胆管がんの労災申請・認定について
労災認定の目安とされる条件
労働基準監督署に労災請求された胆管がん事案について、厚生労働省は全事案を厚生労働省本省への協議事項としており、同省が設置する「印刷事業場で発生した胆管がんの業務上外に関する検討会」(以下、検討会)での検討により、業務上外を判断しています。
本省~労働局~労働基準監督署のラインで指示、報告が行われながら、 実際の調査は、 労働基準監督署が行います。
収集された資料などに基づいて検討会は業務上外の判断をしています。そのときに重要な参考資料としているのが、 「印刷事業場で発生した胆管がんの業務上外に関する検討会」報告書(以下、検討会報告書)で、下に引用した「 第 10 結論 」の部分です。
この報告書は、最初に問題になった大阪のオフセット校正印刷会社SANYO-CYP社の現・元従業員、遺族から出された労災請求事案16例の業務上外を判断するために行った検討結果をまとめたものです。
当時、同社の被害者から依頼を受けた熊谷信二産業医大准教授(当時)から1年以上をかけた調査に基づく詳細な意見書が提出され、一方、労災請求後に厚生労働省所管の労安研による再現実験結果報告書も提出され、これらをベースにまとめられたのが検討会報告書です。経緯については関心のある方は、特集ページ/職業性胆管がん事件(校正印刷会社SANYO-CYP)をご覧ください。
なお、胆管がんについては、いわゆる「労災認定基準」は定められていません。
第 10 結論
1 化学物質ばく露と胆管がん発症との因果関係
胆管がんは、労働基準法施行規則別表第1の2の列挙疾病に掲げられておらず、 また、過去にも胆管がんを業務上疾病として認定した事例はない。このため、本検討会は、本件事業場における胆管がん症例の特徴について検討を行うとともに、ジクロロメタン及び 1,2-ジクロロプロパンを対象として発がんメカニズム等について検討を行った結果、現時点の医学的知見として、以下のとおり取りまとめ、 胆管がんはジクロロメタン又は 1,2-ジクロロプロパンに長期間、高濃度ばく露することにより発症し得ると医学的に推定できるとの結論に達した。
- 代謝経路と発がん性
ジクロロメタンの代謝経路には、CYP 経路と GST 経路の2つがあり、高濃度 ばく露になると CYP 経路による代謝が飽和するため、GST 経路が活性化し、GST 経路による代謝が行われることにより発がん性が生じると考えられ、1,2-ジク ロロプロパンについても、同様の代謝経路と発がんメカニズムが推測される。 - 飽和濃度
ジクロロメタンの CYP 経路による代謝は、400~500ppm の高濃度ばく露で飽和状態になると考えられるが、1,2-ジクロロプロパンについては、150~250ppm の高濃度ばく露で CYP 経路による代謝が飽和状態になると推測される。 - 胆管がんの発症
ジクロロメタン及び 1,2-ジクロロプロパンの GST経路による代謝は、酵素であるGSTT1-1が局在する胆管上皮細胞の核内において活発に行われ、その過程で中間代謝物がDNA 損傷を起こすと考えられることから、ジクロロメタン又は 1,2-ジクロロプロパンの長期間の高濃度ばく露により、胆管上皮細胞のがん化、すなわち胆管がんの発症につながると考えられる。 - ばく露期間
1,2-ジクロロプロパンについては、本件事業場の胆管がん発症例において最も短いばく露期間は3年8か月であり、当該期間は発症原因を検討する上での参考となり得ると考える。なお、ジクロロメタンについては、本件事業場での単独ばく露の症例はないことから、発症原因を検討する上での参考となり得るばく露期間は不明である。 - 潜伏期間
1,2-ジクロロプロパンについては、本件事業場の胆管がん発症例において最も短い潜伏期間は7年5か月であり、当該期間は発症原因を検討する上での参考となり得ると考える。 なお、ジクロロメタンについては、本件事業場での単独ばく露の症例はないことから、発症原因を検討する上での参考となり得る潜伏期間は不明である。 - 危険因子
胆管がんの発症原因の検討に当たっては、胆管系の慢性炎症等の危険因子に ついても考慮する必要がある。 - 病理所見
胆管がんを発症した者に共通する病理所見(前記第3の2)は、胆管がんの原因を特定する上で基準となるものではないが、これらの所見がみられる場合は、発症原因を検討する上での参考となり得ると考える。
以上から主なポイントとされるのは、
- 1,2-ジクロロプロパン(1,2DPC)又はジクロロメタン(DCM)の職業ばく露が認められる。
- ばく露濃度については、1,2DPCが150~200ppm、DCMが400~500ppmの高濃度ばく露が推定(実測データがあるにこしたことはない)される。
- 最低ばく露期間については、1,2DPCが3.8ヶ月(16例中最低値)が参考になる。DCM単独ばく露の場合のばく露期間は不明。
- 潜伏期間(初回ばく露から発症までの期間)は、7.5ヶ月(16例中最低値)が参考になる。
- 職業性胆管がんに特徴的な病理所見(基準ではないが参考になる)
- 職業ばく露以外のリスク因子の有無と程度
ということになります。
職業関連性胆道がんの遺伝子変異の特徴
2019年6月26日から、職業関連性胆道がんを対象とする免疫チェックポイント阻害薬ニボルマブ(商品名:オプジーボ)の医師主導治験がはじまりました。その理由は、「職業関連性胆道がんは通常の胆道がんに比べて、遺伝子変異が多い、またPD-L1抗体の発現が多くみられることが特徴」とされるところにあります。 https://joshrc.net/archives/3718
この点は、職業性胆管がんの業務上外を判断する際の参考情報になると考えられます。
ジクロロメタン単独ばく露の認定事例
SANYO-CYP社の場合、DCM単独ばく露の被災者がいませんでしたが、2013年3月に最初の職業性胆管がんの業務上認定はSANYO-CYP社の16名に行われたあと、DCM単独ばく露の方も認定されています。次の表は2014年12月までのSANYO-CYP社以外の認定事例をまとめたもとです。3、12、17番がDCM単独ばく露での認定となっています。
また、2018年6月に、2件のDCM単独ばく露事案が労災認定されています。
(https://joshrc.net/archives/3710参照)
職業性胆管がんの疑いのある方はご相談ください。
関西労働者安全センター、全国労働安全衛生センター連絡会議は、職業性胆管がん問題の当初から被災者を支援しこれに取り組んできました。胆管がんの方やご家族で職業性が疑われるというときにはご相談ください。