胆管がん60歳以上で初の認定 兵庫●オフセット印刷作業でDCM(ジクロロメタン)曝露

問合せ先:ひょうご労働安全衛生センター

兵庫県明石市在住のMさん(65歳)が、東大阪労働基準監督署に胆管がんの労災申請を行っていた件で、正式な決定が出た。3月4日に開催された厚生厚労省の胆管がん業務上外に関する検討会において、約8年間にわたり、400ppmを超える塩素系有機溶剤ジクロロメタン単独曝露が原因で胆管がんを発症したとして「労災認定すべき」と判断された。その後、3月11日付けで東大阪労基署より労災認定となった。兵庫県在住者では初の認定者になる。また、胆管がんは高齢者の発症が多いが、60歳代以上で労災認定となったケースは全国で初めてである。

2012年7月、「最近、胆管がん発症のニュースをよく聞くが、私も東大阪市内の印刷会社に勤め、昨年、胆管がんの手術をしました。因果関係はあるのでしょうか?」と、センターに相談の電話があった。問題とされている校正印刷会社SANYO-CYP社とは別の印刷会社で、しかもオフセット印刷作業で、胆管がんを発症されたという相談であり、胆管がんの広がりを感じた瞬間だった。

Mさんは、学校卒業後、1968年から短期間、大阪のオフセット印刷会社に勤務したが、40年以上も前のことであり、使用していた化学物質についてはわかっていない。その後は、長年、別の職種に就いていた。再び印刷業務に就いたのは2001年で、定年までの8年間、東大阪市内の印刷会社に勤務されていた。

勤務は昼夜の2交替勤務。主な印刷はチラシやカタログで、1台の輪転機で1勤務あたり最高15万枚くらいの印刷業務にあたっていた。工場内には2つの建屋があり、それぞれ1階作業場に両面4色刷のオフセット輪転印刷機が各2台ずつ設置されていた。

1台の輪転機は、バトラー(フォークリフトでロール紙をセットする紙装着担当)、オペレーター、スタバン(折り機、製本機担当)の3名で作業を行っていた。版換え時にはインキローラーとプランケットを洗浄する必要があり、3名の作業者全員で担当していた。また、通常運転時にも印刷機を止めるとトラブルになることが多いので、1時間に1回程度1分間ほど低速回転で自動的にブランケットの洗浄を行っていた。低速で印刷機が稼働している間にブランケットに付いた洗浄剤が紙に付着するため、そこからも洗浄剤が蒸発していた。勤務日により機械のトラブル発生回数に違いはあるが、発生するたびに印刷を中断して手動でブランケットの洗浄を行っていた。長時間印刷機を止めなければならないようなトラブルの際も、メーカーを呼べば費用がかかるため、極力社員で修理するようにと指示され、時間がかかっても修理を行っていた。
ブランケットの手動洗浄の溶剤「SSクリーナー」にジクロロメタンが含有されていた。使用量は、2台の印刷機で1週間あたり1斗缶5~6缶も使用していた。

SSクリーナーは、刷機の横のブランケット手動洗浄剤置場に並べ、作業しやすいように1斗缶から蓋のついていない5L缶に移し替えていた。作業は、水の入ったバケツに雑巾をつけるように、5L缶に入っているSSクリーナーにウエスをつけてぼたぼたの状態でインキ汚れを拭き取る。軍手や素手で作業を行うために手にインキがつく。汚れた手もSSクリーナーで拭き取っていた。通常のブランケットの手動洗浄は、印刷機をゆっくり回転させながら、SSクリーナーに浸したウエスでインキをふき取っていた。

さらに、整備、色替え、紙巻き、トラブル発生の時はインキローラーを外して、インキローラーとブランケットの洗浄を行う。一日にトラブルが何度も頻繁に起こることがあり、1勤務でSSクリーナー1斗缶を使い切ることもあった。SSクリーナーに浸したウエスでインキをふき取る際などでは、頭がクラクラしたり、目まいを感じたりしたそうだ。同僚同士で「倒れるな」と声を掛けながら作業を行っていた。

労災申請から1年半以上かかってやっと労災認定となった。この間、厚生労働省から東大阪労基署に対して何度も資料提供が求められ、その都度、Mさんに対しては事細かい業務内容まで何度も聞き取りがあった。それだけ困難事例だと言える。労基署の調査で業者の資材納入伝票が残っておりSSクリーナーの記載があったこと、産業医科大の熊谷先生、関西安全センターのご尽力、また同僚の証言があったからこそ認定につながった。

Mさんは「臭いのきつい職場だったけれど生活のため家族のために働くしかなかった。この病気とは一生付き合っていくしかない」とやりきれない思いでいる。「作業されていたに人は、正式な有機溶剤名を知らずにいるはず。私と同様の作業に携わって胆管がんを発症された方も労災として認めてほしい」と、検討会で審査中とされている方を気遣われている。また、さらに疫学調査を進めてほしいと、ご自身の医学的資料を厚生労働省に提供した。 (ひょうご労働安全衛生センター)

安全センター情報2014年7月