アスベスト対策に関する質問状に対する各政党の回答 2005年8月24日送付、9月1日回答公表/石綿対策全国連絡会議

クボタショック直後、アスベスト問題の展開にとっては重要な時期に、小泉純一郎首相は、郵政民営化法案を焦点とする解散総選挙に打って出た。2005年8月8日解散、9月11日投票の結果、与党の自由民主党・公明党が圧勝、2007年7月29日の第21回参議院議員通常選挙までこの状態は続いた。(この参院選挙では、民主党が大勝、過半数には届かなかったが、与党の議席数は民主党にすら届かないという大敗となった。)

小泉解散から投票までの期間に、石綿対策全国連は各政党に質問状を提出し、投票日前に回答を得た。

はじめに

石綿対策全国連絡会議は、衆議院議員選挙にあたり、8月24日付けで、「アスベスト対策に関する質問状」を、自由民主党、民主党、公明党、日本共産党、社会民主党全国連合、国民新党、新党日本、自由連合の8党(国会議員を擁している政党)に送付しました。

8月31日を回答期限としていたところ、民主党、日本共産党、公明党、自由民主党、社会民主党全国連合(到着順)の5政党より、回答が届けられました。

ここに、その内容を公表(ホームページ上でも公表予定)いたします。

「いまほど、将来を見据えたアスベスト問題に係る総合的対策の確立に向けて、国会と政府のリーダーシップが求められているときはありません」(質問状前書き)。

衆議院議員選挙候補者の一人ひとりに、私たちの提言の切実性・緊急性を深く理解していただくとともに、選挙後に国会、各政党、国会議員の一人ひとりがその実現のためにどう行動していくのか、注目していきたいと思います。

質問状前書き

貴下、ますますご清栄のこととお喜び申し上げます。

私たちは1987年の設立以来、発がん物質アスベストの危険性の啓蒙と市民や労働者の取り組みの支援、アスベストによる健康被害の掘り起こし、そして、日本におけるアスベスト禁止の早期実現と総合的対策の確立に向けて、様々な取り組みを進めてきました。

6月末以来1か月以上、日本のメディアが「アスベスト」を取り上げない日はないという状況が続きました。

アスベスト(含有製品)を製造ないし取り扱ってきた企業のなかで、あまりにも多くの労働者がアスベスト曝露による中皮腫、肺がん、石綿肺等の重篤な疾病に罹患し、亡くなってきたという事実が「初めて」ひろく国民に明らかにされたのです。そればかりでなく、関連事業場で働いていた労働者の家族や近隣に住んでいた住民にもアスベスト曝露が原因と考えられる被害が発生しており、誰もが「アスベスト禍」の被害者となり得る可能性があるという事実を突きつけられたことが、「アスベスト・パニック」とも呼ぶべき現象を引き起こしたものと考えられます。

私たちは7月26日に、「いま世論に押されるようなかたちで、各省庁が…ごく短期間のうちに過去の検証及び今後の『総合対策を確立』しようとしていることに、再びその場しのぎの対応に終わってしまうのではないかという強い危機感」を感じ、「アスベスト問題に係る総合的対策に関する提言」を発表し、内閣総理大臣に提出しました。

アスベスト問題に係る総合対策に関する提言/石綿対策全国連絡会議 2005年7月26日~クボタショック至る経緯を踏まえて

そこでは、「緊急を要する課題については、省庁の管轄や既存のどの法令や制度で対応するか等を論ずる以前に、まず確固たる決断を示すことが何よりも重要であると考えます。そのうえで、腰を据えて真に体系的な総合的対策を確立するよう強く勧告」しています。

7月29日には、アスベスト問題に関する関係閣僚による会合が開かれ、「アスベスト問題への当面の対応」が取りまとめられました。率直に言って、重要な決断は先延ばしにされ、全般的に必要とされる新たな施策を打ち出そうとする姿勢に乏しく、私たちが提言した「総合的対策」の確立が果たしてなされるのだろうかという不安をいだかざるを得ません。

また、「対策を有効に進めるためには、患者と家族、労働者、市民のエンパワーメント―『知る権利』『参加する権利』等を確保し、あらゆるレベルで、国や地方自治体、企業等を含めた関係者とのリスクコミュニケーションを通じて、対策の確立及び実施を図ることが不可欠」と指摘した点が、いまだに顧みられていないことも不信感を増大させる結果となっています。

いまほど、将来を見据えたアスベスト問題に係る総合的対策の確立に向けて、国会と政府のリーダーシップが求められているときはありません。私たちは、この問題は、すべての政党が思想信条を超えて一丸となって取り組むべき課題であると確信しています。

ぜひとも、以下の質問事項に対する、貴党のご見解をお聞かせください。ご回答は、私どものホームページ等において公表させていただきます。※ご多忙中のところまことに恐縮ですが、ご回答は、8月31日までに、郵送、FAXまたはEmailでいただきますよう、よろしくお願いいたします。

質問各項目と各党回答(到着順)

1.「住民被害者等に対する補償制度の確立」について、どのようにお考えですか?

環境曝露、家族曝露等によるアスベスト関連疾患等、現在補償制度のない被害者に対する補償制度を確立するという政治的決断がなされるかどうかは、国民のもっとも注目している問題のひとつです。まさに何も知らないうちに殺人粉じんにさらされたこれらの被害者が、償いを受けることもできないという状況が放置されてよいはずがありません。「省庁の管轄や既存のどの法令や制度で対応するか等を論ずる以前に、まず確固たる決断を示すことが何よりも重要」であるという点がもっとも強調されるべき課題です。

  • 【民主党】 家族や周辺住民への影響について緊急調査を行い、特別立法による救済制度を構築する。
  • 【日本共産党】 被害が家族や周辺住民には及んでおり、すべての健康被害者を救済する新たな救済早急に確立することが必要だと考えます。アスベストの危険性を最も知る立場にあった国と企業の責任は明確です。国と原因企業の責任で、医療補償、生活補償など恒久対策をおこなうべきです。
  • 【公明党】 環境曝露、家庭内曝露によるアスベスト関連疾患の場合は、幅広く救済という視点で行われるべきと考える。これは、総合的な対策新法において救済されるべきと考えており、早期実現に努力する。
  • 【自由民主党】 アスベスト問題対策の迅速な実施について労災補償を受けずに死亡した労働者、家族、周辺住民の被害へ的確に対応するための新規立法を行います。
  • 【社会民主党全国連合】 一般住民への被害が徐々に明らかになっている。今後、さらに被害が増加していく事態を考えると、この状況はまさに「アスベスト公害」である。アスベストの危険性を知りながら、迅速な規制措置を取らなかった国の責任を明らかにし、労災のすき間に落ちている方々も含めて住民被害者等に対する補償制度の確立を求めていく。公害健康被害補償制度を積極的に活用する。

2.「時効問題の立法的解決」について、どのようにお考えですか?

6月末以降、私たちの関連団体に寄せられた相談のなかで、すでに請求権が時効により消滅しているため労災保険給付請求が行えないという事例が百件を超えており、政府等が設けている相談窓口で、このような事例にどのように対処されているかということも気掛かりです。アスベストの危険性について知らされないまま、十分な対策がとられなかった結果として、長い潜伏期間の後思いもよらぬ重篤な疾病に苦しめられることとなり、しかも労災請求ができるということすら誰からも知らされてこなかった被災者・家族に対する補償が、「時効」を盾にして排除されるようなことがあってはなりません。立法的解決が早急に必要とされています。

  • 【民主党】 アスベストなどに起因する業務災害に関する労災給付については、時効が過ぎても請求ができるように、「労働者災害補償保険法」を速やかに改正します。
  • 【日本共産党】 石綿による肺がんあるいは中皮腫であって、建築現場で働いてきたという事実や近辺にアスベストを扱っていた工場などが存在していたという事実があれば、その従事期間がどのくらいとか、実際に吸引したかどうかの証明抜きに、救済すべき。被害者にはアスベストの有害性について何も知らされておらず、被害者に責任は何もないうえに、吸い込んでから20~30年たってガンを引き起こすことからも、立法的解決や時効要件の実態に即した運用などが必要です。
  • 【公明党】 貴会議の御指摘どおり、立法的解決がなされるべきと考える。労災保険の給付の延長線上で考えることができるか、カルテの保存期間等の関係から医学的所見が必ずしも明らかでない場合について、どのような基準を設けることができるかなど検討をすすめ、総合的な対策新法において時効のために労災認定されない患者やその遺族については救済されるべきと考える。
  • 【自由民主党】 現行の労災保険法や公害健康被害補償法の枠組みでは救済できない方が存在すること、かつ、潜伏期間が非常に長期にわたり、ばく露にかかる特定が困難であることなどの特殊性を踏まえ救済に万全を期すため、新たな法的措置により救済の仕組みを構築することとしました。
  • 【社会民主党全国連合】 アスベストが原因による疾病(中皮腫、肺がん等)は潜伏期間が20年から40年と非常に長い。また疾病との関係について、医療関係者も含めて、知識や情報が不足しており、労災申請に結びつかないケースが非常に多い。この点を踏まえ、アスベスト疾患について、労災保険法の時効適用を除外する運用、または立法措置を行う。

3.「中皮腫登録制度の創設」について、どのようにお考えですか?

一連の報道によって「中皮腫」というアスベスト曝露に特異的な疾病がひろく知られるところとなりましたが、臨床現場の認識や体制は立ち遅れています。中皮腫の罹患状況を把握するだけでなく、その診断をより確実なものとするとともに、より効果的な治療法等の開発・普及に寄与し、また、職業曝露や環境曝露との関わり等についてより一層の知見を得ることから今後の対策につなげること等を目的としたものとして、中皮腫登録制度の創設を提言します。

  • 【民主党】 質の高い診断と治療・研究を推進するため、中皮腫登録制度を創設します。
  • 【日本共産党】 正確な診断、効果的な治療法・新薬の開発などをすすめる上でも、登録制度の創設は積極的な意義をもつものと考えます。
  • 【公明党】 中皮腫の名が報道等で広く知られるうになったが、御指摘のとおり臨床研究も進んでおらず、疫学的情報の収集が重要になると考える。今後の診療治療体制の開発、普及のためにも「中皮腫登録制度」の整備を進めるべきと考える。
  • 【自由民主党】 中皮腫の診断精度の向上や治療に役立てるためには、中皮腫で亡くなられた方々の症例について、職業や石綿ばく露との関係、治療方法、治療成績等を人口動態調査等を活用しながら調査を行うことが重要であると思います。こうした研究を迅速に実施するとともに、これらを通じて全国的に症例を集積する方法について検討しております。
  • 【社会民主党全国連合】 今後、発症が増えてくるアスベスト疾患について、治療・研究を推進するために、まず中皮腫の全数調査を行い中皮腫登録制度の創設が必要だと考える。

4.「健康管理手帳と労災補償制度の改善」について、どのようにお考えですか?

労働安全衛生法に基づく、一定の発がん物質曝露者の離・退職後の健康管理を目的とした健康管理手帳制度については、①交付対象者をハイリスク作業に(「常時」か否かにかかわらず)3か月以上従事した者に拡大し、②本人の申請によらず事業者の責任で交付手続をするようにし、③上記を過去の離・退職者についても遡
及適用すること。また、④手帳所持者が無料で健診を受けることのできる医療機関を全ての医療機関に拡大して、⑤健診項目にCT等を加えること。

労災補償に関しては、①中皮腫の診断等に疑義がある場合に、死亡するのを待って(!)剖検で確認すればよいとばかりに、せめて生存中に支給決定をという被災者や家族の願いを踏みにじるような姿勢をとる事例がでてきており、このような対応を直ちに是正すること、②胸膜肥厚斑(プラーク)や石綿小体・繊維が認められない事例であっても、石綿曝露が確実な場合には補償対象とすること。

以上は実行可能で、かつ、その効果が期待できることから、速やかに改善することを望みます。

  • 【民主党】 健康管理手帳制度を改善し、退職後の定期健診など健康管理体制を確立します。
  • 【日本共産党】 国と原因企業の責任で改善すべきです。アスベスト関連疾患の労災認定基準と運用の改善、時効の実態に即した運用をはじめ、労災補償制度を改善すべきと考えます。また、健康管理手帳制度は、事業者の責任で交付手続きをすることなどが必要です。
  • 【公明党】 公明党として同様の問題意識を持っている。貴会議御主張の方向で改善を図れるよう努力したい。
  • 【自由民主党】 健康管理手帳については、石綿による疾患と職業性ばく露に関する調査研究を進めており、こうした研究の成果をみながら健康管理手帳の交付要件の見直しを含めた検討を行ないたいと思います。
     現在でも離職の申請の際には事業者が代行して申請するよう要請をしておりますが、離職後に関して事業者が離職者の健康管理を行なうことは難しく、事業者の責任で申請をするというのは困難ではないかと考えます。離職者が健康管理手帳を申請できるよう周知を図りたいと思います。
     健康管理手帳所持者の健康診断について、すべての医療機関に拡大することは診療技術の専門性を確保する上で難しいのではないかと考えますが、受診者の利便性が確保できるようにしたいと思います。
     CT検査については現在でも含まれております。 
     石綿関連疾患に関する労災補償については、迅速・適正な労災認定の実施を図ります。
     石綿にかかる労災認定については、請求が石綿に起因する疾病であることを確認する必要があるため、石綿ばく露作業従事歴、胸膜プラーク等の医学所見の有無等が要件となっております。今後とも適切な認定が行なわれるようにしてまいりたいと思います。
  • 【社会民主党全国連合】 健康管理手帳制度は、対象者の拡大、全員交付とする等の点で改善を図る。労災補償制度については、中皮腫の疑いが濃厚で、アスベスト曝露が確実な場合については、補償の対象として拡大する。 被害者が生存している間に救済が可能となるよう制度の改善を図る。

5.「住民の疫学調査の実施」について、どのようにお考えですか?

すでに工場近隣住民に5例の中皮腫が報告されているクボタ旧神崎工場は、相対的により毒性の強い青石綿(クロシドライト)を、規制のない時代を含めて、大量に使用してきた等という事実において、ひとつの典型例だと考えられます。まずは同工場周辺住民を対象に、環境曝露の広がりを確認するための適切な疫学調査を実施し、それに基づいてハイリスク住民曝露者の健康管理のあり方を検討する必要があると考えます。

  • 【民主党】 曝露の恐れのある周辺住民については、緊急調査を行います。
  • 【日本共産党】 健康被害者の早期発見、実態を明らかにする上で、ぜひとも必要です。とりわけ、健康診断調査を原因企業と国の費用負担で緊急に実施すること、地方自治体と協力して「相談窓口」を設置することも大切だと考えます。
  • 【公明党】 つい先日、大阪でクロシドライトを吹き付けた建物で事業を行っていた事業主が悪性中皮腫により亡くなられていたとの報道にも接した。当然、ご指摘のクボタ旧神前工場周辺住民をはじめとする環境曝露に、この事業主のような事例についての調査も加えるべきだと考える。また石綿関係の従業員の家族の家庭内暴露について実態調査を進めることも必要不可欠と認識している。このような問題意識に立ち、ご提言のようにまず、クボタ旧神崎工場周辺住民を対象した疫学調査が実施できるよう努力する。
  • 【自由民主党】 アスベストによる健康被害が発生するなか、国民の健康を守り、その不安を解消することは喫緊の課題であり、ご指摘のように、まずはクボタ旧神崎工場の周辺住民についての実態把握を進めることが重要であると考え調査の準備を進めております。
  • 【社会民主党全国連合】 御提起の疫学調査の実施(クボタ旧神崎工場周辺)は非常に重要だ。社民党は8月3日に党国会議員の調査団を現地の尼崎市に派遣した。その際、「幼い頃、工場のアスベスト土管に入って遊んでいた息子が肺ガンといわれ30代で亡くなった。自分にも肺に影がある」など近隣住民の声を直接聞いた。改めて身近な被害の深刻さに驚いた。総合的な観察とデータの収集により、アスベスト被害の全体像を医学的につかむことは今後の対策を立てるうえで必要だと考える。

6.「発がん物質としての規制対象範囲の整合化」について、どのようにお考えですか?

わが国で原則禁止を導入した労働安全衛生法令は、アスベストを1%を超えて含有する製品等を規制の対象としていますが、それよりも新しく制定された化学物質管理促進法では、「発がん物質規制は0.1%が現在の国際的基準」であるという根拠を示して、アスベストについても0.1%を超えて含有する製品等を規制の対象としています。両法が、同じ化学物質等安全データシート(MSDS)という仕組みを企業に課しながら、規制対象範囲に差があることは混乱のもとともなっています。より完全な全面禁止の実現という観点からも、規制対象範囲について0.1%基準で整合化を図るべきと考えます。

  • 【民主党】 党内で検討中ですが、前向きに考えていきます。
  • 【日本共産党】 製品に含まれるアスベストの含有量規制基準については、労働安全衛生関法令の規制基準ではなく、国際基準である0.1%基準で整合化をはかるべきです。さらに全面禁止にむけて、0.1%以下の製品であっても、規制ができるようにすべきです。
  • 【公明党】 国際的な新しい基準では0.1%超のアスベスト含有を規制対象としていることは認識しており、化学物質管理促進法はその新基準に即したものと思う。よってご指摘のように労働安全衛生法施行令についても規制対象範囲を0.1%超にして、整合化を図るべきだと考える。
  • 【自由民主党】 現在、化学物質管理促進法における化学物質の文書交付制度については、0.1%以上の石綿含有製品が対象となっており、労働安全衛生法における表示・文書交付制度では、1%を超える石綿含有製品が対象となっています。平成15年の国連勧告「化学品の分類及び表示に関する世界調和システム」では発がん物質を0.1%以上含有する物は、文書交付等を行なうべきとされています。今後、勧告と整合を取るよう関係法令の改正を行いたいと考えております。
  • 【社会民主党全国連合】 国民の健康を守るという観点から、発がん物質の規制基準は国際的基準の0.1%で整合化を図るべきである。

7.「建築物等の解体等に対する規制の整合化」について、どのようにお考えですか?

使用等を禁止した後のアスベスト対策の中心的課題が、建築物等に使用されている既存アスベストの解体等作業に対する規制にあることは間違いありません。関連する現行法令としては、労働安全衛生法が作業を行う労働者の健康障害防止の観点から、大気汚染防止法が住民・環境対策の面から一定の規制をかけ、解体等の結果としてのアスベスト含有廃棄物の処理については、廃棄物処理法がカバーしています。

これらの法律は、重なる面を多々持ちつつ、またいずれも「飛散性の高いアスベスト含有建材等/廃棄物」に関してより厳しい規制をかけながら、整合性を欠いているのが現状です。また、解体等作業における対策の実効性を確保するためには、建設リサイクル法も整合性をもって関与する必要性があります。

さらに、既存アスベストの所在の把握と計画的な除去を安全かつ確実に行っていくためには、建築基準法やビル管理法等の関与も不可欠です。これら関連する法令の整合化を図り、かつ、遵守の実効性を確保する措置を講ずることは当然のことではないでしょうか。これは本来、石綿障害予防規則の施行に合わせて当然行われていなければならなかったはずの作業であり、縦割り行政の弊害を早急に是正する必要があります。

  • 【民主党】 アスベストを含む製品についてはアスベスト含有率の表示を義務付け、アスベスト飛散を防止します。解体及び廃棄作業における被爆を防ぐための作業基準を確立し、履行確保措置を徹底します。アスベスト含有廃棄物の処理方法について早急な調査を行い、規制を強化します。
  • 【日本共産党】 アスベスト対策は、労働安全衛生法、大気汚染防止法、廃棄物処理法をはじめ多岐にわたっており、法律の対象範囲が異なるなど複雑になっています。総合的対策として新法を含め抜本的に強化する必要があると考えます。そのために、関係省庁や自治体の垣根をこえた体制が必要です。
  • 【公明党】 御指摘のように今後、新たに生じるアスベストによる健康・環境被害については、建造物解体時のアスベスト飛散によるものが最もその危険性が高いという問題意識を貴会議と共有していると認識している。ご指摘の諸法令間の整合化を図り、法令順守を担保できるような制度の運営ができるよう、政府に働
  • きかけていく。同様に震災など災害によって損壊した建造物や、その処理廃棄物などからのアスベスト飛散防止対策についても、実効性が保たれるよう制度面の整備を図るべく努力したい。
  • 【自由民主党】 建築物の解体等に関するアスベスト規制としては、作業環境の保護の観点から労働安全衛生法、解体による大気汚染の防止について大気汚染防止法、解体後の廃アスベストの処理について廃棄物処理法というような規制が設けられています。これらの規制は一連の流れで行なわれるものであり、規制間の整合性や情報の共有化などに努める必要があると考えます。
  • 【社会民主党全国連合】 建築物等の解体については、作業労働者の安全、周辺住民の安全と環境保護、そして廃棄物処理の面から一貫性をもった管理システムが重要。関連法令の整合化を図るよう抜本的に見直し、横断的な監視システムをつくる。

8.「関連情報の開示と永久保存」について、どのようにお考えですか?

関連企業によるアスベストによる被害や使用状況等に係る情報の開示が続きましたが、元労働者や住民への注意喚起やリスクコミュニケーションの促進に資するという点で、クボタが住民被害者に開示した内容と比べても全く不十分であり、最低限クボタ並みの情報の開示が必要です。

アスベストを含有する吹き付け等の施工箇所や商品の流通等に関する情報等の開示も求められ、また、これらの情報が廃棄されたり、散逸することのないようにする必要があります。時効との関連等で、医療機関におけるカルテの保存についても同様です。国が自ら保有する情報についてそうした措置をとるだけでなく、地方自治体や企業等に対して関連情報の永久保存と開示を義務づけることが重要です。

  • 【民主党】 徹底的な情報開示に取り組んでいきます。
  • 【日本共産党】 どこにどのくらいアスベスト(含有製品や施設、事務所など)があるのかを緊急全国調査し、その情報を開示するとともに、緊急対応をすべきです。同時に、だれでもわかるように表示することなどが必要です。関連情報のなかには、国や地方自治体、関連企業の情報や資料、また、個人情報に配慮しつつも
  • 被害者のカルテなども含むべきだと考えます。こうした情報は、今後の対策や治療にいかすために廃棄されないように永久保存すべきです。
  • 【公明党】 アスベスト対策が一過性の対策とならないために、また関係者間で相互に意思の疎通を図るという意味でのリスクコミュニケーションを促進する点から、石綿取り扱い事業所等の情報開示や相談体制の整備が重要項目として考えている。
  • 【自由民主党】 アスベストによる健康被害の状況把握と国民への積極的な情報提供は大変重要です。労災認定された事業場でこれまでに業務に従事したことがある方に対し、石綿ばく露作業に従事した可能性があることを喚起すること、周辺住民の不安等の社会的関心が高まる中で「周辺住民」となるか否かの確認に役立ててもらうことなどの趣旨から「石綿ばく露作業に係る労災認定事業場」の公表などの情報提供を行っております。また、企業の保有するアスベストに関する作業等の情報を長期間保存する必要もあると思います。
  •  さらに住宅等の建築物・建材メーカー等が保有する石綿使用状況に関する情報の積極的公開・提供も要請しております。医療機関におけるカルテについては、医師法により、5年間保存することとされておりますが、継続的治療など医学的に必要と判断される場合には法律で定められている5年間の保存期間を超えて保存されるものと考えておりますが、保存期間の延長については電子媒体による保存の進展なども踏まえ検討してまいりたいと思います。
  • 【社会民主党全国連合】 新聞報道によると、88年に旧建設省の求めで都道府県が調べた吹き付けアスベストの実態に関する書類を保存していたのは8道府県のみであった。また、多くの県が継続的な対策を取っていなかった。企業、国、地方自治体等に関連情報の開示を求めるとともに、潜伏期間の長い中皮腫等の特性に則して情報の長期保存を義務付ける。

9.「特別立法を含めた総合対策の確立」について、どのようにお考えですか?

いまこそ、①全面禁止の早期実現、②健康被害対策、③既存アスベスト対策、④海外移転の阻止・地球規模での解決、⑤予防原則の教訓を引き出すための歴史の検証等、を柱とした、文字どおり「総合的対策」の確立が図られなければなりません。

そのためには、縦割り行政や既存の関係法令の隙間になって、取りこぼされる課題を残さないためにも、アスベスト対策基本法ないし特別措置法の制定が不可欠であると考えます。

  • 【民主党】 基本的に同様の認識は立っています。特別立法による総合的な対策を取ります。
  • 【日本共産党】 問題の解決に向けて、予防原則にもとづく全面禁止、被害の補償、アスベストの在庫や使用実態の把握・管理・回収・解体・除去・廃棄、住民参加と徹底した情報公開、国際協力など、アスベスト被害の実態に応じた総合的な対応が必要と考えます。これらを有効なものにしていく上で、法的措置は欠かせません。
  • 【公明党】 公明党がめざす総合的な対策新法には、中皮腫やアスベスト肺がんなどの患者の実態調査を進めるとともに、①時効(遺族補償の申請は5年以内)のために労災認定されない患者やその遺族、②アスベストに関係する労働者の家族(家庭内暴露者)、③アスベストを扱っていた工場や港湾などの周辺住民(環境暴露者)、など現行制度では救済されない人たちの救済を図ることを主眼にした新法の早期実現をめざしている。
     なお新法には、アスベスト使用等の早期完全禁止や現在、建物などに使われているアスベストの封じ込めと除去、建物解体時の安全確保、アスベストに関するリスク評価と情報開示、アスベスト関係疾患の早期診断・治療法研究の開発促進、患者のための相談体制強化など、アスベストから国民の命と健康を守るさまざまな施策を盛り込むことにしている。
  • 【自由民主党】 くり返しになりますが、アスベストによる健康被害が発生するなか、国民の健康を守り、その不安を解消することは喫緊の課題です。このため、アスベストが使用された建築物・学校施設等対策の徹底、アスベスト製品製造等の早期全面禁止、健康相談窓口の開設等による労働者・退職者の適切な健康管理の促進、迅速・的確な労災補償、中皮腫等に関する研究の実施などを推進します。また、労災補償を受けずに死亡した労働者、家族及び周辺住民の被害へ的確に対応するための新規立法を行います。
  • 【社会民主党全国連合】 「アスベスト問題に関する関係閣僚による会合」は7月29日に当面の対応を発表し、8月26日には検証結果をまとめた。しかし、関係省庁の連携が十分に図られてこなかったこと、政府の対応の不備が被害の拡大を招いたことへの反省はなく、さらに行政責任についてもまったく言及がなかった。社民党は、検証作業の継続、徹底を求めるとともに、補償を含めた国の責任を追及していく。
     また、’92年社会党(当時)は、議員立法でアスベストの原則禁止と総合的な対策の確立を目指した「アスベスト規制法案」国会に上程した経過がある。アスベストの全面禁止(’08年)を前倒しして即時禁止にすることを優先事項とし、被害者の補償、住民健診、健康被害への対策、建物等の解体処理対策(規制・安全確保・費用確保)など、総合的な対策を盛り込む特別立法を検討していく。

10.「国の窓口の一本化、患者・家族、NPO等の代表が参加する継続的取り組み」について、どのようにお考えですか?

縦割り行政の弊害を排除するためには、たんに関係閣僚や省庁の連絡会議を設けるだけでは不十分であることは、過去のアスベスト対策の歴史的経過からも明らかであると考えます。この際、国のアスベスト総合対策の窓口を内閣府内に定め、国の窓口を一本化するとともに、強力なリーダーシップを発揮する体制をつくる必要があると考えます。

同時に、「対策を有効に進めるためには、患者と家族、労働者、市民のエンパワーメント―『知る権利』『参加する権利』等を確保し、あらゆるレベルで国や地方自治体、企業等を含めた関係者とのリスクコミュニケーションを通じて対策の確立及び実施を図ることが不可欠」です。

国の窓口の一本化・強力なリーダーシップ体制と、患者・家族やNPO等の代表の参加は、不可分のものであり、合わせて、一過的、場あたり的な対策に終わらせずに、継続的な取り組みを保証する体制を、いまつくることの重要性を強調したいと思います。

  • 【民主党】 国の窓口の一本化は必要と考えています。
  • 【日本共産党】 国の窓口を一本化して総合的対策を効果的に進められる体制にすべきです。阪神大震災の例や「食の安全・安心」への対応などをみれば、可能です。その際、一番被害にさらされている患者・家族、情報をもっている企業、専門家者やNPOなどの力を集め、継続的に取り組むことは、問題を解決する上で非常に有効だと考えます。
  • 【公明党】 ご指摘のように、対策を有効に進めるためには、国の窓口の一本化や、関係者との連携を通した取り組みが重要である。公明党としても、アスベスト対策を場当たり的に終わらせないよう体制整備の実現に向け努力していく。
  • 【自由民主党】 関係省庁が緊密に連携をとりながら行政に隙間が生じないような対策を進め、今後の検討にあたっては、患者・家族、NPO等の方々のご意見も十分に踏まえて進めてまいりたいと考えております。
  • 【社会民主党全国連合】 アスベスト問題は繰り返し社会問題として提起されてきた。その背景には、患者・家族や関係医師、労働組合、NPO等による地道な努力がある。特に87年の「学校パニック」は、国が根本的な対策を取る大きな機会であったにもかかわらず、不充分な対応であったために、アスベスト問題は終わったかのような誤解を招いてしまった。同じ誤りを繰り返さないために、たて割り行政の壁を取り払い、政府が一元となって取り組むためにも国の窓口を一本化し、各分野の代表が参加する機関をつくり、継続的な取り組みを行うことが必要である。社民党として政府に働きかけるとともに、超党派の議員連盟を立ち上げる。

安全センター情報2005年9・10月号