(社)日本石綿協会に対する要請及び回答/石綿対策全国連絡会議 2005年7月6日要請-2005年8月29日文書回答
貴下、ますますご清栄のこととお喜び申し上げます。
貴協会とはこれまで、立場の違いを超えて、真摯に情報・意見の交換等を行うことができてきたものと信じております。
とりわけ、2001年2月9日、2002年9月5日と、意見交換の場を持つことができ、協会としてアスベスト使用の早期中止の英断をという要請には同意いただけなかったものの、私どもの要望に応じるかたちで、「石綿建築材料等の製造時期等一覧表」を作成、公表(http://www.jaasc.or.jp/→日本石綿協会は、2012年4月に一般社団法人 JATI協会 http://www.jati.or.jp/ に移行している)していただいたことは、貴協会の社会的責任を果たそうという意欲の一端を示すものと受け止めております。
また、現在この一覧表について、「平成13年8月の時点の調査結果をまとめた資料であり、現状と異なります。平成16年10月1日以降は石綿含有建材の製造は行っていませんので、現在、再調査を行って本資料の改訂作業中です。(平成16年12月1日)」とされていることについても、改訂資料の早期公表を期待しているところです。
一方で、アスベスト被害に関する社会的関心が高まるなかで、貴協会の中心的企業が相次いで、その企業責任に基づいて、過去のアスベスト使用の実態およびその労働者のアスベスト健康被害の状況を公表しつつあるという状況にかんがみ、以下の要請をさせていただく次第です。
何卒真摯にご検討いただき、可能な部分から順次、速やかにご回答いただければ幸いです。また、回答に対する話し合いの場を設定していただくよう合わせて要請させていただきます。
【回答】( 社)日本石綿協会は現在、29社2団体となっており、構成は、石綿の処理を扱う会社(4社)と商社・代理店(2社)で残りの23社のうち、数社(石綿製品の輸入・販売)を除き過去に石綿製品を製造した会社が会員となっています。
このような会員構成のため、(社)日本石綿協会は、財政基盤が乏しく、協会そのものの維持が困難な状況となっています。
しかし、過去に販売した製品、使用中の製品の解体・改修における石綿によるばく露防止対策を周知させ、実行させることが当協会の指命と考え、この点に関し、種々対応を図っているのが実状です。ただし、昨今のアスベスト問題の状況に鑑み、経済産業省の協力を得ながら、当協会の事業範囲外に関しても対応できる点は対応していきたいと考えています。
従って、貴石綿対策全国連絡会議からの要請事項に対して、回答に応えられる点と、応えられない点が多々ありますことをご了承ください。
- 貴協会(および貴協会傘下団体)の現在および過去に所属したことのある企業・事業所のリストを公表していただくこと(加盟最後の時点の住所・電話番号およびご存知であればその後の状況や連絡先等を含む)※ ホームページ掲載の2004年5月31日時点の社員名簿では33社・団体ですが、例えば、1974
年1月現在の名簿(「石綿」紙No.337・338)では約250社・団体が記載されており、過去にアスベ
ストを輸入・製品製造等を行っていて、現在は廃業・退会等している企業・事業所の情報を、現時
点で明らかにしておくことはきわめて重要と考えられます。
【回答】 本件に関し、当協会としては、公表することに支障はありませんが、過去の会員に関しては、ビジネス上の妨害にあたる可能性があり、ただちに公表することはできませんので、過去の会員に関しては、公表の同意を得た上で、進めていきたいと考えています。
なお、過去の官庁の委託研究で会社名・住所等が公表されている資料に関しては、掲載の方向で検討していきたい。 - 貴協会加盟以外のアスベスおよびアスベスト含有製品の輸入・製造・取扱・使用等をしたことのある企業・事業所のリストを公表していただくこと。
【回答】 本件に関し、当協会としては、会員以外の情報はもっていません。
上記1.の回答と同じです。 - 上記1.2.の企業・事業所に対して、過去のアスベストの種類別使用量、アスベスト含有製品の製品名・製造期間・製造量・含有率等の情報を開示するよう働きかけるとともに、貴協会として集約・公表することを検討されたい。
※ 私どもは、今回の各社による情報開示の発端となった、クボタ旧神崎工場周辺に居住し中皮腫に罹患された患者と支援団体に対して同社が開示した各種資料を承知しておりますが、「石綿取扱い事業の履歴」、「環境改善対策の履歴」等が示されており、少なくともこれに習うべきです。残念ながら他社の開示情報はきわめて不十分です。
【回答】 できる限り、アスベスト使用量等の情報収集に努め、集約・公表する方向で進めたい。 - 2005年4月に貴協会が発行された「既存建築物における石綿使用の事前診断監理指針」中の、過去の石綿含有製品に関する情報(とくに「石綿含有建築材料の商品名と製造時期一覧表)は、前述の「石綿建築材料等の製造時期等一覧表」の内容を拡充させたものであり、同指針の他の内容と合わせて、将来の回避可能なリスクを避けるために国民に提供すべき重要な情報であり、貴協会の社会的責任を踏まえて、現行の有償提供(定価2,000円)を無償提供とするとともに、今後、その内容の一層の充実を図ら
れたい。
【回答】 財政が厳しい当協会としては、これまでにかかった費用の実費をいただいているだけで、無償提供はできません。なお、拡充要請の「石綿建築材料等の製造次期一覧表」につきましては、鋭意努力して拡充に努め、集約・公表する方向で進めたい。 - 上記1.2.の企業・事業所に対して、過去のアスベスト吹き付け工事の施工記録(施工場所、吹き付け面積、アスベスト含有の有無およびアスベストの種類別含有率等)を開示するよう働きかけるとともに、貴協会として集約・公表することを検討されたい。
【回答】 本件は当協会の事業範囲外で、かつ既に数十年前のことでもありますので、情報収集は困難と考えますが、可能な限り、情報収集に努め、集約・公表する方向で進めたい。 - 上記1.2.の企業・事業所に対して、アスベストおよびアスベスト含有製品の納入先リストを開示するよう働きかけるとともに、貴協会として集約・公表することを検討されたい。
【回答】 本件は当協会の事業範囲外ですが、昨今のアスベスト問題に鑑み、可能な限り、情報収集に努め、集約・公表する方向で進めたい。 - 上記1.2.の企業・事業所に対して、過去アスベスト曝露の可能性のある業務に従事していた労働者の総数、および、そのうちのアスベスト関連健康障害の発生件数を把握ないし追跡調査し、その情報を開示するよう働きかけるとともに、貴協会として集約・公表することを検討されたい。その際、関連・下請会社等の労働者についても、可能な限り含められたい。
※ クボタの場合には、在籍1年以上の従事者数および石綿疾病患者については、疾病別(胸膜中皮腫、腹膜中皮腫、肺がん、じん肺(管理区分、合併症の有無別)、その他(癌性悪疫質、良性石綿胸膜炎))、年齢別、死亡・療養中の別、死亡年度別、年齢別、石綿作業従事年数別、労災適用状況等のデータ、さらには構内協力会社における状況に関するデータが開示されており、少なくともこれに習うべきです。労働安全衛生法に基づく退職後の健康管理のための健康管理手帳の交付状況に関しても開示してください。 残念ながら他社の開示情報はきわめて不十分です。
【回答】 本件は当協会の事業範囲外ですが、可能な限り、情報収集に努めたい。 - 上記1.2.の企業・事業所に対して、アスベスト対策の経緯および過去に行われたすべての濃度測定結果を開示するよう働きかけるとともに、貴協会として集約・公表することを検討されたい。
※ クボタの場合には、そのような情報も開示されており、少なくともこれに習うべきです。
【回答】 上記1.2.の企業・事業所に対してのデータ収集は不可能ですが、過去に、当協会が収集したこれらのデータの公表は支障ないと考えます。しかし、これらのデータ収集にあたっては、個々の会社名は公表しないとの前提があり、過去の会員に関しては公表の同意を得る必要がありますので、この点を確認した上で、進めていきたい。 - 上記1.2.の企業・事業所に対して、労働者のアスベスト関連健康障害に対する労災認定支援および上積み補償制度を確立するよう働きかけるとともに、貴協会として集約・公表することを検討されたい。その際、関連・下請会社等の労働者についての制度も明らかにされたい。
※ クボタの場合には、そのような情報も開示されおり、少なくともこれに習うべきです。
【回答】 本件は当協会の事業範囲外ですが、昨今のアスベスト問題に鑑み、経済産業省の協力を得て、可能な限り対応に努めていきたい。 - 記1.2.の企業・事業所に対して、事業所周辺住民のアスベスト関連健康障害の実態把握に努めるよう働きかけるとともに、貴協会として集約・公表することを検討されたい。
※ すでに周辺住民の中皮腫発生が報告されているクボタの場合を考えてみても、患者等からの報告を待っているだけでは実態を把握することはできません。関係自治体等に働きかけて、事業所周辺住民における中皮腫や肺がん等の発生状況を確認するなどの企業努力が必要と思われます。
【回答】 本件は当協会の事業範囲外であり、本件に関しては国レベルでも検討をはじめているところですので、国レベルの政策に協力して対応を図っていきたいと考えています。 - 上記1.2.の企業・事業所に対して、事業所周辺住民のアスベスト関連健康障害に対する何らかの補償制度を確立するよう働きかけるとともに、貴協会として集約・公表することを検討されたい。
※ 企業・事業所においては、相談窓口の有無・ 内容、クボタと同様に見舞金の支払い等の対応をする用意があるかどうかを明らかにしてください。
【回答】 本件は当協会の事業範囲外であり、本件に関しては国レベルでも検討をはじめているところですので、国レベルの政策に協力して対応を図っていきたいと考えています。 - 労働者に対する労災補償のような法的補償制度の整備されていない、事業所周辺住民等のアスベスト関連健康障害に対する補償制度を確立するよう貴協会としてイニシアティブを発揮されたい。
※ 国への働きかけや、すでに廃業してしまっている企業・事業所の問題も含めて、貴協会のイニシアティブが求められています。
【回答】 ご説はもっともと思いますが、前述しましたように、当協会は弱小協会であり、ご要請に対して応えられるかは確約できません。しかし、経済産業省の協力を得ながら、最大限の努力は図っていきたいと考えています。
2005年9月14日にこの回答を踏まえて話し合いが行われ、協会側は、加盟各社から報告を受け協会で把握している過去の①作業環境測定、②工場敷地協会での石綿濃度測定、③PRTR(環境線物質排出・移動登録)データの公表を約束した(もともと会社名を出さないということで報告してもらったものなので、早急に内部調整したうえで)。
また同協会は、石綿障害予防規則の施行に合わせて2005年4月に『既存建築物における石綿使用の事前診断監理指針』を発行、2,100円で販売してきた。これには、一般住宅や学校、工場等の建物の使用目的別に、石綿含有建材が使用されている可能性の高い/可能性のある施工部位と石綿含有建材の種類の一覧表や、石綿含有建材の商品名と製造時期の一覧表等が含まれている。
本来であれば国がこのような調査マニュアル等を整備するべきであるが、現時点では、建物に使われている石綿含有建材の調査をするのであれば少なくともこの『事前診断監理指針』からスタートするのがベストだろうと、考えている。これをPDFファイルでホームページに掲載し誰でも無償で入手・活用できるようにされたいと要請したのである。案に反して、文書回答では「財政が厳しい当協会としては…無償提供はできない」という回答であったが、話し合いを通じて内容をさらに改訂したうえで無償提供に応じることとなった。
10月19日には、同協会のホームページに、「今般、この監理指針に記載された情報を、より多くの方に活用していただき、石綿による大気汚染、健康影響を未然に防止していただく事を目的として、その全文を協会ホームページ上で公開することを決定致しました。現在、全文公開に先立ち、改訂箇所の確認と校正を進めており、10月中には公開する予定です」という告知が出され、10月31日には約束どおりホームページ上で入手できるようになった。
安全センター情報2005年9・10月号