特集/職業リスクによる世界疾病負荷(GBD)-推計方法の実例 ①職業リスクに起因する中国の疾病負荷
GBDにおける疾病負荷の推計方法は、その都度発表される論文やその補足資料で説明されている。GBD2019のリスク要因別推計では、2020年10月17日発行のランセット誌に「204か国・地域における87リスク要因の世界負荷 1990~2019年:2019年世界疾病負荷研究のための系統的分析」が出版されているが、その抄録の「方法論」の内容を紹介すると、以下のとおりである。
「…GBDは、具体的リスク要因(例えばナトリウム摂取)とそれに関連する集合(例えば食事の質)の両方が評価されるように、リスク要因の階層リストを用いている。方法論には6つの分析ステップがある。①われわれは、研究に基づいた説得力のあるまたは可能性のある証拠の基準を満たす560のリスク-結果の組み合わせを含めた。…②相対リスクは、出版済みの系統的レビュー、GBD2019のためになされた81の系統的レビュー及びメタ回帰分析に基づく曝露の係数として推計された。③本研究に含められた各年齢-性別-場所-年における曝露のレベルは、ベイジアンメタ回帰のひとつである時空ガウス過程回帰DisMod-MR 2.1または別の方法を用いて、あらゆる入手可能なデータソースに基づいて推計された。④われわれは、出版済みの試験またはコホート研究から、理論的最小リスク曝露レベルと呼ぶ、最小リスクに伴う曝露レベルを決定した。⑤起因する死亡、YLLs、YLDs及びDALYsは、人口寄与割合(PSFs)を各年齢-性別-場所-年の関連する結果量により乗じることによって計算された。⑥リスク要因の組み合わせについてのPAFsと起因負荷は、他のリスク要因を介した様々なリスク要因の調停を考慮に入れて推計された。6つのステップすべてにわたって、分析には30,652の異なるデータソースが使われた。分析の各ステップにおける不確実性は起因負荷の最終推計に伝わった。二分、多分及び継続的リスク要因についての曝露レベルは、経時的、場所及びリスクをまたがった比較を容易にするために、要約曝露値を用いて集約された。1990年から2019年までの時系列全体が一貫したデータと方法を用いて再推計されたために、これらの結果は以前に発表された起因負荷のGBD推計にとって代わるものである。」
この内容は、論文本文でさらに説明されるとともに、以下のウエブサイトから入手できる補足付録[Supplementary Appendix]の付録1「方法論」でより詳しく説明される。ただし、付録1は386頁もある文書である。なお、付録2Aと2Bとして、論文に載せられなかった推計結果も収録されている。
※https://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736(20)30752-2/fulltext
2020年2月発行のEnvironmental Health誌に「中国における18の職業リスクに起因する疾病負荷:2017年世界疾病負荷研究のための分析」という論文が掲載されている。これを読めばわかるとはとても言い難いのではあるが、GBDにおける職業リスクによる疾病負荷の推計方法の一層の理解の一助になるのかもしれないと考え、紹介することにした(「討論」と図表のほとんどは省略した)。
※https://ehjournal.biomedcentral.com/articles/10.1186/s12940-020-00577-y
抄 録
背景:中国は世界人口の18%を超える、7億7,700万超の労働者を擁している。しかし、職業リスクに起因する疾病負荷は、中国では入手できない。われわれは、1990年から2017年の州レベルにおける、職業リスクに起因する疾病負荷を推計することを目的とした。
方法:われわれは、2017年世界疾病負荷研究(GBD2017)に基づいて、1990年から2017年の中国における職業リスクに起因する、要約曝露値(SEVs)、死亡及び障害調整生命年(DALYs)を推計した。本研究に含められたのは、18の職業リスク、22の関連する原因及び35のリスク-結果の組み合わせである。一方で、社会人口指数(SDI)別に、中国の州における、職業リスク要因に起因する年齢標準化死亡率を比較した。
結果:ほとんどの職業リスクのSEVsは1990年から2017年に増加した。中国において総職業リスクに起因する323,833死亡(95% UI 283,780-369,061)及び14,060,210DALYs(12,022,974-16,125,763)があり、各々対応する世界レベルの27.9%及び22.1%だった。主要なリスクは、起因死亡については職業性粒子物質・ガス・ヒューム(PGFs)、起因DALYsについては職業性傷害であった。起因負荷は、女性よりも男性において相対的に高かった。SDIの高い州と比較して、SDIの低い州、とりわけ中国西部は、総職業リスク、職業性PGFs及び職業性傷害に起因する死亡率が相対的に高かった。
結論:職業リスクは、中国における膨大な疾病負荷の原因となっている。起因する負荷は、リスク曝露、社会経済的状況及び仕事の種類の差を反映して、男性及び開発途上の州で相対的に高い。われわれの研究はさらなる研究の必要性を強調するとともに、職業による健康損失を効果的に低減させるための、とりわけ中国の開発途上の州のための、労働者の健康に対する政策介入に焦点をあてている。
はじめに
中国は、13.7億人の人口をもつ、世界でもっとも人口の多い国である。過去数十年間に中国は、製造業における世界のリーダーとして浮上し、競争力を高めるとともに、世界経済に対する影響力を増しつつある。しかし、急速な経済成長はまた、労働者の健康を脅かす様々なリスクを職場にもたらす。中国には7億7,700万を超す労働者がおり、2億超の労働者が職業ハザーズに曝露している。労働者の健康の監視及び労働衛生サービスの改善における課題に取り組むことが、中国にとっての優先課題になってきた。
職業リスクは、環境ハザーズの一部として、多くの疾病及び傷害発生の原因となる。職業リスクに起因する負荷を評価することによって、正確で包括的なデータを政策立案者に提供し、関連する健康損失を効果的に予防することができる。[中国では]国レベルで大気汚染の負荷を推計する試みはなされてきたものの、少数の研究が職業性発がん物質及び傷害の負荷を推計しただけであり、それらは中国のいくつかの州に限定されていた。また、職業曝露は、空間的及び時間的不均一性を示すとともに、様々な地域の社会経済レベルと密接に関連している。それゆえ、職業リスクに起因する疾病負荷の時空的傾向に関する包括的な研究が、中国では緊急に必要である。
本論文でわれわれは、2017年世界疾病負荷研究(GBD2017)の一部として、1990年から2017年の中国における、18の職業リスクに起因する疾病負荷レベル及び社会人口指数(SDI)別の地理的不均一性を評価した。われわれは、中国における職業保護戦略及び介入にとって有用な情報を提供するために、労働衛生における主要な諸問題をみつけだすことを目的とした。
方 法
概 観
GBD2017で195か国・地域についての1990年から2017年の行動、環境、職業及び代謝リスクについての性別、リスク別及び原因別の死亡率並びに疾病負荷のレベルと傾向を推計するために、比較リスク評価(CRA)アプローチが開発された。詳細な枠組みとデータ分析方法は以前に提供されている。CRAの枠組みでは、寄与負荷は、過去の人口曝露が反事実レベルのリスク曝露にシフトした場合、現在の疾病負荷の減少として計算される。首尾一貫したアプローチを用いることによって、CRAは、様々なリスク要因に起因する死亡とDALYsのランク付けと比較を可能にし、政策立案者にさらなるデータガイダンスを提供する。複合指標としてのSDIは、女性の出産率、教育年数及び一人当たりの収入に基づいて推計された。2017年の中国のSDIについては、われわれの以前の論文で推計している。ここでわれわれは、中国における職業曝露に起因する疾病負荷を推計するために、GBD2017からの職業リスクについての利用可能なデータに焦点をあてた。
リスク要因と関連する原因
GBD2017には、生物学的にもっともらしい関連性をもつ説得力のある、または、可能性のある証拠についての世界がん研究基金(WCREF)のグレードを満たすリスク-結果の組み合わせが含められた。この研究には、18の職業リスク、22の関連する原因及び35のリスク-結果の組み合わせが含められた。職業リスク要因のヒエラルキーと関連する原因を表1[省略]に示す。職業リスクには、発がん物質、喘息原因物質、PGFs、騒音、傷害及び人間工学要因の、6つのリスクカテゴリーが含められた。職業性発がん物質には、国際がん研究機関(IARC)によってグループ1発がん物質として分類された、13の因子が含められた。曝露の定義、関連する症例の国際疾病分類(ICD)コード及びリスク-結果の組み合わせを支持する疫学的証拠は表S1-S3[補足資料-省略]に挙げてある。
曝露の推計
あらゆる利用可能な情報源から、職業リスク要因に関するデータが収集された。データには、国際労働機関と、中国国勢調査、中国国勢調査間1%サンプル調査や中国国際社会調査計画などの調査による、中国の経済活動比率、職業比率、人口に対する雇用の比率及び死亡傷害率が含められた。複数の入力データを統合し、特定年及び特定の場所の推計値を生成するために、空間-時間ガウシアン過程回帰(ST-GPR)が用いられた。各職業リスクについて、理論的最小リスク曝露レベル(TMREL)は、リスク曝露がない、または、確立されたリスク-結果のない最低レベルのリスク曝露と仮定された(表S1[省略])。共変量として、教育、地質情報及び社会人口統計レベルがモデルに含められた。推計は、(1)職業性発がん物質、職業性騒音と職業性粒子状物質、(2)職業性人間工学的要因と職業性喘息原因物質、及び(3)職業性傷害について異なり、以下の等式が用いられた。
ここで、Er,p,l,y,s,aは、y年のp州の性別sの年齢グループaにおけるレベル1のリスク要因rへの曝露の有曝露率。Pe,p,yは、y年のp州の経済活動eにおける経済活動人口の割合。EAPp,y,s,aは、y年のp州の性別sの年齢グループaにおける経済活動人口。Exposure rater,l,eは、経済活動eにおけるレベル1のリスク要因rへの曝露の率。Er,p,y,s,aは、y年のp州の性別sの年齢グループaにおけるリスクrへの曝露の有曝露率。Pocc,p,yは、y年のp州の職業occにおける経済活動人口の割合。Occupational fatal injuriesp,y,s,aは、y年のp州の性別sの年齢グループaにおける職業性死亡傷害数。Injury ratee,p,y,sは、y年のp州の性別sの経済活動eにおける傷害率。Populationp,y,s,aは、y年のp州の性別sの年齢グループaの人口である。全職業リスク曝露は、年齢15歳以上について推計された。推計値はさらに全推計値の合計によって除算され、様々なカテゴリー全体の合計で1となるようにリスケールされた。
相対リスクと人口寄与割合
GBD2017では、系統的レビューによって各リスク-結果の組み合わせについて相対リスクを決定するために、コホート、プールドコホート及び症例対照研究による情報が入手された。リスク要因は、曝露の測定に基づいて、二分、多分及び継続的[リスク要因]に分類された。各曝露カテゴリーについての相対リスクは表S4とS5[省略]に示した。
人口寄与割合(PAF)は、人口における、関連するリスク要因に起因する結果または原因の割合である。それは、相対リスクによって別々に推計され、所与の年に過去の曝露レベルのリスクが反事実的なレベルのTMRELに減少した場合、所与の人口における結果の減少の割合として計算される。
傷害を除いて、職業リスクについてのPAFsを計算するための等式は、以下のとおりである。
ここで、PAFr,c,p,y,s,aは、y年のp州の性別sの年齢グループaにおけるリスク要因rによる原因cについての人口寄与割合である。RRr,c,s,aは、リスクr、原因c、性別s、年齢グループaについてのレベルx(最低曝露レベル(1)から最高曝露レベル(u)までの範囲)曝露の割合としての相対リスクである。Pr,p,y,s,a(x)は、y年のp州の性別sの年齢グループaにおけるリスクrについての曝露の分布である。TMRELr,s,aは、リスク要因r、性別s、年齢グループaについての理論的最低リスク曝露レベルである。
職業性傷害についてのPAFsを計算するための等式は、以下のとおりである。
ここで、PAFp,y,a,sは、y年のp州の性別sの年齢グループaにおける人口寄与割合である。Occupa-tional fatal injuriesp,y,s,aは、y年のp州の性別sの年齢グループaにおける職業性死亡傷害数である。Fatal injuriesp,y,s,aは、GBD2017の死亡原因から得られた、y年のp州の性別sの年齢グループaにおける総死亡傷害数である。また、複数のリスクのPAFsは、過剰減衰リスクを計算するための調停調整によって集計される。様々な原因についてのPAFsは表S6[省略]に示した。
起因負荷の推計
所与のリスク-結果の組み合わせについて、起因する死亡は、リスク-結果の組み合わせについてのPAFによって乗じられた、当該結果についての総死亡として推計された。損失生命年(YLLs)、障害生命年(YLDs)及びDALYs(YLLsとYLDsの合計)という、他の3つの負荷の測定基準もまた同様のやり方で評価された。起因負荷は、場所、年齢、性及び年別に推計された。各国についての人口一人当たり年齢標準化死亡及びDALYsの計算には、WHOの標準人口が用いられた。
要約曝露値
要約曝露値(SEV)は、各リスクのリスク加重有曝露率の測定基準である。SEVは、様々な場所及び年についてのリスク曝露の簡潔で比較可能な要約を提供するために、関連する原因の相対リスクによって有曝露率を標準化する。SEVの範囲は0~100%で、0%は人口中に所与のリスク曝露がないことを意味し、100%は全人口が所与のリスクに可能な最大限のレベルに曝露することを意味している。
結 果
GBD2017では、職業性傷害を除いて、17の職業リスクについてSEVsがあった(表2[省略])。SEVsの主要な曝露カテゴリーは人間工学要因であり、喘息原因物質、騒音及びPGFsが続いた。中国では、17の職業リスクのうちの15の全年齢SEVsが、1990年から2017年に増加した。ベンゼン、トリクロロエチレン及びクロムへの職業曝露の、3つのリスクについての年齢標準化SEVsは、1990年から2017年に20%超増加した。逆に、職業性人間工学要因及び喘息原因物質についてのSEVsは20%超減少した。
表3[UIと年齢標準化死亡率は省略]に示すように、中国では、2017年に総職業リスクに起因する323,833死亡(95% UI 283780−369,061)があり、世界の起因死亡の27.9%を占めた。PGFs、発がん物質、傷害及び喘息医原因物質に起因する死亡は、2017年の総職業リスクに起因する死亡の各々57.8、21.1、20.8及び0.2%を占めた。1990年から2017年に、傷害、PGFs及び喘息原因物質に起因する年齢標準化死亡率は60%超減少したが、発がん物質に起因する率は16.8%増加した。
表4[UIと年齢標準化DALY率は省略]に示すように、中国では、2017年に総職業リスクに起因する14,060,210DALYs(12,022,974-16,125,763)があり、世界の起因DALYsの22.1%を占めた。職業性傷害、PGFs、人間工学的要因、騒音、発がん物質及び喘息原因物質に起因するDALYsは、2017年の総職業リスクに起因するDALYsの各々32.4、28.3、14.3、12.4、11.7及び0.8%を占めた。1990年から2017年に、職業性傷害は一貫して中国における起因DALYsの主要なリスクだった。総職業リスクに起因する年齢標準化DALY率は56.1%減少したものの、トリクロロエチレン、アスベスト、カドミウム、多環式芳香族炭化水素(PAHs)及びディーゼルエンジン排ガス(DEE)への職業曝露は20%超増加した。すべての関連する原因のうち、COPD[慢性閉塞性肺疾患]が2017年の起因負荷の主要な原因だった。
異なるジェンダーについて、われわれは男女間にSEVの大きな差を観察しなかった(表S8[省略])。図1[省略]に示すように、死亡については主要なリスクは男女ともに職業性PGFsであったが、DALYsについては、女性では主要なリスクは職業性PGFs、男性では職業性傷害であった。総職業リスクに起因するDALYsは、男性で女性でよりも高かった。
2017年のSDI別の中国の州における総職業リスク、発がん物質、喘息原因物質、PGFs及び傷害に起因する年齢標準化死亡率を、図2[省略]に示す。SDIが高い州と比較して、SDIが低い州では、総職業リスク、職業性PGFs及び職業性傷害に起因する死亡率が高かった。中国西部、とりわけ雲南州とチベット自治区の総職業リスクに起因する死亡率がもっとも高かった一方で、中国東部の遼寧省と黒竜江省の職業性発がん物質に起因する死亡率がもっとも高かった。職業性PGFs及び傷害に起因するもっとも高い死亡率は、主として中国西部に集中していた。2017年の中国の州別の総職業リスクに起因する年齢標準化DALY率は、中国西部の年齢標準化職業性DALY率が、中国の他の地域よりも高いという同様の結果を示した。
討 論
[一部省略]
われわれの推計には多くの限界がある。もっとも重要な限界は、中国における職業曝露の有曝露率に関するデータを欠いていることである。大気汚染と飲料水中のハザーズと比較して、職業リスクの具体的曝露レベルについてのデータは乏しい。職業性発がん物質についての曝露評価は、1990年代初めの欧州連合の15か国におけるほぼすべての既知及び疑われる発がん物質に曝露した3,200万人の労働者を含んだ、発がん物質曝露(CAREX)データベースに基づいた。しかし、開発途上国の労働者は、先進工業国よりも高いレベルの職業ハザーズにさらされている可能性がある。CAREXデータを使用することは、開発途上国における健康影響を過小評価するかもしれない。中国は、鉱物埋蔵量と資源が豊富な、セメント、石炭、鉄、鋼のトップ生産者である。近年における中国の急速な工業化も、より多くのカテゴリーの仕事と職業ハザーズをもたらしている。中国で職業ハザーズに曝露している労働人口の割合をより正確に決定するためには一層の努力が必要とされる。厳格な因果基準のために、多くのリスク-結果の組み合わせがGBD推計に含まれるのを妨げられており、それは発表されている他の研究と比較して、職業リスクに起因する疾病負荷の過少推計につながる。例えば、ベンゼンは白血病だけでなく、骨髄異形成症候群、多発性骨髄腫や非ホジキンリンパ腫も引き起こす。肺がんとは別にヒ素曝露は、尿路上皮がん、皮膚がんや心血管疾患も引き起こす。一方で、GBD方法における障害は、職業曝露のもっとも多い後遺症とは関連付けられているものの、精神障害とは関連付けられていない。さらに、複数の職業ハザーズへの同時曝露に起因する複合効果がある。例えば、ベンゼンへの曝露は労働ストレスと相互作用して、石油化学労働者で出生時体重を減少させる可能性がある。ほとんどの職業リスク-結果の組み合わせはランダム化した対照臨床試験では評価することができず、将来の推計では、疫学研究や毒物学的研究による証拠を検討すべきである。
最後に、先進工業国のデフォルトパラメーターを中国に適用することに、多くの不確実性がある。相対リスクは、PAF及びSEV推計にとって重要なパラメーターである。それは、系統的レビューによる前向き観察研究及び症例対照研究から導き出されている。しかし、ほとんどの相対リスクは、低所得及び中所得諸国ではなく、職業曝露の相対的に低い高所得国で実施された研究からきており、それは所与の人口についてのPAFとSEVのバイアスのかかった推計につながるかもしれない。さらに、TMRELの推計も、PAFの計算における重要なステップである。TMRELのわずかな変化がPAFの相対的に大きな変化につながる可能性がある。すべての職業リスクについて、TMRELは、対応する職業曝露がない、または、所与のリスクのバックグラウンドレベルと定義されている。しかし、発がん物質、喘息原因物質や騒音を含めた職業ハザーズのバックグラウンドレベルは、特定することが困難な場合が多い。中国における相対リスクとTMRELをより正確に推計するために、職業曝露が高い地域と低い地域の双方における追加的な疫学研究が奨励されるべきである。
人口の健康に対する化学物質曝露の影響のより正確な推計を提供するための代替的方法として、人的資本アプローチが提案されている。それは、認知障害などの伝統的な身体的健康を含み、しかしそれだけに限らない、否定的結果に関連した金銭的コストを割り当てる医療経済的方法である。職業リスクに起因する負荷のより包括的かつ正確な推計を手に入れるために、既存のGBD方法と人的資本アプローチとのハイブリッドなアプローチが奨励されるべきである。
GBDにおける現在の方法は人口の健康に対する職業リスクの影響を完全に推計することはできないものの、現在のところ相対的に妥当な推計を生み出すために、結果はあらゆる利用可能な情報源から推計されている。さらにわれわれは、開発のレベルの異なる地域における違いを分析するために、われわれの分析に社会経済的影響を取り入れている。中国におけるより妥当な推計に貢献するために、データの質と入手可能性を高めるさらなる取り組みが期待されている。
[以下省略]
安全センター情報2021年6月号
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