【特集/脳・心臓疾患、精神障害の労災認定】・心認定基準改正の効果なし/ハラスメントによる精神障害最多-コロナ感染症関連認定が3倍の22件(安全センター情報2022年10月号)

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厚生労働省は2022年6月24日に、2021年度分の「過労死等の労災補償状況」を公表した(https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_26394.html)。

2014年までは、「脳・心臓疾患と精神障害の労災補償状況」とされていたが、過労死等防止対策推進法の施行を踏まえて変更した。「過労死等」とは、「同法第2条において、『業務における過重な負荷による脳血管疾患若しくは心臓疾患を原因とする死亡若しくは業務における強い心理的負荷による精神障害を原因とする自殺による死亡又はこれらの脳血管疾患若しくは心臓疾患若しくは精神障害をいう』と定義されている」、と注記されている。

厚生労働省が指摘するポイント

厚生労働省省自身が指摘する2021年度の特徴は、以下のとおりである。

■ポイント

・過労死等に関する請求件数
3,099件(前年度比264件の増加)
・支給決定件数
801件(前年度比1件の増加)
うち死亡(自殺未遂を含む)件数:136件(前年度比12件の減少)

■脳・心臓疾患に関する事案の労災補償状況

① 請求件数は753件で、前年度比31件の減少。(表1、図1-図表番号は本誌掲載のもの)

② 支給決定件数は172件で前年度比22件の減。うち死亡件数は前年度比10件減の57件。(表1、図1)

③ 業種別(大分類)では、請求件数は「運輸業,郵便業」155件、「卸売業,小売業」105件、「卸売業,小売業」92件の順で多い。支給決定件数は「運輸業,郵便業」59件、「建設業」23件、「卸売業,小売業」22件の順に多い。(表5)

業種別(中分類)では、請求件数、支給決定件数ともに業種別(大分類)の「運輸業,郵便業」のうち「道路貨物運送業」124件、56件が最多。(支給決定件数-表7-1)

④ 職種別(大分類)では、請求件数は「輸送・機械運転従事者」161件、「専門的・技術的職業従事者」110件、「サービス職業従事者」と「建設・採掘従事者」78件の順で多い。支給決定件数は「輸送・機械運転従事者」54件、「専門的・技術的職業従事者」27件、「管理的作業従事者」19件の順に多い。(表5)

職種別(中分類)では、請求件数、支給決定件数ともに職種別(大分類)の「輸送・機械運転従事者」のうち「自動車運転従事者」150件、53件が最多。(支給決定件数-表7-2)

⑤ 年齢別では、請求件数は「50~59歳」268件、「60歳以上」256件、「40~49歳」168件の順で多い。支給決定件数は「50~59歳」67件、「40~49歳」55件、「60歳以上」36件の順に多い。(表5)

⑥ 時間外労働時間別(1か月または2~6か月における1か月平均)支給決定件数は、「評価期間1か月」では「100時間以上~120時間未満」20件が最も多い。また、「評価期間2~6か月における1か月平均」では「80時間以上~100時間未満」56件が最も多い。(表9)

■精神障害に関する事案の労災補償状況

① 請求件数は2,346件で前年度比295件の増加。うち未遂を含む自殺の件数は前年度比16件増の171件。(表2、図1)

② 支給決定件数は629件で前年度比21件の増加。うち未遂を含む自殺の件数は前年度比2件減の79件。(表2、図1)

③ 業種別(大分類)では、請求件数は「医療,福祉」577件、「製造業」352件、「卸売業,小売業」304件の順で多い。支給決定件数は「医療,福祉」142件、「製造業」105件、「卸売業,小売業」76件の順に多い。(表6)

業種別(中分類)では、請求件数、支給決定件数ともに業種別(大分類)の「医療,福祉」のうち「社会保険・社会福祉・介護事業」336件、82件が最多。(支給決定件数-表8-1)

④ 職種別(大分類)では、請求件数は「専門的・技術的職業従事者」599件、「事務従事者」512件、「サービス職業従事者」353件の順で多い。支給決定件数は「専門的・技術的職業従事者」145件、「事務従事者」106件、「サービス職業従事者」105件の順に多い。(表6)

職種別(中分類)では、請求件数、支給決定件数ともに職種別(大分類)の「事務従事者」のうち「一般事務従事者」373件、67件が最多(支給決定件数-表8-2)

⑤ 年齢別では、請求件数は「40~49歳」703件、「30~39歳」556件、「20~29歳」459件の順で多い。支給決定件数は「40~49歳」200件、「20~29歳」153件、「30~39歳」145件の順に多い(表6)
⑥時間外労働時間別(1か月平均)支給決定件数は「20時間未満」が73件で最も多く、次いで「80時間以上~100時間未満」が44件。(表10)

⑦ 出来事(※)別の支給決定件数は、「上司等から、身体的攻撃、精神的攻撃等のパワーハラスメントを受けた」125件、「仕事内容・仕事量の(大きな)変化を生じさせる出来事があった」71件、「悲惨な事故や災害の体験、目撃をした」66件の順に多い。(表13)
※「出来事」とは精神障害の発病に関与したと考えられる事象の心理的負荷の強度を評価するために、認定基準において、一定の事象を類型化したもの

■裁量労働制対象者に関する労災補償状況

令和3年度の裁量労働制対象者に関する脳・心臓疾患の支給決定件数は2件で、いずれも専門業務型裁量労働制対象者であった。また、精神障害の支給決定件数は7件で、専門業務型裁量労働制対象者6件、企画業務型裁量労働制対象者1件であった。(表4)

■新型コロナウイルス感染症に関連する(※)脳・心臓疾患の支給

決定件数は4件、精神障害の支給決定件数は18件であった。
※請求人が業務で新型コロナウイルス感染症に関連する出来事などがあったと申し立てたもの。

■複数業務要因災害(※)に関する脳・心臓疾患の決定件数は8件(うち支給決定件数2件)で、精神障害の決定件数は0件(うち支給決定件数0件)であった。
※事業主が同一でない二以上の事業に同時に使用されている労働者について、全ての就業先での業務上の負荷を総合的に評価することにより傷病との間に因果関係が認められる災害。

コロナ関連・複数業務要因

「新型コロナウイルス感染症」に関連するデータの公表は2年目で、2020年度は、精神障害の支給決定件数が7件で、脳・心臓疾患はなかったものが、2021年度は合計で22件と、3倍に増加したことが注目され、詳しい情報の公表が望まれる。

「複数業務要因災害」は2020年9月1日から施行されたもので(同年8月21日に関連する認定基準の改正が行われている)、関連データの公表は今回が初めてである。

本誌で紹介するデータ

本誌では、今回公表されたデータだけでなく、過去に公表された関連データもできるだけ統合して紹介している。脳・心臓疾患及び精神障害等については、2001年の脳・心臓疾患に係る認定基準の改正を受けて、2002年以降毎年5~6月に、前年度の労災補償状況が公表されるようになっているが、それ以前に公表されたものもある(脳・心臓疾患では1987年度分から、精神障害では1983年度分から一部データあり)。一方で、公表内容は必ずしも同じものではない(表1及び表2の空欄は公表されなかった部分である)。

労災補償状況(請求・認定件数等)に関する表1及び表2の「合計」は2002~2021年度分の合計で、全年度分のデータがそろわない項目の「合計」は空欄とした。

なお、2010年5月7日からわが国の「職業病リスト」(労働基準法施行規則別表第1の2(第35条関係))が改訂されている。それまで、包括的救済規定と呼ばれる「第9号=その他業務に起因することの明らかな疾病」として扱われてきた脳・心臓疾患及び精神障害が、「業務との因果関係が医学経験則上確立したもの」として、各々新第8号、新第9号として、以下のように例示列挙されたものである。これに伴い、旧第9号は第11号へと変更された。

新第8号-長期間にわたる長時間の業務その他血管病変等を著しく増悪させる業務による脳出血、くも膜下出血、脳梗塞、高血圧性脳症、心筋梗塞、狭心症、心停止(心臓性突然死を含む。)若しくは解離性大動脈瘤又はこれらの疾病に付随する疾病

新第9号-人の生命に関わる事故への遭遇その他心理的に過度の負担を与える事象を伴う業務による精神及び行動の障害又はこれに付随する疾病

脳・心臓疾患については、「第1号=業務上の負傷に起因する疾病」として扱われるものもあることから、過去に公表された2001年度以前分については、第1号と旧第9号を合わせた件数、及びそのうちの旧第9号の内数が示されていたのであるが、2002年度分以降の公表は、旧第9号(2010年度以降は新第8号)に関するものだけになっている。表1の「脳血管疾患」「虚血性心疾患等」も、旧第9号=新第8号に係るもののみの数字である。

認定基準の改正経過

2011年12月26日に「心理的的負荷による精神障害の認定基準」が策定され、1991年9月14日付け「心理的的負荷による精神障害等の業務上外に係る判断指針」は廃止された。ここで、「判断指針の標題は『精神障害等』となっており、『等』は自殺を指すものとされていたが、従来より、自殺の業務起因性の判断の前提として、精神障害の業務起因性の判断を行っていたことから、この趣旨を明確にするため『等』を削除した」が、「実質的な変更はない」とされた。以降の厚生労働省の公表文書等においても、「精神障害等」から「精神障害」に変更されており、本誌もこれにしたがっている。2021年12月7日から専門検討会において、2011年認定基準見直しの検討がはじまっているところである。

脳・心臓疾患の労災認定基準は、1961年2月13日に「中枢神経及び循環器系疾患(脳卒中、急性心臓死等)の業務上外認定基準」として初めて策定され、1987年10月26日に改正されて「脳血管疾患及び虚血性心疾患等の認定基準」となり、その後、1995年及び2001年にも改正され(1995年の改正以降「負傷に起因するもの」は除かれた)、さらに2021年9月14日に改正されて「血管病変等を著しく増悪させる業務による脳血管疾患及び虚血性心疾患等の認定基準」となった(2021年10月号参照)。

請求・認定件数

図1及び表2から、精神障害の請求件数が一貫して増加傾向にあることが一目瞭然である。2020年度はわずかに減少に転じたものの、2021年度は前年度比295件の増加で、2,346件であった。表2に含まれていないが、1993年度以前は1桁、1994~96年度が13~18件、1997年度41件、1998年度42件で、判断指針が策定された1999年度は155件だった。2000年度212件から増加を続け、2004年度に500件を超え、2009年度に1,000件、2019年度には2,000件を超えた。2021年度は、2000年度の11倍以上、認定基準が策定された2011年度(1,272件)と比較しても2倍近くになっている。

精神障害の認定件数も、請求件数の場合ほど急勾配ではないものの、増加傾向が確認でき、2021年度は前年度比21件の増加で629件と過去最高を更新した。表2に示されていない1998年度以前は0~4件、判断指針が策定された1999年度が14件で、それと比較すると45倍になる。2002年度には100件に達し、認定基準が策定された2011年度は325件で、それと比較しても2倍である。

精神障害については、1999年の判断指針の策定と2011年の認定基準の策定がともに、請求件数及び認定件数の増加につながったことが確認できる。

脳・心臓疾患の請求件数が判明しているのは1997年度以降で、1997年度539件、1998年度466件、1999年度493件で、2000年度以降は表1に示すとおり。図1も含めて確認すると、認定基準が改正された2001年度は690件で、2003年度にへこみがあるものの2006年度938件までは増加を続け、その後、2009年度767件を谷にして2011年度898件まで増加、2014年度763件を谷にして2019年度936件まで増加、以降2年連続の減少で、2021年度は753件まで下がった。これは、認定基準が改正された2001年度690件と2002年度819件の間の数字である。
脳・心臓疾患の認定件数は、表2に示されていない1987~94年度は18~34件、1995~99年度は31~90件。2000年度は85件で、認定基準が改正された2001年度143件、2002年317件と連続して増加し、2007年度392件までは微増傾向だったものの、その後2010年度285件まで減少した後、2012年度338件まで持ち直し、以降は減少し続けて、2021年度は172件まで下がった。これは、認定基準が改正された2001年度143件と2002年度317件の間の数字である。

脳・心臓疾患については、2021年9月14日に20年ぶりの労災認定基準改正が行われたにもかかわらず、請求件数及び認定件数とも減少がとまらず、かえって20年前の水準にまで下がってしまったということである。2022年度の動向に注目したいが、これまでのところ、この面での認定基準改正の効果はなかったと言わざるを得ない。

認定率

本誌では、「認定率」について、以下のふたつの数字を計算している(表1及び表2参照)。
認定率①=認定(支給決定)件数/請求件数
認定率②=認定(支給決定)件数/決定件数(支給決定件数+不支給決定件数)

もちろん認定率②の方が本来の「認定率」にふさわしいわけだが、これが計算できるようになったのは、2002年度以降分からである。図2に、脳・心臓疾患及び精神障害に係るふたつの認定率を示した。
脳・心臓疾患の認定率②は、2001年の労災認定基準改正後、2002~14年度は40%を超えていた(最高は2008年度の47.3%)が、2015年度には最低を記録し(37.4%)、その後やや持ち直すも、2018年度34.5%、2019年度31.6%、2020年度29.2%と3年連続して過去最低を更新した。2021年度は32.8%に増加したが、これが認定基準改正の効果と言えるかどうかは慎重にみきわめる必要があろう。

精神障害の認定率②は、認定基準が策定された2011年度30.3%から2012年度には過去最高レベルの39.0%に増加。その後、2013~16年度は30%台後半を維持したものの、2017年度に32.8%と大きく減少、2018年度も31.8%とさらに減少、2019年度32.1%、2020年度31.9%、2021年度32.2%と、低いレベルにとどまっている。

脳・心臓疾患と精神障害を比較すると、脳・心臓疾患の認定率②のほうが精神障害の認定率②よりも高い時期が長く続き、両者の差は、大きいときには16%もあったものが次第に狭まって2016年度にはわずか1.4%にまで縮まった後、再び3.6%までひろがり、2018年度2.7%と推移したが、2019年度には0.5%とわずかながらついに両者が逆転してしまった。2020年度も逆転状況は続き、差は2.7%だったが、2021年度は再逆転し、差は0.6%であった。

審査請求等

2004年度分以降、「審査請求事案の取消決定等による支給決定状況」も公表されており、表3に示した。これは、「審査請求、再審査請求、訴訟により処分取消となったことに伴い新たに支給決定した事案」であって、表1及び表2の支給決定件数には含められていないということである。

また、2015年の公表では、2014年度分のみに限定されていたが、初めて女性の内数データが追加された。これが一定拡大されて継続している。表1-1及び表2-1、表3の2011~2020年度分の括弧内のように、過去に遡って女性の内数データが示されたのである。これによって、「男女別」状況を一定検討できるようになっている。

しかし、1996~2002年度の7年分については、「疾患別」(精神障害については「国際疾病分類第10回修正第V章『精神及び行動の障害』の分類」)データも公表されていたことを指摘して、「疾患別」データの公表再開も強くのぞみたい。

データ公表の一層の改善に関連しては、さらに、例えば、平均処理期間等の情報も求めたい。行政手続法で定めることを義務付けられている標準処理期間について、新第9号=精神障害に係る療養・休業・遺族補償給付及び葬祭料に関しては8か月とし、これ以外は他の疾病(包括的救済規定に係るものを除く)に係る標準処理期間と同様に6か月とすることとされている(包括的救済規定に係るものに関しては「定めない」と定められている)(2010年5月7日付け基発0507第3号)。

裁量労働制対象者・個人事業者等

さらに、2011年度分以降、「裁量労働制対象者に係る支給決定件数」も公表され、2014年度分以降は「決定件数」と「認定率」も追加されるようになった。死亡/自殺の内数も示されているが、男女別内訳はない(表4-決定件数は省略)。

なお、2022年6月28日に開催された第2回「個人事業者等に対する安全衛生対策のあり方に関する検討会」に、「労災保険特別加入者における過労死等の労災認定事案の特徴に関する研究(自営業者、法人役員、一人親方等の過労死等に関する医学研究)」が示されている(https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_26349.html)。

業種・職種・年齢・生死/自殺別

表5及び表6には、業種別、職種別、年齢別、生死/自殺別のデータを示した。請求件数・決定件数双方について示されているが、支給決定件数についてのデータのみを示す。脳・心臓疾患は1996年度分から、精神障害は1999年度分からデータがあるが、年度の「合計」欄には、2000~2021年度までの合計値を示した。これらも、2014年度分以降について、「男女別」データが利用できるようになっているが、表5及び表6では、最下欄に2021年度分についての男性及び女性のデータを示した。

「業種別」について、2014年度末労災保険適用労働者数をもとに10万人当たりの2000~2021年度認定合計数を可能な範囲で試算してみた(表5及び表6「※1」「※2」欄)。業種分類が正しく対応しているか定かではないが、「農林漁業・鉱業」、脳・心臓疾患では「運輸業、郵便業」も、高さが際立っているようにみえ、さらなる分析が必要だろう。「職種別、年齢別、生死/自殺別、男女別」等も含めて、このような分析は意味があると考える。

業種・職種の区分名称は公表時期によって多少異なっている。業種区分は2003年度分から、「林業」、「漁業」、「鉱業」がひとくくり(現在は「農業・林業・漁業・鉱業・採掘業・砂利採取業」)になり、「電気・ガス・水道・熱供給業」の区分がなくなり、「その他の事業」が「情報通信業」、「宿泊業、飲食サービス業」、「上記以外の事業」に細分されるようになった。「上記以外の事業」に分類されているのは、「不動産業、他に分類されないサービス業などである」とされている。また、2009年度分から、「運輸業」は「運輸業、郵便業」とされている。

職種別では、区分名称の若干の変更に加えて、2010年度分から、「技能職」→「生産工程・労務作業者」とされていた区分が、「生産工程従事者」、「運搬・清掃・包装等従事者」、「建設・採掘従事者」の3つに区分されるようになったが、表5及び表6では「技能職」の表示で、上記3区分の合計値を掲載している。

また、2009年度分からは、「請求件数・支給決定件数の多い業種・職種(中分類・上位15)」が示されるようになったが、本誌では、表7及び表8に過去5年分の支給決定件数についてのデータのみを示す。空欄は、当該年度に上位15に該当しなかったためにデータがないことを意味しており、表7-1及び表8-1では紙幅の都合から、一部の年度について当該年度に上位15に該当したもので掲載できていない業種があることに注意していただきたい。2009年度以降10年間に支給決定件数の多い上位15に該当したのは、脳・心臓疾患で44業種(表7-1+22業種)、40職種(表7-2+17職種)、精神障害で33業種(表8-1+9業種)、29職種(表7-2+8職種)である。上位を占める業種・職種がだいぶ特定されてきているように思われる。

これらも、2014年度分以降分について、「男女別」データが利用できるようになっているが、表7及び表8では示していない。

脳・心臓疾患の認定事由別

2007年度分からは、「1か月平均の時間外労働時間数別」支給決定件数が公表されている。

脳・心臓疾患については、2015年度分から、「評価期間1か月」のものと「評価期間2~6か月(1か月平均)」の内訳も示されるようになった。これによって、まず、「除かれた」「異常な出来事への遭遇」または「短期間の加重業務」により支給決定されたものを逆算できる。次に、「評価期間1か月」について100時間以上、「評価期間2~6か月」について1か月平均80時間以上のものはそのことをもって支給決定されたものと推定できる。「『評価期間1か月』について100時間以上、『評価期間2~6か月』については80時間未満で支給決定した事案は、労働時間以外の負荷要因(不規則な勤務、拘束時間の長い勤務、出張の多い勤務、交替勤務・深夜勤務、精神的緊張を伴なう業務)を認め、客観的かつ総合的に判断したもの」と注記されている。表9は、以上のようなかたちに加工したデータを示した。

時間外労働時間別・就業形態別

精神障害についての表10は、発表されたかたちのままで、「合計」欄には、2007年度から2020年度までの合計値を示してある。注記したように、その他の件数は、「出来事による心理的負荷が極度であると認められる事案等、労働時間を調査するまでもなく明らかに業務上と判断した事案の件数」である。発症直前の1か月におおむね160時間を超えるような時間外労働は「極度の長時間労働」として認められる得る、また、出来事の前後100時間程度となる時間外労働は「恒常的長時間労働」として心理的負荷の強度の総合評価を高め得る。

「就業形態別」決定及び支給決定件数も2009年度分から公表されており、表11及び表12に示した。「合計」欄には、2009年度から2021年度までの合計値を示してある。

表9~12のいずれについても、2014年度分以降6年分について、「男女別」データが利用できるようになったが、本誌では示していない。

精神障害の認定事由別

さらに、前出の精神障害の労災認定の基準に関する専門検討会に2009年度分データが提供された「精神障害の出来事別決定及び支給決定件数」の公表が継続されており(表13)、これも、2014年度分以降6年分について、「男女別」データが利用できるようになった(表13-1に、「男女別」の2020年度分及び「合計」データを示した)。

具体的な出来事として、2020年度に「5 パワーハラスメント」が新たに追加されている。

しかし、「8 特別な出来事」は「心理的負荷が極度のもの等」とされるが、表10の「その他」と同じだとしたら、「極度の長時間労働」または「恒常的長時間労働」によって認定された事案の件数は、この表からはわからない。

都道府県別

「都道府県別」のデータについては、表14~15を参照されたい。支給決定件数の「合計」欄には、2000年度から2021年度までの合計値を示してある。2015年度末労災保険適用労働者数をもとに10万人当たりの2000~2021年度認定合計数も計算してみた。2009年度以降、都道府県別の決定件数が公表されるようになり、認定率②が計算できるようになった。認定率②の「平均」は、2009~2021年度の平均認定率である。「都道府県別」データも、2014年度以降分について、「男女別」データが利用できるようになったが、表14~15では示していない。この間、全国安全センターでは、都道府県別の認定率のばらつき=認定率の低い都道府県における改善の必要性を提起しているところであり、より詳細な情報公表及び分析が求められる。

日韓台の比較

参考に、日本・韓国・台湾3か国の脳・心臓疾患、精神障害の労災認定件数を示す(2021年度の韓国の精神障害は肝疾患等を含めた数字)。人口がおおむね韓国は日本の半分弱、台湾は韓国の半分弱であることに留意されたい。