進化・発展する世界疾病負荷(GBD)推計ー進化・発展中のGBD推計、傷病・リスク別では変動も:世界疾病負荷(GBD2015~2019)推計データ

2021年6月号で紹介したように、世界疾病負荷(GBD)推計は、2012年に2010年までの推計を示したGBD2010が示された後、2015年にGBD2013、2016年にGBD2015、2017年にGBD2016、2018年にGBD2017、そして2020年10月17日にGBD2019に更新されている。

表1~6は、各GBDの直近年-GBD2015年による2015年、BD2016年による2016年、GBD2017年による2017年、BD2019年による2019年-の死亡数の推計データを比較して示したものである。紙幅の都合でGBD2013のデータを示せず、また、国別データがないGBD2010も示していない。

全原因による総死亡数には大きな変動はみられないものの、原因傷病別の総死亡数にはそれなりに変動しているものもあり、リスク要因別死亡数ではかなり大きく変動しているものもあるので注意が必要である。また、これはGBD調査はまさに現在進行形で進化・発展中の研究だからでもある。

まず、リスク要因による疾病負荷に関する各GBD論文の、以前の推計からの変更に関する説明を紹介しておこう。

■GBD2010-「21地域における67のリスク要因またはリスク要因クラスターに起因する傷病負荷の比較リスク評価 1990~2010年:2010年世界疾病負荷研究のための系統的分析」(2012年12月)

https://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736(12)61766-8/fulltext

「傷病の負荷の測定は、健康政策への重要なインプットである。同様に重要なことは、それら傷病についての潜在的に修正可能なリスク要因の寄与の比較評価である。様々なリスク要因への疾病負荷の寄与は、健康のパターンと傾向の主要な推進要因についての疾病別死亡の分析と比較して、異なる価値を提供する。傷病の予防のために情報提供することがきわめて重要である。

疾病負荷へのリスク要因の寄与を理解することは、過去数十年間にいくつかの比較研究を動機付けてきた。DollとPetoの独創的な仕事は、がん発症における様々な曝露、とりわけ喫煙の重要性に関する比較評価を提供した。その後Petoと同僚は、1950年以降の先進国における死亡率に対する喫煙の影響を推計した。これらのリスク要因別または原因別の分析は政策にとって有用ではあるものの、より包括的なリスク要因に起因する疾病負荷の世界的評価は、疾病負荷の低減と健康の増進のための取り組みの基礎を強化することができる。世界疾病負荷研究(GBD)1990は、10の主要なリスクに起因する死亡率と障害調整生命年(DALYs)について、最初の世界・地域の比較評価を提供した。しかし、様々なリスクに対する様々な疫学的伝統が、結果の比較可能性を制限した。その後、MurrayとLopezは2000年に、26のリスクの評価のための基礎を築いた、世界的比較リスク評価のための枠組みを提案した。この仕事以来、WHOが、同じ方法によって、しかし各リスクについての曝露を更新及びいくつかの影響の規模をいくらか更新しながら、リスクについての推計を提供してきた。がんのような疾病の特定のクラスター、または母子栄養失調などのリスク要因のクラスターについての分析もなされてきた。国別の比較リスク評価も行われてきた。

GBD2010は、共通の枠組みと方法論を用いることによって、幅広いリスク要因について曝露と影響の規模に関する証拠を再評価する機会を提供するものである。とりわけ、この作業が、1990年と2010年における傷病負荷の全面的再評価と並行して行われたことから、初めて、様々なリスク要因に起因する疾病負荷の変化を、比較可能な方法論をもって経時的に分析することができる。各疾病または障害の結果について不確実性が予測されたことから、GBD2010は最終推計への不確実性を組み込むことも可能にした。われわれは、過去20年間における、世界と世界の21地域の、67のリスク要因とリスク要因クラスターの重要性の比較について、一般的なアプローチ及び高いレベルの結果を示す。」

■GBD2013-「188か国における79の行動、環境・職業及び代謝リスクまたはリスククラスターの世界、地域及び国の比較リスク評価 1990~2013年:2013年世界疾病負荷研究のための系統的分析」(2015年12月)

https://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736(15)00128-2/fulltext

「GBD2013の比較リスク評価はいくつかの点でGBD2010研究をさらに更新している。①新たなリスク(手洗い慣行、トリクロロエチレンへの職業曝露、小児消耗症、小児発育障害、不安全なセックス、及び低糸球体濾過率)の追加、②曝露についての新たなデータ、③観察された人口分布をよりよく示すためのほとんどの継続的リスク要因についての正規分布ではなく対数正規分布の仮定、④相対リスクの系統的レビューとメタアナリシスの更新、⑤全GBDリスク要因の複合効果と3つの大分類-すなわち行動、環境・職業及び代謝リスク要因-の集約を含め、リスク要因の複数のレベルでの負荷の集約、⑥共同リスクに関連した負荷の定量化における主要なリスク要因間の調停の系統的包含、及び、⑦188か国についてのリスク負荷の定量化、である。さらに、1990~2010年の5年間隔プラス2013年についての負荷推計の生成はもちろん、曝露のマルチレベリル分析のための最新の分析手段(DisMod-MR)の活用など、特定のリスク要因についてのいくつかの重要な改善が実施された。」

■GBD2015-「79の行動、環境・職業及び代謝リスクまたはリスククラスターの世界、地域及び国の比較リスク評価 1990~2015年:2015年世界疾病負荷研究のための系統的分析」(2016年10月)

https://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736(16)31679-8/fulltext

「GBD2015は、最近出版された研究、新たに認められた相対リスクに対する曝露についてのデータ、及び研究の包含基準に合う新たなリスク-結果の組み合わせを組み込んでいる。裏付けとなる証拠の透明性を高めるために、388のリスク-結果の組み合わせすべてについて因果関係を支持する証拠の評価を提供している。初めて、二分的、多分的及び継続的リスクについて経時的及び場所的比較を可能にする、要約曝露値を計算することによって、リスク曝露の傾向を別途評価した。曝露傾向の定量化は、人口増加、人口構造、曝露、及びリスク削除DALY率の変化に起因した部分への起因DALYsの分解を可能にする。曝露の低減が変化の主要な推進力であったのは、衛生、家庭内大気汚染及び行動リスク(例えば栄養失調や喫煙)などのわずかなセットの環境リスクについてしかなかったことが見出された。多くにリスクについて、人口増加、高齢化及びリスク削除DALY率の低下の相互作用によって、起因DALYsの傾向が推進されていた。肥満度指数、空腹時血漿グルコース、発がん物質への職業曝露や薬物使用など、いくつかのリスクについては曝露が増加し、起因負荷を押し上げつつある。国が開発の連続体を通じて移行するにつれて、平均的なリスク移行が生じてきたものの、多くのリスクは当初は増加し、その後、最高の開発レベルで減少する。本研究に含められた国・地域の各々について、主要なリスクを示している。」

■GBD2016-「84の行動、環境・職業及び代謝リスクまたはリスククラスターの世界、地域及び国の比較リスク評価 1990~2016年:2016年世界疾病負荷研究のための系統的分析」(2017年9月)

https://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736(17)32366-8/fulltext

「GBD2016はGBD2015のうえに構築され、5つの新たなリスクの定量化はもちろん、いくつかの重要な改善を提供している。前年からの革新と改善は、以下のように要約することができる。すべてのリスク要因にわたって、GBD2016の情報源計数方法によると、7,155の追加的データソースがあった。食事については、食事の記憶、家計及び食事回数アンケート調査に関するデータを含めた。また、所与の年に人口が利用できた食料についての国の計数はもちろん、170か国からのデータを組み入れた。GBD2016では、無煙たばこ、低出生体重と短在胎期間、妊娠中低出生体重、在胎低出生体重、出生体重短在胎期間、低マメ科食物食の5つの新たなリスクについての推計を生み出している。また、小児肥満を含めるように高肥満度指数(BMI)を拡張した。また、93の新しいリスク-結果の組み合わせを追加した。GBDでは、以下のリスク要因の推計について大きな改訂が行われた。受動喫煙については、喫煙率についての推計との整合性を確保するように推計方法を変更した。アルコールについては、すべての結果について新たな相対リスク(RRs)を推計し、曝露についてさらなるデータ及び旅行と未記録消費について新たな調整方法を組み入れるとともに、理論的最小リスクレベル(TMREL)を再定義した。食事については、1日当たり2,000kcalに標準化した摂取量ではなく、摂取量の絶対レベルに基づいて食事リスクの疾病負荷を推計した。継続的リスク要因の分布とのよりよい一致を生み出すために、様々なパラメーター分布のアンサンブルモデルを開発した。超低証拠を見直し、10のプールドコホート分析に基づいて更新した。社会人口統計指標(SDI)を開発及び用いることによって、リスク曝露と負荷の地理的及び時間的傾向の分析を拡張するとともに、国がリスクの移行期にある場所についても調べた。また、示される結果が追加的であり、また、年齢グループにわたった傾向はもちろん、全原因と原因別死亡率の傾向を説明するために集約できるようにするように、分解方法を改善及び修正した。リスク要因が、原因別はもちろん、年齢・性別の全原因死亡率の傾向にどのように貢献したかを検討するために、分解分析を拡張した。」

■GBD2017-「195か国・地域における84の行動、環境・職業及び代謝リスクまたはリスククラスターの世界、地域及び国の比較リスク評価 1990~2017年:2017年世界疾病負荷研究のための系統的分析」(2018年11月)

https://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736(18)32225-6/fulltext

「GBD2017は、1つの新たなリスク要因-いじめ被害と80のリスク-結果の組み合わせを追加して合計476のリスク-結果の組み合わせへとGBD 2016の対象を拡大している。GBD2017は46,749の情報源を組み込んでいる。エチオピア、イラン、ノルウェーとロシアの国内地域別及びニュージーランドのマオリ系住民と非マオリ系住民別に、推計場所を拡大した。よりよい推計リスク要因曝露・相対リスクに向けて方法の幅広い改善を実施した。とりわけ、総コレストロールから低密度リポタンパク質コレステロールへ移動、喫煙について曝露の継続的測定を実施、また、ほぼ4,000か所の新たな地上測定データで大気中粒子状物質汚染モデルを更新した。分解分析法を拡張して、リスクに起因する負荷の推進要因と国別の負荷の変化を調査するとともに、リスクの幅広いカテゴリー間のリスク起因負荷を分解し、リスク起因負荷の変化パターンとそれらの根本的原因に対するより深い洞察を提供した。社会人口統計指標に基づき期待リスク加重有曝露率を推計することによって、リスク曝露と負荷の地理的及び時間的傾向についての分析を広げた。すべての場所と年にわたって開発状況とリスク曝露の間に観察された関係を調査するとともに、初めてリスク曝露の期待値に対する観測値の比率の時空間パターンを説明した。」

■GBD2019-「204か国・地域における87リスク要因の世界負荷 1990~2019年:2019年世界疾病負荷研究のための系統的分析」(2020年10月)

https://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736(20)30752-2/fulltext

「GBD2019は12の点で、起因負荷の技術的定量化を前進させている。

① GBDとWHOの間の合意の支援によって新たに9か国を分析に加えた。

② GBD2019には5か国について国内地域別分析を加えた。

③ リスク要因として高・低の不適切な温度が加えられた(54の新たなリスク-結果の組み合わせ)。

④ 81のリスク-結果の組み合わせについてGBD 2019の一部として新たな系統的レビューが行われた。

⑤ 139のリスク-結果の組み合わせについて、リスクと曝露の単位当たりの増加の間の対数戦関係を仮定することによって、曝露と相対リスクとの間の関係が適切に補足されていない可能性を評価するために、量-反応メタ回帰分析が実施された。

⑥ 系統的レビューと量-反応メタ回帰分析に基づいて、包含基準を満たさなくなった12のリスク-結果の組み合わせをGBD2019から除外した。

⑦ 系統的レビューと量-反応メタ回帰分析に基づいて、以前含まれていたリスクについて、47の新たなリスク-結果の組み合わせが含められた。これには直径2.5μm未満の粒子状物質(PM2.5)と関連した中間結果としての低出生体重及び短在胎期間に関連した結果が含まれ、PM2.5に起因する負荷を増加させた。

⑧ リスク関数の評価のために、新たなコホート、試行、及び症例対照研究が追加された。

⑨ 年齢、性、及び場所別のリスク要因曝露を評価するために、新たな情報源が追加された。

⑩ ネットワークまたはメタ回帰分析を用いて、非参照法曝露測定についての補正が改訂された。

⑪ 食事リスクについて、新たな系統的レビューに基づいて、理論的最小リスク曝露レベル(TMREL)が改訂された。

⑫ 分布の非対称的性質をよりよく補足するために、個々間のアルコール使用の分布が改訂された。リスク要因曝露、相対リスク、TMREL及び起因負荷の定量化の各ステップにおける技術的改善に加えて、本研究でわれわれは、リスク要因の集合について要約曝露値を計算することによって、リスク曝露の幅広い傾向に注目した。リスク曝露における長期的な世界と国の傾向を分離することは、どの場合に世界が有害なリスクへの曝露の低減に成功してきたかを明らかにした。」

以上のリスク要因全体での変更の説明では、職業リスク要因だけに限定されたものは少ない。

以下では職業リスク要因にしぼって、まず、リスク要因-結果(傷病)の組み合わせを確認しておく。

以下の組み合わせには、GBD2013以降、変更はない。

職業性傷害-傷害
職業性喘息原因物質-喘息
職業性騒音-難聴
職業性人間工学要因-腰痛

GBD2013・2015では、じん肺(珪肺、石綿肺、炭鉱夫じん肺、その他のじん肺)の死亡・DALY数等は推計されていたものの、リスク要因とは組み合わせられていなかった。

GBD2016以降、リスク要因として職業性粒子状物質・ガス・ヒュームが含められ、炭鉱夫じん肺、その他のじん肺、慢性閉塞性肺疾患との組み合わせが推計されるようになった。また、リスク要因としては職業性発がん物質に分類されているものの、シリカ-珪肺、アスベスト-石綿肺の組み合わせも推計されるようになった。

職業性発がん物質(職業性粒子状物質・ガス・ヒュームを含む)については、以下のとおりである。

GBD2013~2016では副流煙-肺がんが含まれており、とくにGBD2016では肺がん以外に、乳がん、慢性閉塞性肺疾患、下気道感染症、虚血性心疾患、脳血管疾患、糖尿病が含まれていた。

● 発がん物質

① ヒ素(1疾病)-気管支・気管・肺のがん
② アスベスト(5疾病)-気管支・気管・肺のがん、中皮腫、卵巣がん、喉頭がん、石綿肺(GBD2013・15なし)
③ ベンゼン(1疾病)-白血病
④ ベリリウム(1疾病)-気管支・気管・肺のがん
⑤ カドミウム(1疾病)-気管支・気管・肺のがん
⑥ クロム(1疾病)-気管支・気管・肺のがん
⑦ ディーゼルエンジン排ガス(1疾病)-気管支・気管・肺のがん
⑧ ホルムアルデヒド(2疾病)-鼻咽頭がん、白血病
⑨ ニッケル(1疾病)-気管支・気管・肺のがん
⑩ 多環式芳香族炭化水素(PAH)(1疾病)-肺がん
⑪ シリカ(1疾病)-気管支・気管・肺のがん、珪肺(GBD2013・15なし)
⑫ 硫酸(1疾病)-喉頭がん
⑬ トリクロロエチレン(1疾病)-腎臓がん
⑭ 副流煙(GBD2013・2015は1疾病、GBD2016は7疾病、GBD2017以降なし)
⑮ 職業性粒子状物質・ガス・ヒューム(3疾病)- 炭鉱夫肺、その他のじん肺、慢性閉塞性肺疾患(GBD2013・15なし)

● 疾病別

① 気管支・気管・肺のがん-ヒ素、アスベスト、ベリリウム、カドミウム、クロム、ディーゼルエンジン排ガス、ニッケル、多環式芳香族炭化水素(PAH)、シリカ(8物質)、副流煙(GBD2017以降なし)
② 喉頭がん(2物質)-アスベスト、硫酸
③ 鼻咽頭がん(1物質)-ホルムアルデヒド
④ 卵巣がん(1物質)-アスベスト
⑤ 腎臓がん(1物質)-トリクロロエチレン
⑥ 中皮腫(1物質)-アスベスト
⑦ 白血病(2物質)-ホルムアルデヒド、ベンゼン
⑧ 珪肺(1物質)-シリカ(GBD2013・2015なし)
⑨ 石綿肺(1物質)-アスベスト(GBD2013・2015なし)
⑩ 炭鉱夫肺(1要因)-職業性粒子状物質・ガス・ヒューム(GBD2013・2015なし)
⑪ その他のじん肺(1要因)-職業性粒子状物質・ガス・ヒューム(GBD2013・2015なし)
⑫ 慢性閉塞性肺疾患(1要因)-職業性粒子状物質・ガス・ヒューム、副流煙(GBD2013・2015なし)
⑬ 乳がん(1物質)-副流煙(GBD2016のみ)
⑭ 下気道感染症(1物質)-副流煙(GBD2016のみ)
⑮ 虚血性心疾患(1物質)-副流煙(GBD2016のみ)
⑯ 脳血管疾患(1物質)-副流煙(GBD2016のみ)
⑰ 糖尿病(1物質)-副流煙(GBD2016のみ)

6月号でも紹介したように、WHO/ILO共同の新たな努力もはじまっており、さらなる職業リスク要因-疾病の組み合わせが追加されることが期待されている(長時間労働に係る別稿も参照されたい)。

表1

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表2

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表3

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総死亡数に対する職業リスクによる死亡数の占める割合は、GBD2013が最も小さく、世界で1.3%、日本で1.1%。GBD2016が最も大きく、世界で2.8%、日本で6.0%であった(表1)。

職業リスクによる総死亡数に対する職業性発がん物質による死亡数の占める割合は、世界では新しい推計ほど低くGBD2017で28.8%、GBD2019で28.7%。日本では、GBD2016だけがかなり低く、他は80%前後で、GBD2019では80.0%である(表1)。

残念ながら、悪性新生物による総死亡数のデータを抽出していなかったため(GBD比較データベースは更新されると、以前のバージョンのGBDデータを抽出できなくなる、職業リスクによる総死亡数のGBD2016データを抽出できていなかった)、職業リスクによる死亡数の占める割合の変動は確認することができないが、総死亡数に対する全リスク要因による死亡数の占める割合は、世界でGBD2017・2019ともに3.3%、日本でGBD2017で4.4%、GBD2019で5.1%(表3)。

職業性発がん物質による総死亡数に対するアスベストへの職業曝露による死亡数の割合も変動があるが、世界・日本ともにGBD2016だけなり低くなっている。GBD2017と2019ではあまり変わらず、世界で67.9%と66.7%、日本で85.7%と86.9%(表2)。

GBD2016が低い原因の大きな部分は、推計対象となったリスク要因と死亡原因物質の変化にある。何よりの違いは、GBD2016だけ、副流煙の職業曝露による7疾病-気管支・気管・肺のがん、乳がん、慢性閉塞性肺疾患、虚血性心疾患、脳血管疾患、糖尿病による死亡も推計していることである。GBD2013と2015では肺がんだけは推定されていたが、GBD2017では副流煙リスクは推計されているのだが、職業リスクとしての取り扱いがなくなった。

職業性発がん物質による死亡数については、とりわけ世界について、GBD2015だけが他に比べてかなり多くなっているものがけっこうあることを指摘できる(表2ほか)。

肺がんによる総死亡数に対する全リスク要因による死亡数の占める割合は、世界ではやや減っていてGBD2019で80.3%、日本ではやや変動していてGBD2019で78.1%だが、全体的に約80%である。

肺がんによる総死亡数に対する職業リスクによる死亡数の占める割合のほうが変動が大きく、世界では14.2~26.0%で、GBD2019が最も小さく14.2%。日本では、GBD2013・2015は17%台で、GBD2016~2019では24%前後(GBD2019で23.8%)。

肺がんによる総死亡数に対するアスベストによる職業曝露による死亡数の占める割合は、世界では10%前後で大きな変動はないが、死亡数自体は新しいGBDになるほど多くなっている。日本では、死亡数自体は新しいGBDになるほど多くなっているだけでなく、割合もGBD2013の12.6%から新しい推計になるほど増加して、GBD2019では21.3%(以上表3)。

表4

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表5

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表6

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他方で、中皮腫による総死亡数が、世界について、新しいGBDになるほど少なくなっていることは非常に気になる点のひとつである(表4)。

アスベストへの職業曝露による肺がん死亡と中皮腫死亡の比率が、世界では6.57~6.97の間だったものがGBD2019では7.41に増加。日本では、8.19~11.47とかなり変動が大きく、新しい推計になるほど増加してきている(表5)。

アスベストへの職業曝露による卵巣がんと喉頭がんについては、世界・日本ともに、GBD2013と2015及びGBD2016と2017の間で大きく異なっていて、後者のほうがかなり多くなっている。総死亡数に対する職業リスク(アスベストへの職業曝露)による死亡数の割合も、肺がんほどではないにしろ、卵巣がんと喉頭がんは気になるところ。とりわけ、喉頭がんについて日本ではGBD2016以降9~10%という数字になっている(世界及び卵巣がんの世界・日本では3%台)(表3,表4)

じん肺による死亡数は、GBD2013の世界の推計値が他と著しく異なっていたが、GBD2016以降安定しつつも、微増している(GBD2019で23,015人)。世界では、珪肺が石綿肺の3倍以上であるが、日本では珪肺と石綿肺がほぼ同じになっている。

職業性喘息原因物質による喘息死亡数が、世界について、新しいGBDになるほど小さくなっていることも気になる。喘息による総死亡数に対する職業性喘息原因物質による死亡数の割合は、GBD 2019で、世界で7.5%、日本で2.2%である(表5)。

職業性粒子状物質・ガス・ヒュームによる慢性閉塞性肺疾患死亡は、世界・日本とも、新しいGBDになるほど多くなっている。慢性閉塞性肺疾患による死亡数に対する職業性粒子状物質・ガス・ヒュームによる死亡数の割合は、世界で15%以上、日本でも10%以上を占める(表6)。

表7

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表8

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表7以降に、障害調整生命年(DALYs)のデータを示した。死亡と比較してもっとも違いが出てくるのは、死亡数ではゼロだった職業性人間工学要因と職業性騒音について数字が現われてくることである。職業性人間工学要因によるDALYsは、GBDごとの変動もあるが、GBD2019で、世界では職業性発がん物質によるDALYsの2倍近く、日本でもほぼ同数ある。職業性騒音でも、世界では職業性発がん物質に迫るDALYsがある一方で、日本では職業性発がん物質の4分の1程度である(表7)。

また、世界・日本とも、職業性傷害の比率も高くなっており、逆に職業性発がん物質の比率は相対的に下がっている。

以上のような変化・変動にも留意し、また、今後のGBDのさらなる発展を監視・期待しつつ、よりよい活用の仕方が追求されるべきである。

安全センター情報2021年8月号

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