クボタショック-アスベストショックの記録~弾けた時限爆弾アスベスト<7>石綿救済新法の攻防、被害者-尾辻大臣面談、100万人署名運動

古谷杉郎(全国労働安全衛生センター連絡会議/石綿対策全国連絡会議・事務局長)

環境リスクの考え方~緊急シンポ「石綿と環境ばく露」2005.8.28

8月28日にはアスベストセンターの主催で、「緊急シンポジウム『石綿と環境曝露』―現状と今後の対策」が開催された。シンポジストは以下のとおり。

「環境でのアスベスト曝露『リスクと広がり』」
 村山武彦氏(早稲田大学理工学部教授)
「工場からの環境曝露『クボタの相談から』」
 片岡明彦氏(関西労働者安全センター)
「改築時の環境曝露『文京区保育園事例』」
 内山巌雄氏(京都大学大学院工学研究科教授)
「吹きつけ建物の環境曝露『文房具店の事例』」
 名取雄司氏(ひらの亀戸ひまわり診療所)

片岡氏の報告は、本稿冒頭で紹介しているようなクボタ・ショックに至る経過が初めて公の場で報告されたものであり、また、車谷典男奈良県立医科大学衛生学教授を代表とする専門家調査グループによって進められている「クボタ旧神崎工場周辺に居住歴のある中皮腫患者の事例分析」の中間報告も行われている。

8月23日時点―55人の中皮腫事例(療養中8人(男性5人、女性3人)、死亡47人(男性29人、女性18人))の本人または家族に面接ができた時点で、基本的に職業歴がない人、曝露源はクボタしか考えられないという46人に限定して、その分布と2000年以降の死亡者数についてリスクを推定。その結果は、死亡リスクはクボタに近いほど高く、500メートル以内で全国平均の9.5倍、500~1,000メートルで4.7倍、1,000~1,500メートルで2.2倍という結果になった。聴き取り調査の結果では、アスベスト曝露の機会は自宅でよりも、「近所で遊んでいた」、「小中学校の登下校」に近くで寄り道したなどの話があった。これらの事例のおよそ3分の2は尼崎以外で死亡した方なので、いま尼崎市と環境省が進めている同市で保管している死亡個票(同市で亡くなった方)についての調査結果と付き合わせる必要があるという指摘がなされた。

村山武彦氏の報告は、大気汚染防止法で規制している特定粉じん発生施設届出工場・事業場の敷地境界におけるアスベスト粉じん濃度10繊維/リットルという基準の今日的な妥当性を検証しようとしたもの。

1989年に設定されたこの敷地境界基準は、1986年の世界保健機関(WHO)の環境保健クライテリア53等に基づいたものだが、この濃度レベルに一生涯曝露した場合の中皮腫・肺がんによる生涯死亡率は、その後1993年にアメリカの環境保護庁(EPA)によって2.3×10-³、2000年にはWHO Europeによって2.2~4×10-³(1,000人に2.24人が死亡)とリスク評価されている。

1リットル中0.1本の濃度レベルで、1.7×10-⁵くらいの生涯死亡率になる。1996年にわが国でも、生涯死亡率10-⁵(一生涯の曝露で10万人に1人が特定物質の曝露により死亡)を環境リスクの「当面の目標」にするという考え方が確立されている(「新たな知見をもとに改訂されるべきものであること」、「環境リスクのレベルは本来低減されるべきであり、この基準まで許容されると受け止められるべきではない」ともされている)。

1996年の時点では、法律で決まっている物質の基準については、環境リスクの新しい考え方を適用しないということとされてきたが、その妥当性も含めて基準を見直すべきではないかと提起した。

内山巌雄氏は、具体的な事例にかかわった経験を紹介。曝露評価を行ったところ最大で生涯発がんのリスクレベルが6.3×10-⁵くらいの園児もいたという結果が得られた。これは近年の東京の大気中のアスベスト濃度による生涯リスクにほぼ相当。

10-⁵を超える曝露量、しかもバックグラウンドが10-⁵で、さらに上乗せさせられたということになるので、子供たちを将来フォローしていこうという結論になり、現在、保護者の代表も含めた健康対策実施委員会が設置され、活動していることを紹介した。

内山氏は、「これから起こるかもしれない解体時のアスベストばく露というものはどうしても、行政が規則や条例、基準を作ったり、マニュアルを作ってもなかなか監視が行き届かない面があります。…ぜひとも真のリスクコミュニケーションの意味というのを理解していただきたいと思います」と訴えた。

名取雄司氏は、「吹き付けの石綿については、少なくとも人の居る部屋について早急な除去が必要。今まで中皮腫となると、アスベストの仕事はなかったかと聞いてきたわけですが、今後は建物についても問診で調べていくことが必要な時代になってきたということだ」と提起した。

非常に重要な内容の濃いシンポジウムを十分に紹介することはできないが、アスベストセンターのホームページに紹介されているので、ぜひ参考にしていただきたい。

片岡明彦さん(左)と村山武彦さん(2005年8月28日・緊急シンポジウム)

まだあった石綿製品

9月11日の総選挙は、自民党圧勝という結果に終わったが、その前後に、過去の調査から漏れていたアスベスト含有製品が今なお市場に出回っていることが次々と明らかになった。

9月7日、ブリヂストンサイクル株式会社は、同社が販売している自転車のブレーキに法令違反のアスベストが含有されている疑いがあることを公表。経済産業省は、現在販売している該当の自転車について代替品との交換を行うことを含め、万全の措置を講じるよう指示したと発表した。

9月12日には経済産業省が、「アスベストを含有する家庭用品の実態把握調査」の結果を公表。「124社521製品の製造等の実績が報告され、ご少数の例外を除き、通常の使用時に石綿の環境への放出の可能性はないとの回答を受けた。このうち、2005年8月末現在も製造等が行われている石綿含有の家庭用品は19製品あることが分かったが、代替化をすみやかに実施すると確認している」とした。

翌13日には環境省が、「アスベスト含有家庭用品を処理する際の留意すべき事項について」、各都道府県一般廃棄物行政主管部長宛てに通知している。

14日には厚生労働省が、「石綿含有製品を製造し又は取り扱っている事業場に対する監督指導等の結果」を公表。ジョイントシート、ガスケット等の石綿含有製品の加工事業場48、グランドパッキン、ジョイントシート等の製造事業場33、自動車・鉄道車両の整備等事業場16、産業廃棄物処理等のその他の事業場27の合計124事業場を監督したところ、石綿障害予防規則違反が認められたもの57事業場(違反率46.0%)。

違反内容をみると、石綿健康診断に関するものが30件(24.2%)と最も多く、次いで呼吸用保護具の備付け及び使用に関するものが26件(21.0%)、作業環境測定に関するものが25件(20.2%)となっている。

17日には、セメダイン株式会社は、同社が販売している接着剤の一部に法令違反のアスベストが含まれていることを、社告掲載するとともに、製品の製造と出荷を即刻全面的に停止し、購入者に対して商品代金を支払うことなどを公表。

20日には厚生労働省が都道府県労働局長宛てに、「石綿を含有する建材、摩擦材、接着剤及びこれらを使用する製品の製造、輸入、譲渡、提供又は使用の禁止等について」及び「石綿を使用している製品の代替化の促進について」通知。

また、厚生労働省と経済産業省で実施した「石綿含有部品を使用する自転車及び自転車用ブレーキの輸入販売の実態に係る調査結果(第1回報告)」も公表している。

2004年10月1日から施行された労働安全衛生法施行令による「原則禁止」は、条文上は10種類のアスベスト含有製品のみの禁止でしかない。

政令改正に至るプロセス―国=主に厚生労働省と経済産業省が、市場にあるアスベスト製品をすべて洗い出して製品種類別に分類し、「3種類のアスベスト含有製品を除くすべて」を禁止することにしたという経過があるから、「原則禁止」と言っていたわけである。

この調査から漏れていた石綿含有製品に関する情報を経済産業省が自己批判なしに公表し、マスコミも批判をしないことには憤りさえ感じた。

経済産業省も厚生労働省も、過去の調査の不十分さを自己批判し、調査漏れが生じた原因を徹底的に解明・公表するか、もしくは、これまで「原則禁止」と言ってきたのは実は「嘘」でしたと自己批判するか、どちらかしかないと考えるのだがいかがだろうか。

さらに9月27日に経済産業省は、アスベスト含有製品を部品として用いた製品の輸入を規制するため、外国為替及び外国貿易法に基づく告示(輸入公表)を改正、即日公布、施行した。経済産業省は以下のとおり説明している。

「先般、労働安全衛生法で禁止しているアスベスト含有製品を用いた疑いのある自転車が輸入されていたことが判明したため、今般、厚生労働省とも協議した結果、外国為替及び外国貿易法に基づく告示を改正し、アスベスト含有製品(例:ブレーキライニング)を部品として用いた製品(例:自転車)についても経済産業大臣の承認を得なければ輸入することができないこととし、輸入禁止措置を講じることとしました」。

経済産業省はこれまで、アスベスト禁止のためにイニシアティブをとるようにという私たちの要請に対して、「経済産業省は禁止する手段を持っていない」と言い続けてきた。これまた、「嘘」を言い続けてきたことを認めて自己批判すべきである。

法律による迅速な全面禁の必要性と、縦割り行政の弊害を打ち砕くための体制と法的枠組み―アスベスト対策基本法の必要性を痛感させる展開でもあった。

被害者救済新法

一方で、「9月までに具体的な結論を得る」とされた新法による被害者救済の内容が、マスコミ等を通じて漏れてくるようになってきた。

最初の報道は9月10日の朝日ではなかったかと思うのだが、「本来労災の適用対象者だったにもかかわらず、申請の期限が切れ『時効』になった労働者の遺族らに対して、労災が適用された際の遺族年金と同程度の給付額にする方向で調整」、「本来労災対象ではない建設業などの一人親方や個人事業主のほか、工場従業員の家族や地域住民には一時金などを支払うことで検討を進めている」。「ただ、対象とする住民を工場からどこまでの範囲にするかという地域の限定や認定基準など具体的な内容は、今後詰める。対象者の認定作業も、労働基準監督署が担当するか市町村なのかなど、具体的な窓口は検討中」。「給付内容については、『特定障害者給付金支給法』の制度を参考に検討。国民年金に未加入だったため、障害基礎年金を受け取れない無年金障害者を救済するための同法と同様に福祉的措置として、労災保険制度とは別枠で被害者対策を図ることにした」などと報じられた。

13日の日経は、「明確に石綿が原因ではない場合を除き、中皮腫は原則として救済の対象とする。肺がんについては現行の労災認定基準を参考にして石綿吸引との因果関係を認定したうえで救済する」という内容も伝えている。

16日読売―「労災関連では、死亡後5年以上が経過し、労災申請ができない労働者の遺族に対し、一時金や年金を給付するなど労災補償と同水準の救済を実施」、「現状では救済する手だてのない従業員の家族や、アスベストを扱う仕事などの経験がなく、どこでアスベストを吸い込んだのかがはっきりしない人については治療費のほか、死亡時には数百万円の一時金を給付」、「アスベストを扱う工場周辺の住民など健康被害の原因がある程度特定できるケースでは、現行の公害紛争調停機関である公害等調整委員会を活用するなど、当事者同士で迅速な解決策を図れるよう仕組みを整える」、「救済対象者の範囲には、アスベストとの関係が極めて強いとされる中皮腫は原則全員救済し、肺がんやじん肺などについては今後、専門家らの意見を聞いて検討する」等。

22日朝日―「早ければ2006年秋にも申請受け付けを開始…環境省所管の独立行政法人「環境再生保全機構」(川崎市)に預ける」、「対象になる人や居住地域の制限を設けないことで、『すき間のない対策』を目指す」、「認定は、専門の医師が、石綿に触れたことがあるかなどの生活歴も加味したうえで実施する。認定基準は今後詰める。棄却された人は、公害健康被害補償不服審査会に申し立てることができる」。

23日毎日―「政府は今後10年間は患者が増え続けるが、規制強化で2015年ごろには減少に転じると予想。『被害者は10万人を下回る』(環境省幹部)とみて基金の規模を詰めている」。

24日産経―「中皮腫を発症した患者には、居住地や職業歴にかかわらず、医療費の自己負担分や療養手当の給付」、「死亡した被害者の家族には、一時金、葬祭料」、「労災申請の時効(死亡後5年)を超えて中皮腫などアスベスト関連疾患で亡くなった元労働者については、従来の労災の枠組みで補償する方針」。

緊急の意見表明

正直にいって、情報を小出しにしながら反応を見て内容を考えているかのような印象を受けたし、また、住民等の被害者に対しては、すでにクボタ等が支払っている見舞金・弔慰金の肩代わりと医療費の自己負担分程度ですませようとする可能性すら感じさせた。

そこで9月14日、午前中に(社)日本石綿協会の話し合いを行い、午後記者会見でその報告をした後に持った石綿対策全国連の運営委員会において、緊急の意見表明をすべきだという話が決まった。翌15日、石綿対策全国連は、7項目の「アスベスト新法に対する緊急の意見表明」をマスコミ発表するとともに、首相及び各政党に届けた。

石綿全国連・緊急の意見表明

私たちは、伝えられるような内容の被害者救済のための新法のみで、不十分な法制度の改革の幕引きがなされるような事態を看過するわけにはいきません。昨日、記者会見後に開催した運営委員会において、このような状況を踏まえて緊急に以下の見解を表明することを決定いたしました。

  1. 労災補償の対象でない周辺住民や労働者の家族、一人親方や個人事業主などのアスベスト被害者およびその家族に対する補償を―すでにクボタ、関西スレート、ニチアスが住民被害者に対して支払ったような見舞金を新法で肩代わりするかのような―一時金で済ますのでは、到底「補償」制度とも呼べず、断固反対します。それらのアスベスト被害者に対して、治療費はもとより労災補償に準じた所得・遺族補償等がなされるべきです。
  2. 「時効」のために労災補償が受けられなかったアスベスト被害者に係る補償を、労災が適用された際の遺族年金と同程度の給付額に限定することに、断固反対します。本来受けられた労災補償を受けられるよう、時効を適用しないようにする法的措置がとられるべきです。
  3. 中皮腫の事例については、労災補償または新法による補償制度いずれかの対象とされるべきです(アスベスト曝露によるものでない事例を除くことはありえますが、そのことを科学的に立証することはほとんど不可能であろうと考えられます)。
  4. すでに死亡してしまっている中皮腫患者の事例等について、実施不可能な追加検査等、理不尽な負担を遺族等に負わせて、補償を遅らせたり、補償を受けられなくなるようなことがないよう、そのような場合には、死亡診断書記載の主治医の診断名を尊重するなどの原則を明確にすべきです。
  5. アスベスト関連肺がん、その他のアスベスト関連疾患についても、労災補償の取り扱いに準じて、新法による補償制度の対象とされるべきです。
  6. 青石綿(クロシドライト)が使用されていた時期にアスベストに曝露したと推定される者に限るなどの時期指定や、特定のアスベスト関連工場周辺住民に限る等の地域指定など、補償にあたって限定条件をつけるべきではありません。
  7. 新規立法による対応が必要な課題は、上述のような被害者の補償の問題に限るものではありません。とりわけ、私たちの身のまわりに残されている既存アスベストの把握・管理・除去・廃棄等を通じた首尾一貫した対策の確立は、現行の複数の法律が関係しながら整合性を欠く面も少なくなく、また、いずれにもカバーされない(縦割り行政の隙間に埋もれる)課題も多いため、新規立法による対応が不可欠であると考えています。そのような内容を含めた、アスベスト対策基本法を制定すべきです。

救済の基本的枠組み

9月29日、第3回目のアスベスト問題に関する関係閣僚会合が開かれ、「アスベスト問題への当面の対応(再改訂)」が示された。

再改訂版「アスベスト問題への当面の対応」の本文は13頁で改訂版より3頁増え、3つの別紙―「アスベストによる健康被害に関する実態把握について(概要)」、「石綿による健康被害の救済に関する基本的枠組み」及び「政府の過去の対応の検証について(補足)」(本文及び厚生労働省の「追加」、環境省の「精査報告」、連絡会議(「有害化学物質からの安全性確保のための仕組み」を示した図))、アスベスト対策関係予算要求一覧も附属している。

「新たな対策」と言えそうなもので、追加されたのは以下のとおり。

  • 「循環型社会形成推進交付金」を活用して、アスベストを含有する家庭用品の溶融処理など安全かつ高度な処理施設を整備する。
  • アスベストを含有する家庭用品等のより適正な処理方法や処理システムのあり方について、早急に検討する。
  • 不特定多数の者が利用する既存の民間建築物のアスベスト対策に関する支援を検討。
  • 9月27日、労働安全衛生法で輸入が禁止されているアスベスト含有製品を部品として用いた製品について、輸入規制に万全を期すため、輸入貿易管理令に基づく輸入公表を改正し、即日施行した。

逆に、「解体作業の発生箇所等情報が、環境保全部門に確実に伝達される方策について引き続き検討する。(9月までに検討)」は、消されてしまった。

注目の「労災補償を受けずに死亡した労働者、家族及び周辺住民の被害への対応については、救済のための新たな法的措置を、『石綿による健康被害の救済に関する基本的枠組み』(別紙2)のとおり講ずることとする。給付水準、費用負担その他の具体的内容については、次期通常国会への法案の提出に向けて、厚生労働省及び環境省を中心に、被害の実態把握を進めつつ、引き続き検討する。(厚生労働省、環境省等)」とされた。

石綿による健康被害の救済に関する基本的枠組み

  1. 目的
    石綿による健康被害者を隙間なく救済する仕組みを構築する。
  2. 対象者及び対象疾病
    医学的な知見に基づいて、以下について検討する。
    (1) 対象者
     対象疾病に罹患した者及びその遺族(労災補償の対象者を除く。)
    (2) 対象疾病
     ① 石綿を原因とする中皮腫
     ② 石綿を原因とする肺がん
    (3) 認定基準
     石綿を原因とする疾病であることを証明する医学的所見があること
  3. 給付金内容
    他の救済制度とのバランスにも配慮しつつ、次のような給付について検討する。
     ① 医療費の支給(自己負担分)
     ② 療養手当(生活支援的な月々の手当)
     ③ 遺族一時金
     ④ 葬祭料
  4. 給付金の財源
    石綿による健康被害に関係する事業者に費用負担を求めることとし、負担を求める事業者の範囲等を検討する。また、救済のための基金の創設やその場合の公費負担のあり方について検討する。
  5. 救済措置の実施主体
     ① 独立行政法人環境再生保全機構の活用を検討する。
     ② 申請窓口については、全国に整備されることが望ましいので、例えば保健所などを念頭に適切な窓口について検討する。
     ③ 認定に係る不服審査については、公害健康被害補償不服審査会の活用を検討する。
  6. 労災補償を受けずに死亡した労働者の特例
    労災補償を受けずに死亡した労働者(時効により労災補償を受けられない者)については、労災補償に準じた措置を講ずる。
  7. 被害者と原因者の間の紛争の円滑な解決のための仕組みを検討する。

患者・家族の声を聞け

9月15日の石綿全国連の「アスベスト新法に対する緊急の意見表明」の内容を変更する必要性は、この文章からはあまりうかがわれない。

はっきり言えることは、この文章に書かれた内容では新法による被害者救済はきわめて不十分なものにならざるを得ないこと。

もうひとつは、文章に書かれていない内容がマスコミや政党に流されており、政策決定のプロセスがきわめて不透明になっているということだ。当事者である患者や家族の意見を一度も聞くことなく、被害者救済新法の内容が決められていくことは到底容認しがたい。

10月7日、アスベストセンターと患者と家族の会は連名で、内閣総理大臣、環境大臣、厚生労働大臣、その他関連所管大臣宛てに、以下のような「石綿(アスベスト)問題に関する質問及び要望書」を提出し、関係省庁との交渉の場を設けるよう求めた。これは11月9日、内閣府内の会議室で行われる予定になっている。

  1. 省庁が互いの縄張りを侵さないことを前提に施策を考えると、今後の石綿(アスベスト)問題の解決はありえません。アスベスト問題の解決のための総合的かつ一本化された担当部署を作ってください。
  2. 私たち、中皮腫・アスベスト疾患・患者と家族の会、中皮腫・じん肺・アスベストセンターは、石綿
    (アスベスト)の問題が解決するまで、総合的かつ一本化された担当部署との話し合いを続けたいと思います。そのことをご了承いただきたいと思います。
  3. 厚生労働省は、石綿関連疾患の診断と治療に、全力をあげて取り組んで下さい。犠牲者10万人とさえ言われる人の生命を思うと、重大かつ緊急課題であるといわざるを得ません。そこで、ベメトレキセド(アリムタ)の審査期間をHIV療薬並みに短縮し、一日でも早い承認を望みます。
  4. 検討されている「救済制度」について要望します。
    ① 中皮腫の原因に関わりなく、全ての中皮腫患者を等しく救済してください。
    ② 救済制度では、因果関係を問うことなく、中皮腫であることは、イコール、アスベスト曝露による被害者であることを認めてください。
    ③ 労働災害によるアスベスト曝露被害者の内、中皮腫の被害者には、半永久的に時効を凍結してください。
    ④ 中皮腫という診断が下された患者の医療情報について、現在各医療機関の手元にある医療情報は、最終診療から5年の保管義務規定をさらに延長し、今後20年程度の保管義務を課してください。
  5. NCIのように、厚生労働省内にがん生存者対策室をつくり、患者の生活の質やケアを考える部署を設置して下さい。また、がん患者情報センターを是非つくって下さい。
  6. 文部科学省は、学校等所管の建物内のあらゆる吹き付け石綿(アスベスト)等について、自治体からの情報を集約し、過去の情報をすべて開示してください。石綿(アスベスト)の濃度測定にあたっては、窓を閉めて日常活動が行われている際の条件での測定を必ず行うようにしてください。
  7. 国土交通省は、吹き付け石綿(アスベスト)のあらゆる種類について、業者からの詳細な吹き付けの実態調査、吹き付け量の年代と把握、様々な建物内の石綿(アスベスト)濃度測定を行ってください。全ての建物について一切規模要件のない調査を実施してください。調査の結果を踏まえ、様々な建物の吹き付け石綿(アスベスト)について、危険度に応じた除去時期を明確にした法改正を実施してください。
    今後生じる建物による被災者には、労災補償同等の保障を実施してください。
  8. 環境省は、大気汚染防止法を改正し、石綿(アスベスト)工場の敷地境界基準ではなく、石綿(アスベスト)の環境基準をさだめてください。
  9. 経済産業省窯業建材課は、石綿(アスベスト)関連企業の石綿(アスベスト)関連商品及び代替化に関する全情報を公開されたい。
  10. 吹き付けアスベストの調査を本年中に改善し、全省庁共通のマニュアルを作成し、来年度以降充実した調査を実施していただききたい。
    吹き付け石綿(アスベスト)等には多数の種類がありますが、実態調査と事前の濃度測定がなされない中で、省庁でばらついた通達による調査が、調査員の十分な研修と理解が保障されない中で実施されてしまいました。
    今年の調査は対策の始まりで、来年度にむけて、本年度中に吹き付け石綿(アスベスト)実態調査を実施し、成分分析と石綿(アスベスト)濃度測定を実施する。
    全省庁共通の吹き付け石綿(アスベスト)実態調査マニュアルを作成、来年度のある時期か調査員研修を実施、石綿(アスベスト)の分析機関の確保し、調査員の人数と研修が終了したところで、建築基準法改正等の進行を考慮しつつ、来年度、国、自治体、民間の規模要件をとわない石綿(アスベスト)調査を実施する。
  11. アスベスト濃度測定を十分実施することで、国民の不安を解消してください。
    石綿(アスベスト)関連疾患のリスクは、吸入濃度と吸入時間と吸入後から現在までの時間により決定されます。建物の改築・解体現場(厚生労働省)、建物内の他の箇所(国土交通省・文部科学省・その他)、大気(環境省)が連携した石綿(アスベスト)濃度分析を、今後数年間かけて実施する。様々な飛散防止対策に応じた条件で、測定を繰り返しモニターを持続する。
    石綿(アスベスト)含有建材の中でも、経年劣化が指摘されている建材、波型スレートやを多くの国民が不安を感じる石綿(アスベスト)製品をアンケート調査し、信頼できる分析機関により、信頼できる複数の動作および使用条件での、石綿(アスベスト)濃度測定を実施する。

労災と新法は表裏一体

10月8日、NHKは、土曜日の夜7時半から10時半まで間に15分のニュースをはさみながら3時間、生放送でNHKスペシャル「アスベスト 不安にどう向き合うか」を放映した。スタジオには、名取雄司アスベストセンター代表、福田道夫(社)日本石綿協会専務理事、東敏昭産業医科大学教授、村山武彦早稲田大学教授らとともに筆者も参加、患者と家族の会のメンバーが集まった尼崎の会場とも中継で結ばれた。後半からはスタジオに小池百合子環境大臣ほかと、鹿児島の尾辻秀久厚生労働大臣も中継で加わった。

様々な問題が取り上げられたが、とくに新法について筆者が強調したかったのは、まず、被害者の救済は新法による新しい仕組みと既存の労災補償がの双方によって実現されるものであって、新法による救済の内容だけに関心が向けられているが、労災補償の側の改善も必要になるということ。

アスベスト以外の原因はほとんど考えられない中皮腫については、その80%(男性の90%、女性の25%)は職業曝露によるものと考えられている。このなかには補償制度のない自営業者等も含まれることを考慮しても、中皮腫の70%程度は、本来労災補償制度で補償されなければならないし、補償できると思う。

しかし実態は、労災保険による補償がようやく1割を超えたところでしかない。被害者や遺族に余計な医学的立証責任など負わせずに、中皮腫は原則として、労災補償制度または新法による制度のいずれかでカバーされる、という原則を確立する必要がある。

また、中皮腫の2倍(1.6倍とか5~6倍(全肺がんの約1割)などという数字もある)と言われるアスベストによる肺がんの、現実の労災認定の状況は中皮腫の0.7倍程度の水準にとどまっている。アスベストによる肺がんが確実に補償されるようにするための具体的な仕組みが必要である。

さらに、補償だけでなくアスベスト曝露者の健康管理や全面禁止、既存アスベストの把握・管理・除去・廃棄等を通じた一貫した総合対策を推進するためにも、アスベスト対策基本法といった枠組みをつくる必要を忘れてはならない。

小池大臣に、「例えば30年かけて『ノンアスベスト社会』を実現する、といった目標を掲げてはどうか」と振ってみたのだが、残念ながら応答は得られず。放映後に、前述した、環境省で「(2025年頃における望ましい社会像を見据えた)戦略プログラムの策定」が議論されていることを知り、これと絡めてもっと強く言っておくべきだったと反省しきり。

この前後から漏れ伝わることになるのだが、新法の財源負担の問題もあって、環境省では、新法による給付対象者数と費用負担総額の推計が行われていたようである。

世界アスベスト会議にも参加したフィンランド国立労働衛生研究所(FIOH)のアンティ・トサバイネン博士の2004年の論文「アスベストの世界的使用と中皮腫の発症率」に依って、中皮腫の発症件数を予測。この論文は、11の工業国の最近の中皮腫発症数と各国の22~30年前のアスベスト使用量を比較すると、きれいな直線関係が認められ、平均すると約170トンのアスベスト使用につき中皮腫1件という関係が得られたというもの。

さらに過去の労災認定事例の平均潜伏期間から、36年前の日本の輸入量に1人/170トンを掛けて中皮腫発症数を計算。発症後2年後に死亡すると仮定して死亡者数を予測。人口動態統計の死亡者数データが使える年についてはそちらを使うこととして、1966~2042年の中皮腫死亡者数を約6万人(過去の累計が約1万人、今後5万人)と推計。

石綿関連肺がんについては、過去の労災認定実績(中皮腫×0.7)とイギリスのデータ(中皮腫×1.6)の2つのシナリオが用意された模様できる(肺がん約4万2千人または9万7千人、中皮腫との合計は10万2千人または15万7千人となる)。

実はこれらのデータ自体は、国際労働機関(ILO)や国際自由労連(ICFTU)等が、「現在世界でアスベストだけで毎年10万人が殺されている」と言うときの根拠にも使われている(安全センター情報2005年6月号16-17頁参照)。ただし、各国における逐年ごとの発症数予測やそれを積み重ねて将来予測をするのに使われた例は聞いたことがない。

環境省は、本稿執筆の時点に至るまで、この推計の上に、既存の労災補償制度と新法による救済制度が5割ずつカバーすると仮定して、費用負担総額を試算しているようである。

このように話が具体的になってくると、5割どころか1割前後しかカバーできていない労災補償制度が今のままでよいのか。新法が労災と異なる認定基準(例えば、胸膜肥厚斑や石綿小体等の医学的要件なしに中皮腫の診断だけ)で救済することになったら、一昨年改正したばかりの労災認定基準が問題にされるのではないか。あるいは、法規制等が整備されていった1970年代後半以降の使用による発症はもっと少なく見積もるべきではないか…等々といった議論が出ても不思議ではない。

わかりやすく言えば、既存の労災補償制度の側(厚生労働省等)にも火の粉が降りかかってくるわけで、新法による救済は環境省の管轄だからと他人事で済ますわけにはいかなくなってきたわけである。環境省からすれば、労災が機能すればするほど、新法の負担が少なくすむという関係になる。

もちろん、給付内容と給付水準によっても費用総額は変動するし、それを誰がどのように負担するかが、財源論の根本的な課題である。

尾辻厚生労働大臣、患者と面談

NHKスペシャルの後、尼崎の中継会場から新薬・治療法の開発、心のケア、通院費(移送費)の全額支給等を訴えた中皮腫患者・中村實寛さんに、尾辻秀久厚生労働大臣から会いたいという連絡があった。

尼崎の中継会場から訴える中村實寛さん(10月8日 NHKスペシャル)

急遽、10月16日に大阪労働局において、中村實寛さん、古川和子さん、片岡明彦さんと尾辻大臣との1時間強の面談が実現した。関係閣僚として初めて患者・家族の声を直接聞いた尾辻大臣は、よく話を理解してくれたようである。

新薬については、「すでに抗がん剤を使っている人も、治験に参加できるといった方策も検討したい」、治療法の開発も「一生懸命やる」、相談窓口の整備も「経験のあるNPOなどみなさんのような人の協力を得ていくことを考える」(かなり積極的に見えたとのこと)、通院費についても、「中皮腫は専門医のいる病院は限られている。4キロ超えても、専門医のいる病院、あるいは、患者の納得できる病院への通院費を認める方向で前向きに検討する」などの回答があったという。

前日15日の与党アスベスト対策プロジェクトチームで、「中皮腫であることが確認されたすべての人(既に死亡した人を含む)を救済の対象とすることを決めた(ただし、原因が明らかに石綿以外にあることが証明された稀な例は除く)」こともあるにせよ、「中皮腫は全部救済する」、「疑わしきは救済」、「胸膜プラークがどうこうと言わない」と、労災認定の方から先行して改善する方向を打ち出した。

「病理診断がないケースの問題はよくわかった。(前向きに)真剣に検討する」とも言った。さらに、「労災時効について全面救済にならない、ということはしっかり記憶した。前に、私が全部救済するんですね、と事務方に言ったときに、『いえ、少しちがうのです』という説明を受けていたんだが、今日の説明を聞いて、このことだったのかとはっきりわかった。しっかり検討して、必ず結論を出します」と前向きに取り組むことを約束した、と受け止めていい発言であったという。

10月18日の閣議後記者会見でのやりとりを紹介しておきたい。新大臣に引き継がれなくては困る。

(記者) 日曜日に、大阪でアスベストの患者団体の患者さんと会われたそうなんですけれども、ここでの発言として、中皮腫がアスベストが原因であることの証明を厳密に求めずに救済をするというような趣旨のご発言をなさっているんですけれども、それは現在の労災認定基準についても併せて見直しをすると、現在の労災認定基準についても併せて検討指示されたというような認識でよろしいでしょうか。

(大臣) はい、そのとおりであります。

(記者) それは実際に、その部分を早めてというか、新法と併せていうか、どういう形になるんでしょうか。

(大臣) 現行は、まず中皮腫の診断をいたします。これが、まず最初の段階です。それから次に、石綿ばく露の医学的所見、これがよく言われるプラークがあるとかないとかいったようなことを調べるということであります。それから、3番目に1年以上の石綿ばく露作業歴があるか。この3段階で認定の作業をしておりますけれども、この今申し上げたうちの2を、いわば省こうということであります。結局、プラークを取り出して検査してといったようなことを今言っているわけでありますが、それは大変苦痛を伴うことでありますので、そういうことをせずに基本的に中皮腫というのは、アスベストが原因だというふうに考えて見てあげるのがいいと私は思っており、そういうことを考えております。ただ、やはりちゃんとそうするためには、専門家による検討会というのがこういう場合必ず必要でございますから、もう直ちにこの専門家による検討会を立ち上げるように指示をいたしました。専門家のご意見をちゃんと伺って、その結論を経てということになりますけれども、私の思いは申し上げたとおりでありまして、是非専門家の皆さんに検討をしっかりしていただいて早く結論を出していただきたいと思っております。検討会の立ち上げは既に指示をいたしております。

(記者) そして検討会の結果で、認定基準の見直しをということですか。

(大臣) そうです。ですから先ほど申し上げたのは、私の思いを申し上げたのでありまして、検討会の結果を待つということはそのとおりであります。

(記者) それと同じことなんですけれども、認定基準については平成15年9月に石綿による疾病の認定基準についてという通達が出ているんですが、この通達を変更するために検討会を立ち上げられるという認識でよろしいでしょうか。

(大臣) そういうことであります。

(記者)今の認定基準で、厳密な証明が出来ないために認定をされなかった過去の方々もいらっしゃると思うんですが、その方達についてはどうされるのか、というお考えもどうでしょうか。

(大臣) 併せて検討したいというふうに思います。

(記者) 大臣として早く結論をとおっしゃいましたが、時期的に年内とか。

(大臣) 私の思いからしますと、明日にでも結論を出してほしいと思っておるんですが、専門家の皆さんにお集まりいただいて検討していただくというとで「急いでください」というお願いをひたすらいたします。ただ今いつまでとかいつ頃に結論出るでしょうということは申し上げられませんのでお許しいただきたいと思います。

(記者)患者さんとの話し合いの中で交通費と抗がん剤の話、2つ出たと思うんですけれども、具体的にこれをどういうふうに進めて、いつ頃からとか時期的なものとかということをお聞かせ下さい。

(大臣) 交通費について言いますと、労災の一般的な交通費の出し方というのは、「最寄りの病院に行ってくださいね」ということになっております。ただ、一般の疾病でしたら「最寄りの病院に行ってくださいね」でいいんですが、こと中皮腫になりますと「最寄りの病院に行ってください」というわけにはいきません。そのことを患者さん方は言っておられており、常識的な範囲で患者さん方の納得なさる病院に行っていただくというのが一番良いと思っておりますから、最寄りの病院という解釈を中皮腫に限ってはそのようにしたいと思っておりまして、これは直ちにやります。直ちに交通費を払うという形にいたします。

(記者)今の現行の制度の運用の中でいうことでしょうか。

(大臣) そうです、いわば解釈でありますから直ちにやれますので、これはそれこそ明日からでもやります。それから薬の方の話なんですが、これはアリムタという中皮腫に効くと言われている薬があります。これは、今治験の段階であります。治験の段階でありますから、手順から言いますと申請が出てきたら、とにかく急いでそれに対して審査しますということでございます。ただ患者さん方のお話の中にありますのは、今治験の段階なんだけれども、ぜひ自分も使いたいと思う患者さんがいる。ところが他の抗がん剤を使っております
と、他の抗がん剤も使っておられるので、どっちが効いたかよく分からなくなる。従って他の抗がん剤を使っている人がなかなか治験の対象になりづらいというようなことで、もうしかしそんなことを言っておれないから、是非使いたいんだと、こんなお話であります。そこはどうするかなということですが、できるだけ私も前向きにこのことも考えたいと思いまして、今、関係企業、要するに治験をやっているところなどと「そんなことを言わずにやってほしい」という話をしておるわけであります。ただ一方で非常に副作用も強い薬なので
安全には極めて注意が必要であるということも専門家の皆さん方のご意見でありますから、その安全を確保するということと、できるだけ前向きに使っていただくということ、これ大変難しい話なんですが、ここのバランスを取りながら、是非患者さん方のお気持ちには答えなければならないと思っておりますので、そのようにしたいと考えておるところであります。

新法による給付内容

一方の救済新法の内容については、大詰めを迎えながら、調整が続けられている模様である。

本稿執筆時点で明らかにされている最新の状況では、10月28日午後、与党アスベスト対策プロジェクトチームが首相官邸を訪れて午前の会合でまとめた要望を細田官房長官に申し入れている。
申し入れの内容は、以下のとおり。

石綿による健康被害の救済新法について

石綿による健康被害の救済のための新たな法制度の立案に当たっては、政府は迅速で隙間のない救済を図ることとし、以下の事項に配慮した法案を速やかに次期通常国会に可能な限り速やかに提出すべきであるので、この旨申し入れる。

  1. 対象者及び対象疾病
    対象疾病は、石綿を原因とする中皮腫及び肺がんとし、それぞれ以下のような考え方で対象者を認定する。
    (1) 中皮腫
    ○ 制度施行前に死亡した被害者の場合、死亡診断書等により中皮腫であることが確認できれば救済する。
    ○ 制度施行後についても、中皮腫であるとの確定診断があれば救済する。
    (2) 肺がん
    ○ 肺がんが石綿に起因することを示す一定の医学的所見(例えば、胸膜肥厚斑や石綿小体)を認定要件として救済する。
  2. 給付金内容
    他の救済制度とのバランスにも配慮し、医療費、療養手当、遺族一時金、葬祭料等を含め具体的内容を政府内で早急に結論を得ることとする。
    ※制度施行前に発症し、制度施行後に死亡した被害者との間の給付の不均衡を是正するための措置を検討すべきである。
  3. 給付金の財源
    (1) 事業者、国等の費用負担による基金を独立行政法人環境再生保全機構に創設。
    (2) 事業者に負担を求めるに際しては中小企業に配慮する。
    (3) 制度の早急かつ安定的な立ち上げの観点から、国は平成17年度中に基金を拠出する。
  4. 救済措置の実施主体
    新たな救済制度は独立行政法人環境再生保全機構が運用。申請受付事務は保健所、地方環境事務所及び機構事務所が行う。
  5. 労災補償を受けずに死亡した労働者の遺族に対する救済措置
    労災補償を受けずに死亡した労働者の遺族(時効により労災補償を受けられない者)については、労災補償に準じた救済措置を講ずる。
  6. 制度の見直し
    制度施行から5年後までに被害者の発生に関する知見やデータの蓄積を行い費用負担のあり方を再検討する。

給付金の内容については、10月20日に環境省が方針を決めたと報じられ、28日午前の与党PTでは一部を若干増額、さらに増額をという意見などもあり、午後の申し入れでは上述のような記載になったと伝えられている。それまでにあげられていた内容は以下のとおりである。

  • 医療費 自己負担分
  • 療養手当 約月7万円→約月10万円
  • 遺族一時金 約240万円→約260万円
  • 葬祭料 約20万円

私たちは、「労災補償に準じた補償」を要求している。前述のとおり、労災補償制度と新法による補償(救済)制度は表裏一体となってアスベスト被害者を補償(救済)することになるわけなので、つまるところ給付を受ける被害者が、労災補償を受ける被害者と比べてどう感じるかということになろう。

その点では、上記の給付内容の水準の問題もさることながら、例えば、労災の方では制限が大幅に緩和されて支給されることになりそうな通院費は、新法の対象者には支給されなくてよいのか。

労災の方には、被害者の子弟が学業を中途で放棄したり、進学を断念するなどがないようにするための労災就学等援護費という仕組みもある。

被害者の所得によって家計が支えられていた場合には、遺族一時金だけで年金がなくてよいのかとか、給付を課税対象としない、健康保険料や年金の免除といったことも問題になるだろう。

補償に関する他の論点

労災の時効問題について言えば、私たちは時効を適用しないで、100%労災補償給付を行うよう求めている。

尾辻厚生労働大臣の大阪での患者・家族との面談の内容は前述のとおり。

10月19日の衆議院厚生労働委員会等でも、死亡の場合(遺族補償)の5年時効だけでなく、療養・休業補償の2年時効の問題をどうするのかと問われ、大臣は以下のとおり回答している。

「私も、この時効の問題、とにかく解決しなきゃいけないと思いまして、私なりにまた勉強もいたしておるところでございます、させていただいております。というのは、時効という考え方、日本の法律の体系の中から時効をなくすとか、時効そのものを外すということは非常に難しいことだというのもよく理解できますし、では、それを乗り越えてどういう答えがあるのかということで、今私どもなりに検討いたしておりますので、恐らくやはり新法の中で新しく救済するという形になるのかな、実は私は今それが一番現実的な対応の方法かなとは思っておるんですけれども、そうしたことを含めてよく検討をさせていただきたいというふうに思います。」

大臣の問題意識にも関わらず、与党PTの申し入れでは、相変わらず死亡の場合(遺族補償)の5年時効しかふれられていない。

尾辻大臣からの検討課題の引き継ぎとしても、また、石綿対策全国連の公開質問状に対する公明党の「時効のために労災認定されない患者やその遺族については救済されるべき」という回答に宿題が残されているという意味でも、政府・与党もこの時効問題の解決に正面から取り組んでもらいたいと期待してもいる。

通院費(移送費)の件は、(独)労働者健康福祉機構(労災病院)のアスベスト疾患センターの配置にあたって拠点センターを置くべき単位として区分した全国7ブロックの、同一ブロックの範囲内における通院費(移送費)の支給を認める方向と伝えられているが、中村實寛さんが実例として紹介してもいる、徳島から兵庫への通院などが複数ブロックにまたがるものとして認められない可能性があるなどの問題もあるので、注意が必要だ。

尾辻大臣が記者会見で明言した、中皮腫の認定要件から胸膜肥厚斑等の医学所見を外すこと、検討を約束した、中皮腫の確定診断に際しての病理組織診断偏重をやめること、また、新法の方の認定基準との整合性等も含めた認定基準の内容の具体化はこれからなので注目していく必要がある。

新内閣への期待

事態は日々動き続けているが、どこかで区切らないと本稿を終えることができない。10月31日の内閣改造と11月1日の特別国会終了を区切りとしよう。

関係閣僚でこれまでに患者・家族と直接会って話をしたのは、退任した尾辻厚生労働大臣だけ。会見してからの同大臣のイニシアティブには目を見張るものがあった。あらためて敬意を表したい。

小泉首相と留任・新任の関係閣僚にまず何よりも望むことは、一刻も早く患者・家族と会うことである。被害者とその家族の置かれている状況をしっかり把握し、当事者の声に耳を傾けることなしには、新法による被害者救済は成り立たないと肝に命じるべきである。

アスベスト対策基本法

● ハイリスク者の健康管理

アスベストに曝露したハイリスク者の健康管理対策に関しては、「船員であった者に対する健康管理制度(無料健康診断制度)」が、12月15日から実施されるところとなった(10月28日国土交通省海事局・社会保険庁発表)。

考えてみれば、クボタ・ショック以来4か月目にして、これが始めて、かつこれまでのところ唯一の、新たな施策の具体化と言ってもよいのである。

この制度は労働安全衛生法の健康管理手帳制度に習って、「胸部エックス線写真等により石綿被曝等に係る一定の所見(不整形陰影または胸膜肥厚)」があることを要件としているが、健康管理手帳の要件の方が、現在進行中の研究班の調査研究を受けて見直される可能性が大きいのでその点は注意しておきたい。

住民等曝露者の健康管理のあり方については、下記の二つの検討会の結果にも一定左右されるものと考えられるが、今のところ新たなイニシアティブが出されていない重要な課題である。

  • 厚生労働省の「石綿に関する健康管理等専門家会議」(第1回8月4日~第5回11月2日終了)
  • 環境省「アスベストの健康影響に関する検討会」(第1回7月26日~第4回10月14日)

● 既存アスベスト対策

既存アスベスト対策に関連しては、以下の作業が行われているところである。

  • 厚生労働省「石綿製品の全面禁止に向けた石綿代替化等検討会」(第1回8月25日~第3回10月24日)
  • 環境省「建築物の解体等における石綿飛散防止検討会」(第1回9月13日~第4回10月24日)
  • 国土交通省「社会資本整備審議会建築分科会アスベスト対策部会」(第1回9月5日~第2回10月12日)
  • 国土交通省「道路施設アスベスト対策検討委員会」(第1回8月29日~第2回9月22日)

残念ながら、現在のところ各省庁各々関係する法令等の見直しに着手し始めているものもあるものの、政府や与党が、「アスベスト対策基本法」が必要との認識や、その実現のために取り組むところまでには至っていない。

廃棄物対策に至っては、環境省内で検討はされているとも聞こえてきはするものの、10月31日にようやく、「吹付けアスベスト等飛散性のアスベスト廃棄物の処理状況等」の調査結果が、初めて公表されたというところである。

しかし、政府・与党の新法も次期通常国会に提出の予定であり、まだまだどのような内容に変わっていくか、期待も込めて注目していきたい。

一方、7月26日にいち早く「アスベスト問題に係る総合的対策に関する提言」を発表した石綿全国連に続いて、在野からは様々な提言・提案が出されるようになってきた。

近畿弁護士会連合会が9月14日、「アスベスト被害の早期救済と恒久対策を求める決議」を採択。ダイオキシン・環境ホルモン対策国民会議は9月21日に内閣府、環境省、厚生労働省に対して、「『アスベスト対策基本法(仮称)』の立法提言」の申し入れを行った。

連合は10月21日第1回中央執行委員会で、「アスベスト問題に対する連合の取り組み」を確認。民主党は10月25日、「石綿対策の総合的推進に関する法律案」を衆議院に提出。合わせて具体的な政策提言について、「民主党は『ノンアスベスト社会』をつくる」を発表した。

これらの内容や特別国会後の動き等については、次号以降で報告していきたい。

100万人署名運動開始

いずれにしろ次の大きな舞台は、来年はじめの次期通常国会になってくる(もちろん、政府・与党の新法や予算案づくりは継続されるが)。

石綿対策全国連は、10月22日、有楽町マリオン前での街頭署名活動(患者・家族や加盟団体のメンバーら約50名が参加、表紙写真参照)を皮切りに、「アスベスト対策基本法の制定、すべての被害者の補償を求める請願署名」運動を開始した。

次期通常国会への提出に向けて、当面の目標を、100万人の署名を集めることにおいている。一人でも多くの方々のご協力をお願いしたい。 ※署名用紙・チラシは、ウエブサイトからダウンロード可能。連絡いただければ送付もOK。

  1. アスベスト及びアスベスト含有製品の製造・販売・新たな使用等を速やかに全面禁止すること。
  2. アスベスト及びアスベスト含有製品の把握・管理・除去・廃棄などを含めた総合的対策を一元的に推進するための基本となる法律(仮称・アスベスト対策基本法)を制定すること。
  3. アスベストにばく露した者に対する健康管理制度を確立すること。
  4. アスベスト被害に関わる労災補償については、時効を適用しないこと。
  5. 労災補償が適用されないアスベスト被害について、労災補償に準じた療養・所得・遺族補償などの制度を確立すること。
  6. 中皮腫は原則すべて補償の対象とするとともに、中皮腫の数倍と言われるアスベスト肺がんなど中皮腫以外のアスベスト関連疾患も確実に補償を受けられるようにすること。

関係団体や地方レベルの重要な動きにほとんどふれられなかった。それ以外にも取りこぼしや勘違いなどもあるかもしれないが、ひとまず第一報としたい。

安全センター情報2005年9・10月号

クボタショック-アスベストショックの記録~弾けた時限爆弾アスベスト<1>原点-クボタ・ショック

クボタショック-アスベストショックの記録~弾けた時限爆弾アスベスト<2>クボタ・幡掛社長の英断?~石綿労災認定情報公表へ(付)石綿労災認定事業場検索サイト

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クボタショック-アスベストショックの記録~弾けた時限爆弾アスベスト<6>政党、国会、参考人招致、解散総選挙、政府、専門家会議は・・

安全センター情報2005年9・10月号