石綿健康被害補償・救済状況の検証(2018年度)中皮腫救済4年連続増加も、労災補償等件数は逆に減少

※2019年度版石綿健康被害補償・救済状況の検証結果を別途まとめています。

※このウエブ版記事では表を省略。末尾に表を含めたPDF版をダウンロードできるようにしてあります。

「隙間ない救済」検証の変遷

2005年夏のクボタ・ショックに対応するためのアスベスト問題に関する関係閣僚会合は、同年12月27日の第5回会合でまとめた「総合対策」で、「石綿による健康被害者の間に隙間を生じないよう迅速かつ安定した救済制度を実現」するとした。このために翌2006年2月3日に成立、同年3月27日に施行されたのが、石綿健康被害救済法である。

「隙間ない救済」の実現状況の検証は、救済法が施行された当初からその必要性が指摘されてきたことであるにもかかわらず、政府・関係機関による努力はなかなかなされてこなかった。

検証作業に必要な死亡年別補償・救済データについては、環境再生保全機構は当初から公表したものの、厚生労働省がデータを公表するようになったのは、労災認定等事業場名一覧表の公表を再開した2008年度以降のことである。

政府・関係機関に代わって全国労働安全衛生センター連絡会議が独自に検証を行ってきた(安全センター情報2008年12月号、2010年1・2月号、2010年11月号、2012年1・2月号、2013年1・2月号、2014年1・2月号、2015年1・2月号、2016年1・2月号、2017年1・2月号、2018年1・2月号、2019年1・2月号参照-今回が12回目となる)。

被害者・家族らの要望に応えて議員立法によって実現した2008年の救済法改正によって、「関係行政機関の長が相互に密接な連携を図りながら協力」して調査等を行い「国民に対し石綿による健康被害の救済に必要な情報を十分かつ速やかに提供する」とした条文(第79条の2)が新設された。

2011年6月2日に環境大臣に答申された中央環境審議会の建議「今後の石綿健康被害救済の在り方について」は、「労災保険制度との連携強化」として「労災保険制度との連携強化に関しては、石綿健康被害救済制度、労災保険制度等における認定者と中皮腫死亡者との関係等の情報についても、認定状況とともに、定期的に公表していくことが重要である」と指摘した。

2012年12月5日に開催された同審議会の第11回石綿健康被害救済小委員会に参考資料として提出された「二次答申の対応状況」では、上記指摘に対して、「環境再生保全機構が毎年度公表している『石綿健康被害救済制度運用に係る統計資料』の平成24年度版から、労災保険制度等における認定者数の情報も含めて掲載することを検討中」と報告された。

実際には1年遅れて平成25年度版統計資料から「各制度における中皮腫の認定等の状況(死亡年別)」という表が一枚追加された。これは、本誌が12頁表6で示しているものと同じ作業を行ったデータであり、それが本誌による検証から半年以上遅れて公表されるかたちになったわけである。

2016年4月20日に開催された中央環境審議会石綿健康被害救済小委員会で配布された「石綿健康被害救済制度の施行状況について」の資料中の「(参考)労災保険制度との連携強化②(中皮腫死亡者の推計)」では、初めて「救済制度の認定を受けた後、元国鉄・アスベスト補償制度、国家公務員災害補償制度、地方公務員災害補償制度など他法令から給付の決定を受けた者」のデータが追加された(1995~2014年に死亡した者計42名)。

これに対して、中皮腫・アスベスト疾患・患者と家族の会を代表する委員が、それらの制度から給付決定を受けた者すべてのデータを入手して示すよう求めた結果、2016年6月22日の第2回小委員会には「前回頂いた御指摘事項に関する資料」のひとつとして、「国家公務員災害補償制度、地方公務員災害補償制度、元国鉄職員に対する業務災害補償制度等の対象となった者の合計」のデータが示された(1995~2014年に死亡した者計221名)。これを加えると、全体の救済率が1%強引き上げられるという結果であった。

この作業を継続することが求められたのだが、2016年9月16日に環境再生保全機構が公表した平成27年度統計資料に含められた「各制度における中皮腫の認定等の状況(死亡年別)」は、最初の小委員会資料のかたちのままで、「労災又は特別遺族給付金、船員保険制度以外にも、旧国鉄・アスベスト補償制度や国家公務員災害補償制度等において認定実績があるが、データの制約上、これらの件数は合計には含まれていない」と注記された。平成28年度以降の統計資料も平成27年度を踏襲しており、やればやれる作業をやらないと宣言しているように感じられる。
政府一丸となった「隙間ない救済」の検証は、いまだなされていないということである。

隙間なく救済されるべき対象

まず本誌が検証に用いるデータを確認しておく。

① 死亡者数-検証作業における分母にあたる補償・救済されるべき被害者数については、中皮腫はすべてが「隙間なく」補償・救済されるものであるが、罹患者数のデータが得られないため、死亡者数を用いる。具体的には、2019年11月28日に厚生労働省政策統括官付参事官付人口動態・保健社会統計室が発表した、「都道府県(特別区-指定都市再掲)別にみた中皮腫による死亡数の年次推移(平成7年~30年) 人口動態統計(確定数)より」、及び、平成6(1994)年以前については、環境省が制度発足当時に行った推計方法(表1参照-これは、2010年5月21日の第7回石綿健康被害救済小委員会ではじめて公表されたものである)にしたがった。

石綿による肺がん死亡者数については、表1では、中皮腫の「1.0倍」とされているが、これは少なすぎる。2019年1・2月号に、2018年11月9日に公表されたGBD(世界疾病負荷)2017による推計を紹介したが、これによると、2017年の日本における石綿への職業曝露による石綿肺がん死亡者数は16,712人と推計され、同年の中皮腫死亡者数1,555人の10.7倍である。しかし、GBD推計が職業曝露以外を含めた推計が得られないことや発展途上であること、また、この数字を使うと結果的に計算される「救済率」が著しく低くなってしまうこと等から、過少推計になることを承知しつつ、本誌では、一昔前に国際的な科学的コンセンサスとされていた中皮腫の「2.0倍」との仮定を当面使用し続けることにした。なお、GBD推計は次回は、2020年春頃に更新される予定と伝えられており、更新されたら、また紹介する予定である。

表1に記載されているように、環境省は「患者数将来推計は改めて行う」としながら、現状行われていない。「隙間ない救済」実現状況の検証とアスベスト被害の将来推計は、車の両輪としてともに努力を継続する必要があることを強く指摘しておきたい。

検証に使った補償・救済データ

② 労災保険・労災時効救済・船員保険-厚生労働省はクボタ・ショックの後2006年から、毎年6・7月頃に「石綿による疾病に関する労災保険給付などの請求・決定状況まとめ(速報値)」を公表するようになっている(2019年は6月26日)。これは、請求・支給決定年度別データであり、「など」とされているのは、労災保険給付のほか、厚生労働省所管救済法に基づく特別遺族給付金(労災時効救済)、船員保険給付に関するデータも含んでいるからである。

一方、年末に上記の「確定値」及び「石綿ばく露作業による労災認定等事業場一覧表」を公表することも、被害者・家族らの強い働きかけの結果、継続されている(2019年は12月18日)。確定値には、死亡年別データが含まれる。船員保険の支給決定年度別データは、労災認定等事業場とともに参考として公表されている船員保険の業務上認定等事業場(船舶所有者)一覧表記載の当年度支給決定件数の値を使う。

必要に応じて、労災保険+労災時効救済+船員保険を「労災補償等」とよぶ。

③ 環境省所管救済法による救済-石綿健康被害救済法による療養者に対する救済(医療費・療養費手当等=生存中救済)、同法による法施行前死亡者及び未申請死亡者に対する救済(特別遺族弔慰金等)。環境再生保全機構が毎年公表している「石綿健康被害救済制度運用に係る統計資料」の平成30年度版によった(2019年9月18日公表)。

必要に応じて、環境省所管救済法による救済=生存中救済+施行前死亡救済+未申請死亡救済を「環境省救済」とよぶことにする。

これには、平成21年度版から、「労災等」認定との重複分を含めたものと除いたものの二つのデータが示されるようになった。「労災等」とは、労働者災害補償保険制度、国家公務員災害補償制度、地方公務員災害補償制度、旧3公社(日本国有鉄道、日本専売公社、日本電信電話公社)の災害補償制度、船員保険制度等の「業務に関連して石綿により健康被害を受けた方に対する補償制度」及び救済法に基づく労災時効救済制度(特別遺族給付金)のことである。本来は、これらの制度も検証作業に含めたいのだが、前述のとおり、同「統計資料」には「救済の制度の認定を受けた後、他法令からの給付の決定を受けた者」の死亡年別件数しか示しておらず、各制度を担当する機関からの情報も含めて、系統的なデータが入手できないために、断念せざるを得ない状況が続いている。

決定年度別の補償・救済状況

わが国の中皮腫による死亡者数は、人口動態統計で把握できるようになった1995年の500人から増加し続けている。2014年にわずかに減少したが、本誌は「増加が止まったとみることはできない」と指摘した。そのとおりに、2015年1,504人、2016年1,550人、2017年1,555人と増加したものの、2018年は1,512人と微減しているが、やはり「増加が止まった」とみることはできないだろう。1995~2018年の24年間の累計は25,000人を突破した。

表2~4として、中皮腫、石綿肺がん及び両者の合計の決定年度別の補償・救済状況を示した。

表4によれば、中皮腫・石綿肺がん合計について、生存中・施行前死亡・未申請死亡救済合計の「労災等重複」が2,417件、「労災等重複」を除いた救済件数の合計が生存中救済6,884件、施行前死亡救済3,319件、未申請死亡救済1,137件-合計11,340件である。認定されたうちの17.5%ほどが「後に他制度の認定を受けた」ことになる。このこと自体は、結果的に内容も水準も相対的に上回る給付を受けられるようになることであるから、歓迎・促進すべきことである。

7頁の図1及び9頁の図2は、各々表2及び表3のデータをグラフ化したもので、「労災等重複」分を差し引かない数字のまま示してある。

細かい留意点としては、環境再生保全機構の各年度版統計資料では、「当年度」と「累計」について、重複分を「含む」数字と「含まない」数字を示すが、当年度以外の各年度別の数字は示されていない。表2~4の生存中・施行前死亡・未申請死亡救済件数では、各年度版統計資料からとった「当年度」の「含む」数字を各年度の欄に、また、最新年度版統計資料の「累計」の「含まない」数字を「合計」欄に示し、各年度欄の合計から「合計」欄の数字を差し引いて得られた数字を「重複分」として記載した。これが、最新年度版統計資料に示された「累計」の「含まない」から「含む」を差し引いた数字と異なる場合があることを指摘しておきたい。また、重複=他制度による認定が、労災保険、労災時効救済、船員保険以外の「元国鉄・アスベスト補償制度、国家公務員災害補償制度、地方公務員災害補償制度など」の事例は、この検証データには含まれないことにも留意されたい。

中皮腫補償・救済4年連続増だが…

中皮腫について言えば、労災認定第1号は1978年で、以降クボタ・ショック前-2004年度までの27年間の累計労災認定件数が502件であったものが、2005年度は(事実上クボタ・ショック後の半年間で)502件、2006年度は1年間で1,001件と、1年半で4倍へと激増。以降、2007年度500件、2008年度559件、2009年度536件、2010年度499件、2011年度543件、2012年度522件、2013年度529件、2014年度529件、2015年度539件、2016年度540件、2017年度564件、2018年度534件で、労災認定件数の2018年度末までの累計は8,399件となった。

労災保険以外では、2018年度末までの累計で、労災時効救済915件、船員保険86件、両者と労災保険を合わせて合計9,400件。生存中救済は正味(労災等重複分を除いたもの、以下同じ)5,750件、施行前死亡救済正味3,201件、未申請死亡救済正味916件、救済合計では正味9,867件である。

2018年度末時点までの補償・救済の総累計は、重複分を除いて19,267件となっている。

図1をみると、救済法が施行された2006年度の大きな峯以外に、2009年度と2012年度に二つの小さな峰ができているのがわかる。

これは、2008年度に環境省主導、2011年度に厚生労働省主導によって、「個別周知事業」(地方自治体の保管する死亡小票で中皮腫で死亡された方を抽出し、労災または救済給付を受けていない方に対し、労災・救済制度を周知する事業)が実施されたことによるものである。「闘病中本人に対して」ではなく「死亡後遺族に対して」になってしまうわけではあるが、すべての救済対象事案に対して直接制度を周知することは、「隙間ない救済」実現をめざした具体的努力のひとつとして評価できる。効果が確認できているにもかかわらず、2回行われただけで、継続して実施していく方針はいまだどちらの省からも示されていないことが問題である。

上記二つの峰にまではとどいていないものの、さいわい2015、16、17、18年度と、4年連続して補償・救済合計が増加を示した。しかし、それは主として生存中救済と未申請死亡の増加によるものだった。

2018年度でみると、労災保険534件(前年度比30件減少)、労災時効救済9件(8件増加)、船員保険2件(3件減少)-以上合計545件(25件減少)、生存中救済749件(95件増加)、施行前死亡救済12件(2件増加)、未申請死亡救済152件(29件増加)-以上合計913件(126件増加)。総合計1,458件で前年度比101件増加だったものの、労災補償等については、逆に減少に転じてしまっている。

表2~4では、「分担率」として、2018年度末時点までに補償・救済を受けた総件数に対する、各制度による補償・救済件数が占める割合を示している。中皮腫では、労災補償等と環境省救済がおよそ半々という結果(2011年度末時点での49.4%と50.6%から、2012年度末時点では48.8%と51.2%、2013年度末時点では49.1%と50.9%、2014年度末時点では49.5%と50.5%、2015年度末時点では49.7%と50.3%、2016年度末時点では49.4%と50.6%、2017年度末時点では49.2%と50.8%、2018年度末時点では48.8%と51.2%へという経過)である。
表2のデータで決定年度別に「分担率」を計算してみると、「労災等重複分」が差し引かれないので労災補償等の占める割合が相対的に低くなるのだが、高いほうで2014年48.8%、2013・15年度45.4%…、低いほうで2009年33.2%、2010年37.3%、2018年度37.4%。年によりけっこうばらつきがある。

中皮腫の80%が職業曝露によるものというのが国際的な科学的コンセンサスであり、職業曝露によるもの以外の中皮腫の救済・補償を実施している他の諸国の状況からも妥当と考えられている。したがって、「分担率」の状況は大いに問題があるうえに、補償・救済合計件数が4年連続増加したといっても、2018年度には労災補償等が減少してしまっているわけである。

肺がん補償・救済持ち直し

石綿肺がんの労災認定第1号は1973年とされ、以降クボタショック前-2004年度までの32年間の累計労災認定件数が354件であったものが、2005年度は213件、2006年度は783件と、中皮腫同様に激増した。以降、2007年度502件、2008年度503件、2009年度480件、2010年度423件、2011年度401件、2012年度402件、2013年度382件、2014年度391件、2015年度363件、2016年度387件、2017年度335件、2018年度376件で、労災認定件数の2018年度末までの累計は6,295件となった。

労災保険以外では、2018年度末までの累計で、労災時効救済589件、船員保険78件、両者と労災保険を合わせて合計6,962件。生存中救済は正味1,134件、施行前死亡救済は正味118件、未申請死亡救済は正味221件、環境省救済合計では正味1,473件である。

2018年度末時点までの補償・救済の総累計は、重複分を除いて8,435件。中皮腫の総累計19,267件と比較すると、その43.8%のレベルにとどまっている。2倍(200%)どころか、環境省が制度発足時に想定した1倍(100%、表1参照)にも遠く及ばない状況が続いている。

2018年度は、労災保険376件(41件増加)、労災時効救済18件(4件増加)、船員保険1件(3件減少)-以上合計395(42件増加)、生存中救済138件(23件増加)、施行前死亡救済0件(増減なし)、未申請死亡救済34件(12件増加)-以上合計172件(35件増加)。総合計は567件で前年度比77件の増加であった。

中皮腫の場合のような「個別周知事業」も行われないなか、横ばいか微減傾向が続き、2017年には前年度比48件の減少となってしまったものが、2018年度は持ち直したという状況である。

「分担率」は、労災補償等が82.5%で、中皮腫の場合の48.8%よりはるかに高い。これは、後述の「認定率」でもみられるように、労災補償等と比較しても環境省救済における石綿肺がんの認定が難しいことによるものと考えられるのだが、表3のデータで決定年度別に「分担率」を計算してみると、この数字は2006年度81.6%から2018年度69.7%へと傾向的に減少していることが気にかかる。

まず何よりも「中皮腫と比較しても石綿肺がんの補償・救済が不十分」という認識を持ったうえで、石綿肺がんの認定・判定基準の内容と運用の大幅な改善、肺がん症例についてアスベスト曝露との関係についての医療現場に対する認識及び対応を抜本的・包括的に改善するようなアプローチ、中皮腫の場合の全死亡事例に対する周知事業に匹敵するような周知事業の立案・実行等々、多様な対策をいまのうちに講じていくことが求められている。

とりわけ、石綿肺がんの認定・判定基準が、「隙間ない救済」を実現できるものになっていないことは、本誌が繰り返し指摘していることである。

中皮腫・肺がん以外の疾病

表5は、石綿肺、びまん性胸膜肥厚、良性石綿胸水の決定年度別の補償・救済状況である。

環境省救済では、2010年7月1日から、著しい呼吸機能障害を伴う石綿肺・びまん性胸膜肥厚が新たに指定疾病に追加されたが、良性石綿はまだ対象とされていない。

労災時効救済では、良性石綿は対象とされてはいるものの、これまで請求・認定件数とも0である。

また、労災時効救済については、制度発足以来、中皮腫・石綿肺がんだけでなく、石綿肺・びまん性胸膜肥厚についてもデータが公表されてきたが、労災保険について、びまん性胸膜肥厚・良性石綿胸水のデータが公表されるようになったのは、2009年12月3日の公表からのことである。

請求期限切れ再発の可能性

石綿健康被害救済法は、患者・家族と石綿対策全国連絡会議等の提起を受けた議員立法というかたちで、法制定時には3年間の時限措置とされていた、法施行前に死亡または労災時効成立していた事例に対する救済(労災時効救済及び施行前死亡救済)の請求期限を延長するとともに、法施行後に未申請のまま死亡した事例も死亡後救済の対象に追加する等の改正が、2008年及び2011年の二度にわたり行われた。

しかし、労災時効救済は、2016年3月27日以降に死亡した事例には適用されない。したがって、死亡から5年経過すると労災保険も救済も請求できなくなる。未申請死亡救済のほうは死亡から15年以内なら請求することができるが、給付の水準に著しい差がある。再度請求期限切れが生じてくる問題を知っている必要がある。2018年度には、労災時効救済が中皮腫9件、石綿肺がん18件、石綿肺4件で、いずれも前年度比増であり、救済措置存続の必要性を証明している。

中皮腫救済率65.5(32.4~92.1)%

次に、「隙間ない救済」の検証である死亡年(年度ではなく暦年)別の補償・救済状況をみよう。表6は、2018年度末時点における中皮腫の死亡年別の補償・救済状況である。この表の救済件数には、労災等認定との重複分は含まれていない。

前述のとおり、補償・救済の対象(分母)となる死亡者数は、1995年以降は人口動態統計により、1968~1994年以前は推計値。1929年以前のアスベスト輸入量のデータがないために、(その38年後の)1967年以前の死亡者数は推計されていない。

もっとも古い認定事例は、施行前死亡救済の1973年死亡事例であり、労災時効救済で1974年死亡事例がみられる。しかし、1985年までは補償・救済合計で1桁、1995年までは2桁台で、死亡者数に対する補償・救済合計件数の比率=救済率は、1994年以前の小計では14.5%(=533/3,685件)にとどまっている(この数字は、2009年度末時点では13.5%、2010年度末時点13.7%、2011年度末時点13.8%、2012年度末時点13.8%、2013年度末時点521件14.1%、2014年度末時点522件14.2%、2015年度末時点522件14.2%、2016年度末時点526件14.3%、2017年度末時点530件14.4%であった-2014年度1件、2015年度0件、2016年度4件、2017年度4件、2018年度3件の増加があった)。

中皮腫死亡者数が推計ではなく人口動態統計により確認できる1995年以降(今回は2018年度までの24年間)についてみると(図3も参照)、死亡者小計25,142件のうち、2018年度末までに労災保険給付・労災時効救済を受けたものが7,886件、船員保険72件、生存中救済4,666件、施行前死亡救済2,919件、未申請死亡救済913件-合計16,456件で、救済率は16,456/25,142=65.5%(2009年度末時点での1995~2009年の救済率56.5%、同様に、2010年度末時点57.3%、2011年度末時点57.7%、2012年度末時点63.1%、2013年度末時点63.7%、2014年度末時点64.0%、2015年度末時点64.0%、2016年度末時点64.4%、2017年度末時点65.0%)という結果になった。

最も救済率が高いのは、2005年の92.1%(2009年度末時点89.1%、2010年度末時点90.1%、2011年度末時点90.9%、2012年度末時点92.1%、2013年度末時点92.1%、2014年度末時点92.1%、2015年度末時点92.1%、2016年度末時点92.1%、2017年度末時点92.1%)で、最低は1995年の32.4%(同前22.0%、23.0%、24.4%、31.8%、32.4%、32.4%、32.2%、32.2%)と、死亡年別の救済率のばらつきは非常に大きい。

死亡者数が推計値である1994年以前も含めた全期間合計(2018年まで)でみると、救済率は58.9%(同前48.0%、46.6%、49.0%、54.0%、55.1%、55.9%、56.5%、57.2%、58.1%)という状況である。検証可能な全期間について、救済率の一貫増加を継続できていることを確認できるのは幸いではある。

しかし、死亡年別の救済率が2005年の92.1%をピークに、より最近の死亡年について減少傾向が出はじめていないか強く懸念される。最近の死亡年度別救済率で、2016年度29.8%、2017年度30.4%から、2018年度は38.5%に増えたことはよいことであるが、いずれにせよ、「隙間ない救済」の実現からは遠いと言わざるを得ず、改善させる対策が必要である。

2005年死亡について92.1%という達成済みの救済率を具体的目標に掲げて、他の死亡年について実現できていない理由を分析しながら、具体的かつ多面的な対策を講じていくこと。また、死亡年が古い事例の救済は増加しにくくなってきているものの、労災時効救済と死亡後救済(未申請)の役割はなお大きいことを確認して、救済期限切れという事態が生じないようにすることが重要であると考える。

なお、表6の「合計」が表2の「死亡年判明2018年以前」欄の数字であり、表2において「合計」と「2018年以前死亡」の差を「死亡年不明+生存等」欄に記載している(2019年死亡も含む)。

肺がん救済率11.1(2.8~16.6)%

石綿肺がんの死亡年別の補償・救済状況は表7のとおりであり、グラフ化したものが図4である。

既述のとおり、救済の対象(分母)となるべき死亡者数は、中皮腫死亡者数の2倍と仮定している。

アスベスト輸入量のデータがないために推計していない1967年以前の死亡事例でも認定されているものがあり、もっとも古い認定事例は、労災時効救済の1963年死亡事例で、施行前死亡救済では1974年死亡事例がみられる。

しかし、救済率は、中皮腫の場合と比較しても、悲惨としかいいようのない実績である。仮に、制度発足当時に環境省が行った推計方法-肺がん死亡は中皮腫の1倍と仮定-にしたがうと、救済率は2倍になるが、それでもなお低い。

救済率は、1994年以前の小計では3.5%(=259/
7,370件、2009年度末時点で2.6%、2010年度末時点3.2%、2011年度末時点3.2%、2012年度末時点件3.3%、2013年度末時点247件3.4%、2014年度末時点247件3.4%、2015年度末時点247件3.4%、2016年度末時点251件3.4%、2017年度末時点256件3.5%)。

1995~2018年の24年間についてみると、死亡者小計50,284件のうち、2018年度末までに労災保険・労災時効救済を受けたものが4,477件、船員保険55件、生存中救済745件、施行前死亡救済103件、未申請死亡救済220件-合計5,597件で救済率は5,597/50,284=11.1%(2009年度末時点の1995~2009年の救済率9.3%、2010年度末時点9.6%、2011年度末時点9.7%、2012年度末時点10.6%、2013年度末時点10.8%、2014年度末時点10.9%、2015年度末時点11.0%、2016年度末時点11.0%、2017年度末時点11.0%)という結果になった。

最も救済率の高いのは2006年の16.6%で、最低は1995年の2.8%、2007年以降についてもおおむね減少傾向が見受けられる。

1994年以前も含めた2018年までの全期間合計でみると、救済率は10.2%(同前7.8%、8.2%、8.2%、9.2%、9.5%、9.7%、9.9%、10.0%、10.1%)という状況である。

繰り返しになるが、中皮腫と比較して、石綿肺がんの補償・救済状況は著しく低い。

肺がん/中皮腫の比率低いまま

以上の状況は、中皮腫と比較しても、石綿肺がんが著しく補償・救済できておらず、各制度間の相対的な比較においては、労災補償等がいくらかましに救済できているということを示している。このことを、別のデータからもみてみよう。

表8では、決定年度別の中皮腫に対する石綿肺がんの比率を検証している。

決定年度別でみると、労災保険では、肺がん補償件数の中皮腫補償件数に対する比率は、2002~2005年度に40%前後だったものが、2006年度78.2%、2007年度100.4%と上昇した後、2008年度90.0%、2009年度89.6%、2010年度84.8%、2011年度73.8%と低下し、2012年度77.0%、2013年度72.3%、2014年度73.9%、2015年度67.3%、2016年度71.7%、2017年度59.4%、2018年度は70.4%であった。2006~2018年度平均では77.5%となっている。

労災時効救済では、2006年度47.7%、2007年度106.5%、2008年度138.3%へと上昇した後、2009年度96.2%、2010年度208.3%(25/12件)、2011年度209.1%(23/11件)、2012年度は中皮腫救済件数の増加のあおりを受けてわずか16.0%になってしまった。2013年度は、中皮腫救済件数激減のなかで14件/7で200%、2014年度216.7%(13件/6件)、2015年度150.0%(12件/8件)、2016年度は10件/1件で1,000.0%、2017年度は14件/1件で1,400.0%、2018年度は18件/9件で200.0%、という結果であった。2006~2018年度平均では64.4%。これに対して、生存中救済では2006~2018年度平均が20.2%、施行前死亡救済では4.4%、未申請死亡救済では25.7%と著しく低い水準である。

表8の「総合計」の「合計」欄でみれば、各制度合わせた全体では40.8%であることがわかる。

図5には死亡年別推移を示しているが、こちらでみても労災補償等と環境省救済との間で大きな格差があることが確認できる。

認定率の検証

認定率についてもみておこう。表9及び図6に中皮腫、表10及び図7に石綿肺がん、また、表11に石綿肺、表12にびまん性胸膜肥厚、表13に良性石綿胸水について、入手可能なデータを示した。

請求件数を分母とすることも可能であるが、より正確に、当該年度における総決定件数に対する補償・救済件数を用いた。具体的には、労災補償等では、支給決定件数/(支給決定件数+不支給決定件数)、公害等救済では、認定件数/(認定件数+不認定件数+取下げ件数)を計算した。

公害等救済の「取下げ」は、「主な理由:労災等支給、医学的資料が整わない」と注記されているが、挙げられた二つの理由はまったく性質の異なるものであり、各々の理由ごとのデータを示すべきである。「労災等支給」が理由であれば結構なことだが、「(求められた)医学的資料が整わない」場合、それでも処分を求めていれば、「不認定」とされたと考えられる。不認定件数を減らす目的であろうが、自主的な「取下げ」を誘導させられ、事実上断念させられている可能性を排除できないため、総決定件数として分母に含めたものである。「労災等支給」を理由した「取下げ」を除外することができれば、認定率はその分高くなる。

中皮腫の認定率は、2006~2018年度平均で、労災保険が93.4%でもっとも高く、施行前死亡救済92.2%、労災時効救済86.1%、生存中救済85.3%、未申請死亡救済76.9%と続いている。

一方、石綿肺がんの認定率は、2006~2018年度平均で、労災保険の83.5%がもっとも高く、生存中救済58.5%、未申請死亡救済55..5%、労災時効救済53.6%、施行前死亡救済21.9%という順で、かなりの差がついている。また、公害等救済では取下げ件数もかなりの比率ある。

中皮腫の認定率と比較して、とりわけ新法救済に係る石綿肺がんの認定率が低いことは一目瞭然である。再三指摘していることだが、まず石綿肺がんの認定・判定基準とその運用の大幅な改善が求められる。合わせて、医療現場に対するより包括的なアプローチも切実に求められている。

また、中皮腫の診断がつけられているにもかかわらず不支給・不認定とされた事例、「医学的資料が整わない」という理由で取り下げられた事例についての理由の公表・検証が求められる。

労災の環境省救済への紛れ込み

環境再生保全機構の「石綿健康被害救済制度における平成18~29年度被認定者に関するばく露状況調査報告書」によると、表14のとおり、曝露歴が「職業曝露」に分類されるものが、中皮腫の場合で52.5%(前年度52.3%)にものぼることが明らかになっている。石綿肺がんの場合では89.0%である(前年度90.3%)。このなかには労災補償等を受給する資格のあるものが環境省救済に「紛れ込んでいる」ことが強く疑われるが、そのような事例の有無やどれくらいあるのか、調査されたことはない。

そのような事例は、すでに救済給付を受けていたとしても、労災補償等の請求をすることは可能である。これまで「労災認定等との重複分」と言ってきたのは、まさにそのような事例のことである。この問題を放置しておくことはできないと訴えてきたが、2011年6月の中央環境審議会答申「今後の石綿健康被害救済の在り方について」は、「労災保険制度との連携強化」で、次のように指摘している。

「現在、石綿健康被害救済制度と労災保険制度間では、制度対象者が適切に申請を行えるよう、環境再生保全機構(以下「機構」という。)及び労働基準監督署相互の窓口に、両制度のパンフレットを置く等制度の周知に努めている。

しかしながら、本来労災保険制度に申請すべき者が、労災保険制度の存在や自分が労災保険制度に申請できることを知らない、あるいは知ってはいるが労災保険窓口への申請を躊躇し、機構の方に申請する事案がいまだあることから、作業従事歴のある申請者等については、申請者本人に労災保険制度について説明し申請を促すのみならず、個人情報の取扱いに留意しつつ、機構から労災保険窓口へ直接連絡することを検討するべきである」。

2012年12月5日に開催された同審議会の第11回石綿健康被害救済小委員会に参考資料として提出された「二次答申の対応状況」では、以下のように書かれている。

「救済制度の申請時に実施しているアンケート調査をもとに、申請者が作業従事歴を有している可能性がある場合、環境再生保全機構から申請者本人に労災保険制度について説明し、申請を勧奨している。また、制度の円滑な案内に資するよう、厚生労働省、環境再生保全機構で合同のリーフレット、ポスターを作成、配布済み」。請求人の同意が得られたものに限られるが、「機構から労災窓口への直接連絡」が行われている。

「速やかな救済」の実現状況

「隙間なく迅速な救済」のうちの「迅速な救済」に関しては、環境再生保全機構が公表しているデータ(表15)しかないが、改善傾向は認められるものの、「迅速な救済」が実現できているとは言えない状況である。標準処理期間の設定・公表と合わせて、大幅な短縮が必要である。また、厚生労働省は、速やかに情報を公表すべきである。

都道府県格差

「救済率」を都道府県別についてもみておこう。

分子については、都道府県別の死亡年別の補償・救済件数が公表されていないため、労災補償件数は都道府県別データが入手可能な2003~2018年度の労災保険認定件数、2006~2018年度の労災時効救済、生存中救済、施行前死亡救済、及び、2008~2018年度の未申請死亡救済件数の合計を用いた。環境省所管救済では、各年度の「労災等認定との重複分」も含めた認定件数を合算したうえで、当該期間の累計の重複件数を減じて、「機構のみ認定」件数を求めている。

1995~2002年度の労災保険認定件数については、都道府県別データが入手できないため含められていない分過少評価になるが、その数は全国合計で、中皮腫206件、石綿肺がん138件である。一方で、時効救済・施行前死亡救済には、1995~2002年死亡事例が多数含まれているため、都道府県別データが入手可能な1995~2018年の中皮腫死亡者数(表18参照)すべてを、分母とすることが適当であると判断した。

したがって、1995~2018年の中皮腫死亡者数に対する、2003~2018年度に各制度から補償・救済を受けた者の割合として「救済率」を示したものである(表19・20)。

中皮腫・石綿肺がんについて、全国平均とベスト5及びワースト5の都道府県は、表16・17のとおり。

中皮腫の「救済率」は、全国平均は75.1%(2009年度末時点69.1%、2010年度末時点70.6%、2011年度末時点71.8%、2012年度末時点74.8%、2013年度末時点74.8%、2014年度末時点74.4%、2015年度末時点74.1%、2016年度末時点74.4%、2017年度末時点74.5%)であるが、最高の東京都の89.5%から最低の沖縄県の48.0%まで1.9倍(同前2.0倍、1.7倍、2.1倍、2.0倍、1.9倍、1.8倍、1.7倍、1.9倍、1.8倍)のばらつきがみられる。

石綿肺がんの「救済率」は、全国平均は16.1%
(同前14.4%、15.1%、17.0%、15.8%、16.0%、16.1%、16.1%、16.1%、16.0%)であるが、最高の岡山県の36.3%から最低の鹿児島県の4.2%までの、中皮腫の場合よりもさらに大きな8.6倍(同前13.4倍、14.0倍、15.7倍、15.7倍、13.1倍、11.6倍、10.0倍、9.8倍、8.9倍)ものばらつきがみられる。

この格差は、あまりにも大きすぎるだろう。これは、アスベスト被害とその補償・救済制度に対する周知・認識や、地方自治体をはじめとした関係者の取り組みのレベル等のばらつきを反映しているものと考えられるが、いまのうちに実効性のある対策を講じておかないと、自治体別格差がますます拡大していくことが懸念される。

表16・17の「労災等」、表19・20の「労災等割合」欄に示したのは、補償・救済合計に対する労災補償等(労災保険+労災時効救済)の割合である。これはかなりのばらつきがみられた。

業種別では建設業が過半

表21に、2008年度分及び2007~2018年度累計の、業種別の石綿関連疾患支給決定状況(労災保険+労災時効救済)を示した。

全支給決定事例に対する割合は、建設業が2007年度の47.2%から2018年度56.2%へと増加し続ける一方で(累計51.3%)、製造業は2007年度の42.7%から2018年度35.1%へと減少している(累計39.6%)(その他は10.1%から8.7%へ(累計9.1%))。

なお、厚生労働省は例年どおり、2019年12月18日に2018年度「労災認定等事業場一覧表」を公表している。おつて以下の累計情報にも反映される予定である(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/sekimen/ichiran/081217-1.html)。

この情報についても、全国安全センターはいち早く独自に累計情報をデータベース化して検索可能なかたちで提供を開始している(http://joshrc.info/?page_id=79)。

また、中皮腫・アスベスト疾患・患者と家族の会が12月19~20日に実施した「全国一斉アスベスト被害ホットライン」にも協力している。

「隙間ない救済」実現いまだ

検証作業の結論としては、「隙間ない救済」が実現されているというにはほど遠いと言わざるを得ない。

救済率が一貫して増加し続けていることを確認できるのは幸いとはいえ、抜本的な改善対策が必要である。労災補償等の資格のあるものの公害等救済への「紛れ込み」の増加も懸念される。

あらためて「隙間ない救済」目標の再確認と実現に向けた実効性のある諸施策の確立が求められていることを強調しておきたい。

※ 以下で表を含めたPDF版(安全センター情報2020年1・2月号)をダウンロードできます。