中国のアスベスト(石綿)事情-生産しながら輸入もして世界最大の消費国、中国産品の石綿含有チェックは必須(2020.12.27、2021年2月3日更新)

※健康被害情報等についても追加する予定です。

古谷杉郎(全国労働安全衛生センター連絡会議事務局長、石綿対策全国連絡会議(BANJAN)事務局長、アジア・アスベスト禁止ネットワーク(A-BAN)コーディネーター)

中国のアスベスト(石綿)事情を伝える情報は限られている。本稿は、世界アスベスト会議、アジア・アスベスト禁止ネットワーク(A-BAN)やアジア・アスベスト・イニシアティブ(AAI)等の国際会議・セミナーに参加して得た情報と数少ない一般に入手可能な中国内外の情報に基づいたものである。必ずしも十分なチェックができずに間違った情報が含まれているかもしれないことをお断りしておく。

■中国は世界第3位のアスベスト生産国

アスベストの輸出・輸入量については、国連コムトレード(UN Comtrade)が、各国から報告されたデータを公表している。また、アメリカ連邦地質調査所(USGS)は、上記も含めた入手可能なあらゆるデータに基づいて、生産・消費量等を推計している。

これらによれば、中国のアスベスト生産は、第2次世界大戦後増加を続け、2002年に56万トン強でピークに達した。その後一時減少から反転して2009年に44万トンで第2のピークを記したが、以降は減少を続け、2017~19年は12.5万トンと推計されている。

歴史的には、1900~2019年の世界の累計アスベスト生産量約2億トンのうち1,393万トンで6.6%を占め、ソ連-ロシア・カザフスタンとカナダに次ぐアスベスト生産国である。より近年では、中国はロシア、カザフスタンに次ぎ世界第3位で、この3国が世界のアスベスト生産のほぼすべてを占めている。

■輸入も加えて世界1、2のトップ消費国

中国は、国際生産のほぼすべてを消費するだけでは足りずに主としてロシアから、アスベストの輸入も続けている。輸入のピークは2008年で約30万トン、2018年時点でも約15万トン輸入している。

一方、輸出は、2012年の約7万トンがピークで、2018年は2.8万トン。輸出は本格化するには至っていないように思われる。

結果的に、消費量は、2008年の67万トン弱がピーク、その後減少しながらも、2018年の消費量はなお約25万トンという多さである。

2000~2018年の世界のアスベスト消費量約350万トンのうち870万トン強で4分の1-25%を占めて、世界第1位であった。2014年以降でみると、インドが第1位で、中国は第2位になっている。

■石綿含有製品の輸出入も膨大

以上は原料アスベスト(石綿繊維)に関する情報で、UNコムトレード・データベースでは石綿含有製品の輸出入に関する情報も抽出することができる。

中国は、石綿含有セメント製品、石綿含有紡織製品、石綿含有摩擦材製品を輸入と輸出のどちらもしていて、紡織品と摩擦材については輸出量が輸入量を大きく上回っている。ただし、絶対量ではセメント製品の輸出のほうが多い。

ニトリやカインズが輸入した石綿含有珪藻土製品はおそらく石綿含有製品として申告されていなかったであろうから、この統計には含まれていないだろう。

この統計上で非石綿セメント製品または非石綿摩擦材製品として記録された輸出品にも、石綿を含有していたものが含まれている可能性は否定できないということでもある。

■中国における石綿規制の内容と経過

中国における石綿規制については、主な動きとして以下のような情報が伝えられている。

1986年-ハンドメイド製品を含め、フォーマルでない方法で石綿含有製品を製造する企業の閉鎖を求めたいくつかの環境保護問題に関する国の決定。

1987年-国家標準GB/T 8071-1987「温石綿(白石綿=クリソタイル)」→2001年に同名のGB/T 8071-2001に置き換えられた。

2002年-経済貿易委員会(命令第32号-淘汰落後生産能力 工芸・産品目録)により青石綿(クロシドライト)禁止

2002年-国家標準GBZ 2-2002「職場有害要因の接触制限値」により石綿の曝露規制値を2繊維/mlから0.8繊維/mlに引き下げ。

2003年-自動車の摩擦材への石綿禁止(不含有要求、1993年制定の国家標準GB 12676-1999「自動車ブレーキシステム(制動系統)の性能と試験方法」によると聞いている。いずれにせよ、GBZ 21670-2008「乗用車のブレーキシステム(制動系統)の技術要件と試験方法」、GBZ 12676-2014「商業用車両及びトレーラーのブレーキシステム(制動系統)技術要求と試験方法」等によって置き換えられている)。

2004年-北京市におけるすべての建設会社において石綿含有製品禁止。

2005年-商務部、海関(税関)総署、環境保護総局が、すべての種類の角閃石系石綿(アンフィボル・アスベスト)を含めた輸出入禁止品リストを公布。

2005年-国家標準HJ/T 206-2005「環境ラベリング製品技術要求 無石綿建築製品」-偏光光学顕微鏡による試験方法を示している。

2005年-国家標準GB 19865-2005「電気玩具安全」は、石綿不含有の要求あり。GB 4706.1-2005「家庭用及び類似の電化製品の安全」も、石綿成分不検出の要求あり。

2007年-国家発展改革委員会が、新たな技術、新たな製品開発及び無石綿摩擦材及びシーリング材の生産を促進する、石綿の安全な生産と使用に関する方針を策定(産業構造調整誘導リスト 2007年版)。

2007年-衛生部が新たな規則を発行-国家標準GBZ/T 193-2007「石綿加工における職業危害の基準、管理及び予防」、GBZ 2.1-2007「作業場所有害要因職業接触制限値」(2019年に同名のGBZ 2.1-2019によって置き換えられた)、GBZ/T 192.5-2007「石綿繊維粉じん計数濃度の測定」。

2008年-工業情報部が、「石綿の安全な生産、流通及び使用の促進のための管理措置」を提案。

2008年-国家標準GB/T 8071-2008「温石綿」

2008年-2008年北京オリンピック2010年アジア競技大会の建築プロジェクトにおける石綿禁止。

2009年-国家標準GB/T 23263「製品中石綿含有量測定方法」

2010年-国家標準GB 50574-2010「壁材応用統一技術規範」により、建築用サイディング材及び壁材への石綿使用禁止(GB 50574-2020によって置き換えられている)。

2012年-HJ/T 2515-2012「環境ラベリング製品の技術要件 船舶防汚塗料」が石綿使用禁止。その後、GB/T 36216-2018「船舶と海洋技術 船舶解体管理体系 船舶解体中の石綿飛散・曝露防止措置」、GB 38469-2019「船舶用塗料中有害物質限度量」が策定されている。

2014年-工業情報化部が「温石綿業へのアクセス[准入=参入]基準」を布告、このもとで環境保護、安全、労働衛生が基準を満たさない場合には2015年末までに地方政府によって都市部周辺の温石綿企業は閉鎖される(青海省、甘粛省、新疆ウイグル自治区の省境の大温石綿地帯に生産が集約されつつあると聞いている)。

2015年-「化粧品安全技術仕様」2015年版、白石綿は禁止成分、不検出の要求あり。

2019年-国家発展改革委員会「産業構造調整指導目録」2019年版は、角閃石系石綿建材や石綿含有クラッチフェースや自動車制動用摩擦材等を淘汰されるべき「落後産品」とする一方で、高性能無石綿製品を奨励している。

2020年-国家標準GB/T 39498-2020「消費品中の主要化学物質の使用に関するガイドライン(控制指南)」は、6種類のアスベスト繊維またはそのような繊維の意図的な添加は消費品に使用されるべきではないとしているという(義務ではない)。

以上を要約すれば、日本ではすべての種類の石綿及び石綿含有製品が禁止されているのに対して、中国では、青石綿(クロシドライト)、茶石綿(アモサイト)を含む角閃石系石綿(アンフィボル・アスベスト)は禁止されているものの、白石綿(クリソタイル)の禁止は国家標準による自動車用ブレーキや壁材等一部に限定されていて、需要の減少傾向はみられるものの、中国では石綿がいまだに大量に使用され続けているということである。

また、日本では をその重量の0.1%を超えて含有するすべての製品が石綿含有製品として禁止されているのに対して、中国では含有率5%未満であれば「アスベスト・フリー=無石綿」製品とされるというオーストラリアでの報道があるのだが、上記HJ/T 206-2005「環境ラベリング製品技術要求 無石綿建築製品」には記述はない。中国の友人らと調べたところでは、実際に含有していても無石綿と称されている場合があることは、中国のビジネスウエブサイトでも報じられている。中国の規制の仕方は、使用禁止、含有してはならない、検出されてはならない等で、含有率基準は示されていない。GB/T 35357-2017「船舶塗料中石綿含量測定方法」とGB/T 33395-2016「塗料中石棉測定」だけは検出限界を0.1%と示している。ということで、5%未満なら無石綿と称することができるとした基準はないかもしれない。

国際標準に照らしての分析方法や分析機関の信頼性も含めて、輸入元-中国企業から「石綿を含有していない」という情報を得ただけでは、石綿を含有していないことの保証にはならないということを強調しておきたい。

■違法な石綿含有製品輸入に対する対策

以前にも、石綿を含有した幼児用自転車・自転車用ブレーキが中国から日本に輸入されていたことが明らかになったことがある。中国から輸入したタルクが石綿を含有していることが韓国で明らかになり、アジア各国で一大スキャンダルになったこともある。また、オーストラリアやニュージーランドで、中国から石綿を含有した鉄道車両や建材の違法輸入が、大きな社会問題になった。そして、今回、ニトリやカインズによる石綿を含有した珪藻土製品の違法輸入問題である。

別稿「違法な石綿(アスベスト)含有品の流通・輸入は珪藻土バスマットだけの問題ではない、全面禁止の履行確保は未解決の課題」では、これが禁止を導入している国すべてにとって共通の課題であると指摘して、オーストラリアの経験を紹介した。

オーストラリアの基本的な方針は、「輸入者が、輸入する物品がアスベストを含有していないことの証拠を提供及び証明する必要がある」ことを徹底することである。中国企業が証明しただけでは足らず、オーストラリア試験所認証機関(NATA)または同等の国際的認証機関による証明を求めている。そして、違法な輸入に対する罰則を強化(最高5年の懲役)して、「アスベストの輸入を大目に見ることはない」というメッセージを送るとともに、実際に適用することであった。合わせて、税関や国境警備、消費者委員会や労働安全衛生機関などの具体的協力体制を強化する等した。

日本もぜひ見習ってほしい。石綿含有製品を輸入した企業は「知らずに違法品をつかまされた被害者」ではなく、「石綿含有のチェックを怠った違法輸入・販売業者」として対処されるべきである。また、違法行為を行った企業として、謝罪及び説明等の責任を真摯に果たすべきである。

珪藻土製品だけに注目せずに、石綿を含有する可能性のあるあらゆる製品をこの機会にチェックすべきである。厚生労働省の通達2020年11月27日付け基安発1127第1号「石綿含有製品等の製造、輸入、譲渡、提供又は使用の禁止の徹底について」は、「石綿を含有する可能性がある石綿の表記がない建材及び類似品の例」として、「繊維強化セメント板、パルプセメント板、珪藻土保温材、塩基性炭酸マグネシウム保温材、けい酸カルシウム保温材、バーミキュライト保温材、パーライト保温材、屋根用折板裏断熱材、煙突用断熱材、スレート、スラグ石こう板、けい酸カルシウム板第1種、けい酸カルシウム板第2種、ロックウール吸音天井板、タルク」を挙げ、「ガスケット、パッキン」にもふれている。ブレーキなどの摩擦材や紡織品も忘れてはならない。

珪藻土製品が石綿を含有していたのは、中国企業が何らかの目的で意図的に追加したか、または、石綿含有製品を製造する同じ設備を使用して非意図的に含まれてしまった可能性もあるかもしれないが、珪藻土が石綿を含有していたのではないだろう。

しかし、タルク、セピオライト、バーミキュライト、天然ブルーサイト等の天然鉱物が自然に石綿で汚染されている場合がある。これに対して日本では、厚生労働省の通達2006年8月28日付け基安化発第0828001号「天然鉱物中の石綿含有率の分析方法について」が標準的分析方法とされている。けれども、この分析方法では不十分であって、少なくとも電子顕微鏡を用いる必要があり、また、その場合の標準的分析方法を確立すべきであることを別稿で示した。

この問題も含めて、中国等からの石綿含有製品の違法な輸入を防止するための具体的で実効性のある対策が必要である。

※参考「石綿(アスベスト)企業及び石綿肺症例の分布-中国1997~2019年 China CDC Weekly Reports, No.18, 2020.5.1」
※参考「違法な石綿(アスベスト)含有品の流通・輸入は珪藻土バスマットだけの問題ではない、全面禁止の履行確保は未解決の課題(2020.12.22)」
※参考「世界のアスベスト(石綿)事情(2020.12)」
※参考「アジア・世界におけるアスベスト(石綿)禁止のための取り組み-安全センター情報バックナンバー(随時更新中)」