職業がんをなくそう通信23/第11回なくそう集会・膀胱がん不支給取消訴訟提訴・MOCA膀胱がん業務上外検討会

2020年3月20日
職業がんをなくす患者と家族の会https://ocupcanc.grupo.jp/

第 11 回職業がんをなくそう集会
in 福井 あおっさ 601A

3 月 27 日第 11回職業がんをなくそう集会を福井市地域交流センター AOSSA601A にて開催しました。
参加者は 5団体 25名でした。当日は三星化学工業職業性膀胱がん損害賠償裁判の第 8 回口頭弁論の予定でしたが、新型コロナウイルスの影響で開催が延期され18時からなくそう集会、20 時から三星化学裁判の支援する会総会という運びになりました。

三星化学裁判:会社、労災そのもの否定

基調報告-1 で原告団を代表し田中康博氏が裁判の進行状況と見通し、この裁判を通しての思いを訴えました。

まず顕著になったのは三星化学工業の無責任と無反省ぶりでした。今や福井工場だけで10名を超える膀胱がん被害者を出しながら労働災害であることそのものを否定するところから会社の主張が始まったからです。それは労災認定はされたが本当に労働災害であるかはわからないという詭弁です。原告らは会社から深い反省と誠意ある謝罪があるものと考えていましたが全く裏切られその後も嘘の上塗りばかりを繰り返す会社の態度に強い憤りを覚えました。

会社に厳しい責任課し、予防重視の対策への転換目指す

勿論そのような言い逃れが通用するはずがなく会社がしぶしぶ提出したSDS(安全データシート)に発がん性ありと明確に記載されているなど具体的な証拠で反証がされてきています。

また、今回は早期に労災が認定されましたが、職業がんの認定はごく限られたものだけであり一般的に因果関係の厳密な立証が困難であることを理由に殆どが認定されないこと、化学物質の法規制は多くの被害者が発生しないとされないこと、規制がされてもごくわずかな物質のみであること(三星化学工業の場合オルトートルイジンは規制されたが他の芳香族アミンの規制はされていない)、不適切な取り扱いで被害者を出しても企業に対する罰則がないことなどの問題点を指摘しました。

この裁判では会社に結果責任を厳しく負わせ、それによって職業がんを発生させない方向へと向かわせる即ち企業に予防重視の衛生対策を取らせていくことを目指していると訴えました。

OT(オルトトルイジン)とMOCA:運動の重要性を改めて確認

基調報告-2 では患者と家族の会事務局長堀谷よりこれまでの取り組みの成果としてオルトートルイジンとMOCAの違いを対比させ運動の力を確認しました。

OTの場合膀胱がん多発が発覚したのが 2015年12月、2016 年 1月には厚労省に対し早期に労災認定をするよう要請し同年 6 月第 1 回業務上外に関する検討委員会が開催され同年 12月5回の検討会を経て労災認定がされました。問題発覚から労災認定まで僅か 1年です。

MOCAの場合膀胱がん多発が発覚したのが2016 年 9 月、労災申請がされず熊谷信二先生の呼びかけで関西労働者安全センター、全国労働安全衛生センター連絡会、いのけん全国センター、患者と家族の会等が厚労省要請行動をしたのが2018年9月(通信No.14に詳細)、同年12月に5名の労災申請があったことがわかり、2019 年 1 月 7 名の労災申請があったと報道され、2020 年 3 月第 1 回業務上外に関する検討会が開催となっており、問題発覚から第 1 回検討会開催まで 3.5 年労災認定はまだこれからという状況です。他にも法規制や職業病リストアップ(35 条別表)、退職者への健康手帳の発行等の進み具合などに顕著な差があり、これこそが運動の力というべきです。

続いて東京の大手アパレル会社で発生した職業性膀胱がんと特定芳香族アミンについての解説を行いました。内容は通信でも取り上げましたので詳しくは述べませんが化学物質の数がたくさん登場したため難しかったという意見感想が多かったです。会場からは原告大久保氏、福井県労連鈴木議長、いのけん全国センター井之上事務局次長から発言がありました。

東京大手アパレルメーカー労働者、職業性膀胱がん労災認定を求め、東京地裁に提訴

東京の大手アパレルメーカーの労働者が中国赴任時に染料に接触し帰国後42歳という若さで膀胱がんを発症し労災申請したものの労災不支給とされ審査・再審査請求も棄却されたことから(通信 No.22)、3 月 27 日原告・弁護団・支援者らと共に東京地裁に提訴しました。記者会見は当日新型コロナウイルスに関する厚労省会見などと重なったため、第1回口頭弁論の日に延期となりました。

今後日中の感染状況の推移を見ながらのことになりますが中国での調査や裁判の支援を目的とした支援する会を発足し物心両面で支えていきたいと考えています。

MOCA による職業性膀胱がんの業務上外に関する検討会開催される

厚労省は MOCA(4,4′-メチレンビス(2-クロロアニリン)) 等の化学物質を取り扱う業務に従事した複数の労働者から膀胱がんを発症したとして労災請求がされたことを受け、「芳香族化合物のニトロ又はアミノ誘導体による疾病の認定基準について(昭和 51 年 8 月 4日付け基発第 565 号通達)」に基づき厚労本省において因果関係を判断するため検討会を開催すると発表し 3 月 24 日第 1回「芳香族アミン取り扱い事業場で発生した膀胱がんの業務上外に関する検討会」を開催しました。

検討会参加者名簿は公開されているものの詳細内容は非公開となっています。資料としてはPudMed(世界約70ケ国5000誌以上の医学系論文を検索できるデータベース)を用いて膀胱がんとMOCA関連の文献 23 報が示されています。

565 通達には、芳香族化合物のニトロ又はアミノ誘導体のリストがありまずがMOCAはそれに含まれていないため、リスト以外の化合物にばく露した労働者に発症した尿路の腫瘍については本省にりん伺(上級機関に判断を求める)するものとしています。

またベンジジン及びベータナフチルアミンによる尿路腫瘍はわが国でも発生例が多く、曝露機関が比較的短くても発生することがあり、潜伏期間も長短さまざまで 30 年を超えるものや 5 年未満のものも知られていると解説しています。

MOCA については、これまでに作業内容、従事期間、ばく露した物質、ばく露の程度、症状等詳細な調査が相当進んでいるでしょうから検討会の結論が出るまでに長い期間が必要だとは思えません。

2018 年 10 月時点で 17 名(在職者 5 退職者 12)の膀胱がんが確認できているのですから、早期に認定までこぎつけ職業病リストへのアップ、健康手帳の交付を実施するよう注視していく必要があります。日本産業衛生学会は 1993 年 MOCAの毒性で問題になるのは発がん性であるとし動物で得られた知見はヒトでの発がん性を十分に推測しうるものでありMOCA製造作業者における膀胱がんの発生も 2 報告されているものの発がん危険性を算出するに足るばく露情報は得られておらず発がん物質と断定するにはなお十分とは言えないとし第 2 群 A に分類し許容濃度0.005ppm を提案しています。

日本の労働現場で0.005ppm というのは無理ではないかと思ったりしますが、発がん危険性が大きいと指摘されていたのにどうして 17名もの膀胱がん発生が発覚しなかったのでしょうか。企業や労働者任せでは職業がんが隠されてしまう典型的な事例とも言えます。

第8回三星化学工業事件口頭弁論

6 月3 日13 時30 分福井地裁 2号法廷
裁判に引き続き、報告集会(場所未定)

職業がんをなくそう集会in東京

新型コロナウイルスの影響の見通しがつかないため、東京集会は当面延期いたします。