クボタショック-アスベストショックの記録~弾けた時限爆弾アスベスト<2>クボタ・幡掛社長の英断?~石綿労災認定情報公表へ(付)石綿労災認定事業場検索サイト

古谷杉郎(全国労働安全衛生センター連絡会議/石綿対策全国連絡会議・事務局長)

社長の英断?

一方のクボタ・サイドの事情について、発端をつくった毎日新聞大阪本社のチームは、8月28日の紙面をまるまる1面つかって、「クボタではアスベスト(石綿)の情報開示、周辺住民への見舞金支給までに激しい論議が交わされた。そのプロセスを取材した」として、「検証 アスベスト禍」としてまとめた。長い記事だが紹介しておきたい。

問い直す企業の責任

① 社長の決断

4月中旬

「まさか、そんなはずが」

クボタの幡掛大輔社長は思わず絶句した。4月中旬、コンプライアンス本部長の福田俊弘専務からの報告は驚くべき内容だった。

「(石綿を使った水道管を製造した)旧神崎工場(兵庫県尼崎市)の周辺住民に、石綿が原因とみられる中皮腫患者がいる」

石綿による従業員の中皮腫発症者は1986年に初めて確認。中皮腫を発症した従業員の労災申請や健康診断の実施など対策に取り組んでいた。しかし、「外」への拡大は思いも寄らなかった。幡掛社長の頭の中には、情報を小出しにして企業イメージが悪化、経営危機に陥った三菱自動車が浮かんだ。

幡掛社長は「これはもう説明を求められても、変な脚色をしたり、一部を残して出さないのはだめだ。誠意を持って開示するんやで」と福田専務に指示した。

クボタでは不祥事が相次ぎ、企業のコンプライアンス(法令遵守)のあり方が問われていた。1999年、水道管をめぐるヤミカルテル事件で、独占禁止法違反で幹部3人と法人が起訴され、三野重和会長、三井康平社長が引責辞任した。社長に昇格した土橋芳邦氏が社内倫理確立に取り組み、社員行動憲章を策定。しかし、1年後の2000年6月には総会屋への利益供与で元常務らが起訴される事件が起きた。土橋氏は社長にとどまり、社内倫理体制確立のめどが立った2003年に幡掛社長にバトンタッチした。

幡掛社長は今年度経営方針でCSR経営の強化を4つの重点方針の一つとして掲げた。

「(情報は)こねくりまわすな。ぽーんと出せ」。自らの持論を具体化したもので、石綿問題でも周辺患者の対応、情報開示もこの方針に沿って進める。

4月28日

クボタ本社15階の会議室では定例取締役会が開かれ、福田専務が住民側との交渉を報告した。出席していた約25人は顔を見合わせ、室内には重苦しい空気が漂った。

石綿と病気の因果関係を問う意見も出た。幡掛社長が「重い問題だが、真正面から取り組んでい
こう」との方針を示し、引き取った。

「逃げてはいけない」

幡掛社長の決意は固かった。

② 市議の訪問―住民から「会いたい」

これに先立つ3月中ごろ クボタ労働組合出身の米田守之・尼崎市議(当時)がクボタ本社に出向
いて切り出した。

「住民グループがアスベストのことで話をしたいと言っているので、場を設けてほしい」

旧神崎工場の約350メートルの地点に50年以上住んでいて一昨年11月に中皮腫と診断されていた
会社経営、前田恵子さん(73)らが飯田浩・尼崎市議(当時)に相談を持ちかけていた。飯田市議はこれをクボタとパイプのある米田市議に伝えた。

4月12日午前10時

尼崎市議会の応接室は緊張した空気に包まれた。

米田、飯田市議とクボタ側の初めての会合が行われた。クボタ側から伊藤太一・安全衛生推進部長、瀬崎啓輔・環境管理部長、中山智・環境管理部担当部長が出席、両市議と向き合った。

会談までに飯田市議は製造工程と時期、石綿関連で労災認定された社員の状況、石綿繊維の環境測定のデータなどを求めていた。クボタ側から示されたのは、石綿水道管や石綿建材の製造時期だけが記されたB5版の紙1枚。情報は明らかに不十分だった。

「これでは従来型の企業。21世紀を企業が生き延びるためには、情報の開示が不可欠だ」。米田
市議が熱っぽく説得した。

飯田市議は前田さんが中皮腫で苦しんでいることを具体的に伝え、前田さんが「クボタさんから会社の状況などの話を聞きたい」という意向を持っていることを伝えた。

クボタ側の3人はどのような情報が住民側からもたらされるのか様子を見る段階だった。「こちらと接触を取ろうとしているのはどんな人なのか」と疑心暗鬼だった。情報開示の用意はあったが、出すことはなかった。

しかし、会社の「外」に患者がいるという具体的で、信憑性の高い情報がもたらされたことで、クボタ社内は大きく動き出す。

しかも、患者本人が会いたいという意向であることは重く受け止められた。

③ 3人と面会―患者は一人ではない

4月21日

1回目の話し合いから9日後、尼崎市議会の応接室に集まったのは前回と同じ米田、飯田両市議と、クボタの伊藤、瀬崎、中山の3部長だった。

クボタ側から示された資料には石綿の種類別に年度ごとの使用量、環境測定のデータ、年度別の
石綿関連病死者、中皮腫や肺がんなど病名別死者数、療養者数、職種別の死者、関連病患者への
これまでの対応の経緯などがA3版用紙を中心に約30枚に示されていた。

席上、「周辺住民の中皮腫患者は前田さんだけではない。まだ2人はいる」との飯田市議の発言にクボタの3人は色を失った。

結婚するまで旧神崎工場の近くに住んでいた主婦、土井雅子さん(57)=兵庫県伊丹市=や、尼崎市内の自営業の男性(54)も一昨年から昨年にかけて中皮腫と診断され、肺の摘出手術などを受けていた。

4月25日午後1時半

JR尼崎駅前の公民館で、市議とクボタ側だけでなく、初めて患者が参加した話し合いが持たれた。中皮腫患者の前田さん、土井さん、自営業の男性とその家族、クボタの担当3部長に加え、「中皮腫・アスベスト疾患・患者と家族の会」世話人の古川和子さん(57)、患者支援団体「関西労働者安全センター」の片岡明彦次長ら計12人が顔を合わせた。

クボタ側は、先に飯田市議に見せていた資料をもとにこれまでの操業の実情や、社員らの健康被害や補償などについて説明した。

自営業の男性の妻は、夫が突然、中皮腫という病気になってしまったことの不安を涙ながらに語った。患者側から要求はなかったが、石綿疾患で自分の夫を亡くし患者支援をしている古川さんが迫った。

「患者さんたちは身に覚えのないアスベストで病気になっています。クボタさんの工場の中でこんなに社員らの被害が出ているのに、塀一つ隔てるとまったく出ないことはないのではないでしょうか」

「工場の中にいた人は労災認定され、上乗せ補償もあって、外の人は苦しんでまったく救済されないのはおかしいのではないでしょうか」

やりとりは約2時間に及んだ。クボタの3人は終始、険しい表情を崩さなかった。

翌27日

周辺住民の患者3人との面会の模様は、福田専務らに伝えられた。

さっそく法務部門担当者、弁護士、アスベスト問題についての横断的な社内組織「石綿委員会」
で問題が協議された。

④ そして発表―やっと国も本腰

再び4月28日 この日の役員会を境にクボタ社内で石綿をめぐる論議が活発となった。同社は今
まで発症した社員やその家族の悩み、苦しみに接しながらケアを続けてきただけに、周辺住民からの中皮腫患者の発生に役員たちの衝撃は大きかった。

「企業として今の時点で、責任を果たす方法はないか」という考えが基本にあったが、論議は二つに分かれた。

「病気と工場の操業との因果関係が証明されず、企業側の責任がはっきりしないのに救済できな
い」

その中で「見舞金」の考え方が提案された。因果関係がわからなくても、可能性がゼロでない以
上見舞金として支払う。一方、「病気と工場の因果関係を認める一歩になる」と法務部門、弁護士サイドからは警戒感が強かった。

「見舞金の名称でも、現金を支払うことは、責任を認め謝罪することにつながるのでは」との考え方だ。理由を明確にしないと、株主の理解を得ることができない。

幡掛社長自身も「お金を出したら、それが問題に対する口封じと受け止められないか」と懸念した。

論議の末、クボタは周辺住民の患者が「発病したのは、旧神崎工場の石綿が一般環境中に飛び
散っていたためではないか」という疑念を強く持っていることを重視した。因果関係を立証するには時間がかかるが、現実に病気で苦しむ患者たちを考えて、一刻も早く誠意を示す。

最終的には幡掛社長が決断した。「長年、工場が生産を続けられたのは、地域住民の理解や協
力のおかげで、その感謝の気持ちを表すために見舞金か弔慰金を出す」

責任を認めるわけではない。かといって、無関係と放置するわけでもない。弁護士とも相談し、「こういう考え方で見舞金を出すのは許される」という判断に傾いた。

5月10日ごろ

福田専務を中心に、法務部門の担当者、「石綿委員会」のメンバーが加わり、周辺住民の中皮腫患者に対する見舞金や弔慰金の支給基準を作った。

6月29日

毎日新聞はこの日までにクボタの見舞金支給の方針が報道などによって揺らいだりしないことを確認し、同日の夕刊で「見舞金検討」の事実と詳細な情報公開の内容とその意義などを特報した。

6月30日午後2時

尼崎市労働福祉会館で前田さん、土井さんら3人の周辺住民と飯田、米田両氏、古川さんらが出席して見舞金200万円の支給が行われた。クボタ側に謝罪の言葉はなかったが、前田さんらは後に「誠意は感じた」と口をそろえた。古川さんは2か月前には険しかったクボタの伊藤部長の顔がにこやかに変わっていたと感じた。

クボタは同日付で「アスベスト(石綿)被害に関する当社の取り組みについて」を発表。石綿問題に総合的な取り組みを実施することを表明した。

8月24日

患者支援団体が会見、旧神崎工場と関連があるとしてクボタに対し、新たに住民患者21人(うち18人は死亡)に弔慰金や見舞金を支払うよう申請したことを明らかにした。うち先に申請していた7人には見舞金が支払われた。周辺住民から計24人の中皮腫患者が確認された。ただ、クボタ側は「かつて石綿を扱った企業の社会的責任から支払った」と因果関係は認めていない。

26日

政府は石綿関連の閣僚会議を開き、労災補償対象外の被害者救済の新法制定の方針を確認した。
国もようやく動き出した。

2005年8月28日付毎日新聞

他の企業は?

クボタの判断をいろいろと分析・評価することは可能だろうが、いずれにしろ基本的には、長期的にリスクを最小化するために最善と考えた経営判断であったということだろう。そして筆者も、情報を隠したり、出し惜しみし、また、「誠意」も示さないといった従来の企業にありがちな対応に比べれば正しい判断であったろうと考えている。

クボタが6月30日にそのホームページ上で公表した「アスベスト(石綿)健康被害に関する当初の取り組みについて」では、健康被害の発生状況についても、石綿病による死亡者75名(内中皮腫42名)、現在療養中の者18名(内中皮腫4名)という数字だけを示した素っ気のないものだが、住民被害者に開示した情報の量と質はこれとは格段の差がある。

初めて中皮腫死亡者が出た1986年に「石綿取扱い経験者リスト」を作成、他事業所転出者への健診やOB会組織での健康状態把握等をはじめ、2000年からは退職者への毎年1回無料の健康診断の案内を制度化するなどしてきたことによって、言わばリスクコミュニケーションに耐え得るデータを持っていたということも重要な要素だった。

しかし、クボタだけなのか? 他の会社は?

● 石綿製品製造業

クボタと同じく石綿水道管を製造していた

秩父セメント(現太平洋セメント―6月30日)やエタニットパイプ(後継法人ミサワリゾート(本年11月1日からはリゾートソリューションに社名変更)―7月8日)、アスベスト製品製造等大手のニチアス(7月5日)、日本バルカー工業(7月6日)、さらに、エーアンドエーマテリアル(7月4日)、ウベボード(7月5日)、ノザワ(7月6日)、曙ブレーキ(7月6日)、クボタ松下電工外装(7月12日)等、(社)日本石綿協会加盟の中心企業が、アスベスト製品の使用状況や健康被害状況に関する情報の開示を開始した。

7月1日には(社)日本石綿協会(29社・2団体(せんい強化セメント板協会(21社加盟)、セメントファイバーボード工業組合))が、加盟各社の情報を取りまとめて公表する方針を固めたと報じられた(7月8日に結果公表)。

一方、同じ7月1日に経済産業省が、日本石綿協会をはじめ業界6団体に対して、石綿含有製品企
業の過去の生産実績と健康被害の状況について情報を提供するよう要請している(回答期限は
8日。7月15日に、業界団体加盟65社に別途確認した34社を加え合計89社の情報を公表、8月26日に新たに4社を加え修正)。担当は製造産業局住宅産業窯業建材課であり、調査対象はあくまで石綿製品製造企業に限られていた。

● 造船業

石綿含有製品製造以外の企業による情報開示は、鉄道車輌を製造する川崎重工業兵庫工場で20年前に中皮腫死亡が出ていたことが元同僚の証言によってわかり、同社が社内調査を開始と、7月10日に神戸新聞等が報じたのが、クボタ・ショック後では最初だったと思うが、7月7日付けで国土交通省海事局造船課が、造船関係の3業界団体に対して石綿による健康被害等の状況に関する調査の実施を依頼している(回答期限は7月11日、21日に結果公表)。

マスコミの取材攻勢も受けて、造船各社も情報を開示するようになる。

● 運輸業

運輸関係では、日本通運でも、クボタ旧神崎工場(片岡報告にある古嶋さん)やニチアス王子工場に出入りした労働者3人が中皮腫で死亡している事実と、全日本トラック協会が加盟各社に実態調査と報告を要請したことが13日の読売新聞朝刊で報じられた。

14日の朝刊各紙は、本誌が2004年8・9月号以降報告してきている旧国鉄の被害状況を報じ、同日、西武鉄道が保守作業従事者の中皮腫1例を発表。同じく14日には、全日本港湾労働組合弁天浜支部、神奈川労災職業病センターが各々、神戸、横浜、東京港におけるアスベスト被害の状況
を明らかにしている。

国土交通省は7月14日に、「国土交通省における石綿(アスベスト)問題への対応について」発表し、造船と「同様の調査を、鉄道、自動車、航空等の各分野においても実施する」と発表。

結果的に、運輸関連の鉄道車両等製造業、鉄軌道事業、旅客自動車運送事業、貨物自動車運送事業、自動車整備事業、海運事業、舶用工業、漁船関係、港湾運送事業、航空分野、倉庫事業、貨物利用運送事業の各関係団体の傘下会員等計160,474社を対象として調査を実施し、8月26日に結果を公表している(9月27日修正)。

● 建設業

建設業での被害は全建総連参加の労働組合や研究者、支援のNPO等による情報が報じられたが、国土交通省はさらに8月26日になって、建設関連の10業界団体宛てに、「これまでに厚生労働省から公開された、石綿ばく露作業に係る労災認定事業場のリスト[後述]を活用して被災者の業種等を把握し、本日アスベストに暴露する可能性があると思われる業種の業界団体に対して、アスベスト被害の実態把握を行うよう依頼」している(提出期限10月17日)。

● その他の企業

7月11日には、東京ガス、日立化成が各々中皮腫の労災認定事例が1件あること(東京ガスの事例は、認定の前後にご遺族から連絡をいただいている)を、12日にはマツダが、本誌が1993年3、9月号、1995年6月号で紹介してきた2件の中皮腫事例があったことを明らかにし、13日の毎日新聞夕刊が、関西電力の火力発電所で1名(発電所名、病名未公表)労災認定を受けていることを報じ、19日には日本鉄鋼連盟が、20日には三菱電機と日立製作所も被害の発生状況を発表…と業種を超えて広がっていった。

経済産業省は7月25日付けで、同省所管の約500団体(のべ企業数約10万社)を通じて、関係企
業に対して自主的な情報開示を要請した。8月26日に、同月22日時点での集計結果を公表している。

クボタ・ショックからおよそ1か月間、このように企業と国によるアスベスト被害の発生状況等に関する情報の開示ラッシュが続いたわけである。公表後に、マスコミ報道に接した被害者や遺族からの連絡等により、他にもアスベスト被害が生じていた事例があることが判明して、情報を訂正・追加等した企業も少なくない。

アスベスト被害の発生が石綿製品製造企業にとどまるものではないということを広く知らせるという面では、過去に多くの事例に関わってきた安全センター関係者も情報の提供等を行ったものと思う。

意味のある情報の開示を

しかし、これらによって開示された情報は、クボタが住民被害者に開示した情報と比較してもあまりにもお粗末すぎる。

日本石綿協会フォーマットでも言うべきものは、健康被害については「中皮腫」と「肺がん・合併症」の死亡・療養者数のみで、これらの企業におけるじん肺のほとんどが石綿肺であることは常識であろうにもかかわらず、「じん肺」については「参考」として別記している。さらに、実態を調べようとするのではなく、「現在まで工場周辺住民からの被害の訴えはない」旨を記載しているだけである。

経済産業省フォーマットの方は、健康被害を「中皮腫」、「じん肺」、「その他」に分類。「じん肺については、石綿との因果関係が必ずしも明確ではないとされているが、…便宜上他の疾患と一括して集計している」という意味不明の注釈がつき、石綿肺がんがどこに入るのかも明らかにされていないうえに、「その他」は集計せずに、「中皮腫」と「じん肺」だけを合計して公表するという代物である。

国土交通省は、「アスベストによる疾病者数(造船業についてだけ中皮腫の内数も報告)」のみの調査と、これまた別のフォーマットである。

はっきり言って、これで「みそぎ」を済ますというようなことになってはかなわない。しかも、開示された健康被害の情報は、退職者を含めた各企業の労働者に係るもので、ほとんどすべてがすでに労災認定を受けた事例に関するものである。マスコミでは新たに被害が明らかになったかのように報じられたが、過去の労災認定件数はすでにわかっていたことなので、そこに含まれない新たな被害が判明したわけではなく、既知の認定件数の一部について、どの企業で発生したものなのかが明かされていたわけである。

一方で、例えば大阪市では、大気汚染防止法や府の条例に基づいて石綿製品製造工場から届
け出られた書類のうち、廃業した工場分については内規で廃業届を受理後1年で廃棄していることや、「他の自治体も困惑」していることなども報じられていた(7月12日付け読売大阪朝刊)。

これらは、厚生労働省が持っている労災認定に関するデータを公表すれば一気にすんですまうば
かりでなく、そうした方が、おかしな病名分類ではなく中皮腫(大部分については原発部位による分類も可能)や石綿肺がん、その他の石綿関連疾患(良性石綿胸水・びまん性胸膜肥厚、また、じん肺の中から石綿肺を正確に選り分けるのは困難だろうが、他の石綿関連疾患の認定事例がある事業所におけるじん肺の件数はわかる)について、廃業等により現在はなくなってしまっている事業場の分も含めて、より正確かつ意味のある情報を提供することができる。

にもかかわらず、当の厚生労働省は、7月15日に都道府県労働局に対して、健康被害が発生したことがある事業場への立入調査等を指示していた。

健康被害を出しているのだから過去に問題があったことは確かであるのに、現時点の事業場を調査して、問題なしと安全宣言を出されてしまったら、かえってリスクコミュニケーションの妨げになると考えられた(事実、「過去も含めて法令に違反するような事実は確認されなかった」と報じられることによって、一部にそのような影響が生じたと思われる)。

労災認定データを公表

このような調査をするよりも、労災認定データを公表すべきだと機会あるごとに訴えたわけだが、厚生労働省はついに7月29日、最初の関係閣僚会合に合わせて、まずは1999~2004年度分の「石綿ばく露作業に係る労災認定事業場一覧表」を公表するに至った。
8月26日には、1998年度以前の分も公表した。

「公表の趣旨」は、以下のように説明されている。

「今回公表することとしたのは、石綿による健康障害について国民の不安が高まっている現状を踏まえるならば、現時点において

  1. 公表対象事業場でこれまで業務に従事したことがある方に対し、石綿ばく露作業に従事した可能性があることを注意喚起する
  2. 周辺住民の不安等の社会的関心が高まる中で『周辺住民』となるか否かの確認に役立ててもらう
  3. 関係省庁及び地方公共団体等における石綿被害対策の取組みに役立ててもらう

といったことができる有益な情報を広く国民に提供することが重要であり、本件一覧表は、そのための情報として欠くことができないものであると判断したためである。」

「公表する事業場情報」は、

  • 事業場を所轄する労働局及び労働基準監督署の名称
  • 事業場の名称
  • 石綿ばく露作業状況
  • 労災認定件数(肺がん、中皮種別)
  • 事業場における石綿取扱い期間
  • 現在の石綿取扱い状況
  • 特記事項

であった。

「公表対象事業場に関する留意事項」として、以下も示されている。

  • 公表対象となった事業場のうち、製造業の事業場は、通常その事業場は石綿作業場所と同一である。ただし、その事業場が、窯業又は土石製品製造業、船舶製造業等の構内下請け事業場である場合は、通常その事業場の所在地(事務所)と実際に石綿作業を行った場所(元方の事業場)とが異なり、公表対象となった事業場においては石綿作業が行われてないことに留意する必要がある。
  • 建設業の事業場の場合には、通常、その事業場の所在地(事務所)と異なる場所(現場)で石綿綿作業が行われており、公表対象となった事業場の所在地は、石綿の飛散のおそれのない場所であることに留意する必要がある。
  • 建設労働者の多くは、事業場を転々としながら多数の建設現場で就労する中で石綿作業に従事しており、とりわけ石綿作業においては、30年~40年もの潜伏期間の後に疾病が発症することから、最後に石綿作業に従事した現場を持つ事業場において労災認定を行うよう処理している。そのため、建設業の事業場については、実際の現場での石綿ばく露はごくわずかであったにもかかわらず、その現場を持つ事業場として公表対象となった事業場があることに留意する必要がある。


これによって、約1か月間大騒ぎしてきた企業による情報開示や経済産業省・国土交通省による調査はほとんど意味がなくなったとも言えるわけであるが、当初は、厚生労働省がここまで踏み切れるかどうかは正直予想がつかなかったことで、やはり企業による情報開示ラッシュのなかでの世論の高まりがこのような結果を導いたと考えるべきなのだろう。

私たちは、相談事例や都道府県別の労災認定データ等からどの企業で被害が発生しているかおよそのところは承知していたし、認定件数も既知の事実で一連の報道によってその数字が増えたわけではないと冷ややかに見ていた面もあるのだが、あとになって、国民は企業の中でこんなに多くの被害がでていたことが「隠されてきた」と感じ、「知らされてこなかった」こと自体にも怒っているのだと解説してくれる人がいて、そのとおりだと思った。

注)全国安全センターの石綿疾病労災認定事業場検索サイト

※厚生労働省による石綿疾患労災認定事業場の公表は、一時期の中断があったものの、現在まで継続している。石綿被害者にとって貴重な情報となっており、全国センターは厚生労働省の公表データを、検索可能なかたちにして以下に提供している。

石綿ばく露作業による労災認定等事業場一覧(全国労働安全衛生センター連絡会議)

経緯については、次などを参照されたい。
【石綿被害と情報公開 】 石綿疾患の処理経過簿の開示請求とその結果について

なお、厚労省の公表データ本体は次から入手出来る。

石綿ばく露作業による労災認定等事業場一覧表(平成30年度以前認定分)

石綿協会が情報開示

それにしても、ある企業で1件の労災認定事例があったという事実が明らかにされても、それが百人のうちの1人か、千人に1人か、どのようなアスベスト使用実態のもとで発生したのか等がわからなければ、「公表の趣旨」に鑑みても、不十分な情報にとどまっていると言わざるを得ない。

企業が自主的に情報を開示するのならば、また、国が調査をするのであれば、労災認定データに加えたそのような情報こそを開示・調査すべきである。クボタが住民被害者に開示した諸情報は、その際のモデルになり得る。すなわち、せめてクボタ並みの情報を開示せよということである。

前後するが、そういう思いで、石綿対策全国連絡会議は7月6日の時点で、(社)日本石綿協会に要請書を送り、話し合いの場を設定するよう求めた。

お互いに殺到する相談等に追われているなどの事情もあり、文書回答をもらったのが8月29日、話し合いが持たれたのは9月14日となってしまった(要請事項と回答参照)。
文書回答自体は非常にそっけないものだったが、話し合いの中で同協会は、加盟各社から報告
を受け協会で把握している過去の①作業環境測定、②工場敷地協会での石綿濃度測定、③PRTR
(環境線物質排出・移動登録)データの公表を約束した(もともと会社名を出さないということで報告してもらったものなので、早急に内部調整したうえでとのこと)。

また同協会は、石綿障害予防規則の施行に合わせて2005年4月に『既存建築物における石綿使
用の事前診断監理指針
』を発行、2,100円で販売してきた。これには、一般住宅や学校、工場等の建物の使用目的別に、石綿含有建材が使用されている可能性の高い/可能性のある施工部位と石綿含有建材の種類の一覧表や、石綿含有建材の商品名と製造時期の一覧表等が含まれている。

本来であれば国がこのような調査マニュアル等を整備すべきであるが、現時点では、建物に使われている石綿含有建材の調査をするのであれば少なくともこの『事前診断監理指針』からスタートするのがよいと、筆者自身考えている。これをPDFファイルでホームページに掲載し誰でも無償で入手・活用できるようにされたいと要請したのである。案に反して、文書回答では「財政が厳しい当協会としては…無償提供はできない」という回答であったが、話し合いを通じて、内容をさらに改訂したうえで無償提供に応じることとなった。

10月19日には、同協会のホームページに、「今般、この監理指針に記載された情報を、より多くの方に活用していただき、石綿による大気汚染、健康影響を未然に防止していただく事を目的として、その全文を協会ホームページ上で公開することを決定致しました。現在、全文公開に先立ち、改訂箇所の確認と校正を進めており、10月中には公開する予定です」という告知が出され、10月31日に約束どおりホームページ上で入手できるようになった。

部分的にではあっても、日本石綿協会が私たちの要請を容れて、より意味のある情報の開示を約
束したことを評価したい。ひとつの問題は、いまや協会の加盟会社が激減していて、過去に加盟していてアスベストの使用を中止したとたんに脱会している企業や協会未加入企業等は、いまだに素知らぬ顔をしたままだということである。

いずこの企業もいまだにクボタ並みの情報開示を果してはいないということを強調しておきたい。また、国が人手や時間を割くならば、過去に製造等されてきた石綿含有製品に関する包括的な情報のデータベース化を含めて、意味のある情報の把握と公表に努めるべきだと言い続けている。

石綿全国連の要請書では、労働者のアスベスト被害に対して上積み補償制度を確立するよう働き
かけるとともに、その内容を集約・公表するよう求めたのだが、7月19日に、日本板硝子の労使が各々、同社におけるアスベスト問題の状況と「じん肺及びアスベスト関連疾患に関する労使協定」を締結したことを発表している。退職者を含めた健康管理や上積み補償等の内容を労使で公表したことは画期的なことである。

安全センター情報2005年9・10月号(一部加筆)

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