職業がんをなくそう通信 9/三星化学工業事件(膀胱がん)職業がんと闘うオルトトルイジン の会

2018年4月27日
職業がんをなくす患者と家族の会https://ocupcanc.grupo.jp/

三星化学工業事件第1回口頭弁論に向けて

三星化学工業に対し「会社が安全配慮義務を怠ったことによりがんを発症した」として
労災認定された膀胱がん罹患者らが損害賠償を求めて 2 月 28 日福井地裁に提訴した事件の第 1 回口頭弁論が 5 月 8 日(火)13 時 30分開催されます。

口頭弁論では原告田中さんが意見陳述を行い、劣悪な労働環境で長年働かされたこと、環境改善や作業の中止を求めても会社が対処しなかったこと、本来しなければならないSDS の整備や衛生教育を怠ったこと、作用者に吐き気・食欲不振・チアノーゼ・急性膀胱炎など様々な健康障害が発生しているにも拘わらず適切な対処を取らなかったことなどが積み重なり発がんに至ったのであるにもかかわらず、未だに会社は「安全配慮義務違反はなかった」と居直り無反省な態度を続けている現状に鑑み、職業性膀胱がんは自分たちで最後にしなければならず労働者のいのちと健康を守るためには会社に「安全配慮義務違反」があったことを裁判で明らかにすることが必要であり、併せて被災者はがん宣告をされた時及び具体的な治療のたびに受けるショックや痛みに加え、将来にわたってがんの再発や転移に対する不安を抱えておりそのような肉体的精神的苦痛に対する補償が必要である旨を陳述します。

安全配慮義務違反はなかったと主張する会社

提訴に至った経過としては、まずこれだけ膀胱がん患者が多発しているのに未だに会社は「安全配慮義務違反はなかった」と主張していることがあります。

会社は「安全配慮義務違反はない」ものの膀胱がんが発生したことは事実なのでそれに対する見舞金(当然金額も小さい)を提示するという立場を崩さず、労使交渉のテーブルに
も就こうとしないないためやむなく提訴に至りました。

患者らに目を移せばがんは急になったわけではなく、原料・有機溶剤・ガス・粉じんが蔓延する劣悪な労働環境で長年働かされ様々な健康障害が発生していたにも拘わらず会社はそれらを放置し、更にオルトトルイジンの発がん性については 1980 年代に文献報告があり遅くとも 2001 年にはその発がん性を認識し得たはずなのに当該労働者に周知を怠りかつ職場環境の改善をせずに長期に渡って作業者らに有害化学物質をばく露させ、結果膀
胱がんの多発に至ったのであるから重大な安全配慮義務違反があったのは明白です。

支援する会の結成にあたり

第 1 回口頭弁論のある 5 月 8 日 19 時より福井県教育センター 301/302 号室にて、「三星化学工業の職業がん患者を支援する会」の結成総会が開催され、上部団体である化学一般関西地方本部及び支部を始め、福井県労連、化学一般全関東地本、地域の労働組合や支援者らが参加する予定です。

【結成総会までの経過報告】

2014年 2月最初の膀胱がんの罹患が発覚
2015年 2月 2人目膀胱がん発症
8月3人目膀胱がん発症
9月 4人目膀胱がん発症
10月 福井市内にて学習会、労組結成と労災申請の方向
11月 5人目膀胱がん発症
12月 厚労省膀胱がん多発事案を発表
高山・田中氏記者会見
会社に対し生産停止を要請
2016年 1月 厚労省要請行動、記者会見
職場実態を知らせ労災認定を迫る
三星化学工業労組結成
2 月 6人目膀胱がん発症
3 月 7 人目膀胱がん発症
6 月 第 1回業務上外検討委員会
7 月 厚労省要請行動
三星化学工業埼玉工場前宣伝行動
12 月 業務上外検討委員会まとめ報告
7 名全員が労災認定される
8 人目膀胱がん発症
2017年 2月 9人目膀胱がん発症
2018年 2月 福井地裁提訴
福井労基署要請行動
3 月 全員が労災認定される
5 月 8 日 第 1回口頭弁論・報告集会、結成総会

【用語解説】

芳香族アミンとは芳香族化合物にアミンが結合した化合物(図参照)です。IARC(国際がん研究機構)はモノグラフで殆どの芳香族アミンには発がん性があると指摘しています。

アニリンは 1895 年 Rehn 医師が染料製造工場の労働者に膀胱がんが多発していたためその原因物質としました。ベンジジンは日本で 1950 年代より戦後復興策として大量に製造されましたが 60 年代に入ると膀胱がん患者が多発し 72 年製造禁止物質になりました。

オルトトルイジンも膀胱がんの原因物質として 1982 年の論文ほか多数指摘されています。日本では法規制が遅れ三星化学工業での膀胱がん多発事案を受け、2017 年特化則 2 類の規制が施行されています。

また今回の膀胱がん多発事案を受け厚労省が全国的にオルトトルイジンによる発がん調査をする過程で別の芳香族アミンである MOCA(3,3’- ジクロロ -4,4’-ジアミノジフェニルメタン)による膀胱がん患者が発生していることが発覚し、同 17 年 MOCA 取り扱い労働者の特殊健康診断が追加されました。

職業がんと闘うオルトトルイジンの会総会開催さる

4 月 4 日 13 時 30 分より新日本理化徳島工場で働いた退職者で作る「職業がんと闘うオルトトルイジンの会」(OTの会)総会があり患者と家族の会世話人の大塚氏と参加してきました。

最初に昨年亡くなられた方への黙祷を行い川上代表があいさつされました。労災申請された方の認定が遅れていることの不安や仲間がなくなるさみしさが伝わってきました。来賓には自治労連より伊吹久幸様があいさつされ日頃より力強い支援をされている様子が伺えました。私達は福井県三星化学工業の動き、本年 3 月に入り全員が認定されたことなどをお話しました。三原様から議案の提案が丁寧に行われ、質疑ではやはり未だ労災認定されないことへの疑問や膀胱がんや検診に関する質問が出されました。

OTの会は当時の作業やばく露の様子がわかるように詳細な資料を作成し労基署への提出をしていますが、これは多数の会員で作り上げた大変貴重なものとなっています。提出
にあたり作成をOTの会として認めさせた経過など大変苦労されたいきさつも説明がされました。

私たち患者と家族の会としては「職業がんをなくそう集会」を是非徳島で開催したい旨を訴えました。専門家の協力があれば、あとは複数の産業現場から職場報告を行うことで職業がんになりうる様々な要因が洗い出され、今も職場に隠れている課題を浮き彫りにする中で予防活動や支援体制を強化できるものと確信しています。