職業がんをなくそう通信14/MOCA事案を厚労省に問う・特定芳香族アミン膀胱がん審査請求不当棄却

2018年9月30日
職業がんをなくす患者と家族の会https://ocupcanc.grupo.jp/

MOCA 事案を厚労省に問う/職業がんの包括的予防施策を求める

この問題は2015年 12月三星化学工業において膀胱がんの多発事案が発覚したことに端を発し厚労省がオルトトルイジン(OT)の取り扱いがあった事業場において膀胱がんの発症がないかを調査したところ、イハラケミカル(現在はクミアイ化学に合併されている)において膀胱がんの多発があったことが判明し 2016 年 9 月報道発表されています。

また、ばく露された化学物質については同じ芳香族アミンである MOCA とされました。三星化学での取り組みがなかったらこの事案が日の目を見ることはなかったと言えます。

本年5 月に開催された日本産業衛生学会において MOCA による膀胱がんが同事業場で 12名発生していることが報告されましたが、労災申請がされていないのではないかという懸念が生じており、関西労働者安全センターと熊谷信二先生の呼びかけで全国労働安全衛生センター連絡会議・いのけん全国センター・患者と家族の会などが阿部知子衆院議員を紹介議員として 9 月 28 日 14 時より衆議院第 1議員会館第7 会議室にて事前に質問書を提出し厚労省要請を実施しました。

質問 1. イハラケミカルで多発した膀胱がんの取り扱いについて

◎厚労省が膀胱がんの多発を把握して 2 年 調査をして 1 年)が経過しているが業務上外に関する検討会等開催されていない。労災申請はされているのか。

<厚労省> ⇒個人情報なので個別には回答しかねるがこの事案については労災申請はされていない。検討が必要な場合は業務上外検討会や個別検討を行うがこの事案はどちらも開催していない。労災申請については会社を通じて本人に説明している。

◎経験から言うと被災者は会社や周囲が恐くて労災申請などできない。実際、管理職に労災申請するなと言われたし周囲にも白い目で見られた。本人任せではなく厚労省が指導してほしい。

(会社が申請するなと圧力をかけることに驚いた様子で)検討します。(検討するじゃ困ると追及され)やります。

◎ 12 名も膀胱がんが発生しているのに検討会を開催していないのはおかしいというのが普通の感覚だ。見方によっては労災隠しを厚労省が見過ごしているように思える。労災認定は予防につながるという意識を強く持ってほしい。

質問2.OT及びMOCAによる膀胱がんが労働基準法施行規則第35条別表第1の2に掲載される運びについて

検討会は概ね5 年毎に開催されている。定例ではなく必要があれば短い間隔でも開催する。前回H25 で現在文献収集しているところ(年内開催するよう要望した)。新に労災認定された事案を対象に検討するので OT は検討されるが MOCA はされない(MOCA は厚労省が見過ごしてきた影響で遅れることになる。5年後じゃ困ると指摘)。

質問3.OT及びMOCAを健康管理手帳の対象物質に追加するべき

35 条別表に掲載後検討する(退職者で高齢の方もおられ会社が指定した医療機関ではしんどい方も出てくる。)。大阪市 SANYO-CYP(胆管がん多発事案)については取得条件のある方に情報提供していく。

◎ベンジジン等の場合、守衛さんなど製造に従事していなかった方でも日常的に工場に出入りしていた方の膀胱がんは労災認定 されている。対象者も広く見る必要がある。

質問4.OTおよびMOCA以外の芳香族アミンへのばく露による発がんが判明している。規制がされていないが発がん性が疑わしいものに関する今後の疾病予防対策について

リスク評価を行ってきており福井の事についてはアニシジンを予定にしている。

◎OTはリスク評価を実施したのに見逃した。現在もアニシジンの臭気が漏れていても工場長が規制がないから問題ないとか風上に行けばいいなどと言っている。発がん性が疑わしいものは規制が必要。

IARCグループ 1・2A・2B 等はリスクマネジメントを推進していく。

◎企業説明会や講習会等ですべての化学物質に予防的措置を取るよう指導してほしい。
◎ OT のリスク評価はばく露濃度が低いとしてリスクが低く見積もられてしまった。化学物質の有害性についてもっと重視してほしい。またすべての化学物質をリスク対策するようにお願いしたい。IARC グループ 3や未分類のものでも危険なものはある。

質問5.第13次労働災害防止計画において、「職業性疾病を疑わせる段階において、国がこうした事案を把握できる仕組みがない」ことから、「遅発性の健康障害の事案を的確に把握できるようにするため・・・国に報告がなされる仕組みづくり」等を検討する旨記載されているが具体的な計画は?

まだ何もない(業務上疾病の疑いがあった場合臨床医等から労基署へ通報できる制度、事業主自らが作業環境測定結果を報告する制度、作業環境測定士から労基署へ通報できる制度などを提案)。

◎退職してから職業を聞かれても「無職」では何もわからない。職歴調査は重要な課題だと考える。
◎疾病報告を見ても職業がんは殆どない。労災給付の件数にすべきではなきか。
◎がん対策基本法に基づく取り組みが様々されているが職業がん対策が全く抜けているので位置づけをしっかりしてほしい。

厚労省側の出席者は、労働基準局補償課・横田道明(以下敬称略)、官岡久潤、新井裕規、安全衛生部労働衛生課産業保険支援室・三浦 玲、安全衛生部化学物質対策課化学物質評価室・増岡宗一郎 でした。

東京労働局不当決定/海外勤務で特定芳香族アミンにばく露し、帰国後膀胱がんを発症した事案の審査請求

決定書ではばく露されたであろう CI 酸性染料の組成がわからず発がん性を有する特定芳香族アミンが混入されていたことを確認できないとし、また仮に含有されていたと仮定すれば事業場等現地労働者もばく露を受けるはずであるが膀胱がんを発病したとする申述がなく、それらから「取り扱った製品の染料が特定できないことから請求人が芳香族化合物のニトロ又はアミノ誘導体にばく露した業務に従事したとは認められない」と結論づけています。

「取り扱った製品の染料が特定できない」のは事実ですが、「芳香族化合物のニトロ又はアミノ誘導体にばく露した業務に従事した」可能性は寧ろ高いと言えますし、現地労働者が発がんしていないかについてもきちんと調査しなければ結論づけはできません。

そもそも海外出張中にばく露した化学物質の組成まで一労働者が把握できるでしょうか?厚労省交渉をすると「労災認定には相当因果関係があれば良い」と答弁しますが実際には被災者に過度な立証責任を負わせています。過労死問題などと違い職業がんは①ばく露した化学物質の特定②その化学物質の発がん性③被災者の発がんとの個別的因果関係の証明を求められ、それらは殆ど 10 年以上前の証拠や科学的根拠が問われます。労働者救済とは程遠い現実に怒り心頭です。