「新たな化学物質規制制度」のための労働安全衛生法関係政省令等の改正-令和4~6年施行に向け安衛令と7規則等を改正(2022.6.3/7.11解説追加)
目次
- 新たな規制のための政省令等
- 今回の改正の趣旨
- 法による化学物質規制
- 安衛則による一般規制と特別則
- リスクアセスメント義務
- ラベル表示・SDS交付義務
- ① 義務対象物質の大幅拡大
- ② ばく露を最小限度にする義務
- ③ 濃度基準値以下にする義務
- ④ 健康診断とそれに基づく措置
- ⑤ 意見聴取、記録の作成・保存
- ⑥ 衛生委員会付議事項の追加
- ⑦ 直接皮膚接触の防止
- ⑧ がんの発生の把握の強化
- ⑨ リスクアセスメントの記録作成等
- ⑩ 災害発生事業場への改善指示
- ⑪ 化学物質管理者の選任
- ⑫ 保護具着用管理責任者の選任
- ⑬ 雇入れ時等教育の拡充
- ⑭ 職長等に対する安全衛生教育
- ⑮ SDS等による通知方法の柔軟化
- ⑯ 人体に及ぼす作用の定期確認等
- ⑰ SDS通知事項の追加等
- ⑱ 事業場内別容器保管時措置
- ⑱ 注文者が措置を講じる設備
- ⑳ 良好事業場の特別則適用除外
- ㉑ 特殊健診実施頻度の緩和
- ㉒ 第三管理区分への措置強化
- 特別則の改正についての施行通達による解説
新たな規制のための政省令等
令和3(2021)年7月9日に公表された「職場における化学物質等の管理のあり方に関する検討会報告書~化学物質への理解を高め自律的な管理を基本とする仕組みへ~」を踏まえた改正労働安全衛生関係政省令等が公布され、一部すでに施行されるとともに、令和5(2023)年4月1日と令和6(2024)年4月1日の施行が予定されている(同報告書については、2021年11月号参照)。
公布された政省令・告示、施行・関係通達等は以下のとおりであり、厚生労働省ウエブサイトの「化学物質による労働災害防止のための新たな規制について~労働安全衛生規則等の一部を改正する省令(令和4年厚生労働省令第91号(令和4年5月31日公布))等の内容~」ページですべて入手することができる(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000099121_00005.html)。
令和3(2021)年1月11日
・基安化発0111第2号「労働安全衛生法に基づく安全データシート(SDS)の記載に係る留意事項について」
令和4(2022)年2月24日
・労働安全衛生法施行令の一部を改正する政令(令和4年政令第51号)
・労働安全衛生法施行規則及び特定化学物質障害予防規則の一部をを改正する省令(令和4年厚生労働省令第25号)
・基発0224第1号「労働安全衛生法施行令の一部を改正する政令等の施行について」
令和4(2022)年5月31日
・労働安全衛生規則等の一部を改正する省令(令和4年厚生労働省令第91号)
・化学物質等の危険性又は有害性等の表示又は通知等の促進に関する指針の一部を改正する告示(令和4年厚生労働省告示第190号)
・基発0531第9号「労働安全衛生規則等の一部を改正する省令等の施行について」
・基安化発0531第1号「『労働安全衛生法等の一部を改正する法律等の施行等(化学物質等に係る表示及び文書交付制度の改善関係)に係る留意事項について』の改正について」
・独立行政法人労働者健康安全機構労働安全衛生研究所化学物質情報管理研究センター「化学物質の自律的管理におけるリスクアセスメントのためのばく露モニタリングに関する検討会報告書」
今回の改正の趣旨
基発0531第9号は「改正の趣旨」について、以下のように説明している。
「今般、国内で輸入、製造、使用されている化学物質は数万種類にのぼり、その中には、危険性や有害性が不明な物質が多く含まれる。さらに、化学物質による休業4日以上の労働災害(がん等の遅発性疾病を除く。)のうち、特定化学物質障害予防規則(以下「特化則」という。)等の特別則の規制の対象となっていない物質を起因とするものが約8割を占めている。これらを踏まえ、従来、特別則による規制の対象となっていない物質への対策の強化を主眼とし、国によるばく露の上限となる基準等の制定、危険性・有害性に関する情報の伝達の仕組みの整備・拡充を前提として、事業者が、危険性・有害性の情報に基づくリスクアセスメントの結果に基づき、国の定める基準等の範囲内で、ばく露防止のために講ずべき措置を適切に実施する制度を導入することとしたところである」。
法による化学物質規制
労働安全衛生法(以下「法」という。)は、第4章「労働者の危険又は健康障害を防止するための措置」で、「事業者の講ずべき措置等」を一般的に規定し、化学物質に関しては、法第22条で「事業者は、原材料、ガス、蒸気、粉じん、酸素欠乏空気、病原体等による健康障害を防止するため必要な措置を講じなければならない」としている。
そして、法第27条で「第20条から第25条まで及び第25条の2第1項の規定により事業者が講ずべき措置及び前条の規定により労働者が守らなければならない事項は、厚生労働省令で定める」と規定している。
さらに、法には第5章第2節「危険物及び有害物に関する規制」も設けられていて、第55条「製造等の禁止」(現在8物質)、第56条「製造の許可」(現在9物質)、第57条「表示等」、第57条の2「文書の交付等」、第57条の3「第57条第1項の政令で定める物及び通知対象物について事業者が行うべき調査等」、第57条の4/第57条の5/第58条「化学物質の有害性の調査」が規定されている。
このうち、第57条(ラベル表示)、第57条の2(安全データシート(SDS))と第57条の3(リスクアセスメント)の3点がセットになっており、これについてはまたあらためてふれるが、今回、以上の法による規制の条文自体は、まったく変えられていない。
安衛則による一般規制と特別則
これらの法による規制に加えて、法第27条に基づいて、労働安全衛生規則(以下「安衛則」という。)第3編「衛生基準」等による一般規制と、特化則等の特別則による規制が定められているという構造である。
今回の見直しは、前出「改正の趣旨」で「特別則による規制の対象となっていない物質への対策の強化が主眼」とされているように、安衛則による一般規制の改正が中心となっている。
安衛則による一般規制としては、まず、安衛則第576条「有害原因の除去」として、「事業者は、有害物を取り扱い、ガス、蒸気又は粉じんを発散し、有害な光線又は超音波にさらされ、騒音又は振動を発し、病原体によつて汚染される等有害な作業場においては、その原因を除去するため、代替物の使用、作業の方法又は機械等の改善等必要な措置を講じなければならない」と規定している。
第3編の他の条文は、第1章「有害な作業環境」-第577条「ガス等の発散の抑制等」、第578条「内燃機関の使用禁止」、第579条「排液の処理」、第580条「病原体の処理」、第582条「粉じんの飛散の防止」、第583条「坑内の炭酸ガス濃度の基準」、第583条の2「騒音を発する場所の明示等」、第584条「騒音の伝ぱの防止」、第585条「立入禁止等」、第586条「表示等」、第587~592条「作業環境測定、騒音の測定、坑内の炭酸ガス濃度の測定等」、第2章「保護具等」-第593条「呼吸用保護具等」、第594条「皮膚障害等防止用の保護具」、第595条「騒音障害防止用の保護具」、第596条「保護具の数等」、第597条「労働者の使用義務」、第598条「専用の保護具等」、であった。
今回の見直しでは、第594条、第596条、第597条の一部改正が行われているほかは、上記の条文は、まったく変えられていない。既存条文の改正ではなく、条文の新設が中心ということである。
なお、リスクアセスメントに関して、第1編第2章の4「危険性又は有害性等の調査等」(安衛則第24条の11~第24条の16)、情報伝達の強化に関して、第1編第3章「機械等並びに危険物及び有害物に関する規制」(安衛則第25条~第34条の21)も一部改正され、また、特別則の改正も行われる。
リスクアセスメント義務
リスクアセスメントについては、2006年の法改正によって、化学物質に限定しないかたちで、第4章「労働者の危険又は健康障害を防止するための措置」に第28条の2「事業者の行うべき調査等」が新設され、第1項で次のように規定している。
「事業者は、厚生労働省令で定めるところにより、建設物、設備、原材料、ガス、蒸気、粉じん等による、又は作業行動その他業務に起因する危険性又は有害性等[この表現は法第20~24条の要約](第57条第1項の政令で定める物及び第57条の2第1項に規定する通知対象物による危険性又は有害性等を除く。)を調査し、その結果に基づいて、この法律又はこれに基づく命令の規定による措置を講ずるほか、労働者の危険又は健康障害を防止するため必要な措置を講ずるように努めなければならない。ただし、当該調査のうち、化学物質、化学物質を含有する製剤その他の物で労働者の危険又は健康障害を生ずるおそれのあるものに係るもの以外のものについては、製造業その他厚生労働省令で定める業種に属する事業者に限る」。
ここで言う「危険性又は有害性等の調査」が「リスクアセスメント」であり、「するように努めなければならない」努力義務として導入されたのだが、2014年法改正によって、一定の危険有害化学物質については「しなければならない」義務とする第57条の3による「危険性又は有害性等の調査」が新設されたため、第28条の2第1項に括弧書き(下線部)が追加されたという経過である。第57条の3第1・2項は、以下のように規定している(第2項は「努力義務」にとどまっている)。
「1 事業者は、厚生労働省令で定めるところにより、第57条第1項の政令で定める物[表示対象物質]及び[第57条の2第1項に規定する安全データシート(SDS)による]通知対象物による危険性又は有害性等を調査しなければならない。
2 事業者は、前項の調査の結果に基づいて、この法律又はこれに基づく命令の規定による措置を講ずるほか、労働者の危険又は健康障害を防止するため必要な措置を講ずるように努めなければならない。」
結果的に、義務である一定の危険有害化学物質のみを対象とした法第57条の3第1項のリスクアセスメントと、努力義務であるそれ以外(上記以外の化学物質及び化学物質以外)のすべての危険有害性を対象とした法第28条の2第1項のリスクアセスメントの2つが併存している。今回の見直しにより、安衛則では、法第57条の3第1項の危険性又は有害性等の調査だけを「以下『リスクアセスメント』という。」こととされている(安衛則第34条の2の7)ので、とくに注意していただきたい。
ILO暴力・ハラスメント条約が、防止対策として労働安全衛生マネジメントに関連する心理社会的リスクを考慮に入れることを求めているように、リスクアセスメントとその結果に基づく措置はすべての労働安全衛生リスクに対処するためにますます重要になっていることからも、本来の方向性としては法第28条の2第1項のリスクアセスメントを「しなければならない」義務に格上げしてすべての事業者に適用し、第57条の3第1項のほうは削除して、一本化することが望ましいと考える。
ラベル表示・SDS交付義務
法第57条「表示等」は「ラベル表示」とも呼ばれ、第1項で以下のように規定している。
「爆発性の物、発火性の物、引火性の物その他の労働者に危険を生ずるおそれのある物若しくはベンゼン、ベンゼンを含有する製剤その他の労働者に健康障害を生ずるおそれのある物で政令で定めるもの[労働安全衛生法施行令(以下「令」という。)別表第9に掲げる物]又は前条第1項の物[製造許可物質]を容器に入れ、又は包装して、譲渡し、又は提供する者は、厚生労働省令で定めるところにより、その容器又は包装(容器に入れ、かつ、包装して、譲渡し、又は提供するときにあつては、その容器)に次に掲げるものを表示しなければならない。ただし、その容器又は包装のうち、主として一般消費者の生活の用に供するためのものについては、この限りでない」。
また、法第57条の2「文書の交付等」は「安全データシート(SDS)による通知」であり、第1項で以下のように規定している。
「労働者に危険若しくは健康障害を生ずるおそれのある物で政令で定めるもの[令別表第9に掲げる物]又は第56条第1項の物[製造許可物質](以下この条及び次条第1項において「通知対象物」という。)を譲渡し、又は提供する者は、文書の交付その他厚生労働省令で定める方法により通知対象物に関する次の事項(前条第2項に規定する者にあっては、同項に規定する事項を除く。)を、譲渡し、又は提供する相手方に通知しなければならない。ただし、主として一般消費者の生活の用に供される製品として通知対象物を譲渡し、又は提供する場合については、この限りでない。」
法第57条、第57条の2と第57条の3によって、表示・通知対象物質については、ラベル表示、安全データシート(SDS)とリスクアセスメントが3点セットで義務付けられているわけである。
なお、法第57条第1項ただし書の「主として一般消費者の生活の用に供するためのもの」及び法第57条の2第1項ただし書の「主として一般消費者の用に供される製品」についての解釈(平成27年8月3日付け基発0803第2号「労働安全衛生法施行令及び厚生労働省組織令の一部を改正する政令等の施行について(化学物質等の表示及び危険性又は有害性等の調査に係る規定等関係)」)が、基発0224第1号によって別掲のとおり改正されていることにも留意されたい。
① 義務対象物質の大幅拡大
今回の見直しの主眼は、以上の3点セットの義務付けという法による規制の枠組みの見直しではなく、その適用対象を大幅に拡大することである。
政令(令別表第9)で定める対象物質を、これまでの「許容濃度または曝露限界値が示されている危険有害物質」から、国が(GHS=化学品の分類及び表示に関する国際調和システムに基づく)危険性・有害性分類を行い、危険性・有害性が確認されたすべての対象物質とするとされている。
具体的には、2022年2月24日の政令第51号により、「令和2(2020)年度までに国によるGHS分類の結果、発がん性、生殖細胞変異原性、生殖毒性及び急性毒性のいずれかの有害性クラスで区分1相当の有害性を有する物質」(基発0224第1号)234物質が追加され、令和6(2024)年4月1日から施行される(ただし、施行の日において現に存するものについては、ラベル表示義務の規定は令和7(2025)年3月31日までの間、適用しないとする経過措置がとられている)。234物質が追加されるが、「追加対象物に包含される等の理由により削除される物質もあるため、改正後の表示及び通知対象物の数は903物質」となる(それまでは674物質である)。
また、新たに追加された234物質の裾切り値(製剤等について、当該物質の含有量がその値未満の場合に、法第57条第1項の表示及び第57条の2第1項の通知の対象とならない値)も定められている(安衛則別表第2)
すでに、令和4(2022)年度中に追加予定の675物質と、令和5(2023)年度中に追加予定の827物質のリストが公表されており、独立行政法人労働者健康安全機構労働安全衛生研究所ウエブサイトの「職場における化学物質等の管理のあり方に関する検討会報告書の概要紹介~化学物質への理解を高め自律的な管理を基本とする仕組みへ~」ページで確認できる(https://www.jniosh.johas.go.jp/groups/ghs/arikataken_report.html)。
国によるGHS分類は、これまでに約3,100物質がGHS分類され公表されているが、毎年50~100物質のペースで今後も続き、順次追加されることが予定されている。
② ばく露を最小限度にする義務
そのうえで、今回の規制見直しの中心(になるべきもの)は、新設される安衛則577条の2・第577条の3「ばく露の程度の低減等」であろう。
第1に、「事業者は、化学物質を製造し、又は取り扱う事業場において、リスクアセスメントの結果等に基づき、労働者の健康障害を防止するため、
① 代替物の使用
② 発散源を密閉する設備、局所排気装置又は全体換気装置の設置及び稼働
③ 作業の方法の改善
④ 有効な呼吸用保護具を使用させる
こと等必要な措置を講じることにより、リスクアセスメント対象物に労働者が曝露される程度を最小限度にする」という事業者の義務が新設される(①~④の区分は、厚生労働省リーフレットによる)。
法第57条の3第1項のリスクアセスメント対象物については安衛則第577条の2第1項として「しなければならない」義務であり、それ以外の化学物質については安衛則第577条の3として(この場合は法第28条の2第1項のリスクアセスメントということになる)「するよう努めなければならない」努力義務であるが、講ずべき措置の内容はまったく同じ規定である。
施行日はともに、令和5(2023年)4月1日であるので、最初の1年間-令和6(2024年)年4月1日まで-は、法第57条の3第1項の「リスクアセスメント」対象物は674物質にとどまることになる。
これは、国際的に確立された「リスク管理のヒエラルキー」の原則を及び腰ながら導入したということもできる。管理措置の代表的な例を示して、「最小限度にする」ことが明示されているからである。
「及び腰ながら」というのは、例示列挙された措置の優先順位付けと、「合理的に実行可能な限り」リスクを最小限度にする旨が明示されていないからである。少なくとも通達なりでそれらの趣旨を解説・徹底しないと、具体的にどのような措置を講じるかの判断を事業者に委ねるこれらの規定の実効性を損なうことになりかねない。
細かいことでは、代替物の使用も例示しているように、最小限度にするのは「ばく露される程度」ではなく「リスク」としたほうが論理的である。さらに、代替物の使用や作業の方法の改善にふれた安衛則第576条や、発散源を密閉する設備、局所/全体換気装置の設置等にふれた第577条等との関係も整理されておらず、「新たな化学物質規制」のもとでの事業者の中核的な義務の規定としては物足りないと言わざるを得ない。そもそも化学物質規制に限定するいわれもない。「リスク管理のヒエラルキー」の原則は、労働に関連したすべてのリスクに係る事業者の義務の基本として、関係条文を整理したうえで、法第4章に規定されるのがふさわしいと考えている。
③ 濃度基準値以下にする義務
第2に、安衛則第577条の2第2項として、法第57条の3第1項のリスクアセスメント対象物のうち「一定程度のばく露に抑えることにより、労働者に健康障害を生ずるおそれがない物として厚生労働大臣が定めるものを製造し、又は取り扱う業務(主として一般消費者の生活の用に供される製品に係るものを除く。)を行う作業場」においては、事業者は、「当該業務に従事する労働者がこれらの物に曝露される程度を、厚生労働大臣が定める濃度の基準[濃度基準値]以下としなければならない」という義務も新設される。
施行日は、最小限度にする義務の場合よりも1年遅い、令和6(2024年)4月1日である。
施行通達では、以下のように解説されている。
「本規定の『厚生労働大臣が定める濃度の基準』については、順次、厚生労働大臣告示で定めていく予定であること。なお、濃度基準値が定められるまでの間は、日本産業衛生学会の許容濃度、米国政府労働衛生専門家会議(ACGIH)のばく露限界値(TLV-TWA)等が設定されている物質については、これらの値を参考にし、これらの物質に対する労働者のばく露を当該許容濃度等以下とすることが望ましいこと。
本規定の労働者のばく露の程度が濃度基準値以下であることを確認する方法には、次に掲げる方法が含まれること。この場合、これら確認の実施に当たっては、別途定める事項に留意する必要があること。
① 個人ばく露測定の測定値と濃度基準値を比較する方法、作業環境測定(C・D測定)の測定値と濃度基準値を比較する方法
② 作業環境測定(A・B測定)の第一評価値と第二評価値を濃度基準値と比較する方法
③ 厚生労働省が作成したCREATE-SIMPLE等の数理モデルによる推定ばく露濃度と濃度基準値と比較する等の方法」
具体的には、後掲の「化学物質の自律的管理におけるリスクアセスメントのためのばく露モニタリングに関する検討会報告書」等を参照することになる。
安衛則第577条の2第1項と第2項、第577条の3を整理すると、以下のようになる。
(1)法第57条の3第1項の「リスクアセスメント」対象物のうち濃度基準値が設定された物質については、労働者がばく露される程度を、①最小限度にしなければならないとともに、②濃度基準値以下にしなければならない、という2つの義務が二重に課されると解すべきである。
(2)法第57条の3第1項のリスクアセスメント対象物のうち濃度基準値が設定されない物質については、労働者がばく露される程度を最小限度にしなければならない義務が課される。
(3)法第57条の3第1項のリスクアセスメント対象物以外の化学物質については、労働者がばく露される程度を最小限にするよう努めなければならない努力義務が課される。
なお、(1)と(2)のリスクアセスメントの実施時期は安衛則第34条の2の7の規定によることになるが、「化学物質のばく露を最低限に抑制する必要があることから、同項のリスクアセスメント実施時期に該当しない場合であっても、ばく露状況に変化がないことを確認するため、過去の化学物質の測定結果に応じた適当な頻度で、測定等を実施することが望ましい」とされている(施行通達)。
④ 健康診断とそれに基づく措置
また、新設される安衛則第577条の2「ばく露の程度の低減等」では、以下の義務も規定される(第3~15項(第10~12項は令和5(2023年)4月1日時点においては第2~4項である))。
これらは、厚生労働省リーフレットで、「リスクアセスメントの結果に基づき事業者が自ら選択して講じるばく露防止措置の一環としての健康診断の実施・記録作成等」とされている内容である。
事業者は、法第57条の3第1項のリスクアセスメント対象物による健康障害防止のため、法定健康診断のほか、リスクアセスメントの結果に基づき、関係労働者の意見を聴き、必要があると認めるときは、医師又は歯科医師(以下「医師等」という。)が必要と認める項目について、医師等による健康診断を行わければならない(安衛則第577条の2第3項)。
施行通達では、以下のように解説されている。
「ア 本規定は、リスクアセスメント対象物について、一律に健康診断の実施を求めるのではなく、リスクアセスメントの結果に基づき、関係労働者の意見を聴き、リスクの程度に応じて健康診断の実施を事業者が判断する仕組みとしたものであること。
イ 本規定の『必要があると認めるとき』に係る判断方法及び『医師又は歯科医師が必要と認める項目』は、別途示すところに留意する必要があること。」
また、事業者は、安衛則第577条の2第2項の業務に従事する労働者が、濃度基準値を超えて対象物にばく露したおそれがあるときは、速やかに、医師等が必要と認める項目について、医師等による健康診断を行わなければならない(安衛則第577条の2第4項)。
施行通達では、以下のように解説されている。
「ア 本規定は、事業者によるばく露防止措置が適切に講じられなかったこと等により、結果として労働者が濃度基準値を超えてリスクアセスメント対象物にばく露したおそれがあるときに、健康障害を防止する観点から、速やかに健康診断の実施を求める趣旨であること。
イ 本規定の『リスクアセスメント対象物にばく露したおそれがあるとき』には、リスクアセスメント対象物が漏えいし、労働者が当該物質を大量に吸引したとき等明らかに濃度の基準を超えてばく露したと考えられるとき、リスクアセスメントの結果に基づき講じたばく露防止措置(呼吸用保護具の使用等)に不備があり、濃度の基準を超えてばく露した可能性があるとき及び事業場における定期的な濃度測定の結果、濃度の基準を超えていることが明らかになったときが含まれること。
ウ 本規定の『医師又は歯科医師が必要と認める項目』は、別途示すところに留意する必要があること。」
事業者は、上記2項(安衛則第577条の2第3項と第4項)の健康診断(以下「リスクアセスメント対象物健康診断」という。)を行ったときは、リスクアセスメント対象物健康診断個人票(安衛則様式第24号の2)を作成し、5年間(がん原性物質(がん原性がある物として厚生労働大臣が定めるものをいう。以下同じ。)に係るものは30年間)保存しなければならない(安衛則第577条の2第5項)。
本規定の「がん原性物質」は、別途厚生労働大臣告示で定める予定とされている(施行通達)。
事業者は、リスクアセスメント対象物健康診断の結果(健康診断の項目に異常の所見があると診断された労働者に係るものに限る。)に基づき、当該労働者の健康を保持するために必要な措置について、当該健康診断が行われた日から3月以内に、医師等の意見を聴き、リスクアセスメント対象物健康診断個人票に記載しなければならない(安衛則第577条の2第6項)。
事業者は、医師等から、上記の意見聴取を行う上で必要となる労働者の業務に関する情報を求められたときは、速やかに、これを提供しなければならない(安衛則第577条の2第7項)。
事業者は、上記の医師等の意見を勘案し、その必要があると認めるときは、当該労働者の実情を考慮して、就業場所の変更、作業の転換、労働時間の短縮等の措置を講ずるほか、作業環境測定の実施、施設又は設備の設置又は整備、衛生委員会または安全衛生委員会への当該医師等の意見の報告その他の適切な措置を講じなければならない(安衛則第577条の2第8項)。
事業者は、リスクアセスメント対象物健康診断を受けた労働者に対し、遅滞なく、当該健康診断の結果を通知しなければならない(安衛則第577条の2第9項)。
施行日は、いずれも令和6(2024年)4月1日である。
⑤ 意見聴取、記録の作成・保存
さらに、事業者は、上述の安衛則第577条の2第1項(ばく露される程度を最小限度にするため)、第2項(濃度基準値以下にするため)及び第8項(リスクアセスメント対象物健康診断に基づき)の規定により講じたばく露低減措置について、関係労働者の意見を聴くための機会を設けなければならない(安衛則第577条の2第10項)。
「関係労働者又はその代表が衛生委員会に参加している場合等は、安衛則第22条第11号の衛生委員会における調査審議又は安衛則第23条の2[委員会がも設けられていない場合]に基づき行われる意見聴取と兼ねて行っても差し支えないこと」とされている(施行通達)。
また、事業者は、①上記の講じたばく露低減措置の状況、②リスクアセスメント対象物を製造し、又は取り扱う業務に従事する労働者のばく露状況、③労働者の氏名、従事した作業の概要及び当該作業に従事した期間並びにがん原性物質により著しく汚染される事態が生じたときはその概要及び事業者が講じた応急の措置の概要(リスクアセスメント対象物ががん原性物質である場合に限る。)、④安衛則第577条の2第10項の規定による関係労働者の意見の聴取状況について、1年を超えない期間ごとに1回、定期に、記録を作成し、当該記録を3年間(②及び③について、がん原性物質に係るものは30年間)保存するとともに、①及び④の事項を労働者に周知させなければならない(安衛則第577条の2第11項)。
施行通達では、以下のように解説されている。
「ア 本規定におけるがん原性物質を製造し、又は取り扱う労働者に関する記録については、晩発性の健康障害であるがんに対する対応を適切に行うため、当該労働者が離職した後であっても、当該記録を作成した時点から30年間保存する必要があること。
イ ①の記録については、法第57条の3に基づくリスクアセスメントの結果に基づいて措置を講じた場合は、安衛則第34条の2の8の記録と兼ねても差し支えないこと。また、リスクアセスメントに基づく措置を検討し、これらの措置をまとめたマニュアルや作業規程(以下『マニュアル等』という。)を別途定めた場合は、当該マニュアル等を引用しつつ、マニュアル等のとおり措置を講じた旨の記録でも差し支えないこと。
ウ ②については、実際にばく露の程度を測定した結果の記録等の他、マニュアル等を作成した場合であって、その作成過程において、実際に当該マニュアル等のとおり措置を講じた場合の労働者のばく露の程度をあらかじめ作業環境測定等により確認している場合は、当該マニュアル等に従い作業を行っている限りにおいては、当該マニュアル等の作成時に確認されたばく露の程度を記録することでも差し支えないこと。
エ ③の記録に関し、従事した作業の概要については、取り扱う化学物質の種類を記載する、又はSDS等を添付して、取り扱う化学物質の種類が分かるように記録すること。また、出張等作業で作業場所が毎回変わるものの、いくつかの決まった製剤を使い分け、同じ作業に従事しているのであれば、出張等の都度の作業記録を求めるものではなく、当該関連する作業を一つの作業とみなし、作業の概要と期間をまとめて記載することで差し支えないこと。
オ ④の記録に関し、労働者に意見を聴取した都度、その内容と労働者の意見の概要を記録すること。なお、衛生委員会における調査審議と兼ねて行う場合は、これらの記録と兼ねて記録することで差し支えないこと。」
前項の規定による周知は、次に掲げるいずれかの方法により行うものとする(安衛則第576条の2第12項)。
① 当該リスクアセスメント対象物を製造し、又は取り扱う各作業場の見やすい場所に常時掲示し、又は備え付けること
② 書面を、当該リスクアセスメント対象物を製造し、又は取り扱う業務に従事する労働者に交付すること
③ 磁気ディスク、光ディスクその他の記録媒体に記録し、かつ、当該リスクアセスメント対象物を製造し、又は取り扱う各作業場に、当該リスクアセスメント対象物を製造し、又は取り扱う業務に従事する労働者が当該記録の内容を常時確認できる機器を設置すること
施行日は、いずれも令和5(2023年)4月1日であるが、リスクアセスメント対象物健康診断関係の規定は令和6(2024年)4月1日の施行である。
⑥ 衛生委員会付議事項の追加
以上に関連して、衛生委員会の付議事項に、以下が追加される(安衛則第22条第11号)。
① 法第57条の3第1項のリスクアセスメント対象物に労働者がばく露される程度を最小限にするために(安衛則第577条の2第1項の規定により)講ずる措置に関すること
② 濃度基準値が設定された物質について、労働者がばく露される程度を濃度基準値以下とするために(安衛則第577条の2第2項の規定により)講ずる措置に関すること
③ リスクアセスメント対象物健康診断に基づき(安衛則第577条の2第8項の規定により)講ずる措置に関すること
④ リスクアセスメントの結果に基づく(安衛則第577条の2第3項の)リスクアセスメント対象物健康診断の実施に関すること
⑤ 濃度基準値を超えてリスクアセスメント対象物にばく露したおそれがあるとき(安衛則第577条の2第4項)のリスクアセスメント対象物健康診断の実施に関すること
なお、安衛則第22条には、第2号「法第28条の2第1項又は第57条の3第1項のリスクアセスメント及びその結果に基づき講ずる措置のうち、衛生に係るものに関すること」もそのまま残されている。
施行通達では、以下のように解説されている。
「ア 本条第11号の安衛則第577条の2第1項、第2項及び第8項に係る措置並びに本条第3項及び第4項の健康診断の実施に関する事項は、既に付議事項として義務付けられている本条第2号の『法第28条の2第1項又は第57条の3第1項及び第2項の危険性又は有害性等の調査及びその結果に基づき講ずる措置のうち、衛生に係るものに関すること』と相互に密接に関係することから、本条第2号と第11号の事項を併せて調査審議して差し支えないこと。
イ 衛生委員会の設置を要しない常時労働者数50人未満の事業場においても、安衛則第23条の2に基づき、本条第11号の事項について、関係労働者の意見を聴く機会を設けなければならないことに留意すること。」
施行日は、①は令和5(2023年)4月1日、②~⑤は令和6(2024年)4月1日である。
⑦ 直接皮膚接触の防止
「皮膚障害等防止用の保護具」について、安衛則第594条第1項で、皮膚に障害を与えるおそれ又は皮膚から吸収され、若しくは侵入して、健康障害をおこすおそれのある化学物質等関連業務において、塗布剤、不浸透性の保護衣、保護手袋、履物等適切な保護具を備えなければならないことが規定されているが、令和5(2023年)4月1日からは、「眼に障害を与える」が追加されるとともに、保護具として「保護眼鏡」の例示が追加される。
合わせて、健康障害を起こすことが明らかな物質に関しては、適切な保護具を「使用させるよう努めなければならない」努力義務も追加される(安衛則第594条の2第1項)。
さらに、令和6(2024年)4月1日からは、これが「使用させなければならない」義務に代わるとともに、健康障害を起こすことが明らかなもの以外の物質に関しても適切な保護具を「使用させるよう努めなければならない」努力義務が追加される(安衛則第594条の3第1項)。
安衛則第594条、安衛則第594条の2、安衛則第594条の3ではいずれも第2項で、「当該業務の一部を請負人に請け負わせるときは、当該請負人に対し、保護具について、これらを使用する必要がある旨を周知させる」義務も規定されていて、第1項が努力義務の場合はこちらも努力義務にとどまる。
施行通達では、以下のように解説されている。
「『皮膚若しくは眼に障害を与えるおそれ又は皮膚から吸収され、若しくは皮膚に侵入して、健康障害を生ずるおそれがないことが明らかなもの』とは、国が公表するGHS(化学品の分類および表示に関する世界調和システム)に基づく危険有害性の分類の結果及び譲渡提供者より提供されたSDS等に記載された有害性情報のうち『皮膚腐食性・刺激性』、『眼に対する重篤な損傷性・眼刺激性』及び『呼吸器感作性又は皮膚感作性』のいずれも『区分に該当しない』と記載され、かつ、『皮膚腐食性・刺激性』、『眼に対する重篤な損傷性・眼刺激性』及び『呼吸器感作性又は皮膚感作性』を除くいずれにおいても、経皮による健康有害性のおそれに関する記載がないものが含まれる」。
「ア 本規定は、皮膚等障害化学物質等を製造し、又は取り扱う業務において、労働者に適切な不浸透性の保護衣等を使用させなければならないことを規定する趣旨であること。
イ 本規定の「皮膚等障害化学物質等」には、国が公表するGHS分類の結果及び譲渡提供者より提供されたSDS等に記載された有害性情報のうち「皮膚腐食性・刺激性」、「眼に対する重篤な損傷性・眼刺激性」及び「呼吸器感作性又は皮膚感作性」のいずれかで区分1に分類されているもの及び別途示すものが含まれること。」
⑧ がんの発生の把握の強化
事業者は、化学物質又は化学物質を含有する製剤を製造し、又は取り扱う業務を行う事業場において、1年以内に2人以上の労働者が同種のがんに罹患したことを把握したときは、当該罹患が業務に起因するかどうかについて、遅滞なく、医師の意見を聴かなければならず(安衛則第97条の2第1項)、当該医師が、当該がんへの罹患が業務に起因するものと疑われると判断したときは、遅滞なく、①当該がんに罹患した労働者が取り扱った化学物質の名称、②従事していた業務の内容及び当該業務に従事していた期間、③がんに罹患した労働者の年齢及び性別について、所轄都道府県労働局長に報告しなければならないという義務が新設される(安衛則第97条の2第2項)。
施行通達では、以下のように解説されている。
「(1) 安衛則第97条の2第1項関係
ア 規定は、化学物質のばく露に起因するがんを早期に把握した事業場におけるがんの再発防止のみならず、国内の同様の作業を行う事業場における化学物質によるがんの予防を行うことを目的として規定したものであること。
イ 本規定の『1年以内に2人以上の労働者』の労働者は、現に雇用する同一の事業場の労働者であること。
ウ 本規定の『同種のがん』については、発生部位等医学的に同じものと考えられるがんをいうこと。
エ 本規定の『同種のがんに罹患したことを把握したとき』の『把握』とは、労働者の自発的な申告や休職手続等で職務上、事業者が知り得る場合に限るものであり、本規定を根拠として、労働者本人の同意なく、本規定に関係する労働者の個人情報を収集することを求める趣旨ではないこと。なお、アの趣旨から、広くがん罹患の情報について事業者が把握できることが望ましく、衛生委員会等においてこれらの把握の方法をあらかじめ定めておくことが望ましいこと。
オ アの趣旨を踏まえ、例えば、退職者も含め10年以内に複数の者が同種のがんに罹患したことを把握した場合等、本規定の要件に該当しない場合であっても、それが化学物質を取り扱う業務に起因することが疑われると医師から意見があった場合は、本規定に準じ、都道府県労働局に報告することが望ましいこと。
カ 本規定の『医師』には、産業医のみならず、定期健康診断を委託している機関に所属する医師や労働者の主治医等も含まれること。また、これらの適当な医師がいない場合は、各都道府県の産業保健総合支援センター等に相談することも考えられること。
(2) 安衛則第97条の2第2項関係
ア 本規定の『罹患が業務に起因するものと疑われると判断」については、(1)アの趣旨から、その時点では明確な因果関係が解明されていないため確実なエビデンスがなくとも、同種の作業を行っていた場合や、別の作業であっても同一の化学物質にばく露した可能性がある場合等、化学物質に起因することが否定できないと判断されれば対象とすべきであること。
イ 本項第1号の『がんに罹患した労働者が当該事業場で従事した業務において製造し、又は取り扱った化学物質の名称』及び本項第2号の『がんに罹患した労働者が当該事業場で従事していた業務の内容及び当該業務に従事していた期間』については、(1)アの趣旨から、その時点ではがんの発症に係る明確な因果関係が解明されていないため、当該労働者が当該事業場において在職中ばく露した可能性がある全ての化学物質、業務及びその期間が対象となること。また、記録等がなく、製剤中の化学物質の名称や作業歴が不明な場合であっても、その後の都道府県労働局等が行う調査に資するよう、製剤の製品名や関係者の記憶する関連情報をできる限り記載し、報告することが望ましいこと。」
施行日は、令和5(2023年)4月1日である。
⑨ リスクアセスメントの記録作成等
法第57条の3第1項のリスクアセスメントに関して、安衛則第34条の2の8で「結果等の周知」が規定されていたが、「結果等の記録及び保存並びに周知」と変更される(以下の下線が追加部分)。
事業者は、法第57条の3第1項のリスクアセスメントを行ったときは、①当該リスクアセスメント対象物の名称、②当該業務の内容、③当該リスクアセスメントの結果、④当該リスクアセスメントの結果に基づき事業者が講ずる労働者の危険又は健康障害を防止するため必要な措置の内容について、記録を作成し、次にリスクアセスメントを行うまでの期間(リスクアセスメントを行った日から起算して3年以内に次のリスクアセスメントを行ったときは、3年間)保存するとともに、当該事項を、リスクアセスメント対象物を製造し、又は取り扱う業務に従事する労働者に周知させなければならない。
周知は、①作業場の見やすい場所に常時掲示又は備え付け、②労働者に交付、③磁気ディスク、光ディスクその他の記録媒体に記録し作業場に当該記録内容を常時確認できる機器を設置、のいずれかの方法により行うものとする。
施行日は、令和5(2023年)4月1日である。
⑩ 災害発生事業場への改善指示
安衛則第34条の2の10「改善の指示等」として、「化学物質による労働災害が発生した事業場等における化学物質管理の改善措置」に関する規定が新設される。
① 労働基準監督署長は、化学物質による労働災害が発生した、又はそのおそれがある事業場の事業者に対し、当該事業場において化学物質の管理が適切に行われていない疑いがあると認めるときは、当該事業場における化学物質の管理の状況について、改善すべき旨を指示することができる(第1項)。
② ①の指示を受けた事業者は、遅滞なく、事業場の化学物質の管理の状況について必要な知識及び技能を有する者として厚生労働大臣が定めるもの(以下「化学物質管理専門家」という。)から、当該事業場における化学物質の管理の状況についての確認及び当該事業場が実施し得る望ましい改善措置に関する助言を受けなければならない(第2項)。
③ ②の確認及び助言を求められた化学物質管理専門家は、事業者に対し、確認後速やかに、当該確認した内容及び当該事業場が実施し得る望ましい改善措置に関する助言を、書面により通知しなければならない(第3項)。
④ 事業者は、③の通知を受けた後、1月以内に、当該通知の内容を踏まえた改善措置を実施するための計画を作成するとともに、当該計画作成後、速やかに、当該計画に従い改善措置を実施しなければならない(第4項)。
⑤ 事業者は、④の計画を作成後、遅滞なく、当該計画の内容について、③の通知及び当該計画の写しを添えて、改善計画報告書(安衛則様式第4号)により所轄労働基準監督署長に報告しなければならない(第5項)。
⑥ 事業者は、④の計画に基づき実施した改善措置の記録を作成し、当該記録について、③の通知及び当該計画とともにこれらを3年間保存しなければならない(第6項)。
施行通達では、以下のように解説されている。
「(1)安衛則第34条の2の10第1項関係
ア 本規定は、化学物質による労働災害が発生した又はそのおそれがある事業場で、管理が適切に行われていない可能性があるものとして労働基準監督署長が認めるものについて、自主的な改善を促すため、化学物質管理専門家による当該事業場における化学物質の管理の状況についての確認・助言を受け、その内容を踏まえた改善計画の作成を指示することができるようにする趣旨であること。
イ 『化学物質による労働災害発生が発生した、又はそのおそれがある事業場』とは、過去1年間程度で、①化学物質等による重篤な労働災害が発生、又は休業4日以上の労働災害が複数発生していること、②作業環境測定の結果、第三管理区分が継続しており、改善が見込まれないこと、③特殊健康診断の結果、同業種の平均と比較して有所見率の割合が相当程度高いこと、④化学物質等に係る法令違反があり、改善が見込まれないこと等の状況について、労働基準監督署長が総合的に判断して決定するものであること。
ウ 『化学物質による労働災害』には、一酸化炭素、硫化水素等による酸素欠乏症、化学物質(石綿を含む。)による急性又は慢性中毒、がん等の疾病を含むが、物質による切創等のけがは含まないこと。また、粉じん状の化学物質による中毒等は化学物質による労働災害を含むが、粉じんの物理的性質による疾病であるじん肺は含まないこと。
(2)安衛則第34条の2の10第2項関係
ア 化学物質管理専門家に確認を受けるべき事項には、以下のものが含まれること。
① リスクアセスメントの実施状況
② リスクアセスメントの結果に基づく必要な措置の実施状況
③ 作業環境測定又は個人ばく露測定の実施状況
④ 特別則に規定するばく露防止措置の実施状況
⑤ 事業場内の化学物質の管理、容器への表示、労働者への周知の状況
⑥ 化学物質等に係る教育の実施状況
イ 化学物質管理専門家は客観的な判断を行う必要があるため、当該事業場に属さない者であることが望ましいが、同一法人の別事業場に属する者であっても差し支えないこと。
ウ 事業者が複数の化学物質管理専門家からの助言を求めることを妨げるものではないが、それぞれの専門家から異なる助言が示された場合、自らに都合良い助言のみを選択することのないよう、全ての専門家からの助言等を踏まえた上で必要な措置を実施するとともに、労働基準監督署への改善計画の報告に当たっては、全ての専門家からの助言等を添付する必要があること。
(3)安衛則第34条の2の10第3項関係
化学物質管理専門家は、本条第2項の確認を踏まえて、事業場の状況に応じた実施可能で具体的な改善の助言を行う必要があること。
(4)安衛則第34条の2の10第4項関係
ア 本規定の改善計画には、改善措置の趣旨、実施時期、実施事項(化学物質管理専門家が立ち会って実施するものを含む。)を記載するとともに、改善措置の実施に当たっての事業場内の体制、責任者も記載すること。
イ 本規定の改善措置を実施するための計画の作成にあたり、化学物質管理専門家の支援を受けることが望ましいこと。また、当該計画作成後、労働基準監督署長への報告を待たず、速やかに、当該計画に従い必要な措置を実施しなければならないこと。
(5)安衛則第34条の2の10第5項関係
本規定の所轄労働基準監督署長への報告にあたっては、化学物質管理専門家の助言内容及び改善計画に加え、改善計画報告書(安衛則様式第4号等)の備考欄に定める書面を添付すること。
(6) 安衛則第34条の2の10第6項関係
本規定は、改善措置の実施状況を事後的に確認できるようにするため、改善計画に基づき実施した改善措置の記録を作成し、化学物質管理専門家の助言の通知及び改善計画とともに3年間保存することを義務付けた趣旨であること。」
施行日は、令和6(2024年)4月1日である。
⑪ 化学物質管理者の選任
「事業場における化学物質管理体制の強化」として、いくつかの規定が新設される。
第1に、化学物質管理者の選任に係る安衛則第12条の5である。
事業者は、法第57条の3第1項の「リスクアセスメント」対象物を製造し、又は取り扱う事業場ごとに、化学物質管理者を選任し、その者に当該事業場における次に掲げる化学物質の管理に係る技術的事項を管理させなければならない(第1項)。
① 法第57条の規定によるラベル表示等及び法第57条の2第1項の規定によるSDSによる通知に関すること
② リスクアセスメントの実施に関すること
③ 安衛則第577条の2(ばく露の程度の低減等)第1項及び第2項の措置その他法第57条の3第2項の措置(リスクアセスメントの結果に基づく命令の規定による措置のほか労働者の棄権又は健康障害を防止するため必要な措置)の内容及び実施に関すること
④ リスクアセスメント対象物を原因とする労働災害が発生した場合の対応に関すること
⑤ 安衛則第34条の2の8第1項各号の規定によるリスクアセスメントの結果等の記録及び保存並びに周知に関すること
⑥ 安衛則第577条の2(ばく露の程度の低減等)第11項の規定による記録の作成及び保存並びにその周知に関すること
⑦ ①~⑥の事項の管理を実施するに当たっての労働者に対する必要な教育に関すること
事業者は、法第57条の3第1項の「リスクアセスメント」対象物の譲渡又は提供を行う事業場(上記のリスクアセスメント対象物を製造し、又は取り扱う事業場事業場を除く。)ごとに、化学物質管理者を選任し、その者に当該事業場におけるラベル表示及びSDS等による通知等(以下「表示等」という。)並びに教育管理に係る技術的事項を管理させなければならない(第2項)。
化学物質管理者の選任は、選任すべき事由が発生した日から14日以内に行い、リスクアセスメント対象物を製造する事業場においては、厚生労働大臣が定める化学物質の管理に関する講習を修了した者等のうちから選任しなければならない(第3項)。
事業者は、化学物質管理者を選任したときは、当該化学物質管理者に対し、必要な権限を与えるとともに、当該化学物質管理者の氏名を事業場の見やすい箇所に掲示すること等により関係労働者に周知させなければならない(第4項及び第5項)。
施行通達で、以下のように解説されている。
「(1) 安衛則第12条の5第1項関係
ア 化学物質管理者は、ラベル・SDS等の作成の管理、リスクアセスメント実施等、化学物質の管理に関わるもので、リスクアセスメント対象物に対する対策を適切に進める上で不可欠な職務を管理する者であることから、事業場の労働者数によらず、リスクアセスメント対象物を製造し、又は取り扱う全ての事業場において選任することを義務付けたこと。
なお、衛生管理者の職務は、事業場の衛生全般に関する技術的事項を管理することであり、また有機溶剤作業主任者といった作業主任者の職務は、個別の化学物質に関わる作業に従事する労働者の指揮等を行うことであり、それぞれ選任の趣旨が異なるが、化学物質管理者が、化学物質管理者の職務の遂行に影響のない範囲で、これらの他の法令等に基づく職務等と兼務することは差し支えないこと。
イ 化学物質管理者は、工場、店社等の事業場単位で選任することを義務付けたこと。したがって、例えば、建設工事現場における塗装等の作業を行う請負人の場合、一般的に、建設現場での作業は出張先での作業に位置付けられるが、そのような出張作業先の建設現場にまで化学物質管理者の選任を求める趣旨ではないこと。
ウ 化学物質管理者については、その職務を適切に遂行するために必要な権限が付与される必要があるため、事業場内の労働者から選任されるべきであること。また、同じ事業場で化学物質管理者を複数人選任し、業務を分担することも差し支えないが、その場合、業務に抜け落ちが発生しないよう、業務を分担する化学物質管理者や実務を担う者との間で十分な連携を図る必要があること。なお、化学物質管理者の管理の下、具体的な実務の一部を化学物質管理に詳しい専門家等に請け負わせることは可能であること。
エ 本規定の『リスクアセスメント対象物』は、改正省令による改正前の安衛則第34条の2の7第1項第1号の「通知対象物」と同じものであり、例えば、原材料を混合して新たな製品を製造する場合であって、その製品がリスクアセスメント対象物に該当する場合は、当該製品は本規定のリスクアセスメント対象物に含まれること。
オ 本規定の『リスクアセスメント対象物を製造し、又は取り扱う』には、例えば、リスクアセスメント対象物を取り扱う作業工程が密閉化、自動化等されていることにより、労働者が当該物にばく露するおそれがない場合であっても、リスクアセスメント対象物を取り扱う作業が存在する以上、含まれること。ただし、一般消費者の生活の用に供される製品はリスクアセスメントの対象から除かれているため、それらの製品のみを取り扱う事業場は含まれないこと。また、密閉された状態の製品を保管するだけで容器の開閉等を行わない場合や、火災や震災後の復旧、事故等が生じた場合の対応等、応急対策のためにのみ臨時的にリスクアセスメント対象物を取り扱うような場合は、『リスクアセスメント対象物を製造し、又は取り扱う』には含まれないこと。
カ 本規定の表示等及び教育管理に係る技術的事項を『他の事業場において行っている場合』とは、例えば、ある工場でリスクアセスメント対象物を製造し、当該工場とは別の事業場でラベル表示の作成を行う場合等のことをいい、その場合、当該工場と当該事業場それぞれで化学物質管理者の選任が必要となること。安衛則第12条の5第2項についてもこれと同様であること。
キ 本項第4号については、実際に労働災害が発生した場合の対応のみならず、労働災害が発生した場合を想定した応急措置等の訓練の内容やその計画を定めること等も含まれること。
ク 本項第7号については、必要な教育の実施における計画の策定等の管理を求めるもので、必ずしも化学物質管理者自らが教育を実施することを求めるものではなく、労働者に対して外部の教育機関等で実施している必要な教育を受けさせること等を妨げるものではないこと。また、本規定の施行の前に既に雇い入れ教育等で労働者に対する必要な教育を実施している場合には、施行後に改めて教育の実施を求める趣旨ではないこと。
(2) 安衛則第12条の5第3項関係
ア 本項第2号イの『厚生労働大臣が定める化学物質の管理に関する講習』は、厚生労働大臣が定める科目について、自ら講習を行えば足りるが、他の事業者の実施する講習を受講させることも差し支えないこと。また、『これと同等以上の能力を有すると認められる者』については、本項第2号イの厚生労働大臣が定める化学物質の管理に関する講習に係る告示と併せて、おって示すこととすること。
イ 本項第2号ロの『必要な能力を有すると認められる者』とは、安衛則第12条の5第1項各号の事項に定める業務の経験がある者が含まれること。また、適切に業務を行うために、別途示す講習等を受講することが望ましいこと。
(3)安衛則第12条の5第4項関係
化学物質管理者の選任に当たっては、当該管理者が実施すべき業務をなし得る権限を付与する必要があり、事業場において相応するそれらの権限を有する役職に就いている者を選任すること。
(4)安衛則第12条の5第5項関係
本規定の『事業場の見やすい箇所に掲示すること等』の『等』には、化学物質管理者に腕章を付けさせる、特別の帽子を着用させる、事業場内部のイントラネットワーク環境を通じて関係労働者に周知する方法等が含まれること。」
施行日は、令和6(2024年)4月1日である。
⑫ 保護具着用管理責任者の選任
第2に、保護具着用管理責任者の選任に係る安衛則第12条の6である。
化学物質管理者を選任した事業者は、リスクアセスメントの結果に基づく措置として、労働者に保護具を使用させるときは、保護具着用管理責任者を選任し、次に掲げる事項を管理させなければならない(第1項)。
① 保護具の適正な選択に関すること
② 労働者の保護具の適正な使用に関すること
③ 保護具の保守管理に関すること
保護具着用管理責任者の選任は、選任すべき事由が発生した日から14日以内に行うこととし、保護具に関する知識及び経験を有すると認められる者のうちから選任しなければならない(第2項)。
事業者は、保護具着用管理責任者を選任したときは、当該保護具着用管理責任者に対し、必要な権限を与えるとともに、当該保護具着用管理責任者の氏名を事業場の見やすい箇所に掲示すること等により関係労働者に周知させなければならない(第3項及び第4項)。
施行通達で、以下のように解説されている。
「(1) 安衛則第12条の6第1項関係
本規定は、保護具着用管理責任者を選任した事業者について、当該責任者に本項各号に掲げる事項を管理させなければならないこととしたものであり、保護具着用管理責任者の職務内容を規定したものであること。
保護具着用管理責任者の職務は、次に掲げるとおりであること。
ア 保護具の適正な選択に関すること。
イ 労働者の保護具の適正な使用に関すること。
ウ 保護具の保守管理に関すること。
これらの職務を行うに当たっては、平成17年2月7日付け基発第0207006号「防じんマスクの選択、使用等について」、平成17年2月7月付け基発第0207007号「防毒マスクの選択、使用等について」及び平成29年1月12日付け基発0112第6号「化学防護手袋の選択、使用等について」に基づき対応する必要があることに留意すること。
(2)安衛則第12条の6第2項関係
本項第2号中の『保護具に関する知識及び経験を有すると認められる者』には、次に掲げる者が含まれること。なお、次に掲げる者に該当する場合であっても、別途示す保護具の管理に関する教育を受講することが望ましいこと。また、次に掲げる者に該当する者を選任することができない場合は、上記の保護具の管理に関する教育を受講した者を選任すること。
① 別に定める化学物質管理専門家の要件に該当する者
② 後掲の新規制㉑の施行通達による解説(1)ウに定める作業環境管理専門家の要件に該当する者
③ 法第83条第1項の労働衛生コンサルタント試験に合格した者
④ 安衛則別表第4に規定する第1種衛生管理者免許又は衛生工学衛生管理者免許を受けた者
⑤ 安衛則別表第1の上欄に掲げる、令第6条第18号から第20号までの作業及び令第6条第22号の作業に応じ、同表の中欄に掲げる資格を有する者(作業主任者)
⑥ 安衛則第12条の3第1項の都道府県労働局長の登録を受けた者が行う講習を終了した者その他安全衛生推進者等の選任に関する基準(昭和63年労働省告示第80号)の各号に示す者(安全衛生推進者に係るものに限る。)
(3)安衛則第12条の6第3項関係
保護具着用管理責任者の選任に当たっては、その業務をなし得る権限を付与する必要があり、事業場において相応するそれらの権限を有する役職に就いている者を選任することが望ましいこと。なお、選任に当たっては、事業場ごとに選任することが求められるが、大規模な事業場の場合、保護具着用管理責任者の職務が適切に実施できるよう、複数人を選任することも差し支えないこと。また、職務の実施に支障がない範囲内で、作業主任者が保護具着用管理責任者を兼任しても差し支えないこと(後掲の新規制㉑の施行通達による解説(4)に係る職務を除く。)。
(4)安衛則第12条の6第4項関係
本規定の『事業場の見やすい箇所に掲示すること等』の『等』には、保護具着用管理責任者に腕章を付けさせる、特別の帽子を着用させる、事業場内部のイントラネットワーク環境を通じて関係労働者に周知する方法等が含まれること。」
施行日は、令和6(2024年)4月1日である。
⑬ 雇入れ時等教育の拡充
第3に、雇入れ時等における化学物質等に係る教育の拡充に係る安衛則第35条第1項で、労働者を雇い入れ、又は労働者の作業内容を変更したときに行わなければならない安衛則第35条第1項の教育について、令第2条第3号に掲げる業種の事業場の労働者については、安衛則第35条第1項第1号から第4号までの事項の教育の省略が認められてきたが、改正省令により、この省略規定を削除し、同項第1号から第4号までの事項の教育を行わなければならないことが事業者に義務付けられる。
「本規定の改正は、雇入れ時等の教育のうち本条第1項第1号から第4号までの事項の教育に係る適用業種を全業種に拡大したもので、当該事項に係る教育の内容は従前と同様であるが、新たな対象となった業種においては、各事業場の作業内容に応じて安衛則第35条第1項各号に定められる必要な教育を実施する必要がある」(施行通達)。
施行日は、令和6(2024年)4月1日である。
⑭ 職長等に対する安全衛生教育
第4に、「職長等に対する安全衛生教育の対象となる業種の拡大」で、法第60条の職長等に対する安全衛生教育の対象となる業種に、化学物質を取り扱う業種を追加するため、これまで対象外であった「食料品製造業(うま味調味料製造業及び動植物油脂製造業を除く。)」、「新聞業、出版業、製本業及び印刷物加工業」の2業種が追加される(令第19条)。「うま味調味料製造業及び動植物油脂製造業を除く。」とされているのは、うま味調味料製造業及び動植物油脂製造業については、従前から職長等に対する安全衛生教育の対象業種となっており、新たに追加されるものではないという趣旨である。したがって、今般の改正により、全ての食料品製造業が職長等に対する安全衛生教育の対象となるとされている(基発0224第1号)。
施行日は、令和5(2023年)4月1日である。
⑮ SDS等による通知方法の柔軟化
「化学物質の危険性・有害性に関する情報の伝達の強化」として、いくつかの規定が新設される。第1に、「SDS等による通知方法の柔軟化」で、法法第57条の2の規定によるSDS等による通知の方法として、相手方の承諾を要件とせず、電子メールの送信や、通知事項が記載されたホームページのアドレス(二次元コードその他のこれに代わるものを含む。)を伝達し閲覧を求めること等による方法が新たに認められる(安衛則第24条の15第1項及び第3項(公布日時点においては第2項)、第34条の2の3)。
施行通達で、「電子メールの送信により通知する場合は、送信先の電子メールアドレスを事前に確認する等により確実に相手方に通知できるよう配慮すべきであること」とされている。
施行日は、令和4(2022年)4月1日ともっとも早い。
「⑰ 事業場内別容器保管時措置」とともに、改正告示においても、同趣旨の改正が行われる。
⑯ 人体に及ぼす作用の定期確認等
第2に、「『人体に及ぼす作用』の定期確認及び『人体に及ぼす作用』についての記載内容の更新で、法第57条の2第1項の規定による通知事項のひとつである「人体に及ぼす作用」について、直近の確認を行った日から起算して5年以内ごとに1回、記載内容の変更の要否を確認し、変更を行う必要があると認めるときは、当該確認をした日から1年以内に変更を行うように努めなければならない。また、変更を行ったときは、当該通知を行った相手方に対して、速やかに、変更内容を通知し、当該相手方が閲覧できるように努めなければならない。加えて、安衛則第24条の15第2項及び第3項の規定による特定危険有害化学物質等に係る通知における「人体に及ぼす作用」についても、同様の確認及び更新を努力義務とされる(安衛則第24条の15第2項及び第3項、第34条の2の5第2項及び第3項)。
施行通達では、以下のように解説されている。
「ア SDS等における通知事項である『人体に及ぼす作用』については、当該物質の有害性情報であり、リスクアセスメントの実施に当たって最も重要な情報であることから、定期的な確認及び更新を新たに義務付けたこと。定期確認及び更新の対象となるSDS等は、現に譲渡又は提供を行っている通知対象物又は特定危険有害化学物質等に係るものに限られ、既に譲渡提供を中止したものに係るSDS等まで含む趣旨ではないこと。
イ 確認の結果、SDS等の更新を行った場合、変更後の当該事項を再通知する対象となる、過去に当該物を譲渡提供した相手方の範囲については、各事業者における譲渡提供先に関する情報の保存期間、当該物の使用期限等を踏まえて合理的な期間とすれば足りること。また、確認の結果、SDS等の更新の必要がない場合には、更新及び相手方への再通知の必要はないが、各事業者においてSDS等の改訂情報を管理する上で、更新の必要がないことを確認した日を記録しておくことが望ましいこと。
ウ SDS等を更新した場合の再通知の方法としては、各事業者で譲渡提供先に関する情報を保存している場合に当該情報を元に譲渡提供先に再通知する方法のほか、譲渡提供者のホームページにおいてSDS等を更新した旨を分かりやすく周知し、当該ホームページにおいて該当物質のSDS等を容易に閲覧できるようにする方法等があること。
エ 本規定の施行日において現に存するSDS等については、施行日から起算して5年以内(令和10年3月31日まで)に初回の確認を行う必要があること。また、確認の頻度である『5年以内ごとに1回』には、5年より短い期間で確認することも含まれること。」
施行日は、令和5(2023年)4月1日である。
⑰ SDS通知事項の追加等
第3に、「SDS等における通知事項の追加及び成分含有量表示の適正化」で、法第57条の2第1項の規定により通知するSDS等における通知事項に、「想定される用途及び当該用途における使用上の注意」が追加される。また、安衛則第24条の15第1項の規定により通知を行うことが努力義務となっている特定危険有害化学物質等に係る通知事項についても、同事項が追加される。さらに、法第57条の2第1項の規定により通知するSDS等における通知事項のうち、「成分の含有量」について、重量パーセントを通知しなければならないこととされる(安衛則第24条の15第1項、第34条の2の4、第34条の2の6)。
施行通達では、以下のように解説されている。
「(1) 安衛則第24条の15第1項、第34条の2の4関係
ア SDS等における通知事項に追加する『想定される用途及び当該用途における使用上の注意』は、譲渡提供者が譲渡又は提供を行う時点で想定される内容を記載すること。
イ 譲渡提供を受けた相手方は、当該譲渡提供を受けた物を想定される用途で使用する場合には、当該用途における使用上の注意を踏まえてリスクアセスメントを実施することとなるが、想定される用途以外の用途で使用する場合には、使用上の注意に関する情報がないことを踏まえ、当該物の有害性等をより慎重に検討した上でリスクアセスメントを実施し、その結果に基づく措置を講ずる必要があること。
(2)安衛則第34条の2の6関係
ア SDS等における通知事項のうち『成分の含有量』について、GHS及びJIS Z 7253の原則に従って、従前の10パーセント刻みでの記載方法を改めるものであること。重量パーセントによる濃度の通知が原則であるが、通知対象物であって製品の特性上含有量に幅が生じるもの等については、濃度範囲による記載も可能であること。なお、重量パーセント以外の表記による含有量の表記がなされているものについては、平成12年3月24日付け基発第162号『労働安全衛生法及び作業環境測定法の一部を改正する法律の施行について』の記のⅢ第8の2(2)に示したとおり、重量パーセントへの換算方法を明記していれば、重量パーセントによる表記を行ったものと見なすこと。
イ 『成分及びその含有量』が営業上の秘密に該当する場合については、SDS等にはその旨を記載の上、成分及びその含有量の記載を省略し、秘密保持契約その他事業者間で合意した情報伝達の方法により別途通知することも可能であること。」
施行日は、令和6(2024年)4月1日である。
⑱ 事業場内別容器保管時措置
第4に、「化学物質を事業場内において別容器等で保管する際の措置の強化」で、事業者は、令第17条に規定する物(製造許可物質)又は令第18条に規定する物(ラベル表示対象物)をラベル表示のない容器に入れ、又は包装して保管するときは、当該容器又は包装への表示、文書の交付その他の方法により、当該物を取り扱う者に対し、当該物の名称及び人体に及ぼす作用を明示しなければならない(安衛則第33条の2)。
施行通達では、以下のように解説されている。
「ア 製造許可物質及びラベル表示対象物を事業場内で取り扱うに当たって、他の容器に移し替えたり、小分けしたりして保管する際の容器等にも対象物の名称及び人体に及ぼす作用の明示を義務付けたこと。なお、本規定は、対象物を保管することを目的として容器に入れ、又は包装し、保管する場合に適用されるものであり、保管を行う者と保管された対象物を取り扱う者が異なる場合の危険有害性の情報伝達が主たる目的であるため、対象物の取扱い作業中に一時的に小分けした際の容器や、作業場所に運ぶために移し替えた容器にまで適用されるものではないこと。また、譲渡提供者がラベル表示を行っている物について、既にラベル表示がされた容器等で保管する場合には、改めて表示を求める趣旨ではないこと。
イ 明示の際の『その他の方法』としては、使用場所への掲示、必要事項を記載した一覧表の備え付け、磁気ディスク、光ディスク等の記録媒体に記録しその内容を常時確認できる機器を設置すること等のほか、日本産業規格Z7253(GHSに基づく化学品の危険有害性情報の伝達方法-ラベル、作業場内の表示及び安全データシート(SDS))(以下『JIS Z 7253』という。)の『5.3.3作業場内の表示の代替手段』に示された方法として、作業手順書又は作業指示書によって伝達する方法等によることも可能であること。」
関係告示でも、同様の対応がとられる。
施行日は、令和5(2023年)4月1日である。
⑱ 注文者が措置を講じる設備
第5に、「労働災害を防止するため注文者が必要な措置を講じなければならない設備の範囲の拡大」で、法第31条の2の規定により、注文者が請負人の労働者の労働災害を防止するために必要な措置を講じなければならない設備の範囲について、危険有害性を有する化学物質である法第57条の2の通知対象物を製造し、又は取り扱う設備に対象が拡大される(令第9条の3)。
施行日は、令和5(2023年)4月1日である。
⑳ 良好事業場の特別則適用除外
特別則についてもいくつかの改正が行われる。
関係する新規制⑳~㉒についての施行通達による解説は、巻末にまとめて示している。
第1に、「化学物質管理の水準が一定以上の事業場に対する個別規制の適用除外」である(特化則第2条の3、有機則第4条の2、鉛則第3条の2及び粉じん則第3条の2関係)。
ア 特化則等の規定(健康診断及び呼吸用保護具に係る規定を除く。)は、専属の化学物質管理専門家が配置されていること等の一定の要件を満たすことを所轄都道府県労働局長が認定した事業場については、特化則等の規制対象物質を製造し、又は取り扱う業務等について、適用しない。
イ アの適用除外の認定を受けようとする事業者は、適用除外認定申請書(特化則様式第1号、有機則様式第1号の2、鉛則様式第1号の2、粉じん則様式第1号の2)に、当該事業場がアの要件に該当することを確認できる書面を添えて、所轄都道府県労働局長に提出しなければならない。
ウ 所轄都道府県労働局長は、適用除外認定申請書の提出を受けた場合において、認定をし、又はしないことを決定したときは、遅滞なく、文書でその旨を当該申請書を提出した事業者に通知する。
エ 認定は、3年ごとにその更新を受けなければ、その期間の経過によって、その効力を失う。
オ 上記のアからウまでの規定は、エの認定の更新について準用する。
カ 認定を受けた事業者は、当該認定に係る事業場がアの要件を満たさなくなったときは、遅滞なく、文書で、その旨を所轄都道府県労働局長に報告しなければならない。
キ 所轄都道府県労働局長は、認定を受けた事業者がアの要件を満たさなくなったと認めるとき等の取消要件に該当するに至ったときは、その認定を取り消すことができる。
施行日は、令和5(2023年)4月1日である。
㉑ 特殊健診実施頻度の緩和
第2に、「作業環境管理やばく露防止措置等が適切に実施されている場合における特殊健康診断の実施頻度の緩和」である(特化則第39条第4項、有機則第29条第6項、鉛則第53条第4項及び四アルキル則第22条第4項関係)。
本規定による特殊健康診断の実施について、以下の①から③までの要件のいずれも満たす場合(四アルキル則第22条第4項の規定による健康診断については、以下の②及び③の要件を満たす場合)には、当該特殊健康診断の対象業務に従事する労働者に対する特殊健康診断の実施頻度を6月以内ごとに1回から、1年以内ごとに1回に緩和することができる。ただし、危険有害性が特に高い製造禁止物質及び特別管理物質に係る特殊健康診断の実施については、特化則第39条第4項に規定される実施頻度の緩和の対象とはならないこと。
① 当該労働者が業務を行う場所における直近3回の作業環境測定の評価結果が第1管理区分に区分されたこと。
② 直近3回の健康診断の結果、当該労働者に新たな異常所見がないこと。
③ 直近の健康診断実施後に、軽微なものを除き作業方法の変更がないこと。
施行日は、令和5(2023年)4月1日である。
㉒ 第三管理区分への措置強化
第3に、「作業環境測定結果が第三管理区分の作業場所に対する措置の強化」として、以下の内容がある
ア 作業環境測定の評価結果が第三管理区分に区分された場合の義務(特化則第36条の3の2第1項から第3項まで、有機則第28条の3の2第1項から第3項まで、鉛則第52条の3の2第1項から第3項まで、粉じん則第26条の3の2第1項から第3項まで関係)
特化則等に基づく作業環境測定結果の評価の結果、第三管理区分に区分された場所について、作業環境の改善を図るため、事業者に対して以下の措置の実施を義務付ける。
① 当該場所の作業環境の改善の可否及び改善が可能な場合の改善措置について、事業場における作業環境の管理について必要な能力を有すると認められる者(以下「作業環境管理専門家」という。)であって、当該事業場に属さない者からの意見を聴くこと。
② ①において、作業環境管理専門家が当該場所の作業環境の改善が可能と判断した場合、当該場所の作業環境を改善するために必要な措置を講じ、当該措置の効果を確認するため、当該場所における対象物質の濃度を測定し、その結果の評価を行うこと。
イ 作業環境管理専門家が改善困難と判断した場合等の義務(特化則第36条の3の2第4項、有機則第28条の3の2第4項、鉛則第52条の3の2第4項、粉じん則第26条の3の2第4項関係)
ア①で作業環境管理専門家が当該場所の作業環境の改善は困難と判断した場合及びア②の評価の結果、なお第三管理区分に区分された場合、事業者は、以下の措置を講ずること。
① 労働者の身体に装着する試料採取器等を用いて行う測定その他の方法による測定(以下「個人サンプリング測定等」という。)により対象物質の濃度測定を行い、当該測定結果に応じて、労働者に有効な呼吸用保護具を使用させること。また、当該呼吸用保護具(面体を有するものに限る。)が適切に着用されていることを確認し、その結果を記録し、これを3年間保存すること。なお、当該場所において作業の一部を請負人に請け負わせる場合にあっては、当該請負人に対し、有効な呼吸用保護具を使用する必要がある旨を周知させること。
② 保護具に関する知識及び経験を有すると認められる者のうちから、保護具着用管理責任者を選任し、呼吸用保護具に係る業務を担当させること。
③ ア①の作業環境管理専門家の意見の概要並びにア②の措置及び評価の結果を労働者に周知すること。
④ 上記①から③までの措置を講じたときは、第三管理区分措置状況届(特化則様式第1号の4、有機則様式第2号の3、鉛則様式第1号の4、粉じん則様式第5号)を所轄労働基準監督署長に提出すること。
ウ 作業環境測定の評価結果が改善するまでの間の義務(特化則第36条の3の2第5項、有機則第28条の3の2第5項、鉛則第52条の3の2第5項、粉じん則第26条の3の2第5項関係)
特化則等に基づく作業環境測定結果の評価の結果、第三管理区分に区分された場所について、第一管理区分又は第二管理区分と評価されるまでの間、上記イ①の措置に加え、以下の措置を講ずること。
6月以内ごとに1回、定期に、個人サンプリング測定等により特定化学物質等の濃度を測定し、その結果に応じて、労働者に有効な呼吸用保護具を使用させること。
エ 記録の保存
イ①又はウの個人サンプリング測定等を行ったときは、その都度、結果及び評価の結果を記録し、3年間(ただし、粉じんについては7年間、クロム酸等については30年間)保存すること。
施行日は、令和6(2024年)4月1日である。
特別則の改正についての施行通達による解説
⑳ 化学物質管理の水準が一定以上の事業場の個別規制の適用除外
(1)特化則第2条の3第1項、有機則第4条の2第1項、鉛則第3条の2第1項及び粉じん則第3条の2第1項関係
ア 本規定は、事業者による化学物質の自律的な管理を促進するという考え方に基づき、作業環境測定の対象となる化学物質を取り扱う業務等について、化学物質管理の水準が一定以上であると所轄都道府県労働局長が認める事業場に対して、当該化学物質に適用される特化則等の特別則の規定の一部の適用を除外することを定めたものであること。適用除外の対象とならない規定は、特殊健康診断に係る規定及び保護具の使用に係る規定である。なお、作業環境測定の対象となる化学物質以外の化学物質に係る業務等については、本規定による適用除外の対象とならないこと。
また、所轄都道府県労働局長が特化則等で示す適用除外の要件のいずれかを満たさないと認めるときには、適用除外の認定は取消しの対象となること。適用除外が取り消された場合、適用除外となっていた当該化学物質に係る業務等に対する特化則等の規定が再び適用されること。
イ 特化則第2条の3第1項第1号、有機則第4条の2第1項第1号、鉛則第3条の2第1項第1号及び粉じん則第3条の2第1項第1号の化学物質管理専門家については、作業場の規模や取り扱う化学物質の種類、量に応じた必要な人数が事業場に専属の者として配置されている必要があること。
ウ 特化則第2条の3第1項第2号、有機則第4条の2第1項第2号、鉛則第3条の2第1項第2号及び粉じん則第3条の2第1項第2号については、過去3年間、申請に係る当該物質による死亡災害又は休業4日以上の労働災害を発生させていないものであること。「過去3年間」とは、申請時を起点として遡った3年間をいうこと。
エ 特化則第2条の3第1項第3号、有機則第4条の2第1項第3号、鉛則第3条の2第1項第3号及び粉じん則第3条の2第1項第3号については、申請に係る事業場において、申請に係る特化則等において作業環境測定が義務付けられている全ての化学物質等(例えば、特化則であれば、申請に係る全ての特定化学物質)について特化則等の規定に基づき作業環境測定を実施し、作業環境の測定結果に基づく評価が第一管理区分であることを過去3年間維持している必要があること。
オ 特化則第2条の3第1項第4号、有機則第4条の2第1項第4号、鉛則第3条の2第1項第4号及び粉じん則第3条の2第1項第4号第4号については、申請に係る事業場において、申請に係る特化則等において健康診断の実施が義務付けられている全ての化学物質等(例えば、特化則であれば、申請に係る全ての特定化学物質)について、過去3年間の健康診断で異常所見がある労働者が一人も発見されないことが求められること。また、粉じん則については、じん肺法(昭和35年法律第30号)の規定に基づくじん肺健康診断の結果、新たにじん肺管理区分が管理2以上に決定された労働者、又はじん肺管理区分が決定されていた者でより上位の区分に決定された労働者が一人もいないことが求められること。なお、安衛則に基づく定期健康診断の項目だけでは、特定化学物質等による異常所見かどうかの判断が困難であるため、安衛則の定期健康診断における異常所見については、適用除外の要件とはしないこと。
カ 特化則第2条の3第1項第5号、有機則第4条の2第1項第5号、鉛則第3条の2第1項第5号及び粉じん則第3条の2第1項第5号については、客観性を担保する観点から、認定を申請する事業場に属さない化学物質管理専門家から、安衛則第34条の2の8第1項第3号及び第4号に掲げるリスクアセスメントの結果やその結果に基づき事業者が講ずる労働者の危険又は健康障害を防止するため必要な措置の内容に対する評価を受けた結果、当該事業場における化学物質による健康障害防止措置が適切に講じられていると認められることを求めるものであること。なお、本規定の評価については、ISO(JIS Q)45001の認証等の取得を求める趣旨ではないこと。
キ 特化則第2条の3第1項第6号、有機則第4条の2第1項第6号、鉛則第3条の2第1項第6号及び粉じん則第3条の2第1項第6号については、過去3年間に事業者が当該事業場について法及びこれに基づく命令に違反していないことを要件とするが、軽微な違反まで含む趣旨ではないこと。なお、法及びそれに基づく命令の違反により送検されている場合、労働基準監督機関から使用停止等命令を受けた場合、又は労働基準監督機関から違反の是正の勧告を受けたにもかかわらず期限までに是正措置を行わなかった場合は、軽微な違反には含まれないこと。
(2)特化則第2条の3第2項、有機則第4条の2第2項、鉛則第3条の2第2項及び粉じん則第3条の2第2項関係
本規定に係る申請を行う事業者は、適用除外認定申請書に、様式ごとにそれぞれ、(1)イ、エからカまでに規定する要件に適合することを証する書面に加え、適用除外認定申請書の備考欄で定める書面を添付して所轄都道府県労働局長に提出する必要があること。
(3)特化則第2条の3第4項及び第5項、有機則第4条の2第4項及び第5項、鉛則第3条の2第4項及び第5項並びに粉じん則第3条の2第4項及び第5項関係
ア 特化則第2条の3第4項、有機則第4条の2第4項、鉛則第3条の2第4項及び粉じん則第3条の2第4項について、適用除外の認定は、3年以内ごとにその更新を受けなければ、その期間の経過によって、その効果を失うものであることから、認定の更新の申請は、認定の期限前に十分な時間的な余裕をもって行う必要があること。
イ 特化則第2条の3第5項、有機則第4条の2第5項、鉛則第3条の2第5項及び粉じん則第3条の2第5項については、認定の更新に当たり、それぞれ、特化則第2条の3第1項から第3項まで、有機則第4条の2第1項から第3項まで、鉛則第3条の2第1項から第3項まで、粉じん則第3条の2第1項から第3項までの規定が準用されるものであること。
(4)特化則第2条の3第6項、有機則第4条の2第6項、鉛則第3条の2第6項及び粉じん則第3条の2第6項関係
本規定は、所轄都道府県労働局長が遅滞なく事実を把握するため、当該認定に係る事業場がそれぞれ(1)イからカまでに掲げる事項のいずれかに該当しなくなったときは、遅滞なく報告することを事業者に求める趣旨であること。
(5)特化則第2条の3第7項、有機則第4条の2第7項、鉛則第3条の2第7項及び粉じん則第3条の2第7項関係
本規定は、認定を受けた事業者がそれぞれ特化則第2条の3第7項、有機則第4条の2第7項、鉛則第3条の2第7項及び粉じん則第3条の2第7項に掲げる認定の取消し要件のいずれかに該当するに至ったときは、所轄都道府県労働局長は、その認定を取り消すことができることを規定したものであること。この場合、認定を取り消された事業場は、適用を除外されていた全ての特化則等の規定を速やかに遵守する必要があること。
(6)特化則第2条の3第8項、有機則第4条の2第8項、鉛則第3条の2第8項及び粉じん則第3条の2第8項関係
特化則第2条の3第5項から第7項まで、有機則第4条の2第5項から第7項まで、鉛則第3条の2第5項から第7項まで、粉じん則第3条の2第5項から第7項までの場合における特化則第2条の3第1項第3号、有機則第4条の2第1項第3号、鉛則第3条の2第1項第3号、粉じん則第3条の2第1項第3号の規定の適用については、過去3年の期間、申請に係る当該物質に係る作業環境測定の結果に基づく評価が、第一管理区分に相当する水準を維持していることを何らかの手段で評価し、その評価結果について、当該事業場に属さない化学物質管理専門家の評価を受ける必要があること。なお、第一管理区分に相当する水準を維持していることを評価する方法には、個人ばく露測定の結果による評価、作業環境測定の結果による評価又は数理モデルによる評価が含まれること。これらの評価の方法については、別途示すところに留意する必要があること。
(7)特化則様式第1号、有機則様式第1号の2、鉛則様式第1号の2、粉じん則様式第1号の2関係
適用除外の認定の申請は、特化則及び有機則においては、対象となる製造又は取り扱う化学物質を、鉛則においては、対象となる鉛業務を、粉じん則においては、対象となる特定粉じん作業を、それぞれ列挙する必要があること。
㉑ 作業環境管理やばく露防止措置等が適切に実施されている場合における特殊健康診断の実施頻度の緩和(特化則第39条第4項、有機則第29条第6項、鉛則第53条第4項及び四アルキル則第22条第4項関係)
ア 本規定は、労働者の化学物質のばく露の程度が低い場合は健康障害のリスクが低いと考えられることから、作業環境測定の評価結果等について一定の要件を満たす場合に健康診断の実施頻度を緩和できることとしたものであること。
イ 本規定による健康診断の実施頻度の緩和は、事業者が労働者ごとに行う必要があること。
ウ 本規定の「健康診断の実施後に作業方法を変更(軽微なものを除く。)していないこと」とは、ばく露量に大きな影響を与えるような作業方法の変更がないことであり、例えば、リスクアセスメント対象物の使用量又は使用頻度に大きな変更がない場合等をいうこと。
エ 事業者が健康診断の実施頻度を緩和するに当たっては、労働衛生に係る知識又は経験のある医師等の専門家の助言を踏まえて判断することが望ましいこと。
オ 本規定による健康診断の実施頻度の緩和は、本規定施行後の直近の健康診断実施日以降に、本規定に規定する要件を全て満たした時点で、事業者が労働者ごとに判断して実施すること。なお、特殊健康診断の実施頻度の緩和に当たって、所轄労働基準監督署や所轄都道府県労働局に対して届出等を行う必要はないこと。
㉒ 作業環境測定結果が第三管理区分の事業場に対する措置の強化
(1)作業環境測定の評価結果が第三管理区分に区分された場合に講ずべき措置(特化則第36条の3の2第1項、有機則第28条の3の2第1項、鉛則第52条の3の2第1項、粉じん則第26条の3の2第1項関係)
ア 本規定は、第三管理区分となる作業場所には、局所排気装置の設置等が技術的に困難な場合があることから、作業環境を改善するための措置について高度な知見を有する専門家の視点により改善の可否、改善措置の内容について意見を求め、改善の取組等を図る趣旨であること。このため、客観的で幅広い知見に基づく専門的意見が得られるよう、作業環境管理専門家は、当該事業場に属さない者に限定していること。
イ 本規定の作業環境管理専門家の意見は、必要な措置を講ずることにより、第一管理区分又は第二管理区分とすることの可能性の有無についての意見を聴く趣旨であり、当該改善結果を保証することまで求める趣旨ではないこと。また、本規定の作業環境管理専門家の意見聴取にあたり、事業者は、作業環境管理専門家から意見聴取を行う上で必要となる業務に関する情報を求められたときは、速やかに、これを提供する必要があること。
ウ 本規定の「作業環境管理専門家」には、次に掲げる者が含まれること。
① 別に定める化学物質管理専門家の要件に該当する者
② 3年以上、労働衛生コンサルタント(試験の区分が労働衛生工学又は化学であるものに合格した者に限る。)としてその業務に従事した経験を有する者
③ 6年以上、衛生工学衛生管理者としてその業務に従事した経験を有する者
④ 衛生管理士(法第83条第1項の労働衛生コンサルタント試験(試験の区分が労働衛生工学であるものに限る。)に合格した者に限る。)に選任された者で、その後3年以上労働災害防止団体法第11条第1項の業務を行った経験を有する者
⑤ 6年以上、作業環境測定士としてその業務に従事した経験を有する者
⑥ 4年以上、作業環境測定士としてその業務に従事した経験を有する者であって、公益社団法人日本作業環境測定協会が実施する研修又は講習のうち、同協会が化学物質管理専門家の業務実施に当たり、受講することが適当と定めたものを全て修了した者
⑦ オキュペイショナル・ハイジニスト資格又はそれと同等の外国の資格を有する者
(2)第三管理区分に対する必要な改善措置の実施(特化則第36条の3の2第2項、有機則第28条の3の2第2項、鉛則第52条の3の2第2項、粉じん則第26条の3の2第2項関係)
本規定の「直ちに」については、作業環境管理専門家の意見を踏まえた改善措置の実施準備に直ちに着手するという趣旨であり、措置そのものの実施を直ちに求める趣旨ではなく、準備に要する合理的な時間の範囲内で実施すれば足りるものであること。
(3)改善措置を講じた場合の測定及びその結果の評価(特化則第36条の3の2第3項、有機則第28条の3の2第3項、鉛則第52条の3の2第3項、粉じん則第26条の3の2第3項関係)
本規定の測定及びその結果の評価は、作業環境管理専門家の意見を踏まえて講じた改善措置の効果を確認するために行うものであるから、改善措置を講ずる前に行った方法と同じ方法で行うこと。なお、作業場所全体の作業環境を評価する場合は、作業環境測定基準及び作業環境評価基準に従って行うこと。
また、本規定の測定及びその結果の評価は、作業環境管理専門家が作業場所の作業環境を改善することが困難と判断した場合であっても、事業者が必要と認める場合は実施して差し支えないこと。
(4)作業環境管理専門家が改善困難と判断した場合等に講ずべき措置(特化則第36条の3の2第4項、有機則第28条の3の2第4項、鉛則第52条の3の2第4項、粉じん則第26条の3の2第4項関係)
ア 本規定は、有効な呼吸用保護具の選定にあたっての対象物質の濃度の測定において、個人サンプリング測定等により行い、その結果に応じて、労働者に有効な呼吸用保護具を選定する趣旨であること。
イ 本規定の呼吸用保護具の装着の確認は、面体と顔面の密着性等について確認する趣旨であることから、フード形、フェイスシールド形等の面体を有しない呼吸用保護具を確認の対象から除く趣旨であること。
(5)作業環境測定の評価結果が改善するまでの間に講ずべき措置(特化則第36条の3の2第5項、有機則第28条の3の2第5項、鉛則第52条の3の2第5項、粉じん則第26条の3の2第5項関係)
本規定は、作業環境管理専門家の意見に基づく改善措置等を実施してもなお、第三管理区分に区分された場所について、化学物質等へのばく露による健康障害から労働者を守るため、定期的な測定を行い、その結果に基づき労働者に有効な呼吸用保護具を使用させる等の必要な措置の実施を義務付ける趣旨であること。
(6)所轄労働基準監督署長への報告(特化則第36条の3の3、有機則第28条の3の3、鉛則第52条の3の3、粉じん則第26条の3の3関係)
本規定は、第三管理区分となった作業場所について(4)の措置を講じた場合、その措置内容等を第三管理区分措置状況届により所轄労働基準監督署長に提出することを求める趣旨であり、この様式の提出後、当該作業場所が第二管理区分又は第一管理区分になった場合に、所轄労働基準監督署長へ改めて報告を求める趣旨ではないこと。