職業がんをなくそう通信24/三星化学職業がん損賠訴訟(7回)など
2020年5月31日
職業がんをなくす患者と家族の会https://ocupcanc.grupo.jp/
目次
三星化学職業がん損賠訴訟
三星化学工業で多発した職業性膀胱がんの被害者が会社に対し損害賠償を申し立てた裁判はこれまで7回の口頭弁論を行い、会社の安全配慮義務の不履行が明らかになりました。
当初膀胱がんの原因が職業起因とは言えないとし特定芳香族アミンの発がん性を会社は知りえなかったとうそぶいた主張は、厚労省業務上外検討委員会の報告書や SDS(安全デ ータシート)に記載されている発がん情報など具体的な事実・証拠をもって論破されてきました。
現在は職業性膀胱がん被害の損害は如何ほどかという損害論へと土俵を移していますが、ここでも会社は罹患した身体的精神的被害を過少に評価し、再発リスクをも軽視する内容で相変わらずの無反省、無責任ぶりを発揮しています。原告らには再発した方はおられないものの被災者の中には再発事例が ありこの業務に関わっている労働者の不安は計り知れないものがあります。
2015 年度版日本癌治療学会のがん診療ガイドラインの膀胱がんの危険因子を見ると喫煙に続いて2番目に職業性発がん物質への曝露が紹介され、ベンジジンとベータナフチルアミンなどの芳香族アミン類により生じる職業性膀胱がんの臨床病理学的特徴として
- 若年発生の傾向がある
- high grade,high stageの筋層浸潤性がんが多い
- 上部尿路再発のリスクが高い
等が指摘されています。
会社はこれまでも通常の化学会社としての自覚を持ち慎重に化学物質の有害性調査をしたり現場で健康障害が発生した際に適切な衛生対策をするなどの安全配慮義務を著しく怠ってきました。その結果、多くの職業性膀胱がん患者を発生させたのですから、厳格な安全配慮義務を履行するのが当然です。
ところが未だに原告らの再発リスクは高くないと(現実に再発事例があるにもかかわらず)根拠もなく主張しているのですから、遵法意識も倫理観も欠落しているとしか言いようがありません。
現在新型コロナウイルスへの感染拡大防止として3月26 日予定の裁判が 6月3 日に延期されました。傍聴も通常と違いソーシャルディスタンスを保つことなどが条件に出され、これまでの傍聴人数だと全員が法廷内に入れないことから、大阪からの傍聴人数を限定することで対応をしていく予定です。無反省無責任な会社を断罪すべく奮闘していきましょう。
第8回三星化学工業事件口頭弁論
6 月3 日13 時30 分福井地裁 2号法廷
裁判に引き続き、報告集会(アオッサ予定)
胆管がん在職死亡の相談ありました
先日ある労組関係者から肝内胆管がんによる在職死亡があり労災の可能性があるのではないかとの問い合わせがありました。化学物質の取り扱いがあった職場で働いた経験がある方だそうでどのような化学物質を使用していたのか作業の形態や曝露の様子などの詳細については現在調査中とのことです。お話を伺うとこれまでにも 40 歳代 1 名 50 歳代 2 名と複数の胆管がん発症があったそうです。
胆管がんといえば、ジクロロメタンや 1,2-ジクロロプロパンなどの使用が懸念されるところですが、先ずは現場の状況をできるだけ正確に把握したいところです。
隠れている職業がんを掘り起こしていくためには、症例が発生したらまず「職業起因ではないか」という疑いを持つ、そしてその調査をするということは大変重要な姿勢で、この相談をされてきた方の感覚と行動は素晴らしいとしか言いようがありません。今後職場で使用されていた化学物質についての有害情報調査や専門家へのご紹介などフォローしていきたいと考えています。
思い出そう!毛利先生の教え
2018 年 2 月に実施された職業がんをなくす東京集会で毛利一平先生が「職業がんをなくすために労働者・市民が知っておくべき 3 つのポイント」を講演されました。それは
- 疑う
健康を害する原因は労働現場にあるとまず疑う。同じ職場で複数の事例があれば尚疑わしく同じ職種で発生していれば更に疑わしい。 - 知る
どんな化学物質があるのかを調べ、その有害性を知り、作業や曝露の程度、どのくらいの期間従事したのか、作業環境測定結果や健康診断結果など調べ、同業他社、国内外ではどうかなどを知ろうとすることが重要。 - 動く
専門家への問いかけや安全衛生委員会、労組、患者会などのネットワークを利用して動くことが重要。
会社任せでなく自ら疑い、知り、動くことが大切だと話されました。
胆管がんに関する今回の相談者の場合は職業がんではないかと疑い、既に作業現場についての調査も進めておられ、今後専門家の紹介を希望されるなど素晴らしい対応でした。
がん登録を活用してみよう
国立がん研究センターなどが発表しているがん登録・統計のホームページhttps://ganjoho.jp/reg_stat/index.html
から報告書や最新がん統計を見ることができます。
2018 年全国集計報告書
https://ganjoho.jp/data/reg_stat/statistics/brochure/2018_report.pdf
を見ますと肝内胆管がんの登録例は男性64.2%、女性 35.8%と男性に多い傾向があり平均年齢は73歳とかなり高齢での発症が多いことがわかります。がんに関する統計データのダウンロード
https://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/dl/index.html#mortality
からは1958年~2018年の全国がん死亡データを見ることができます(読み取り専用ならどなたでもダウンロード可能です)。
2018 年男性の胆嚢・胆管がんの粗率は15.5(全年齢対 10万人)となっています。
ある職場で働いている労働者数が 50人で 20年間を検証したければ、50×20 で1000 人年ですので、5.5×1000÷100,000=0.16 人が観察群期待値ということになり、仮に1 名胆管がんで死亡者が出たら予想される死者数の1/0.16=6.25 倍ということになります。
また、40-44 歳,45-49歳,50-54 歳,55-59 歳の死亡率は2018年で0.4,0.9,2.1,4.7と全年齢の15.5に比べかなり低いですから現職で死亡した場合はさらに高率で死者が発生したことになります。
実際の計算は対象とする職場と期間に在職した労働者を年代別に年齢と人数を調べ、がん統計も年代別年齢階層別に計算して観察群期待値と実際の死亡者数を比較しポアソン値を算出して統計学的に有意かを検証しますが、これはかなり専門的になりますので専門家にお願いしましょう。
いずれにしても普段から労組や退職者同士などで連絡を取り合って、自分が働いていた職場やある職場で在職死亡や退職後の死亡が発生した場合は職業がんではないかと疑ってみることが重要になります。
化学物質取り扱い履歴をつけよう!
過去に取り扱っていた化学物質の経歴を調べるのは後になってからだと大変な苦労を伴います。
現職者は定期的に(例えば毎月)自分の扱った化学物質や作業内容を記録し職制や衛生管理者が確認するシステムを構築しましょう。
退職者は自分や仲間と振り返って履歴を書き留めることが重要になります。可能であれば労組の協力を得て会社に働きかけ実施できれば良いですね。
職業がんをなくそう集会in東京
もう少しお待ちください。新型コロナウイルスの感染状況を見て、東京集会の準備に入りたいと思います。
【あとがき】
活動が随分制限されてきましたが、制限の一部解除や TV 会議の利用等が始まってきました。裁判支援や総会・東京集会の準備、通信発行など忙しくなりそうです。