クボタショック-アスベストショックの記録~弾けた時限爆弾アスベスト<6>政党、国会、参考人招致、解散総選挙、政府、専門家会議は・・

古谷杉郎(全国労働安全衛生センター連絡会議/石綿対策全国連絡会議・事務局長)

政党のアスベストプロジェクトチーム

再び時計を巻き戻すが、政党―国会の動きも次第に慌ただしくなっていった。

日本共産党国会議員団のアスベスト対策チーム(責任者・市田忠義書記局長、責任者代理・吉井英勝衆院議員)は、7月11日に第1回対策会議を開催。7月14日に、首相宛てに7項目の緊急申し入れを行っている。

公明党は7月12日、アスベスト対策本部(本部長・井上義久政務調査会長、事務局長・福島豊衆議院議員)を設置することを決めた。15日の初会合で関係省庁からのヒアリングを行い、20日には中皮腫・アスベスト疾患・患者と家族の会のヒアリング。
古川和子さん、小菅千恵子さん、毛利敬さんに、東京労働安全衛生センターの飯田勝泰事務局長が付き添った。8月3日には、総合的な対策新法を検討する作業チームを設置、①予防、②救済、③情報開示、相談体制の整備、④診断治療体制の整備―に関する4項目を柱として検討することとした。

民主党は21日、アスベスト問題プロジェクトチーム(PT)(座長・五島正規衆議院議員、事務局長・奥田建衆議院議員)の第1回会議を開いた。同党は7月29日に、衆議院厚生労働委員会で審議中だった「労働安全衛生法等の一部を改正する法律案に対する修正案」を提出した。これは、「石綿その他の長期にわたる潜伏期間が経過した後に症状が現われる疾病の原因となるものとして政令で定めるものに起因する業務災害に関する労災保険給付について、当分の間、その消滅時効が完成した場合においても、その請求ができるものとする」ように労災保険法に特例措置を規定するという提案である。同党は、法案の審議と党派を超えた賛同を求めていく、とした。

社民党は7月22日、アスベスト対策プロジェクトチーム(座長・阿部知子政審会長)を設置し、6項目の緊急提言を発表している。

自民党も22日、アスベスト問題対策プロジェクトチーム(座長・佐田玄一郎筆頭副幹事長)を、29日にはアスベスト問題対策合同部会(環境部会、厚生労働部会、経済産業部会)の初会合も開き、8月4日の合同部会では、被害者補償救済対策検討チーム、アスベスト早期安全除去対策徹底チーム、国民への情報開示等徹底チームの3つの作業チームを設置し、①改正・新規立法が必要な施策、②政省令による対策―などに分類した総合的な対策を打ち出すこととしている。

さらに、7月25日には与党アスベスト対策本部(本部長・武部自民党幹事長、本部長代理・冬柴鉄三公明党幹事長)が、29日には与党アスベスト対策プロジェクトチーム(座長・田浦直参議院議員(自民党)、座長代理・福島豊衆議院議員(公明党))が設置されている。実はこれ以前に、超党派議員懇をというような動きもあったと聞いているのだが、残念ながら実現していない。

国会でも、7月27日に衆議院厚生労働委員会が、8月3日には参議院厚生労働委員会が、各々アスベスト問題で集中審議を行っている。

国会での参考人発言

8月3日の参議院厚生労働委員会のアスベスト問題集中審議では、岸本卓巳岡山労災病院副院長とともに、石綿対策全興連事務局長として筆者も参考人として呼ばれた。筆者の発言内容は以下のとおりである。

参議院厚生労働委員会で参考人として発言する筆者(2005年8月3日)

御紹介いただきました石綿対策全国連絡会議の事務局長の古谷と申します。今日はお呼びいただき、ありがとうございます。

私たちの石綿対策全国連絡会議というのは、1986年にILOがアスベスト条約、石綿条約を採択したことを契機として、労働組合や市民団体、専門家や関心を持つ個人でつくられたネットワークです。今度の国会でそのILO条約の批准の件が承認されたということで、感慨深いものがあるわけですが、実に19年の長き時間がかかったわけです。

昨年10月に、日本でもいよいよアスベストが原則禁止されるということを私たちは非常に歓迎しました。しかし、心に留めていただきたいのは、アスベストの禁止は最初の第一歩であって、取り組まなければならない課題が山積みしているということです。

大きく申しますれば、まず何よりも、一日も早く全面禁止を実現すること。そして、その後の対策は大きく二つの柱があろうかと思うんですけれども、今まさに流行を始めたばかりのこのアスベスト関連疾患の増大にどう対処していくのか、そしてもう一つは、私たちの身の回りに残されている既存アスベストですね、どのように取り除いていくのか。それに加えて、日本だけで問題が解決すればいいということではなかろうと思いますので、海外移転を阻止する、あるいは地球規模での解決を目指すというようなことも私たちの目の前の課題ですし、今話題にもなっておりますように、やはり予防原則の教訓を引き出すために過去を検証する必要があるのではないかというふうにも考えております。

そのようなことから、私たちも決して十分な提言ができたとは思っていませんけれども、先日、26日に、総合的対策に係る提言ということで、内閣総理大臣あてに提出させていただき、今皆様のお手元に配らせていただいております。あわせて、私たちの団体に参加しております患者と家族の会、あるいはアスベストセンターが緊急の要望なり重点的なお願いということでまとめた文書もお手元にあると思いますので、御参考にしてい
ただければと思います。

私たちがここで言っていることの一つは、今まさに静かな時限爆弾の時限装置が発火したかのような事態を迎える中で、緊急に決断をすべきことは、一刻も早く政治的決断をしていただきたい。

その上で、総合的、抜本的な対策というのは、非常に幅広い課題がございます。腰を据えて、本当に総合的な対策を確立していただきたい。そういう意味では、場当たり的なその場しのぎの対応で終わってはならないと
いうふうに考えているわけです。

そこで、私なりに今最も緊急に必要と思われている課題について、いくつか触れさせていただきたいと思います。

まず第一に、住民被害者らに対する補償制度を確立することです。

所轄の官庁はどこかとか、今ある法律で使える法律はあるんだろうかとか、手続の問題で時間だけ掛かって結果的に何もなされなかったということが最悪だろうと思います。まず、このアスベストの使用なくしては起こらなかった被害者に対しての補償制度を確立するという決断があって、具体的な制度の細部が決まるんではないかというふうに考えております。

御承知のように、マスコミの報道が始まるきっかけはクボタ・ショックと言われています。クボタの旧神崎工場の周辺に住んでいる3名の住民被害者の方が、私たちに参加している患者と家族の会、あるいは関西、尼崎の労働者安全衛生センターを介することによって、今まで孤立させられていた立場から、お互いを知ることによって素朴な疑問ですね、一体工場の中で何が起こってきたのか、何が起こっているのかを明らかにしてほしい、勇気を奮ってクボタに申し入れた、そのことがきっかけになっています。お三人の方はこの不治の病と今、まさに闘病中です。この3人の方の勇気が国をしてこのような対策を取ることになったと是非聞かせてあげたいというのが私の願いです。猶予は一刻もならないというふうに感じております。

第二に、時効の問題であります。

この1か月の間、私たちの関係団体で受けた相談は数千件になると思われます。非常に多忙でなかなか集約できないのですが、主だったところで受けた相談で、既に相談を受けた時点でいわゆる労災保険の時効が過ぎてしまったがために労災保険の手続が取れなかった方の件数をまとめてみました。

7月27日の段階で82件の方がいらっしゃいます。既に今日までに百件になろうかと思っています。この方々たちの家族をどうするのかという問題です。今、厚生労働本省や監督署でも相談を受けていると聞いておりますけれども、時効に掛かった方の相談に、これは時効だから駄目だよと決して切り捨てないで、少なくとも後で連絡が取れるような対応をしてほしいと切に願うわけですけれども、今、実際にこの百人、あるいはもっと潜在的な時効で権利を失われてしまっている方々に対する、これが時効の壁で補償から排除されることがないような決断をこれも一刻も早く望みたいと思っています。

第三に、中皮腫登録制度の創設ということを提案させていただきたいと思っています。

実は、これは私どもの発案、オリジナルではございません。岸本先生もメンバーをなさっている、2003年の8月にまとめられた労災認定基準の検討会の報告書で既に提案されていること、提言されていることなのですが、どうもこれまでに実現に向けての検討がなされた形跡がございませんので、改めてそれを提言申し上げたい。

実は、この検討会報告書では中皮腫というのを、診断をチェックするための中皮腫パネルと中皮腫登録と二つのシステムを提言されておるんですけれども、私自身は、その診断の確かさをチェックするだけでなくて、その方がどのような状況でアスベストに暴露したのか、職業暴露なのか環境暴露なのか、そのようなことから今後の対策に資するような情報も得るというようないろんな思い込みも含めて、この中皮腫登録という制度を是非創設していただきたい。

この点については、さきに御説明がありました「当面の対応」の中で、厚生労働省が緊急に研究を実施するというふうにしていますうちの2003年に878名亡くなった中皮腫の方々のこの実態調査、この調査に基づいてすぐ実現することも不可能ではなかろうと思います。是非、この研究班の目的をそのように位置付けた上で、一刻も早く中皮腫登録制度を実現していただきたいと思います。

以上、3点申し上げて、もちろん緊急にやってほしいこと、ほかにも多々ございます。まあ、ちょっとだけ触れさせていただけば、例えばクボタの旧神崎工場の住民の方々の疫学調査が実施できないだろうかということがあります。

先ほど申し上げました住民被害者の補償制度をつくるという決断をするために、これ以上の追加的な調査とか検討は必要ないと私は考えています。そうではなくて、実際にどの程度の被害の広がり、あるいはアスベスト暴露の広がりがあったのかということをこのクボタの旧神崎工場を徹底的に調べることで一つのモデルがつくれるのじゃないかというふうに考えているからです。

環境省の方で中皮腫で亡くなられた方の調査をするということも言われていますけれども、私、岸本先生のお話も聞いて、例えばですけれども、CTを使って住民の方の胸膜プラークを調べる、もう少し検討の方法があろうかと思います。そういう意味では、この問題についても早急に検討ができればというふうに思う。実際の感覚からいいますと、もうとっくにどこかでやるという話が出てきても不思議ではないような気がするんですけれども、先ほどの住民被害の補償の問題と併せて、どこが所轄するのかとかいう話の前に、是非とも検討していただきたい問題だというふうに考えております。

それと、本日は厚生労働委員会ということでありますので、若干、私の本来の仕事といいますか、労働者の安全にかかわることについても一、二触れさしていただきたいんですけれども、「当面の対応」の中で厚生労働省は、今ある労災認定の仕組み、あるいはハイリスク者が退職後に健康管理をするシステムである健康管理手帳制度というのを周知するということをおっしゃいました。

私たちは、この周知もさることながら、この二つの制度についても改善をしていただきたいというふうに願っております。

まず、健康管理手帳制度については、これはハイリスクな暴露を受けた方の登録制度というふうにも位置付けることのできる重要な制度ですけれども、何よりも交付件数が余りに少な過ぎます。恐らく累計で千件行ってなかろうというふうに思われますし、実はそのうちの2割か3割は神奈川県の在日米軍の元従事者であろうかと思います。

これには理由がございます。労働組合全駐労横須賀支部や神奈川労災職業病センターというNPOの要望を受ける形で、神奈川県が3年間掛けて元海軍基地に従事したことのある労働者1万5千人を追跡調査して、全員に手紙をお届けして、こういう制度があるから希望する方は活用してくださいという周知事業を3年間やった結果です。したがって、該当する方があったら是非申し出てくださいという相談窓口を開いて待っているだけでは決して増えません。

健康管理手帳制度については、すぐできる改善によって、その効果を非常に上げることがございます。

まず第一に、交付対象の範囲を、今ある中でいうとベンジジンという作業があって、この作業に3か月以上従事した方全員を対象にしております。アスベスト作業についても同様に交付対象を広げていただくこと。それと、現行のシステムでは本人が給付の手続をしなければ交付されないことになっておりますが、これを対象要件に該当する人には自動的に交付すること。で、それを過去の退職者にも行き渡らしてほしいわけですが、加えて、現在では、健康管理手帳を持っていても県内に2、3か所ある指定医療機関でしか無料健診を受けられません。これを、かかりつけ医ですとか労災指定医療機関ならどこでも健診が受けられるということになると非常に便利な制度になろうかと思います。最後に、健診の中身についても、是非CTを加えていただきたい。

このような改善によっても、この健康管理手帳は非常にいい制度になると思います。

さて、ほかにも緊急の対応として申したいことは多々あります。

閣僚会議の報告を見ても、今、実はアスベストに関して関係のある主な法律だけでも非常に整合性を欠く面があります。

例えば、労働安全衛生法、化学物質管理法、大気汚染防止法、廃棄物処理法、建設リサイクル法、それぞれ微妙に違ったカバーをしておって整合性を欠いている。こんなこと例えばすぐに直していただきたいと言い続けていることですけれども、残念ながら盛り込まれておりません。

そういうことも含めまして、冒頭申しましたように、緊急に決断しなければならないことは一刻も早く、そして、総合的対策と言えるような内容を腰を据えてじっくりと、縦割り行政の弊害を排して確立していただきたいというふうに考えております。

その 際には、政府の中でこのように検討した結果こうなりましたということを後で報告していただくだけではなくて、その計画の策定あるいは過去の検証の過程に、是非アスベスト被害の患者と家族の代表、あるいはNPOの代表を加えて作業をすることが決定的に重要なのではないかというふうに考えている次第です。
以上です。(太字の強調は筆者による)

社民党の阿部知子衆議院議員、福島みずほ参議院議員がとりわけ熱心に、国会質問で尾辻厚生働大臣に患者・家族の代表に会って話を聞く意向がないか質し、大臣も「機会があればいつでも会う」と答弁してきたことから、大臣との面談斡旋の話も進んでいたのだが、ご承知のとおり8月8日に参議院で郵政民営化法案が否決されたのに対して、小泉首相は衆議院を解散、政局は総選挙へとなだれをうっていった。

この間、全国の患者と家族は関係国会議員に対して、民主党の提出した時効問題を解決する修正案を超党派で即時成立させるよう求めるFAX作戦を展開していた。「労働安全衛生法等の一部を改正する法律案に対する修正案」が廃案とされたことは予想外であったが、選挙前に、時効問題の修正案に反対したという事実を残したくないという判断が、一部に働いたのではないだろうかとも邪推しているところである。

専門検討会等開始

解散前の段階で7月26日に、環境省の「アスベストの健康影響に関する検討会」の第1回会合が開催されている。

これは、「一般環境経由によるアスベストの健康影響に関する分析等を行うため」とされ、非公開。櫻井治彦中央労働災害防止協会労働衛生調査分析センター所長(慶應大学名誉教授)を座長に発足したが、8月1日夜のNHKニュースで、同氏が日本石綿協会の顧問を12年間務め、同協会が作成した「社会に貢献する天然資源 アスベスト」というPRビデオに出演していたことが明らかにされ、座長辞任という結果になった。

8月18日に、新たに3名の委員を追加、内山巌雄京都大学大学院工学研究科教授を座長にして再開(第2回
会合)されている。

厚生労働省の「石綿に関する健康管理等専門家会議」は、8月4日に第1回が開かれている。土屋了介国立がんセンター中央病院副院長を座長に8名の委員からなり、アスベストセンター所長でもある名取雄司医師(ひらの亀戸ひまわり診療所)も加わっている。

同日同会議に続いて「石綿研究班会議」も開催され、「石綿ばく露関連職種に関する研究班」(主任研究者・ 森永謙二(独)産業医学総合研究所作業環境計測研究部部長と「中皮腫と職業性ばく露に関する研究班」(主任研究者・岸本卓巳(独)労働者健康福祉機構岡山労災病院副院長)もスタートした。

(独)労働者健康福祉機構ではこれより先、7月7日に理事長を本部長とするアスベスト疾患総合対策本部を機構本部内に設置、翌8日に本部、労災病院、産業保健推進センターに相談窓口を設置、20日にアスベスト関連の医学研究の開始(具体的内容は不明)、9月1日には、22の労災病院にアスベスト疾患センターを設置、そのうち全国7ブロックの拠点となる7センターをブロックセンターと位置づけ、労災指定医療機関を始めとする他の医療機関の支援を開始している。

国土交通省は8月12日社会資本整備審議会建築分科会において、アスベスト対策部会の設置ついて審議を行うこととなったと発表。

「建築基準法令によるアスベスト建材の規制のあり方に関する検討」のほか、以下のような検討を行うものとした。第1回アスベスト対策部会は9月5日に開催されている。名取雄司医師も専門委員として参加。

  • 住宅性能表示制度におけるアスベスト建材の使用状況の評価方法等のあり方に関する検討
  • 既存制度の活用も含めたアスベストの除去等に対する支援策
  • (財)住宅リフォーム・紛争処理支援センター、(財)日本建築センター、地方公共団体等における消費者からの相談体制の整備
  • アスベスト建材の調査方法及び除去方法に関する調査研究
  • 地震発災後の応急危険度判定等の際のアスベストの飛散危険性の判定方法

8月25日には、「石綿製品の全面禁止に向けた石綿代替化等検討会」の第1回が開催されている。

8月26日、国土交通省は、「道路施設アスベスト対策検討委員会」を設置することを発表。

「国土交通省では道路関連施設におけるアスベストの使用の実態について調査を進めるとともに、地方整備局、道路関係公団、地方公共団体に対し必要な情報提供、撤去・解体における注意喚起を行ってまいりました。この過程で一部道路関連施設においてアスベストの使用が確認されましたので、今後の対応について更に詳細に検討する必要がある」というのがその理由で、8月29日に第1回を開催。

また、文部科学省は同日、「アスベスト起源の悪性中皮腫の早期診断・治療に関する研究について」発表している。

なお、日本政府は8月5日の閣議において批准を決定した「石綿の使用における安全に関する条約(第162号)」の批准書を、8月11日にスイスのジュネーブにおいて国際労働機関事務局に寄託した。

これにより同条約は、日本に対しては2006年8月11日に発効する(2005年8月1日現在の締約国は27か
国)。

総選挙マニュフェスト

総選挙と戦後60年でマスコミの熱もやや冷めたかのようにも見えたが、総選挙は各政党がアスベスト問題にどのように取り組んでいくかを問い質す好機でもあった。各政党もマニュフェスト等において、その立場を明らかにしている。

連立与党重点政策(8月26日)では、7つの重点のひとつ「国民生活の安全と安心の確保」に、治安対策、防災・減災対策と並んでアスベスト問題対策があげられ、「今後被害の拡大が懸念されるアスベスト問題に対処するため、被害者補償・救済対策やアスベストの早期かつ安全な除去、国民の不安を払拭する徹底した情報開示など、新法制定を含めた総合的な取り組みを行う」とされた。

自民党の政権公約(8月19日)では、5つのテーマのひとつ「【安心・安全】誰もが不安なく暮らせる日本へ。」の24項目のひとつに「アスベスト問題対策の迅速な実施」をあげ、「アスベスト使用建築物・学校施設等への対策を徹底する。アスベスト製品製造等の早期全面禁止を行う。労災補償を受けずに死亡した労働者、家族、周辺住民の被害へ的確に対応するための新規立法を行う」とした。

公明党のマニュフェスト(8月16日)では、当面する重要政治課題7項目のひとつに「アスベスト対策について―現行制度で救済されない中皮腫などアスベスト疾患患者・遺族の救済へ 新法の早期実現をめざす」が掲げられ、以下のように言っている。

公明党は関係機関と連携し、中皮腫やアスベスト肺がんなどの患者の実態調査を進め、労災認定による補償を強力に推進していきます。また、①時効(遺族補償の申請は5年以内)のために労災認定されない患者やその遺族、②アスベストに関係する労働者の家族(家庭内暴露者)、③アスベストを扱っていた工場や港湾などの周辺住民(環境暴露者)、など現行制度では救済されない人たちの救済を図ることを主眼にした新法の早期実現をめざしています。
なお新法には、アスベスト使用等の早期完全禁止や現在、建物などに使われているアスベストの封じ込めと除去、建物解体時の安全確保、アスベストに関するリスク評価と情報開示、アスベスト関係疾患の早期診断・治療法研究の開発促進、患者のための相談体制強化など、アスベストから国民の命と健康を守るさまざまな施策も盛り込んでいきます。


民主党のマニュフェスト(8月16日)では、「13. 暮らしの安全・安心」で以下が掲げられ、「5. 教育・分
化」でも、「学校安全基本法案(仮称)」を制定し、アスベスト対策を含む環境衛生対策にも万全を期すとされた。

(1) アスベスト被害に対する健康対策、補償制度を確立します。

① アスベストによる健康被害を最小限に食い止めます。
アスベスト関連疾患に関する情報開示、悪性中皮腫の全数調査を行い、中皮腫登録制度を創設してアスベスト関連疾患について質の高い診断と治療・研究を推進します。家族や周辺住民への影響についての緊急調査を行い、特別立法による救済制度を構築します。アスベストなどに起因する業務災害に関する労災保険給付については、時効が過ぎても請求ができる改正案をすみやかに成立させます。健康管理手帳制度を改善し、退職後の定期健診などの健康管理体制を確立します。

② 安心して日常を過ごせるアスベスト処理方法を義務づけます。
ただちにアスベストの新たな使用と販売を全面禁止します。アスベストを含む製品及び建築物など(学校や公共施設も含む)について全国調査と情報開示を行い、アスベストを含む製品についてはアスベスト含有率の表示を義務づけ、アスベスト飛散を防止します。同時に過去の法令や通達を精査し、行政責任を総括します。解体及び廃棄作業における被曝を防ぐための作業基準を確立し、履行確保措置を徹底します。アスベスト含有廃棄物の処理方法について早急な調査を行い、規制を強化します。被害者補償、健康管理、飛散防止、解体や廃棄に必要な財源確保のため、基金を創設します。

社民党の総選挙政策(8月18日)では、5本の柱のひとつ「まもる!『いのちとみどり』―持続可能な社会を」で、「アスベストの使用を即時禁止とし、実態調査、情報公開を徹底します。国と関連企業が責任を持って住民検診を行います。国と企業の責任で被害者救済・補償を行うよう特別立法措置を講じます。アスベスト建材の除去を義務付け、融資斡旋制度を設けます」とされた。

共産党の7つの重点公約(8月11日)はアスベスト問題にふれていないが、同党は8月31日に、①石綿によるすべての健康被害者等の保護、救済を目的とする、②健康被害の療養補償等は労災保険および公害健康被害補償の水準にする、③健康診断や治療体制の整備の石綿健康福祉予防事業の実施―などの7つの柱からなる「アスベスト(石綿)対策特別措置法案大綱」を発表している。

政党公開質問状

石綿対策全国連は8月24日、各政党に対して公開質問状を送った。これには自民党、公明党、民主党、社民党、共産党の5党より回答が寄せられ、9月1日に、各政党の回答内容を公表した。質問事項は、以下の10項目。

アスベスト対策に関する質問状に対する各政党の回答 2005年8月24日送付、9月1日回答公表/石綿対策全国連絡会議

  1. 「住民被害者等に対する補償制度の確立」について、どのようにお考えですか?
  2. 「時効問題の立法的解決」について、どのようにお考えですか?
  3. 「中皮腫登録制度の創設」について、どのようにお考えですか?
  4. 「健康管理手帳と労災補償制度の改善」について、どのようにお考えですか?
  5. 「住民の疫学調査の実施」について、どのようにお考えですか?
  6. 「発がん物質としての規制対象範囲の整合化」について、どのようにお考えですか?
  7. 「建築物等の解体等に対する規制の整合化」について、どのようにお考えですか?
  8. 「関連情報の開示と永久保存」について、どのようにお考えですか?
  9. 「特別立法を含めた総合対策の確立」について、どのようにお考えですか?
  10. 「国の窓口の一本化、患者・家族、NPO等の代表が参加する継続的取り組み」について、ど
    のようにお考えですか?

各党とも私たちの主張におおむね好意的で「違い」が際だたないことに、マスコミの関心はうすかったような気もするが、それはむしろよいことであって、「選挙後に国会、各政党、国会議員の一人ひとりがその実現のためにどう行動していくのか、注目」していくことが重要なのである。

そうは言っても、連立与党の間に若干のニュアンスの差を読み取ることは可能だった。

何よりも、自民党が新規立法を被害者救済目的に限定しているように思われるのに対して、公明党は、「総合的な対策新法」という言い方を繰り返し、被害者救済が「主眼」ではあるが、「アスベスト使用等の早期完全禁止や現在、建物などに使われているアスベストの封じ込めと除去、建物解体時の安全確保、アスベストに関するリスク評価と情報開示、アスベスト関係疾患の早期診断・治療法研究の開発促進、患者のための相談体制強化など、アスベストから国民の命と健康を守るさまざまな施策を盛り込むことにしている」とも説明している。

総選挙後には、新規立法で対応すべきアスベスト対策の範囲が争点のひとつとなることが予想された。

その被害者救済に関しても、自民党は「労災補償を受けずに死亡した労働者、家族、周辺住民の被害へ的確に対応するための新規立法を行います」とし、公明党は「総合的な対策新法において時効のために労災認定されない患者やその遺族については救済されるべきと考える」としていることを比べてみると、「時効問題の立法的解決」について、自民党はこの時点からすでに「労災補償を受けずに死亡した労働者」のケースに限定して考えていたようにも読める。

また、「中皮腫登録制度の創設」について、公明党が「今後の診療治療体制の開発、普及のためにも『中皮腫登録制度』の整備を進めるべきと考える」と回答しているのに対して、自民党は、「(人口動態統計を活用した)研究を迅速に実施するとともに、これらを通じて全国的に症例を集積する方法について検討しております」とするにとどまり、「中皮腫登録制度の創設」に賛成か反対か言明を避けているようだ。

なお、「発がん物質としての規制対象範囲を0.1%以上含有基準で整合化」することに全政党が賛意を示したのは今回が初めてのこと。

とりわけ自民党が、「今後、(国連)勧告と整合を取るよう関係法令の改正を行いたいと考えております」というかたちで賛同したことで、1999年に公布された化学物質排出把握管理促進法が、発がん物質は0.1%以上含有する製品を対象とするという「国際的な水準」を採用して以来、労働安全衛生法令等もこれにならうよう訴えてきたことがようやく実現すると期待がもてた。

この重要性に気づいた9月2日の読売は、こうした経過の説明抜きに、特ダネとして厚生労働省は「年内にも労働安全衛生法などの関連法令を改正し、実施する方針」と報道。「日本石綿協会の福田道夫専務理事は『技術的には、対応は可能』としている」というコメントも掲載した。

石綿製品
含有規制 0.1%未満
厚労省方針 飛散防止を厳格化

アスベスト(石綿)による健康被害間題で、厚生労働省は2日、現状はアスベストの含有率を全重量の「1%以下」としている建材などの「非アスベスト製品」について、「0・1%未満」に規制強化する方針を決めた。国連も2年前に、「0.1%」を安全基準とる勧告を出しており、同省の対応の遅れに批判が集まっていた。規制強化により、建築物の解体時の飛敵防止策にもより厳しいルールが適用されることになる。

年内にも労働安全衛生法などの関連法令を改正し、実施する方針だ。
厚労省は昨年10月、労安法の施行令を改正し、 総重量の1%を超えるアスベストを含む製品について、製造、輸入、販売を原則禁止とした。今年7月に施行された石綿障害予防規則でも、「1%超」の建材を含む建物を解体する際は、作業員が防護服を着たり廃材を密閉したりする飛散防止策を義務付けている。
また、労安法では、アスベストなどの発がん性物質を含む製品を販売する際には、含有率を記した文書を添付し、買い手側に注意喚起することも義務付けた。これに反すると、6月以下の懲役か50万円以下の罰金が科される。
一方で、検査能力の限界や、「自然界に存在する鉱物でもあり、1%以下の規制には意味がない」(厚労省)ことなどを理由に、含有率が1%以下であれば、「非アスベスト」製品として、飛散防止策などの義務は課されていなかった。
その結果、従来の「非アスベスト製品」を切断するなどした際に飛散したアスベストを、知らずに吸い込む可能性が指摘され、アスベスト問題に取り組んでいる「中皮腫・じん肺・アスベストセンター」の永倉冬史・事務局長は、「1%以下だから安全とは言えず、かえって誤解を招いた」と、対応の遅れを批判していた。
今回の規制強化により、アスベスト製品が使われている大半の建物の解体時には、飛散防止義務などが課されるこをになるとみられ、産業医科大の東敏昭教授(作業病態学)は「事実上の全面禁止」と評価。一方、東京女子大の広瀬弘忠教授(災害・リスク心理学)は、「世界ではすでに28か国が含有率ゼロで全面禁止している。0・1%でも規制が甘い」としている。
また、規制強化に対し、アスベスト製品メーカーなどで構成する日本石綿協会の福田道夫専務理事は「技術的には、対応は可能」としている。

2005年9月2日読売新聞

改訂版「当面の対応」

選挙期間中の8月26日、第2回目のアスベスト問題に関する関係閣僚が開かれ、「アスベスト問題への当面の対応(改訂)」及び「アスベスト問題に関する政府の過去の対応の検証について」(本文及び厚生労働省、環境省、防衛庁、消防庁、文部科学省、経済産業省、国土交通省の各省庁ごとの検証結果からなる)が公表された。

改訂された「アスベスト問題への当面の対応」は頁数は本文8頁から11頁へ3頁増えてはいるものの、前回同様、「新たな対応」と言えるようなものはきわめて少ない。

アスベスト問題への当面の対応/アスベスト問題に関する関係閣僚による会合2005年7月29日・同年8月26日改訂・同年9月29日再改訂

筆者がクボタショック-アスベストショックの記録~弾けた時限爆弾アスベスト<4>で「新たな対応」になる可能性のあるもののひとつとしてふれた「解体作業の発生箇所等情報が、関係部門より廃棄物処理業者に確実に伝達されることを確保するための方策の検討(8月までに検討)(環境省)」は、以下の二項目に分割された。

  • 解体作業によるアスベスト廃棄物の発生情報が、廃棄物処理業者に確実に伝達されるよう、産業廃棄物処理委託契約書及び産業廃棄物管理票にアスベスト廃棄物である旨を記載するよう指示する。(8月22日に、都道府県等に通知)
  • 解体作業の発生箇所等情報が、環境保全部門に確実に伝達される方策について引き続き検討する。(9月までに検討)

またすでにふれているが、国土交通省関係の「既存建築物等における措置」として、以下の2項目が追加された。

  • 建築物におけるアスベスト対策を早急に取りまとめるため、社会資本整備審議会にアスベスト対策部会を設置し、建築基準法令によるアスベスト建材の規制のあり方などについて早期に検討する。(8月19日に設置)
  • 公共施設におけるアスベスト使用の状況把握に努めつつ、道路関係施設におけるアスベスト対策のあり方などについて有識者委員会を設置し、早期に検討する。(8月29日設置予定)

肝心の「労災補償を受けずに死亡した労働者、家族及び周辺住民の被害への対応」については、「救済のための新たな法的措置を講ずることとし、次期通常国会への法案の提出を目指し、厚生労働省及び環境省を中心に、被害の実態把握を進めつつ、引き続き検討し、9月までに具体的な結論を得る。(厚生労働省、環境省等)」として、以下が示された。

  1. 基本的な考え方
    アスベストによる健康被害については、現行の労災保険法や公害健康被害補償法の枠組みでは救済できない者が存在すること、かつ、潜伏期間が非常に長期にわたり、ばく露に係る特定が困難であること等を踏まえ、新たな法的措置により救済の仕組みを構築する。
  2. 対象者
    「労災補償を受けずに死亡した労働者、家族及び周辺住民」について、隙間を生じないような仕組みとし、被害の実態把握を進めつつ、対象者の具体的な範囲について引き続き検討する。
  3. 給付内容
    被害者本人に対する給付(医療の給付等)及び遺族に対する給付(遺族一時金等)について、他の救済制度とのバランスにも配慮しつつ、具体的な内容を引き続き検討する。
  4. その他
    給付の財源、実施主体等について、引き続き検討する。

結論は相変わらず先送りだが、公開質問状に対する自民党回答と同様、「労災補償を受けずに死亡した労働者」という言い方で「時効問題」の限定的な救済と、医療給付と遺族一時金だけという限定的な給付内容を匂わせていることが非常に気になったところである。

同じ8月26日、厚生労働省は「石綿ばく露作業に係る労災認定事業場一覧表」の第2回公表、環境省は「大気汚染防止法に基づく特定粉じん発生施設届出工場・事業場の公表」、国土交通省は「石綿(アスベスト)除去に関する費用について」の公表等も行っている。

安全センター情報2005年9・10月号

クボタショック-アスベストショックの記録~弾けた時限爆弾アスベスト<1>原点-クボタ・ショック

クボタショック-アスベストショックの記録~弾けた時限爆弾アスベスト<2>クボタ・幡掛社長の英断?~石綿労災認定情報公表へ(付)石綿労災認定事業場検索サイト

クボタショック-アスベストショックの記録~弾けた時限爆弾アスベスト<3>尼崎「クボタ」以外の住民被害明らかに

クボタショック-アスベストショックの記録~弾けた時限爆弾アスベスト<4>国の対応、石綿対策全国連など緊急要請

クボタショック-アスベストショックの記録~弾けた時限爆弾アスベスト<5>拙速、ずさんな建物アスベスト調査

クボタショック-アスベストショックの記録~弾けた時限爆弾アスベスト<7>石綿救済新法の攻防、被害者-尾辻大臣面談、100万人署名運動

安全センター情報2005年9・10月号