職業がんをなくそう通信18/オルトトルイジン,MOCA健康管理手帳・MOCAで労災申請・検討会議事録公開

2019年2月1日
職業がんをなくす患者と家族の会https://ocupcanc.grupo.jp/

オルト-トルイジン(OT)、 MOCA の健康管理手帳の取扱いについて

昨年12月 3日「平成30 年度第1 回労働安全衛生法における特殊健康診断等に関する検討会」が開かれ、オルト- トルイジンと 3,3′-ジクロロ 4,4′- ジアミノジフェニルメタン(MOCA)に対する健康管理手帳の交付対象業務への追加についてが議題となり、その資料が 12 月 4日公開されました。 https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_02634.html

検討内容は

  1. 有害化学物質等に係る特殊健康診断の項目等について
  2. 健康管理手帳の交付に関することについて
  3. その他特殊健康診断等に関することについて

とされ、オルト – トルイジンとMOCAの

  • 製造及び取扱状況等
  • 健康管理手帳における健康診断項目案
  • 取扱う業務における健康障害の状況と健康管理手帳における取扱いについての資料

が示されています。

オルト- トルイジンの製造取扱状況等を見ますと、IARC発がん分類がグループ1「ヒトに対して発がん性がある」、眼に対する重篤な損傷性や遺伝毒性も認められたとし、日本産業衛生学会では 2016 年ヒトに発がん性がある第 1 群に改訂されたとし、全国 27 事業場における年間製造・取扱量および用途と作業の種類が一覧表で示されています。

健康管理手帳における健康診断項目案では業務経歴の調査や作業条件の簡易調査、頭痛・めまい・チアノーゼ等の急性症状、尿中のオルト – トルイジンの量の測定を診断項目から削除しています。

取扱う業務における健康障害の状況と健康管理手帳における取扱いについてでは交付対象に係る3 要件として

  1. 安全衛生の法令上の規制(IARCがGroup1に分類し、特定化学物質障害予防規則第2類物質、特別管理物質に指定)
  2. 疾病が業務に起因する疾病として認められていること(35 条専門検討会でオルト – トルイジンに係る業務に起因する膀胱がんが業務上疾病と認められた)
  3. 当該物質等の取扱いによる疾病(がんその他重篤な健康障害)の発生リスクが高く今後もその発生が予想されること(H27 ~ H30 年度で 12 件の労災請求があり既に 11 件が労災認定で 1 件も調査中)

を満たしているとしています。
交付対象業務については、特化則の特殊健康診断の適用対象業務の「オルト- トルイジンを製造し又は取扱う業務」に合わせるのが適当としています。

交付要件については、労災認定者の最短ばく露期間の6年6カ月やH28年12月の「膀胱がんとオルト – トルイジンのばく露に関する医学的知見」報告書、ベンジジン等の交付要件が 3 ヶ月であることを鑑み 5 年以上としてはどうかとしています。

MOCA は 5(7:2019/1/29報道) 名が労災申請

MOCA についての製造・取扱い状況等については、福井県で発生したオルト – トルイジンによる膀胱がんの多発に伴い全国の事業場について調査を行ったところある事業場で 7 名中の膀胱がん患者が発生しておりその内 5 名に MOCA の取扱い歴があることが判明したこと、その後労災認定がされていない等の理由で健康管理手帳の対象にするか等が見送られたが、H30 年 10 月膀胱がん患者 17 名に上り 12 名が退職者であることから健康管理手帳の対象とするかの検討が求められるとしています。

健康診断項目案はオルト – トルイジンと同様に業務経歴や作業条件の調査、上腹部の異常感等の急性症状、肝機能・腎機能尿中の MOCA の量測定や胸部エックス線撮影、喀痰細胞診、気管支鏡検査を診断項目から削除しています。

取扱う業務における健康障害の状況と健康管理手帳における取扱いについては膀胱がん発症者が H30 年 10 月時点で 7 事業場 17名に至りその内 12 名が退職者であり健康管理手帳の交付対象とすべきかの検討が必要とし、交付対象に係る 3 要件のうち

  1. 安全衛生の法令上の規制(IARCがGroup1 に分類し、特定化学物質障害予防規則第 2 類物質、特別管理物質に指定)
  2. 疾病が業務に起因する疾病として認められていること(労災認定などの動きはないが集団発生等の重大性を指摘)
  3. 当該物質等の取扱いによる疾病の発生リスクが高く今後もその発生が予想されること(発症者 17 名のうち 5 名が労災請求。今後の動向を注視)

の①を満たし②③は満たしていないが今後の動向を踏まえつつ検討が必要としています。

交付対象業務および交付要件については実際に労災認定者が出ていない中での判断が難しく今後の労災認定状況等を踏まえて検討が必要としています。

昨年まで労災申請の動きが見えなかった状況でしたが、全国労働安全衛生センター連絡会・いのけん全国センター・職業がんをなくす患者と家族の会・熊谷信二先生が共同で 9 月 28 日厚労省要請行動を行い 11月 14 日静岡労働局要請行動およびその後の聞き取りにより追及をしてきた結果 5 名が労災申請していることがわかりました(1 月29 日 7名が労災申請と報道されました)。

化学工場 ぼうこうがん発症
5人労災申請

ウレタン防水材などの原料に使われ、発がん性が指摘されている化学物質「MOCA(モカ)」を仕事で取り扱っていた労働者ら17人がぼうこうがんを発症した問題で、このうち5人が労災申請していたことが厚生労働省への取材で判明した。同省は作業状況の確認を進めるなど、仕事と病気の因果関係を慎重に調べている。

厚労省の昨年10月の集計では、全国7カ所の事業所で、モカの取扱作業歴のある労働者と退職者計17人が膀胱がんを発症していたことが判明。この時点でモカが原因とする労災申請が1件もなかった。このため、同省は7事業所に対し、労働者らに労災制度の周知を求めるなど、労災申請を事実上促す対応をとったという。(大久保昂)

毎日新聞 2019年1月29日

厚労省は 17 名もの集団発生を知りながら労災申請が 1 件もなく、従って労災認定の検討もされず、オルト – トルイジンと比べて手続きが随分と遅れてしまっている現状を反省してほしいと思います。

検討会議事録も公表される

検討会の議事録も1月18日公開されました。
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_02893.html

担当官が三星化学工業でのオルト – トルイジンばく露が経気道ばく露と経皮ばく露の両方の可能性があるとしつつも経皮吸収によるばく露が大きかったと書かれている点は気になります。元の報告書によると当時は「皮膚からのばく露だけでなく経気道ばく露があった」と書かれており、経皮ばく露の方が大きいとする根拠がわかりません。

MOCA については圓藤委員から日本で17 例発生しているヒトにおけるデータなので症例報告なり疫学的証拠として公表されるよう求めています
まさにその通りです。

謹んでお悔やみ申し上げます

京都の大日本印刷で印刷業務に従事し退職後に胆管がんに罹患された元労働者が昨年 4 月労災認定され同年 10 月ご家族が記者会見をされました。
12 月職業がんをなくそう集会へメッセージも寄せて戴きましたが、昨年 12 月 31 日ご様態が急変されご逝去されました。謹んでお悔やみを申し上げます。

第 9 回職業がんをなくそう集会 in 東京

3月 31 日13時より 港勤労福祉会館第一洋室にて
記念講演は毛利一平先生より職歴調査についてご講演戴き、基調報告では激しくなっている職業がんに関する動向等をお伝えします。