特定芳香族アミンばく露による膀胱がん労災行政裁判東京地裁提訴。三星化学オルトトルイジン裁判(8回)/職業がんをなくそう通信25(2020.8.31)

2020年8月31日
職業がんをなくす患者と家族の会https://ocupcanc.grupo.jp/

三星化学オルトトルイジン膀胱がん(職業がん)損賠訴訟(8回)

2020 年6 月3 日14 時から、福井地方裁判所で三星化学工業損害賠償裁判の弁論準備(本来なら第8 回口頭弁論期日でしたが)が非公開で行われ、原告4 名と弁護士2 名が裁判官3名と話し合いました。被告代理人4 名は東京からの電話参加でした。

10月26日口頭弁論へ

昨年12 月24 日の第7 回口頭弁論以降、被告は準備書面で以下を主張しています。

  1. 労災を否定
    「本件の発生原因が未だ確定されていない」などと主張し、この期においても労災そのものを否定している。
  2. 「がん」という病名を否定
    「原告4 名の初期がん」は「全員『上皮内新生物』に分類され、重症化リスクが高いとは言えない」などと「がん」という病名を「上皮内新生物」にすりかえ、あたかも予後のリスクは低いかの如く主張している。
  3. 損害は低リスクと主張
    B ・C 型肝炎キャリアの「原因物質が体内に半永久的に生存するウイルスである場合と代謝により(体外に)排出される化学物質である場合とでは、再発のリスクは全く異なる」、また「原告らは4 年以上再発していない」などと、オルト-トルイジンはもはや体内に存在しないから、再発のリスクは低いと主張している。

これに対し原告側は5 月29 日

「オルト-トルイジンに大量曝露したことにより、膀胱をはじめ尿路系のDNA の損傷が大きく起こり、そのため細胞変異が生じて前がん病変のある細胞が多く発生し、それらが現在も排除されずに残っており、常にがん細胞に進展する可能性がある、というのが正しい認識である」

と泌尿器科医師の臨床報告書を示して、被告の主張を論破する準備書面を提出しました。 また被告が当初から「訴訟の閲覧制限」を申し立て裁判所が判断をしないままでいるため裁判の公開原則が保たれず報道の自由も奪われたままになっていることに対し弁論準備の場で池田弁護士より早期に判断をするよう裁判官に催促しました。

今後証人尋問の準備も進めたいとし原告4名が一人ずつ3 名の裁判官に過去と現在の苦しみや不安と恐怖の思いを訴えました。

8 月6 日は第8 回口頭弁論の予定日でしたが7 月31 日に急遽取り消され進行協議(電話会
議)に変更され、次回口頭弁論は10 月26 日(月)午後2 時からとなりました。

被害者へのパワハラ強まり、労働組合加入

裁判での被告の開き直った主張が強まるに比例して職場(三星化学工業福井工場)では、一人目の発症者(現職・非組合員)へのパワハラが強まり、たまりかねてこの方は8 月9日私たちの労働組合に加入しました。

福井工場ではこれまで11 名が膀胱がんを発症していますが、これだけ被害者を出しても反省するどころか弱い者いじめをして生き残ろうとする魑魅魍魎たちが蠢く闇の職場です。

(文責:田中康博)

第8 回三星化学工業事件口頭弁論
10 月26 日14 時福井地裁2 号法廷
裁判に引き続き、報告集会(アオッサ予定)

特定芳香族アミン職業曝露による膀胱がんの労災不支給取消裁判はじまる~東京地裁

これまでこのなくそう通信でも紹介してきましたアパレルメーカー在籍労働者が中国赴任中に特定芳香族アミンに曝露され帰国後42歳という若さで膀胱がんを発症し喫煙歴もないことから主治医も職業起因を指摘していたため2015 年労災申請したものの不支給決定がされ、審査請求・再審査請求が棄却され本年3月27 日東京地裁に提訴しました。

8 月19 日13 時10 分より東京地裁527 号法廷にて第1 回口頭弁論があり14 時より厚労省記者クラブにおいて記者会見をしました。

原告よりの意見陳述要旨

裁判では原告の意見陳述が行われ今後の裁判の進行についてなどが話されました。

原告の意見陳述要旨は以下の通りです。

  • 私はアパレルメーカー福助に勤務するもので以前中国で勤務し帰国後2015 年9 月42歳という若さで膀胱がんを発症しました。喫煙歴もなく若年での膀胱がん発症は非常に稀であるため主治医から業務歴を問われ中国赴任時、量産品や開発品の生地の品質検査をする際アゾ染料が手や鼻に付着し洗っても落ちなかったことを伝えると特定芳香族アミンを生成するアゾ染料への曝露による膀胱がんの発症が疑われるとされました。
  • 同年11 月労災申請するも17 年7 月に不支給決定となり審査請求を経て19 年9 月再審査請求も棄却されました。
  • 膀胱がんの発がん要因は第一に喫煙、第二が発がん物質への職業曝露があげられていますが、私は喫煙歴もなく業務でアゾ染料の付着があり特定芳香族アミンへの曝露が疑われているのですから発がんの原因は職業起因と考えるのがごく自然な考え方です。
  • 中国赴任中、日本国内で製品の異臭クレームがありそれを避けるため染料の洗浄不足がないよう嗅覚試験を実施しました。生地を直接手に持ち鼻で臭いを確認した際手や鼻が染料で染まりいくら洗浄しても落ちませんでした。その時使用されていた染料に「CI 酸性」(膀胱がんを誘発する特定芳香族アミンであるベンジジン由来の染料)があり、発がん物質への職業曝露を受けてしまいました。
  • 職業性膀胱がんの特徴には、若年発症と高い再発性、悪性度の高さがありますが、私は42 歳で発がんしその後4 年間で3 度も摘出手術をしており、直近の病理検査でもG2 からG3へと悪性度が進行しており職業性膀胱がんの特徴とも合致しています。
  • 業務状況調査においては会社や関係者から真実の報告・証言がされず懸命にした私の業務自体がまるでなかったことのようにされてしまっています。
  • 昨年自費で中国まで出向き、当該工場で膀胱がんを発症した人がいることや現地病院の医師から当該地域で膀胱がんが多いこと(染料工場が多いので)などを聞き取りし意見書として提出しましたが、個人での調査には限界があります。私が当時接触した染料が何であったかを具体的な証拠で立証するのは不可能と言わざるを得ません。
  • (中略)職業がん死亡は全体の5%以上はあり日本では毎年2 万人が職業がんであることを知らないまま死亡していること、被災者救済はもちろんのこと厚労省には化学物質被害の予防に尽力してほしいことなどを陳述。
  • 本件を業務上疾病として認めてくださるようお願いいたします。

厚労省記者クラブにて記者会見

14 時より厚労省記者クラブにて原告、青龍・岸弁護士、色部氏(支援する会)が記者会見を行いました。本件概要を岸弁護士が解説し原告より裁判への思い等を訴えました。記者からは特定芳香族アミンについてや会社の対応(発病当初は救済する立場だったが途中から態度を急変)について質問がありました。支援する会(代表田中康博氏)や支援者が裁判と記者会見に駆けつけていただきました。

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前号でお知らせした胆管がんの相談については当該の職場から化学物質への接触はなかったと報告がありましたので本件のフォローは終了します。今回の相談者のように職業起因ではないかと疑うことが大変重要です。
職業がんをなくそう集会もう少しお待ちください。新型コロナウイルスの感染終息が難しいことからWEB を活用した集会を検討しています

【あとがき】郵送代や諸経費アップで患者と家族の会の財政も厳しいですが、東京-大阪間の
高速バスやWEB 会議の活用など工夫次第ですね。マイペースで頑張ります!