労働関連筋骨格系障害:なぜまだそれほど流行しているのか? 文献レビューによる証拠 2020.5.4 概要報告書:欧州リスク調査所

要約

この調査レビューの目的は、労働人口において高いレベルの筋骨格系障害(MSDs)が持続していることを検討するとともに、その予防に関連した証拠を検討することである。

このレビューは、より幅広い「労働関連MSDsの予防に関する研究、方針及び慣行」プロジェクトの一部として準備された。このプロジェクトの目的は、以下のとおりである。

  • 労働関連MSDsの原因となる諸要因と関連した新たな及び現出しつつあるリスク及び傾向に関する知識を改善するとともに、関連する課題を確認する。
  • 方針及び職場双方のレベルで、労働関連MSDsに対処するための現在の戦略におけるギャップを確認する。
  • 職場介入及びリスクアセスメント・アプローチの有効性及び質について調査する。
  • MSDsのより有効な予防のための新たなアプローチを確認する。

EU加盟諸国(EU-28)全体で報告されたMSDsの率は、2007年の54.2%から2013年の60.1%に増加した(各年に行われたEU労働力調査による)。欧州労働条件調査によるデータは、2010年と2015年の間に、上下肢筋骨格痛及び腰痛の発生率に著しい減少を示していない。MSDsを引き起こす可能性のある職場ハザーズの管理を確保するという法令上の要求事項があるにもかかわらず、これが実際に行われているという証拠は限られている。

方法

MSDsの予防という課題を検討するために、調査的文献レビューを実施した。これには、仮説を確認するための最初の検索及びその後のそれらの仮説をテストした研究結果を調べるための焦点を絞った文献検索が含まれた。この調査レビューで扱われた研究質問は、以下のとおりである。

  • なぜ労働関連MSDsの高い流行が持続しているのか?
  • 高い流行に潜在的に寄与している労働の世界における変化は何か?
  • 人口動態の変化の影響は何か?
  • 個々のリスク要因の影響は何か?
  • 現在の予防及びリスクアセスメント・アプローチにおけるギャップは何か?
  • 心理社会的リスク、性差及び/または年齢は考慮されるか?

スコーピング検索を実施し、その後確認された仮説について、焦点を絞った検索を行った。研究論文を入手し、それらからデータを引き出した。

結果

生成された仮説

検索の結果、以下の12の仮説が確認された。

  • デジタル化及び情報通信技術(ICT)が可能にした技術の影響が、人々を高いMSDsリスクに曝露させているかもしれない。
  • ギグ及びプラットフォーム経済を含め、新たな形態の雇用が、労働者の労働安全衛生(OSH)保護のレベルを低減させている可能性をもつ。
  • 以前はある部門での高い流行が、様々な部門に移行しているかもしれない。例えば、入院期間の短縮は自宅での回復期間を増加させ、そのため患者の世話がヘルスケアからホームケアに移行して、曝露がシフトしている。
  • ノーリフトポリシー[押さない・引かない・持ち上げない・ねじらない・運ばない]など、職場方針の変化の影響が、曝露部位を腰から肩にシフトし、または、ジャストインタイム[必要なものを必要なときに必要なだけ]生産システムが、人間工学的評価なしに作業速度や反復のレベルを増大させ、MSDs報告数の増加につながっている。
  • 不健康なライフスタイル、身体運動の不足及び肥満率の上昇が、筋骨格系問題の増加につながっているかもしれない。
  • 労働力人口構成の変化の影響は、若い労働者が既往の筋骨格系問題をもちながら労働に入ることはもちろん、高齢労働者が(労働または年齢いずれかから生じた)筋骨格系問題をかかえる可能性が増えていることを意味している。
  • 心理社会的リスクの重要性が増加している。
  • デスク仕事をする者の割合の増加が、職業性座りっぱなし曝露や筋骨格系の訴えにつながっている。
  • 重労働、過剰反復、まずい姿勢や重量物挙上を含め、物理的職場ハザーズ減少の失敗が、曝露の持続につながっている。
  • 各EU加盟国における異なる社会経済的状況、職業病の分類、支援体制や保険の手配がMSDの報告に影響を与えている。
  • 適切な作業組織及び/または作業設計の欠如が、MSDリスクへの曝露の増大につながっている。
  • リスクアセスメント及び予防慣行におけるギャップが存在している。
労働

悪い及びまずい姿勢、高度の反復や高度の強さを含め、作業要因とMSDsの流行との関連性は知られている。しかし、2005年以降、MSDハザーズの曝露には少し変化があったように思われる。高い流行の持続は、物理的作業要因のみによっては説明することができず、他の問題を検討する必要がある。

部門別の変化

過去20年間、EUは経済におけるシフトを経験し、労働者は製造業からサービス業や建設業へ移動した。これは、医療福祉における患者の世話、サービス労働における悪い姿勢や高度の反復、事務所環境における座りっぱなし作業を含め、労働者が曝露するMSDハザーズの性質の変化をもたらしてきた。多くの残りの部門においても、姿勢のリスクのスコアは高い。

働き方の変化

労働は、それを行う方法及び場所の双方において変化しつつある。デジタル化は、潜在的にいつでも労働にアクセスできるようにする、新たな技術の利用をもたらしてきた。同時に、オンライン・プラットフォーム労働が増加し、それによって労使関係が変化しつつあるとともに、必要なOSH規制が順守されないかもしれない、自営または臨時契約のいずれかで働く人々が増えつつある。

デジタル化の増加はまた消費者行動も変え、オンライン販売が増加し続けている。結果的に、選別倉庫内や配達運転手としてこの部門に雇用される者が増えている。オートメーションはいくつかの事業所で使われているものの、品質保証、より複雑な選別業務やときにはより単調な業務のために、なお人間のニーズがある。こうした労働者は、時間圧力のもとで働く場合に、物理的及び精神的双方の要求の対象になり得る。現在のところ、OSHハザーズが対処されつつあるという証拠はほとんどない。

新しい働き方には、製造部門でのリーン製造プロセスなど、作業プロセスの変化も含まれる。リーン・プロセスのMSDハザーズに対する影響については調査研究は両面的ではあるものの、職務設計や人間工学を活用した変化の実施が曝露を低減させ得ることは明らかである。ヘルスケアでは、挙上や自宅療養よりもスライド移動の活用が曝露の性質を変えてきた。自宅環境は患者にとってよいけれども、相対的に管理されておらず、介護者のための挙上保護器具が備わっている可能性は低い。

数十年の間に職場に固定ロボットが導入されてきたが、オートメーション及び自律ロボットの規模は今後増加すると予測されている。明らかなことは、オートメーションがMSDハザーズへの曝露を低減させ得るとはいうものの、これが常に適切に評価されているわけではなく、また、労働者が機械のペースで働くことになるかもしれないということである。より肯定的には、自律ロボットが労働者の汚くかつ高度に反復的な作業への曝露を低減させるかもしれない。人間とロボットが並んで働く方法及び遭遇するかもしれないOSH問題を検討した応用研究は限られている。

最後に、より多くの者が労働生活を座ってすごすようになっている。これは健康への悪影響を認めるが、ここでも数多くの確認できるリスク要因とともに、座りっぱなしの作業もまたMSDsと関連性がある。労働において人々が立ち上がり、また移動するのを確保するための職務設計のニーズが考慮され(また、そうするように奨励され)るべきである。加えて、休憩時に運動することを希望する人々のために着替設備とシャワーが利用できるのを確保することも有益である。デスク作業者の安全衛生を保護するためのガイダンスが提供されている。

健康行動

この調査レビューは、MSDsの流行に関連した労働関連要因に焦点をおいているが、健康行動、とりわけ肥満、身体運動不足や喫煙とMSDsに関連性があることが認められている。職場健康増進は、そうした行動を減らし、それゆえMSDsの流行を減らすことによって、有益な影響をもち得る。

年齢とジェンダー

年齢と関連して、MSDsの流行は高齢労働者において増加している。これが曝露期間の長期化及び/または年齢とともに減少する能力によるものかどうかは、なお議論されているところである。35歳未満の者と比較して(通常50歳超と定義される)高齢労働者におけるMSDリスクへの曝露を検討して、つらい疲れる姿勢への曝露が増加する一方で、腕の反復動作や荷の移動・取り扱いへの曝露は減少することがわかった。こうしたデータは、高齢労働者が労働においてなお相当のリスクに曝露しつつあることを示唆している。結果として、傷害が起こった場合には、回復期間が相対的に長くなることを示した証拠もある。

データはまた、相対的に若い労働者が高いレベルのMSDsを報告していることも強調している。これが問題をかかえながら働きはじめたことによるのか、または働きはじめてからすぐにMSDsを発症したのか、見極めるためにはさらなる研究が必要である。人々の労働生活の全体を通じて予防措置が利用可能になっているようにすることがきわめて重要である。

一般的に男性の方が女性よりも多くMSDsを報告している。しかし、彼らのMSDsの性質は異なっており、男性は腰の問題を、女性は首、肩、手や腕の問題を報告する可能性が大きい。MSDハザーズへの曝露を検討すると、反復動作や長時間座位を含め、特定のハザーズについては、男性と女性が同程度に曝露すると報告している。人間の挙上については、6%の女性がこれをいつも行っていると報告し(対して男性は2%)、人間を挙上している女性の9%が4分の1から4分の3の時間行っていると報告している(対して男性は4%)。これは、医療福祉労働では女性が多いという、水平分離が影響していることをほのめかすものである。しかし、MSDハザーズに曝露させるかもしれないパートタイムの役割で女性の方が多い、垂直分離も役割を果たしている。しかし、家庭責任も負う労働者としての女性の二重の役割の影響も、そのような労働がMSDリスクを引き起こすのと予防するのと双方の可能性があることから、無視すべきではない。年齢とジェンダーを検討する場合、50歳超の女性が男性よりも多く症状を報告しているものの、これは過去10年間に最大の雇用の増加をみた年齢集団である。

健康信念と身体化

健康への信念は、病気についてどのように考えるかに影響を及ぼし、身体化は、心理的苦痛から生じる身体症状の現われである。自己認識されたまずい健康はMSDsの流行と関連してきた。個々人は労働に対して肯定的または否定的信念をもちうるが、否定的な信念は症状と関連する可能性がある。報告された労働のなかでは、労働関連健康問題に対する否定的な信念、RSIs(反復緊張傷害)の予後やRSIsについて聞いたことが、症状と関連していた。MSDsの症状、予後及び回復の可能性に関する知識の不足があると思われ、知識の量と正確さを増やすことが、予防と回復の双方に役立つかもしれない。

心理社会的要因

心理社会的要因もMSDsの流行に影響をもつという認識がひろがっている。精神的高負担が筋肉の緊張を高める、ストレスへの曝露が回復を妨げ、またストレスが免疫または炎症システムに変化を引き起こすなど、様々な経路の仮説がたてられてきた。本レビューは、バーンアウトへの曝露を減少させることが筋骨格痛を減らす可能性があるかもしれないことを確認した。疲労も要因のひとつであるかもしれず、MSDsをかかえる者は睡眠が少なくなると報告している。不十分な社会的支援、低レベルの職務管理や労働-生活の衝突も、MSDsと関連性があることがわかってきた。心理社会的リスクを管理することは、筋骨格系問題を減少させるかもしれない。部分的には多くの使用者がこの関連性に気づいていないことから、また部分的には心理社会的リスクが具体的リスクとして分類されていないことから(それらと他の職場ハザーズと区別なしに枠組み指令に含まれている)、これがひろく行われていないことが懸念されている。心理社会的リスクを評価する場合、これが「サイロのなかで」、すなわち心理社会的リスクと他の職場リスクとの間を関連づけないアプローチであるメンタルヘルスへの「ストレス」の影響のみに焦点をおいて、行われる場合が多い。

社会経済状況の違い

加盟諸国における社会経済状況の違いとMSDsの報告方法の国による違いは、それらの流行に影響を与えている。現在のところ、これは、職業病の報告における変更及びそうした変更が報告を増やすことに関する注意喚起キャンペーンによって影響されるものと理解されている。しかし、本レビューはまた、社会的保護及び社会的包含のレベルの高い諸国で腰痛の報告が増大してきたことを示した。これは収入保護や支援体制がより利用可能になっていることによることが示唆された。

リスクアセスメント・予防慣行におけるギャップ

MSDs予防のための規定は手作業及び画面表示機器指令のなかで定められているものの、これらはすべてのMSDリスクをカバーしてはいない。リスクアセスメントのための利用可能な数多くのツールがあるが、徹底的に評価されたものはわずかである。なぜいまもなお数多くの人々がMSDsを報告しているのか?われわれが介入研究の開発及び報告を必要としていることから、疫学よりも原因論に焦点を置いていることが、研究を遅らせているかもしれない。どれくらい多くの事業所が職場の変更を実施し、それらがどれくらい有効であるかはわかっていない。それゆえ、合理的なタイムスケールの介入研究の計画、設計及び実施を前進させなければならない。本レビューはまた、MSD予防のための戦略の実施に対する障害及び促進要因も確認した。最近、OSH法令及び施行の影響を評価した結果、筋骨格系及び精神的双方の研究における大きなギャップを明らかにした。結合したやり方で筋骨格系及び精神的双方のリスクを評価する明らかな必要性があり、オーストラリアの研究はどのようにこれを達成できるかを示している。

MSDsの予防は一般的なOSHマネジメントの一部としての長期的コミットメントでなければならず、また労働者の参加が関わらなければならないものとする数多くのガイダンス文書が入手可能である。知識の不足が予防に対する障害であり得、それゆえ訓練や注意喚起も不可欠である。予防の一環として心理社会的リスクについて考える必要性も強調されている。規制者、事業所(使用者と労働者)及び研究者を関与させるはばひろい枠組みを必要としている。

新たな働き方と関連して、作業中に移動する機会を増やすために、デスク作業に関する多くのガイダンスが提供されている。人間と機械の間のインターフェースに関連して検討する必要性のある、オートメーションとロボティクスに関するはばひろい研究領域が残されている。

討論及び結論

この調査レビューは、なぜ、いまもなおMSDsの高い流行があるのかについての様々な仮説を検討した。レビューは、人々が雇用され、技術やプロセスの変化の結果としての人々の働き方に変化のある部門における変化を調査した。明らかなことは、MSDハザーズに対する曝露は減っていないということである。労働の非正規化によって、曝露を減少させる可能性はあるものの、職場でこれが生じ、曝露が実際に減少しているかもしれないという証拠はわずかしかない。

新たな技術における、人間、職場と作業機器の間のインターフェースに関するよりよい理解に対する明らかな必要性がある。

われわれが労働にもちこむ健康のレベルを改善する職場健康増進に対するニーズはいまなおある。健康信念に関する理解は、問題を理解するのに役立つ、MSDsとその発症、予後及び予防に関する正しい知識を共有す機会を与える。人口動態的変化及び高齢労働者の増大は、より多くのリスクにさらされる労働者集団を生み出しており、驚くべきことに若い労働者のほうが、MSDsをかかえながら働きはじめているようである。

心理社会的要因とMSDsの流行に対するそれらの影響に関する理解は、現実にはいかなるかたちでもリスクアセスメントと結びつけられてこなかった。オーストラリアの研究はこれがどのようになされ得るかに関する勧告を行っているものの、これはまだ評価されてはいない。

物理的及び心理社会的双方のリスクをカバーするより全体的なアプローチをとった職場介入研究を設計することを含め、MSDsを予防するための新たなアプローチをとる明らかな必要性がある。さらに、MSDsの影響に関する注意と知識を高め、変化をもたらすのを支援するために、一般の人々にMSDsについて教育することが不可欠である。

この調査レビューは、以下のことを行う明らかな必要性を確認した。

  • 各国間の違い、各国がMSDsの流行を減少させてきた領域を理解するとともに、どのような作業が、またなぜかを解明する。
  • ひとつのアセスメントのなかでMSDsと心理社会的双方のリスクを評価できるようにするためのリスクアセスメントツール及びリスク低減措置を採用する。
  • MSDsの労働における流行及び労働者におけるそれらの把握、予後及び予防に関する注意及び理解を高める。
  • 何が有効で、またまさに重要なことに、何が機能しないかを確認するのに役立つ介入研究を実施する。
  • 職場健康増進が、MSDsに影響を及ぼす健康行動はもちろん、MSDs予防に焦点をおくことを確保する。
  • 個々人の労働-生活コミットメントやプラットフォーム労働のデジタル統合により引き起こされるMSDの影響の予防を改善するための現行の慣行を確認する。
  • 以下のことを判定するために、既存の法令の執行を検討することを含め、新たな技術をカバーするように法令を最新化する。
  • 法令が正しい諸リスクをカバーしているか?
  • 使用者がそれらのリスクを適切に評価しているか?
  • 使用者が適切な管理を実施しているか?

https://osha.europa.eu/en/publications/summary-work-related-musculoskeletal-disorders-why-are-they-still-so-prevalent-evidence/view

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