設備管理労働者の石綿含有吹付ロックウールによる石綿肺がん、体育館所有者・北九州市と管理会社に賠償命じる判決

国家賠償法によるアスベスト被害賠償命じる初めての判決

北九州市立総合体育館に1990年から2005年まで勤務、2005年に肺がんを発症し、2013年に死亡した男性の遺族が、体育館の設置・所有者の北九州市と勤務先設備管理会社・太平ビルサービス株式会社に対して3465万円の損害賠償を求めた裁判で、2020年9月16日、福岡地裁(徳地淳裁判長)は、原告の訴えを認め被告両者に合計2580万円の支払いを命じた。

判決は、男性が業務に従事した体育館の石綿含有吹付ロックウールの状況と従事した実態について、国家賠償法2条1項(「第二条 道路、河川その他の公の営造物の設置又は管理に瑕疵があつたために他人に損害を生じたときは、国又は公共団体は、これを賠償する責に任ずる。)に基づき、管理会社については使用者としての安全配慮義務違反(民法709条)に基づき、連帯して損害賠償義務を負うと判断した(不真正連帯債務)。

本判決は、建物内の石綿含有吹付け材によるばく露を原因とする石綿被害について、建物所有者の損賠賠償責任を認めたものとしては2例目、自治体を含めて公共団体の責任が認められたのは初めてとなる。(1例目は近鉄事件)

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近鉄事件の大阪高裁差し戻し審判決(確定)では1988年に国が吹き付け石綿の飛散対策を自治体に文書で通知した点を挙げて、「遅くとも、上記の通知が発せられた昭和63年2月ころには、建築物の吹付けアスベストのばく露による健康被害の危険性及びアスベストの除去等の対策の必要性が廣く世間一般に認識されるようになり、同時点で、本件建物は通常有すべき安全性を欠くと評価されるようになった認めるのが相当である」との判示があり、遅くとも1988年2月以降について建物吹付けアスベストの管理責任を所有者が問われる可能性があるとの判例となった。

今回の事件では、男性は1990年から就労を開始、問題の体育館の石綿含有吹付け材除去工事が行われたのは男性の肺がん発症後の2006年であり、その間、対策が取られていなかった。1987年当時の文部省のアスベスト調査指示においてロックウール吹付けを調査から除外する誤った指示があったものの、その後の過程において北九州市は石綿含有であることを知っていたことは、遅くとも1990年5月当時であることが明らかであった。こうしたことから、北九州市の責任が認定されることになったのである。

北九州市、会社そして国は、訴訟の終結を

なお、この男性の肺がんの労災認定については、当初は労災不支給とされ、再審査請求における裁決によってようやく、療養中の補償についてだけ認められたものの、死亡についての遺族補償が認められなかったことから、現在、遺族補償にかかる不支給処分取消訴訟が取り組まれている。

労災認定されなかったことから遺族の強いられた闘いははじまった。その意味で、今回の損害賠償裁判については被告・北九州市と太平ビルサービスが控訴せず判決を真摯に受け入れることを求めたい。

また、今回の判決は、男性の死亡について石綿ばく露との因果関係を明確に認めた。したがって、遺族補償不支給処分取消訴訟の被告である国は今回の判決の内容を受け入れ、自ら不支給処分を取り消し裁判を終結するべきである。

ちなみに、仕事で建物吹付けアスベストのもとで働いたことを原因とした労災認定事例は、現在までに多数ある。 全国安全センターの検索サイトで「吹付け石綿のある部屋・建物・倉庫等での作業」で検索すると、200件以上がヒットする。 たとえば、被告会社の太平ビルサービスでは、厚生労働省公表情報では、肺がんで1名が労災認定されている。

全国初、アスベスト被害で北九州市の管理責任を認める判決 福岡地裁
西日本新聞 2020年9月17日

北九州市立総合体育館(同市八幡東区)の設備管理に従事した男性=当時(78)=が肺がんを発症して亡くなったのは、市などが体育館のアスベスト(石綿)対策を怠ったのが原因として、遺族が市と勤務先の管理会社に計3465万円の損害賠償を求めた訴訟の判決が16日、福岡地裁であった。徳地淳裁判長は、市の管理責任と会社の安全配慮義務違反を認め、計2580万円の支払いを命じた。
原告側弁護団によると、石綿が使用されている公共施設について、自治体の管理責任を認める判決は全国初。弁護団は「被害者の救済にとって非常に意義がある」としている。
男性は同市小倉北区の二見修夫さん。判決によると、二見さんは体育館の設備管理を請け負った太平ビルサービス(東京)の社員として、1990~2005年に体育館で勤務。05年に肺がんが見つかり、13年9月に亡くなった。
判決で徳地裁判長は、体育館は建材などに石綿が使われており、二見さんの勤務当時、劣化した資材が剥がれるなどして石綿の粉じんが飛散する状況があったと指摘。肺がんとの因果関係を認めた。
その上で「(二見さんが)体育館で勤務を始めるまでに石綿の危険性は広く認識されていた」にもかかわらず、市は06年に除去工事を行うまで、注意喚起や安全対策を行わなかったと判断。粉じんへの暴露は「体育館の設置または管理の瑕疵(かし)に基づく損害」と管理責任を認めた。管理会社も、石綿の使用状況調査や粉じんマスク着用などの対策を怠ったと指摘した。
市は「判決を十分に検討し対応を考える」とし、体育館については「石綿対策は基本的に終わっており、危険性はない」とした。管理会社は「判決を精査し対応する」としている。 (森亮輔)

西日本新聞 2020年9月17日