職業がんをなくそう通信 10/三星化学工業事件(膀胱がん)・ナノマテリアル
2018年5月30日
職業がんをなくす患者と家族の会https://ocupcanc.grupo.jp/
三星化学工業事件第 1 回口頭弁論開催される
先月の通信でもお知らせしましたが、三星化学工業に対し「会社が安全配慮義務を怠ったことによりがんを発症した」として労災認定された膀胱がん罹患者らが損害賠償を求めた事件の第1 回口頭弁論が 5月 8 日(火)13 時 30 分開催されました。当日 7 時半より JR福井駅頭で福井労連・化学一般などによる早朝宣伝と福井市内ポスティングで 1300 枚のビラを配布しました。
裁判には地元の労組や支援者を始め大阪兵庫からも労組や関西労働者安全センターなど支援者 26 名が傍聴席を埋めました。原告田中さんが意見陳述を行い、劣悪な労働環境で長年働き、途中環境改善や作業の中止を求めても会社が対処せず、まともな衛生管理や衛生教育を怠った上、作業者らが吐き気・食欲不振・チアノーゼ・急性膀胱炎など様々な健康障害に罹患しているにも拘わらず適切な対処を取らず、これだけ膀胱がんが多発している現状を前にしても未だ「安全配慮義務違反はなかった」と居直り無反省な態度を続けている会社を改めさせるためにはどうしてもこの裁判で安全配慮義務違反があったことを認めさせたいと思いを述べました。
地元の新聞社やNHK もたくさん取材に来られ福井県教育センター和室にて行われた裁判報告集会では、高橋徹弁護士と中筋利朗弁護士が原告の訴状の解説をし被告会社側の答弁書の内容を説明しました。翌日の朝刊にはこの事件について殆どの新聞が報じ関心の高さが伺われました。また同刻に原告田中さんと池田直樹弁護士、堀谷で福井大学医学部泌尿器科へと職業性膀胱がんについての聞き取り調査に出向いています。
驚くべき会社の答弁書ー膀胱がん多発に無反省
会社の答弁書を見るとオルトトルイジンの経皮吸収についてACGIH(アメリカ合衆国産業衛生専門官会議)が『Skin 表示が適切』『皮膚吸収が大きく』と記載していることを認めながら「数値根拠が記載されておらず、オルトトルイジンは経皮吸収が大きいかどうかは分からない」と強弁しています。
これは化成品を製造する化学会社としては驚くべき主張で衛生管理の権威ともいわれている機関の提案を疑い独断で「分からない」といちゃもんを付け涼しい顔をしています。本来化学物質の有害性は未だ未解明のことが多く従ってばく露に関しては予防措置を取ることが常識であり、ましてACGIHが取り扱いについての基準を示しているならそれをクリアできるよう努力する義務を有するのは当然です。
更には「オルトトルイジンの経皮ばく露による慢性健康障害については、本件発生まで厚生労働省を含め日本中で誰も予見していなかった。」とし、「したがって、被告も予見できたとはいえず、オルトトルイジンについて、特別な経皮ばく露防護対策をとることは不可能であった。」などと強弁しています。
「厚生労働省も含め日本中で誰も予見していなかった」などという主張は全くのでたらめです。2006年には厚労省の依頼で三星化学工業にもオ
ルトトルイジンのばく露調査があり 07 年には報告書がまとめられています。背景には国際的にヒトの発がん証拠が揃ってきたオルトトルイジンのリスク評価を行うにあたり現場でのばく露の実態を把握しようとしたわけです。これにはばく露があれば発がんにつながるという認識があったからに他なりません。
またオルトトルイジンばく露による発がんに関する論文を外国の専門学術誌の記事であるとし、わからなかったと主張していることにも驚きました。オルトトルイジンを原料として使用し化学反応を行い化成品を製造する会社の主張とは信じられません。
原料や製品に関する有害情報は製造現場やユーザーの安全確保のために常に新しい知見を収集するのが化学会社の常識です。私も 25 年化学会社で働きましたが最初に教えられることの一つが有害情報の収集なのです。それを投げ捨て、専門学術誌の記事であるから知らなかったと強弁するような会社は本来化成品を製造してはいけないのです。この問題が発覚し報道された時北海道にある化学会社の経営者が電話をかけて来られ「三星化学工業は化学会社の面汚しだ」と言われていたことを思い出しました。
支援する会結成総会に多くの仲間が結集
支援する会結成総会は、5 月 8 日 19 時より福井県教育センター会議室で開催されました。福井・石川・関西地区からの支援者が集まり、各代表があいさつし池田弁護士から本事件の解説がされ、今後の活動を強化し早期解決をめざすことを確認しました。
5 月 24 日(木)東京にて争議支援総行動があり三星化学工業本社前宣伝行動に約 40 名が集まりました。会社は要請団を会社内に迎えず要請書を門前で受け取りました。今後とも法廷外での取り組みを強め会社の考え方を改めさせ早期解決に向かうよう行動していきますのでご支援よろしくお願いいたします。
第 23 回化学物質と労働者の健康研究会ー ナノマテリアル ー
5 月 26日(土)13 時30 分より大阪府天満橋ドーンセンター 5 階セミナー室 2 で第 23 回化学物質と労働者の健康研究会があり、研究者、産業医、衛生コンサルタント、アスベスト等市民団体、労働組合など 21名が参加しました。この研究会は故原一郎先生(関西医大名誉教授)が長年顧問を務め研究者・専門家と労働組合が共に学び合える研究会運営
をと 1996年に始まり 2015 年原先生がご逝去された後も運営方針を引き継ぎ今回で 23 回 目の研究会となりました。
近年使用範囲が拡大しているナノマテリアルをテーマに、(独)労働安全衛生総合研究所三浦伸彦先生より「ナノマテリアルと生体影響」の記念講演がされ、化学一般塗料部会より「塗料製造におけるナノマテリアル物質取り扱いの現状報告」の基調報告がされました。その後の会場討論も活発にされました。
【記念講演の感想】アンケートより抜粋
- ナノマテリアルについての知識が少なかったのでとても勉強になりました。また生体への影響として概日リズムが関係しているというのがとても興味深かったです。
- 毒性に関する十分な検証がないまま広く生産・使用されている実態がよくわかりました。
- 物理化学的な性質や用途、生体影響等多岐にわたる内容を大変分かりやすく講義していただきました。無防備に使用している労働現場に広報していきたいと思います。
【基調報告の感想】
- 実際に現場を見る機会がなかったのでとても良い経験になりました。作業者のやりやすさと安全性とどう折り合いをつけるのかが難しいと感じました。
- 労働者への啓発不足や防護が不完全であることなどから第2 のアスベスト問題にならないかと懸念します。
- 有害情報がよくわからないものには安全教育と予防的対応が特に必要だと感じました。