MOCA膀胱がん業務上外検討会報告/特定芳香族アミン職業性膀胱がん裁判・職業がんをなくそう通信27(2021.1.10)

2020年9月26日
職業がんをなくす患者と家族の会https://ocupcanc.grupo.jp/

新年のごあいさつ

昨年はコロナ禍の中で、3 月27 日の第11回職業がんをなくそう集会in 福井後の集会開催ができませんでした。残念ながら今年の見通しも今は立てられない状況です。しかしながら、職業がんや職業病に苦しむ労働者のたたかいへの支援は、如何なる下でも続けなければならないと思います。

昨年8 月には東京地裁にて、繊維産業で働いて発症した膀胱がんの労災認定を求める裁判が始まりました。そして今年は、建設現場で木材粉じんにばく露され鼻腔がんで亡くなった方のご遺族が労災認定を求めている案件が再審査請求の公開審理、マントルヒーター(フラスコ等を加熱するための機器)の製造過程でガラス繊維を吸い込み、咳喘息に苦しんでいる方の案件が審査請求、シリカ粉塵を吸い込み結節性多発動脈炎でなくなった方の労災申請などが進行していくものと思われます。

仕事が原因でがんや病気になってもなかなか労災認定されないし、多くの犠牲者が出ないと法的規制がされないという後追い行政の中では、いつまで経っても職業がんや職業病がなくならない。本当に悲しいことです。

三星膀胱がん損害賠償裁判は、1 月27 日に証人尋問、そして4 月か5 月に判決予定です。化学物質被害による犠牲者をださないための安全配慮義務という予防線をしっかり築くために、最後の力を振り絞ります。

今年もよろしくお願いいたします。

職業がんをなくす患者と家族の会代表
田中康博

MOCA 業務上外検討委員会の報告

昨年3 月MOCA による職業性膀胱がん多発事案がようやく業務上外検討委員会にかけられました。その後第2回6 月、第3回7月。第4回9月、第5回11月と開催されてきましたが、12月22日膀胱がんとMOCA のばく露に関する医学的知見を公表しました。

https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_15624.html

報告書の結論として、以下2 点を示しました。

①ばく露業務に5 年以上従事した労働者に発症した膀胱がんは、潜伏期間が10 年以上認められる場合、その業務が有力な原因となって発症した可能性が高いものと考える。
②ばく露業務への従事期間が5 年または潜伏期間が10 年に満たない場合は、作業内容、ばく露状況、発症時の年齢、既往症の有無、喫煙の有無などを勘案して、業務との関連性を検討する。

また、今後の対応として、事業場を管轄する労働局に対し、検討結果報告書に基づき速やかに事務処理を行い、決定を行うよう指示なども示しました。

昨日静岡いの健センター野村氏より静岡新聞にMOCA による膀胱がんが労災認定の動きと報じられたと連絡を受けました。これも上記対応の流れからだと思います。一昨年、熊谷信二先生・関西労働者安全センター・当会の働きかけがようやく一山越えそうです。

労働現場ではまだまだ様々な化学物質のばく露があり職業(関連)がんは決して少なくありません。活動が制限される中ですが取り組みの継続が求められます。

職業性膀胱がんの訴訟について~特定芳香族アミンによる職業性膀胱がんにり患し労災認定を求めて東京地裁に提訴された原告A さんより~

私はアパレルメーカー福助に勤務するもので、以前中国で勤務し帰国後の2015 年9 月に42 歳という年齢で膀胱がんを発症しました。膀胱がんは通常10万人に10 人程度で高齢の主として喫煙者に発症するものです。私には喫煙歴もなく若年での発症は非常にまれであるため、主治医から業務歴を訪ねられました。中国赴任時、量産品や開発品の生地を品質検査する際、アゾ染料が手や鼻などに付着することがあり洗っても落ちなかったことを伝えたところ、こ
の特定芳香族アミンを生成するアゾ染料へ曝露し膀胱がんを発がんした可能性があると言われ、2015 年11 月労災申請をしましたが、2017 年7 月に不支給決定となり審査請求を経て2019 年9 月再審査請求も棄却されました。

膀胱がんの発がんリスクには主に喫煙と繊維業界でも知られている発がん物質への職業曝露があげられています。私には喫煙歴もなく、業務でアゾ染料が付着し特定芳香族アミンへの曝露が疑われているのですから、主たる発がん原因は職業要因と考えるのがごく自然な考え方です。中国駐在業務で通常検査業務や吸水速乾生地確認作業の中で、生地の洗浄不足が原因で発生する製品の異臭クレームを避けるための嗅覚試験を実施した際直接手に持ち臭いを嗅ぐため手や鼻が染料で染まりいくら洗浄しても落ちませんでした。その時使用されていた染料に「CI 酸性」(特定芳香族アミンであるベンジジン由来の染料)があり、この確認作業によりベンジジンへの職業曝露を受けたと考えています。

繊維業界では、発がんリスクがあるため各工場より特定芳香族アミンを生成するアゾ染料を不使用とする宣言書を取り寄せていますが、喫煙歴がない私の膀胱がん発症の原因は職業曝露以外に見当たらないのに労災認定されないというのは、何かの間違いなのではという気持ちでいっぱいです。

また、過去に少なくない職業性膀胱がんが発症しその特徴が論文報告されておりそれは若年発症と高再発性、悪性度の高さですが、私は42 歳で膀胱がんを発症し4 年間で3 度も摘出手術を受け直近の病理検査でもG2 からG3 へと悪性度が進行しており、これらは職業性膀胱がんの特徴とも合致しています。主治医も診断書で特定芳香族アミンを生成するアゾ染料への職業曝露が、原因と見解を示しています。

労基署や労災補償保険審査官、労働保険審査会は新たな調査もせず、会社の言い分のみに追随し過去の海外での曝露に十分な証拠がないとしました。

会社は業務状況の調査に対し真実の証言を行わず、私は真面目に業務をしてきたのに染料が曝露する業務自体が無かったものと事実をもみ消すような内容の資料を労基署へ提出しました。自分の誠心誠意した仕事がもみ消される屈辱を皆さん想像してみてください。私は一昨年自費で現地まで出向き、当該工場で膀胱がんを発症した人がいることや、現地医師から当該地域で膀胱がんが多いことを聞き取りして意見書を審査会に提出しましたが、一人で行う自費
調査には限界があります。化学物質を取り扱う上で履歴管理等の法的義務が無い中、被災者に厳格な証拠を求めるのは、過度な立証責任を負わせていると言わざるを得ません。このような不当な決定は到底納得出来ないことから昨年提訴をしました。

行政サイドでは十分な調査もせず結果的には会社の言い分のみを受け入れて不当な判断をしましたが、裁判所にあっては三権分立の立場から行政の不当な判断に拘束されずに、公正な調査と合理的な判断をしていただきたいと強く望むものです。

現在も国内外で勤務し化学物質に接触している労働者はたくさんいます。皆私と同じようなリスクを抱えており本事案はそのような多くの労働者にとっても深刻な課題でもあります。


世界の疫学報告では、全がん死亡者の5~8%、EU労組は16%が職業要因との見解もあり、5%だとしても日本では毎年2 万人が職業関連がんで死亡していることになります。現在なにも知らずに職業がんになり、職業がんのことすらもわからず亡くなっていく方が大勢いるわけです。職業がんの労災認定件数が日本ではあまりにも少なく石綿関連を除けば年間20 件以下しかありません。今回の提訴は私一個人の問題のみならず多くの方に現状を知って頂き、厚生労働省に今後労働者の化学物質被害の予防に尽力して欲しいと思ったことも理由の一つです。法規制等で国内外における化学物質の不適切な衛生管理を改め法規制があっても徹底されていない現状を変え、職業がんを出さない社会にしていきたいです。

日本の法規制は曝露被害や職業がん多発の後追い行政です。化学物質取り扱い履歴をきちんと残させ、少なくとも被災者が発生したとき、記録と事実に基づき労災認定がされる方向に仕組みづくりをしていくことも、今後の使命だと思っています。

最近、コロナ禍で以前まで日常でできた調査等が進めづらくなり、コロナに関連するニュースが主体となりより多くの方に職業がんについての現状を知ってもらい考えてもらう機会が奪われていること、判決の焦点はあくまでも有害染料への曝露の証拠という局所的なものとなり職業がんの現状や予防の在り方に社会の関心が向きづらい状況になっていることを残念に感じています。

私の膀胱がんの潜伏期間もそうですが、有害物質に曝露してから潜伏期間が5 年~30 年ほどあり、70~80 代になってからがんを発症し職業要因すら疑わずに亡くなっていく方も少なくありません。根本的に有害物質への職業曝露を無くしより健康的に長生き出来る社会にすべく厚労省は予防活動に尽力していくべきだと考えています。

裁判を通して、今後職業がん被害が少しでも救われるような社会になるよう尽力していく次第ですのでご支援ご協力頂けましたら幸いです。

原告Aさん