労働関連筋骨格系障害:研究から実践へ、何が学べるか? 2020.6.9 概要報告書:欧州リスク調査所

要約

はじめに

この報告書は、「労働関連筋骨格系障害(MS Ds)の予防に関する研究、慣行及び方針のレビュー」研究プロジェクトを構成する3つの要素を要約するものである。第1の要素は、欧州連合(EU)でMSDsの高い流行が継続している理由を検討するとともに、予防慣行におけるギャップを確認した調査レビューであった。第2は、MSDsに対処する戦略、方針及び対策がもっとも効果的である条件に関するよりよい理解を得るための、EU諸国全体及びEUを越えた、広範囲に及ぶ方針分析であった。第3の要素は、フォーカスグループを通じて、職場レベルで何が生じているか、また、インタビューを通じて、MSD予防における様々な戦略及び方針の役割を調べるために、6つのEU加盟国で実施されたフィールドリサーチである。

このプロジェクトは、過去30年にわたる数多くの様々な戦略、キャンペーン及び方針イニシアティブにもかかわらず、(いくつかの諸国で相対的に小さな減少はあったものの)EUにおけるMSDsの有病率が減少していないことから実施された。現在のプロジェクトは、以下に焦点を置いている。

  • 労働関連MSDsに寄与する諸要因との関連で新たな及び現出しつつあるリスク及び傾向に関する知識を改善するとともに、関連する諸課題を確認する。
  • 方針及び職場双方のレベルにおける、労働関連MSDsに対処するための現在の戦略におけるギャップを確認する。
  • 職場介入及びリスクアセスメント・アプローチの効果及び質を調査する。
  • より効果的なMSD予防のための新たなアプローチを確認する。
方法

予備的文献レビューのために調査質問項目を開発し、文献の最初のスキャンから、MSDsの高い流行の継続に関連した仮説を導き出した。その後、各仮説を裏付けまたは反証するために、体系的な検索を通じて確認されたさらなる文献を検討した。レビューの一環としてデータギャップも確認した。

方針分析は机上アプローチをとり、EU内及び外部からの少数の国のフォーカルポイントによって共有された合計142のイニシアティブをレビューした。この分析に基づいて、その方針及び戦略の詳細な分析のために6つのEU諸国を選択した。それら諸国は、オーストリア、ベルギー、フランス、ドイツ、スウェーデン及びイギリスだった。

フィールドワークは2つの目的をもった。第1は、方針レビューのために選択された6か国各々において実際に何が生じているか調べること。これは選択された各国の実践者との一連のフォーカスグループを通じて調べた。第2の目的は、方針策定者及び方針実施者のインタビューによって、方針実施の成功要因及び障害を確認することだった。

現実及び政策措置におけるギャップを確認するために、3つのプロジェクト構成要素からの知見を合成することによって、包括的分析を行った。その後MSDsに関する専門家らと検証ワークショップを開催して、プロジェクトの成果の概要を共有及び議論した。

予備的調査文献レビュー

予備的調査文献レビューの目的のひとつは、なぜEUでMSD有病率が高くあり続けているのかに関するわれわれの理解を改善することだった。確認された要因には、知られたMSDsリスク要因と評価される要因の範囲の間に断絶のあるリスクアセスメントの使用が含まれていた。また、従来のリスクアセスメント・アプローチは、複数のハザーズの複合効果を考慮するよりも、個々のリスクに焦点を置いている。

さらに、EU内で採用されたMSDsに対する戦略アプローチは、リスクの予防に焦点を置いていたものの、2005年以降収集されたEUのデータセットは、物理的リスク要因への曝露に減少がなかったことを示唆している。労働は変化しており、また異なる部門に雇用される者の数も変化しているものの、ほとんどの部門にまたがってMSDリスクへの曝露に即時の減少はなかったように思われる。高齢労働者はMSDsのリスクによりさらされることから、高齢労働者の増加も有病率に影響を与えている。影響を受けやすい労働集団である高齢労働者のMSD症状を悪化させないために、職場を設計する方法に関するデータにギャップが存在している。若い労働者も職場に入る前に高いレベルのMSDsを報告しているが、ここでも影響を受けやすい労働集団として、彼らが労働力人口に入ってからの特別のニーズに配慮が与えられるべきである。加えて、女性は男性よりもMSDsをより報告する可能性があり、また、男性によって報告されるものとは異なる種類のMSDsを報告している。同じ仕事のなかで、女性は男性の同僚とは異なる職務を行っている可能性があることを示唆する証拠があり、リスクアセスメント及び予防対策は、各職名のもとでのすべての関連する職務を評価して行うよう確保することが不可欠である。
事務所、製造及び建設における技術的変化を含め、新たな働き方がいつでも働ける可能性を高めるとともに、柔軟性を高める可能性がある。しかし、研究はそのような変化とペースが合っておらず、スマートフォン、ロボット、コボット(協調型ロボット)及び外骨格[パワードスーツ]など、新たな技術の影響との関連で研究のギャップが存在している。

この新たな労働の世界では、新たな契約上の取り決めも行われつつある。新たな、より正式でない労働契約は、多くが自営業者とみなされるであろうことから、このやり方で働く個々人にとって労働安全衛生(OSH)保護の喪失があるかもしれないという懸念を引き起こしてきた。電子小売[E-リテール]の成長も、倉庫での商品取り出しや配達運転手などの仕事で雇用される者の増加につながり、しばしば個々の労働者にとって「仕事ごとの支払い」契約の増加を伴い、疲労、MSDsやストレスに対する懸念を高めている。労働プロセスの変化や新たな技術は物理的曝露を減少させるかもしれないが、多くの職場では労働システムにおける人間に対する配慮を欠いており、さらなる研究を必要としている。もうひとつの問題は、デスクワーク労働力の増加が新たな健康上の懸念を生じさせいるのに、それに対して限られた手引きしか利用できないことである。

個々の行動もMSDsと関連しているとは言うものの、個々人の健康に誰が責任を負うのかに関する幅広い議論が進行中である。MSDsに関連した職場健康増進研究は現在限られているが、健康増進が実施されている場合にMSDs報告の減少を示した研究がある。しかし、MSDリスクの間の相互接続性を完全に評価することに失敗し、自らの責任を労働で起きていることだけに限ると考えている組織もある。

職場で適用することのできる介入も不足、また介入の評価も不足したままである。これは会社がリスクを理解し、効果的な予防措置を実施するのに役立っていない。

フィールドワークによる証拠

予備的調査レビューが、研究の評価に焦点を置いたのに対して、フィールドワークは、実際に何が生じているか確認することを目的にした。

確認されたギャップのひとつは、組織によるリスクアセスメントの完了の欠如である。第2回新たな及び現出しつつあるリスクに関する欧州企業調査(ESENER-2)は、76%の事業所がMSDリスク要因についてリスクアセスメントを実施したと報告したことを示しているものの、フィールドリサーチの一部として得たフィードバックは、MSDリスクアセスメントの完了率は50%と推計した。SENER-3調査は、(MSDを対象にしたリスクアセスメントではなく一般の)リスクアセスメント未完了の原因に、リスクがすでに知られている、大きな問題は確認されなかった、及び必要なノウハウの欠如、が含まれることを示した。これらのデータから明らかでないことは、これらの事業所では評価するハザーズが少なかったのか、何をどのように評価するのかに関する知識を欠いていたのかどうかである。

大きな事業所はリスクアセスメントを実施する可能性が高いと考えられるが、定性データはそうした事業所であってさえも、常に完了しているわけではないことを示唆している。データは、中小企業(SMEs)は書面によるリスクアセスメントをもっている可能性が低く、それは彼らが、ノウハウ、経営上の支援や金銭的支援を含め、リソースが相対的に少ないためと考えられた。

リスクアセスメントの不適切性もギャップのひとつとして確認され、より幅広い認められた諸リスクよりも、EU指令のなかで確認されたリスクだけに焦点を置いているものと考えられた。スウェーデンから良い事例が報告されたものの、研究による証拠と実際の間には一般的ギャップが存在している。リスクアセスメントの焦点の狭さに加えて、フィールドリサーチでは、リスクアセスメントが、労働プロセスの設計段階よりも、(何かうまくいかないときの)後からの思い付きとして行われることが多いことも指摘された。多様性(例えばジェンダーや年齢)が配慮されることの少ない、評価されなければならないリスク(一般的に物理的リスク)にしか焦点が置かれないことに加えて、これを考慮すれば、リスクアセスメントが不十分と認識されていることはおそらく驚くべきことではない。

予防慣行に関しては、目立った例外はあったものの、使用者によって用いられる主要な慣行は、一般的な手作業に関する訓練、職務転換及び挙上補助であった。2か国で多レベル慣行の良い事例が確認されたものの、これは証拠と実践との間の大きなギャップを強調するものである。どちらのアプローチも、根本的な仕事または職務設計に対処するものではないことから、訓練または職務転換がリスクを減少させるという思い込みを切り替えることが必要である。確認された他の解決策には、労働者の自己選択、仕事に合った労働者の募集及びアウトソーシングが含まれるが、どれも根本的なリスクに対処するものではない。挙上補助は利用できるようになったものの、通常は利用されておらず、そのことはそれらが職場でどのように実施されているかという疑問を生じさせた。リスクアセスメント及び予防対策への労働者の参加についてのいくらかの要求事項はあるものの、これが常に法的要求事項であるとは限らない。しかし、労働者の参加は有益であると考えられた。労働者を巻き込んだ参加型アプローチをとることは、解決策を立てる際に自主性を獲得するのに役立ち得る。

データの欠如は、職場及び国双方のレベルで、「不十分なMSD予防に寄与」するひとつの要因であると考えられた。収集されるデータは予防対策を知らせず、そのようなデータはしばしばすぐに利用できるものではない。例えば、健康調査データは職場における変化を知らせるために活用でき得るが、そうしたデータはプロセスに関わりのある者にとって常に利用できるとは限らない。関係するデータの収集及び利用のためには、良いOSHシステムが必要である。

介入の影響の評価の欠如も、ひとつのギャップとして確認された。それが研究プロジェクトの一部として行われたのでない限り、評価はまれにしか行われていないことがわかった。介入研究の不足が、効果的な予防慣行の知識のベースの発展を妨げてきた。影響の評価に関する研究は増加しており、新しいツールが利用可能である。2か国(ドイツ及びイギリス)は現在の戦略を今後評価することを計画しているが、多くの諸国ではそのような評価は限られている(または存在していない)。

レビューは個々のレベルのライフスタイルがMSD発症と関連していることを確認したものの、MSD予防における職場健康増進の役割は不明瞭なままであり、個々人の健康に対する使用者の責任の程度はなお調査、同意及び議論される必要がある。MSDリスクは職場に限られたものではなく、労働者の一般的健康がMSDリスクへの影響の受けやすさに大きな影響をもちうることから、OSH慣行との連携が必要である。

労働と職場が変化しつつあるなかで、「インビジブル」な労働者に対する懸念がある。それは、(「偽自営業」と呼ばれることもある)ギグ経済の一部としての親企業により「自営業」とされた者たちである。いかにOSH保護を確保することができるか確認するために、彼らの状況は評価される必要がある。新たな技術については、ロボットやオートメーションと関わって働く者に対する人間と機械のインターフェイスの影響に関する証拠の欠如とともに、焦点がプロセスに関わる人間よりも、機械に置かれているように思われる。

方針分析

方針分析の目的は、その実施に対する成功要因と障害を確認するために、国の方針、戦略及びプログラムの役割及び有効性を調べることだった。方針分析は、優先順位付けや資源提供を含め、効果に影響を与える多くの要因を確認した。これに関連して、職場に滝のように降りる変化を可能にするための政治的優先順位付けの必要性が確認された。MSD予防以外の優先事項が進められつつあることが影響しているようである。MSDsは持続的な問題であり、国の諸機関が限られた資源のなかで多重の要求に直面していることが理解されなければならない。多くの諸国が限られた関与しか示さず、明確な予防戦略をもっていないように、MSDsはそれが必要とする持続的な注意をもたれてこなかった。

本プロジェクトや他のプロジェクトが、EU指令の既定の適切性に関する重要な疑問をなげかけている。多くの諸国で、それら指令によって形成されているところの多い、国の法的要求事項が強力な推進力のひとつと考えられているにも関わらずである。スウェーデンはこのことを理解し、より幅広いMSDリスクを含めるように国の法令を拡張してきた。ドイツも、MSD予防を支援及び強化するために、追加的な戦略的な法令の規定を採用してきた。適切な執行なしには、法令上の変化は影響を与えないことも理解されなければならない。ここでもトップレベルの関与及び優先順位付けを必要とする、必要な監督の体制及び資源提供が行われているよう確保することが不可欠だろう。

しかし、いくつかの諸国が、イニシアティブと関連した持続的なアプローチを採用し、そうすることによってMSDsとその予防の重要性に関する明確な理解を示してきたことも、認められるべきである。

多くの介入は対象が限られており、例えば、MSDsのリスクがもっとも高い特定の部門に焦点を置いている。にもかかわらず、MSDsはすべての部門にまたがって発生していることが忘れられるべきではなく、より幅広い焦点が採用され、注意喚起を目的としたキャンペーンがより広範囲にいきわたることが基本である。

注意喚起キャンペーンはよくある介入のひとつであるが、注意喚起は必須ではあるものの、行動を刺激するには十分ではない。これは(金銭的資源、時間や知識を含め)資源不足によるものかもしれず、多くのイニシアティブがこれに対処しようと試みている。そうしたイニシアティブには、典型的には使用者と労働者が協力するアプローチを用いる、リスクアセスメントや解決策の確認において専門的ノウハウへのアクセスを可能にするものが含まれてきた。そのようなイニシアティブはより持続的な解決策を提供するだろうが、なお職場変化の費用に対して使用者がもつ懸念が対処される必要がある。

多数のイニシアティブが、関係者からの協力的支援やガイダンスの提供を追求し、また、それを有益であると確認してきた。協力の利益は、支援と協力の長い文化をもつ諸国において、とりわけ明らかである。保険者や補償機関を含め、他の主体や仲介者も潜在的に、MSDsリスクの確認及び予防に役割を果たすことができる。それらの関与は、保険者の役割が法律に規定されている場合に、とりわけ効果的であるように見える。

様々な諸国における援助及び支援の提供者には、(監督官を含め)政府機関、保険提供者及び労働衛生サービス提供者が含まれてきた。確認された利益のひとつは、ローカルレベルで支援を利用できるようにすることである。介入に関与する提供者の訓練も、提供者の間で良いレベルの認識を確保するうえで、重要な利益であるように見えた。予防介入を支援するマルチスキルのチームをもつことも、成功を助けるうえで価値があるように見えた。

MSDsとの関連で影響を受けやすいとみなされる労働者には、若い労働者とは違って、EU法令によって具体的に保護されていない高齢労働者を含めるべきである。(例えば、女性労働者移住労働者など)他の労働者集団も考慮されるべきである。鍵となるメッセージは、いかなるイニシアティブにおいても、そのような影響を受けやすい労働者と彼らの必要性が明確に考慮されなければならないということである。また、イニシアティブは、例えばSMEsや特定部門の対策に焦点を置くなど、他の種類の集団を対象にすることもできる。目標設定は、必要性のもっとも高いと思われる者に注意をあてるのに役立ち得るが、それはまた、ガイダンスや情報を特定の聴衆向けにあつらえることも可能にする。

例えば、SMEsを予防プロセスに調印するよう説得するなど、対象集団中のすべての関係者の関与をうることは困難かもしれない。しかし、関与は、上級管理者、ライン管理者や労働者を含め、全員に拡張する必要がある。労働者も変化に関与しなければならない。例えば、患者取り扱い機器を実施できるように職場を設計する必要がある場合には、機器の使用に時間がかかり、労働者は機器の使用に関わる必要があるために、組織的変更が必要になるかもしれない。

過去20年間に膨大な数の実施戦略があった。それらのいくつかは、包括性を欠き戦略間に継続性のない、断片的なアプローチをとってきた。何が機能するかを調べるためには、介入の論理または変化の理論をもち、評価を含んだ、方針レベルのイニシアティブの計画策定が不可欠である。

予防に対してより広いアプローチを採用することは、MSDsが職場だけで引き起こされるものではないことを理解することである。いくつかの諸国では、ライフスタイルや健康行動のより幅広い役割を含め、MSDsの多要因的性質を認めた研究によって推進された。公衆衛生の側面を含めるように介入の対象範囲を拡張することは、MSDsの予防における個々人の健康、物理的リスク及び心理社会的リスクの統合を促進するかもしれない。

予防の役割は理解されているものの、主要な焦点が、リスクアセスメントに置かれ続けている。

これに関連するのは、EUのOSH指令の基礎になっているもともとのコンセプトと理解される、諸リスクアセスメントの意図的統合というよりはむしろ、一連の非常に多くの異なる諸リスクアセスメントが必要であるという認識である。この信念は使用者にとって大きな障害であり、多くの使用者がその職場でリスクアセスメント・プロセスにまったく関与していない理由を説明するのに役立つかもしれない。予防の側面は(源におけるリスクの予防が優先される)予防に対するヒエラルキー・アプローチのなかでよく確立されているとはいえ、このメッセージが職場に届いているようには見えない。これは、職場の変更には費用がかかり、訓練や職務転換のほうが安い選択肢で、実施も容易であるという認識によるものかもしれない。そのような措置は、適切に適用された場合には役割があるものの、リスクを取り除きはしない。長期的利益を得るようにできることから、人間工学を設計及び工学プロセスに統合する長期的アプローチが必要である。

成功要因、課題及び障害

優先順位付けと資源提供が、MSD予防を改善する重要な対策として確認された。加盟諸国のOSHインフラ及び慣行に違いがあることから、単一のアプローチを規定することはできない。

関係者の関与も不可欠であり、様々な関係者の異なるスキルをまとめあげることは、リスクアセスメントと予防に対する学際的かつより全体的なアプローチを開発するのに役立ちうる。

ポジティブ(専門的ノウハウへのアクセスや職場変更のための資金提供)またはネガティブ(非順守に対する罰金)なものでありうる、インセンティブも役割を果たすかもしれない。ポジティブ・インセンティブは、企業の関与を促進するうえで、ネガティブ・インセンティブよりも大きな影響をもつように思われる。

介入の計画策定の不十分さが大きな課題のひとつであり、計画なしには良い評価はありそうもない。実施、介入、介入の論理及び評価の計画策定を含め、介入の計画策定のためのより一貫したアプローチが必要である。ドイツ及びイギリスの長期的アプローチの良い事例を本報告書で紹介している。

リスクアセスメントに焦点を置き続けることは見直す必要があり、法令によって呼び出されるように、予防の経路がより厳密に利用される必要がある。

OSHに関連して強調されることは、安全に対する焦点から、健康問題の重要性を理解したものへと変えることである。本研究における目的のひとつは、後の生涯における障害のリスクを含め、MSDsの長期的影響に関する理解を改善することであった。そうした影響は十分に理解されておらず、方針に対して知らせる質の良い証拠の不足につながっている。

監督と執行は、MSD予防における強力な武器と見られたが、この知見は、監督の可能性と同様に、監督官の数が減少していると認識されているときに得られている。焦点を絞った監督活動は数のこの減少を埋め合わせるかもしれないが、リスクが高いとは認識されていないが、にもかかわらずMSDsの著しい発生がある部門に、このことがどのような影響をもつかは明らかでない。

人間工学は、リスクアセスメントと解決策の策定双方との関連で、MSD予防において鍵となる役割を果たすものと広く理解されている。いくつかの諸国では、人間工学者がときには中核予防チームの一員であるものの、これが常に当てはまるとは限らない。焦点は、人間工学を人間工学者にまかせ続けることにではなく、人間工学的知識及び意識が関係者の間及び、可能性としては労働者の間で共有されるのを確保することである。

法令については、方針インタビューとフォーカスグループの双方で議論され、法令が時代遅れになっているという懸念がある。しかし、スウェーデンで起きたように、加盟諸国が彼らの国の法令を拡張するのを妨げるものもない。法令に関するさらなる議論には、相対的に不安定な契約の労働者を保護する問題を含める必要がある。

MSD予防にどのような新しいアプローチが役立ち得るか?

方針対応

以下を含め、多数の方針レベルの対応が本プロジェクトの一部として確認された。

  • トップレベルの関与及び資源提供
  • 社会パートナー及び他の関係者の間の協力
  • ポジティブなインセンティブ
  • 一貫した計画策定及び統合
  • 幅広い視点の採用
  • 継続性の提供
  • 予防的アプローチの促進
  • 人間工学及の役割び人間工学教育の強化

仲介者のための対応

以下を含め、多数の仲介者のための対応が本プロジェクトから確認された。

  • 追加的リスクを含めるようにするためのリスクアセスメントに対する幅広い視点の促進
  • 証拠に基づいたアプローチを可能にするためのデータの収集及び活用の促進
  • リスクアセスメント及び予防対策における労働者参加の積極活用の促進
  • 例えば高齢労働者など、影響を受けやすい労働者を考慮することによるリスクアセスメントにおける多様性の考慮の改善
  • リスクコミュニケーションに使われるツール及び予防のメッセージが読みやすく理解しやすいことの確保

結論

「労働関連筋骨格系障害(MSDs)の予防に関する研究、方針及び慣行のレビュー」プロジェクトは、「なぜ職場におけるMSDsの問題が続いているのか?」という疑問にこたえることを目的とした。プロジェクトは、方針レベル及び職場における方針の実施の双方において、多数のギャップを確認した。それらは、以下に掲げるとおりである。

  • MSDsについてのすべての知られたリスクをカバーしているのではなく、法令上の枠組みの欠陥
  • リスクアセスメント及び予防プロセスをかみ合わせることの失敗
  • SMEsについての課題及びSMEsの関与の失敗(しかし、関与の失敗はSMEsでのみと思い込むべきではない)
  • リスクに関する狭い焦点のゆえの関連するリスクの性質及び規模を完全に理解することの失敗
  • MSDリスクを最善に予防する方法に関する理解及び職務転換や訓練に対する焦点から作業設計に対する焦点への移動の欠如
  • 費用対効果メッセージをより利用しやすくする必要性
  • 人間工学及び潜在的MSDリスクの考慮を労働システム(職場、作業機器、作業慣行等)の設計に統合する必要性
  • 長期的視野をとる必要性;源における予防が最善の解決策を提供するという明確な認識が存在している

本プロジェクトは、方針レベル及び職場レベル双方における多数のギャップを確認したが、それらを埋めるためには、様々な関係者を巻き込む凝集したアプローチを必要とするだろう。質の良いデータを欠くことは、職場及び方針双方のレベルに影響をもっている。リスクアセスメントに対する焦点は変える必要があり、これはトップからの関与を必要とし、グッドプラクティスを共有することは、関係者すべてに役立つだろう。予防における人間工学及び作業設計の役割に対する理解の欠如があるように思われる。これは改善され、人間工学的知識が、設計者、技術者及び予防対策に関わる他の者を含め、関係者で共有される必要がある。

勧告

本プロジェクトによる勧告には、以下が含まれる。

  • その欠陥をよりよく理解するととともに、それを是正する効果的な方法を確認するために、(EUレベル及び/または国レベルにおける)法令環境を調べるべきである。
  • 国レベルでは、以下の理由を理解することが重要だろう。
  • なぜ(とくにSMEsにおける、しかしSMEsに限らず)多くの使用者が、リスク予防プロセスに関与するのに失敗しているのか。
  • なぜ多くの使用者の焦点が、リスクアセスメント及び限られた数のリスクのアセスメントに置かれたままなのか。
  • 当然の結果として、幅広いリスクを組み込み、ジェンダー、年齢及び影響を受けやすくさせる他の潜在的原因が考慮されるのを確保するために、そうしたリスクアセスメントの対象を広げる方法が確認されるべきである。
  • できれば利用可能性を高めるために業種別のものとして、現実的かつ効果的なリスク予防措置に関して、使用者にさらなるガイダンスが提供されるべきである。
  • 介入の公式な影響評価を含め、方針イニシアティブの系統的な計画策定及び実施が確保されるべきである。
  • すべての確認済みのリスクを含めるようにリスクアセスメント・ツールが最新化されるとともに、累積リスクを評価する手段を確認するために研究者や実践者が支援を受けられるべきである。
  • リスクアセスメントに対する焦点は、職場におけるリスクアセスメント及び予防対策に対する焦点へと変えられるべきである。グッドプラクティスを共有することが、これを促進するかもしれない。
  • 予防及び職務設計に対するシステムアプローチを採用して、源でリスクを除去する手段として、作業設計及び人間工学に対して焦点を置くよう、予防対策の範囲が広げられるべきである。
  • すべての組織、とりわけSMEsが予防対策において支援を受けられるとともに、無料の助言や解決策のための資金提供など、このためのインセンティブが考慮されるべきである。
  • アセスメントの妥当性を高めるとともに、確認された予防対策の受容を改善するために、リスクアセスメント及び予防対策に労働者が参加すべきである。
  • 方針レベルでの評価及び職場レベルでの介入を知らせることのできる、国及び組織レベルにおける評価を可能にするために、有効かつ有用なデータ収集ツールが設計されるべきである。
  • 人間工学者及び職場で人間工学的知識を適用する任務を負った他の者のために、人間工学的知識が最新かつ適切なものに保たれるべきである。

https://osha.europa.eu/en/publications/work-related-musculoskeletal-disorders-research-practice-what-can-be-learnt/view

■労働関連筋骨格系障害(MSDs)=欧州で最多の労働関連健康問題に対処するキャンペーンを開始~いまこそ行動するとき:EU-OSHA(欧州労働安全衛生機関)/2020年10月12日
■労働関連筋骨格系障害(MSDs): EUにおける広がり、費用及び人口統計 欧州リスク調査所 2019.11.15
■労働関連筋骨格系障害:なぜまだそれほど流行しているのか? 文献レビューによる証拠 2020.5.4 概要報告書:欧州リスク調査所
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■労働関連筋骨格系障害:研究から実践へ、何が学べるか? 2020.6.9 概要報告書:欧州リスク調査所
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◆本ウエブサイト上の筋骨格系障害関連情報