職業性胆管がん事件(校正印刷会社SANYO-CYP)(2018秋)SANYO社の胆管がん発症新たに1名、計19名に/ 全国胆管がん労災認定累計42名(2017年度末)
片岡明彦
(関西労働者安全センター事務局次長/SANYO-CYP胆管がん被害者の会事務局長)
胆管がん、膀胱がん
大阪市中央区の校正印刷会社SANYO-CYP社において職業性胆管がんが多発した事件。
2011年3月に関西労働者安全センターに相談があって以降、関係者の協力のもと熊谷信二教授(産業医大 当時)による疫学調査が行われた結果、前例のない職業性胆管がん事件であることが判明した。
マスコミ報道などを経るなか全国的な大問題に発展し、同社以外にも被害が明らかになっていった。厚労省による全国緊急調査で、印刷会社等におけるきわめてずさんな有機溶剤使用の実態も浮き彫りになった。
熊谷教授らの調査によって、1,2-ジクロロプロパンとジクロロメタンが原因物質であることがわかった。
この事件の大きな特徴は、主要な原因である「1,2-ジクロロプロパン」が、法令の規制対象とされていない物質であったことだ。(「ジクロロメタン」は,有機溶剤中毒予防規則の「第2種有機溶剤等」に該当する規制対象物質だったが、SANYO-CYP社は1997年または1998年までに「ジクロロメタン」の使用を中止し、その後は、「1,2-ジクロロプロパン」だけを使い続けた。)
『「規制対象物質」=「危険」かつ環境測定、防護対策、健康管理の法的義務がある』
だから、
『「規制対象物質ではなく」かつ「同様な性能をもつ」物質を使おう』
という安易な考え方。
SANYO-CYP社でおこなわれていたのが、まさにこれだった。
事件発覚後、会社は「危険だと言われていたら使わなかった」と釈明し続けた。
しかし、実際は、劇症肝炎や胆管がんの発生、死亡を前にしても、現場のひどい臭気を労働者が訴えても、社長らはまともに取り合わず,外部への相談もまともにしないまま年月が経過してしまう。
そのあげくの事件発覚だった。
特集ページ/職業性胆管がん事件(校正印刷会社SANYO-CYP)https://joshrc.net/archives/category/bileductcancer
次から次から新規化学物質が現場に持ち込まれる背景、原因に対応した抜本対策は、この事件を経ても、とられているとはいえないのが現状だ。
「被害者が出て(死んで)はじめて対策に動く」
最近発覚した職業性膀胱がん事件をみても、根っこにある構造的問題は解消されていない。
事件発覚から7年目に
SANYO-CYP胆管がん被害者の会が会社と和解合意した2014年9月当時、在職・退職を含めて,17名が労災認定されていた(うち9名死亡)。
その後、1名が発症し認定されていたところ、この8月に入りさらに1名の離職者A氏から「胆管がんを発症した」との連絡があった。
私たちが知る限りでは、SANYO-CYP社で19人目の胆管がん被害者となる。(表1)
A氏は「いつか発症するという気持ちを『背負っていた』感じでした。γ-GTPが高い状態が続いていた。単身赴任先の神奈川の病院で医師にS社の話はしたら、2、3ヶ月に一度の血液検査、半年に一度CTの経過観察ということになり薬を処方され、γ-GTPかなり下がった。しかし,最近腫瘍マーカーが上がってきて、がんセンターで確定診断となり…」と語る。
家族のいる大阪にもどり9月上旬に専門病院で手術を受けた。術後三日三晩、経験したことのない痛みで眠れず苦しんだ。3週間弱で退院し自宅療養となったが、これから抗がん剤治療がはじまる。
労災請求の手続きを始めて、治療費の自己負担はなくなった。まだ学校に行く子供と妻の4人暮らしの生活をどのように守っていくのか不安のなかで職場復帰を目指している。
職業がん被害者に対する総合対策を
職業性膀胱がんに関連して厚労省に対する申し入れと交渉が2018年9月28日に行われた。
どのように職業がんの発生を予防するのかの一次予防について、いまだにイタチごっこが続いている。
9月28日厚労省申し入れ記事にもあるように、どのように被害発生を把握するかについては、無策が続く。
氏が明らかな胆管がんリスクを負いながら、自費で健康管理をしていたように、大きな事件となった胆管がんですら、いわゆる早期発見を柱とする二次予防としての健康管理制度が未だに確立していない。膀胱がんも同様だ。
胆管がん認定者の多くはがん患者一般よりずっと若年者が多い。
したがって、労災認定されたとしても、長期にわたる治療や療養、生活に対する支援策も必要となる。がん治療では治療薬の開発も加速しているので、臨床試験薬の使用や高度先進医療への労災適用が行われるべきケースもある。
被害の掘り起こしと調査、因果関係の証拠を提示し、労災認定。しかし、ここで終わりではない。
総合的な職業がん対策を求めた取り組みが必要だ。
厚労省の情報開示、後退
2017年度末で労災請求104件のうち42件認定
厚労省は胆管がん労災請求事案についてはすべて本省に設置した「胆管がんの業務上外に関する検討会」で業務上外を判定している。
2012年9月6日から2018年9月25日まで29回を数える。
2016年6月7日(第24回)までは検討会のたびにマスコミ用資料が配付されていた。
しかし、2017年度については,3回開催されたにもかかわらず、検討会の結果が公表されたのは、2018年度にはいってから。2017年度分をまとめて外部提供され、開示内容は後退した。
直近の2018年9月25日開催の検討結果について厚労省職業病認定対策室に問い合わせたところ「年度末までの分をまとめて来年度公表する」の一点張りだったため、情報公開請求を行わざるを得なかった。
以下は、2016年6月7日検討会後の公表資料と2017年度末時点の公表資料の印刷業における補償状況の部分である。なお、印刷業以外では業務上認定された事案は現在まで「無い」とされている。
2017年度末までに、労災請求件数104件のうち、42件が労災認定されている。
胆管がんの業務上外に関する検討会2016、2017年度資料安全センター情報2019年1・2月号記事加筆修正