世界のアスベスト(石綿)事情-重大な発がん物質として禁止国も増えるなか、アジアを中心にいまもなお使用、世界的被害の拡大これから(2020.12.26)

古谷杉郎(全国労働安全衛生センター連絡会議事務局長、石綿対策全国連絡会議(BANJAN)事務局長、アジア・アスベスト禁止ネットワーク(A-BAN)コーディネーター)

(参考「違法な石綿(アスベスト)含有品の流通・輸入は珪藻土バスマットだけの問題ではない、全面禁止の履行確保は未解決の課題」)
※参考「アジア・世界におけるアスベスト(石綿)禁止のための取り組み-安全センター情報バックナンバー(随時更新中)」

《総論編》

■過去のアスベスト使用と将来の健康被害

アスベストは、いずれも潜伏期間の長い、中皮腫、肺がん、石綿肺、卵巣がん、喉頭がんなどのアスベスト関連疾患を引き起こすことが、国際がん研究機関(IARC)等によって確認されている。なかでもとりわけ致死的で、いまだ治療法の確立していない中皮腫は、そのほとんどすべてがアスベスト曝露によるものであることから、アスベスト健康被害の「指標」とみなされている。

過去のアスベスト使用と将来の健康被害(中皮腫死亡)との関係を、日本とイギリスを例にみてみよう。アスベスト使用の歴史の古いイギリスでは、アスベスト使用は1964年に年間17万トン強でピークに達し、過去の累積使用量は700万トン弱。日本は、1974年に35万トンでピークに達し、過去の累積使用量は1,000万トン弱である。

イギリスにおける中皮腫死亡数は、1975年に272人、1982年に500人を超え、2015年には2,542人という状況になっている。政府は今後は減少に転じると予測しているものの、まだ確かめられたわけではない。仮にイギリスで2015年が被害のピークになるとしたら、アスベスト使用のピークの1964年との間の時間間隔は51年ということになり、日本ではアスベスト使用のピークの1974年から51年後の2025年まで中皮腫死亡が増加し続けると予想できるかもしれないが、おそらくこれでも楽観的に過ぎるだろう。

日本では、人口動態統計でデータが得られるようになった1995年の500人から、2019年には1,466人へと中比腫死亡数が増加を続けている。日本の人口はイギリスの約2倍であり、イギリスと同レベルにまでなるとしたら日本の中皮腫死亡数は5,000人にまで達することになり、いずれにしろ被害はこれからも増大すると見込まれる。

アスベスト被害が減少に転じたと断言できている国はまだひとつもないのが現状である。
いま使用しているからと言ってただちに被害が見えるわけではない、ただちに使用をやめたとしてもその効果を確認できるのは数十年後、アスベスト関連疾患は診断/把握が必ずしも容易ではない、等といった事実は取り組みを困難にしている面もあるかもしれないが、アスベスト関連疾患はアスベストの使用をやめることによって予防することが可能な健康被害である。

■世界のアスベスト被害

かつてのアスベスト大量使用国においてアスベスト関連疾患の「流行」が持続する一方で、被害がいまなおインビジブル(見えていない)国も多い。しかし、例えばアスベスト産業側の主張が、少し前までは「わが国にアスベスト被害はない」だったのが、「中皮腫はたしかに出ている、しかしアスベスト曝露によるものはない」と変わってきているように、明らかに変化してきてはいる。

各国及び世界のアスベスト被害の現状把握と将来予測のための努力が積み重ねられている。そのひとつとして、世界保健機関(WHO)が予防可能な疾病の対策を促進するためにすすめている世界疾病負荷(GBD)調査が、GBD比較データベースとして提供され、随時更新されるようになっている。

ここでは、そのほとんどすべてがアスベスト曝露によるものとみなされる中皮腫と石綿肺のほか、アスベストへの職業曝露リスクによる中皮腫、肺がん、卵巣がん、喉頭がん、石綿肺による疾病負荷が推計されており、各国別推計も入手することができる。最新のものは、2020年10月17日に公表された最新のGBD2019であり、表は、GBD2019による2019年についてのアスベスト関連疾患による死亡数の上位20位と世界合計を示したものである。

10年くらい前から国際労働機関(ILO)やWHOは、アスベストによる死亡が毎年世界で約10万人という予測を示して、最悪のインダストリアル・キラー(産業殺人者)、アスベスト関連疾患の根絶は世界共通の課題としてきたが、これによればすでに毎年20万人以上殺される事態になっているわけである。

このうち、①アメリカ、③イギリス、④日本、⑤イタリア、⑥ドイツ、⑦フランス、⑨カナダ、⑩スペイン、⑫オランダ、⑬トルコ、⑭オーストラリア、⑯ポーランド、⑰ベルギー、⑲南アフリカ、⑳韓国は、中皮腫死亡について比較的あてになる国のデータをもっているとされる。
他方、⑮ブラジルは不十分な国のデータはあるもののあてにならない。②中国、⑧インド、⑪ロシア、⑱ベトナムは国のデータがない。これらの国の被害は推計に頼るしかないわけであるが、多くの研究者が、表に示したものもまだ過少推計だと考えている。

ちなみに、これを人口10万人当たり年齢標準化死亡比で比較してみると、上位10位は、①モナコ、②オランダ、③イギリス、④北アイルランド、⑤ベルギー、⑥イタリア、⑦アンドラ、⑧フランス、⑨デンマーク、⑩サンマリノ、に代わり、アメリカは24位、日本17位、ロシア56位、中国76位等となる。日本やロシア、中国等は、これから順位を上げていくであろうと予想される。

日本を含めたいわゆる工業諸国でも、中皮腫以外のアスベスト関連疾患を適切に把握できている国はなく、補償のレベルもまだきわめて低い。卵巣・喉頭がんは、日本ではまだ補償対象にもされていない。

■世界のアスベスト消費

アスベスト産業は国際的には1980年代後半に成立して、1990年代に発展した。米連邦地質調査所(USGS)のデータによると、世界の原料アスベスト消費量は、1980年頃に約500万トンでピークに達した後、1998年までは急激に減少。その後は200万トン前後でプラトーな状態が続いた後、2012年以降は減少してきている。USGSは2017年以降に2012年分に遡ってデータを修正していて、2011年分以前も実際には図に示されているよりも少なかった可能性もある。

急激な減少はかつて消費の中心であった欧米等における減少によるもので、1998年にヨーロッパとアジア・中東の消費量が逆転し、アジア・中東におけるアスベスト消費は2012年まで増加し続けて、世界消費の70%を超えるに至った。

2000~18年の世界のアスベスト消費上位12か国をみると、①中国(24.9%)、②インド(15.8%)、③ロシア(14.8%)、④ブラジル(6.7%)、⑤カザフスタン(5.4%)、⑥タイ(4.7%)、⑦インドネシア(4.5%)、⑧ウクライナ(4.1%)、⑨ウズベキスタン(3.4%)、⑩ベトナム(3.0%)、⑪スリランカ(1.6%)、⑫メキシコ(0.9%)、以上合計が90.0%で、その他が10.0%という状況である。上位5か国だけでも68%以上を占めるという集中ぶりである。最近数年間の順位では、①インド、②中国、③ロシア、④インドネシア…の順。

いまやとりわけアジアが世界のアスベスト産業にとって「最後に残された市場」、換言すればアスベスト禁止をめぐる最大の戦場になっている。

世界のアスベスト産業は、「禁止している国は少数派」と主張するが、USGSが2016年に原料アスベスト消費を確認しているのは全部で78か国で、そのうち54か国は700トン未満、12か国が1,400~7,000トン、12か国(前記の12か国からメキシコが抜け、バングラデシュが入る)が1万トン以上でこの12か国だけで世界消費の96.8%を占めている。他の100か国以上は、すでに禁止しているか、または使用していないことになる。ただし、以上は「原料アスベスト」についてであって、「アスベスト含有製品」は含まれていない。

■世界のアスベスト禁止

日本は、2004年に禁止される製品を列挙する方式(ネガティブ・リスト)で禁止を導入(厚生労働省はこれを「原則禁止」と呼んだ)、クボタ・ショック後の2006年に禁止から除外される製品を列挙する方式(ポジティブ・リスト)に転換(同じく「全面禁止」と呼んだ)、その後禁止除外製品を計画的になくしていって、2012年に文字どおりの「全面禁止」を達成した。

各国の禁止措置もなんらかのかたちで段階的禁止プロセスをもっており、また、禁止からの除外措置等も様々なので、どの段階をもって「禁止実現」と言うかは単純ではないが、国際アスベスト禁止書記局(IBAS)は「禁止国」として以下の67か国を挙げ、国際機関や専門家らもこの数字を引用することが多い。アジア各国について後述するように、筆者は、香港、シンガポール、ネパールなども加えてもよいと考えている。

アルジェリア、アルゼンチン、オーストラリア、オーストリア、バーレーン、ベルギー、ブラジル、ブルネイ、ブルガリア、チリ、クロアチア、キプロス、チェコ共和国、デンマーク、ジブチ、エジプト、エストニア、フィンランド、フランス、ガボン、ドイツ、ジブラルタル、ギリシャ、ホンジュラス、ハンガリー、アイスランド、イラク、アイルランド、イスラエル、イタリア、日本、ヨルダン、韓国、クウェート、ラトビア、リヒテンシュタイン、リトアニア、ルクセンブルグ、マケドニア、マルタ、モーリシャス、モナコ、モザンビーク、オランダ、ニューカレドニア、ニュージーランド、ノルウェー、オマーン、ポーランド、ポルトガル、カタール、ルーマニア、サウジアラビア、セルビア、セーシェル、スロバキア、スロベニア、南アフリカ、スペイン、スウェーデン、スイス、台湾、トルコ、イギリス、ウルグアイ。

歴史的には、1980年代に北欧諸国が最初に原則禁止に踏み切り、1996年にフランスの禁止導入を「自由貿易の原則に反する」としてカナダが世界貿易機関(WTO)に提訴して、アスベストは「国際貿易紛争」の対象になった。WTOの結論を待たずに1999年に欧州連合(EU)が2005年からの禁止を決定した後、2000年にWTOの紛争解決機関が「国民の健康を守るためにアスベストを禁止する各国の権利」を確認したなどという経過もある。

いまではILOやWHO等が、「アスベスト疾患根絶のためのもっとも効果的な方法としてアスベスト禁止」を公けに支持するとともに、主として禁止を導入していない諸国に対して「ナショナル・アスベスト・プロファイル」、「アスベスト関連疾患根絶国家計画」の策定を呼びかけている。

■被害者・家族、労働者、市民らによる取り組み

2000年9月にブラジル・オザスコで、研究者や政府間関係者だけでなく、被害者・家族、労働者、市民らも加わった最初の世界アスベスト会議(GAC2000)が開催された。日本からも筆者を含め代表が参加したが、2004年11月の東京・早稲田大学での2回目の世界アスベスト会議(GAC2004)開催につながった。その後、世界レベルの会議は開催できていないのだが、上記を通じて国際的なネットワークが格段に強化されるとともに、各地域レベルでさまざまな取り組みが展開されてきている。

アスベスト関連疾患の流行が顕在化しているところには、どこでも被害者・家族(支援)団体が存在し、また、それが草の根でアスベスト問題に取り組む中心になりつつあると言ってよい。イタリアでの「史上最大のアスベスト刑事訴訟」の支援をきっかけに、ヨーロッパ・世界の被害者団体の交流・連携がすすみ、2012年10月にはフランス・パリで初めてのアスベスト被害者国際デーが取り組まれた。国内で被害者団体の全国ネットワークを機能させることの方がかえって難しいような気配もするが、被害者・家族のイニシアティブをいかにして発展できるかは、各国と世界共通の課題である。

日本では、ILOがアスベスト条約を採択した翌1987年に、労働組合、市民団体、専門家らによって石綿対策全国連絡会議(対外的にはBANJAN:Ban Asbestos Network Japanと名乗っている)が結成され、禁止実現に向けて取り組むとともに、GAC2004開催の中心となり、また、中皮腫・アスベスト疾患・患者と家族の会が2004年に設立するのを支援している。職業病事例を中心に設立された患者と家族の会が尼崎のクボタ工場周辺の公害患者と出会い、支援したのが2005年のクボタ・ショックの発端で、それが泉南アスベスト国賠訴訟や建設アスベスト訴訟につながっている。泉南アスベストの会や建設アスベスト訴訟の原告・支援者らもBANJANに加わっている。 BANJANは、2006年に第1回アジア・アスベスト会議(AAC2006)をタイ・バンコクで、2009年に第2回アジア・アスベスト会議(AAC2009)を香港で開催するとともに、アジア・アスベスト禁止ネットワーク(A-BAN)を立ち上げた。筆者はそのコーディネーターも務めている。アジアと世界で一日も早くアスベスト禁止を実現することを最優先課題に、そのためにも、はばひろい関係者がネットワークを形成・強化することを促進している。また、日本の被害者・家族団体は韓国とは兄弟姉妹の関係のうえに、これまでベルギー、イタリア、イギリス等の団体との交流を重ね、さらに継続・拡大しようとしている。

■アスベスト禁止に反対する者たち

アスベストの生産・輸出は、歴史的にはカナダとソ連(現在はロシアとカザフスタン)が主導してきたが、リーダー役はカナダからロシアに移行している。USGSデータによる、1900~2019年の120年間の累積生産量は約2憶トン。ロシア・カザフスタン(旧ソ連)が42.1%、カナダ29.8%、中国6.6%、南アフリカ4.7%、ジンバブエ4.6%、ブラジル4.3%、その他7.9%という内訳である。

南アフリカは2008年に輸出・輸入も含めてアスベストを禁止、ジンバブエは2010年、カナダは2011年を最後に生産していない(カナダはついに禁止の決断をしたが、ジンバブエではまだ生産再開を探る動きがある)。2017年11月にはブラジル最高裁が連邦政府がアスベストを禁止していないのは憲法違反と宣告した。

残る生産国はロシア・カザフスタンと中国。中国は生産量のほとんどを国内消費したうえに、ロシアから輸入もしていて、輸出はまだ本格化していない。ブラジルは、変動はあるものの、輸出と国内消費が半々というところだろうか。ロシアの生産は、以前はウラル・アスベスト鉱山がトップだったが、カザフスタンとの国境に近いオレンブルグ鉱山がとってかわっている。カザフスタン唯一の鉱山は北部のコスタナイにあり、オレンブルグとは地理的な意味だけでなく、密接な関係にあるようだ。ロシア・カザフスタンが現在の輸出の主役である。

日本に日本石綿協会があったたように、主要なアスベスト使用国にはアスベスト産業のロビー団体が存在している。生産・輸出国と使用国のアスベスト産業は国際的に連携しており、現在カナダ・ケベックに本拠を置いている国際クリソタイル協会(ICA)があり、また、アジアではタイに本拠を置くクリソタイル情報センター(CIC)がある。さらに、世界のクリソタイル・アスベスト産業関係労働組合でつくったとされる国際労働組合連合「クリソタイル」なるものも、禁止反対キャンペーンを展開している。彼らは、ロシアをはじめとした政府関係者の支持を受けていることを誇ってもいる。

いまや、ある国でアスベスト禁止に向けた議論がはじまると、地元のロビー団体を応援するために世界中からロビーがかけつけ、国際会議を開催したり、個々の政策決定者に働きかけたり、ロシアが公式の貿易協議等のなかで禁止しないように働きかけるといった動きが、必ずと言ってよいほどはじまる。

ILOやWHOをはじめとした国際機関・団体がこぞって、「アスベスト疾患を根絶するもっとも効果的な方法はアスベストの使用をやめることである」という論理で禁止を支持・促進しているなかで、有害な化学物質の事前のかつ情報に基づく同意(PIC)手続に関するロッテルダム条約の締約国会議で、PIC手続の対象物質リストにクリソタイル・アスベストを加えるという提案が、全会一致でないと決定できない議事手続のために、かつてはカナダ現在はロシアを先頭とした一握りの国の反対によって繰り返しつぶされている。

最近では、存在も定かでないカザフスタンのクリソタイル・セメント産業連盟(UICC)なるものが資金を提供したとされる、アメリカのインテリジェンス会社がイギリス支社を通じて自称ジャーナリストを雇い、世界、とりわけアジアにおけるアスベスト禁止をめざす動きの内情を4年間にわたって探らせていたという国際スパイ事件も暴露されている(代理人として動いた2人の人物と支払いを行った英領バージン諸島に登記された会社名、スパイに4年間の報酬・費用として約6,500万円支払っていたことがわかっている。事件はロンドンの高等裁判所にもちこまれ、アメリカのインテリジェンス会社が和解金を支払って終了した。日本の石綿対策全国連絡会議の古谷杉郎事務局長も5人の原告のうちの一人)。

《各国編》

■カナダ

20世紀を通じて世界のアスベストの「巨人」だったが(1973年が169万トンで生産量のピーク)、最後まで粘ったケベック州の2鉱山が2011年を最後に生産をやめ、100年を超す歴史の幕を閉じた。休止鉱山の再開に州政府が資金援助するという計画に反対して、日本からの2人を含めアジアから7人の代表団が2010年末にケベックを訪れ、州内外のメディアから注目されたことも大きかった。カナダは、一貫して生産のほぼすべてを輸出にまわす「死の商人」だった。2016年12月についに連邦政府がアスベスト禁止に踏み切ることを発表し、2018年実施の予定で協議が進められている。ケベックに本拠を置いていた国際クリソタイル協会(ICA)は、ロシアに移るのではないかと予想されている。GBDによる2019年のアスベスト関連疾患死亡推計で世界第9位(6,445人)。

■ロシア

1976年にソ連のアスベスト生産量がカナダを抜いて世界首位に立った(ピークは1982年の270万トン)。ソ連時代はロシアだけでなくカザフスタン等を含んでいる。1991年のソ連崩壊後その分の減少も含めて、消費・生産・輸出量が激減したが、その後生産は、カナダの減少分を補うように増加。2012~15年まで減少したものの、また持ち直している。国内消費は減少を続けていて、いまやロシアがカザフスタンとともに「死の商人」である。ロシアは、アスベスト健康被害に関する国のデータがないだけでなく、政府が「被害はない」と主張してはばからないでいる。GBDによる2019年のアスベスト関連疾患死亡推計では世界第14位(4,438人)。

■ブラジル

アスベスト生産量はおおむね増加傾向を維持しつつ、2016年には30万トン。輸出は、2008年の約18万トンがピークで、その後2016年の8.35万トンまで減少し続け、産業の危機を訴えている。輸出できない分は国内で消費する構造である。鉱山をかかえていないサンパウロ州等が州法でアスベスト禁止を導入したところ、産業界が違憲と提訴して、最高裁は輸入を禁止する権限は州政府にはないと判断。それではと輸入以外の禁止を定めたことに対する最高裁判決が2017年8月にあり、州の権利を確認。さらに最高裁は11月に連邦政府がアスベストを禁止していないのは違憲と宣告した。しかし、国内消費はやめても海外輸出とそのための生産を続けるアスベスト産業に対して、2019年にはアジアから代表団が抗議に訪れた。GBDによる2019年のアスベスト関連疾患死亡推計では世界第15位(4,379人)。全国に8つくらいの被害者団体があり、連携しながら活動している。中心は、ブラジル・アスベスト曝露者協会(ABREA)。

■アメリカ

1973年には80万トンも使用していた使用大国だが、1980年代を通じて激減。しかし、2016年でも486トンとわずかではあるが輸入・消費がある。2001年まで国内生産もあった(1900年からの累計で328万トン)。1989年に環境保護庁(EPA)が段階的禁止規則を導入するも、産業界により提訴され、1991年に第5巡回控訴裁判所によって手続不備を理由に無効化された。結果、現在も使用が認められるアスベスト含有製品が残っている。2016年に有害物質規制法(TSCA)が改正され、アスベストは対策を見直すべき最優先10化学物質のひとつに掲げられたが、トランプ政権のもとでは進展がなかった。GBDによる2019年のアスベスト関連疾患死亡推計で世界第1位(40,880人)。歴史的に、また各地に被害者団体がある。最近活躍がめだっているのは、アスベスト疾患アウエアネス・オーガニゼーション(ADAO)。

■中国

ロシア・カザフスタンに次ぐアスベスト生産国であるうえに、国内生産のほとんどを消費するだけでは足りず、ロシアから輸入もする消費大国でもある。1995年と2011年に各々44.7万トンと44万トンの2つのピークがあり、減少してはいるものの近年年も毎年12.5万トンの生産量がある。加えて、2009年の30万トンをピークとするロシアからの輸入もある。合わせた消費量は、2011年の63.8万トンがピークで、2019年でも約25万トンである。輸出はまだわずかで、定着していない。採掘は大型鉱山地域へ集約されている。ロシアと違って、政府が「健康被害はない」と公言することはなく、健康被害のケーススタディ論文などもそれなりに発表されてはいるものの、実態はなお不明と言わざるを得ない。GBDによる2019年のアスベスト関連疾患死亡推計では世界第2位(26,825人)。

※参考「中国のアスベスト(石綿)事情(2020.12)」

■イギリス

ピーク時の1964年に17万トン強、累積使用量700万トン近い使用大国。GBDによる2019年のアスベスト関連疾患死亡推計で世界第3位(18,245人)。使用者に対して補償請求を起こすことのできない中皮腫被害者に対する給付金支払制度が2014年に創設されている。被害多発地域を中心に1970年代以降、被害者支援団体がつくられ、2005年にはアスベスト被害者支援団体フォーラムUK(AVSG-UK)を設立。毎年7月にイギリス各地でアクション・メゾテリオーマ・デー(AMD)の取り組みが展開されているが、2017年には日本の患者と家族の会から20名の代表がイギリスを訪問し、7月6日にマンチェスターでフランス、ベルギー、スペイン、イタリア、オーストラリアからの代表も交えて国際交流会を行うとともに、7日には5都市でのAMDイベントに参加した。

■フランス

GBDによる2019年のアスベスト関連疾患死亡推計で世界第6位(14,990人)。2002年に世界で初めて、職業病か公害か等を問わず、すべてのアスベスト被害者に同等の補償を実現するために、アスベスト被害者補償基金(FIVA)が創設されている。1996年に設立され、40の地方組織と18,000人の会員を擁する世界最大のアスベスト被害者団体であるアスベスト被害者擁護全国会(ANDEVA)がある。ANDEVAはこの間、イタリア、ベルギーの裁判支援等を通じてヨーロッパの被害者団体の連携を率先して促進するとともに、2012年10月にはパリで初めてのアスベスト被害者国際デーを主催し、アジアからも日本、韓国、インドから参加した。

■イタリア

GBDによる2019年のアスベスト関連疾患死亡推計で世界第7位(14,265人)。尼崎市のクボタ工場周辺の住民被害に非常によく似た事例が、多国籍企業エターニトのカサーレ・モンフェラート他にあった工場周辺で起こっており、イタリアにおけるアスベスト被害を象徴している。アスベスト被害者家族協会(AFeVA)が1988年に設立され、2,000人以上の会員を擁している。工場の所有者であるベルギー人貴族とスイス人実業家を相手に2009年にはじまった刑事訴訟は「史上最大のアスベスト訴訟」と呼ばれた。2012年のトリノ地裁、2013年のトリノ高裁判決とも、禁固刑の有罪判決と同時に約2,000人の被害者に対する損害賠償も認めたものの、2014年の最高裁判決は一転時効を理由にした無罪判決だった。一大スキャンダルとなったが、この裁判がヨーロッパ・世界の被害者団体の連携を促進した役割は非常に大きい。2015年クボタ・ショックから10年尼崎集会に、AFeVAの代表3人が参加している。

■ベルギー

GBDによる2019年のアスベスト関連疾患死亡推計で世界第17位(2,935人)。2007年に、日本の石綿健康被害救済法と同様に、労災保険で補償を受けられないアスベスト被害者のためのアスベスト被害者基金(AFA)が創設されている。多国籍企業エターニトの本拠地で、労働者被害のほか、労働者家族や工場周辺住民の被害も顕著。2000年にアスベスト被害者協会(ABEVA)が創設され、創設者のひとりである女性中皮腫患者がエターニト相手にベルギー初のアスベスト訴訟を提訴した。工場労働者だった彼女の夫と5人の子どものうち2人(いずれも職業曝露歴なし)も中皮腫で死亡している。彼女の死後息子ら(2007年と2015年に長男が来日している)が訴訟を引き継ぎ、2011年に地裁、2017年3月に高裁で勝訴し、判決が確定した。高裁前にはヨーロッパ各国と日本の被害者団体の代表が支援にかけつけた。

■ドイツ

GBDによる2019年のアスベスト関連疾患死亡推計で世界第5位(15,811人)。すでにアスベスト禁止を導入している国としては初めて、政府機関が2014年に「ナショナル・アスベスト・プロファイル」を策定している。アスベスト被害者協会グループ(Bundesverband der Asbestose Selbsthilfegruppen e.V.)がある。

■オランダ

GBDによる2019年のアスベスト関連疾患死亡推計で世界第12位(5,141人)。工業諸国ではめずらしく労災保険制度をもっていない国だが、2007年に職業病か公害かを問わない中皮腫被害者補償制度がつくられている。2024年までにアスベスト含有屋根材の除去を義務付けたほか、2017年秋にはサンドブラスト用砂にアスベストが含まれていたことがスキャンダルになっている。最近、アスベスト被害者団体の動きが伝わってきていない。

■スイス

GBDによる2019年のアスベスト関連疾患死亡推計で世界第23位(1,347人)。2017年に保険業界の資金によって、労災保険を受けられないアスベスト被害者に対する自主的補償制度がつくられた。建材メーカーにも資金負担を求めている。アスベスト被害者団体(CAOVA)もこの動きのなかで重要な役割を果たしている。また、ソリダー・スイスという国際協力機関が、その香港事務所を通じて、アジアでのアスベスト禁止を支援するようになった。

■オーストラリア

GBDによる2019年のアスベスト関連疾患死亡推計で世界第13位(4,459人)。アスベスト被害者団体、労働組合、がん評議会(CCA)等による全国アスベスト・サミットの開催やキャンペーンを経て、世界で最初にアスベストのない社会を実現すること等をめざして、2013年に国家戦略と新たな国家機関-アスベスト安全・根絶機関が創設された。最近でも、アスベスト含有建材が中国から違法に輸入された問題の摘発など、社会的関心が持続されている。各州に被害者団体があるが、全国ネットワーキングはまだ発展の余地がありそう。労働組合の国際協力機関APHEDAがアジアでのアスベスト禁止を熱心に促進している。

■韓国

日本のクボタ・ショックの影響もうけて、2007年から段階的禁止を早め、2015年にアスベスト全面禁止を達成した。2011年に日本の石綿健康被害救済法にならった石綿被害救済法、2012年には日本にはない環境省所管の石綿安全管理法も導入した。2008年に全国石綿追放運動ネットワーク(BANKO)、2009年にはアスベスト被害者・家族全国ネットワークが設立されている。後者は、泉南とも所縁の深いアスベスト紡織産業のメッカだった釜山、アスベスト鉱山のあった忠清南道の両地域グループ、及び全国にまたがる中皮腫患者等のグループで構成されている。日本の関係団体らとは兄弟姉妹の関係が続いている。GBDによる2019年のアスベスト関連疾患死亡推計で世界第21位(1,691人)。

■香港

労災被害者団体(ARIAV)や労働組合等により香港石綿禁用連盟がつくられ、1990年代後半に一定の対策・規制が整備された。当時から将来の禁止が約束されていたというが、2009年のアジア・アスベスト会議の香港開催も契機となって運動が再活性化。2011年に空気汚染管制条例が改正されて、2014年4月からアスベスト禁止が導入された。2008年にじん肺(補償)条例が改正されて中皮腫も補償の対象になったが、これは職業病であるか公害であるかにかかわらず、同じ補償を提供する制度である。また、香港に本拠を置くアジア・モニター・リソースセンター(AMRC)が、アジアにおけるアスベストに対する草の根の取り組みを支援している。

■台湾

日本のクボタ・ショックの影響もうけて、2008年から段階的禁止を早め、2018年1月にアスベスト全面禁止が実施されることになった。労災被害者団体(TAVOI)が少なくとも2件の中皮腫事例等を支援した実績があるが、なかなかその後が続かないようだ。公衆衛生専門家らも禁止を促進するキャンペーンを展開、台湾職業安全健康連線という団体が2017年に『致命粉塵』という本を出版して16名の被害者のインタビューを収めているが、労災補償を受けられた事例は2件しかない。GBDによる2019年のアスベスト関連疾患死亡推計で世界第39位(569人)。

■シンガポール

早くも1988年にアスベスト含有建材の使用、1989年に原料アスベストの輸入、1995年にはアスベスト含有ブレーキ/クラッチ・ライニングの使用等が禁止されているが、異なる役所が異なる法律のもとで規制してきた経過もあって、ごく一部のアスベスト含有製品の輸入・使用が禁止されていないようだ。2014年には労働安全衛生(アスベスト)規則が全面改正されて、既存アスベスト対策が強化されている。中皮腫を含めた被害はすでに現われている。GBDによる2019年のアスベスト関連疾患死亡推計で世界第57位(230人)。

■フィリピン

労働組合(ALU-TUCP)や労働安全衛生団体(IOHSAD)等が、アスベストを禁止するためのキャンペーンを展開している。フィリピン大学公衆衛生学部と政府関係部局が協力して、2013年に「ナショナル・アスベスト・プロファイル」を策定、2015年には政労使三者平和協議会が「フィリピンにおけるアスベストの製造・使用の全面禁止に取り組むよう労働雇用省、産業省及び天然資源省に求める決議」を採択している。しかし、フィリピン・クリソタイル産業協会(ACIP)は海外のロビー団体と協力して禁止に反対している。スービック米海軍基地元労働者の被害など、被害は確実に出ている。GBDによる2019年のアスベスト関連疾患死亡推計で世界第48位(379人)。

■マレーシア

消費者団体(CAP)や労働組合(MTUC)等が、アスベストを禁止するためのキャンペーンを展開してきた。労働省労働安全衛生局は、2011年にそのウエブサイトに「アスベスト禁止提案」を掲載し、2014年には3つの選択肢を示して関係者との事前協議ワークショップを開催している。すぐにも公式のパブリック・コンサルテーション手続が開始されるものと見込まれていたにもかかわらず、この間進展が伝えられていない。南太平洋アスベスト協会(SPAA)だけでなく、海外ロビーの働きかけが奏功しているのではと疑われている。被害はまだほとんど報告されていない。GBDによる2019年のアスベスト関連疾患死亡推計で世界第67位(176人)。

■タイ

タイはアスベスト消費大国のひとつだった。公衆衛生専門家らが禁止の必要性を訴えて、2010年には全国保健総会で2012年までに禁止を求める「タイ社会をアスベスト・フリーにする決議」が採択されたものの、実現に至っていない。消費者団体や労災被害者団体等も加わって、2012年にタイ・アスベスト禁止ネットワーク(T-BAN)が結成された。2014年には禁止賛成・反対双方の激しいせめぎあいが行われ、公衆衛生省と産業省が各々禁止導入を提言するに至ったにもかかわらず、軍事政権は決定を先送りしてしまい、議論が継続している。貿易関係を盾にしたロシアからの圧力が主な原因とみられている。アジア地域を射程に入れたクリソタイル情報センターもタイに本拠を置いている。被害はほとんど報告されていない。GBDによる2019年のアスベスト関連疾患死亡推計で世界第29位(1,024人)。

■ベトナム

ベトナムはアスベスト消費大国のひとつ。しかし、比較的若いNGO関係者らと禁止の必要性を訴えてきたベテランの公衆衛生専門家等によって、2014年にベトナム・アスベスト禁止ネットワーク(VN-BAN)が結成された。2014年を通じて禁止賛成・反対双方の激しいせめぎあいが行われ、全国屋根板協会(VNRSA)が海外ロビーを何度も招く一方、労働組合(VGCL)は禁止支持を明らかにした。禁止を支持する保健省らと、使用継続を望む建設省等との確執が鮮明になるなか、禁止の目標時期を設定できるかどうか重要な段階を迎えている。中皮腫と診断される事例は毎年3桁にのぼっているものの、まだ補償を受けた例はない。GBDによる2019年のアスベスト関連疾患死亡推計で世界第26位(1,235人)。

■ラオス

政府関係部局と労働組合(LFTU)が協力して数年がかりで起草した「ナショナル・アスベスト・プロファイル」が政府の最終承認を待っているところ。その過程で季節操業のものも含めて16のアスベスト製品製造工場の存在が確認されている(うち13は中国、1はベトナムの投資)。禁止される可能性を察知して、海外ロビーの働きかけが強まっている。そのようななかで、LFTU、がんセンターやいくつかのNGOが2017年10月にラオス・アスベスト禁止ネットワーク(LaoBAN)を結成した。ベトナムとも連動しながら、禁止をめぐるせめぎあいつが続いている。被害の公式な報告はまだない。GBDによる2019年のアスベスト関連疾患死亡推計で世界第117位(31人)。

■カンボジア

2016年に労働職業訓練省が省令を出して、幅広い政府関係部局、労使団体代表からなる「ナショナル・アスベスト・プロファイル策定委員会」が設置され、2017年夏に1週間のトレーニングコースを行うなどしながら、その使命を果たした。禁止に向けた次のステップが重要である。タイ等から輸入は確認されていたものの、国内にアスベスト製品製造工場は存在しないと考えられていたが、どうもすでにあるようだ。2017年、2つの労働組合(BWTUCとCFSWF)と3つのNGOがカンボジア・アスベスト禁止ネットワーク(CamBAN)を結成した。被害の公式な報告はまだない。GBDによる2016年のアスベスト関連疾患死亡推計で世界第68位(175人)。

■インドネシア

インドネシアはアスベスト消費大国のひとつである。2010年にバンドンでインドネシア・アスベスト禁止ネットワーク(InaBAN)が設立され、その後、全国的な労働組合や環境団体等も加わり、研究者、政府関係者との連携も徐々に発展、2017年には「ナショナル・アスベスト・プロファイル」も策定された。地方政府レベルで禁止を決定する動きも出てきた。タイ資本のアスベスト・セメント工場労働者の組織化に成功し、代替化をめざしているほか、2017年には初めて石綿肺被害者が労災認定を受けた。しかし、繊維セメント製造業者協会(FICMA)をつくる国内アスベスト産業の力はいまだ強大である。GBDによる2019年のアスベスト関連疾患死亡推計で世界第20位(1,748人)。

■ミャンマー

アスベスト関連情報が少ない。USGSの消費量データで2018年に急増があるのは、おそらく間違いだろうと思われる。原料アスベストの輸入はないと思われるが、これまで禁じていたアスベスト含有建材の製造・マーケティングに対する海外投資が解禁され、新規アスベスト工場設置に投資を招聘しようとする動きが伝えられるなかで、対抗する取り組みが必要とされていた。2017年9月に労働組合(BWFM/CTUM)が初めて「アスベスト禁止」の経験を交流するワークショップを開催、2019年1月には初めて政労使アスベスト会議が開催された。被害の報告はまだない。GBDによる2016年のアスベスト関連疾患死亡推計で世界第43位(476人)。

■太平洋諸島諸国

2017年9月、太平洋地域環境計画事務局(SPREP)第28回担当者会議において、その21太平洋諸島諸国及び5メトロポリタン・メンバーの代表らが「太平洋規模でのアスベスト禁止の必要性」に同意した。これは、「アスベストを含有する製品及び廃棄物の輸入、再利用及び再販売に関する太平洋規模の禁止の開発及び実施を承認する」とともに、事務局に資源調達に努力しながら「かかる禁止の開発及び実施に関する作業を進めるよう指示」している。

■ネパール

2015年6月から自動車用ブレーキ等を除くアスベストを禁止した。キャンペーンを主導した環境団体(CEPHED)は2016年に「ナショナル・アスベスト・プロファイル」を策定、政府関係部局や労働組合(GEFONT)等とともにこれを発表して、禁止の履行確保と禁止後の取り組みの重要性を訴えている。被害の公式な報告はまだない。GBDによる2019年のアスベスト関連疾患死亡推計で世界第70位(162人)。

■バングラデシュ

2013年に労働安全衛生団体(OSHEF)、労働組合や技術専門家らによってバングラデシュ・アスベスト禁止ネットワーク(B-BAN)が設立され、2017年には「ナショナル・アスベスト・プロファイル」も策定された。近年アスベスト消費量が増加しており、新たなアスベスト工場が建設されているという情報もある。アスベストの回収も行われていたチッタゴンの船舶解撤労働者の集団健康診断を実施した結果、2017年に同国で初めての石綿肺事例も確認されている。GBDによる2019年のアスベスト関連疾患死亡推計で世界第42位(495人)。

■パキスタン

労働組合(NTUF)や労働者教育団体(LEF)らによる取り組みがはじまっているが、国内のアスベスト産業の力も強い。ガダニ海岸では船舶解撤作業が行われており、バングラデシュ・チッタゴンと同様に労働者の集団健康診断が実施できないか検討されている。被害の公式な報告はまだない。GBDによる2019年のアスベスト関連疾患死亡推計で世界第32位(876人)。

■インド

中国・ロシアとともに世界トップ3消費国のひとつ。2002年にアスベスト禁止ネットワーク・インド(BANI)がつくられたが、全国ネットワークとして機能していないために再活性化が図られている。2017年にはインド労働環境衛生ネットワーク(OEHNI)によって「ナショナル・アスベスト・プロファイル」が策定された。国内生産もあり、鉱山跡地の住民も含めた被害も懸念される。グジャラート州のアラン海岸では船舶解撤も行われている。各地で被害者団体もつくられ、労働者・住民による様々な取り組みもある一方で、アスベスト・セメント製品製造業協会(ACPMA)等をつくる国内のアスベスト産業の力はいまだ強大であり、取り組みの連携と戦略的なアプローチが求められている。いくつかの大病院で中皮腫事例が蓄積されているものの、労災認定された例はまだない。数は少ないが、石綿肺の労災認定事例はある。GBDによる2019年のアスベスト関連疾患死亡推計で世界第8位(8,460人)。

■スリランカ

スリランカもアスベスト大量消費国のひとつ。2015年に大統領がアスベスト禁止導入の意向を発表し、2016年に閣議で、2018年から相対的に有益な代替品を採用することによってアスベストの使用・輸入を管理するとともに、2024年までにアスベスト関連製品を禁止する実行計画を策定することが決定された。この間とその後も、繊維セメント製品製造業協会(FCPMA)が海外ロビーを巻き込み、また、ロシアも公式に禁止を撤回するよう働きかけている。2016年11月に草の根から初めて禁止を支持するワークショップが、労働組合(NTUF)によってコロンボで開催された。被害の公式な報告はまだない。GBDによる2019年のアスベスト関連疾患死亡推計で世界第69位(163人)。

■日本

最後に日本についての関連情報も掲載しておく。