業務又は作業に従事せず、当該請負人のみが従事する場合も想定される。この場合に、必ずしも事業者が設備等の稼働等の措置を行わず、請負人に対して設備等の使用等を許可する(請負人自身において稼働させる)こと等の他の手段も考えられることから、事業者に対する直接的な措置義務とせず、配慮義務」を新設した。安全衛生分科会では、「作業方法は基本的に請負人において決定できることから、事業主には稼働の努力義務ではなく、配慮義務を課すことが適当」ともされていた。

「当該配慮義務は、何らかの手段で、労働者と同等の保護措置が図られるよう便宜を図る等の義務が事業者に課されているものである」と説明されている。

ア 設備の稼働に関する配慮義務の新設

「当該請負人のみが業務又は作業を行うときは、これらの設備を一定の条件の下に稼働させること等について配慮しなければならないこととした」。

この「配慮義務には、事業者が設備を稼働させることのほか、請負人に対し、請負人が当該設備を稼働させることを許可すること、請負人に対し当該設備の稼働について助言すること等が含まれる」。

「『換気装置により(中略)換気し、作業中も当該装置により換気を続けること等について配慮しなければならない』という規定の配慮義務には、事業者が換気装置により換気することのほか、請負人に対し、請負人が当該換気装置を使用して換気することを許可すること、請負人に対し当該換気装置を使用した換気の実施について助言すること等が含まれる」とされている。

[②有機則、③鉛則、④四アルキル鉛則、⑤特化則、⑧酸欠則、⑨粉じん則、⑩石綿則関係]

イ 設備の使用等に関する配慮義務の新設

「保管設備、汚染を洗浄するための設備、遠隔操作のための隔離室等を設け、労働者に使用させる義務があるところ、当該業務又は作業の一部を請負人に請け負わせるときは、これらの設備を当該請負人に使用させる等の必要な配慮をしなければならないこととした」。

「『○○(設備)を使用させる等適切に△△(措置)が行われるよう必要な配慮をしなければならない』という規定の配慮義務には、請負人に○○を使用させることのほか、請負人に対し、請負人が△△を行うことができる場所を提供することが含まれる」とされている。

[③鉛則、④四アルキル鉛則、⑤特化則、⑩石綿則関係]

ウ 設備の整備等に係る措置に関する配慮義務の新設

「事業者は、特定の危険有害業務又は作業を行うときは、当該業務又は作業に係る設備や原材料等について、一定の措置を講ずる義務があるところ、当該業務又は作業の一部を請負人に請け負わせるときは、当該請負人に関してこれらの措置を講ずること等について配慮しなければならないこととした」。

「『○○(設備)について、△△(措置)すること等について配慮する』という規定の配慮義務には、事業者が○○に△△することのほか、請負人に対し、請負人が○○に△△することを許可すること、請負人に対し△△について助言すること等が含まれる」。「『作業の状況を監視し、異常があったときに直ちにその旨を事業者に通報する者を一人以上置くこと等について配慮する』という規定の配慮義務には、事業者が監視者を配置することのほか、請負人が監視者を置くことを許可することが含まれる」とされている。

[②有機則、④四アルキル鉛則、⑤特化則、⑧酸欠則、⑨粉じん則関係]

エ 設備の設置等に関する義務及び配慮義務の新設

「事業者は、潜水業務又は高圧室内業務を行うときは、特定の設備を設け、又は当該設備に関して必要な措置を講ずる義務があるところ、当該業務の一部を請負人に請け負わせるときは、当該請負人に対してこれらの措置を講ずること等について配慮しなければならないこと又は当該請負人もこれらの措置の対象としなければならないこととした」。

[⑥高圧則関係]

(2)作業実施上の健康障害防止(作業方法、保護具使用等)に係る規定の改正

〇改正の趣旨

安全衛生分科会では、「安全確保のために省令で規定されている特定の作業方法の遵守や保護具の使用等は、作業を行うに当たって必ず実施すべき措置であるが、当該作業を請け負わせる請負人に対しては指揮命令関係がないため、これらの措置が必要なことについての周知義務を設ける。また、作業に従事する者に限定された措置ではなく、特定の場所について、全ての労働者に保護具の使用等を求めている規定については、当該作業場で(他の)作業に従事する者全員を周知対象とする」と説明されている。

「改正省令により設けられた事業者による周知は、請負人等に指揮命令を行うことができないことから周知させることとしたものであり、請負人等についても労働者と同等の保護措置が講じられるためには、事業者から必要な措置を周知された請負人等自身が、確実に当該措置を実施することが重要である」。「また、個人事業者が家族従事者を使用するときは、個人事業者は当該家族従事者に対して、必要な措置を確実に実施することが重要である」。

〇周知の方法

以下のいずれかの方法により、「周知させる内容が複雑な場合等で④の口頭による周知が困難なときは、以下の①~③のいずれかの方法によること」とされている。

① 常時作業場所の見やすい場所に掲示又は備えつけることによる周知
② 書面を交付すること(請負契約時に書面で示すことも含む。)による周知
③ 磁気テープ、磁気ディスクその他これらに準ずる物に記録し、かつ、各作業場所に当該記録の内容を常時確認できる機器を設置することによる周知
④ 口頭による周知

なお、「改正省令により設けられた事業者による周知は、周知の内容を請負人等が理解したことの確認までを求めるものではないが、確実に必要な措置が伝わるように分かりやすく周知することが重要であること。その上で、請負人等が自らの判断で保護具を使用しない等、必要な措置を実施しなかった場合において、その実施しなかったことについての責任を当該事業者に求めるものではない」とされている。

〇作業計画について

「高圧則第12条の2、石綿則第4条及び除染則第8条に規定する作業計画については、作業の方法等の事項を示すこととされているが、当該作業の方法は、作業を行う事業者と、当該作業の一部を請け負う請負人とで必ずしも同一ではないことから、改正省令において、作業計画について請負人に対して周知させる義務は課さないこととしたこと。ただし、作業計画のうち、労働者や請負人の健康障害を防止するために、請負人に対しても周知させる必要がある事項については、周知させることが望ましい」とされている。

ア 作業方法に関する周知義務の新設

「事業者は、特定の危険有害業務又は作業を行うときは、一定の作業方法による義務があるところ、当該業務又は作業の一部を請負人に請け負わせるときは、当該請負人に対し、一定の作業方法により当該業務又は作業を行う必要がある旨を周知させなければならないこととした」。

なお、「高圧則第12条の2、石綿則第4条及び除染則第8条に規定する作業計画については、作業の方法等の事項を示すこととされているが、当該作業の方法は、作業を行う事業者と、当該作業の一部を請け負う請負人とで必ずしも同一ではないことから、改正省令において、作業計画について請負人に対して周知させる義務は課さないこととしたこと。ただし、作業計画のうち、労働者や請負人の健康障害を防止するために、請負人に対しても周知させる必要がある事項については、周知させることが望ましいこ」とされている。

[①安衛則、③鉛則、④四アルキル鉛則、⑤特化則、⑥高圧則、⑦電離則、⑩石綿則、⑪除染則関係]

イ 特定の作業実施時の保護具使用の必要性に関する周知義務の新設

「事業者は、特定の危険有害業務又は作業を行うときは、当該業務又は作業に従事する労働者に必要な保護具を使用させる義務があるところ、当該業務又は作業の一部を請負人に請け負わせるときは、当該請負人に対し、必要な保護具を使用する必要がある旨を周知させなければならないこととした」。

[①安衛則、②有機則、③鉛則、④四アルキル鉛則、⑤特化則、⑥高圧則、⑦電離則、⑧酸欠則、⑨粉じん則、⑩石綿則、⑪除染則関係]

ウ 特定の場所における保護具使用の必要性に関する周知義務の新設

「事業者は、特定の危険有害業務又は作業を行うときは、当該業務又は作業を行う場所で作業に従事する労働者に必要な保護具を使用させる義務があるところ、請負関係の有無に関わらず、労働者以外の者も含めて、当該場所で作業に従事する者に対し、必要な保護具を使用する必要がある旨を周知させなければならないこととした」。

[②有機則、③鉛則、⑤特化則、⑨粉じん則、⑩石綿則関係]

エ 汚染の除去等に関する周知義務の新設

「事業者は、特定の危険有害業務又は作業に関して労働者が有害物により汚染等されたときは、汚染の除去、医師による診断の受診等をさせる義務があるところ、当該業務又は作業の一部を請負人に請け負わせるときは、当該請負人に対し、有害物により汚染等されたときは、汚染の除去、医師による診断の受診等をする必要がある旨を周知させなければならないこととした」。

[②有機則、③鉛則、④四アルキル鉛則、⑤特化則、⑦電離則、⑧酸欠則、⑩石綿則、⑪除染則関係]

オ 特定の疾病罹患時等の作業従事禁止に関する周知義務の新設

「事業者は、特定の疾病に罹患等している労働者を、特定の危険有害業務又は作業に従事させてはならないところ、当該業務又は作業の一部を請負人に請け負わせるときは、当該請負人に対し、特定の疾病に罹患等しているときは、特定の危険有害業務又は作業に従事してはならない旨を周知させなければならないこととした」。

[③鉛則、④四アルキル鉛則、⑥高圧則関係]

(3)場所に関わる健康障害防止(立入禁止、退避等)に係る規定の改正

〇改正の趣旨

「事業者は、労働者に対して、特定の場所への立入りの禁止、事故等発生時の退避、特定の場所での喫煙及び飲食の禁止、特定の場所への立入り又は特定の場所からの退出時の措置を行う義務があるところ、これらの措置は、場所の危険性の観点から健康障害防止を図るための措置として義務付けられているものである。このため、労働者以外の者であっても、当該場所で作業に従事する者には等しく適用されるべきものであることや、これらの措置は指揮命令に基づくものではなく、当該場所を実態として使用・管理している者の権限に基づいて行うものであることから、労働者以外の者も、これらの措置義務の対象に追加したものである」。

なお、「立入り又は喫煙及び飲食の禁止の方法としては、必ずしも事業者が常時監視する必要はなく、禁止する旨を見やすい箇所に表示する方法も認められるところ、改正省令により、改めて表示による禁止も含まれることを条文上明示した」。「これは表示による禁止も可能であることを改めて条文上明示したに過ぎず、表示による禁止が最も適切である等の趣旨を表したものではない」。

「表示で行う場合は、対象となる全ての者に確実にその旨が伝わることが重要であることから、見やすい箇所に分かりやすく表示する必要がある」。「表示以外の方法としては、ロープ、柵等で入れないようにする方法、出入口を施錠する方法などがある」とされている。

ア 特定の場所への立入禁止等の対象拡大

「事業者は、特定の危険有害な環境にある場所、特定の危険有害な物を取り扱う場所又は特定の危険有害な物が発生するおそれがある場所には、必要がある労働者を除き、労働者が立ち入ることを禁止し、その旨を見やすい箇所に表示する義務があるところ、請負関係の有無に関わらず、労働者以外の者も含めて、必要がある者を除き、当該場所で作業に従事する者が立ち入ることを禁止し、その旨を見やすい箇所に表示しなければならないこととした」。

[①安衛則、②有機則、③鉛則、④四アルキル鉛則、⑤特化則、⑥高圧則、⑦電離則、⑧酸欠則、⑨粉じん則、⑩石綿則、⑪除染則関係]

イ 事故等発生時の退避の対象拡大

「事業者は、特定の事故等が発生し、労働者に健康障害のおそれがあるときは、事故等が発生した場所から労働者を退避させる義務があるところ、請負関係の有無に関わらず、労働者以外の者も含めて、当該場所で作業に従事する者を退避させなければならないこととした」。

[②有機則、④四アルキル鉛則、⑤特化則、⑥高圧則、⑦電離則、⑧酸欠則関係]

ウ 特定の場所での喫煙及び飲食の禁止の対象拡大

「事業者は、特定の場所においては、労働者が喫煙し、又は飲食することを禁止し、その旨を見やすい箇所に表示する義務があるところ、請負関係の有無に関わらず、労働者以外の者も含めて、当該場所で作業に従事する者が喫煙し、又は飲食することを禁止し、その旨を見やすい箇所に表示しなければならないこととした」。

[③鉛則、⑤特化則、⑦電離則、⑩石綿則、⑪除染則関係]

エ 特定の場所における入退出時等に講ずる措置の対象拡大

「事業者は、特定の場所に労働者を立ち入らせるとき、特定の場所から労働者を退出させるとき等は、一定の措置を講ずる義務があるところ、労働者以外の者も含めて、当該場所で作業に従事する者を当該措置の対象としなければならないこととした」。

[⑥高圧則、⑧酸欠則関係]

(4)有害物の有害性等を周知させるための掲示に係る規定の改正

〇改正の趣旨

「事業者は、特定の有害物を取り扱う場所について、労働者に対して、当該有害物の有害性等を周知させるために掲示を行う義務があるところ、当該有害物によって健康障害が生ずるおそれは、労働者以外の者についても同様であることから、労働者以外の者も含め、当該場所において作業に従事する者について、掲示による周知義務の対象としたものである」。

なお、「危険有害業務又は作業を複数の事業者が共同で行っている場合等、同一場所について掲示を行う義務が複数の事業者にかかっているときは、掲示を事業者ごとに複数行う必要はなく、当該複数の事業者が共同で掲示を行っても差し支えない」とされている。

ア 有害物の有害性等に関する掲示による周知の対象拡大

「事業者は、特定の有害物を取り扱う場所については、有害物の有害性等を周知させるため、必要な事項について労働者が見やすい箇所に掲示する義務があるところ、労働者以外の者も含めて、見やすい箇所に掲示しなければならないこととした」。

[②有機則、⑤特化則、⑩石綿則関係]

イ 有害物の有害性等に関する掲示内容の見直し

「事業者は、特定の有害物を取り扱う場所については、有害物の有害性等を周知させるため、有害物の人体に及ぼす作用等について掲示する義務があるところ、掲示すべき事項のうち、『特定の有害物の人体に及ぼす作用』を『特定の有害物により生ずるおそれのある疾病の種類及びその症状』に改めるとともに、『保護具を使用しなければならない旨』を掲示すべき事項に追加した」。
「有害物の有害性に対する記載が具体的でなく、注意喚起としての効果が十分に得られない可能性があることから、より具体的な内容」等にするという趣旨である。

[②有機則、⑤特化則、⑩石綿則関係]

ウ 有害物の有害性等に関する掲示義務の対象物質の拡大

「事業者が有害物の有害性等を掲示しなければならない義務は、有機則、特化則、石綿則に規定されていたところ、改正安衛則(ダイオキシン類関係)、改正鉛則、改正四アルキル鉛則及び改正粉じん則にも同様の規定を設けた」。

[①安衛則、③鉛則、④四アルキル鉛則、⑨粉じん則関係]

エ 特定の場所における掲示等による必要事項の周知の対象拡大

「事業者は、特定の場所について、装置故障時の連絡方法、事故発生時の応急措置等必要な事項を労働者が見やすい箇所に掲示又は明示する義務があるところ、労働者以外の者も含めて、見やすい箇所に掲示又は明示しなければならないこととした」。

[①安衛則、②有機則、⑤特化則、⑥高圧則、⑦電離則、⑩石綿則、⑪除染則関係]

(5)労働者以外の者による立入禁止等の遵守義務に係る規定の整備

〇改正の趣旨

前述の「改正省令により、事業者による立入禁止、喫煙及び飲食の禁止並びに特定の場所に立ち入るとき又は特定の場所から退出するときの汚染等の除去の措置対象に、労働者以外の者であって作業に従事する者も追加されたことを受け、労働者以外の者にもこれらの措置を確実に遵守させる必要があることから、労働者に加えて、労働者以外の者についてもこれらの措置に係る遵守義務を設けた」。

ただし、「労働者以外の者については、立入禁止、喫煙及び飲食の禁止、汚染等の除去についての遵守義務について、罰則はない」。

ア 労働者以外の者による立入禁止の遵守義務の対象拡大

「労働者は、必要がある者を除き、立入りが禁止された場所には立ち入ってはならないとされているところ、(3)アにより新たに立入禁止の対象とされた労働者以外の者も含め、当該場所で作業に従事する者は、必要がある者を除き、立入りが禁止された場所には立ち入ってはならないこととした」。

[①安衛則、⑧酸欠則関係]

イ 労働者以外の者による喫煙及び飲食禁止の遵守義務の対象拡大

「労働者は、特定の場所では喫煙又は飲食してはならないとされているところ、(3)ウにより新たに禁止対象とされた労働者以外の者も含め、当該場所で作業に従事する者は、喫煙又は飲食してはならないこととした」。

[③鉛則、⑤特化則、⑦電離則、⑩石綿則、⑪除染則関係]

ウ 特定の場所における入退出時の汚染等の除去義務の対象拡大

「労働者は、特定の場所に立ち入るとき又は特定の場所から退出するときは、汚染等を除去する義務があるところ、労働者以外の者も含め、特定の場所に立ち入るとき又は特定の場所から退出するときは、汚染等を除去しなければならないこととした」。

[③鉛則、⑤特化則、⑦電離則、⑨粉じん則、⑩石綿則、⑪除染則関係]

省令ごとの特記事項

以上の説明以外に、公布通達には「省令ごとの特記事項(共通事項以外)」が含まれているが、ここでは省略させていただく。

厚生労働省は、「一人親方等の安全衛生対策について」という特設ページをつくり、今回の労働安全衛生規則等の一部改正について、69頁の改正省令、23頁の公布通達とパンフレットを掲載した。

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/anzen/newpage_00008.html

具体的な改正条文を含めて、詳しくは、原文を参照していただきたい。

安全センター情報2022年6月号

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