ボス式レジでの頸肩腕障害(ケイワン)認定-スーパーマーケットの女性労働者●東京

記事/問合せ:東京労働安全衛生センター

日本化学クロム被害者の会事務局のYさんは、アルバイト先のスーパーで働いていた同僚の女性が頚肩腕障害になり、労災認定の取り組みをしました。以下は八巻さんからの報告です。(東京東部労災職業病センター)

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SスーパーマーケットH店に8年間勤務するAさんは、91年3月、亀戸ひまわり診療所にて「頚肩腕障害」と診断、8月に亀戸労基署に労災申請を行い、10月に業務上と認定された。

Aさんは、8年前、一部上場の有名な会社だからと先生に勧められ、青森県の高校卒業と同時に上京、寮に入りA店に食品レジ担当として入社した。入社から5年6か月は右手で数字を打ち込む「ピピック式レジ」で1日平均6時間レジを打刻していたが、88年10月より「ボス式レジ」となった。「ボス式レジ」による業務上認定は、現在ではまだ全国で数例のみという。

●「ボス式レジ」とは

私たちの身の回りにあふれている商品には、ほとんどバーコ 一ドが付けられている。バーコードの一見意味のなさそうな、すだれ棒には、商品名、襲造会社、量(重さ、数量)、価格など、様々な情報をおさめることができる画期的なシロモノである。現在のレジは、このバーコードを読み取る「レーザー光線」が出るようになっている。機種により、おもにハンド・レーザー式(レーザーの出ているものを右手に持つもの)と、ボス・レーザー式(レジ本体からレーザーが出ており、そこを通すもの)に大別できる。

レーザー光線がバーコードの記号を受け取り、記号はストア・コントローラーというコンピューターに送信され、そこで初めて情報となる。その情報がまた各レジに返され、レシートに印字される。と同時にストア・コントローラーに販売データとして、より詳しい情報が記憶される。また、大手スーパーやコンビニエンス・ストアでは、本部の大コンピューターと各店のストア・コントローラーが直結されており、本部に各店舗情報が記憶される。今や、このパーコードがなければ、商品管理は成り立たなくなっている。

●ボスレジの業務分担

ボスレジは、今までの数字を正確に打刻するレジと違い、絶対に頚肩腕障害にならないと信じられてきたが、それは大きな誤りである。Sスーパーのボスレジの場合、右手でひとっひとっ商品を持ち上げ、バーコードの位置を確認し、レーザー光線を当て、左手に持ちかえて別のヵゴに移す作業を繰り返す。しかし、レーザーを当てる位置と角度をきちんとしなければ、バーコードは読みとられない。忙しい時に早く通そうとしても読みとられない。したがって、ただ単に「右手で持ら上げ、通し左手でおろす」のではダメで、角度とスピードを一定に保たなければならず、実に注文の多い機械である。しかも、商品、メーカーによって、バーコードの価値が違う。実際に夕方の忙しい時間帯にカゴー杯の商品全てを通していくのは、非常に重労働である。(自分のスピードで打刻できる今までのレジの方が、その点では楽である。)
また、もれ出ているレーザー光線による影響も無視できないだろう。

●SスーパーH店の場合

SスーパーH店食品部には、ボスレジが5台設置されている。平均営業時間は10:00から20:00。1日の売上は平均350万円。延べ2,300人の人が利用する。平均4台のレジが稼働しているので1台につき875,000円、575人をこなしていることとなる。1日8時間勤務とすると、だいたい3,200品の商品を持ち上げることになる。

Aさんの場合は、入社2年目より食品レジ全体のまとめ役の「チェッカー・マネージャー」をしてきた。自分よりかなり年上のパートさん、勤務年数の長いパートさんをまとめることによるメンタル面でのストレスも無視できない。また、この4、5年は、慢性的な人手不足に落ち入り、人員補充について考えて夜眠れないこともあったという。

Aさんは正社員ということもあり、会社は労災認定にっいて、どちらかというと積極的にとりあってくれたことも認定されたひとつの要因であったと思う。

今後、ボスレジの普及により頚肩腕障害は増えるだろう。また、スーパーマーケット業界ではパートが労働力の中心となっている今、パートの労働権問題も大きな問題となっている。労災認定については、わかりやすい資料をそろえれば、ボスレジでも認定されることが実証されたので、これを突破口としていけたらと思います。

安全センター情報1991年12月号