MOCAによる膀胱がんの労災認定要件示す「芳香族アミン取扱事業場で発生した膀胱がんの業務上外に関する検討会報告書」公表 2020年12月22日

「ばく露業務5年以上、潜伏期間10年以上」、非該当は個別検討

厚生労働省は2020年12月22日、「芳香族アミン取扱事業場で発生した膀胱がんの業務上外に関する検討会」 報告書ー膀胱がんと3,3’ ジクロロ 4,4’ ジアミノジフェニルメタン(MOCA) のばく露に関する医学的知見ーを公表した。

MOCAによる膀胱がんの業務上外については、オルトトルイジンによる膀胱がん多発事件の調査過程で明らかになったもので、オルトトルイジンばく露と膀胱がんについて検討した専門家検討会で引き続き、調査、検討が行われてきた。2020年3月24日に開始され、5回目の11月30日までの検討結果がまとめらられた。

厚生労働省によれば、報告書の「MOCAのばく露と膀胱がんの発症リスクとの関連性」についての結論は次の通りである。

  • ばく露業務に5年以上従事した労働者に発症した膀胱がんは、潜伏期間が10年以上認められる場合、その業務が有力な原因となって発症した可能性が高いものと考える。
  • ばく露業務への従事期間が5年または潜伏期間が10年に満たない場合は、作業内容、ばく露状況、発症時の年齢、既往歴の有無、喫煙の有無などを勘案して、業務と膀胱がんとの関連性を検討する。

この「医学的知見」をもとに、労災請求事案を判断するとのことで、検討会では個別事案の検討をしてきているので労災請求を受け付けている労働基準監督署の業務上外決定はほどなく行われ被災労働者に通知されるとみられる。

膀胱がんとMOCA※のばく露に関する医学的知見を公表します~労災請求を受け、疫学調査結果などを分析・検討した報告書を取りまとめました~(厚生労働省2020年12月22日発表)

MOCAによる膀胱がん 国、労災認定方針(2021.01.09 静岡新聞報道)

MOCAによるぼうこうがん
化学物質巡り厚労省検討会 国、労災認定方針


防水材に使われるウレタン樹脂の原料で発がん性のある化学物質「MOCA(モカ)」を巡る健康被害について、厚生労働省の検討会が8日までに、モカを体内に取り込んだことがぼうこうがんの有力な発症原因と考えられるーと結論付けた報告書をまとめた。厚労省は今後、検討会が示した一定の条件を満たせば労災認定する方針。

県内の事業所では、モカを扱った労働者のぼうこうがん発症が確認されている。全国労働安全衛生センター連絡会議(東京都)は近く、モカによるぼうこうがんの発症可能性や、発症した場合に労災認定されうることを周知するよう静岡労働局に要請する予定。モカを巡っては、2016年9月、旧イハラケミカル工業(現クミアイ化学工業)の静岡工場(富士市)で、モカを扱っていた従業員と退職者のぼうこうがん発症が判明し、厚労省が全国の約540事業所を調査した。旧イハラケミカル工業の静岡工場では、少なくとも計11人がぼうこうがんを発症。同会議によると、このうち9人はモカを取り扱つていたという。同工場は1969年にモカの製造を開始し、2003年に取りやめている。

全国では19年1月現在、モカでぼうこうがんを発症した可能性がある7人が労災申請しているという。この中には旧イハラケミカル工業静岡工場の患者も含まれている。

厚労省は「これまでは医学的な関連性がはっきりしていなかったが、検討会で労災認定の一つの判断要件が出された」と説明。クミアイ化学工業の担当者は「モカの取り扱い履歴のある従業員と退職者の健診体制を維持して労災申請もサポートしていく」と話した。
同会議関係者は「モカを扱ってぼうこうがんになった人や遺族は労災申請を検討して」と呼び掛けている。

静岡新聞 2021年1月9日

2018年5月日本産業衛生学会MOCAによる膀胱がん報告から厚労省要請、そして検討会開催までの経緯

MOCAによる膀胱がん問題については、2018年5 月に開催された日本産業衛生学会においてMOCAによる膀胱がんが同事業場で12名発生していることが報告され詳細が明るみに出た。しかし、労災申請がされていないのではないかという懸念が生じ、全国労働安全衛生センター連絡会議・いのけん全国センター・患者と家族の会などが阿部知子衆院議員を紹介議員として 同年9 月28日、事前に質問書を提出した上で厚労省要請を実施した。

厚生労働省への申し入れの直後の10月19日、厚生労働省が通達を出し、その中で「膀胱がんの病歴のある労働者等が多数いるMOCAの製造・取扱事業場は確認されていないが、 複数の事業場で、MOCA 取扱作業従事歴のある労働者等に膀胱がん有病歴者がいることが確認された。」(MOCAによる健康障害の防止対策を徹底するよう通達及び要請(基安労発1019、基安化発 1019)2018年10月19日) ことが明らかにされた。この時点で17名の膀胱がん有病歴者が確認されたということだった。

MOCAによる健康障害の防止対策を徹底するよう通達及び要請(基安労発1019、基安化発 1019)2018年10月19日より

このことを毎日新聞が2018年10月25日付朝刊で大きく報道した。

化学工場 ぼうこうがん17人
全国7事業所で モカ製造従事


ウレタン防水材などの原料に使われ、発がん性がある化学物物質MOCA〔モカ)」を製造するなどしていた全国7カ所の事業所で、モカの取り扱い作業歴のある労働者と退職者計17人がぼうこうがんを発症していたことが、厚生労働省の調査で明らかになった。同省は各労働局や業界団体に改めて注意を促す通知を出すとともに、発症者が集中している事業所の従業員らに労災制度の案内に乗り出す方向で検討を始めた。【大久保昂】

2016年に静岡県富士市にある旧イハラケミカル工業(現クミアイ化学工業)静岡工場で、モカ製造に関わった労働者5人がぼうこうがんを発症していたことが発覚。これを受け、厚労省は各労働局に対し、他の事業所でも同様の事例を確認した場合は報告するよう求め、今月19日までに把握した事例を集計した。
この結果、全国6カ所の事業所で計8人のぼうこうがん発症者が出ていたことが判明した。全員にモカ取り扱いの作業歴があったほか、旧イハラケミカル静岡工場でも新たに4人が確認され、モカに絡んだ発症者は計17人にまで広かった。複数の専門家によると、同工場での発症率は不自然に高いという。
厚労省によると、発症年齢は60代が10人と最も多く、12人が退職した後だった。労働安全衛生法に基づく省令では、モカを扱った労働者のがん予防や早期発見などのため、半年ごとに特別な健康診断を受けさせることを事業者に義務づけているが、退職すると健診対象から外れる。
ぼうこうがんの多発とモカとの関連性を調べている労働安全衛生総合研究所の甲田茂樹所長代理(労働衛生学)は「長い時間がたってから発症する例が目立つ。発症のメカニズムを解明しないとはっきりは言えないが、退職後も健康状態を把握する仕組みが必要かもしれない」と指摘する。
厚労省の関係者にょると、発症者らに対して労災制度を周知するよう事業所側に要請してきたが、現時点でモカによる労災補償請求は1件もない。このため、厚労省は労働者本人や遺族に労災制度の仕組みや手続きを直接知らせる方向で検討し、同省補償課は「やり方や時期を慎重に考えたい」としている。

MOCA(モカ)
主にウレタン樹脂を固める硬化剤に使われる化合物,世界俣健機関(WHO)の下部組織の国際がん研究機関は2010年、人に発がん性があると認定した。厚生労働省によると、取り扱い作業歴のある労働者(退職者は除く)は国内で3700人を超える。

毎日新聞 2018年10月25日

そして、ようやくMOCAによる膀胱がん被災労働者から労災申請が行われ、その業務上外の検討会がはじまったのが2020年3月だった。

上記の「職業がんをなくそう通信14」に『 この問題は2015年 12月三星化学工業において膀胱がんの多発事案が発覚したことに端を発し厚労省がオルトトルイジン(OT)の取り扱いがあった事業場において膀胱がんの発症がないかを調査したところ、イハラケミカル(現在はクミアイ化学に合併されている)において膀胱がんの多発があったことが判明し 2016 年 9 月報道発表されています。 』と書かれているように、クミアイ化学(静岡県)における膀胱がん多発覚知の2016年9月から4年近くも経過したのちの検討会開催であった。こうした一連の経過から、会社側の労災請求非協力が強く疑われた。

なお、三星化学のオルトトルイジンによる膀胱がん多発事件など職業性膀胱がん問題については「職業がんをなくそう通信」に詳しい。

「職業がんをなくそう通信」(職業がんをなくす患者と家族の会)バックナンバー、本サイト職業性膀胱がん関係記事