アスベスト環境被害住民などの健康管理:試行調査から読影精度確保調査へ/検診モデル積極推進を放棄

古谷杉郎(石綿対策全国連絡会議(BANJAN)事務局長)

はじまりはアスベスト公害地域実態調査

2005年夏のクボタ・ショック後、アスベスト問題に関する関係閣僚会合がまとめた「アスベスト問題に係る総合対策」では、

  1. 「一般環境経由によるアスベスト曝露による健康リスクが高いと考えられる地域について、周辺住民に対する健康被害に関する実態調査」及び
  2. 「一般住民等の健康管理の促進」

が掲げられた。

1961年尼崎市・クボタ旧神崎工場航空写真:周辺住民と労働者に多数の被害が発生していたことが2005年6月に広く明らかになった(クボタショック)。

環境省は、石綿の健康影響に関する検討会を参集して、2005年度に「兵庫県における石綿の健康影響実態調査」を実施。

2006年度からは「健康リスク調査」として尼崎市、鳥栖市、大阪府泉南地域で実施され、2007年度に大阪府河内長野市、横浜市鶴見区、羽島市、奈良県、2009年度に北九州市門司区が追加された。

健康リスク調査は、第1次2006~09年度、第2次2010~14年度にかけて実施された。
しかし、前者の課題に関して、尼崎市については「疫学的解析調査」も行ったうえで、「市全域、特に小田地区等において対象期間内(1955~1974年)に居住していた者について、労働現場との関連以外の曝露による発症リスクが高くなっている可能性」を認めながら、それ以上の解明がなされなかった。

鳥栖市と大阪府泉南地域については、「尼崎市のような、曝露経路が特定できない者が相対的に多い地域を見出すことはできなかった」とされてしまっている。

こうして、「周辺住民に対する健康被害に関する実態調査」からその原因を特定する努力を放棄したまま、「一般住民等の健康管理」のあり方を検討するというかたちになってしまったのである。

一般住民などの健康管理のあり方検討へ(試行調査)参加自治体増加

2015年度からは、「石綿検診(仮称)の実施を見据え、モデルとなる事業を実施することを通じて、課題等について調査・検討を行うための「石綿ばく露者の健康管理に関する試行調査」を実施することとなり、検討会の名称も石綿ばく露者の健康管理に関する検討会に変えられた。

これには、健康リスク調査参加自治体に加えて、2015年度に大阪市、堺市、芦屋市、西宮市、2016年度に東大阪市、八尾市、加古川市、2017年度にさいたま市中央区及び大宮区、2019年度にさいたま市の他の区、東京都大田区、宝塚市が加わっている。

最終年度である2019年度終了を前に、2020年3月16日に令和元年度第2回石綿ばく露者の健康管理に関する検討会が開催されたが、新型コロナウイルスの影響でWEB会議であった。5月7日に「石綿ばく露者の健康管理に関する試行調査の主な結果及び今後の考え方について(最終とりまとめ)」が公表された。http://www.env.go.jp/air/asbestos/commi_hefc/index.html

独自検診モデル積極推進は放棄?

ここで示された「今後の石綿ばく露者の健康管理考え方」の内容は以下のとおりである。

  1. 石綿の大量曝露が推定される集団
    広範囲の胸膜プラーク等の所見、じん肺法上の第1型以上の線維化の所見を有する者→将来的に石綿関連疾患を発症する可能性が高いため、原則として専門医による個々の所見や症状に応じた経過観察の対象になると考えられ、集団を対象とした健康管理の枠組みの対象とはならない
  2. 石綿の曝露が推定される集団
    1.ほど明確な発症リスクは有しないが、職歴等や石綿関連所見の存在から一定の石綿曝露を受けた可能性が高いとみられる集団=①限局的な(広範囲ではない)胸膜プラークのみの所見を有する者や胸膜プラークに加えて軽度の間質性陰影を有する者など、②職歴等から相当量の石綿にばく露した可能性が高いと考えられる集団→毎年のCT検査を受けることは推奨されないが、健康管理の在り方を検討する上でのさらなる知見の収集が望ましい。追加的な検証を行っていくことが必要である。(筆者注:②で環境曝露を受けた可能性のある者は考慮されていない。)
  3. 石綿の曝露が不明な集団
    1.2.以外の者→石綿関連所見や石綿関連疾患の発見に特化した追加的な検診は設けず、また、所見を新たに見つけるためにCT検査を受けることは正当化できないが、結核検診や肺がん検診など、既存のエックス線検査の機会を捉えて、石綿関連疾患が発見できるよう、体制を整備していくことが考えられる

結果的として「今後必要な対策について」は、「公共政策として検診モデルを積極的に推進する根拠は弱い」と退け、「既存検診が一つの機会として活用されることを想定しつつ、当面、読影体制の整備については、国が支援していくことが望まれる」。
「具体的には、自治体が既存検診の画像を活用して石綿関連疾患の読影を行う場合、読影委員会等の機会を設けて専門家のサポートの下に実施することができるよう体制整備し、読影精度の確保のための知見の蓄積・普及を図ることが望まれる。また、石綿関連疾患の読影技術は、講習や経験のある医師からのフィードバック等を通じて一定程度の習得が可能であるため、既存検診にかかわる医師全般の読影技術の向上を図り、将来的には、既存検診の中で石綿関連疾患の読影も実施できるようにしていくことが期待される」とした。

石綿ばく露可能性高い集団への対策必要性は認める

また最後に「おわりに」として以下のように言う。

「令和2年度以降における健康管理対策によりさらなる知見の収集を行い、効果的・効率的な健康管理の在り方について具体的に示すことが望まれる。
特に、石綿ばく露の可能性がある集団については発症リスクが明らかではないものの一般集団と区別して扱う必要性があると考えられる一方で、その集団の範囲について明らかな基準が示されていない。この点について令和2年度以降の健康管理の在り方の検討の中で更なる知見を蓄積し、検討していく必要がある。さらに、石綿のばく露が推定される集団を分類する上で、職業歴や居住歴等の扱いについては更なる知見の蓄積を踏まえて柔軟に対応していく必要がある。
また、石綿関連疾患に関する読影精度確保のための知見の蓄積・普及の方法や国の支援の在り方などについても検討が必要である。」

これにより、「石綿ばく露者の健康管理に関する試行調査」は終了して、令和2年度からは「石綿読影の精度確保等調査事業」が行われることになった。稿末に、2019年度と2020年度の両予算案の環境省による説明を掲載した。

2020年度から「石綿読影の精度確保等調査事業」

「3.石綿の曝露が不明な集団」の対策として示された「石綿読影の精度に関する調査」と、「2.石綿の曝露が推定される集団」に係る課題として示されたことに関連した「有所見者の疾患の早期発見可能性に関する調査」が行われる模様である。

予算額自体は186百万円から167百万円へと、大幅削減とまでは言えない。環境省によると、新たな地方自治体の参加も可能であるという。

恒久的な健康管理制度を

しかし、もはや「石綿検診(仮称)」の実施は見据えられていない。また、2.3.に対して、「毎年のCT検査を受けることは推奨されない」または「CT検査を受けることは正当化できない」とされる。

「試行調査」が実施されてきた地域の関係者らは、昨年、「今後の考え方について(案)」が示されて以来、「胸部CT検査を軸とした現在のアスベスト検診を、恒久的な健康管理制度として継続すること」等を求めて環境省石綿健康被害対策室と話し合いを重ねてきた。
新型コロナウイルスの状況をみながら、最終とりまとめと令和2年以降の事業に関しても話をもつ予定である。

住民のための恒久的な健康管理制度の確立は、患者・家族、住民のみならず関係自治体の要望でもあったことを忘れてはならない。

中皮腫・アスベスト疾患・患者と家族の会と自治体から環境省への要望事項(2019年5月10日)

  1. 胸部CT検査を軸とした現在のアスベスト検診を、恒久的な健康管理制度として継続すること。
  2. 労働者のアスベスト検診と同じように、受検者について「健康管理手帳」を作成すること。
  3. 国による石綿のずさんな管理・放置の結果、現在の大きな被害を生み出していることから、検診実施に伴う費用負担は受検者・自治体には課さないこと。
  4. 「中間とりまとめ」(案平成31年3月)に言う「一般集団」を対象とした石綿の公的検診モデルとは、どのような事例を指しているのか。実例をあげてその内容を説明されたい。(私たちは聞き取りで発症のリスクを相当特定できると考えている。)
  5. 胸膜プラークと石綿関連疾患の「発症リスクを関連づける知見は十分ではない」としているが、知見を得るための研究は行なわれてきたのか。尼崎についての見解はどうか。

さいたま市、大阪市、堺市、八尾市、泉南市、阪南市、尼崎市、西宮市、芦屋市、加古川市、北九州市の担当部局長連名による 環境省宛要望事項 (2019年3月18日)

  • 試行調査に関する総括及び上記検査手法の変更[CT検査主体からの大幅変更]に至った根拠を明確に示すとともに、国においてもその内容を住民に十分に説明し、理解を得ること。
  • 健康管理制度の構築にあたっては石綿ばく露の可能性のある住民が無料で受診できること及び地方自治体の財源負担を伴わないものとすること
  • 新たな健康管理制度については、これまでの調査等の結果を踏まえて構築するとともに、住民が受診しやすいよう各地域の実情にあわせたものとすること。
  • 石綿ばく露者は一般の検診受診者等に比して石綿関連疾患に関するリスクが高いことから、新たな健康管理制度の枠組みの中で胸部CT検査など必要な検査を受診できる体制をつくること。
  • 仮に胸部X線検査を主体とした健康管理制度に至った場合、ばく露の聴取及び石綿関連読影の精度担保ができる手法を示すとともに、自治体においてその体制が整うまでの間、必要に応じて読影精度が担保される組織を構築すること。
  • 既存検診を活用する場合においては、円滑な連携のため、厚生労働省を通じて関係部局への協力依頼を行うこと。
202007p52

安全センター情報2020年7月号