MOCAによる職業性膀胱がんの業務上外に関する検討会の進行状況など/職業がんをなくそう通信26(2020.9.26)

2020年9月26日
職業がんをなくす患者と家族の会https://ocupcanc.grupo.jp/

MOCAによる職業性膀胱がんの業務上外に関する検討会の進行状況

17名膀胱がんで労災申請ゼロ!?

オルト-トルイジン(OT)取り扱い事業場での膀胱がんの多発を厚労省が2015 年12 月に公表しその後国内のOT 取り扱い事業場での膀胱がん発症調査を開始し2016 年9 月に3,3′-ジクロロ-4,4′-ジアミノジフェニルメタン(MOCA)の取扱者に膀胱がんが多発していることを公表しました。

2018 年10 月に公表した資料では調査実施事業場数538 で下表のような膀胱がんの発症状況となっています。

年齢分布は以下の通りで17 名全員男性です。40~49 歳1 名、50~59 歳4 名、60~69 歳10名、70~79 歳1 名、80 歳~1 名

17 名もの膀胱がんの発症がありながら労災申請者が一人もいない状況を質すため熊谷信二先生や関西労働者安全センター・当会などが厚労省要請を実施した経過は本通信No.14でお伝えしましたが、その後2019 年1 月には7 名の申請者があったと新聞報道され、2020年3 月24 日第1 回検討会が開催され、6 月8日第2 回、7 月13 日第3 回、9 月15 日第4 回と進んでいます。
芳香族アミン取扱事業場で発生した膀胱がんの業務上外に関する検討会

厚労省に問い合わせると、年内から年度内にはまとめたい(医学的知見の公表)とのことでした。

OT は2016 年6 月に第1 回検討会が開催され半年後の12 月には医学的知見が公表され、労
災申請当時5 名だった膀胱がん患者は7 名に増えていましたが全員労災認定されました。その後の職業病リストの更新や法規制、健康管理手帳の交付などMOCA に比べると差は歴然としており、運動の成果と言えると思います。

第3 回検討会資料について

2020 年7 月3 日第3 回業務上外検討会の資料-MOCA と膀胱がんに関する対象文献のリス
トとそれらの文献レビュー、IARC モノグラフのレビュー、膀胱がんに関する基礎的知見が9
月10 日に公開されました(但し、個別労災請求事案に係る資料は非公開)。

発がん性分類グループ1(国際がん研究機関IARC)

リストにある文献数は25 でIARC モノグラフ(2010 年Volume99)レビューの結論では、
MOCA の発がん性についてヒトでのエビデンスは不十分ではあるが、様々な実験動物におけ
るデータより、ヒトにおいても発がん性リスクは高いと判断され、発がん性分類はグルー
プ2A からグループ1 に格上げされたと記載されています。

また、膀胱がんに関する基礎的知見では、以下のような記載があります。

(1)病理学的・組織学的特徴

ア)筋層非浸潤性がん
膀胱筋層に浸潤していないがんであるが放置しておくと進行して浸潤性や転移性がんを来すものもある。

イ)筋層浸潤性がん
膀胱の筋層に浸潤し膀胱壁外の組織やリンパ節、肺や骨に転移を来す危険性がある。

ウ)転移性がん
原発巣の膀胱がんが他臓器に転移した状態。転移しやすい臓器は、リンパ節、肺、骨、肝
臓など。

(2)膀胱がんの危険因子

喫煙、職業性発がん物質へのばく露、飲料水中のヒ素、特定の医薬品(フェナセチン、シクロフォスファミドなど)、放射線照射などがあげられ、喫煙は男性膀胱がんの50%、女性膀胱がんの30%に関与しているとされ、喫煙者は非喫煙者の4 倍発症リスクが高いと指摘されている。

(3)職業性の膀胱がんの臨床病理的特徴

ばく露から発症まで約20 年の潜伏期間があると考えられ、①若年発生の傾向、②高悪性度で浸潤性の傾向③上部尿路再発のリスクが高いなどが指摘されている。オルト-トルイジンを含む芳香族アミンに特徴的な遺伝子変異はいまのところ報告されていない。

職業性膀胱がんの特徴

業性膀胱がんの臨床病理的特徴①若年発生の傾向、②高悪性度で浸潤性の傾向③上部尿路再発のリスクが高いは膀胱がんの臨床ガイドラインにもまとめられており、三星化学工業の損害賠償裁判や東京のアパレルメーカーで発生した膀胱がん労災認定裁判でも引用されています。

最近三星化学工業はこれら職業性膀胱がんの特徴は「ベンジジンやベータナフチルアミン等の4 物質でありオルト-トルイジンに関しては類推の域を出ない」と主張してきています。10 名以上の膀胱がん患者を発生させ、若年発症や再発を繰り返したり悪性度の高い患者も出しながら、類推の域を出ないとは本当に事実を無視した無反省な主張と言わざるを得ません。被害者はこういった傲慢な態度によって二重三重に苦しめられています。

裁判の公開原則について

裁判の公正を保つため裁判には公開原則があり訴状も閲覧が可能ですが、企業秘密の漏洩を防ぐ目的から1996 年申請があった場合裁判所の判断で閲覧の制限が可能になりました。

三星化学工業の損賠訴訟では会社から閲覧制限が申請され原告らは特定の薬品名の記述を避け企業秘密の漏洩に配慮してきましたが、裁判所の決定がされないままずるずると閲覧制限がされていました。当初より記者さんらも訴状が入手できないので詳細がわからず問い合わせもたくさんありました。9 月14日の進行協議ではこの点も追及し近く裁判所が結論を出すとのことです。

職業がんに関する裁判のお知らせ

三星化学工業損害賠償裁判

第8 回口頭弁論
10月26日 14時 福井地裁2号法廷

東京アパレル会社での職業性膀胱がん労災認定裁判

第2回口頭弁論
10月30日 13 時15 分 東京地裁527 号法廷

◇ ◇ ◇

【あとがき】ようやく秋らしく涼しくなりましたね。裁判に関する弁護団との打ち合わせや化
学物質被害に関する相談活動も活発になってきました。またどこかでお会いしましょう。