クボタショック-アスベストショックの記録~弾けた時限爆弾アスベスト<5>拙速、ずさんな建物アスベスト調査

古谷杉郎(全国労働安全衛生センター連絡会議/石綿対策全国連絡会議・事務局長)

拙速な建物アスベスト調査

「当面の対応」では、「吹き付けアスベスト使用実態調査等の実施・早期公表」も掲げられているのだが、この点の経過もおさらいしておきたい。

7月12日のアスベスト問題に関する関係省庁会議の第4回会合には、初めて文部科学省も参加した模様である(環境省ホームページ掲載の7月11日の同会議の合意文書には、「会議メンバー省庁(7月11日現在)…環境省、厚生労働省、経済産業省、国土交通省、内閣官房(事務局)(適宜拡充を予定)」と書かれていた)。

新聞報道(13日付け朝日)によると、この場で「文部科学省は、学校内のアスベスト対策は『おおむね完了している』と報告した。だが、石綿使用が確認された校舎での除去が実際にどれくらい進んでいるかは、『都道府県や市町村が一義的に管理すること』として、正確には把握していないとしている。

文科省は1987年、小中学校の校舎内の石綿使用が問題になった際、都道府県の教育委員会を通じて調査を実施。公立の小中高1,337校で、吹き付け石綿が使用されていることを確認した。その後昨年までに国の補助事業で1,001校が除去したとしているが、残る約330校については、『どれだけ残っているかは把握していない』(文科省施設企画課)とし、調査予定もないという」。

翌14日の読売朝刊も一面トップで、1987年当時の調査の不備を指摘し、「文部科学省は…再調査を実施しない方針だ」と伝えるとともに、永倉冬史・アスベストセンター事務局長の「1987年の調査がアスベストを放置する事態を招いた。再調査するべきだ」というコメントを掲載した。

石綿含有建材
10製品公社から未撤去
87年旧文部省 学校調査対象外に


校舎に使われているアスベスト(石綿)の有害性が問題となった1987年、文部省(当時)が実施した全国の公立学校の実態調査で、天井や壁用のアスベスト含有の吹き付け材10製品を、「アスベストではない」として対象外にしていたことが13日、分かった。学校からのアスベスト撤去計画は、この調査結果をもとにつくられたため、撤去対象から漏れたアスベスト含有10製品が、現在も多くの校舎に残っているとみられる。アスベストそのものを吹き付けた場合と同程度の有害性があるとされるが、文部科学省は12日の政府連絡会議で「学校内の対策はおおむね完了」と報告、再調査を実施しない方針だ。

調査では、公立小、中、高校の教室や体育館の天井、壁などにアスベストが吹き付けられていないかどうかがチェックされ、1337校(3・3%)で使用が確認された。
この際、文部省は「吹き付け石綿の判定方法」を各校に送付。 「次の製品は吹き付け石綿でないので注意すること」として、アスベストそのものの吹き付けが禁止された75年以降、代替品として普及していた15の製品名を挙げ、対象から除外するよう指示していた。

ところが、日本石綿協会(東京・港区)などによると、このうちね製品については、80年ごろまで5%程度の濃度でアスベストが混ぜられていた。代替品の接着力を増すために、アスベストが混入されていたとみられ、代替晶の品質が向上した後には、アスベストの混入はなくなったという。
文科省施設企画課は、アスベスト含有製品を対象外とした理由について、「今となっては分からない」としている。同省はアスベスト含有製品が使用されたとみられる75年~80年ごろの新築・改築校舎数を把握していないが、この時期は第2次ベビーブームの子どもたちの学齢期に当たり、校舎の建設ラッシュだった。

87年の調査後、文部省(文科省)は88年、2003年、05年に、損傷や劣化した吹き付けアスベストを撤去するよう通達し、撤去費用の補助制度も設けたが、10製品を撤去するよう指摘することはなかった。
アスベスト含有10製品は劣化ではがれ落ちたアスベストを吸い込む危険性があるため、現在、アスベストそのものを吹き付けたのと同様に、厚生労働省が解体作業時の飛散防止など厳しい管理を義務付けている。
今後の対応について、文科省施設企画課は「撤去するかどうかは学校設置者の市町村や都道府県が判断すること」としている。

「中皮腫・じん肺・アスベストセンター」の永倉冬史事務局長の話
「アスベスト含有の吹き付け材は、飛散したアスベストを吸い込んだ人に健康被害を引き起こす危険性がある点で、吹き付けアスベストと変わらない。87年の調査が、アスベストを放置する事態を招いた。文科省は再調査するべきだ」

吹き付けアスベスト 建物の耐火、断熱、防音などのため、壁や天井、鉄骨などにアスベストを結合材とともに直接吹き付けること。軽量の被覆剤として、ビルの高層化が進んだ1960年代以降、盛んに用いられたが、吹き付け時に作業員が吸い込んでしまうため、75年に禁止された。

2005年7月14日読売新聞

7月14日には国土交通省(住宅局)が、建築物の吹き付けアスベスト等に関する調査として、①1989年までに施工された公共賃貸住宅(公営住宅、改良住宅、地域特別賃貸住宅、地方住宅供給公社賃貸住宅、都市再生機構賃貸住宅)のうち居住者の使用に供する部分について各事業主体に、②1956~1980年までに施工された大規模(概ね1,000平方メートル以上)な民間建築物について地方公共団体に、各々依頼した(どちらも9月29日に最初の結果公表)。なお、同日には5回目の関係省庁会議も開かれた模様。

こうした報道等によって方針変更をせざるを得なかったのだろうと思われるが、翌15日の記者会見で中山成彬文部化学大臣は、「アスベスト問題が報道され、学校での対策はどうなっているのか聞きましたところ、昭和62年に調査を行い、また、指導や周知徹底に努めてきたということでしたが、今回また、アスベストのことが社会問題になってますし、それこそ子どもたちの安全・安心に関わる問題ですから、念には念を入れて改めて調査するように指示をしました」と話した。以下のメモも公表されている。

学校施設等におけるアスベスト使用に関する実態調査の実施について

  1. 学校施設におけるアスベスト対策について は、学校施設、公営住宅等におけるアスベスト使用が社会問題となった昭和62年当時、毒性が特に強いとされた3種類の商品の吹き付けアスベストについて、全国の学校施設での使用状況の実態調査を行いました。その調査結果を踏まえ、学校施設に使用されたアスベストの除去のための補助制度を設け、市町村等学校の設置者からの申請に基づき、除去のための対策工事等を支援してきたところです。
  2. また、昭和63年には、建設省(当時)が監修した指針において、既存3種類の商品を含め吹き付けアスベスト8商品及びアスベストを含有する吹き付けロックウール15商品が危険性を有する商品として記載されたことを踏まえ、都道府県教育委員会等に対し、市町村と十分連絡調整の上、適切な対策工事が行われるよう文書で指導するとともに、地方自治体の施設担当者を対象にした会議や研修等の機会を通じて、その旨の周知徹底を図ってきたところです。
  3. これらのアスベスト製品については全て、アスベスト対策の補助制度の対象にしているところであり、各地方自治体においては、補助制度を活用し、あるいは単独で、アスベスト対策の取組が逐次進められてきたところです。
  4. 学校は子供たちが安心して学び生活できる場であることが何より大切です。文部科学省としては、昨今、事業所等でのアスベスト被害が社会問題化していることに鑑み、子供たちの安全対策に万全を期すために、このたび、改めて学校施設等におけるアスベスト使用状況等の全国実態調査を実施することとしました。対象や実施方法等が固まり次第、速やかに実態調査を行い、その結果を踏まえ、必要な対策を講じていきたいと考えています。

文部科学省が省内にアスベスト対策チームを設置したのは、他省よりも遅れて、第1回関係閣僚会合が開催された7月29日のことである。

その7月29日、文部科学省は各都道府県知事、教育委員会教育長、公立学校共済組合理事長、文部科学省特殊法人の長、国公私立大学長、私立高等専門学校長、大学共同利用機関法人機構長、文部科学省独立行政法人の長宛てに、また国土交通省は国家機関の建築物(官庁施設)を管理する各政府機関に対して、吹き付けアスベスト等の使用実態について調査を依頼。農林水産省は(どちらも9月29日に結果公表)。

翌8月1日には厚生労働省が、病院、社会福祉施設等及び公共職業能力開発施設等における吹き付けアスベスト等の使用実態について調査を依頼している(10月4日に結果公表)。

問題の多い調査指示

「調査することはよいこと」という風潮でこれらの調査が行われていったが、実は問題が山積みである。地方自治体の担当者や施設の管理者から、どのように調査をすればよいのかという問い合わせや相談がたくさんあったが、筆者は、「この調査指示では調査できない、と指示を出したところに回答すべきだ」と応えてきた。

まず、各々の調査指示によって調査の対象が異なっている。

対象となる建築物の施工時期について、1980年以前、1988年以前、1995年以前とバラバラ。調査するものも、吹き付けアスベストとアスベスト含有吹付けロックウールだけに限定するものと、アスベスト含有吹き付けひる石(バーミキュライト)や折板裏打ち石綿断熱材(フェルト)も含めるものもあり。

室内または室外に露出した吹き付け等に限定するものと、天井内隠蔽部も含めるもの。

調査方法も設計資料や目視のほか、分析による確認を求めるかどうかなど。縦割り行政の弊害が相変わらず続いているということである。

7月1日から施行された石綿障害予防規則が、吹き付けアスベストに次いで飛散性の高いものとしてアスベストを含有した保温材、耐火被覆板、断熱材についても、除去作業の計画の届出等の特別の規制を新設したこと、クボタ・ショックによってアスベストの中でもクロシドライト(青石綿)等の有害性の高さがあらためて確認されたことも踏まえて、より有害性の高い青石綿や茶石綿を含有した建材、及び、白石綿であっても、吹き付け、保温材、耐火被覆板、断熱材等の飛散性の高い建材等の対策を優先的に行うべきであることは明らかである。

そのことを踏まえつつ、すべてのアスベスト含有建材等の調査を実施すべきである。

調査で含有の有無が判明しないものについては、アスベストが含有しているものとみなした対策をとるという原則も、石綿障害予防規則によって示されている。

そのような調査を行うにあたっては現時点では(社)日本石綿協会の『既存建築物における石綿使用の事前診断監理指針』から始めるのがよいと考えること、そのために同協会にその無償提供を要請して認めさせたことは、既述のとおりである。この指針の建築物の使用用途別の施工部位と使用されている可能性の高い/可能性のある石綿含有建材の一覧表を見れば、どのような箇所を調べなければならないのかがわかると同時に、さてどうやったら調べられるかという疑問が、当然沸いてくるはずである。

同協会では、この指針も使って3日間の「アスベスト診断士」養成講座を開催しているが、まさに調査
を実施するためのトレーニングが必要なのである。

国や自治体は調査を実施できる人員を要請することこそが急務と心得るべきである。残念ながら一連の調査が不十分であったことは、遠からず再度問題にされるだろう。

厚生労働省は関係業界団体等に対して、7月29日に「石綿含有製品に係る適正な表示及び文書交付について」、8月12日には「建材等の石綿使用状況に係る情報の公開・提供について」通知しているが、そのような情報を入手し、データベース化等によって利用可能な状態にしながら、人材も育成し、それから調査に着手すべきであった。

明確な対応方針もなし

最も問題なのは、調査の結果吹き付けアスベスト等が見つかった場合にどうするのかという明確な方針なしに調査が進められていることである。

石綿障害予防規則では、「吹き付けられた石綿等が損傷、劣化等によりその粉じんを発散させ、及び労働者がその粉じんにばく露するおそれがあるときは、当該石綿等の除去、封じ込め、囲い込み等の措置を講じなければならない」と定めている(第10条)。

今年4月13日、石綿対策全国連の第18回総会時に厚生労働省の担当者を講師に招いて、石綿障害予防規則の学習会を行った。講ずべき措置の選択基準を示さないと費用の安い措置に流れてしまうという危惧に答えて、担当者は、当時の専門業者による工事の実態に関する認識ということだと思うが、「囲い込みはほとんど行われていない。封じ込めは一部にまだ行われることがあると聞いているが、除去が最も効果的、ベストと考えており、通達でも『この方法によることが望ましい』と書かせていただいたところ」と説明している。

ほとんどの場合、除去が選択されるだろうと考えていたわけである。

しかし、いわゆるアスベスト・パニックで状況は根本的に変わってしまった。文部科学省の担当者から、「現在は封じ込めや囲い込みはどのような場合に行うのでしょうか」という問い合わせの電話があったので、上記の話と「封じ込めや囲い込みはあくまでいずれ除去するまでの間の管理対策のひとつ」だと説明したが、そのような追加の指示等が出された形跡はない。

1987年の学校パニックのとき、封じ込めや囲い込みが行われた場合でも「措置済み」とされ、文書保存期間が切れると調査結果も破棄されてしまった―同じ過ちを繰り返すのではないかと心配している。

また、実績のある専門業者には仕事が殺到して、分析も除去にも時間がかかるうえに、料金が高騰、もちろん石綿則に基づく特別教育等を熱心に進めている業者がいる一方で、法令等の理解や訓練もない業者がこの機会に除去工事等に参入しようとしたり、悪質なリフォーム詐欺まで現われているというのが実情である。

「法令に従った措置をとるよう指示している」と言っただけでは、その法令が整合性を欠いているうえに、不十分な実情である。前述のとおり、石綿則が吹き付けだけでなく、アスベストを含有した保温材、耐火被覆板、断熱材についても特別の規制導入したにもかかわらず、密接に関連する大気汚染防止法や廃棄物処理法はそれに対応していない(第1回関係閣僚会合の「当面の対応」が、大気汚染防止法の吹き付けに係る規模要件等の撤廃しか検討対象に掲げていないこともすでにふれた)。それら以外のアスベスト含有建材等一般の対策は、廃棄等に関する規制が全くないことを含めて、不十分きわまりない。

環境省は、2005年3月30日付けで「非飛散性アスベスト廃棄物の取扱いに関する技術指針」を示しているが、これは廃棄物処理の現場の実態を無視した、実効性を欠くものとして批判されている。

8月22日には、「非飛散性アスベスト廃棄物の適正処理に係る廃棄物の処理及び清掃に関する法律上の取扱いについて」、9月13日には、「アスベスト含有家庭用品を処理する際の留意すべき事項について」通知しているが、行政指導文書を発出しただけで何とかなる問題ではないということをいい加減直視すべきである。

なお、厚生労働省は8月2日、「建築物等の解体等の作業を行うに当たっての石綿ばく露防止対策の実施内容等の掲示について」、安全衛生部長名で通達している。

ちょうど環境省では、「(2025年頃における望ましい社会像を見据えた)戦略プログラムの策定」が議論されているところであるが、建築物等に使用されている既存アスベストを計画的・段階的になくして(無害化処理技術の開発も含めて安全に処理して)「ノンアスベスト社会」を実現するということは、まさにそのような戦略プログラムを策定して、実行していくことが必要な課題であると言える。有害性や飛散性の観点から優先的取り組みが必要なアスベスト含有建材等について、例えば10年計画で、それ以外のアスベスト含有建材等を例えば30年計画でなくしていくといった腰を据えたプログラムが必要なのである。

そのような体制をつくってから、調査を行うべきであったし、いまでもその必要がある。とりわけ吹き付けアスベストの除去作業等は、アスベスト粉じんを飛散する可能性の高い危険な作業である。この4か月間に、不適切な除去作業等によって、何もしないでおいたよりも被害を拡大させたおそれがないとも言いきれない。

安全センター情報2005年9・10月号

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