職業がんをなくそう通信 8/三星化学職業(膀胱)がん損害賠償裁判提訴・結節性多発動脈炎など

2018年3月26日
職業がんをなくす患者と家族の会https://ocupcanc.grupo.jp/

三星化学工業職業がん患者ら会社を提訴

本会世話人会代表を務める田中康博さんらが原告となり 2 月 28 日(水)に三星化学工業所への損害賠償を求めて福井地裁へ提訴しました。原告は、田中・高山氏ら 4 人で(提訴当時3 名が労災認定され、現在は4 名全員が労災認定)、40 ~ 50 代現役同社社員 3 、60 代同社退職者 1 名となっています。28 日 11 時福井地裁に提訴の手続きをし、13時より福井市春山1 丁目にて原告3名弁護士 3 名労組役員2 名で記者会見に臨みました。

 安全配慮義務違反はなかったと主張する会社

提訴に至った経過としては、まずこれだけ膀胱がん患者が多発しているのに未だに会社は「安全配慮義務違反はなかった」と主張していることがあります。会社は「安全配慮義務違反はない」ものの膀胱がんが発生したことは事実なのでそれに対する見舞金(当然金額も小さい)を提示するという立場を崩さず、労使交渉のテーブルにも就こうとしないないためやむなく提訴に至りました。

患者らに目を移せばがんは急になったわけではなく、原料・有機溶剤・ガス・粉じんが蔓延する劣悪な労働環境で長年働かされ様々な健康障害が発生していたにも拘わらず会社はそれらを放置し、更にオルトトルイジンの発がん性については 1980 年代に文献報告があり遅くとも 2001 年にはその発がん性を認識し得たはずなのに当該労働者に周知を怠りかつ職場環境の改善をせずに長期に渡って作業者らに有害化学物質をばく露させ、結果膀
胱がんの多発に至ったのであるから重大な安全配慮義務違反があったのは明白です。

劣悪な労働環境と健康障害を放置した会社

職業がんをなくそう集会では田中氏がこれらの実態を赤裸々に報告しています。

  • 反応釜への投入口からの粉体投入の際の粉じんばく露。
  • スラリー、粉体取り扱い時にあまりの暑さから T シャツ 1 枚で作業をしていたこと。またそれを当時の工場長が認めていたこと。
  • 作業後のシャワーを夏場のみとし冬場はさせなかったこと。
  • 有機粉じんマスクの集塵率は80%しかなくマスクを粉じんが通過し、作業後は口元がヌルヌルしていたこと。
  • 作業中や作業後に吐き気、食欲不振、チアノーゼ症状、膀胱炎などの症状がでていたのに放置した。
  • 特に乾燥機の洗浄作業は機内に入り結晶をヘラで掻き落とすため暑さと粉じんばく露で劣悪極まりなく作業の中止を訴えても無視された。
  • SDS(セーフティデータシート)が現場に設置されたのは 2011 年(新任の工場長が埼玉や福島の事業場にはSDS が現場にあるのに福井工場に SDS がないのはおかしいとしたため)でありSDS制度を遵守していなかった。
  • SDS に動物実験での発がん性が記載してあり作業の危険性を訴えても人の証拠はないと無視された。
  • 膀胱がんが数件発生し始めた時も隠ぺいしようとするばかりではなく、「手を洗えば膀胱がんなどにはなりたくてもなれない」など患者への心無い発言をした。
  • 文句を言う人は降格したり減俸したり環境の悪い乾燥工場へ異動させたりし、暴言や暴力すらが横行していた。
  • 外部講習会に行ってもテキストを回収し日常的な学習活動をさせないようにした。

などなど書ききれないほどです。記者会見の様子が NHK全国放送で流され、原告のひとりが「がんは急になったわけではなく、過去に膀胱炎などの症状が出ていた。せめてあの時会社が対策を取っていたら被害は広がらなかったのではないか」と訴えられていました。

損害賠償にあたっての考え方

原告の方々は内視鏡を用いての膀胱がん切除手術をされていますが、その後は再発していないか調べるため定期的に尿検査と内視鏡検査をすることになります。比較的初期の膀胱がんの場合は腫瘍を切除すれば日常生活に大きな障害はありません。喫煙や過度の飲酒を避け、バランスの取れた食事と十分な睡眠を取り規則正しい生活を送るよう心掛けることになります。勿論、検査は一生続きますし、精神的な苦痛もそれなりに経験します。

損害賠償請求をする場合、腎臓や膀胱摘出など日常生活に大きな障害や制限があればそれに見合った請求額になることは理解しやすいですが、初期の膀胱がんの場合そういった目に見えた障害や制限というものがありませんから、主として精神的な苦痛ということになります。

理不尽な会社と劣悪な労働環境にめげず真面目に働いた結果がんになってしまったとしてどれくらいの損害賠償が可能なのか・・。原告らは肝炎裁判を一つの目安としました。

B 型肝炎ウイルス感染者への給付金は無症候キャリア 600万円、慢性肝炎 1250 万円、肝硬変(軽度)2500 万円、死亡・肝がん・肝硬変(重度)3600 万円となっています。
C型肝炎の場合は、無症候キャリア1200万円、慢性 C 型肝炎 2000 万円、慢性 C 型肝炎の進行による肝硬変・肝がん・死亡4000 万円となっています。

職業性膀胱がんを引き起こす化学物質へのばく露がされてしまえば検査は一生続きます。こういった方々は無症候キャリアに相当し、実際の発がんやダメージに応じてランク付けするという考え方ができるかもしれません。そのような目安を基に 4 人の請求額は 4 人で 3630万円(1 名は苦痛を伴う治療をしているので上乗せしている)となっています。こんな酷い会社からはもっと取ってやれという声も寄せられたりしますが、皆さんはどう思われますか。

労働組合は運動で闘ってこそ勝利を手に

提訴に至るまでも労組側から和解や解決に至るため協約案を提出し交渉を持つよう要求しましたが、会社は労組との交渉をしようとせず弁護士任せという態度です。

このような大きな問題が起こった時こそ会社は主体的に当該労働者と直接話をして和解への努力をするのが当然ではないでしょうか。原告らが提訴に踏み切ったのはそれなりの決意がありました。会社にきちっと非を認めさせ謝罪をさせる。職業がんは二度と起こさないことを決意させ労使間の信頼を築き予防活動をしっかり実践させる。職業がんは私らで最後にさせる。

今後地域とも連携し支援する会を立ち上げ、この問題を社会に訴え会社への圧力を強めていく予定です。皆様のご支援ご協力をよろしくお願いいたします。(昌)

第23回化学物質と労働者の健康研究会のご案内

この研究会は 1997 年第 1 回研究会を開催してから、今回で 23 回目の例会となります。発足当初から研究会の顧問を務めていただいた原一郎先生が 2015 年 5 月ご逝去されましたが、先生が掲げて来られた「研究者の講演と労働者の職場報告により、双方が学べるように」という思いを引継ぎ、今回は様々な分野・製品への展開が広がるナノマテリアルに注目し、以下の様な内容で研究会を開催します。是非、ご参加くださいませ。

 第 23回化学物質と労働者の健康研究会
5 月 26 日(土)13:30 ドーンセンターセミナー室2
1. 記念講演「ナノマテリアルと生体影響」
 三浦伸彦氏(労働安全衛生総合研究所)
2. 職場報告
 色材、塗料、化粧品、医薬品などの分野からの
 レポートを検討中
 参加費:1000円(資料代)

結節性多発動脈炎はなぜ起きたのか

本通信 No.4(11 月号)で紹介しました三重県で発生した結節性多発動脈炎患者(Nさん)についてですが(ご本人は 2016 年8 月死亡)、大学病院や市民病院への聞き取り調査を経てカルテ開示請求をしました。現在、久永直見先生にカルテを見ていただき原因について検討いただいているところですが、昨年 10 月の福井集会にてこの事案を報告した際、関西労働者安全センター酒井氏より粉じん作業との関係をお聞きすることができ、その後センターにもご訪問させていただきました。

粉じん作業者にみられた多発性動脈炎について海老原勇先生が書かれた論文があり、N さんの職場でサンドブラスト作業があり粉じんばく露が酷かったと記録されています。ブ
ラスト材の種類や曝露の程度など当時の職場を知る仲間から更なる聞き取り調査を進めていく必要がありそうです。また、市民病院の院長は聞き取り調査の際「職業との関連はないです」と盛んに繰り返していましたが、職場との関連を疑わせる要因が出てきた以上再度訪問してお話をしようと考えています。

無機物の細かい粉じんが体内に入り多発性動脈炎を起こすことは知りませんでしたが、東京集会で毛利先生が講演された①疑う(殆どの病気は職場要因だ)②知る(職場環境やそれらの有害性・専門家からの教授)③動く(とにかく行動する)を実践し、この問題を掘り下げて行きたいと思います。(昌)