労働関連筋骨格系障害(MSDs): EUにおける広がり、費用及び人口統計 欧州リスク調査所 2019.11.15

※災害性腰痛は全職業病の4割、非災害性では上肢障害が最大-日本における筋骨格系障害の状況(2020.12.24)

概 要

はじめに

筋骨格系障害(MSDs)は、欧州連合(EU)において最もよく見られる労働関連健康問題であり続けている。MSDsは、すべての業種・職種の労働者に関係している。労働者自身に対する影響に加えて、企業や社会にとっての高い費用につながっている。

EU及び国レベルの政策決定者、研究者や労働安全衛生(OSH)関係者を助けるために、欧州労働安全衛生機関(EU-OSHA)は、欧州におけるMSDsの正確な状況を提供する調査を実施した。本調査は、主要なEU調査及び行政資料から、MSDsに関連する既存のデータを収集及び分析したものである。これらのデータは全部そろえられ、また、国の情報源からのデータによって強化されている。本調査の主要な結果は本要約報告書に示されている。

筋骨格系障害(MSDs)は、筋肉、関節、腱、靭帯、神経、軟骨や局所血液循環系などの身体構造の障害で ある。主として労働及び労働が行われる周辺環境の影響によってMSDsが引き起こされ、または増悪させら れた場合には、それらは労働関連MSDsとして知られている。

ポリシー・コンテクスト

労働関連MSDsの問題は、数多くのEU指令、戦略や方針の採用によって、欧州レベルで認知及び対処されてきた。2002年以降のEU共同体戦略は、労働者の健康と福祉を改善する戦略分野のひとつとしてMSD予防を求めてきた。
[EU]2014~2020年労働安全衛生戦略枠組みは、MSDsを対処するべき主要課題のひとつと定義している。それは、「身体的及び精神的健康の観点から、労働組織における変化の影響に対処することに特別の注意が払われるべきである。とりわけ、女性が大きな比率を占めるいくらかの職務の性質の結果として(…)女性は筋骨格系障害などの特別のリスクに直面する可能性がある」と勧告している。また、「既存の、新たな及び現出しつつあるリスクに対処することによる労働関連疾病の予防」を改善する必要性を強調している。

すべての者へのより安全かつ健康的な労働に関する[欧州]委員会通知-EU労働安全衛生法令・政策の現代化(2017年から)は、「人間工学リスク要因への曝露は今日のEUにおける主要な労働安全衛生問題のひとつである」という事実を強調している。そうしたリスクへの繰り返しの曝露は、労働関連筋骨格系障害-一般的に個人、ビジネス及び社会に大きなコスト負荷を生じさせるもっとも深刻かつ広まった労働関連疾患のひとつ-につながる可能性がある。

労働者をMSDs罹患から守り、最初の仕事からそれ以降の労働生活全体を通じて労働者の筋骨格健康を促進することは、彼らがより長く働くことができるようにするための鍵のひとつである。これはそれゆえに、欧州2020戦略のスマートで持続可能かつインクルーシブな成長のための諸目的に沿って、人口高齢化の長期影響に対処することに貢献する。MSDsはしたがって労働衛生課題であるだけでなく、公衆衛生課題、人口統計学的課題及び社会的課題でもある。また、欧州的課題でもあり、それに対処することは、欧州の労働者の労働生活を通じて持続可能な労働条件を開発することを意味している。

本要約は、調査の主要な知見の概観を提供することからはじめ、その後、いくつかの政策的指針と鍵となるメッセージを示す。

MSDsは多くの異なる諸要因(の組み合わせ)によって起こる。それらには(それによって筋骨格系組織にかかる機械的負荷がMSDsを引き起こす可能性のある)物理的要因だけでなく、組織的及び心理社会的なものも含まれる。そうしたリスク要因が生じ、労働者の筋骨格健康に影響を及ぼす程度は、社会的、政治的及び経済的環境、職場の組織、また社会人口学的及び個人的要因を含め、様々な文脈的次元に関係している。

主要な知見

MSDsはもっとも広まった労働関連健康問題である
  • EU28か国の労働者のおよそ5人に3人がMSDの症状を報告している。労働者によって報告されるもっとも多いMSDsの種類は、腰痛と上肢の筋肉痛である。図1にみられるように、下肢の筋肉痛の報告は相対的に少ない。
  • 図2にみられるように、労働関連健康問題をかかえるEUの全労働者のうち、60%がもっとも深刻な問題としてMSDsをあげている。
  • U28か国の5人に1人が過去1年間に慢性腰痛または頸部障害に苦しんだ。
  • MSDの症状を報告したEU28か国の労働者の割合は2010年から2015年の間にわずかに減少した。
MSDsに広がりは加盟国、業種及び職種の間で多様である
  • MSDの症状を報告した労働者の割合は加盟国の間でかなり多様である(図3)
  • 自己報告MSDsの広がりは業種の間で著しい相違を示している。腰、上肢及び下肢のMSDsが以下の部門で雇用される労働者によってもっとも多く報告されている:建設、水道、農業、林業及び漁業。ヒューマンヘルス及びソーシャルワーク活動の労働者でも、MSDの広がりは平均以上である。MSDsが報告されることのもっとも少ない部門は、金融及び保険活動、専門的、科学的及び技術的活動、教育、芸術、芸能及び娯楽である。
  • 自己報告MSDsの広がりは職種の間での著しい相違を示している(図4)。2015年に、農業、林業及び漁業の熟練労働者の69%がひとつまたは複数のMSDsをかかえていると報告した一方で、専門職についてはこれは労働者の52%であった。
MSDsの広がりは社会人口学的要因によっても多様である
  • MSDsの有病率は男性労働者よりも女性労働者が高い。これは、図5にみられるように、すべての種類のMSDsについてあてはまる。
  • MSDsを報告する可能性は年齢とともに著しく増加する。年連集団間の相違は、図6のように、すべての種類のMSDsについてあてはまる。
  • 予備教育または初等教育しか受けていない労働者は、上肢、下肢及び/または腰の筋肉痛を報告する可能性が高く、慢性のMSDsを報告する可能性も高い。
MSDリスク要因への曝露

本調査では、利用可能なEU規模の情報源を活用して、身体的、心理社会的及び社会人口学的リスク要因の寄与が詳細に分析された。様々なリスク要因とMSD症状の間の関係に関する主要な知見を以下に要約する。

  • 様々な調査が、以下の身体的リスク要因が(腰、上肢及び/または下肢の)MSDsと関係していることを確認している:姿勢及び(疲れるまたは痛みを伴うポジションで作業するなど)まずいポジション、重い肉体労働、挙上、反復作業、手工具による振動に曝露する、低温に曝露する。労働人口におけるこうしたリスク要因の広がりはかなりのばらつきを示している(図7)。
  • 以前の調査は、自己報告された座って過ごした時間が慢性疾患及び死亡率と確実に関係していることを示している。本調査で実施された欧州労働力調査(EWCS)データの分析は、座ることが様々な種類のMSDsのリスクを高めることは確認できなかった。これが測定上の問題によるものか、または中時間座ること自体がMSD症状を発症するリスクを高めないのかどうか決定するには、さらなる調査が必要である。
  • 合計21の異なる組織的及び心理社会的リスク要因が、検討された3種類のMSDs(腰痛、上肢のMSDs、下肢のMSDs)の少なくともひとつと大きく関係している。これらのリスク要因の多くは、3つのMSD種類のひとつだけと関係している。これは、各種類のMSDsは独自の特定のリスク要因をもっているという考えを確認している。本調査で実施された予備分析は、MSDsと心理社会的及び組織的リスク要因との相互関係の性質を統計的によりよく検討するためにさらなる分析でフォローされるべきである。
  • 検討された3つのMSD種類の少なくとも2つと大きく関係しているものとして、9つの組織的及び心理社会的リスク要因が確認された:不安、全般的疲労、睡眠障害、低レベルの精神的ウエルビーイング、労働において言葉による虐待の対象になる(各々は3種類のMSDsと関係)、労働において望まない性的関心の対象になる、元気づけられたと感じる、仕事を成し遂げるのに十分な時間をもつ、労働において期待されていることを知る。図8にみられるように、こうしたリスク要因のいくつかの広がりは高い一方で、他の要因はめったに言及されていない。
MSD関連災害
  • くらかの種類の障害は、例えば脱臼、捻挫・損傷及び骨折など、急性MSDsと解釈されるかもしれない。
  • こうした種類の災害は、労働における死亡災害及び非死亡重大災害の全報告数の38%を占めている。とりわけ、脱臼、捻挫及び損傷は、EU28か国における労働関連傷害の(創傷及び体表損傷に次ぎ)2番目にもっとも多いグループであり、死亡災害及び非死亡重大災害全体の27%を占めている。骨折はそれより少なく、11%である(図9)。
  • いくつかの国では、災害の数字が、例えば重量物の挙上後に生じたものなど、筋骨格系問題の急性エピソードを扱っている。これがあてはまる場合、こうした災害の割合はもっとも多いひとつの(またはもっとも多い)労働関連災害である。
MSDsはいくつかの国でもっとも多く認定されている職業病である
  • 職業病の登録に用いられる国の補償及び届出制度は、かなりの制度的相違を示している。
  • 認められる疾病のリスト及び認定慣行は加盟諸国によって著しく異なっている。
  • 現在認定及び補償されている職業病のパターン及び分布は、労働によって引き起こされたMSDsによる労働者の現実の健康障害を示しているというにはほど遠い。
  • 国レベルで収集されたデータは、フランス、イタリア及びスペインでは、MSDsがもっとも多く認定されている職業病であることを示している。
  • (加盟国レベルで収集されたデータに基づくと、諸国間における相違にもかかわらず)認定されたMSD関連職業病においては、男性よりも女性の割合が高く、また、若い年齢よりも高齢の労働者の割合が高い。
MSDsの影響

MSDsは主要な関心事のひとつである。何よりも第1に、それがあまりにも多くの労働者の一般的健康状況に影響を与えているからであり、第2に、企業に対する経済的影響及び欧州諸国に対する金銭的・社会的コストのゆえにである。

  • MSDの症状をかかえる労働者の大部分はよいまたは非常によい健康状態を報告している。これは、自己報告されるMSD症状はMSDsの重篤な事例だけでなく、相対的に重篤でない事例も含んでいることを意味する。またこれは、程度はそれより少ないものの、腰及び/または頸部の慢性MSDsにも当てはまる(図10参照)。
  • 一方でMSDs、及びもう一方でストレス、うつや不安(メンタルヘルス問題)は、EUの労働者が直面しているふたつのもっとも多い労働関連健康問題である(図2参照)。
  • MSDsの流行は、高いレベルの不安、睡眠障害や労働者の全般的疲労と関連している。MSDの流行はまた、労働者の精神的ウエルビーイングとも関係がある(MSDは精神的ウエルビーイングの相対的に低いレベルの労働者においてより広まっている)。こうした関連性は、上肢、下肢及び腰のMSDsに当てはまる。
  • 労働者はMSD問題と同時に、不安、全般的疲労、睡眠障害や(不十分な)精神的ウエルビーイングに苦しむ可能性がある。MSDsがそうした健康問題を引き起こし、または増悪させる場合すらある。しかし、その因果関係は別の道をたどる場合もあり、高いレベルの不安、全般的疲労や睡眠障害がMSDの症状を引き起こし、またはすでにあるMSDの症状を増悪させる可能性もある。

MSDsに関連する実際のコスト及び負担をEUレベルで評価及び比較するのは困難である。コスト及び負担にいくらかの光を当てるために用いられる異なる指標には、障害調整生命年(DALYs)、欠勤率、及び企業にとっての生産・生産性損失が含まれる。

  • DALYsは、疾病、障害または早期死亡の結果として失った年の数として計算され、生活の質と死亡の双方に関する、一般人口に対する疾病の影響を反映する。MSDsは、労働関連傷害及び疾病による(障害調整)生命年損失の合計数の合計15%になっている。
  • MSDsによる欠勤は、EU加盟諸国における労働日損失の大きな部分を占めている。2015年に(他の健康問題のある者も含めて)MSDsをかかえる労働者の半分以上(53%)が過去1年間に欠勤したことを報告しており、これは健康問題をかかえていない労働者の割合(32%)よりも著しく高い。MSDsをかかえる労働者は、欠勤する可能性が高いだけでなく、(欠勤した場合)平均してより長期間欠勤する。例えば、慢性MSDsと他の健康問題をかかえる労働者の26%が、過去1年間における9日以上の欠勤を報告しており、これは健康問題のない労働者についての7%よりも著しく高い。
  • 各加盟国レベルでは、経済的にMSDsの影響を示す調査がいくつか確認されている(生産性損失や社会的費用の増加)。例えばドイツでは、筋骨格及び結合組織傷害は、2016年に172億ユーロの生産損失(労働力費用に基づく生産損失)と304憶ユーロの総付加価値損失(労働生産性損失)をもたらした。これは、ドイツの国内総生産の各々0.5%と1.0%になる。
MSD予防

第4回新たな及び現出しつつあるリスクに関する欧州企業調査(ESENER)は、現在使用者によって提供されている労働関連MSDsの予防に関するいくらかの洞察を与えている。

  • 労働者の大部分は、人間工学的機器の提供、まずい作業姿勢の人々への定期的休憩の奨励、及び反復動作を減らすための職務のローテーションを含め、ひとつまたは複数の予防措置が実施されている事業場で働いている。こうした諸措置はすべての業種及びすべての規模において、事業場によって提供されている。しかし、事業場の規模は明らかな影響をもっており、予防措置の利用可能性は事業場の規模によって増加する。
  • 労働者が長期間の病休の後に労働に復帰するのを支援する政策をもっている事業場の割合については、EU28加盟国の間にかなりの相違がある。イギリス(97%)、スウェーデン(95%)、フィンランド(93%)及びオランダ(92%)では、高い割合の労働者が、長期間の病休の後に労働者が労働に復帰するのを支援するために、彼らに対して支援が提供されている事業場で働いている。リトアニア(19%)とエストニア(27%)では、その割合はEU28か国の平均(73%)よりも著しく少ない。
  • それらが効果的であることが証明されていることから、予防措置への投資はとりわけ見返りのあるものである。相対的に多くの予防措置が実施されている国及び業種の労働者は、MSDの症状を報告する可能性が相対的に低い。腰痛を報告する労働者の割合は、(平均して1から3の予防措置が実施されている国及び業種の労働者についての)51%から(平均して5または6の予防措置が実施されている国及び業種の労働者についての)31%に落ちている。下肢のMSDsの有病率は比較可能な発展を示している。

政策的指針

本調査の知見に基づいて、本節では、予防における政策措置のためのいくつかの指針を示す。

統合的及び結合的なMSD予防アプローチが必要である
  • 身体的、組織的、心理社会的、社会人口学的及び個人的要因を含めた、異なる要因グループがMSDsに寄与している可能性がある。ほとんどの場合、こうした諸要因は相互に作用している。こうした多原因のために、MSDsに対処する最善の方法は、結合されたアプローチによることである。
  • 調査は、単一の措置に基づく介入は、MSDsを予防するのに相対的に効果が少ないことを示してきた。孤立した、ひとつのリスク要因に対処する措置は、いくつかの要因に狙いを定めた諸措置の結合よりも相対的に効果が少ない。こうした種類の介入はしばしば「全体的」または「統合的」なものと呼ばれる。
  • 予防に対する統合的アプローチが、もっとも有望な戦略に見える。この戦略は、MSDリスクを確認することによって開始されなければならない。政策決定者は、非常に簡単かつ本報告書でふれられたいくつかのMSDリスク要因を結び付けた諸事項からなる、実際的なリスクアセスメントのツール・ガイドを提供することに焦点を置くべきである。
  • 予防措置の利用可能性は、事業場の規模とともに増加する。これは、小零細企業はいっそうの政策配慮を必要とすることを示している。現実的なガイドやリスクアセスメント・ツールは、(それが彼らの施設におけるのMSDsの予防になる場合)相対的に小さい企業や事業場が直面する特別のニーズや課題を満たすように狙いを定めるべきである。
  • 成功する統合されたアプローチは、労働者自身を含めた参加型のアプローチとして設定される場合に、とりわけ有益である。
  • このようなより統合的かつ参加型のアプローチの促進及び普及には、MSDs(それらの原因、影響及び諸予防措置)に関する注意喚起及び知識伝達に関する取り組みを必要とするだろう。2020~22年「労働関連筋骨格系障害の予防」に関する健康職場キャンペーン(及び/または同様のキャンペーン)が、このための機会のひとつであるべきである。
  • 上肢MSDs、下肢MSDs及び腰部MSDsはすべてMSDsの例である。しかし、それらが生じる過程、リスクの程度、健康影響の種類やそれらを予防するために必要とされる措置の種類は異なっている。介入及び政策を策定する場合、このことが考慮されるべきである。実際にはこのことは、各々の種類のMSDsについて、狙いを定めた介入が必要であることを意味している。
  • MSDsの多原因性を踏まえて、MSD予防に関する焦点は、職場におけるよい筋骨格健康の促進に焦点を置いた労働衛生促進アプローチ(また、より公衆衛生的な観点から)と統合され、また、それによって補完されるべきである。
MSDリスク要因への曝露
  • 労働者はたいていいくつかのMSD要因の組み合わせに曝露している。例えば、心理的リスク要因に関して本調査で実施されたクラスター分析は、一定のリスク要因の組合わせがほかよりも頻繁に起きることを示している。こうした種類の知見はMSDの予防に関連した意味合いをもちうる。さらなる調査が、MSDsに関連したリスク要因(及び健康問題も)のこうした特定の組み合わせをさらに検討すべきである。例えば、さらなる調査の領域のひとつは、こうした異なるリスク要因(または健康問題)がどの程度相互に増強するか、また、この増強影響をどの程度抑制し得るか、であろう。
  • 座って行うコンピュータ作業とMSDsとの間の因果関係の特性にかかわりなく、労働における座って行う行為は健康(心血管病理、がん、糖尿病等)に有害であり得、この職業リスクは、とりわけ職場における座り作業が増加している状況において、予防される必要がある。
  • 職場レベルで組織的及び心理社会的リスクが評価される場合には、きわめて多く、これが孤立して、筋骨格系の痛みなどの多のリスクや他の健康問題に対する影響を考慮することなしに、「ストレス」のメンタルヘルス影響だけに焦点を置いてなされている。労働者はいくつかのMSDリスク要因に同時に曝露していることから、より全体的なアプローチを選んで、リスクアセスメント・プロセスの一部として、(単一のリスク要因と単一の結果測定の間の関係に基づいた)一次元のリスク-アウトカム・アプローチは避けるべきである。問題は、MSDリスクアセスメントと心理社会的リスクアセスメントのやり方の間に橋をかけるために、既存の知識を職場に転換することである。こうした諸次元を統合する手引きやリスク管理ツールを、職場における使用者と労働者が使えるようにすべきである。
  • ストレス、不安、睡眠障害や精神的ウエルビーイングなどの心理社会的リスク要因がMSDsの発症に役割を果たすかもしれない。しかし、調査は、それらが急性(可逆的問題)から慢性へとMSDsの慢性化の進展にきわめて重要な役割を果たすことを示唆している。このことは、MSDリスクを評価及び予防(一次予防)する場合、とりわけ筋骨格系の痛みの最初の症状が現われた場合に、心理社会的リスク要因が考慮されるべきであることを意味している。
  • 労働が組織される方法と社会風土を改善することによって、企業もまたMSD予防に貢献する。職場レベルにおいてこの相互関係に関する認識を高めること、また、作業組織に変更を導入する場合または心理社会的リスクへの曝露を予防する際に、MSDs予防を考慮するよう現場関係者を奨励することが重要である。
MSDsの広がりは国、業種及び職種の間並びに社会人口学的規模に応じて多様である
  • MSDsの広がりは、異なるレベル(国、業種、職種及び個人)にまたがってひろい多様性を示している。このことは、こうした相違をよりよく理解するためのさらなる調査を要求している。
  • ・MSDの症状を報告する労働者の割合における国の相違は、MSDsを予防するための政策及び戦略が、特定の国の状況に対して調整及び適合されなければならないことを示している。
  • ・業種間におけるMSDsの広がり、種類や重篤さの相違を踏まえれば、MSDsに対処するための業種を特定したアプローチを採用することが論理的であることも明らかである。かかるアプローチには、特定業種向けの基準の導入、リスクアセスメント・ツールや(部門特有のMSDリスク要因に適用される予防的・防護的諸措置を含め)特定業種のMSDリスク・カタログが含まれるだろう。
  • 性、年齢及び教育レベル別のMSDsの広がりの区別は、MSDsをよりよく予防及び管理するためには、多様性に敏感なアプローチ/リスクアセスメントの必要性があることを強調している。MSDsの予防は理想的には、ますます多様になる労働人口に適合する包括的かつ差別化されたアプローチに従うべきである。かかる包括的なアプローチは、MSDsに対処するとともに、職場で使用者と労働者を支援及び手引するためにこの問題に対処する特別の手引きや実践的ツールを開発するために、こうしたアプローチの必要性についての認識を高める取り組みを含む可能性がもっとも高いだろう。かかるイニシアティブを支援する政策及び制度の開発が大いに勧告される。
  • 年齢とともに増加するMSDリスク、人口の高齢化及び退職年齢の高齢化という3つの年齢に関係した進展が相互に増強し合っている。このことは、特別な諸措置が必要であることを示している。労働関連MSDsに寄与するリスク要因への曝露を予防することは、労働の持続可能性にとって重要である。労働力の高齢化という状況のなかで、OSH戦略はそれゆえ、全労働者の持続可能な雇用可能性に影響を及ぼすことから、身体的及び精神的ハザーズへの労働者の蓄積曝露に特別の配慮が払われるべきである。
MSDsの影響
  • MSDの症状をかかえる労働者の欠勤は、健康問題をもたない労働者におけるよりも高い。このことは、一次予防に狙いを定めた取り組みの重要性を強調している。しかし、いったん病気または欠勤が生じたら、障害及び/または職業病につながる病気休業を回避または最小化するうえで、リハビリテーション及び労働への復帰に焦点を置いた措置も重要である。
  • このこともまた、早期介入の重要性を強調している。障害を最小化するとともに、健康を回復するための早期介入は、健康、社会福祉及び欠勤の減少における具体的な節約につながり得る。MSDsの大きな割合は短期的(または急性)のものであり、そのため労働者は、最初の症状が現われてすぐに簡単な諸措置をとることによって回復する可能性がある。MSDが速やかに管理されるほど、長期の休業につながる慢性状態になる可能性が少なくなる。
  • OSHは、慢性MSDsをかかえる労働者が労働にとどまり続けるのを支援とともに、労働がそうした痛みを伴う状態を悪化させないことを確保するうえで重要な役割をもっている。リハビリテーション及び労働復帰制度を開発するための推進力は、それらが社会保障制度に対する主要な負担であることから、病気休業と障害給付制度のコストである。

鍵となるメッセージ

  • EUの労働力人口の半数以上がMSDの症状を報告しており、MSDsの影響は過小評価されるべきではない。
  • 労働関連MSDsの問題は欧州レベルで認識及び対処されてきたものの、予防に関してさらなる努力が必要である。
  • (非常に異なる性質の)新たな傾向及び変化が、MSDリスク要因へのEUの労働者の曝露に(肯定的または否定的)影響をもつ、またはもつ可能性がある。人口と労働力人口の高齢化、新たなビジネスモデルや雇用形態、労働組織の新たな形態、デジタル化、座り作業などである。MSDの予防には、こうした新たな傾向や変化と向かい合い、対応する必要がある。
  • 企業レベルにおけるMSDsを予防する努力は、より持続可能で健康的な職場の発展を促進するために、政治的、社会的及び経済的レべル(規制の程度、保健政策、市場の状態、経済諸部門の構成等)における変化/努力によって支持されなければならない。
  • 伝統的にMSDの予防は、身体的/生体力学的リスク要因に焦点を置いてきた。調査研究の結果は、MSDの予防には組織的及び心理社会的リスク要因もまた考慮されなければならないことを確認してきた。現時点の課題は(キャンペーン、実践的ツール、手引き等を通じて)知識を職場に転換することである。
  • MSDの予防は、理想的には、ますます多様化する労働人口に適合した包括的及び差別化されたアプローチに従うべきである。
  • MSDsの多原因性を踏まえれば、労働関連MSDsの予防は、労働におけるよい筋骨格健康の促進に焦点を置いた労働衛生促進アプローチに統合及び補完されるべきである。
  • 統計は、MSDsとメンタルヘルス問題(ストレス、うつ及び不安)が、とりわけ欧州におけるもっとも重要なOSH健康問題であることを示している。(他の調査/研究の知見を確認する)本報告書は、(少なくとも統計用語ではこれらの相互関係の性質が説明できないとしても)この2種類の健康問題が結合または関連しうる、またはしばしば関連していることを示している。これは予防に関して重要な意味合いをもっている。これら2種類の健康問題に対処するために、より結合されたアプローチが促進される必要がある。

出典:https://osha.europa.eu/en/publications/msds-facts-and-figures-overview-prevalence-costs-and-demographics-msds-europe/view

■労働関連筋骨格系障害(MSDs)=欧州で最多の労働関連健康問題に対処するキャンペーンを開始~いまこそ行動するとき:EU-OSHA(欧州労働安全衛生機関)/2020年10月12日
■労働関連筋骨格系障害(MSDs): EUにおける広がり、費用及び人口統計 欧州リスク調査所 2019.11.15
■労働関連筋骨格系障害:なぜまだそれほど流行しているのか? 文献レビューによる証拠 2020.5.4 概要報告書:欧州リスク調査所
■予防方針・慣行:労働関連 筋骨格系障害に対処するアプローチ 2020.5.19 概要報告書:欧州リスク調査所
■労働関連筋骨格系障害:研究から実践へ、何が学べるか? 2020.6.9 概要報告書:欧州リスク調査所
◆災害性腰痛は全職業病の4割、非災害性では上肢障害が最大-日本における筋骨格系障害の状況(2020.12.24)
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