【速報】日本のアスベスト(石綿)死は毎年2万人超、世界第3位のアスベスト被害大国-最新の世界疾病負荷推計/2020年10月17日更新

予防可能な疾病による負荷の推計を示すことによって対策を推進させることを目的にした「世界疾病負荷(GBD:Global Burden of Diseases)」推計が2年ぶりに2020年10月17日に更新された。1990年から2019年までの推計を示したもので,GBD2019と呼ばれる。
ランセット誌に総括的な諸論文が発表されるとともに、GBD比較データベースで各国・地域等のデータを確認できる。

このデータベースから抽出したデータによって、GBD2019によるアスベストによる健康被害(死亡)の最新推計をみてみよう。

GBDは、①中皮腫、②肺がん、③卵巣がん、④咽頭がん、⑤石綿肺の5疾病について、アスベストへの職業曝露を原因とする疾病負荷を、死亡数、死亡率、障害調整生命年(DALY)等として推計している。
中皮腫と石綿肺については、すべての疾病負荷が、職業曝露以外も含めたアスベストへの曝露によるものと考えてよいだろう。実際、GBDは石綿肺についてはすべてがアスベストへの職業曝露を原因とするものとして推計している。中皮腫については、結果的にアスベストへの職業曝露によるものの全体に占める割合を計算できるかたちになっている。
卵巣がんと咽頭がんは、日本ではいまだに労災保険や石綿健康被害救済制度の対象疾病として明記されていないが、国際がん研究機関(IARC)によって認められているように、ともにアスベスト曝露が原因となる可能性があることが国際的に認知されていて、このような推計まで示されているということである。

図1及び表1に、GBD2019推計による、日本におけるアスベスト関連疾患による「死亡数」を示す。

厚生労働省は毎年、人口動態統計による日本の中皮腫による死亡数を公表している。最新の2019年度分を含めた状況は、2020年9月17日に公表されている(https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/tokusyu/chuuhisyu19/index.html)。

これによると、日本の中皮腫死亡数は、1995年の500人から2019年1,466人へと増加している。GBD2019の推計値はまったく同じ数字ではないが、おおむね近似している。これは、入手可能な日本を含めた信頼できる実際のデータに基づいて最適と考えられるモデルをつくって推計しているからであろう。人口動態統計では、2017年1,555人をピークに、2018年1,512人、2019年1,466人とやや減少しているものの、日本の中皮腫死亡が減少に転じたとは考えられない。

日本では、中皮腫以外の石綿関連疾患による死亡の推計は示されていないので、GBDはきわめて貴重な情報源である。とりわけ、労災保険や石綿健康被害救済制度等による「隙間ない救済」の実現状況を検討するうえで重要なことは明らかであろう。残念なことに、現実の肺がんの補償・救済状況は中皮腫にも届いていないのだが、GBD2019は、アスベストの職業曝露による肺がんは、中皮腫の約11.5倍生じていると推計しているのである。

卵巣がんと咽頭がんも、早急に補償・救済が可能な対象とすべきである。

図表には毎年の推計値を示しきれなかったが、GBD2019では日本におけるアスベスト死は2014年以降、毎年2万人を超えていると推計されている(アスベストへの職業曝露による死亡に限定した場合でも同じである)。ちなみに、速報値による2019年度の労災保険・石綿健康被害救済制度による補償・救済件数は、中皮腫、肺がん、石綿肺、びまん性胸膜肥厚、良性石綿胸水の5疾病合わせても2,131件と、約1割にとどまっている。

GBD推計は近年更新が繰り返されていて、進化の途上にあると言うことができる。表2に、GBD2013、GBD2015、GBD2016、GBD2017及びGBD2019の各々最新推計年における死亡推計の比較を、参考までに示しておく。推計が更新されるたびに、アスベスト被害の規模は少しずつ増加している。

図2及び表3に、GBD2019による、世界におけるアスベスト関連疾患による死亡数を示す。2019年に世界で24万人をこす人々がアスベスト曝露の結果として亡くなっているという状況である。
表4のように、世界規模でみても、GBD推計が更新されるたびに、アスベスト被害の規模は少しずつ増加している。

表5には「死亡数」、表6には「(人口10万人当たり)死亡率」の、国別ランキングの上位99か国と世界合計を示した(2019年についての推定値)。

日本のアスベスト疾患による死亡数は、アメリカと中国に次いで、世界第3位である。

世界には、日本よりもさらにアスベスト被害の状況がインビジブル=見えないまま放置されている国が多数ある。GBD推計は、そのような諸国でアスベストへの認識が高まり、アスベスト禁止を早期導入することによってアスベスト関連疾患を根絶させる取り組みを促進するためにも、重要な情報源である。私たちは、とりわけアジア各国について、このような情報を迅速に発信することを通じて、その努力の一翼を担っている。

しかし、「死亡率」でみると、日本は世界第17位となっている。こちらで上位を占めるアスベスト消費の先進国と日本及び世界の中皮腫(のみ)による「死亡率」の推移を、図3のグラフに示した。

アスベスト消費と、またそれゆえアスベスト被害及びアスベスト禁止の「先進国」といえる諸国のなかで、ドイツとスウェーデンはようやく中皮腫「死亡率」が減少に転じはじめたと言えるかもしれない。イタリアやフランス等は横ばいの状況になっている。

それに対して、日本は、他の先進諸国の「死亡率」よりもかかり低い一方で、「死亡率」がいままさに増加し続けている。他の先進諸国の現在の「死亡率」と同じレベルまで増加し続ければ、「死亡数」が世界第1位になるのも遠いことではないかもしれない。わが国のアスベスト被害の規模及び動向について、認識を新たにすべきである。

「死亡数」で世界第2位の中国が、「死亡率」で第76位であるのも、日本と同じような事情に拠っていると考えられる。世界平均の「死亡率」も、傾斜は相対的に緩いとはいえ、一貫して増加し続けている。

2018年度末時点における日本の石綿関連疾患の補償・救済状況の検証結果

2019年度末時点における日本の石綿関連疾患の補償・救済状況の度速報値

日本の肺がん死亡の24%が職業リスクに起因するもの-世界疾病負荷(GBD2017)推計データ(安全センター情報2019年3月号

進化・発展中のGBD推計、傷病・リスク別では変動も-世界疾病負荷(GBD2013~2017)推計データ(安全センター情報2019年12月号)

アスベスト(石綿)による疾病の労災認定/労災補償の申請・給付について~各疾病や審査請求事例紹介つき~

<本件関連報道>日本の19年石綿関連死者数、推計2万人超 研究機関調査(毎日新聞2020年11月2日)

世界の病気別の死者数などを推計する研究「世界疾病負荷」(GBD)の結果が10月に更新され、日本のアスベスト(石綿)による年間死者数の推計が初めて2万人を超えた。世界でも米国、中国に次ぐ3番目の多さで、日本が石綿の「被害大国」である現実が浮き彫りになっている。
GBDは、米ワシントン大の保健指標評価研究所が中心となり、世界各国から集めたデータを包括的に分析して病気別の死亡者数などを推計する国際研究プロジェクトで、1~2年に1度、結果が公表される。今回はがんや感染症、糖尿病など369種類の病気について、リスク要因ごとに死亡者数などを推計した。
石綿を吸い込むと、がんの一種の中皮腫や肺がんなど深刻な疾患を引き起こす。中皮腫はほぼ全て石綿が原因とされ、厚生労働省の人口動態統計によると、日本では2019年に1466人が亡くなったことが確認されている。一方で肺がんは、喫煙や大気汚染など別の要因と区別ができないため、石綿由来の肺がん死者数としては国内統計がなく、被害の全体像は分かっていない。
今回更新されたGBDによると、日本では19年に仕事での石綿吸引が原因で亡くなった人が2万699人いると推計された。米国では年間約4万人、中国で年間約2万6000人が亡くなっているとされ、日本は3番目の多さだった。また、世界全体では石綿が原因で年間約24万人が亡くなっているとしている。
日本の石綿による推計死者の疾患ごとの内訳をみると、肺がんの死者が1万8342人と最も多く、中皮腫の推計値1599人の約11・5倍だった。また日本で公的に石綿が原因で発症するとは認められていない卵巣がんで204人、咽頭(いんとう)がんで122人が亡くなっているとも推計された。
日本では石綿が原因で中皮腫や肺がんなどを発症したと認められた場合、労災保険と石綿健康被害救済制度によって、補償や救済を受けることができる。全国労働安全衛生センター連絡会議(東京都)によると、19年度にこの二つの制度によって補償や救済を受けられたのは約2100人で、GBDの推計値の1割にとどまっている。連絡会議の古谷杉郎事務局長は「日本の石綿被害の実態は分かっていない。今回の推計は、現在の補償や救済では被害者を救いきれていないことを改めて示している」と指摘する。【柳楽未来】

毎日新聞2020年11月2日