視神経脊髄炎の産業災害認定判決に対する パノリム/被害者代理人団の立場 2020年9月15日/韓国の労災・安全衛生

視神経脊髄炎は、自己の抗体が視神経(眼から入った視覚情報を脳に伝達する神経)や大脳、脊髄を障害し、視覚異常や手足の筋力低下、体のしびれや感覚鈍麻が生じる疾患です。 本来、「抗体」はウイルスや細菌などの体内に侵入した外敵を攻撃するために人間の免疫反応の結果生じるものです。

東京逓信病院ホームページより

稀貴疾患の発病原因に関する研究がないと労災(産災)不承認?
勤労福祉公団は不可能な立証レベルを要求して被害者を産業災害保険から排除してはならない

1、経過

1997.7.  サムソン半導体キフン器興事業場入社
2004.5.  急性横断性脊髄炎の診断(最終診断名は視神経脊髄炎)
2005.8.  退社
2017.9.27.  産業災害を申請
2018.11.28.  勤労福祉公団が産業災害不承認
2019.8.16.  訴訟提起
2020.9.10  一審、産業災害認定判決

2、立場(考え方)

9月10日、ソウル行政法院は、サムソン電子半導体の器興事業場で働いて、視神経脊髄炎を発症した労働者・Aさんが、勤労福祉公団の療養不承認処分の取り消しを求めて提起した訴訟で、原告の請求を認容する判決を宣告した(ソウル行政法院2019ク単独66678号)。疾病の原因と治療法が確認されていない珍しい疾患に対し、労働者の具体的な業務環境と、有害物質確認の困難を積極的に考慮して、業務との相当因果関係を認めた今回の裁判所の判決を歓迎する。

Aさんは1997年に、18才でサムソン電子半導体器興事業場の3ラインで働き始め、約8年間働いて退社した。退社前の2004年に『急性横断性脊髄炎』の診断を受け、その後『多発性硬化症』の診断を受け、診断病名が『視神経脊髄炎(本事件傷病)』に変更された。本事件傷病は非常に珍しい中枢神経系の炎症性疾患で、現在、疫学研究が不足している疾病だ。Aさんは本事件傷病に対して療養給付申請をしたが、勤労福祉公団は、①本事件傷病の発病原因が明確に明らかになっておらず、②業務遂行中に曝露した有害物質に関する情報が正確でなく、③疫学調査の結果によっても、業務との相当因果関係を認めにくい、という理由で療養不承認処分を行った。

しかし、裁判所は原告の勤務環境を具体的に調べた後、20余年前の原告の勤務当時の作業環境の有害物質への曝露レベルと、稀貴疾患の職業的発病の原因を明確に立証することが難しい事情と、産業災害保険制度の趣旨などを積極的に考慮して、勤労福祉公団の判断は誤りだとした。

先ず、裁判所は原告が働いたサムソン半導体器興工場3ラインについて、次のような業務環境を具体的に考慮した。①半導体生産が行われる色々な工程が同時に存在したのに作業空間が分離されず、全体的に空気が循環され、他の工程で発生する有害物質が引き続き循環する。②装備を開放したまま点検・整備する作業が、現場内ではずっと行われた。③原告が働いた1998年頃には自動化がされておらず、ケミカル・チェンジなどの業務を手動で行うことが多かった。④一部の防毒マスクを除いては、勤労者たちが一般的に使用できる呼吸用の保護具が備えられていなかった。勤労者たちは過度な仕事量の中で業務効率を上げるために、保護装具を着用せずに作業することもあった、⑤自動設備に付着したイントラク装置は個人で解除することが可能で、オペレーターは業務効率のためにイントラクを解除したまま作業することがあった。⑥原告は勤務期間中、継続して交代勤務に従事し、相当な超過勤務も行った。

そして原告の勤務期間(1998年~2005年)中に曝露した有害因子の種類と曝露レベルを客観的に確認できる資料がなく、サムソン電子が提出した2001年から2006年までの作業環境測定結果によって有害因子の曝露レベルを測定する以外にないが、発展の速度が速い半導体産業の特性、有害物質に関する認識が次第に高まって作業環境の管理が強化されてきた点、原告の勤務時期、化学物質取り扱い業務を受動的に行なう頻度が高いものとみられる点などを考慮して、原告の実際の有害物質曝露レベルは、関連資料によって確認されるレベルよりも重大であったものと推測・判断できるとした。

また裁判所は、稀貴疾患である視神経脊髄炎の職業的な発病原因に関する研究はほとんどないが、産業安全保健上の危険を事業主や勤労者のどちらか一方に転嫁せず、産業と社会全体が分担するようにした産業災害保険制度の目的を考慮する時、勤労者に責任のない理由によって傷病の原因などが糾明されていないという事情を、勤労者に不利に認めることは妥当ではないとした。

24才で本事件傷病の診断を受けたAさんは、疾病の原因を自ら明らかにしなければならなかった。工場でどんな有害物質に曝露するのか、それらから自分の健康を保護するために何が必要なのか、何も知らないまま8年間誠実に働いてきたAさんとしては、会社さえ保管していない作業環境資料を直接探さなければならず、疾病の原因を直接明らかにしなければならない状況は、あまりにも苛酷だった。

「勤労者に責任のない理由で、事実関係や傷病の発病原因などが正しく糾明されなかった事情に関して、証明の責任において劣悪な地位にある勤労者に不利に認定することは妥当ではない。」という裁判所の判決は正当で、当然である。痛む身体によって工場の有害環境を頑張って訴えている労働者に、更に厳格な証明を要求し、職業病被害を認めない勤労福祉公団の誤った慣行が、これ以上繰り返されないことを願う。勤労福祉公団はこの判決を受け容れ、控訴を放棄することで、今でもAさんの苦痛に共感する姿を見せることを望む。

2020年9月15日

半導体労働者の健康と人権守り(パノリム) 被害者Aさん訴訟代理人団