偽装「派遣」で「労災隠し」:南米労働者の労災事故/神奈川
南米労働者のMさんは、2004年10月に「派遣」先の自動車部品工場で、足の指を台車にぶつける労災事故に遭った。つめがはがれて靴がはけない状態だったが、「働かなければ給料は払わない」という「派遣」会社の対応で、何日か休みながら、無理をして働いた。結局やはり無理で、10月末で退職を余儀なくされた。(文中の「派遣」がカッコ付きなのは、形式上は請負契約だが、実質的には労働者を派遣するだけの会社であるから。)
11月はじめに労働基準監督署にも相談に行き、「派遣」会社の担当者と一緒に病院に行ったところ、少なくともあと1か月はかかると言われている。ところが会社は労災の手続もせず、補償もしなかった。なんでも別の保険を使うようなことを言っていたという。
困ったMさんは、12月に知人の紹介で神奈川労災職業病センターにやってきた。悪質な会社であることが窺われたので、Mさんによこはまシティユニオンに加入してもらい、労働組合から団体交渉要求をした。要求内容はとにかく早く労災保険の手続をすることに尽きる。
会社はご丁寧に弁護士を立ててきた。労災保険給付相当分の補償を行い、死傷病報告書を労働基準監督署に提出するのであればかまわないとしたが、会社の提案は、「賃金の5割分の休業補償ならする」という内容。弁護士は労働基準法(休業補償は6割)をご存知ないようだ。ならば労働基準監督署への申告と、派遣先会社への抗議もせざるを得ないと言うと、待ってくれと言う。会社担当者が社長に連絡を取り、結局、労災保険の手続をすることになった。ただしその条件は、「派遣先会社の了解」である。そんなものは不要であることは言うまでもないが、多分大丈夫というので安心した。あとは弁護士からの示談書案を待つのみと思っていたが、なかなかこない。
おかしいと思ったら、やはり派遣先の了解が得られなかったので労災保険の手続はせず、「派遣」会社が補償するが、その金額は賃金の7割だと言う。労災保険請求額よりも低い金額で了承しろとはなんだ、ふざけるなと席を立とうとしたら、もう一度検討するという。そこで出てきた案は、休業補償を労災保険相当分過去分全て払うので、そ
れで全て示談してもらえないかというもの。治療はまもなく終わる見込みで、もし障害が残る場合には誠意をもって話し合うことを約束するならばかまわないと回答した。ところが、しばらくすると、派遣先の了解が取れたので、やはり労災保険の手続をしたいと言い出した。
この間、約2か月余。通訳をしてくれた方にもずいぶん迷惑をかけた。やっとのことで、とりあえずの見舞金10万円を払わせて、ただちに手続をしてもらうことになった。さらにこの後、会社が医療機関に行ったが、そこでも若干
の行き違いがあって、なかなか労災請求ができないで、さらに時間がかかった。いずれにせよ、取引先である派遣先との商売優先で労働法を無視する会社と、労働法を全く理解しない弁護士の存在は、めずらしいことではないが嘆かわしい。迷惑を被るのはいつも被災労働者である。労働基準監督署にも労災隠しの典型的事例として、厳しい指導を求めている。
安全センター情報2005年6月号