三星化学工業職業性膀胱がん損害賠償請求裁判、勝訴!福井地裁・職業がんをなくそう通信30(2021.6.7)

2021年6月7日

職業がんをなくす患者と家族の会https://ocupcanc.grupo.jp/

目次

三星化学工業職業性膀胱がん損害賠償請求裁判、企業責任断罪の判決下る

膀胱がん多発の企業責任と被害者への補償を求めた損害賠償請求裁判は福井地裁1号法廷にて5月11日午後1時半より判決が下り、会社に安全配慮義務違反があったとし原告らに合計1155万円の慰謝料の支払いを命じました。

原告田中康博代表ら4名は三星化学工業株式会社福井工場で長年顔料中間体の製造に従事しオルトトルイジンに約20年以上の曝露を受け2015年以降相次いで膀胱がんを発症しました(全員が労災認定)。

原告らはがん摘出手術を受けその後も苦痛を伴う検査を余儀なくされ膀胱がん再発の不安と恐怖を抱えており会社に安全配慮義務違反があったとしてその責任を追及すべく2018年2月28日福井地裁に提訴しました。会社は安全配慮義務違反はなかったと主張し徹底して争う姿勢を示しました。

判決では発がんの予見可能性について2001年当時会社が入手していたSDS(セーフティデータシート)に経皮曝露による健康障害や発がんリスクが記載され会社はそれを認識していたことを指摘し、半袖T シャツで作業する等様々な曝露の実態を認め会社は適切な対策を講じなければならなかったのにこれを怠ったと断罪しました。

一方原告4名が合計3630万円を求めた損害賠償については①2001年以前の曝露も発がんに影響しているであろうこと②原告らが発症から4・5年経過し再発していないことなどを減額理由に慰謝料1155万円を支払うよう会社に命じました。

判決を受けアオッサ607号室15時より行われた記者会見において田中代表は金額面では不満が残るものの、明確な法規制が無くてもSDSに有害情報があり健康障害の危惧があるならば会社は対策を講じなければならないとした判決を評価し、この判決を三星化学工業が真摯に受け止め安全対策に尽力していくこと、この判決が多くの化学会社の労働環境の改善と労働者の健康被害の予防に寄与することを強く願うと表明しました。

勝利判決が全国的な報道に、DVD 撮影も開始

判決当日早朝駅前宣伝で原告らが劣悪な職場環境の中で業務を行い発がん物質にばく露されてきたことや発がん者が多発するも会社は正式な謝罪と補償を示さないこと、裁判の中でも会社は非を認めようとしないこと、判決ではこのような会社への断罪を勝ち取り自分たちだけではなく化学会社で働く多くの労働者の環境改善に繋げ職業がんをこれ以上出さない社会作りに貢献したいと訴えました。「頑張って」の声かけも戴きました。

勝利判決で職業がんを出さない社会作りをと訴える田中原告代表

また、この闘いの貴重な経験を映像に残そうとDVD 化に向けての撮影も開始されました。

原告団は福井地裁に揃って入廷行進し、勝利判決を受けて支援者ら(化学一般と福井県労連)が旗だしを行い勝利を喜びました。

記者会見には支援者や報道関係者50名が、東京・京都・大阪などからWeb配信により多数参加しました。夕刻のTV放送や翌日の朝刊、デジタル配信などで全国的な報道がされました。

判決内容の解説

判決文全文と声明文については、以下サイトで閲覧が可能です。

https://ocupcanc.grupo.jp/blog/3420784

裁判所の判断は、

1 争点(1)被告の安全配慮義務違反について
2 争点(2)原告らの損害及び因果関係について
3 まとめ

で構成され、1 争点(1)では(1)認定事実と(2)検討からなります。

(1)認定事実

ア 2001 年当時までにおけるオルトトルイジン(以下OT)の有害性に係る情報
(ア)国のOT に関する取り扱いについて

・昭和51 年8 月4 日OT を原因とする症状(メトヘモグロビン血症、貧血)については労災認定対象となりうることが労働省労働基準局長から各都道府県労働基準局長宛に示されていたが被告はこの情報提供を受けていなかった。

(解説)1976 年基発第565 号ではニトロ又はアミノ誘導体芳香族化合物(ベンゼン環にニトロ基又はアミノ基があるもの)による疾病の労災認定基準が示されています。別表としてニトロ誘導体16 種類、アミノ誘導体18 種類、がん原性物質4 種類が示され、OT はアミノ誘導体の14番目に記載され、おもな症状としてメトヘモグロビン血症、貧血、腎障害がマークされています。会社はこの情報提供を受けていなかったと主張し裁判所はこれを認定しました。但しまともな化学会社であるならば調査して知っておくべきことだと考えます。

(イ)OT の有害性に関する研究発表やSDS(セーフティデータシート)の記載内容及び被告の入手時期等について

1982 年Rubino らがOT と膀胱がんとの関連性を報告した論文や会社が入手したSDS の内容と時期が別表で示され、被告は入手したSDS のうち英文記載されたものは反訳していなかったが平成13 年当時までには被告副工場長が福井工場にあるSDS 全て位に目を通しOT の発がん性も認識していた。

発がんメカニズムはOT 代謝生成物が尿中でDNA 損傷を引き起こすとし、曝露期間と発がんリスクは10 年以上の曝露で有意差が認められ5 年以上でも示唆される、発がんまでの潜伏期間については10 年以上で関連性が高く10 年未満は作業内容や年齢等を総合的に勘案して関連性を検討するとされている。

(解説)OT と膀胱がんとの関連性を報告した論分については化学会社であるならば当然調査し内容を把握しておくべきかと考えますがその点には判決は触れませんでした。水俣病における判決では被告チッソに対し「化学工場は・・最高の知識と技術を用いて・・調査研究を尽くしその安全性を確認」し「地域住民の生命・健康を侵害しこれを犠牲にすることは許されない」とありますが、被害者が地域住民と労働者では扱いが違うということでしょうか?判決では人証尋問における八木氏の証言に基づきH13(2001)年には発がん性を認識していたとしました。メカニズムや曝露期間と発がんリスク、潜伏期間の関係は厚労省のまとめを引用した原告の主張を採用しています。

(ウ)OT の手袋透過性について

日本で化学防護手袋の化学物質透過性の研究が始まったのは平成10 年頃からで透過時間を検索できるシステムの使用を行政が通達で推奨したのは本件事故が発生した後である。

(解説)化学防護手袋の材質に応じ化学物質ごとに透過時間が違うのは理解できます。筆者も化学会社在籍中に配管を接続するカップリングのO リ
ングやガスケットの材質を選定するため実液を用いて材質テストを実施していました。保護手袋については浸透性の高い化学物質を扱うとゴムに化学物質が浸透しブヨブヨになるので数回使用したら自分の判断で交換していました。

イ 福井工場におけるOT の取り扱いについて

有機溶剤のトルエンと共に使用されていたことから有機溶剤中毒予防規則第2 種有機溶剤と同等の管理下で取り扱われていた。

(解説)OT はその殆どがトルエン溶液として扱われており(乾燥後の製品は除く)後述しますが曝露が相当あったことが推論されます。

ウ OT を原料とする製品の製造工程と従業員の作業内容について

製造工程は反応工程と乾燥工程があり、乾燥機の清掃や手袋洗浄、工場の清掃等の非定常作業があった。

(解説)作業内容と曝露の様子に関する原告と被告の主張が一覧表でまとめられ概ね正確に記載されています。

エ 原告らのOTの経皮曝露について
(ア)乾燥工程の曝露

a  洗浄工程等

ろ過槽内の結晶掘り起こし作業や洗浄作業で有機溶剤が皮膚に飛散したり作業着が有機溶剤で濡れた状態で作業することがありこの過程で経皮曝露があった。

b  生成物の乾燥機への投入

生成物スラリーをろ布から乾燥機に投入する作業でろ布に直接触れて全身が有機溶剤で濡れる中作業を行う過程で経皮曝露があった。

c 製品粉体の袋詰め作業

袋詰め作業の袋とじ、計量時等で製品粉体(OTを含有する)に曝露があり特に夏場は汗で粉体が皮膚に付着することがありこれらの過程で経皮曝露があった。

d 乾燥機の清掃作業

非定常作業として乾燥機内の清掃作業があり夏場は半袖で作業したこともあり製品粉体で粉まみれになることがありその過程で経皮曝露があった。

(解説)H28(2016)年3 月の厚労省調査では経気道曝露もあったと報告されていますが

https://www.mhlw.go.jp/file/04-Houdouhappyou-11305000-Roudoukijunkyokuanzeneiseibu-Kagakubushitsutaisakuka/0000117011.pdf

判決では上記4 点での経皮曝露に限定して認めています。原料の小分けや仕込み、ろ過槽からろ布へのウェットケーキ移し替え、乾燥粉体のホッパー投入、工場内清掃、袋詰め製品のコンテナバッグへの移し替え、コンテナバッグの洗浄、ゴム手袋の洗浄、トルエン蒸留残渣の処理作業での曝露には言及しませんでした。
現在も別の芳香族アミンやその生成物が現場で取り扱われているので曝露の特定とその防止は重要な課題です。

(イ)原告らの乾燥工程作業実績について

原告らはH27(2015)年11 月までに乾燥工程において全員が上記aとd作業に従事していた。H13~H27 年11 月までの間O氏を除く者が上記bとc作業に従事していた(O氏もH3まではbとc作業に従事していた)。T 氏は蒸留残渣処理作業中に液を浴びた。

(解説)H13 年発がん情報を会社が認識していた時期以降の作業実績を認定し、T 氏の残渣液曝露は認めました(OTには言及せず)。

(ウ)福井工場における有機溶剤検査の結果について

トルエンはOTを含有しておりその尿中代謝物の検査結果は以下であり、

実施期間管理区分2管理区分3
H3 年3 月~H 8 年9 月26.7%9.3%
H9 年3 月~H13 年10 月30.8%8.1%

H29(2017)年の座談会「経皮吸収による健康障害事例をめぐって」において安衛研所長代理甲田茂樹が管理区分が10%程度の高い数値は見たことがなく自覚症状もあり対応策について産業保健職ならピンとくる材料がいくつかあった旨述べた。

(解説)過去のトルエン取り扱いによる健康調査結果を見ると最も体内吸収が高い管理区分3が10%程度もの異常な状況なら膀胱がんを発症する以前に作業環境の改善を講じなければならないという専門家の見解を判決で言及しました。原告らは2000 年当時作業者らが職場で体調不良を訴えた時会社が職場環境の改善をしていれば発がんはもっと抑制できたはずだと主張してきましたが専門家も同様な見解であることを示しています。

オ H13 年当時の被告のOT経皮曝露防止のための措置について
(ア)保護具について

被告は防塵マスク等とゴム手袋(厚手と薄手)の着用を義務付け定期的にフィットテスト等を行い、作業者の申告で手袋を交換していた。

(イ)作業服について

布製の作業服を貸与していたが夏場は工場内が高温になるため半袖Tシャツで作業をするものもおり被告はH23(2011)年まで禁止しなかった。同年以降長袖作業服が義務付けられた。

(ウ)OTが身体等に付着した際の注意喚起について

身体や作業服に付着した場合速やかに着替えをしたりシャワー等で洗浄すると注意喚起していたが業務繁忙時等は徹底していなかった。

(解説)実際使用されていたのは有機溶剤と粉じん除去を兼ねた防毒マスクで粉じん除去能力はやや低く作業後に口の周りに細かい粉じんが汗でペースト状に付いていたことや作業服を洗濯する洗濯機が少なく(当時3 台で現在10 台)順番が中々来なかったことには触れませんでしたが、Tシャツで作業したことや作業途中で中断してシャワー等はできなかったことは認めています。

カ 安衛研の調査

厚労省の委託を受けた安衛研がH27(2015)年12 月からH28(2016)年1 月まで福井工場における従業員の調査を行い、OTの作業環境測定と個人曝露測定、作業後の尿検査、各工程における生成物等のOT含有量の測定を実施したところ作業環境及び個人曝露測定からは産業衛生学会による許容濃度(1ppm)を超えるOTは検出されなかったが特定の作業者に高い尿中OT含有量が測定された。また蒸留トルエンから0.1%、乾燥前スラリーから21.4ppm、乾燥粉体から21.7ppm が確認された。手袋を透過したOTの経皮曝露が推測された。

さらに同年3 月管理部門や労働者に聞き取り調査を行ったところ、10~20 年前夏場は半袖で作業しろ過槽の結晶掘り起こしやトルエン洗浄作業、乾燥機への投入作業時に上体や作業服が濡れることがしばしばあったがシャワー等で洗い流すことはしなかったしそのまま帰宅したものもいた。直接指でOTや蒸留トルエンに触れたり設備メンテナンス等で汚染水がかかったことが報告された。

(解説)安衛研の調査報告内容を引用し作業者らが直接あるいは間接的にOTに対し様々な曝露があったことを認めています。
以上が(1)認定事実で(2)検討に続きます。

(2)検討

ア 予見可能性について
(ア)安全配慮義務違反の内容について

被告は安全配慮義務の前提となる予見可能性について具体的な疾患及び同疾患発症の具体的な因果関係に対する認識が必要であるとし本件においてはOTの皮膚吸収による発がんの可能性の認識が必要であり被告にはそれがなかったと主張するが、生命・健康という被害法益の重大性に鑑み化学物質による健康被害が発症し得る環境下で従業員を稼働させる使用者の予見可能性としては安全性に疑念を抱かせる程度の抽象的な危惧であれば足り生命・健康に対する障害の性質、程度や発送頻度まで付帯的に認識する必要はなく被告の主張は採用できない。

(イ)被告の予見可能性の有無について

上記認定事実によればH13(2001)年当時までに被告が入手していたSDS にOTの経皮曝露による健康障害(高濃度曝露で死亡リスクあり)の記載があり被告副工場長がSDS に目を通しOTの発がん性も認識していたこと、トルエン尿代謝物が高濃度で検出されていることも認識していたのであるから経皮曝露により健康障害が生じ得ることを認識し得たというべきで被告には遅くとも同年当時には安全性に疑念を抱かせる程度の抽象的な危惧(予見可能性)を有していたと認めるのが相当である。SDS を翻訳していなくとも内容を把握できない事情は認められず上記の判断には影響しない。

被告はSDS 及び厚労省や業界団体からの通達等による有害性評価書や有害性データベースの情報を入手すれば足り被告に調査懈怠はないと主張するが現実に有害情報が記載されたSDS をH13 年までに入手し内容を認識していたのであるから通達等にOTの有害性が記載されていなくても予見可能性がなかったとは言えない。

(解説)安全配慮義務については具体的な疾患や因果関係が必要と主張した被告の主張を退け、生命・健康という重要性を鑑みれば安全性に疑念を抱かせる程度の抽象的な危惧で足りるとし、H13 年当時SDS に発がん情報があり副工場長がそれを把握しトルエンの尿代謝物が高濃度であることも知っていたのであるから抽象的な危惧(予見可能性)があったとし、さらに通達で具体的に触れられていなくともSDSの内容を認識していれば予見可能性があったとするべきとしました。
認定事実に基づき現場にあったSDS の有害情報と曝露の結果を知っていたのであるから法や通達による具体的な規制がなくても安全に対する抽象的な危惧(予見可能性)があったはずとした判決は評価できます。

イ 結果回避義務の存否について

H13 年以降は被告には経皮曝露しないよう不浸透性作業服等の着用や身体に付着した場合の適切な処置を周知徹底し遵守させる義務があったというべきであるが半袖T シャツ作業をしていたこと、付着しても直ちに着替えたり洗い流という運用を徹底してこなかったのであるから、被告には安全配慮義務違反があったとするのが相当である。

被告は①T シャツ着用を推奨したことはなく熱中症予防の観点から禁止しなかった②作業服や身体に付着した際着替えたり洗い流すよう指導しており代替作業服も用意していた③手袋の透過性は認識がなかったと主張するが

①熱中症を防止すべき要請があったとしても被告としては曝露防止ができる工程の策定や作業着の選定を行う義務があること②一定の指導をしていても徹底されていなかったこと③手袋以外の曝露経路が認められることをみれば結果回避義務を履行したとは認めることはできない。

(解説)被告の言い逃れは退けられ、結果的に適切な対策を講じる必要がありながらそれらを怠ったとし被告の安全配慮義務違反を認めました。会社は盛んにゴム手袋の件を主張しましたが曝露の経路がゴム手は勿論のことそれ以外の経路があると一蹴しました。

ウ まとめ

以上の検討により被告にはH13(2001)年当時OTの経皮曝露による健康被害の予見可能性があり、作業工程等で原告らに経皮曝露がある中で被告がこれを改善しなかったことを認め安全配慮義務違反があったとするのが相当である。

2 争点(2)原告らの損害及び因果関係について

(1)慰謝料について

ア 原告らは被告の安全配慮義務違反によるOTへの曝露により膀胱がんを発症しその治療のため身体の浸襲を伴う治療を選択せざるを得なかったこと、治療後もDNA 損傷により再発のおそれがが残存しており定期的な検査が必要とされることが認められ、H 氏においてはBCG治療の副作用で発熱等の苦痛を受け再発の可能性を示す膀胱壁腫瘍の疑いと診断を受けた。

他方原告らは膀胱がん発症から4~5 年が経過し再発した証拠がないこと、被告に安全配慮義務が発生したH13(2001)年以前からの経皮曝露も発がんに寄与しているであろうことが認められる。

これら事情を総合考慮し被告の安全配慮義務違反によって生じた原告らの精神的苦痛に対する慰謝料はH 氏は300 万円、他のものは250万が相当である。

(解説)被告の安全配慮義務違反により原告らが膀胱がんを発症したこと、治療や検査には痛みが伴ったこと、今後も再発の可能性があること、BCG 治療では副作用の苦痛があったこと等を認めた一方、原告らが実際には再発していないことと被告の安全配慮義務が生じる以前の曝露もおそらく発がんに寄与していることを総合的に考慮し原告らの精神的苦痛に対する慰謝料を250 万円(H 氏は300 万円)としました。原告らは目に見える後遺症や生活する上での制約がなく交通事故などの相場では100 万程度とされていたのでそれよりは多いものの金額的には不満なものとなりました。H13 年以前については被告に安全配慮義務違反がなく慰謝料の減額要因としていますが、原告らの労働で被告は利益を得たのに対し発がん被害は原告らが負うというのは納得できない部分です。再発が認められないことも減額要因として挙げられていますが再発すればまた別の慰謝料が発生するとも解釈できます。

イ 被告は手袋からの経皮曝露が発がんの主原因でそれ以外は寄与しないと主張しているが、それ以外の経皮曝露が認められ原告らは相当長期間それら工程を担当したのであるから手袋以外の曝露経路も発がんに寄与したとすべきである。安衛研の調査時はH13 年当時の通常業務と異なり防塵防毒マスクや化学防護服等を着用していた中での結果に過ぎない。

(解説)被告の手袋から浸透し経皮曝露して発がんしたという主張を再度退けました。
最後に弁護士費用を慰謝料の1 割相当25 万(H氏は30 万)とし、それら加えた275 万円(H氏は330 万円)を訴状送達日翌日から支払い済まで年5 分の遅延損害金を加えて支払うよう判決はまとめています。

50 名もの参加があった記者会見(AOSSA607 号室)

原告らは金額は不満があるものの、法規制等がなくてもSDS の有害情報で安全に対し抽象的な危惧があれば企業に安全配慮義務が生じそれを怠った三星化学工業を断罪した判決を評価しました。判決より2 週間が経過し双方控訴をしなかったため判決は確定しました。

これまでの多くの皆さまのご支援に感謝いたします。

三星化学工業との真の和解に向けて

判決の確定を待つ5 月25 日原告団は被告・会社に対し申し入れを行っています。

その内容は、職場実態やその後の厚労省調査報告等科学的知見に照らして曝露防止対策について会社に不備があり、その結果職業性膀胱がんが多発した事実と責任を認めること、原告らを含む被災者らに謝罪を表しその方法等協議すること、被災者らが再発した場合の補償に関する労使協議をすること、職場環境の改善に向け労働安全衛生管理体制やリスクマネジメント体制の確立のための協議をすることなどです。その後、被告・会社からの回答は判決主文にある支払いに関することのみでその他の事案は合意できないとしています。

5 月31 日会社社長よりリモートで被災者ら一人ひとり個別で口頭にて謝罪があり数日後に謝罪文が各人に郵送されました。原告団田中代表は社長に対し「膀胱がん再発時の補償について協議する意思はあるのか?」「今後の職場環境改善のための体制作りを労組と共に作っていく意思はあるのか?」と問うたそうですが、補償については総務部長が団体交渉時に話すとし、体制作りについては社長からその意思はないと答えたそうです。

金員を支払うだけでは被災者の気持ちは納まりませんし、謝罪についても二度と職業がんを発生させないという深い反省のもと労働環境の改善に向け新たな体制作りに労使協力して踏み出すことが重要だと考えます。終始罪を認めてこなかった会社の態度はなかなか変わりそうにありません。

化学一般関西地方本部や患者と家族の会には勝利判決へのお祝い等たくさん届いていますが、会社の姿勢を変えるべく今後も奮闘してまいります。

建設現場の上顎がん再審査請求について

当初5 月27 日に設定された再審査請求公開審理は新型コロナウイルスの感染拡大による緊急事態宣言の影響で9 月22 日に延期となっています。

東京地裁膀胱がん労災認定訴訟の動き

F さんの労災認定を支援する会は本年4 月6日結成後、5 月17 日に打ち合わせを行い、弁護団会議を5 月7日5 月21 日、進行協議が5 月26 日に開催されています。また映像化の打ち合わせを4 月22 日に実施しF さんの支援する会を離れ三星化学工業事案の撮影を開始する方向で進んでいます。

支援する会としては役員の補充をしながら会員と会費集めに取り組んでいきます。またF さんの所属する労組がこの問題を全く取り上げようとしないことも問題にしています。職業がんは誰もが成るものではなくごく少数が罹患しますから確たる証拠がなくても弱者救済の立場で労組という組織が対応すべきなのですが現実は酷いものです。

進行協議では次回7 月9 日までに資料の提出を迫られ、医師意見書の提出に苦慮しており難しい旨を伝えています。新しい裁判長は全体の締めを8 月下旬に設定し早く終わらせたい様子が見られるとのことです。中国現地の協力者からは地域や元染料工場労働者の膀胱がん患者の情報も入ってきていますが連絡が難しい状況もあります。

現地の工場で撮影した写真について関係者で建物や設備、染色に使用していた資材などを検証し特定芳香族アミンに繋がる情報を探しています。

ガラス繊維の曝露による呼吸器疾患の再審査請求について

なくそう通信No.28 でお伝えしたガラス繊維の曝露による気管支喘息事案は審査請求が本年3 月31 日棄却され、5 月21 日に再審査請求をしました。実際にガラスクロスを裁断するビデオ撮影も行い粉じんが飛散する様子を証拠として提出しましたが審査官は主として下に落ちているとしました。

働くもののいのちと健康を守る全国センター化学物質研究会に相談しガラス繊維だけでなく結束材などの影響についての文献調査やガラスクロスの電子顕微鏡解析を依頼しました。