アスベスト問題に係る総合対策に関する提言/石綿対策全国連絡会議 2005年7月26日~クボタショック至る経緯を踏まえて

クボタショックまでのアスベスト問題の経緯を踏まえて

石綿対策全国連絡会議は、1986年に、青石綿(クロシドライト)及び石綿の吹き付け作業を禁止し、他の石綿についても可能な限り代替化すること等を求めたILO(国際労働機関)第162号条約(石綿の使用における安全に関する条約)が採択されたことを契機として、翌1987年に労働組合や市民団体、様々な分野の専門家、アスベスト問題に関心をもつ個人のネットワークとして設立されました。(わが国においては、石綿の吹き付け作業は、今年7月1日からようやく法的に禁止され、政府は今国会にこのILO条約の批准の承認を求めました。実に19年かかったわけです。なお同条約は、汚染された作業衣等を自宅に持ち帰ることを禁止するよう求めており、家族曝露の危険性は当時から国際的常識であったわけですが、日本でこの規制が定められたのも、今年7月1日に施行された石綿障害予防規則によってのことです。)

私たちはただちに、発がん物質・アスベストに対する注意を喚起する活動を開始するとともに、働く者や市民の健康と環境を守るための対策の検討に着手して、1990年に「アスベスト政策に関する提言」をまとめました。そこでは、アスベストのように幅広く使用されている発がん物質を規制するには法律によってしかできないという結論に達し、「アスベスト規制法(仮称)」制定を求める運動を展開する2005年7月26日石綿対策全国連絡会議ことになりました。

1992年12月に、議員立法として「石綿製品の規制等に関する法律案」が国会(第125回臨時国会)に提出されましたが、業界や自民党の反対により廃案とされてしまいました。法案の成立に向けて私たちは、集会・シンポジウムの開催や63万人分の請願署名の衆参両院議長への提出、地方自治体議会による請願署名の採択等精力的なキャンペーンを展開し、また、関係5省庁のヒアリング、(社)日本石綿協会との話し合いも行われましたが、同協会は法案に反対する見解を発表しています。

1987-88年に学校の吹き付けアスベストが社会問題化した「学校パニック」によって、発がん物質としてのアスベスト(石綿)の名前は一般に知られるようになり、各省庁等から様々な行政通達やガイドライン等が発出されながらも、この時点では、何らかの用途や製品への使用を禁止する法令の改正等は一切なされなかったことはあまり知られていません。マスコミの関心も薄れるなかで、「アスベスト問題は過去の問題」という誤解、風潮が広まってしまった面があることは否めません。

1995年には、すでに業界が使用を中止していたのを後追いするかたちで、青石綿(クロシドライト)、茶石綿(アモサイト)が禁止されるなど、管理規制を強化する施策が一定行われてきたとはいうものの、全面禁止の早期実現を軸とした抜本的対策の確立は遅々として進みませんでした。

ヨーロッパ(EU)等におけるアスベスト全面禁止に向けた動きが加速するなかで、私たちは1999年以降毎年の関係省庁交渉において、日本における禁止の早期実現をあらためて最優先事項に掲げて要求してきました。しかし、縦割り行政の弊害丸出しにいずれの省庁もイニシアティブをとろうとはせず、また、2001年と2002年には(社)日本石綿協会との意見交換の場も持って、業界として使用禁止の英断を下すよう迫りましたが、協会としては「検討もしていない」、「予定もない」とのことでした。

事態を変えたのは、何よりも中皮腫死亡者数や労災認定件数の急増に現われているように、アスベストによる健康被害が隠しようもなく増大してきたこと、そして、被災者とその家族が声を上げはじめたことにあると考えています。私たちは、2002年5月20日の厚生労働省交渉にあたって全国の被災者・家族に参加を呼びかけ、国の担当者に直接その声をぶつけていただきました。坂口厚生労働大臣が原則使用禁止を検討するという意向を表明したのは、その1か月後の6月28日のことで、同年4月の第75回日本産業衛生学会では「わが国におけるアスベスト被害の将来予測」に関する研究結果が発表され、マスコミでも報じられています。加えて、アスベスト禁止に向けた世界的潮流がますます確実なものとなってきたこと、(社)日本石綿協会の公式見
解とは裏腹に使用を中止する企業が増えてきたことなども背景にあります。

私たちは、政府の方針を歓迎しつつ、原則禁止は問題解決への最初のステップであり、様々な課題に対処していくためには、政府が強力な指導力を発揮し、関係省庁が垣根を越えて包括的・総合的な対策を確立する必要があることを訴え、引き続き様々な働きかけや取り組みを行ってきましたが、この間の国の動きはそのような立場からみてとても十分といえるものとはなっていません。

私たち自身の努力の一環として、世界共通の課題として地球的規模での解決策を探る、2004年世界アスベスト東京会議(GAC2004)の開催を呼びかけました。GAC2004は、世界40か国・地域からの120名の海外代表を含め、アスベスト被災者とその家族、労働者、市民、医療従事者、弁護士、様々な学問分野の専門家・研究者、行政関係者、学生等、様々な顔ぶれの約800名が参加する、文字どおり国際的・学際的な会議として、2004年11月19-21日の3日間、早稲田大学国際会議場で開催されました。会議の後援団体には、厚生労働省、環境省、東京都、日本労働組合総連合会、日本医師会、日本弁護士連合会等も名を連ねています。世界会議の成果の一端は「東京宣言」(別添参照―3月号4-5頁参照)としてまとめられており、また、所属する国際労働組合組織の枠をこえて3つの「国際建設労働組合組織の共同宣言」(別添参照―3月号10-11頁参照)がまとめられたことも画期的なことでした。私たちは、これらの宣言の趣旨が国の内外で実現していくための努力を継続しています。

一方、私たちは、1991年、92年に全国一斉アスベスト・ホットラインを開設して以来、傘下団体等とともに、アスベスト被災者とその家族、労働者、市民からの様々な相談や問い合わせに応じるとともに、その取り組みを応援してきました。2004年2月7日には、「中皮腫・アスベスト疾患・患者と家族の会」が、また、2003年12月6日には、「中皮腫・じん肺・アスベストセンター」も設立されています。

いまクボタ旧神崎工場の周辺住民に中皮腫患者・死亡者が確認されたことに端を発して、被災者発生企業による情報開示やマスコミによるアスベスト報道が続いていますが、この発端も、住民である中皮腫患者が孤立させられた状態から、お互いを知り合うなかで感じた疑問―「一体工場のなかで何が起こっていたのか」を、私たちの傘下団体でもある患者と家族の会や地域安全センターに支えられながら、勇気を出して会社にぶつけたことから始まっていることを銘記する必要があると考えます。

昨(2004)年10月1日から施行された、アスベストの「原則禁止」は、私たちの再三の批判にも関わらず、条文上では10種類の石綿含有製品のみを禁止しているにすぎません。ILO石綿条約の締結をめぐる国会審議において「全面禁止」の早期実現を求められるなかで、今年6月半ばになって、2007年を目途に再改正を行い、現在のネガティブリスト(禁止される製品の列挙)からポジティブリスト(禁止の対象外となるものを列挙し、それ以外はすべて禁止)に切り替える方針にしたということが伝えられました。そして今回のマスコミ報道のなかで、それから一月もたたない7月8日に、今度は2008年までに「全面禁止」する方針を固めたと報じられています。一日も早い「全面禁止」の実現は私たちが主張し続けてきたことですが、この場あたり的な方針の二転三転ぶりには憤りさえ感じます。

厚生労働省は、今(2005)年4月1日から、作業環境評価基準=管理濃度をアスベスト(アモサイト・クロシドライトを除く)について、従来の2f/cm³から0.15f/cm³へと一桁以上厳しくしました。しかし、この厳しくなった数字ですら、日本産業衛生学会の評価に照らせば、「生涯(18~65歳)、労働環境で曝露しても、アスベストによる肺がん・中皮腫の発症を千人に一人に抑えられる」というレベルです。こ の管理濃度を遵守していれば健康被害は生じないという安全レベルではないことを周知徹底させ、たんに遵守すればよしではなく可能な限り一層の引き下げに努めるよう指導するようにという私たちの要望は無視されたままです。

それ以前の2f/cm³あるいは1988年以前の管理濃度である5f/cm³を仮に遵守していたとしても、被害が発生しても不思議ではなく、法令を守っていたから安全である、責任はないかのごとき発言や報道がなされるたびに 歯がゆい思いをしています。

旧環境庁は、未規制大気汚染物質モニタリング調査として1985年度以降実施してきた、一定の環境中のアスベスト濃度測定を1995年を最後にやめてしまいました。

すべての省庁が、アスベストを含有した吹き付けの調査方法について、業界等からの情報を鵜呑みにして間違った情報を垂れ流し(商品名の漏れ、1980年以降に施工された吹き付けにはアスベストが含まれていないと判定するよう指導してきたこと)、私たちが再三誤りを指摘したにも関わらず、なかなか是正しようとしませんでした。

文部科学省は、その1987年当時の調査内容の誤りや不十分さを私たちが懇切丁寧に指摘したにもかかわらず、フォローアップ調査すら行おうとせず、「関係法令及び関係省庁の通知等を遵守」するよう促す一片
の事務連絡(2003年10月1日付け)で15年間の空白を埋めようとしました。今年7月12日の関係省庁
会議では「対策はおおむね終了」と報告し、当時の調査の不備が報じられるや、あらためて再調査す
る方針を固めたと伝えられているところです(再調査の内容の妥当性も疑問です)。

過去、私たちとの話し合いの場において、国民の健康を所管する旧厚生省のある担当者は、「クリソタイル(白石綿)というタイルにはアスベストが入っているのですか」と真顔で尋ね、旧建設省のある担当者は、「より安いものか、より安全なものか、どちらの建材を選ぶかは、市場の手に委ねざるを得ない」と発言しました。すべての省庁で、担当者がかわるごとに、いちから過去の経過を説明し直さなければならないこともしばしば体験してきました。

石綿対策全国連絡会議が結成されてからの経過を見ただけでも、国の対策が場当たり的、後手後手にまわってきたことは明らかだと考えます。現実にはそれ以前から、一部の先駆け的な研究者・科学者たちによる実態の掘り起こしや警告がなされ、国際機関や海外の動きもあったわけであり、回避することが可能であった被害がいたずらに拡大させられてきたた可能性が大きいのです。過去日本に輸入された累計約1千万トンと言われるアスベストは、燃やすこともできず、腐ることもないまま、私ちの身のまわりのどこかに残されています。最盛時には3千種類を越す用途があり、量的にはかなりの部分が建材として使われてきたアスベストは今なお、すべての国民の身近に残された課題であることをあらためて強調したいと思います。この処理を誤れば、さらに数十年間も被害を拡大することにもなりかねません。

いまこそ、国や企業がその責任を自覚し、患者や家族、アスベストに曝露した労働者や市民の怒りや不安、訴えを理解し、今度こそ将来に禍根を残さない抜本的・総合的対策を確立するよう強く求めるものです。

しかし、いま世論に押されるようなかたちで、各省庁がすでに実施して結果を公表した調査内容や、再調査を指示している内容は、まったく不十分であると言わざるを得ません。さらに、ごく短期間のうちに過去の検証及び今後の「総合対策を確立」しようとしていることに、再びその場しのぎの対応に終わってしまうのではないかという強い危機感すら感じています。

そこで石綿全国連絡会議では、これまでに主張し続けてきたこと及び世界アスベスト会議の成果等も踏まえて、完全なものとは言えないまでも、総合的対策として取り組まれなければならない諸課題を、あらためて以下のとおり提言します。緊急を要する課題については、省庁の管轄や既存のどの法令や制度で対応するか等を論ずる以前に、まず確固たる決断を示すことが何よりも重要であると考えます。そのうえで、腰を据えて真に体系的な総合的対策を確立するよう強く勧告します。

なお、これらの対策を有効に進めるためには、患者と家族、労働者、市民のエンパワーメント―「知る
権利」「参加する権利」等を確保し、あらゆるレベルで、国や地方自治体、企業等を含めた関係者とのリスクコミュニケーションを通じて、対策の確立及び実施を図ることが不可欠であることを申し添えます。

A.全面禁止

  • 全面禁止の早期実現(ILO石綿条約批准の国会審議を経て、2007年にネガティブ方式(禁止する製品のみ列挙)からポジティブ方式(例外製品のみを列挙した原則禁止)にする方針へ、さらにその後2008年に全面禁止方針へと前進してきてはいるが、一日も早く全面禁止を実現する)
  • 原則禁止施行以前に製造された禁止対象石綿含有製品の在庫品の販売について、補修に使用されるものに限定し、2005年度中に終了するよう求める行政指導が行われるようになったが、すべての石綿及び石綿含有製品について、罰則付きで在庫品の販売等を禁止する
  • 全面禁止が実現するまでの間の在庫品等の駆け込み販売・利用等を阻止する・ 禁止を含めたあらゆる規制の対象を、現行の労働安全衛生関係法令の規制対象とされているアスベストを「1%」を超えて含有する製品等から、1999年制定の化学物質管理促進法で採用されている発がん物質規制の国際基準である、「0.1%」基準に強化する
  • アスベストを「0.1%以下」含有する製品等であっても、意図的なアスベストの混入等は許されないことを明確にするとともに、「0.1%以下」含有の確認や規制のあり方について検討する

B.健康被害対策

① 補 償

  • 環境曝露、家族曝露、補償制度のない職業曝露(自営業者等)による被災者に対する補償制度の創設
  • アスベスト関連疾患の労災認定基準とその運用の改善(労災保険だけでなく、公務災害補償基金等、他の既存の公的補償制度を含む、以下同じ)
  • 労災補償給付請求権の時効の適用について、原因企業の危険告知の有無を要件にするなどの弾力的な運用ないし立法的対処
  • 損害賠償請求訴訟においても、被災者が時効による不利益を被らないように、立法的措置を検討する
  • 中皮腫件数の2倍はいると言われているアスベスト曝露による肺がん患者に補償が確実になされる仕組みの検討及び実施
  • 元労働者・住民等の注意を喚起するために、過去にアスベスト関連疾患の労災認定被災者を出した事業場に関する情報の開示(被災事例に関する情報だけでなく、母集団たる曝露労働者総体、測定されたことのあるあらゆるアスベスト濃度等の情報が重要である)
  • 企業が設けている補償制度(在職労働者以外を対象としたものを含む)に関する情報の開示

② ハイリスク者の健康管理・健康被害の早期発見

  • クボタ旧神崎工場周辺住民の緊急の疫学調査の実施
  • 職業曝露、家族曝露、環境曝露等とアスベスト関連疾患の発症に関する大規模かつ公開された疫学的研究の実施
  • 環境曝露、家族曝露、補償制度のない職業曝露を受けたハイリスク者の確認・把握、健康管理
  • 健康被害の早期発見等のためのシステムについて早急に検討し、実施する
  • 今後もっともハイリスクにさらされる可能性の高い建築物等の解体・改修等作業に携わる建設業の、とりわけ小零細業者、自営業者等の健康管理等を促進、支援する措置を講じる
  • 発がん物質曝露労働者の退職後の健康管理を目的とした健康管理手帳制度の改善(石綿曝露業務従事3か月以上の労働者に、本人の申請によらず、事業主の責任で交付手続をするようにし、また、過去の離・退職者に対しても適用、さらに、健康管理手帳所持者が健診を受けることのできる医療機関をすべての医療機関に拡大、健診項目にCT等を加えるとともに、船員、旧国鉄、公務員労働者等も対象とする)
  • 健康管理手帳制度の全国的な一斉周知事業の実施
  • 石綿及び石綿含有製品の製造・取扱企業による、曝露の可能性のある労働者集団、関連企業・業者、周辺住民に関する情報の開示及び国・地方自治体によるデータベース化

③ 診 断

  • 過去の労災認定者の全数調査(疾病、性別、年齢、業種、職種、従事(曝露)歴等)の実施
  • 人口動態統計に基づく中皮腫死亡者の全数調査(上記括弧内事項に加え、職業曝露以外を含めた曝露状況、診断手法・内容、治療内容・予後、家族の状況等)の実施
  • 中皮腫登録制度の創設
  • 中皮腫の診断及び肺がんにおけるアスベスト曝露の寄与等に関する、大規模かつ公開された研究の実施
  • 医師・医療機関に対する教育(診断、治療だけでなく、患者・家族の心のケア、補償制度に関しても)

④ 治 療

  • 新薬・治療方法等に関する、大規模かつ公開された研究・開発の実施

⑤ 患者・家族の心のケア

  • 患者・家族の代表を含めて、心のケアに関して、早期に実施すべきこと及び研究等を要すること等について早急に検討し、実施する

⑥ 上記全プロセスへの患者・家族の代表の参加の確保等

  • 上記全プロセスへの患者・家族の代表の参加を確保する
  • 患者・家族、健康被害の不安を感じる者等からの相談に応じる適切な窓口の設置

C.既存アスベスト対策

① 把 握

  • どこにアスベスト(含有製品等)が存在しているかを早急に把握し、公表するとともに、誰もがわかるように着色、ラベル等により表示する(建築物だけでなく、構造物、船舶、車両、水道管、化学プラント、原子力発電所、その他設備・機械等、可能性のあるもの全てを対象とする)
  • 少なくとも、公共建築物及び不特定多数の者が出入り・使用等する民間建築物等について、早急に上記を実施する(利用者が、どこにどのような状態でアスベストがあるのかを自ら知ったうえで判断し、また、施設の管理者等との間でリスクコミュニケーションを進められるようにすることが重要である)
  • アスベスト(含有製品等)を把握するためのわかりやすいマニュアル等の開発及び周知(現時点では、(社)日本石綿協会が5月に発行した『既存建築物における石綿使用の事前診断監理指針』が、建物の種類別の石綿含有建材等が施工されている可能性のある部位の一覧表も付いて詳しいものであり、2,100円で販売されているが、石綿対策全国連絡会議では、無償で公表するよう同協会に要請している)
  • 1987・88年の「学校パニック」当時、関係省庁等の指導により、公共建築物及び不特定多数の者が出入り・使用等する民間建築物等における吹き付け石綿の把握が行われているが、当時確認された状況及びとられた措置、その後のフォロー状況についての情報を開示する(当時は吹き付けのみが対象で、吹き付け石綿に関する情報も不十分、かつ、封じ込め、囲い込み等、除去以外の措置でも「措置済み」とされ、関係書類は文書保存期限を過ぎて破棄され、フォローアップも行われていないという事例が少なくない)
  • 7月1日に施行された石綿障害予防規則第10条に基づく、労働者を就業させる建築物の壁、柱、天井等に吹き付け石綿があるかどうか確認し、損傷・劣化等している場合には、除去等の措置を講じなければならないという、業種を問わずすべての事業主に新たに課せられた義務(罰則:6月以下の懲役または50万円以下の罰金)の履行状況に関して、緊急の全国一斉監督を実施する
  • 過去に労災認定被災者を出した企業・事業所の名称、所在地、使用石綿の種類・量・時期等に関する情報の開示・ 国、地方自治体等が保有する、石綿及び石綿製品製造・取扱企業・事業所の名称、所在地、使用石綿の種類・量・時期等に関する情報の開示
  • 石綿吹き付け工事施工企業の施工場所・時期・量等に関する情報、石綿製品製造企業の製品・納入先等情報、その他行政・企業等の保有している関連情報を開示し、国においてデータベース化する
  • 国は、過去累計約1千万トン使用されたアスベストの種類別に現在、どこに、どのようなかたちで、存在しているかを把握・推定、公表するとともに、継続的に情報を更新する

② 管 理

  • 国、地方自治体、民間を包含した計画的・段階的除去プログラムの策定
  • 吹き付け石綿等飛散性の高い石綿含有製品等については、除去することを基本方針として確立し、封じ込め、囲い込み等、除去以外の措置が許される場合の基準及び除去されるまでの間の管理・監視対策(既述のとおり、着色、ラベル等により誰でもわかるようにする)を明定する
  • 上記以外の石綿含有製品等についての、除去計画の策定に関する、わかりやすいガイドライン、マニュアル等の開発及び周知
  • 除去されるまでの間の管理・監視対策(既述のとおり、着色、ラベル等により誰でもわかるようにする)に関する、わかりやすいガイドライン、マニュアル等の開発及び周知
  • 個人所有者、自営業者、中小零細企業、地方自治体等に対する、国及び地方公共団体等による技術的・財政的支援策の実施、とりわけ個人所有者に対する専門の相談窓口を早急に設置する
  • 様々な所在源別の除去の需要予測を行い、公表するとともに、継続的に情報を更新する
  • 除去及び廃棄を含めた様々な所在源・発生源に応じた、アスベスト飛散状況をモニタリングする措置及び追加的な措置・対策等を発動させるべき基準等を確立する

③ 除 去

  • 飛散性の高い石綿含有製品等の除去等作業は、厳格かつわかりやすく、関係法令や関係省庁の対応において整合性のとれた作業基準を確立し、かつその履行を確保するための措置を講ずる
  • 飛散性の高い石綿含有製品等の基準を明確にする
  • 上記以外の石綿含有製品等の除去等作業全般のレベルアップ(とりわけ建築物等に関しては、石綿含有建材が使用されているものとみなして、全ての解体・改修等工事について、アスベスト飛散防止を念頭に置いた対策を講じることを「常識」にして、市民による監視を容易にする必要がある)
  • 今後もっともハイリスクにさらされる可能性の高建築物等の解体・改修等作業に携わる建設業の、とりわけ小零細業者、自営業者等の特別教育等を促進、支援する措置を講じる
  • 一定の建築物等を対象とした、除去等工事を行った後に当該建築物等を再利用、再入場を認める基準を早急に確立し、実施する
  • 利害関係を持たない市民らに委嘱する適正実施推進員制度の創設
  • 個人所有者、自営業者、中小零細企業、地方自治体等に対する、国及び地方公共団体等による技術的・財政的支援策の実施、とりわけ個人所有者に対する専門の相談窓口を早急に設置する
  • 石綿含有製品等の除去等作業に関する、わかりやすいガイドライン、マニュアル等の開発及び周知(業界の開発したものも無償で入手できるようにする)

④ 廃 棄

  • 国、地方自治体、民間を包含した計画的・段階的廃棄プログラムの策定
  • 石綿含有廃棄物の過去を含む処理状況について、国・自治体等が把握しているすべての情報を公表する(従来環境省は、国としては把握していないとしてきた)
  • 飛散性の高い石綿含有廃棄物の範囲を上記の飛散性の高い石綿含有製品等等と合致させ、現行の廃棄物処理法による規制の実効性を確保及び監視する措置を実施するとともに、中・長期的対策を早急に確立する
  • 上記以外の石綿含有廃棄物の、法令による規制のあり方を早急に検討し、実施する(3月に環境省の策定した「非飛散性アスベスト廃棄物の取扱いに関する技術指針」のみでは不十分かつ実効性が期待できない)
  • 石綿含有廃棄物の処理需要等の予測を行い、公表するとともに、継続的に情報を更新する
  • 石綿含有廃棄物の安全な無害化処理技術の研究開発及び普及

D.法規制等

  • 労働安全衛生法、大気汚染防止法、廃棄物処理法、建設リサイクル法を基軸に、関係法令を上記諸施策に資するよう、整合性を持たせた改正を早急に行い、さらに、石綿対策基本法の策定について検討する
  • 厚生労働省、環境省、国土交通省等、関連する行政一体となった体制の確立

E. 海外移転の阻止・地球的規模での禁止

  • 海外移転を阻止するために、産業界に働きかけるとともに、実効性のある措置を講じる
  • 地球的規模での禁止を早期に実現するために、国際機関等を通じて積極的に働きかける(とりわけ、ロッテルダム条約のPIC(事前の情報に基づく同意)手続の対象物質への包含、来年の国際労働機関(ILO)総会における地球的規模での禁止に向けて世界の労働組合が提起するイニシアティブに賛成する)
  • アスベスト未禁止国への石綿代替技術・情報等の提供プログラムを立案・実施する

F. 予防原則の教訓を引き出すための歴史の検証等

  • 予防原則の教訓を引き出すための、国・企業等に対する一定の調査権限を付与し、患者・家族やNPOの代表を含めた独立的な検証班の設置
  • 国や地方自治体、企業等におけるアスベスト問題に関連した文書・資料等の廃棄、散逸等を防ぐ措置
  • 上記プロセス全体に対する患者・家族、労働者、市民、NPO代表の参加の確保
  • 患者・家族団体、NPO等の取り組みに対する助成

安全センター情報2005年9・10月号