予防方針・慣行:労働関連 筋骨格系障害に対処するアプローチ 2020.5.19 概要報告書:欧州リスク調査所

はじめに

「労働関連筋骨格系障害の予防に関する研究、方針及び慣行のレビュー」と名付けられたこのプロジェクトは、労働関連筋骨格系障害(MSDs)に対処するうえでの労働安全衛生(OSH)課題のより完全な理解を得ることを目的とした。プロジェクトの意図は、MSDsに対処する戦略、方針及び対策がもっとも効果的になる条件についてのよりよい理解を提供することである。この目的を達成するために、規制者や規制当局、社会パートナー、専門家団体や予防サービスを含め、主要な関係者によって用いられてきた様々な方針レベルの戦略・イニシアティブを確認した。それらの確認を受けて、それらの多様な戦略が、どのように異なる受益者(例えば部門)の状況や必要性に適応されたかを確認するための分析を行った。

この分析を補足するために、(それらの実施に対する何らかの障害を含め)それらの成功または失敗に寄与する要因を確認する観点から、上述のイニシアティブにおいて開発及び使用されたリソースをレビューした。

方法

この研究の出発点は、介入イニシアティブのリストだった。このリストは、欧州労働安全衛生機関(EU-OSHA)から送られた質問項目に対する大部分の欧州連合(EU)諸国のフォーカルポイント(FOPs)の回答からまとめられた。FOPsは、2010~2018年に実施された方針レベルのOSHイニシアティブを最大10挙げるよう求められた。それらイニシアティブは、労働関連MSDsの予防またはMSDsの予防に関する公衆衛生イニシアティブに明示的にまたは主として関連している必要があり、また、相当のOSHコンポーネントを含んでいる必要があるものとされた。

140をこす介入が報告され、さらに、当初加盟国から報告されなかった多数のイニシアティブや、欧州以外の諸国からのいくつかのさらなるイニシアティブで補足された。除外及び包含基準を作成、使用して、さらなる検討のための25のイニシアティブを選択した。この選択過程の一部として、主な考慮のひとつはよい範囲のイニシアティブの種類があることを確保することだった。しかし、イニシアティブの適切性がもっとも重要と考えたことから、バランスのとれた地理的広がりを示す試みはしなかった。

(欧州以外の3か国-オーストラリア、カナダ及びアメリカを含め)14か国から25のイニシアティブが引き出された。これらは、(学校の生徒その他若い人々を対象としたものを含め)注意喚起イニシアティブから、監督・執行活動を通じた直接介入までにわたる、多様な種類の対策を示した。欧州以外の諸国のイニシアティブは、EU諸国で実施されているものを補足する、その革新的アプローチのゆえに選ばれた。

この選択過程を受けて、FOPsによって提供されたものや、イニシアティブに責任を有する者とのインタビューを含め、その他の多くのソースからの材料に基づいて、机上調査を行った。この材料をもとに、選択された各イニシアティブをカバーする25の短い概要報告を準備した。

当初の計画では、イニシアティブの選択は、それらの影響を確認するための何らかのかたちの公式の評価を実施しているものに限定する予定だった。しかし、体系的かつ徹底的な評価プロセスを通じたものはごくわずかであることが明らかになったため、この基準は厳密には適用しなかった。

この当初の作業をもとに、より詳細な分析のための6つの欧州諸国のイニシアティブを選択した。この選択は、当初の25イニシアティブを基礎にしたが、選択したイニシアティブだけではなく、選択した諸国における全体的方針または戦略を反映させるために、評価の対象をひろげる決定がなされた。選択された6か国はその後、職場でMSD予防対策を実施する現実の経験の詳細な分析のための焦点としても貢献した。6か国の報告は、https://osha.europa.eu/en/themes/musculoskeletal-disordersで入手することができる。

この詳細報告の材料は、さらなる机上調査及び公けに入手可能な材料の調査により、関係国の関連する関係者のインタビューによって補足された。

25のイニシアティブ

最初の25イニシアティブは、職場でMSDsを予防するために行われてきたこと、また行うことができることを代表している。これらのイニシアティブは、介入及び対象集団に関して可能な限り多様であるよう選択され、キャンペーン、介入、法令、監督、インフォグラフィックや、通常とくに中小企業(SMEs)を対象にした国レベルの金銭的援助を含んでいる。

選択されたイニシアティブは以下のとおりである。

詳細に検討した6イニシアティブ

上述したとおり、選択された25イニシアティブの最初の検討の後、詳細な検討のための6つのEU加盟国のイニシアティブが選択された。

オーストリア

MSDsの予防は2007年以来、オーストリア労災補償評議会(AUVA)の基本的目標のひとつである。2009~2010年にAUVAsicher(AUVAのSMEsに対する長期的支援計画)は、オーストリアにおけるMSDsの発生率と(頻回の)関連した欠勤の増加に対応して、特別にMSDsに焦点をあてた。AUVA sicherは、SMEsが安全関連・労働医学カウンセリングサービスの利用を法的に義務付けられているという事実によって下支えされている。

SMEsが職場の安全衛生を理解及び対処するうえで直面している諸課題はよく理解されている。そのような使用者に特別の法的義務を課すことによるこの介入のアプローチは、他の加盟諸国にとっても価値をもつかもしれない、ひとつの興味深いコンセプトを代表している。AUVAsicher制度を通じて採用されたMSDイニシアティブはそれゆえ、詳細な検討のための興味深い事例研究を提供する。

AUVAsicherの対象集団は従業員50人以下(または従業委員がいくつかの支店事務所で働いている場合には250人以下)のオーストリアのSMEsである。コンサルテーションは、SMEsで労働者保護にかかわりのある者、労働者と使用者自身、労働者代表と安全アドバイザーを対象としている。

AUVAsicherからSMEsに対して提供される定期的OSHサービスを通じて実施されることによって、このイニシアティブは3つの道、すなわち、①労使の間におけるMSDs予防に関する意識の向上、②企業内におけるMSDsを予防する対策の提案及び実施、③情報及び指示の提供を通じて、MSDsの発生を減少させることを目的としている。

ベルギー

キャンペーン「労働者が病気になるときは企業全体が影響を受ける」の目的は、MSDs及びそれを予防するために使うことのできるツールに関する注意を喚起することである。それは、ベルギーの職場におけるMSDsの相対的に不変の(高い)発生率に対応して設定されたものである。このキャンペーンは、労働におけるウエルビーイングを統合するとともに、職場への狭い焦点をこえてMSDメッセージの「到達[リーチ]」を拡張することを追求する、労働と健康に対する全体的アプローチを採用することが近年増えてきた、進行中の国の戦略的アプローチを反映している。促進キャンペーンの活用自体は新しいことではないものの、ベルギーのアプローチの相対的に広い次元は価値があると考えられ、他の諸国によるテンプレートとして利用することができる。これまで数年間、[雇用労働]省は様々な専門領域や職務向けに、一連のMSD予防パンフレットを作成してきた。そのウエブサイトとアウトリーチプログラムが、それらのツールの活用を促進している。

2015~2016年の「連邦トラックにおける労働のウエルビーイング」キャンペーンの焦点はMSDsであり、とりわけ中等教育の生徒たちを対象にした。その目的は、MSDsとその原因、いかにそれらを予防できるかに関する情報を提供することだった。

フランス

労働における健康に関する現在の国の戦略計画は、職場リスクの予防に強い焦点をあて、機器や職場の設計に関する特別の対策を含んでいる。MSDsは、フランスのビジネスに重要な経済的影響を与えており、全労働関連疾患の87%を占めている。MSDsによって引き起こされる負担の大きさに促されて、健康保険-職業リスクは、2014年に全国レベルの予防プログラム、TMS Prosを開始した。

このプログラムの目的は労働関連MSDsに対処することであった。それはビジネスに対して、労働関連MSDsの有病率を減少させるために、効果的なMSD予防対策を実施するための行動計画の策定に支援を提供する。設計を通じた予防に対するこの強い強調は、長期的にとりわけ効果的であるとひろく理解されており、このイニシアティブはそれゆえより詳細に検討する価値があると考えられた。フランスでは、職業リスクの疫学的監視を改善するためのイニシアティブ(CONSTANCESポピュレーションベースの疫学コホート及びCOSETプログラム)など、多くのほかのイニシアティブも実施されてきたことから、このイニシアティブはよりはばひろい国の文脈のなかで検討された。

ドイツ

ドイツでは労働関連MSDsの発生率が近年減少してきていると思われるものの、なお高いままであり、これに対処して結果として起こる負担を低減させるためのさらなる行動を必要としている。2015年にドイツは、健康増進と予防的ヘルスケアを強化するための法律、予防的ヘルスケア法を成立させた。それは、国の様々な健康保険基金によって全国予防戦略が策定され、全国予防会議を通じて実施されるべきであると規定した。それは、この領域における勧告の策定と共通の目標のための枠組みを提供することによって、社会保障機関、連邦諸州及び地方当局の間における協力のための強力な法的基礎を提供した。全国予防戦略のもとで設定された目標は、共同ドイツ労働安全衛生戦略の諸目標を考慮に入れる必要があった。この法律によって求められた具体的な調整・計画活動及びそれに関連した予算の結果として、この法律は職場におけるMSD予防のための重要な基礎作業を構築した。

この方針アプローチ、すなわち法的条項によって規定された様々なパートナー間の戦略レベルにおける協力は、各組織が別々に各々のイニシアティブを行っていたのでは不可能であろう、ある程度の一貫性と調整を確保するのに役立つ。多くの欧州諸国では健康と労働に関するより全体的な見方を採用することに向けた傾向がひろがっていることから、詳細な検討でこの統合された系統的アプローチを検討することは適切であると考えられた。

スウェーデン

女性が不釣り合いなほど多くMSDsの影響を受けていることを示した統計に促されて、2011年にスウェーデン政府はスウェーデン労働環境機関(SWEA)に「女性と労働環境」の問題を調査する任務を課した(政府決定A2011/2209/ARM)。証拠に基づいた計画・行動を構築することを目的に、この任務は多くのプロジェクトにわたっていた。これらのプロジェクトには、知見の生成やその知見の主要な関係者、すなわち労働条件と労働環境を変える力をもつ者への流布を含んでいた。この任務の期間は2011~2014年であり、ジェンダーと労働に対するその焦点がいまでは「メインストリーム」になり、MSDs予防のための国の戦略に埋め込まれている。

2014年9月にSWEAは、主として女性が支配的な部門における安全衛生を改善するために、前回の任務で学んだ教訓をさらに発展させるという、新たな任務を割り当てられた(例えば、目的のひとつは、「女性の労働環境」に特別の焦点をおいたリスクアセスメントのための利用可能なツールを「生成・作成」することだった)。これは女性にとってだけでなく、それらの部門で働く男性にとっても価値があるだろう。2015年にSWEAはこの作業を継続し、OSHマネジメントにジェンダーの観点を含めるための持続可能なプロセスを開発するために、資金の提供を受けた。

これらのイニシアティブは、相互に補強し合ういくつかの目的をもっている。第1に、女性のMSDs発症リスクが高いことを含め、女性の労働衛生の状況に関する知識と認識を高めること、第2に、SWEAの監督活動のなかでMSDsのリスクを強調するよりよい手法を開発することである。知識と認識が高められることが、職場におけるジェンダー感受性の増加に、また、最終的に男女双方のための労働環境の改善につながることも期待されている。この増強されたジェンダー感受性は、スウェーデンを欧州の隣国の先に立たせ、またそれゆえ、さらに他の場所で役立つ教訓を導き出すために、このアプローチはさらに検討される。

イギリス

イギリスにおける労働関連疾患の発生率は容認できないほど高いままであり、MSDsはこの主要な構成要素であり続けている。一連の戦略・イニシアティブの最新のものとして、「イギリス・ワークウエル・ヘルピング」戦略が2016年に開始され、2021年まで実施される予定である。それは6つの優先課題を決めており、そのひとつは、がんその他の潜伏期間の長い疾病からストレスやMSDsまで、幅広い労働関連疾患に対処することである。この課題の主要な要素には、もっとも費用効果的な戦略である、より早期の予防や労働における健康問題に、より大きな焦点をあてることが含まれている。

この戦略は、安全衛生庁(HSE)の包括的な健康・労働プログラムを通じて運用されており、3つの健康優先課題をもっている。MSDsのためのプランは、MSDsに関連したイギリスの現在の状況を要約し、優先課題の設定と成果の予想を行うとともに、そうした優先課題や成果を達成するための行動を決めることである。また、今後3~5年間のHSEの焦点を決めるために、部門別のプランが策定された。これは19の産業部門を対象とし、「イギリス・ワークウエル・ヘルピング」戦略のなかで設定された、3つの健康優先課題と方向性の両方を反映している。部門別プランの策定には、使用者、労働組合及び専門家団体が協力した。

イギリスで採用された方針アプローチは、多くの他のEU諸国で採用されている相対的に規範的なアプローチをとるよりも、使用者が対策をとり、リスクに対処するのを可能にし、情報を知らせ、促進することに焦点をおいている。多くのEU加盟諸国での規範的法的規定におけるギャップに対する関心に照らして、この戦略は価値のあるオールタナティブと考えられ、それゆえさらなる評価の対象に選ばれた。

知見

選択された介入のいくつかは、その実施を通じて監視され、実施に関する情報が収集されていた(例えば、用いられた出版物の「リーチ」数や展示への訪問者数を記録した広報キャンペーン)。しかし、どの介入についても、それらの評価や労働におけるMSDsの流行減少における成功(または失敗)を記録したものは確認できなかった。本検討のなかで浮かび上がった、何らかのそのような評価に対するひとつの障害は、評価の基礎にすることのできる実行可能なデータの質の不十分さ(または完全な欠如)であった。多くの諸国はそのため代わりに、Eurostatによって収集された労働災害に関するデータとともに、欧州労働条件調査(EWCS)などのEU調査に頼らざるを得ない。

2015年EWCS調査は、過去12か月間に事故報告された健康問題はもちろん、重い負荷の持ち上げまたは持ち運びなど、各個人をMSDsへの労働曝露にさらす程度に関する質問を含んでいた。これには、腰痛に関する1つの質問及び上下肢における筋肉痛に関する2つの質問が含まれる。MSDsの流行に関する有益な一般的状況の絵を提供してはいるものの、データは具体的な諸原因(例えば手作業)に関する洞察はわずかしか提供しない。
EWCSと同じように、Eurostatの労働力調査(LF S)の労働災害その他の労働関連健康問題に関する特別モジュールはまさにまれにしか、すなわち6~8年に一度しか実施されていない。これもまた、相対的に短い介入の影響を測定するためにデータを活用するのを困難にしている。Eurostatは、労働災害(欧州労働災害統計-ESAW)、腰の「傷害」に関するデータを含め、毎年データが収集されている情報に関連した別のデータベースを提供している。しかし、そのデータベースが傷害を「身体的または精神的危害につながる労働のなかにおける個別の出来事」と定義しているために、多くの腰痛の原因である蓄積的傷害を含んでいない。

いくつかの国のデータは、限られた追加的洞察を提供しているものの、そのようなデータの不適切性は課題を示している。例えば多くの場合、データは公的に認定されたMSDsに限定されている。したがって、データは、医療・リハビリサービスなど国の支援インフラはもちろん、MSDsの全般的流行と個々の被災者やその使用者に対する影響の不完全な実態しか示していない。

かかる部門横断的データの別の限界は、そうしたデータソースから因果関係を推測することができないことである。手作業指令の実施に関する評価報告はこの問題に言及している。指令の有効性を検討して、それは以下のように結論づけている。

「報告された障害及び健康問題がその程度手作業と直接関連しているか判断することは不可能である。」

同じ報告書は、以下のように続ける。

「手作業リスクと関連した統計データソースは、それらが通常下に横たわる原因への言及なしに傷害に焦点をおいていることから、理想的なものではない。」

取り上げられた諸イニシアティブはすべて成功したと感じられている(また、フォローアップ訪問によって示されるように、職場と直接関わりをもち、また職場で利用されたものは、現実の変化につながったように思われる)にもかかわらず、MSDsの流行の減少における全体的効果を示す証拠はなかった。

インタビューやフォーカスグループの記録からの情報を含め、選択された6か国の方針イニシアティブの詳細な分析から、成功要因と方針レベルの課題を反映したいくつかのテーマが浮かび上がった。上述したとおり、それらは(評価することができないことから)測定可能な成功を反映したものではないが、重要な要素、すなわち何らかの今後の介入のプログラムにおいて考慮する価値があるであろう要素である。

個々の介入を超えた包括的問題のひとつは、法令及びその恩恵の問題である。既存のものよりもより包括的な範囲のMSDリスクをカバーする、MSDsに特化したより規範的な法令に対する圧力がある一方で、いくつかの諸国は、使用者にMSDsに関連した職場ハザーズやリスクに対処する一定の措置を講じることを求める詳しい法令をもっている。かかる圧力は、現在のプロジェクトの一環として実施されたファーカスグループのなかでなされたコメントで明らかであり、EUのOSH指令の事後評価の一部として記録されてもいる。しかし、(フォーカスグループで報告されたように)多くの諸国で、使用者が既存の法令の要求事項に適切に対応しておらず、ごく少数の企業はプロセスにまったく関与できていないという証拠があることから、法令をMSDsの流行を減少させるうえでの困難に対する解決策として提示することはできない。

方針分析において確認されたテーマ

この研究から一連の中心的テーマが浮かび上がるとともに、それらは職場におけるMSDs予防のための今後の方針レベルの介入を支えるはずである。

トップレベルの優先課題化、関与及び資源提供

MSDsの複雑性と多因子性は、国の労働衛生インフラのなかで孤立して作用する単一のアクターによってでは、それらに容易に対処することはできないことを意味している。成功するためには、方針は、トップからはじまる、すべてのアクターによる関与と優先課題化を必要とする。特定産業のイニシアティブの場合には、政府よりも産業内の関係者の関与のほうがより効果的でありそうであるものの、国の取り組みの場合、これには政府/政治的優先課題化が関わるかもしれない。そのような関与は、それが具体的に行動に移されるのを確保するための適切な資源提供なしには効果的でない。

関係者の間の協力の促進

プロセスに巻き込むことは、人々がそのプロセスに関与するようになるのを助ける。これは、戦略レベルの介入または個々の職場介入が計画されるかどうかに適用される。介入・行動のレベルに関わらず、リスクの把握及びリスク管理または予防介入戦略(または職場対策)の確認、策定及び導入にすべての関係者を関与させることには、疑いのない価値がある。

積極的な動機付け

否定的及び肯定的双方のインセンティブが、職場変更の成功に有効であることは明らかである。それらの有効性の程度は、国の文化や変化の認識に大きく依存している。公的な監督の役割-及びそれとともに違反が確認された場合の懲罰措置の脅威に対するはばひろい支持がある。しかし、ある国(フランス)では、監督が使用者にやる気をなくさせることはないと思われていることが示唆された。

情報と教育は価値があるものの、とりわけ社内の経験が不十分な小さなビジネスでは、それらが不十分なことも多い。それゆえ、現物給付または金銭的どちらかの、直接的な支援及びガイダンスは、使用者が対策を講じるのに肯定的なインセンティブを提供し得る。

(費用対効果分析を通じた)職場介入の利益を宣伝する多くの努力にもかかわらず、ビジネスはそれらを指示的、侵襲的、破壊的なものとみなす可能性がある(また、これが彼らがよく訓練をひとつの「解決策」として使う理由のひとつである)。(適切な場合には金銭的インセンティブを含め)焦点を絞った支援が、変化のためのインセンティブを提供するとともに、より有効な予防措置の採用を促進するのに役立ち得る。

首尾一貫した計画立案

あまりにも多く、介入ロジックの十分な検討または期待される変化が生じると見込まれる方法と理由を説明する変化の理論の開発なしに、介入が行われてきた。方針レベルの介入は、明らかに考え抜かれた介入ロジックをもち、また、MSD予防は職場の安全衛生を促進するのに必要な統合された取り組みの一部であるという事実を無視することなく検討された、首尾一貫した計画立案を必要とする。

ひろい視野の採用

諸問題を区分するひろがった傾向が存在しており、これは複雑なMSDsにとってとりわけ事実である。労働者はある組織のなかで孤立した個々ではなく、一般に、身体的、心理的または社会的視点なしに、ある者をたんなる職務遂行者とみることはできない(またはみるべきではない)。労働者は労働の外部でMSDリスクに曝露しており(例えば、個々の労働者は家庭で一定程度の挙上や移動を伴う介護の責任を負っているかもしれない)、また、結果としての彼らの感受性の変化が職場で考慮されなければならないという事実に対する認識がひろがっている。(「生涯」の視点として言及されることも多い)様々なシナリオにおいて幅広い影響に反応する、実質的に「統合された主体」としての人間労働者に注意を払う文化が不可欠である。それによって労働衛生と公衆衛生が統一的エンティティとみなされる、よりはばひろいアプローチに向かうことがポジティブなステップと考えられるが、これはまだ全加盟国で生じてはいない。

持続性の提供

方針レベルの取り組みは、それが完了したからと終わってしまうべきではない。それらは継続的に評価及び改善されるべきであり、新たな(またはリフレッシュされた)取り組みが、前に行ったことの経験及び介入の有効性を改善する経験に基づいて、策定されるべきである。

予防的アプローチの促進

いくつかの諸国では、労働におけるMSDリスクに対処するためのよく確立されたチームが存在している。しかし、そうしたチームは、予防的やり方よりも、また、そもそもそれが生じるのを予防するための措置を講じるよりも、問題が生じた場合にのみ行動を開始する、反応的やり方で行動することも多い。MSD関連法令は予防経路を設定するものであり、これはMSDsの発生を予防するためにより促進されるべきである。

OSH法令に具体化された予防経路は、適切な場合には、一次的、二次的及び三次的措置の重要性を認めている。しかし、法令は、一次予防に優先順位を置きつつ、明確なヒエラルキーとしてこれらを確立している。ファーカスグループの議論及び他の場所での経験による証拠は、多くの使用者が、「容易」な三次措置の手作業訓練を採用し、主要なリスクを「取り除く」ことのできる職場設計措置に適切な考慮を与えていないことを示唆している。しかし、傷害を負った者が雇用に復帰または残留するのに役立つよう設計されたリハビリ措置を行うように-訓練のような措置が役割を果たす場合もあることは認められなければならない。労働者が職場に合わせることを期待するのではなく、労働者に職場を合わせることとともに、人間を中心にしたアプローチ-人間工学の中心的信条-が不可欠である。

人間工学の役割と人間工学的教育の強化

人間工学の専門的技能の必要性がこの研究のなかで強調されてきた。人間工学は、解決策を策定し、リスクの把握と職務の再設計に人間工学的アプローチをとるのに、設計者、技術者その他の者との連携を可能にする。人間工学という分野は、直接職場に関係した物理的ハザーズだけに関係するのではなく、労働組織やよりはばひろい組織的環境の役割を追求する、「システム」アプローチであることを理解することが重要である。
これは、人間工学がまったく専門的人間工学者の責任であることを意味するものではない。経験は、設計、工学や心理学を含め、他の分野が人間工学の知識と認識から利益を受けることができることを示している。専門家が自らの作業に人間工学の諸原則を適用できるようにすることはもちろん、そのような知識と認識は異なる分野の間のコミュニケーションを促進するのにも役立ち得る。例えば、多くの諸国は、その監督官に人間工学訓練を提供するものと理解されている。こうした専門家グループを超えて、他の諸グループ(例えば労働者自身)も、適切な人間工学認識訓練から利益を得ることも示唆されている。

https://osha.europa.eu/en/publications/summary-prevention-policy-and-practice-approaches-tackling-work-related-musculoskeletal/view

■労働関連筋骨格系障害(MSDs)=欧州で最多の労働関連健康問題に対処するキャンペーンを開始~いまこそ行動するとき:EU-OSHA(欧州労働安全衛生機関)/2020年10月12日
■労働関連筋骨格系障害(MSDs): EUにおける広がり、費用及び人口統計 欧州リスク調査所 2019.11.15
■労働関連筋骨格系障害:なぜまだそれほど流行しているのか? 文献レビューによる証拠 2020.5.4 概要報告書:欧州リスク調査所
■予防方針・慣行:労働関連 筋骨格系障害に対処するアプローチ 2020.5.19 概要報告書:欧州リスク調査所
■労働関連筋骨格系障害:研究から実践へ、何が学べるか? 2020.6.9 概要報告書:欧州リスク調査所
◆災害性腰痛は全職業病の4割、非災害性では上肢障害が最大-日本における筋骨格系障害の状況(2020.12.24)
◆本ウエブサイト上の筋骨格系障害関連情報